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明細書 :植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3015886号 (P3015886)
登録日 平成11年12月24日(1999.12.24)
発行日 平成12年3月6日(2000.3.6)
発明の名称または考案の名称 植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法
国際特許分類 C12Q  1/37      
G01N 21/64      
G01N 21/78      
C07K  7/06      
FI C12Q 1/37
G01N 21/64
G01N 21/78
C07K 7/06
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願平10-327536 (P1998-327536)
出願日 平成10年11月4日(1998.11.4)
審査請求日 平成10年11月4日(1998.11.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591031360
【氏名又は名称】農林水産省食品総合研究所長
発明者または考案者 【氏名】荒平 正緒美
【氏名】深澤 親房
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎 (外1名)
審査官 【審査官】鈴木 恵理子
参考文献・文献 特開 平7-184(JP,A)
特開 平4-365480(JP,A)
調査した分野 C12Q 1/37
G01N 21/64 - 21/78
要約 【課題】 植物由来のアスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼの酵素活性を迅速に測定することができ、しかも特異的、かつ簡便に測定することが可能な該酵素活性の定量法を提供すること。
【解決手段】 アミノ酸配列中にアスパラギン残基を少なくとも1つ有すると共に、アスパラギン残基のC-末端側がイソロイシン残基、ロイシン残基及びバリン残基のいずれでもないオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側に配した消光性蛍光基質を用いて、アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼにより切断された消光性蛍光基質から生ずる蛍光を測定することを特徴とする植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法。
特許請求の範囲 【請求項1】
アミノ酸配列中にアスパラギン残基を少なくとも1つ有すると共に、アスパラギン残基のC-末端側がイソロイシン残基、ロイシン残基及びバリン残基のいずれでもない、配列表の配列番号1~6のいずれかに記載のオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側に配した消光性蛍光基質を用いて、アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼにより切断された消光性蛍光基質から生ずる蛍光を測定することを特徴とする植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法。

【請求項2】
消光性蛍光基質が、配列表の配列番号1~6のいずれかに記載のオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側のグリシン残基のアミノ基に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側から3番目のリジン残基のε-アミノ残基に配した消光性蛍光基質である請求項記載の迅速定量法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法に関し、詳しくは特定の構造を有する消光性蛍光基質を利用した、植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼの活性を迅速に定量する方法に関する。

【02】

【従来の技術】アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼとは、ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列のうち、アスパラギン残基のC-末端でペプチド等を切断する酵素をいう。この中でも、特に植物由来のアスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼをレグマチュレインという。

【03】
レグマチュレインは、優れた蛋白源として食品産業等における有用性の高い植物種子の貯蔵タンパク質の合成に係わる酵素である。例えば、ダイズグリシニンは、当初酸性サブユニットと塩基性サブユニットがつながった状態の一本のポリペプチドから成るダイズグリシニン前駆体として合成される。その後、レグマチュレインの作用を受けて、サブユニット間が切断されてはじめて、成熟体としてのグリシニンとなる。したがって、レグマチュレインの酵素活性は、グリシニン等の貯蔵タンパク質の工業的利用性に影響するものである。

【04】
上記の事情より、レグマチュレインの酵素活性の正確な定量法が要求され、従来は以下の方法が用いられていた(特公平8-24576号公報参照)。 イミュノブロット法での定性的な測定法これは、ダイズグリシニン等の前駆体等をはじめとする天然の11S型種子貯蔵蛋白質前駆体を大腸菌体内で発現させて精製した後に、これらを基質としてレグマチュレインで切断し、生じてくる酸性サブユニット及び塩基性サブユニットをSDS-PAGEで分離する。次いで、PVDF膜にブロッティングした後、塩基性サブユニットに対する抗体を用いて、該サブユニットをイミュノブロット法で定性的に高感度で検出する方法である。

【05】
高速液体クロマトグラフィーにより切断した合成ペプチドを分画する活性の定量法これは、レグマチュレインをアスパラギン残基を含む合成ペプチドに作用させた後、高速液体クロマトグラフィーに接続した逆相カラムを用いて、基質と生成したペプチドを分離し、その切断活性を定量する方法である。

【06】
しかしながら、の方法は、比較的多くのサンプルを1度に測定することができ、感度も非常に高いという長所を有しているが、活性の検出に丸1日程度の時間を要し、迅速な測定法とは言えない。また、の方法も、1サンプルあたり30分程度の時間を必要とする。さらに、およびの方法では、試料にレグマチュレイン以外のプロテアーゼ等が含まれる場合、正確な測定が困難であった。したがって、上記従来のレグマチュレイン活性測定法は、その操作性及び迅速性等の点で問題があった。

【07】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点を克服して、レグマチュレインの酵素活性を迅速に測定することができ、しかも特異的、かつ簡便に測定することが可能なレグマチュレインの酵素活性定量法を提供することを目的とするものである。

【08】
一般に、酵素活性の迅速な定量法としては、吸光度測定法、蛍光光度測定法等が汎用されている。一般的なアスパラギン残基に特異的なエンドプロテアーゼの酵素活性定量法として、プロテアーゼ活性の代わりにアミド化したアミノ酸からのアミノ基を遊離する活性であるアミダーゼ活性を測定する方法がある。すなわち、C-末端のアスパラギン残基のカルボキシル基をアミド化したペプチドを用意し、そのペプチドにアスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼを作用させて、その活性を測る方法が既にいくつか報告されている。

【09】
具体的には、アスパラギン残基のカルボキシル基にアミノ基を結合させたペプチドを合成し、そのアミダーゼ活性を高速液体クロマトグラフィーで測定する方法(Abe Y. et al., Journal of Biological Chemistry, 268, 3525-3529 (1993) )や、アスパラギン残基のカルボキシル基に7-アミノ-4-メチルクマリン(7-amino-4-methylcoumarin) を結合させたペプチドを合成し、そのアミダーゼ活性を蛍光法で測定する方法(Asha A. Kembhavi et al., Archives of Biochemistry and Biophysics, 303, 208-213 (1993) )等の報告がある。やの定量法のように、プロテアーゼ活性に代えてアミダーゼ活性を定量する方法は、トリプシン、パパイン等でも使用されている簡便な方法である。

【10】
そこで、本発明者らは、先述の及びの各方法によって酵素活性を確認済みのレグマチュレインについて、上記及びの各方法でそれぞれアミダーゼ活性の測定を行った。しかしながら、レグマチュレインは、これらの方法において、アミダーゼ活性を示さなかった。

【11】
すなわち、及びの定量法では、アスパラギン残基に特異的に作用してそのC-末端を切断するというレグマチュレインの活性ではなく、混在しているアミダーゼ活性、すなわちアスパラギナーゼの作用の如く、単にアミド化したアミノ酸からのアミノ基を遊離する活性が定量されることになる。

【12】

【課題を解決するための手段】したがって、レグマチュレインの活性を測定するにあたり、上記の及びの定量法のように、C-末端にあるアスパラギン残基のカルボキシル基をアミド化したペプチドを用いる方法は採用できないことが判明した。

【13】
そこで、本発明者らは、種々のペプチドを合成してレグマチュレインの特性について検討した。すなわち、ダイズグリシニン前駆体サブユニットのうち、A21aサブユニットの酸性サブユニットと塩基性サブユニットの切断部位を基にして種々のペプチドを合成し、レグマチュレインの切断特性について検討した。その結果、レグマチュレインは、アスパラギン残基がN-末端及びC-末端にあるペプチドに対して切断活性を示さず、一定の切断ルールに基づいて活性を示すことが明らかとなった。さらに、この切断ルールに基づいて合成した消光性蛍光基質を用いることにより、レグマチュレイン活性を迅速に、しかも高感度で定量できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。

【14】
すなわち、請求項1記載の本発明は、アミノ酸配列中にアスパラギン残基を少なくとも1つ有すると共に、アスパラギン残基のC-末端側がイソロイシン残基、ロイシン残基及びバリン残基のいずれでもない配列表の配列番号1~6のいずれかに記載のオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側に配した消光性蛍光基質を用いて、アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼにより切断された消光性蛍光基質から生ずる蛍光を測定することを特徴とする植物由来アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の迅速定量法である。
【0015】請求項記載の本発明は、消光性蛍光基質が、配列表の配列番号1~6のいずれかに記載のオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側のグリシン残基のアミノ基に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側から3番目のリジン残基のε-アミノ残基に配した消光性蛍光基質である請求項1記載の迅速定量法である。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の方法の対象となる酵素は、植物由来のアスパラギン残基特異的エンドペプチダーゼ、すなわちレグマチュレインである。この酵素の具体例としては、例えばダイズグリシニン前駆体のサブユニット間を切断することにより、グリシニンの成熟化に係わるものがある。この酵素の理化学的性質は、特公平8-24576号公報に記載されている。
【0017】本発明の方法の特徴は、上記アスパラギン特異的エンドペプチダーゼの酵素活性を測定するにあたり、消光性蛍光基質を用いることにある。消光性蛍光基質は、アミノ酸配列中にアスパラギン残基を少なくとも1つ有すると共にアスパラギン残基のC-末端側がイソロイシン残基、ロイシン残基及びバリン残基のいずれでもないオリゴペプチドであって、7-メトキシクマリン-4-yl-アセチル基をN-末端側に、2,4-ジニトロフェニル基をC-末端側に配した構造をとるものである。
【0018】本発明者らは、レグマチュレインが、ダイズグリシニン前駆体サブユニットのうち、A21aサブユニットの酸性サブユニットと塩基性サブユニットの間を攻撃して切断することに注目した。そして、その切断部位のアミノ酸配列を基にして得られるオリゴペプチドが、レグマチュレインの定量に有用である点に着目した。
【0019】この部分から設計したペプチドを蛍光基およびそのクエンチャーで修飾して得られる消光性蛍光基質が、アスパラギン残基特異的エンドペプチダーゼの酵素活性の測定に有用であることが明かとなった。現在までに、このような消光性蛍光ペプチドを使用して、レグマチュレインが持つ酵素活性を測定したという実例は、未だ報告がない。
【0020】消光性蛍光基質のオリゴペプチドのアミノ酸配列は、レグマチュレインの酵素作用の対象となる必要がある。レグマチュレインは、前述の通り、アスパラギン残基のC-末端側でペプチド鎖を切断する酵素である。したがって、オリゴペプチドのアミノ酸配列中には、少なくとも1つのアスパラギン残基を有する必要がある。ただし、レグマチュレインの酵素特異性により、アスパラギン残基はN-末端やC-末端ではないことが必要である。また、アスパラギン残基はN-末端から3残基目以降に位置すると、レグマチュレインの活性をより受けやすくなるので、好ましい。また、アスパラギン残基のC-末端側の隣の残基の種類がイソロイシン残基、ロイシン残基およびバリン残基のいずれでもないことが必要である。その理由は、これらのアミノ酸残基の存在はレグマチュレインの酵素活性に影響を与えるためである。このようなオリゴペプチド部分としては、請求項記載の本発明のように、配列表の配列番号1~6に記載のアミノ酸配列とすることが必要である。
【0021】さらに、これら6つの配列中、配列番号1~3記載のアミノ酸配列を有する消光性蛍光基質のように、アスパラギン残基のC-末端側の第2番目の隣がイソロイシン残基かロイシン残基又はバリン残基であると、酵素活性が非常に顕著となり、高い蛍光強度が観察されることとなるので、より好ましい。このようなペプチドの残基数は、作業上の扱いの観点から、7~12残基とすることが好ましい。
【0022】消光性蛍光ペプチドは、上記オリゴペプチド部分のN-末端側に、蛍光基である(7-メトキシクマリン-4-イル)アセチル [(7-methoxycoumarin-4-yl) acetyl]基(以下、MOCAc基という。)を有するものである。このMOCAc基は強力な蛍光基であり、消光性蛍光基質のオリゴペプチドがレグマチュレインにより切断されると、強力な蛍光を発することができる。
【0023】この蛍光基は、N-末端側のアミノ酸残基に配する。N-末端側とは、レグマチュレインにより切断されるアスパラギン残基よりもN-末端側であることを意味するが、請求項3記載の本発明のように、N-末端のアミノ酸のアミノ基に結合させることが好ましい。また、N-末端側のアミノ酸残基の種類は特に限定されないが、グリシン、チロシン又はアスパラギン酸であることが好ましい。
【0024】一方、消光性蛍光基質のオリゴペプチド部分のC-末端のアミノ酸に、MOCAc基の効果的なクエンチャー(蛍光吸収基)である2,4-ジニトロフェニル[2,4-dinitrophenyl]基(以下、Dnp基という。)を配する。Dnp基をC-末端側に配する消光性蛍光基質は、レグマチュレインによる切断前にMOCAc基による蛍光を発しない。酵素による作用を受けると、該基質はMOCAc基を有するN-末端側とDnp基を有するC-末端側とに切断される。すると、MOCAc基を有するN-末端側の断片は、Dnp基の影響は受けなくなるので、蛍光を発生する。
【0025】ここで、C-末端側とは、通常C-末端から2残基目までのアミノ酸残基を意味する。Dnp基を配するアミノ酸は特に限定されないが、導入の容易性から、請求項3記載の本発明の如く、リジン残基とし、そのε-アミノ基に結合させることが好ましい。
【0026】このようなMOCAcをN-末端側に、DnpをC-末端側に有する消光性蛍光ペプチド、すなわちMOCAc-Dnp系のペプチドは、蛍光の励起波長(Ex)328nm、蛍光の波長(Em)393nmと十分に離れており、蛍光のバックグランドが低いという特徴がある。
【0027】本発明の定量法は、上述の消光性蛍光基質に、測定対象であるレグマチュレインを酵素反応させ、生じた蛍光を蛍光強度で測定する方法である。
【0028】通常、酵素反応は基質及び酵素試料を溶媒に溶解した反応液を用いて行う。例えば、以下のようにして行うことができる。反応液は、pH6~7のクエン酸緩衝液等の緩衝液に、レグマチュレインを含む試料、消光性蛍光基質及びジチオスレイトール等の還元剤、ブリジ系界面活性剤のような界面活性剤、その他の成分で構成することができる。
【0029】消光性蛍光基質は疎水性が高いので、反応液に対する溶解性に劣るため、通常は先にジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解した後に反応液に添加する。ここで、DMSOの使用量は、反応液中の濃度が通常4%(v/v)以下となるような量とする。この範囲を超えると、DMSOがレグマチュレインの活性に対して阻害を示す可能性があるからである。
【0030】反応液への消光性蛍光基質の添加量は、該基質をDMSOに0.2mMとなるように溶解した場合、反応液1mlあたり5~40μLとすることが好ましい。この範囲を超えると、蛍光が過剰となる。一方、この範囲に満たないと、蛍光が観察されず、酵素活性の定量に支障をきたす。
【0031】酵素反応は、上記反応液を通常20~37℃、好ましくは35℃で5~60分間、好ましくは15分間静置することにより行う。酵素反応中に、試料中のレグマチュレインにより消光性蛍光基質が分解され、蛍光が発生する。例えば、消光性蛍光基質として、配列番号1記載のアミノ酸配列のN-末端のグリシン残基のアミノ基にMOCAcを、C-末端のリジン残基のε-アミノ基にDnpを配したMOCAc-Dnp系のペプチドを用いた場合、酵素反応により、消光性蛍光基質のアスパラギン(N-末端から6番目)とグリシン(N-末端から7番目)との間が切断される。
【0032】酢酸等の反応停止剤を添加することにより酵素反応を停止した後、酵素反応により生じた消光性蛍光基質の蛍光強度を測定する。測定装置としては、通常使用されるものを用いることができ、例えば日立社製、蛍光光度計F2000で測定することができる。測定した蛍光強度は、他の試料の測定値と比較することにより、相対的な酵素活性を知ることができる。また、この蛍光強度を、予め高速液体クロマトグラフィーの手段により測定しておいた同試料の酵素活性と照合することにより、対応する酵素の定量が可能である。
【0033】したがって、本発明の方法では、レグマチュレインのみを有する試料のみならず、他のプロテアーゼや蛍光を阻害する物質が多量に含まれるサンプル、例えば粗抽出物での測定も可能である。すなわち、本発明の方法によりサンプルの蛍光測定を行った結果、サンプル中に蛍光を阻害する物質が存在する可能性が認められる場合にも、消光性蛍光基質の代わりに、実施例1で用いるNNNELEL(Asp Asp Asp Glu Leu Glu Leu)の配列からなるペプチド等の指標ペプチドを用いた場合の酵素活性を、HPLCで定量し、該定量値と先の蛍光強度測定値とを照らし合わせた上で、活性の見積もりを行うことができる。
【0034】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0035】実施例1〔レグマチュレインのアスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の検出〕
(1)MOCAc-Dnp系消光性基質の蛍光強度測定
ダイズグリシニン前駆体サブユニットのうち、A21aサブユニットの酸性サブユニットと塩基性サブユニットの切断部位を基にして設計したオリゴペプチド(配列表の配列番号1参照)のN-末端のグリシン残基のアミノ基にMOCAc基を、C-末端から3番目のリジン残基のε-アミノ基にDnp基を、配したMOCAc-Dnp系ペプチドを作成し、これを消光性蛍光基質(以下、基質1とする。)とした。この基質1をDMSOに0.2mMの濃度となるように溶解し、これを用いて第1表に示す組成を有する反応液を作成した。
【0036】
【表1】第1表〔反応液組成〕
JP0003015886B1_000002t.gif【0037】上記反応液を35℃、15分の条件で酵素反応を行い、5N酢酸を100μL加えて反応を停止させた。反応液の蛍光を日立社製、蛍光光度計F2000で測定した。その結果、励起波長(Ex)328nmで蛍光波長(Em)393nmの蛍光が観察された。このことから、反応液中に含まれるレグマチュレインが酵素反応を起こし、消光性蛍光基質(基質1)のアスパラギン残基とグリシン残基との間を切断したことが判明した。
【0038】(2)MOCAc-Dnp系消光性基質の蛍光強度とペプチド切断量との関係
次に、(1)において、蛍光強度100のときの具体的な酵素活性(ペプチド切断量)を高速液体クロマトグラフィー法で測定し、蛍光強度の測定値と切断されるペプチドの量との関係を調べた。
【0039】上記基質1の代わりにNNNELEL(Asp Asp Asp Glu Leu Glu Leu)の配列から成る合成ペプチド(以下、NNNELELペプチドという。)を、1.5nmolの濃度で用いた他は、第1表に示したものと同じ組成の反応液を用いた。酵素反応条件も35℃で15分間とし、先の蛍光試験で蛍光強度が100を示す際の条件と一致させた。なお、このNNNELELペプチドがレグマチュレインの作用を受けると、NNNとELELとの断片に切断されることになる。
【0040】反応液の適当量を逆相カラム(東ソー社製、Silica ODS 120Tφ4.6mm×150mm)を接続した高速液体クロマトグラフィー(島津社製、LC-6AD)を用い、0.1%TFA-0.1%TFA/30%アセトニトリルの直線濃度勾配を、該カラムのマニュアルに従い、1mL/minの流速下30分間行った。ピークの検出は、220nmの波長で島津社製、SPD-6AVを用いて行った。
【0041】その結果得られたレグマチュレインによる合成ペプチドの分解ルールを示すHPLCパターンを図1に示す。また、レグマチュレインのNNNELELペプチドに対する切断活性の結果を第2表に示す。
【0042】
【表2】第2表〔HPLCを用いたレグマチュレインのNNNELELペプチドに対する切断活性〕
JP0003015886B1_000003t.gif【0043】図1及び第2表より、(1)において蛍光強度100の場合に得られる蛍光強度は、レグマチュレインをNNNELELペプチド1.5nmolのうちELELペプチド0.5nmolが遊離した場合に相当するものであることがわかる。以上の測定結果より、酵素反応開始15分間で1.5nmolのペプチドの3分の1が切断されたときの蛍光強度が100であるので、15分間でその100分の1、つまり蛍光強度が1の場合のペプチド遊離量は0.005nmolとなり、これは1分間当たりに換算すると、ペプチドの切断量は僅か0.3pmolとなる。本発明の方法によれば、蛍光強度が1以上、すなわち僅か0.3pmolのペプチドが切断されただけでも検出が可能であり、この方法は簡便で、かつ感度の高い測定方法であることが示された。
【0044】比較例1〔Abe Y.らの合成ペプチドを用いたレグマチュレイン活性の測定〕
Abe Y. et al., Journal of Biological Chemistry, 268, 3525-3529 (1993)に記載の方法で用いている合成ペプチドを使用してレグマチュレインの活性測定を試みた。
【0045】まず、Pro-Glu-Ala-Asn からなるペプチドにおいて、N-末端のプロリン残基のアミノ基にDnp基を配し、C-末端のアスパラギン残基のカルボキシル基をアミド化した基質Aを作成した。基質1を用いた測定の結果、35℃、15分で蛍光強度40を示すことがわかっているレグマチュレインについて、基質1の代わりに基質Aを用いて活性を測定した。すなわち、実施例1で用い第1表と同様の組成の反応液50μL(基質20μM)を作成し、第3表に示した所定の時間(0、15、30、60、120分後)酵素反応を行った後、それぞれギ酸5μLを加えて反応を停止させた。
【0046】反応停止後、HPLCにアプライし、実施例1と同様の条件で酵素活性を測定した。検出は、350nm、分離溶媒は47mM酢酸緩衝液(pH4.5)/20%アセトニトリルで行った。反応開始後120分までインキュベート(35℃)した結果を第3表に示す。
【0047】
【表3】第3表〔Abe Y.らのペプチドの切断活性〕
JP0003015886B1_000004t.gif【0048】第3表より、レグマチュレインは、上記基質を分解しないことがわかる。このことから、Abe Y.らの方法に記載のペプチドを用いても、レグマチュレインの酵素活性を測定できないことが明らかである。
【0049】比較例2〔Asha A. Kembhaviらの合成ペプチドを用いたレグマチュレインの酵素活性測定〕
Asha A. Kembhavi et al., Archives of Biochemistry and Biophysics, 303,208-213 (1993) に記載の方法で用いている合成ペプチドを使用してレグマチュレインの活性測定を試みた。
【0050】Phe-Ala-Ala-Asn からなるペプチドにおいて、N-末端のフェニルアラニン残基のアミノ基にbenzyloxycarbonyl 基を配し、一方C-末端側のアスパラギン残基のカルボキシル基を7-(4-methyl) coumarylamide化した基質Bを作成した。基質1を用いた測定の結果、35℃、15分で蛍光強度40を示すことがわかっているレグマチュレインについて、基質1の代わりに基質Bを用いて活性を測定した。すなわち、実施例1で用い第1表と同様の組成の反応液1mM(ただし、基質10μM)を作成し、比較例1と同様に酵素反応させた。反応液の蛍光測定(λEx=360nm、λEm=460nm)を行った。結果を第4表に示す。
【0051】
【表4】第4表〔Asha A. Kembhaviらのペプチドの切断活性〕
JP0003015886B1_000005t.gif【0052】第4表から明らかなように、基質Bの反応液からは蛍光は観察されなかった。このことから、レグマチュレインは、上記基質Bの分解能を有さず、Asha A.Kembhavi et al. (1993)に記載のペプチドを用いても、レグマチュレインの酵素活性を測定できないことが示された。
【0053】実施例2〔消光性蛍光基質のアミノ酸配列の検討〕
実施例1で用いたダイズグリシニン前駆体サブユニットの配列をもとに作成した基質1のアミノ酸の一部を他の残基に置き換えることにより、9種類の消光性蛍光基質(以下、それぞれ基質2~10とする。)を合成した。基質2~10のペプチド部分の配列は、配列表の配列番号2~10に示す通りである。
【0054】基質2~10の配列は、基質1などの配列の一部をを置き換えたものである。すなわち、基質2~4(配列表の配列番号2~4参照)は、基質1(配列表の配列番号1参照)においてN-末端から8番目(Nの2つC-末端側)のイソロイシン残基をそれぞれロイシン残基、バリン残基、グリシン残基に置き換えたものである。基質5、6(配列表の配列番号5、6参照)は、基質1においてN-末端から7番目(Nの1つC-末端側)のグリシン残基をそれぞれアルギニン残基、アラニン残基に置き換えたものである。基質7~9(配列表の配列番号7~9参照)は、それぞれ基質1~3においてN-末端から7番目のアミノ酸と8番目のアミノ酸とを相互に入れ換えたものである。基質10(配列表の配列番号10参照)は、基質1のN-末端から6番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に置き換えたものである。これら各基質の酵素活性を、実施例1と同様の方法により測定した。結果を第5表に示す。
【0055】
【表5】第5表〔合成した10種類の消光性基質に対するレグマチュレインの活性〕
JP0003015886B1_000006t.gif【0056】第5表より、以下のことが分かる。まず、基質10は蛍光の発生が全く観察されないことから、アスパラギン残基を含まないペプチドは切断されず、酵素反応が生起しない。このことから、レグマチュレインのアスパラギン残基に対する特異性の観点より、酵素活性を示す消光性蛍光基質は、必ずアスパラギン残基を含む必要があることがわかる。
【0057】次に、基質1~9については、いずれもアスパラギン残基を有するものであるが、基質2~6は、高い蛍光強度を示すのに対し、基質7~9はほとんど蛍光を示さない。酵素活性を示した基質2~6の中でも、基質2及び3は、基質1と同等又はそれ以上の高い活性を示している。このことから、基質1のアスパラギン残基のC-末端側の2番目のイソロイシン残基をロイシン残基又はバリン残基に代えることにより、同等又はそれ以上の酵素活性が得られることがわかる。
【0058】また、基質2、3ほどではないが、基質4~6も酵素活性を示した。基質4の蛍光強度から、アスパラギン残基のC-末端側の2番目の残基をグリシン残基に代えた消光性蛍光基質も、レグマチュレインの攻撃を受けることがわかる。さらに、基質5、6の結果より、アスパラギン残基のC-末端側の1番目の残基をアルギニン残基又はアラニン残基に代えても酵素活性を有することが明らかである。
【0059】一方、基質7~9の場合は、酵素活性が全く認められなかった。これらの基質では、N-末端から2番目の残基がグリシン残基であるが、同様の基質4の場合には、良好な結果を得られている。この点を考慮すると、基質7~9において酵素活性を示さない理由は、アスパラギン残基のC-末端側の1番目の残基がロイシン残基、イソロイシン残基またはバリン残基に置換されているからであることがわかる。
【0060】上記結果より、植物種子貯蔵タンパク質から設計した消光性蛍光基質であ基質1において、そのアミノ酸配列を一定の条件下で置換しても、同等の酵素活性を観測できることが証明された。
【0061】実施例3〔消光性蛍光基質を利用したレグマチュレインの特性解析〕
酵素反応条件を少し変えたこと以外は、基質1を利用した実施例1と同じ手順で試験を行い、レグマチュレインの有するpH安定性、至適pH、温度安定性及び至適温度の検討を行った。
【0062】(1)至適pHの検討
種々の緩衝液を用いて酵素反応時のpHを1.9~11.4として酵素活性を測定した。pH4~9における測定結果を図2に示す。図2より、pH6.8で最も高い蛍光強度を示していることから、レグマチュレインの至適pHは6.8であることがわかる。
【0063】(2)pH安定性の検討
上記(1)と同様にして反応液をそれぞれpH1.9~11.4の範囲とし、20℃にて30分で保存した後に、緩衝液でpHを6.8に戻し、その後に酵素活性を測定した。結果を図3に示す。図3より、pH2から9の間で本酵素は安定であることが明らかである。
【0064】(3)至適温度の検討
酵素反応温度を0~60℃とした他は、実施例1と同様に行い、至適温度に対する検討を行った。結果を図4に示す。図4より、35℃が本酵素の至適温度であることがわかる。
【0065】(4)温度安定性の検討
反応液を0~60℃の範囲で30分間静置後、最適条件(35℃)に戻して酵素活性を測定した。結果を図5に示す。図5より、本酵素の安定温度領域は0~20℃と極めて低いことが判明した。
【0066】
【発明の効果】本発明の方法は、特定の消光性蛍光基質に酵素を作用させることにより生ずる蛍光強度を測定するだけで、植物由来のアスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼを定量することが可能であることから、従来法に比べ、簡便である上に、短期間に測定することができる。
【0067】さらに、本発明の方法は、他のプロテアーゼや蛍光を阻害する物質が多量に含まれるサンプル、例えば粗抽出物であっても、同様に迅速、かつ短期間に酵素の特異的な定量が可能である。また、本発明の定量法を用いれば、非常に高い感度で酵素活性を測定できる。例えば、ペプチド1.5nmolから1分間に0.3pmol程度の切断ペプチドを生じさせる程度の弱い酵素活性でも測定が可能である。
【配列表】
SEQUENCE LISTING
<110> Director of National Food Research Institute, Ministry of Agricult
ure, Forestry and Fisheries
<120> アスパラギン残基特異的エンドプロテアーゼ活性の定量法
<130> P100995K
<160> 10
<210> 1
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 1
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Gly Ile Lys Arg Arg 11
<210> 2
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 2
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Gly Leu Lys Arg Arg 11
<210> 3
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 3
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Gly Val Lys Arg Arg 11
<210> 4
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 4
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Gly Gly Lys Arg Arg 11
<210> 5
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 5
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Arg Ile Lys Arg Arg 11
<210> 6
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 6
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Ala Ile Lys Arg Arg 11
<210> 7
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 7
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Ile Gly Lys Arg Arg 11
<210> 8
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 8
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Leu Gly Lys Arg Arg 11
<210> 9
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 9
Gly Lys Ser Arg Arg Asn Val Gly Lys Arg Arg 11
<210> 10
<211> 11
<212> PRT
<213> Glycine max
<220>
<221> PEPTIDE
<400> 10
Gly Lys Ser Arg Arg Asp Gly Ile Lys Arg Arg 11
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4