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明細書 :SINE間配列の制限プライマーを用いたPCRフィンガープリントによる真核生物の個体判別法およびそれに用いるプライマー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2913035号 (P2913035)
登録日 平成11年4月16日(1999.4.16)
発行日 平成11年6月28日(1999.6.28)
発明の名称または考案の名称 SINE間配列の制限プライマーを用いたPCRフィンガープリントによる真核生物の個体判別法およびそれに用いるプライマー
国際特許分類 C12N 15/09      
C12Q  1/68      
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68
請求項の数または発明の数 10
全頁数 17
出願番号 特願平10-195692 (P1998-195692)
出願日 平成10年7月10日(1998.7.10)
審査請求日 平成10年7月10日(1998.7.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593059887
【氏名又は名称】農林水産省水産庁養殖研究所長
発明者または考案者 【氏名】大原 一郎
【氏名】中山 一郎
【氏名】安江 博
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】滝本 晶子
参考文献・文献 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,Vol.89(1992)p.8448-8451
調査した分野 C12N 15/09 ZNA
C12Q 1/68
要約 【課題】 真核生物ゲノムの短い散在反復配列(SINE)を利用する真核生物の個体判別を提供すること。
【解決手段】 真核生物の個体判別方法であって、真核生物の短い散在反復配列(SINE)の塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した1つまたは複数の制限プライマーを作製し、真核生物から採取したDNAに前記制限プライマーを作用しプライマーの融解温度より高い温度でのアニーリングを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件下でPCRを行ってSINE間に挟まれた配列を増幅し、PCR産物を電気泳動にかけてフィンガープリントを得、フィンガープリントの多型性の比較から個体を判別することからなる方法、並びにこの方法に用いる制限プライマー。
特許請求の範囲 【請求項1】
真核生物の個体判別方法であって、真核生物の短い散在反復配列(SINE)の塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した1つまたは複数の制限プライマーを作製し、真核生物から採取したDNAに前記制限プライマーを作用しプライマーの融解温度より高い温度でのアニーリングを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件下でPCRを行ってSINE間に挟まれた配列を増幅し、PCR産物を電気泳動にかけてフィンガープリントを得、フィンガープリントの多型性の比較から個体を判別することからなる方法。

【請求項2】
前記アニーリング温度が、プライマーの融解温度より2~5℃高い温度であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【請求項3】
前記電気泳動による判別がアガロースゲル電気泳動と臭化エチジウム染色かまたは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動と銀染色もしくは臭化エチジウム染色によるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。

【請求項4】
真核生物がヒト等の哺乳動物であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法。

【請求項5】
真核生物がサケ・マス類等の魚類であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法。

【請求項6】
ヒト個体を判別するための制限プライマーが配列番号1~30に示されるいずれかの配列からなることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【請求項7】
サケ・マス類の個体を判別するための制限プライマーが配列番号31~49に示されるいずれかの配列からなることを特徴とする請求項5に記載の方法。

【請求項8】
真核生物の短い散在反復配列(SINE)の塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した、真核生物を判別するための制限プライマー。

【請求項9】
配列番号1~30に示される配列の中から選択される、ヒト個体を判別するための制限プライマー。

【請求項10】
配列番号31~49に示される配列の中から選択される、サケ・マス類の個体を判別するための制限プライマー。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、SINE(短い散在反復配列;Short Interspersed Repetitive Element)間配列の制限プライマーを用いたPCRフィンガープリントによる真核生物の個体判別法、およびそれに用いるプライマーに関する。

【0002】

【従来の技術】個体判別法は、ヒトにおける親子鑑定や法医学領域での個体識別、生態学的研究などで有用である。従来、個体判別法には、シングルプローブ・マルチローカス・マイクロサテライトDNAフィンガープリント法(A.J.Jeffreysら,Nature,316:76-79(1985))、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法(ZebeauとVos,欧州特許出願第92402629.7号(1992);Vosら,Nucl. Acids Res.23:4407-4414(1996))などが知られているが、前者は生物1個体あたり約10マイクログラムのDNAを必要とするし、後者はプロトコールがやや煩雑であるといった問題点が指摘されてきた。

【0003】
動物の染色体には複数のSINEが存在することが知られている。たとえば、ヒトではAluファミリーと呼ばれるSINEが、またサケ・マス類ではOncorhynchus属に存在するHpaIファミリー、SmaIファミリーおよびFokIファミリーと呼ばれる3種類のSINEがそれぞれ知られている(Okada,N.,in "New Aspects of the Geneticsof Molecular Evolution," ed. by Kimura,M. and Takahata,N., Japan Scientific Societies Press, Springer-Verlag,227-241(1991))。SINEは元々哺乳動物を含む動物のゲノムに散在している反復配列のうち長さの短いもの(約500塩基対未満)に対して総称され、ゲノムを転位するトランスポゾン様性質はもっていないと言われているが、その起源はtRNAなどが逆転写されて挿入されたものと考えられており、ヒトのAluファミリーの場合にはタンパク質の分泌に関連した7SL RNAが起源であることが知られている。このSINE配列が種特異的または系統特異的であることに注目して種または系統の識別およびヒトDNAの選択的クローニング等にポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと称する)を応用した例も知られている(N.Takasakiら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA91:10153-10157(1994);D.L.Nelsonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:6686-6690(1989);A.R.Brook-Wilsonら,Genomics,13:409-414(1992))。しかし、SINEはゲノム中に極めて多いコピー数(たとえば、Aluファミリーの場合約50万コピー)で含まれているため、ゲノムの一部のみが含まれるようなDNA試料であればSINE配列をそのまま使って設計したプライマーでもフィンガープリント状にPCR産物が検出される場合もあるが、ゲノム全体に同じプライマーを適用してPCRを行った場合には増幅されるDNA断片の数が多すぎて電気泳動の結果がスメア状になりフィンガープリントを得ることができない(D.L.Nelsonら(上掲)、図2参照)。このような状況の中で、本発明者らは、SINE間配列のPCR増幅に基づく個体判別法を開発すべく鋭意研究を行ってきた。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、真核生物由来のDNA試料に対しPCRを行ってSINE間に挟まれた配列を増幅し、PCR産物の電気泳動バンドパターンからの多型性に基づいて真核生物の個体を判別する方法を提供することである。この方法は、10ナノグラムオーダーの極微量のDNA試料でPCRを利用して再現性良く真核生物の個体判別を可能とするものであり、増幅制限要因のあるプライマー(以下、制限プライマーと呼ぶ)の使用と、SINE間配列のPCR増幅におけるPCR条件、特にプライマーのアニーリング温度を検討することにより、ヒトAluファミリーのような多コピー数のSINEであっても再現性良く識別可能なフィンガープリントが得られるものである。

【0005】

【課題を解決するための手段】本発明は、真核生物の個体判別方法であって、真核生物のSINEの塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した1つまたは複数の制限プライマーを作製し、真核生物から採取したDNAに前記制限プライマーを作用しプライマーの融解温度より高い温度でのアニーリングを含むPCR条件下でPCRを行ってSINE間に挟まれた配列を増幅し、PCR産物を電気泳動にかけてフィンガープリントパターンを得、フィンガープリントパターンの多型性の比較から真核生物の個体を判別することからなる方法を提供する。

【0006】
本発明方法においては、制限プライマーを使用したことと、プライマーの融解温度より高いアニーリング温度を使用したことが重要である。本明細書中「制限プライマー」とは、SINEの塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかまたはミスマッチする塩基を1つ以上付加したものを意味する。ここで、「マッチする」とは、SINE配列の個々の塩基とぴったり一致することを意味する。一般にゲノム中のSINEはそのコピー数が多いため、制限要因のないプライマーを用いたのではあまりにも多くのバンドが増えてしまい電気泳動による観察ではスメアバンドとなって、フィンガープリントが得られないが、本発明では、プライマーの3'末端にSINEと関係ないかまたはミスマッチする塩基を1つ以上を付加することによって容易にバンド数を減らしフィンガープリントを得ることができる。たとえば、プライマーの3'末端に1塩基の付加を行うとき、そのプライマー単独でPCRを行えば、4種類の塩基を25%ずつ用いているゲノムの場合増幅されるバンド数は約16分の1に減少すると考えられる。

【0007】
さらに本発明においては、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法のように多型性DNAがランダムに増幅されるのを避けるために、プライマーの融解温度より高いアニーリング温度、好ましくは2~5℃高いアニーリング温度が使用される。これによって、RAPDのバンドは全く観察されない。通常RAPD法でのアニーリング温度が37~40℃付近であるのに対し、本発明の方法では66~72℃が好ましい。

【0008】
真核生物は、SINEをゲノム中に有するものであればいずれの生物も包含される。たとえば、動物、たとえば哺乳類(ヒト、ブタ、サル、ウサギ、クジラ、ヤギなど)、魚類(たとえばサケ・マス類、アユなど)、爬虫類(カメなど)、両生類(イモリなど)、昆虫(カイコなど)、棘皮動物(ウニなど)、などが挙げられる。本発明はまた、真核生物のSINEの塩基配列の一部とマッチする配列の3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した、真核生物を判別するための制限プライマーを提供する。

【0009】

【発明の実施の形態】本発明では、制限プライマーは真核生物のSINEの二本鎖配列のいずれかに相補的な配列を含み、好ましくはSINEのセンス鎖の上流(5')末端領域の配列に相補的な配列を含む。ヒトおよびサケ科魚類のSINE配列は、たとえばN.Takasakiら(上掲)、D.L.Nelsonら(上掲)、A.R.Brook-Wilsonら(上掲)等に記載されており、これらの配列を利用することもできるが、もしSINE配列が不明の真核生物の場合には、真核生物由来の細胞、組織等からDNAを公知の方法で抽出し、EndohとOkada,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:251-255(1986)の方法などによってSINE配列を決定することができる。

【0010】
SINEの上流末端位置に多型性が認められる場合にも、多型性が認められない場合にも本発明を有効に使用し得る。上記のようにして決定されたSINE配列、好ましくはSINEのセンス鎖の上流末端領域に相補的な配列、にマッチする15個以上、好ましくは15~30個、さらに好ましくは 20~25個のヌクレオチドからなる配列を自動DNA合成機(たとえば、β-シアノエチルホスフォロアミダイト法を使用したもの;N.D.Sinhaら,Nucl. Acids Res.,12:4539-4557(1984))を用いて合成し、その3'末端にSINEと関係ないかミスマッチする塩基を1つ以上付加した制限プライマーを作製する。PCRにおいては、制限プライマーは1個または、場合により複数組合わせて使用する。本発明の実施態様により、ヒトの個体判別に使用し得る制限プライマーは、
Alu-a: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACa-3'(配列番号1);
ALU-g: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACg-3'(配列番号2);
Alu-t: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACt-3'(配列番号3);
ALU-aa: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACaa-3'(配列番号4);
ALU-at: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACat-3'(配列番号5);
ALU-ac: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACac-3'(配列番号6);
ALU-ga: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACga-3'(配列番号7);
Alu-gt: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACgt-3'(配列番号8);
ALU-gc: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACgc-3'(配列番号9);
ALU-ta: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACta-3'(配列番号10);
ALU-tt: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACtt-3'(配列番号11);
Alu-tc: 5'-GGATTACAGGCGTGAGCCACtc-3'(配列番号12);
ALU-aaa: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACaaa-3'(配列番号13);
ALU-aag: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACaag-3'(配列番号14);
ALU-ata: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACata-3'(配列番号15);
ALU-atg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACatg-3'(配列番号16);
ALU-aca: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACaca-3'(配列番号17);
ALU-acg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACacg-3'(配列番号18);
ALU-gaa: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgaa-3'(配列番号19);
ALU-gag: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgag-3'(配列番号20);
Alu-gta: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgta-3'(配列番号21);
Alu-gtg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgtg-3'(配列番号22);
ALU-gca: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgca-3'(配列番号23);
ALU-gcg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACgcg-3'(配列番号24);
ALU-taa: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACtaa-3'(配列番号25);
ALU-tag: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACtag-3'(配列番号26);
ALU-tta: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACtta-3'(配列番号27);
ALU-ttg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACttg-3'(配列番号28);
ALU-tca: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACtca-3'(配列番号29);
ALU-tcg: 5'-GATTACAGGCGTGAGCCACtcg-3'(配列番号30);
からなる群から選択される。ここで塩基配列上の小文字はランダムに付加された塩基を示す。

【0011】
また、本発明の別の実施態様により、サケ・マス類の個体判別に使用し得る制限プライマーは、
HPA-R-a: 5'-AACCACTAGGCTACCCTGCCa-3'(配列番号31);
HPA-R-c: 5'-AACCACTAGGCTACCCTGCCc-3'(配列番号32);
HPA-R-t: 5'-AACCACTAGGCTACCCTGCCt-3'(配列番号33);
HPA-R-Ga: 5'-ACCACTAGGCTACCCTGCCGa-3'(配列番号34);
HPA-R-Gg: 5'-AACCACTAGGCTACCCTGCCGg-3'(配列番号35);
HPA-R-Gt: 5'-ACCACTAGGCTACCCTGCCGt-3'(配列番号36);
HPA-R-GCa: 5'-CACTAGGCTACCCTGCCGCa-3'(配列番号37);
HPA-R-GCg: 5'-CACTAGGCTACCCTGCCGCg-3'(配列番号38);
HPA-R-GCt: 5'-CACTAGGCTACCCTGCCGCt-3'(配列番号39);
HPA-R-GC2a: 5'-ACTAGGCTACCCTGCCGCCa-3'(配列番号40);
HPA-R-GC2g: 5'-ACTAGGCTACCCTGCCGCCg-3'(配列番号41);
HPA-R-GC2t: 5'-ACTAGGCTACCCTGCCGCCt-3'(配列番号42);
HPA-R-GC3a: 5'-CTAGGCTACCCTGCCGCCCa-3'(配列番号43);
HPA-R-GC3g: 5'-CTAGGCTACCCTGCCGCCCg-3'(配列番号44);
HPA-R-GC3t: 5'-CTAGGCTACCCTGCCGCCCt-3'(配列番号45);
HPA-R-GC4a: 5'-TAGGCTACCCTGCCGCCCCa-3'(配列番号46);
HPA-R-GC4c: 5'-TAGGCTACCCTGCCGCCCCc-3'(配列番号47);
HPA-R-GC4g: 5'-TAGGCTACCCTGCCGCCCCg-3'(配列番号48);
HPA-R-GC4t: 5'-TAGGCTACCCTGCCGCCCCt-3'(配列番号49);
からなる群から選択される。ここで塩基配列上の小文字はランダムに付加された塩基を示す。

【0012】
本発明では、PCRにおけるDNA鎖の伸長の向きがSINEの内部へと向かうのではなく、SINEの外部へと背を向けるように進む。2つのSINEが隣り合っていれば、SINE間配列(InterSINE sequences)が増幅されることになる。本発明中のPCRは3つの反応段階、すなわちDNAの変性、プライマーのアニーリングおよび伸長反応からなる点では通常のPCRと同様であるが、アニーリングの条件が通常と異なる。DNAの変性では、真核生物の細胞(血液細胞、体細胞もしくは培養細胞)、組織等から抽出した二本鎖DNAを通常約95℃、たとえば94~96℃の温度で約15~30秒間処理することにより一本鎖のDNAに解離させる。アニーリングでは、熱処理で一本鎖になった鋳型DNAとプライマーを共存させ、本発明ではプライマーの融解温度より2~5℃高い温度、通常66~72℃、好ましくは68~70℃で30秒~1分間処理する。一般的なPCRでのアニーリング温度はプライマーの融解温度より2~5℃低く設定されており、特にミスマッチを有するプライマーを使用する場合は37~45℃に温度を下げる必要があるが、本発明では一般的なアニーリング温度よりかなり高い温度でアニーリングを実施する。伸長反応では、4種類の基質(dNTP)の共存下にDNAポリメラーゼを作用させることによりプライマーの伸長反応を行うが、通常、耐熱性DNAポリメラーゼ、たとえばThermus aquaticusTaq)ポリメラーゼを使用する場合、72℃で30秒~10分間、好ましくは約2分間処理を行う。変性、アニーリングおよび伸長反応を1サイクルとして、通常約25~約40サイクルPCRを繰り返す。

【0013】
反応はDNA Thermal Cycler(宝酒造)、GeneAmp PCR System(Perkin-Elmer Cetus社)などのPCR機を使用すると自動的にPCRを実施することができる。典型的な反応では、1反応あたり50μlの溶液を用い、約100pmolのSINE間配列制限プライマー、約10ng~約100ngのゲノムDNA、各約10nmolのdNTPを加え、適量のマグネシウムイオンを加える。DNAポリメラーゼとして耐熱性ポリメラーゼが好ましく使用され、その種類はTaqポリメラーゼ、たとえばTakara TaqTM(宝酒造)、Ampli TaqTM(Perkin-Elmer Cetus社)など、Thermus thermophilusTth)ポリメラーゼ、たとえばTth DNAポリメラーゼ(東洋紡)、rTth DNAポリメラーゼ(Perkin-Elmer Cetus社)など、が挙げられる。但し、LA Taq(宝酒造)を使用しては良好な結果は得られない。

【0014】
試料DNAは、真核生物の細胞、組織などからプロテイナーゼK/フェノール抽出法(K.Taniguchiら,Epidemiol.Infect.,109:303-312(1992))、プロテイナーゼK/フェノール/クロロホルム抽出法(A.Rolfsら共著,PCR:Clinical diagnosticsand research,79-89頁、Springer-Verlag,Berlin(1992))などの方法によって抽出することができる。

【0015】
上記のようにして得られたPCR産物を、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、臭化エチジウムまたは銀染色、放射性同位元素や蛍光色素などによるプライマーの標識、などの方法で解析することができるが、これらに限定されない。ゲル濃度は、通常、アガロースゲルの場合約2%、ポリアクリルアミドゲルの場合約5%である。この濃度により、約100~2,000bpの範囲のサイズのDNAを分離することができる。得られたDNAフィンガープリントパターンを個体間で比較することによって多型性を観察し、個体判別を行うことができる。

【0016】
なお、PCR法、真核生物からのゲノムDNAの単離と配列決定の一般的方法については、たとえば蛋白質核酸酵素(1996)41巻,5号,“PCR法最前線,基礎技術から応用まで"(1996年4月号増刊);J.Sambrookら, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);F.M.Frederickら, Short Protocols In Molecular Biology, Third Edition, John Wiley &Sons(1995)等を参照することができる。

【0017】

【実施例】以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって制限を受けるものではない。
実施例1
ニジマスの個体判別
長野県の養殖集団のニジマス親魚からランダムに5個体を選んだ。各個体の筋肉組織から、Asahidaら,Fisheries Science 62:727-730(1996)の方法によりTNES(10mM Tris/125mM NaCl/1mM SDS(ドデシル硫酸ナトリウム))-4M尿素緩衝液を用いてDNAの抽出を行った。N.Takasakiら(上掲)に示されたHpaIファミリーの塩基配列に基づいて、その上流側からSINEの外に向かってDNA鎖を伸長させるためのプライマー群を作製した。すなわち、HpaIファミリーの上流末端位置に数塩基のばらつきがあることを考慮し、3'末端の位置が異なる6種類のプライマー亜群を、融解温度(Tm)が66~70℃になるように設計した。各プライマー亜群について、プライマーの3'末端にランダムに1塩基を付加したプライマーを作製し、合計19種類のSINE間配列制限プライマーを合成した(図1、配列番号31~49)。またコントロールとして、ユニバーサルプライマーを用いた(図1のUniv-24)。

【0018】
PCRは、Perkin-Elmer Cetus社のサーマル・サイクラー(モデルPJ2000)を用いて行ったが、ATTO社のザイモリアクターII(AB-1820型)も併用した。典型的な反応では、1反応あたり50μlの溶液を用い、100pmolのSINE間配列制限PCRプライマー1種類、10ngのゲノムDNA、各々10nmolのdNTPを加えた。96℃30秒、68℃1分、72℃2分のPCRサイクルを40回繰り返した。なお、アニーリングの温度は68~72℃の間で変えて行った。得られたPCR産物を、2%アガロースゲル、および5%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動で分離した。泳動条件は10V/cmゲルである。泳動後、アガロースゲルでは臭化エチジウムで染色し、一方ポリアクリルアミドゲルでは超高感度の銀染色法により染色した。

【0019】
その結果、ニジマスDNAを基質として19種類のSINE間配列制限プライマーの各々を単独に用いたところ、フィンガープリント状のパターンが電気泳動後の臭化エチジウム染色および銀染色で観察された。フィンガープリントのための適切なPCR反応条件を設定するために、先ずPCRのアニーリング温度を高くすることにより、SINE間配列以外の非特異的な増幅が抑えられるかどうかを調べた。図2の右端のレーン6はコントロールのユニバーサルプライマーを用い、アニーリング温度68℃で行った結果を示しているが、超高感度の銀染色でもレーン6には全くバンドが観察されないことから、他のレーンで見られるバンドはSINE間配列由来のみであることが確認された。

【0020】
次に、PCRの基質DNAの量に依存してフィンガープリントパターンがどのように変化するかを調べた(図2、左側)。このとき、SINE間配列制限PCRプライマーとしてはHPA-R-a(配列番号31)を用いた。その結果、1ng以下のDNA量では観察されるバンドがやや薄く、その数も若干少ないが、10ng~100ngのDNA量では得られるパターンが再現性良く安定し、PCRの条件として適切であることが判明した。養殖ニジマス5個体について、図2の右側レーン1~5に示されるように、各個体に特異的な多型パターンが得られ、これに基づいて個体識別が可能であることがわかった。

【0021】
実施例2
サクラマスの個体判別
長野県の養殖集団のサクラマス1腹子5個体およびクローン6個体を選んで実施例1と同様に各個体の筋肉組織からDNAの抽出を行った。また、プライマーとしてHPA-R-GC3t(配列番号45)を用い、実施例1で決定された好適条件を用いてSINE間配列制限RCRを行った。電気泳動後のフィンガープリントを図3に示すが、1腹子間での比較であるにもかかわらず、ニジマスの場合と同様個体ごとに異なるパターンが観察された(図3、左側)。しかし、同一クローン集団のサクラマス(図3、右側)ではすべて同じバンドパターンが現れ、クローン内での多型は観察されなかった。これらのことから、本発明の方法はサクラマスやニジマス等のサケ科魚類の個体判別、クローンの作出の成否の判定等に有効な簡便な方法であることが判明した。

【0022】
実施例3
ヒトの個体判別
3人のヒト血液各1mlから、実施例1と同様の方法を用い、TNES-4M尿素緩衝液を用いてDNAを抽出した。D.L.Nelsonら(上掲)に記載されるヒトのAluファミリーのプライマー配列(5'-GGATTACAGGCGTGAGCCAC-3')に基づいて、その3'末端にランダムに1塩基、2塩基または3塩基を付加したプライマー(配列番号1~30)を作製した。PCRは基本的には実施例1と同様の条件で行った。典型的なPCRのサイクルは、96℃30秒、70℃1分、72℃2分で40回繰り返した。また、得られたPCR産物の観察方法も実施例1とほぼ同様であるが、ポリアクリルアミドゲル電気泳動後のフィンガープリントの観察は臭化エチジウム染色により行った。

【0023】
PCR産物の電気泳動の結果を図4に示す。D.L.Nelsonら(上掲)で報告されるとおり、Alu配列とマッチするだけのプライマー(5'-GGATTACAGGCGTGAGCCAC-3')ではスメアバンドのみが生じた(図4(a))が、プライマーの3'末端側への1または2塩基の付加により、増幅されるDNAの中に明瞭なバンドをなすものが現れた(図4(b),(c),(d))。3人のヒトを左からO,K,Tと呼ぶことにすると、プライマーAlu-a(配列番号1)の使用により180~200ベース付近で三者が判別され(図4(b))、またAlu-g(配列番号2)の使用によりTがOとKから明瞭に区別され、OとKの間でも470ベース付近にわずかな相違が観察され、3人(O, K,T)の判別が可能であった(図4(c))。Alu-gt(配列番号8)の使用では数多くのバンドが出現したが、180,370,420ベース付近などに3者間を区別し得ると思われるパターンが観察された。

【0024】

【発明の効果】本発明は、真核生物由来のDNA試料に対しPCRを行ってSINE間に挟まれた配列を増幅し、PCR産物の電気泳動バンドパターンからの多型性に基づいて真核生物の個体を判別する方法を提供するものであるが、この方法によって、10ナノグラムオーダーの極微量のDNA試料でPCRを利用して再現性良く真核生物の個体判別を可能とし、ヒトAluファミリーのような多コピー数のSINEであっても再現性良く識別可能なフィンガープリントを得ることができる。

【0025】

【配列表】
Sequence Listing
<110> National Research Institute of Aquaculture, Fisheries Agency, Min
istry of Agriculture, Forestry and Fisheries
<120> Distinction of individuals with inter-SINE sequences of eucaryotes
by restricted PCR-fingerprinting using SINE-targeted restricting primer
s,and primers for use therein
<130> P98-0297
<160> 49
<210> 1
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 1
GGATTACAGG CGTGAGCCAC A 21
<210> 2
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 2
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<210> 3
<211> 21

<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 3
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<210> 4
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 4
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 5
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<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA

<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 10
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<210> 11
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<400> 11
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 12
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<211> 22
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<213> Artificial Sequence
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<213> Artificial Sequence
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<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 22
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<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 19
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<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 20
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<210> 21
<211> 22
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<213> Artificial Sequence
<400> 21
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<210> 22
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 22
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<210> 23
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 24
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<211> 22
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<213> Artificial Sequence
<400> 25
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<213> Artificial Sequence
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<213> Artificial Sequence
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<211> 22
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<213> Artificial Sequence
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<213> Artificial Sequence
<400> 30
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<210> 31
<211> 21
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<213> Artificial Sequence
<400> 31
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<211> 21

<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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<211> 21
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<213> Artificial Sequence
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<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 34
ACCACTAGGC TACCCTGCCG A 21
<210> 35
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 35
AACCACTAGG CTACCCTGCC GG 22
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<211> 21
<212> DNA

<213> Artificial Sequence
<400> 36
ACCACTAGGC TACCCTGCCG T 21
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<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 37
CACTAGGCTA CCCTGCCGCA 20
<210> 38
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 38
CACTAGGCTA CCCTGCCGCG 20
<210> 39
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 39
CACTAGGCTA CCCTGCCGCT 20
<210> 40
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence

<400> 40
ACTAGGCTAC CCTGCCGCCA 20
<210> 41
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 41
ACTAGGCTAC CCTGCCGCCG 20
<210> 42
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 42
ACTAGGCTAC CCTGCCGCCT 20
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<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
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CTAGGCTACC CTGCCGCCCA 20
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<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 44

CTAGGCTACC CTGCCGCCCG 20
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<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 45
CTAGGCTACC CTGCCGCCCT 20
<210> 46
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 46
TAGGCTACCC TGCCGCCCCA 20
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<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 47
TAGGCTACCC TGCCGCCCCC 20
<210> 48
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 48
TAGGCTACCC TGCCGCCCCG 20


<210> 49
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 49
TAGGCTACCC TGCCGCCCCT 20
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図2】
2
【図4】
3