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明細書 :赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法及び継代培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3425618号 (P3425618)
公開番号 特開2001-231550 (P2001-231550A)
登録日 平成15年5月9日(2003.5.9)
発行日 平成15年7月14日(2003.7.14)
公開日 平成13年8月28日(2001.8.28)
発明の名称または考案の名称 赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法及び継代培養方法
国際特許分類 C12N  7/00      
A01N 63/00      
FI C12N 7/00
A01N 63/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2000-047958 (P2000-047958)
出願日 平成12年2月24日(2000.2.24)
審査請求日 平成12年2月24日(2000.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501168814
【氏名又は名称】独立行政法人水産総合研究センター
発明者または考案者 【氏名】長崎 慶三
【氏名】山口 峰生
【氏名】板倉 茂
【氏名】樽谷 賢治
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外2名)
審査官 【審査官】本間 夏子
参考文献・文献 Appl.Environ.Microbiol.(1999)Vol.65,No.3,p.898-902
調査した分野 C12N 7/00
A01N 63/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイル

【請求項2】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する液体試料をフィルターで濾過し、得られた濾液をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行い、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記ウイルスをクローニングする工程を含む、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルスの単離方法。

【請求項3】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルを有効成分として含む赤潮防除剤。

【請求項4】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルを赤潮水域に散布することからなる赤潮防除方法。

【請求項5】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルに感染して、溶藻が確認されたヘテロカプサ属の藻類の培養液を遠心処理し、得られた上清をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行う操作を少なくとも1回繰り返す工程を含む、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つウイルスを継代培養する方法。

【請求項6】
培養を、温度20~30℃、光強度40~70μmol photons m-2 s-1、明暗周期のある条件下で行う請求項記載の方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法及び継代培養方法に関し、より詳細には、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法及び継代培養方法に関する。

【0002】

【従来の技術】わが国の海面養殖業は、国内漁業生産額全体の約1/4を占めている。この振興にあたっては、とくに養殖漁場の環境保全を図ることが不可欠であり、なかでも深刻な被害を引き起こす赤潮に対しての有効な対策の推進がきわめて重要である。

【0003】
1980年代末にわが国に出現した赤潮原因藻ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマは、カキ, アサリ, 真珠貝等の二枚貝類を特異的に斃死させる性質を持ち、日本各地の二枚貝養殖産業に深刻な被害をもたらしてきた渦鞭毛藻の一種である。その損害額は1998年の広島湾におけるカキへの被害だけで約38億円に達した。世界で初めてのヘテロカプサ赤潮が発生した1988年当初は、高知県浦ノ内湾でのみ本種細胞が確認されたが、ヘテロカプサは驚異的な速さでその分布域を広げてきており、現在では熊本県から福井県までの西日本沿岸域に広く分布している。日本の周辺国への本種の移動が未だ確認されていないのは不幸中の幸いであるが、貿易船舶のバラスト水を介した有害有毒プランクトンの国際間移送の事例も知られていることから、本種の分布動態に関する監視体制の整備が必要である。

【0004】
こうした背景の下、二枚貝養殖業を抱える我が国各地の自治体からは、ヘテロカプサ赤潮に対する具体的対策の確立が強く望まれているが、現時点では、ヘテロカプサ赤潮に対する具体的な対策は「養殖筏の移動」以外には全くないのが現状である。しかしながら、赤潮発生域からの養殖筏の移動は、ヘテロカプサ細胞も同時に移植してしまう危険性を孕んでおり、養殖業者には筏移動についての慎重な対応が望まれている。

【0005】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、実用にかなうヘテロカプサ赤潮防除技術の開発を念頭に置きながら、新規に分離されたウイルス(HcV:ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ・ウイルス)の赤潮防除への応用の可能性を探ることをその主要な目的とする。ウイルス利用による赤潮防除は、他生物や生態系全体への負荷が小さい環境修復技術としてその安全性に高い期待が寄せられており、ウイルスの大量培養技術・散布手法・コスト等の面での諸問題がクリアされれば、将来実用化への道が開かれるものと期待される。

【0006】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染し死滅させるウイルスの分離に世界で初めて成功し、本発明を完成させるに至った。

【0007】
すなわち、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスを提供する。ヘテロカプサ属の藻類はヘテロカプサ・サーキュラリスカーマであるとよい。本発明の一態様において、ウイルスは、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.1~0.2μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つ。

【0008】
また、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する液体試料をフィルターで濾過し、得られた濾液をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行い、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記ウイルスをクローニングする工程を含む、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスの単離方法を提供する。フィルターの孔径は、細菌類や植物プランクトンなどのウイルスよりも大きいサイズの生物をトラップできる大きさであればよく、例えば、HcVの単離を行う場合、フィルターの孔径は0.4または0.2 μmであるとよい。ヘテロカプサ属の藻類の培養は、本発明のウイルスに感染させる前であるか、後であるかを問わず、温度20~30℃、光強度40~70μmol photons m-2 s-1、明暗周期のある条件下で行うことが好ましい。また、培養は改変SWM3培地で行うとよい。培養の好ましい温度条件は20℃であり、好ましい光強度条件は45μmol photons m-2 s-1であり、好ましい明暗周期は12時間毎の明暗周期である。本発明のウイルスのクローニングにおける限界希釈は、10-1~10-7倍の希釈段階で行うとよい。

【0009】
さらに、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスを有効成分として含む赤潮防除剤を提供する。さらにまた、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスを赤潮水域に散布することからなる赤潮防除方法を提供する。

【0010】
また、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスに感染して、溶藻が確認されたヘテロカプサ属の藻類の培養液を遠心処理し、得られた上清をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行う操作を少なくとも1回繰り返す工程を含む、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスを継代培養する方法を提供する。ヘテロカプサ属の藻類の培養は、本発明のウイルスに感染させる前であるか、後であるかを問わず、温度20~30℃、光強度40~70μmol photons m-2 s-1、明暗周期のある条件下で行うことが好ましい。また、培養は改変SWM3培地で行うとよい。培養の好ましい温度条件は20℃であり、好ましい光強度条件は45μmol photons m-2 s-1であり、好ましい明暗周期は12時間毎の明暗周期である。

【0011】
本明細書において、「赤潮」とは、プランクトンの急激な増殖に伴い水域の色が変化する現象を指す。この用語は、水産生物の被害の有無に関わらず広く用いられる。わが国の有害赤潮の原因となるプランクトンとしては、シャットネラ属、ギムノディニウム属、ヘテロシグマ属などがその代表例としてあげられる。「ヘテロカプサ属の藻類」とは渦鞭毛藻綱に属するもので、ヘテロカプサ属に属する種としてはヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロカプサ・トリケトラ、ヘテロカプサ・イルデフィナなどが知られている。

【0012】
「ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama) 」は、魚類には全く影響を及ぼさず、貝類だけを特異的に殺すという特異な性質を持つ、大きさ20μm前後の比較的小型の渦鞭毛藻類である。本種による赤潮は1988年に高知県浦の内湾で初めて発生し、アサリ1500tを斃死させる被害をもたらした。以降、本種の赤潮は西日本各地に広がり、漁業被害もほぼ毎年発生している。貝類に対する本種の毒性は特異的かつ強烈であり、これまで知られていないメカニズムで斃死を引き起こしている可能性があるため、現在もその毒性発現機構について詳細な研究が進められている。

【0013】
「ウイルス」とは、感染した宿主細胞内においてのみ増殖しうる感染性をもった球形または繊維状の微小構造体をいう。ウイルスは、二分裂で増殖することはできず、宿主細胞の生合成系を利用することでのみ自己の複製を行うという点で、細菌とは全く異なる。細菌の場合と比較して宿主特異性が著しく高いのが特徴である。なお、「宿主特異性」とは、病原性寄生生物(この場合はウイルス)が感染し増殖しうる宿主生物の種類の範囲がどの程度限定されているかを表す用語である。例えば、「宿主特異性が高い」あるいは「宿主域が狭い」という表現は、感染できる生物の種類が少ないことを意味する。

【0014】

【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本研究の対象生物であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマは、1980年代末にわが国に出現した赤潮原因藻であり、カキ, アサリ, 真珠貝等の二枚貝類を特異的に斃死させる性質を持ち、日本各地の二枚貝養殖産業に深刻な被害をもたらしてきた渦鞭毛藻の一種である。

【0015】
本発明のウイルスは、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる。ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルス(HcV:ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマウイルス)は、尾部構造および外膜構造を欠き、粒径約0.15~0.25μmの球形で、正二十面体構造をとり、2本鎖DNAを持つ。実験では、このウイルスに感染したヘテロカプサ細胞は運動性を失い死滅するが、このときおびただしい数の複製された子孫ウイルスを放出し、新たな(すなわち、未感染の)ヘテロカプサ細胞の感染・死滅を誘発する。したがって、数百万~数千万個のヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ細胞を含む培養液中に1個のウイルスを加えるだけで、培養中のすべての細胞を完全に死滅させることが可能である。また、本ウイルスの宿主特異性は高く、これまでのところ、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ以外の植物プランクトンに対する本ウイルスの影響は全く検出されていない。

【0016】
本発明のウイルスは、以下のようにして単離することができる。まず、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する海水(例えば、赤潮終息期の海水)などの液体試料を用意し、これを約4℃の温度で保存しておく。ヘテロカプサ属の藻類としては、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマが好ましい。液体試料を孔径0.4および0.2μm のフィルターで濾過した後、濾液をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して、例えば、20℃、45μmol photons m-2s-1、12時間明:12時間暗の明暗周期条件下で培養する。ヘテロカプサ属の藻類の培養液は、この藻類を予めマイクロピペット法または限界希釈法によりクローニングして、株化しておき、2nMのNa2SeO3含有改変SWM3培地(Chen ら, 1969, J. Phycol 5:211-220; Itoh & Imai, 1987, Shuwa, Tokyo, p.122-130)に接種後、45μmol photons m -2 s-1の白色蛍光灯を12時間明:12時間暗の明暗サイクルで照射し、20℃で培養することにより調製できる。この培養条件による培養で、ヘテロカプサ属の藻類は、培養開始後約2~4日で対数増殖期に入り、この期間は培養開始後約10~14日まで続く。

【0017】
次いで、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液を改変SWM3培地で限界希釈することによりウイルスをクローニングする。ヘテロカプサ属の藻類の培養液の調製法は上記のとおりである。限界希釈は次のようにして行うとよい。まず、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液をとり、改変SWM3培地で10-1~10-7倍に段階希釈し、各希釈液を対数増殖中のヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種する。これらを、例えば、20℃、45μmol photons m-2s-1、12時間明:12時間暗の明暗周期条件下で7~10日間培養する。培養後、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された最も希釈度の高いものを選択して、その培養液について上記の段階希釈法による処理を少なくとも1回(例えば、2~3回)繰り返す。

【0018】
最終の段階希釈法による処理の後、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液のうち、最も希釈度の高い培養液を採取して、対数増殖中のヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種する。以上の操作をもって、本発明のウイルスのクローニングの完了とみなすことができる。ウイルスのクローニングが完了したヘテロカプサ属の藻類の培養液から遠心分離(例えば、7,000 rpm, 2分)により細胞残さを除去後、得られた上清にシステアミン塩酸塩を添加したトリスバッファーに溶解した4',6'-diamidino-2-phenylindole(以下、「DAPI」と記す。)を添加する。暗所で染色後、孔径0.02μm のフィルター上に減圧濾過によりウイルス粒子を捕集し、蛍光顕微鏡を用いて紫外線励起下で観察することができる。

【0019】
本発明のウイルスを赤潮水域に散布することにより、赤潮を防除することができる。赤潮の防除にあたっては、本発明のウイルスの培養液またはその上清をそのまま使用してもよいが、本発明のウイルスを活性成分として含む製剤を調製してこれを使用してもよい。

【0020】
本発明の赤潮防除方法および赤潮防除剤は、自然環境中にすでに存在している宿主特異性の高いウイルスを利用するので、生態系への負荷が小さい環境修復技術として、その安全性に高い期待が寄せられる。また、本発明の赤潮防除剤は、他の通常の薬剤と異なり、ウイルス自体に自己複製能が備わっているため、少量の投入で広範囲への赤潮制御が期待できる。次に、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスを継代培養する方法について説明する。

【0021】
ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスに感染して、溶藻が確認されたヘテロカプサ属の藻類の培養液を遠心処理(例えば、7,000 rpm,2分)し、得られた上清を対数増殖中のヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行う操作を繰り返す。蛍光光度計によりin vivoクロロフィル蛍光を経日的にモニターすることで、その後の藻体の増殖を評価することができる。これにより、上記の方法で継代培養したウイルスが、ヘテロカプサ属の藻類に対する感染性を保持していることがわかる。

【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。以下の実施例において、特にことわらない限り、%の表示は体積%を示すものとする。

【0023】

【実施例】〔実施例1〕材料および方法
供試プランクトン
殺藻因子の分離には,高知県浦ノ内湾から分離されたヘテロカプサHu9433(-)株および三重県英虞湾から分離されたヘテロカプサHA92-1株(ともに無菌クローン株)を用いた。本種は,しばしば細胞内に共生細菌を持つことが知られているが,前者は共生細菌を持たない。培地には改変SWM3培地を用い,培養は温度20°C,光強度45 μmol photons m-2 s-1,12hL: 12hDの明暗周期条件下で行った。

【0024】
殺藻因子の分離
殺藻因子の分離に供した試水は,1999年8月に福岡県脇之浦漁港表層から採水したヘテロカプサ赤潮終息期の海水である。この試水を孔径0.4および0.2 μmのヌクレポアメンブレンフィルターで濾過し,得られた各濾水1 mlを対数増殖中のヘテロカプサHu9433(-)株およびHA92-1株培養液1 mlに接種した。また,対照として0.2 μm以下の画分を100 °Cで10分間処理したものを同様に接種し,上述の条件下で培養を行った。

【0025】
殺藻因子をクローンニングすることを目的とし,以下のように限界希釈法を2回繰り返し行った。上述の培養で溶藻が確認された培養液を改変SWM3培地で10-1~10-7倍に段階希釈し,各希釈液100 μlを対数増殖中のHu9433(-)株培養液150μlに接種した。実験には96穴マイクロプレートを使用し,各希釈段階につき8本立てで接種を行った。また,改変SWM3培地のみを接種したものを対照区として設けた。これらを上述の条件下で7~10日間培養した。溶藻が見られたウェルのうち,最も高い希釈段階で接種を行ったウェル中の溶藻培養液を複数採取し,再度上述の段階希釈法による処理を試みた。2回目の処理で溶藻が見られたウェルのうち,最高希釈段階の溶藻培養液を200μl採取し,対数増殖中のHu9433株培養液1 mlに接種した。以上の操作をもって,殺藻因子のクローニングが完了したものとみなした。

【0026】
透過型電子顕微鏡による観察
得られた殺藻因子クローンのうちから1クローン(HcV01)を選択し,その溶藻培養液2.5 mlを対数増殖中のHu9433(-)株培養液50 mlに接種した。また,対照として溶藻培養液を100°Cで15分間加熱処理したものを接種し,ともに上述の条件下で培養を行った。接種直後および接種24,48時間後にサンプルを採取し,常法により固定包埋処理後,JEOL社製JEM-1010透過型電子顕微鏡による観察を行った。また,溶藻培養液中の殺藻因子の形態観察をネガティブ染色法により行った。

【0027】
蛍光顕微鏡による観察
上述の殺藻因子クローンによる溶藻培養液から遠心分離(7,000 rpm,2分)により細胞残さを除去後,得られた上清1.2 mlにシステアミン塩酸塩を添加したトリスバッファーに溶解したDAPI溶液(15 μg ml-1)を添加した。30分間,暗所で染色後,孔径0.02 μmのAnodiskフィルター(Whatman)上に減圧濾過により捕集し,蛍光顕微鏡を用いて紫外線励起下で観察した。

【0028】
接種実験
上述の殺藻因子クローンによる溶藻培養液に対して以下の処理を施すことにより,その感染性状を検討した。
遠心(7,000 rpm,2分)
孔径0.2 μmのメンブレンフィルターによる濾過
孔径0.1 μmのメンブレンフィルターによる濾過
を100 °Cで15分間加熱処理。
を100 °Cで15分間加熱処理。

【0029】
これらを対数増殖中のHu9433(-)株培養液4 mlに対して200 μlずつ接種し,上述の条件下で培養を行った。また,対照として同量の改変SWM3培地を接種する実験区を設けた。実験は各実験区につき3本立てで行い,蛍光光度計によりin vivoクロロフィル蛍光を経日的にモニターすることで,その後の藻体の増殖を評価した。

【0030】
また,感染の継続性について検討するため,溶藻培養液を遠心処理(7,000 rpm,2分)し,得られた上清200 μlを対数増殖中のHu9433(-)株培養液4 mlに接種するという操作を3回繰り返し行った。また,対照として改変SWM3培地接種区を設け,ともに上述の条件下で培養を行った。実験は各実験区につき3本立てで行い,蛍光光度計によりin vivoクロロフィル蛍光を経日的にモニターすることで,その後の藻体の増殖を評価した。

【0031】
宿主範囲の検討
表1に示した対数増殖中の各藻体株培養液1 mlに上述の溶藻培養液50 μlを接種し,上述の条件下で培養を行った。ただし,アレキサンドリウム・タマレンセAlexandrium tamarense,シャットネラ・ベルキュローサChattonella verruculosa,キートケロス・ディディマムChaetoceros dydimum,ディティラム・ブライトベリDitylum brightwellii,スケレトネマ・コスタータムSkeletonema costatumおよびタラシオシラThalassiosira sp.の6種は,培養温度を15 °Cとした。また,対照として溶藻培養液を100℃で15分間加熱処理し、同様に接種した。実験は各実験区につき2本立てで行い,光学顕微鏡下で経日的に観察することで溶藻の成否を確認した。接種14日後に溶藻が確認されなかったものについては,本殺藻因子の宿主ではないものと判定した。

【0032】
結果および考察
殺藻因子の分離
ヘテロカプサHu9433(-)株,HA92-1株ともに,試水の0.4 μm以下および0.2 μm以下の画分を接種することにより,細胞が溶解し,死滅に至った。一方,試水を熱処理したものを接種した場合にはいずれの株も増殖を続けた。

【0033】
0.2 μm以下の画分を接種して得られた溶藻培養液から,段階希釈法により計5クローンの殺藻因子が分離された(表2)。これらの殺藻因子懸濁液を無菌検査培地ST10-1に接種したところ,白濁が認められなかったことから,得られた殺藻因子はいずれも無菌である可能性が高いものと考えられた。

【0034】
透過型電子顕微鏡および蛍光顕微鏡による微視的観察
透過型電子顕微鏡による観察の結果を図3に示す。加熱処理した殺藻因子懸濁液を接種した実験区においては,藻体細胞は接種24および48時間後でも活発に遊泳しており,透過型電子顕微鏡による細胞切片観察によっても,健常な細胞内構造が観察された。

【0035】
一方,殺藻因子接種区のヘテロカプサ細胞は,まず,溶藻に至る前段階として運動性を失い,培養容器底面に沈積した。その後,沈積した細胞は球形化し,接種48時間後には一部の細胞の崩壊が認められた。透過型電子顕微鏡による観察の結果,殺藻因子接種24および48時間後の細胞中にウイルス様粒子が多数検出された。これらの粒子の内部には電子密度の高い球形のコアが観察されたが,尾部ならびに外膜構造は観察されなかった。また,ネガティブ染色法による観察の結果,この粒子の直径は197±8 nm(n= 30)であると推定された。また,溶藻した培養液の一部について蛍光顕微鏡による観察を行ったところ,バクテリアよりもサイズの小さい多数のDAPI可染粒子が検出された。

【0036】
殺藻因子の接種実験
各種の前処理を施した殺藻因子クローンを接種した場合のヘテロカプサHu9433(-)株の増殖を図1に示した。溶藻培養液上清を接種した区では,接種翌日からクロロフィル蛍光値の減少が見られた。また,0.2 μm以下の画分を接種した区においても,無処理の上清接種区より4~5日程度のタイム・ラグがみられたもののクロロフィル蛍光値の減少が認められた。一方,0.1 μm以下の画分および熱処理したものを接種した区では,接種10日後においてもクロロフィル蛍光値の減少はみられず,また,SWM3培地接種区との間にも有意な差は認められなかった。また,連続した植え継ぎ実験から,本殺藻因子クローンは対数増殖中のヘテロカプサ細胞を速やかにかつ繰り返し溶藻せしめることが示された(図2)。

【0037】
以上の結果から,この殺藻因子のサイズは0.2 μm前後(0.2 μm以下の画分を接種した区と無処理区で溶藻に数日のタイム・ラグが認められた事実より,殺藻因子の一部は0.2 μmフィルターを通過するものの大部分はフィルター上に捕集されると推定されることから)であり,かつ易熱性の物質であることが示唆された。また,このサイズは殺藻因子接種区の細胞内でのみ観察されたウイルス様粒子の粒径とほぼ一致した。したがって,このウイルス様粒子は,1)病巣部には必ずその菌もしくはウイルスが検出される,2)健常な組織からはその菌もしくはウイルスは検出されない,3)人為的にその因子を接種することにより宿主にある特定の病気を起こさせることができる,という「コッホの条件」を満たしている。このことから,このウイルス様粒子がまさしく殺藻因子であり,「ウイルス」であることが示された。また,溶藻した培養液中からDAPI可染性の小粒子が観察されたことから,本ウイルスは2本鎖DNAウイルスであると推察された。

【0038】
宿主特異性
本殺藻因子クローンは,ヘテロカプサを除く珪藻4種,緑藻2種,クリプト藻1種,渦鞭毛藻9種,ユーグレナ藻1種,ハプト藻2種およびラフィド藻5種に対して殺藻性を示さなかった(表1)。この実験結果から,本ウイルスがヘテロカプサにのみ特異的に感染するウイルスである可能性は高いであろうと推察される。

【0039】

【表1】
JP0003425618B2_000002t.gif【0040】このように,我々は,西日本各地の海域で赤潮を形成し,二枚貝養殖業に多大な被害を及ぼしている渦鞭毛藻ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染し,殺藻するウイルスの分離に成功した。本ウイルスは,我々が知る限りにおいて,海産微細藻類の主要な構成群の一つである渦鞭毛藻に感染するウイルスの初の分離例である。その後,ヘテロカプサに感染するウイルスは兵庫県福浦湾からも5クローンが分離された(表2)。さらに,1) ウイルスは爆発的な増殖力を有することから,小規模かつ低コストで多大な効果が期待できること,2) 本ウイルスは天然環境水中から分離されたものであること,3) 本ウイルスはヘテロカプサに特異的に感染し,殺藻すること,を考慮すると,本ウイルスの散布はヘテロカプサ赤潮の防除法として有効であることが期待される。

【0041】

【表2】
JP0003425618B2_000003t.gif【0042】なお、上記のウイルスクローンは、水産庁瀬戸内海区水産研究所(所長:会澤安志)赤潮環境部 赤潮生物研究室の研究グループに保管されており、特許法施行規則第27条の3の規定に準じて分譲を行う用意がある。

【0043】

【発明の効果】本発明により、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスが提供された。また、本発明により、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスの単離方法が提供された。さらに、本発明により、上記の方法で保存したウイルスの継代培養方法が提供された。本発明のウイルスを用いることにより、赤潮を防除することができる。
図面
【図3】
0
【図1】
1
【図2】
2