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明細書 :耐病性誘導活性を有するタンパク質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3680131号 (P3680131)
公開番号 特開2003-081998 (P2003-081998A)
登録日 平成17年5月27日(2005.5.27)
発行日 平成17年8月10日(2005.8.10)
公開日 平成15年3月19日(2003.3.19)
発明の名称または考案の名称 耐病性誘導活性を有するタンパク質
国際特許分類 C07K 14/37      
A01N 63/00      
A01N 63/02      
C12P  1/02      
FI C07K 14/37 ZNA
A01N 63/00 A
A01N 63/02 P
C12P 1/02 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 20
出願番号 特願2001-271979 (P2001-271979)
出願日 平成13年9月7日(2001.9.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年3月10日日本植物病理学会発行の「平成13年度日本植物病理学会大会講演要旨予稿集」に発表
審査請求日 平成13年9月7日(2001.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】竹中 重仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
審査官 【審査官】内藤 伸一
調査した分野 C07K 14/37 ZNA
A01N 63/00
A01N 63/02
C12P 1/02
CA(STN)
BIOSIS(DIALOG)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の理化学的性質を有し、ピシウム・オリガンドラム(Pythium oligandrum)細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質。
(1) SDS-PAGEによる分子量測定において28kDaを示す。
(2) 以下の配列番号1~4の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ 配列番号1に示されるN末端アミノ酸配列
▲2▼ 配列番号2に示されるリジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列
▲3▼ 配列番号3に示されるリジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列
▲4▼ 配列番号4に示されるサーモリシン消化によるアミノ酸配列
【請求項2】
下記の表1に示すアミノ酸組成を有する請求項1記載のタンパク質。
【表1】
JP0003680131B2_000014t.gif

【請求項3】
以下の理化学的性質を有し、ピシウム・オリガンドラム細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質。
(1) SDS-PAGEによる分子量測定において24kDaを示す。
(2) 以下の配列番号5~8の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ 配列番号5に示されるN末端アミノ酸配列
▲2▼ 配列番号6に示されるリジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列
▲3▼ 配列番号7に示されるリジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列
▲4▼ 配列番号8に示されるサーモリシン消化によるアミノ酸配列
【請求項4】
下記の表2に示すアミノ酸組成を有する請求項3記載のタンパク質。
【表2】
JP0003680131B2_000015t.gif

【請求項5】
以下の理化学的性質を有し、ピシウム・オリガンドラム細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質。
(1) SDS-PAGEによる分子量測定において27kDaを示す。
(2) 以下の配列番号9~10の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ 配列番号9に示されるN末端アミノ酸配列
▲2▼ 配列番号10に示されるサーモリシン消化によるアミノ酸配列
【請求項6】
下記の表3に示すアミノ酸組成を有する請求項5記載のタンパク質。
【表3】
JP0003680131B2_000016t.gif

【請求項7】
ピシウム・オリガンドラムの細胞壁から得られた細胞壁タンパク質画分を逆相クロマトグラフィーに供し、ピシウム・オリガンドラム細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質を単離・精製することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の耐病性誘導活性を有するタンパク質の単離・精製方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質の1種以上を有効成分として含む、耐病性誘導剤。
【請求項9】
請求項8記載の耐病性誘導剤を用いた、土壌病害防除方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピシウム・オリガンドラム(Pythium oligandrum)細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質、該タンパク質の単離・精製方法、該タンパク質を含む耐病性誘導剤、及び該耐病性誘導剤を用いた土壌病害防除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国の畑作にとって最大の問題は、土壌病害による被害である。現在、殺菌剤や土壌薫蒸剤によりこれらの防除が実施されているが、自然環境と調和した持続的な農業システム構築の観点から、今後はこれらを出来るだけ使用しない土壌病害防除技術の開発が強く求められている。その一手段として、有用な微生物を用いた生物防除が早くから注目されてきたが、その防除効果が他の土壌微生物の影響を受けて変動する等の理由から、現在まで実用化されたものは極わずかしかない。
【0003】
一方、土壌生息菌の一種であるピシウム・オリガンドラムは、多くの土壌病原菌に寄生する微生物であり、海外において菌寄生菌として早くから注目されてきた。さらに、最近、本菌が多くの作物の根圏に定着し、作物の生育促進や、耐病性を作物に誘導する能力(以下、耐病性誘導活性と称する)を有していることが報告されている(Al-Rawashi AK & Hancock JG, 1997, 1998; Benhamou N et al, 1997)。このピシウム・オリガンドラムの有する耐病性誘導活性には、1)他の土壌微生物の影響を受けにくく、広範な作物種および土壌病害に対して防除効果が期待できる、2)本来植物が具備している防御システムを利用するため、抗菌物質等と比べて安全である、という特性があることから、近い将来、作物に対する生物防除技術開発においてピシウム・オリガンドラム及び該菌由来の物質が強力な武器になりうる。
【0004】
しかしながら、これまで、ピシウム・オリガンドラムの耐病性誘導活性を有する物質の詳細については報告されておらず、該物質の単離・同定が求められていた。また、該物質を利用した耐病性誘導剤及び土壌病害防除方法を開発するためには該物質の精製が不可欠であるが、該物質には理化学的性質が類似した複数のタンパク質が存在していると考えられ、それら各タンパク質を効率的に、かつ高純度で単離・精製することが困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ピシウム・オリガンドラム細胞壁由来の耐病性誘導活性を有するタンパク質、該タンパク質の単離・精製方法、該タンパク質を利用した耐病性誘導剤、及び該耐病性誘導剤を用いた土壌病害防除方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、逆相クロマトグラフィーによって、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁タンパク質画分から3種の耐病性誘導活性を有するタンパク質を単離・精製することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ピシウム・オリガンドラム細胞壁から単離・精製された耐病性誘導活性を有するタンパク質である。
また、逆相クロマトグラフィーによって耐病性誘導活性を有するタンパク質を単離・精製する方法である。
さらに、耐病性誘導活性を有するタンパク質を1種以上有効成分として含む、耐病性誘導剤である。
また、該耐病性誘導剤を用いた、土壌病害防除方法である。
【0008】
【本発明の実施の形態】
本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質、該タンパク質の単離・精製方法、該タンパク質を有効成分として含有する耐病性誘導剤、及び該耐病性誘導剤を用いた土壌病害防除方法についてさらに詳細に説明する。
本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質は、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁から得られた細胞壁タンパク質画分を逆相クロマトグラフィーに供し、単離・精製方法によって得ることができる。
【0009】
ピシウム・オリガンドラムとは、土壌生息菌の一種であり、多くの土壌病原菌、例えば、Pythium ultimum, Rhizoctonia solani, Fusarium oxysporum, Verticillium albo-atrum等に寄生して生息している菌である。本ピシウム・オリガンドラムは、植物体の根圏に定着し、植物体に対して土壌病害に対する耐病性を誘導する。ピシウム・オリガンドラムの耐病性誘導が関与し得る植物体の土壌病害には、病原菌のRhizoctonia solani、 Aphanomyces cochlioides、Fusarium oxysporum等が関係している、テンサイの苗立枯病、テンサイ根腐病、トマト萎凋病等がある。本発明における耐病性誘導とは、ピシウム・オリガンドラムの菌体由来物質が植物体の根から吸収された場合に、植物体において耐病性が誘導されることを意味する。具体的には、(1)ペルオキシダーゼ等の酵素作用により細胞壁等の植物体内組織が厚くなる、(2)病原菌死滅物質を植物体内で産生する、(3)病原菌体を構成するキチンなどを分解する、キチナーゼ等の酵素を産生する、等の植物体自身が持っている防御システムが稼動することにより耐病性が付与され、それによって、外来病原菌による土壌病害が防除され得る。
【0010】
本ピシウム・オリガンドラムは、土壌、特に畑土壌内からスクリーニングすることによって得ることができる。スクリーニングは、例えば、Martin, FN., and Hancock, JG. 1986. Phaytopathology 76:1221-1231に報告されているような手順で実施可能である。具体的には、例えば、被検土10gを0.35%寒天溶液40mlに懸濁し、その懸濁液10mlを0.35%寒天溶液に添加し混合する。その1mlを、CMA(トウモロコシ寒天培地;Corn meal agar)中に、Tween 20を0.1%、ローズベンガル(Rose Bengal) 50μg/ml、ペニシリン 100μg/ml、アンピシリン 250μg/ml、リファンピシン 10μg/ml、ピマリシン 20μg/ml、ベノミル 20μg/mlを含む、Martin & Hancock (1986)のピシウム・オリガンドラム培養培地に植菌し、28℃、2日間培養することによってピシウム・オリガンドラムをスクリーニングすることができる。
【0011】
ピシウム・オリガンドラムの耐病性誘導活性を有するタンパク質は、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁のタンパク質画分から得る。例えば、Takenaka & Kawasaki(Takenaka, S and Kawasaki, S. 1994. Physiol. Mol. Plant Pahtol., 45:249-261.)の方法によって、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁を抽出し、次いで、細胞壁抽出緩衝液(例えば、50mM トリス塩酸、 0.5M CaCl2、5mM ジチオトレイトール、pH7.2の溶液)を添加して細胞壁タンパク質画分を得ることができる。
【0012】
本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質は、前記のようにして得られた細胞壁タンパク質画分から逆相クロマトグラフィーによって単離・精製する。単離・精製は、例えば、以下のように行うことができる。ピシウム・オリガンドラムの細胞壁タンパク質画分に10mMジチオトレイトールと0.1%トリフルオロ酢酸を添加し、本発明のタンパク質をモノマーに分解する。場合によっては、さらに、前記モノマーをタンパク質分解酵素等を用いることによって、より小さいペプチド断片を得ることもできる。次いで、モノマーに分解した細胞壁タンパク質画分を逆相クロマトグラフィーにかける。溶出液の溶媒としては、アセトニトリル等を用い、0.1%のトリフルオロ酢酸を加え、酸性条件下で行う。このうち、特に好ましい溶出液は、0.1% トリフルオロ酢酸/アセトニトリルである。なお、逆相クロマトグラフィーにかける前のジチオトレイトール等の還元剤による処理は必須ではないが、逆相クロマトグラフィーによる単離・精製の向上の点から実施するのが好ましい。
【0013】
逆相クロマトグラフィーによって単離・精製することにより、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁タンパク質画分には、分子量約28kDaと24kDaの2種の主要なタンパク質からなるタイプ(以下、Tタイプと称する。)と分子量約27kDaの1種の主要タンパク質からなるタイプ(以下、Sタイプと称する。)が存在することが確認され、Tタイプの分子量約28kDaのタンパク質、24kDaのタンパク質を各々タンパク質T-1及びタンパク質T-2と称し、Sタイプの分子量約27kDaのタンパク質をタンパク質S-1と称することとした。
【0014】
すなわち、上記の方法によって得られる本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質には、以下の3種類のタンパク質が含まれる。
耐病性誘導活性を有する第1のタンパク質は、以下の理化学的性質を有するピシウム・オリガンドラム細胞壁由来のタンパク質(タンパク質T-1)である。
【0015】
(1) ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、「SDS-PAGE」と称する。)による分子量測定において28kDaを示す。
(2) 以下の配列番号1~4の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Lys Glu Glu Xaa Asp Ala Ala Phe Thr Gly Glu Val Gly Lys Leu Thr Lys Asp (配列番号1)
▲2▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Ser Ile Gly Gly Gly Ser Thr Xaa Ser Ser Ala Pro Xaa Thr Asp Thr Thr (配列番号2)
▲3▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Leu Val Asp Pro Tyr Xaa Xaa Asp Xaa Gly (配列番号3)
▲4▼ サーモリシン消化によるアミノ酸配列:Gly Lys Asp Ser Gly (配列番号4)。
【0016】
また、本発明の耐病性誘導活性を有する第2のタンパク質は、以下の理化学的性質を有するピシウム・オリガンドラム細胞壁由来のタンパク質(タンパク質T-2)である。
(1) SDS-PAGEによる分子量測定において24kDaを示す。
(2) 以下の配列番号5~8の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Ala Lys Glu Xaa Gln Asp Ala Phe Thr Gly Glu Val Ala Lys Leu Thr Thr Gly (配列番号5)
▲2▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Pro Leu Val Gln Pro Ser Ser Ser Asp (配列番号6)
▲3▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Ser Ile Ser Gly Gly Gly Ser Thr Xaa Ser Ser Ala Pro Pro Ser Gly Thr Thr (配列番号7)
▲4▼ サーモリシン消化によるアミノ酸配列:Ala Leu Ser Gly Gln Asp Ala (配列番号8)
【0017】
さらに、本発明の耐病性誘導活性を有する第3のタンパク質は、以下の理化学的性質を有するピシウム・オリガンドラム細胞壁由来のタンパク質(タンパク質S-1)である。
(1) SDS-PAGEによる分子量測定において27kDaを示す。
(2) 以下の配列番号9~10の部分アミノ酸配列を含む。
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Lys Glu Glu Xaa Asp Ala Ala Phe Thr Gly Glu Val Gly Lys Leu Thr Lys Asp (配列番号9)
▲2▼ サーモリシン消化によるアミノ酸配列:Gly Lys Asp Ser Gly (配列番号10)
【0018】
本発明のタンパク質、T-1、T-2及びS-1は、上記のように、SDS-PAGEにおいて決定され得る特有の分子量を有する。SDS-PAGEは、例えば、Laemmli, UK. 1970. Nature (London) 227:680-685に記載されている通常の方法に従って行うことができる。すなわち、タンパク質画分試料を還元剤(例えば、β-メルカプトエタノール等)を含む溶液で処理した後、SDS-PAGEで分離し、ゲルを染色してバンドを検出する。マーカータンパク質のバンドと検出されたバンドの位置をそれぞれ比較し、本発明のタンパク質の分子量を決定することができる。なお、本発明におけるタンパク質は、SDS-PAGEにおいて単一のバンドとして確認し得る精製されたタンパク質である。
【0019】
上記のようにして単離された各耐病性誘導活性を有するタンパク質は、アミノ酸シーケンサー、例えば、Applied Biosystems, Inc. Model 476A等によって部分アミノ酸を決定することができる。部分アミノ酸配列としては、(1) N末端アミノ酸配列、(2) リジンのC末端側でペプチド鎖を切断する酵素であるリジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列、(3) イソロイシン、ロイシン、バリン等の大きな疎水性側鎖を持つアミノ酸残基を含むペプチド結合の内部から切断する酵素であるサーモリシン消化によるアミノ酸配列等を得ることができる。
【0020】
また、各耐病性誘導活性を有するタンパク質のアミノ酸組成については、Tosoh 多波長HPLCシステム等によって確認することができる。
さらに、タンパク質T-1、T-2及びS-1については、以下のような手順で該タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列を決定することができる。T-1、T-2の抽出源であるMMR2菌株とS-1の抽出源であるMMR3菌株からmRNAを抽出し、それぞれのcDNAライブラリーを構築する。cDNAライブラリー構築後、上記のようにして得られている部分アミノ酸配列情報よりプライマーを合成し、PCR法によりプローブを得る。そのプローブを用いて3種のタンパク質のcDNAをクローニングし、その後、全アミノ酸配列を決定する。
【0021】
また、BAL31ヌクレアーゼ等の酵素を用いて様々な部位に欠失部分を有するフラグメントを作出し、どのペプチド部分が耐病性誘導に関連している部分であるかを明らかにすることもできる。
本発明の耐病性誘導剤は、本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質を単独で、あるいは通常の耐病性誘導剤として利用可能な他の成分や賦形剤等を組み合わせて、固形物として調製することができる。また、本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質を蒸留水等に溶解して、溶液として調製することもできる。この場合にも、所望により、通常の耐病性誘導剤として利用可能な他の成分と混合して利用することもできる。
【0022】
本発明の耐病性誘導活性を有するタンパク質による土壌病害防除方法は、例えば、該タンパク質又は該タンパク質を溶解した溶液を、予防対象の植物の根等から吸収させることによって達成することができる。吸収させる該タンパク質の量は、対照となる植物体及び土壌病害の種類によって異なるが、テンサイの場合、350μlの蒸留水に溶解した750μgのタンパク濃度で、根から直接吸収させるのが好ましい。
【0023】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1] ピシウム・オリガンドラムの細胞壁タンパク質画分の抽出
北海道内にある、芽室(北海道農業研究センター畑作研究部圃場)、美瑛(コムギ圃場)、足寄(コムギ圃場)、上川(コムギ圃場)、北見(40年連作圃場、アルファルファ4年連作圃場、チモシー圃場)、訓子府(コムギ圃場)、端野(コムギ圃場)、常呂(コムギ圃場)、女満別(コムギ圃場)、網走(コムギ圃場)、津別(牧草地)の計13ヶ所から土壌を採取した。各採取土10gを0.35%寒天溶液40mlに懸濁し、その懸濁液10mlを0.35%寒天溶液に添加し混合した。その1mlを、CMA中、Tween 20を0.1%、ローズベンガル 50μg/ml、ペニシリン 100μg/ml、アンピシリン 250μg/ml、リファンピシン 10μg/ml、ピマリシン 20μg/ml、ベノミル 20μg/mlを含む、ピシウム・オリガンドラム培養培地に植菌し、28℃、2日間培養した。その結果、上記13ヶ所のうち、6ヶ所から19株のピシウム・オリガンドラムが得られた。
【0024】
次いで、上記19株のピシウム・オリガンドラムと標準菌株としての大阪府立大学保存菌株3株(IFO 32559、OPU 425、OPU 426)から細胞壁タンパク質画分をTakenaka &Kawasaki(1994)の方法を用いて抽出した。すなわち、ピシウム・オリガンドラム各菌株をそれぞれ10% V8ジュース(Campbell Soup)中で25℃にて3週間培養した後、菌体を45μmメッシュの篩いにより集菌し採取した。得られた各菌体約4gを液体窒素下で粉砕した後、20mlの磨砕用緩衝液(50mM トリス塩酸、5mMメルカプトエタノール、pH7.2、プロテアーゼインヒビターとして1μMのロイペプシン、1μMのペプスタチン、100μMのEDTA、200μMのPMSFを含む)とガラスビーズ(直径0.2 mm)を加え、ワーンイングブレンダーで4℃下にて25分間磨砕した。
【0025】
磨砕液を4℃、1,000×gにて3分間遠心して沈殿させた細胞壁に上述の磨砕液緩衝液を加え、同条件で遠心洗浄を6回以上繰り返し、細胞質を含まない細胞壁を回収した。
得られた細胞壁に細胞壁タンパク質画分抽出緩衝液(5OmM トリス塩酸、0.5M CaCl2、5mM ジチオトレイトール、pH 7.2)を加え、4℃で一晩緩やかに振盪して、細胞壁から細胞壁タンパク質画分を溶出させた。溶出した細胞壁タンパク質画分を4℃、23,000×gにて20分間遠心分離して採取し、蒸留水に透析した後、凍結乾燥して細胞壁タンパク質画分標品を得た。
【0026】
[実施例2]細胞壁タンパク質画分のSDS-PAGE解析
実施例1で得られた細胞壁タンパク質画分標品をβ-メルカプトエタノールを含む溶液で処理した後、SDS-PAGEで分離し、ゲルを染色してバンドを検出した。マーカータンパク質のバンドと検出されたバンドの位置をそれぞれ比較したところ、本発明の細胞壁タンパク質には、図1に示すように、分子量約28kDaと24kDaの2種の主要なタンパク質からなるTタイプと分子量約27kDaの1種の主要タンパク質からなるSタイプがあることが確認された。この結果から、広くスクリーニングによって得られるピシウム・オリガンドラムの細胞壁には、TタイプとSタイプのタンパク質が存在することが明らかとなった。
採取菌体、採取場所、細胞壁タンパク質画分のタイプを表4に示す。
【0027】
【表4】
JP0003680131B2_000002t.gif
【0028】
[実施例3]ピシウム・オリガンドラムのTタイプ及びSタイプ細胞壁タンパク質の各種単離・精製法による単離・精製
実施例2で確認されたピシウム・オリガンドラム細胞壁タンパク質画分に含まれるTタイプタンパク質及びSタイプタンパク質に対する単離・精製を検討した。
ピシウム・オリガンドラム菌体としては、実施例1で芽室の畑圃場からスクリーニングした1株(以下、MMR2株と称する)と美瑛の小麦圃場からスクリーニングした1株(以下、MMR3株と称する)を用いた。MMR2株及びMMR3株の細胞壁タンパク質画分は実施例1と同様にして得た。得られた細胞壁タンパク質画分をクロマトグラフィー用試料とし、下記の条件のゲル濾過クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、及び逆相クロマトグラフィーにかけ、単離・精製を行った。
【0029】
(1)ゲル濾過クロマトグラフィー:
細胞壁タンパク質画分を50mM リン酸緩衝液(pH7.0, 0.3M NaClを含む)に溶解して、ゲル濾過クロマトグラフィー用試料とした。カラムは東ソーのTSK-GEL G400SWXLを使用し、溶離液は上記緩衝液を用い、流速0.5ml/minで溶出した。
【0030】
(2)陽イオン交換クロマトグラフィー:
細胞壁タンパク質画分を50mM 酢酸酸緩衝液(pH5.0)に溶解して、陽イオン交換クロマトグラフィー用試料とした。カラムはアマシャムファルマシアのHitrap CM Sepharoseを使用し、基本液(A液)は上記緩衝液、溶離液(B液)として1M NaClを含んだ上記緩衝液を用い、流速1ml/minで溶出した。
JP0003680131B2_000003t.gif
【0031】
(3)陰イオン交換クロマトグラフィー:
細胞壁タンパク質画分を20mM トリス塩酸緩衝液(pH8.1)に溶解して、陰イオン交換クロマトグラフィー用試料とした。カラムはアマシャムファルマシアのHitrap DEAE Sepharoseを使用し、基本液(A液)は上記緩衝液、溶離液(B液)として1M NaClを含んだ上記緩衝液を用い、流速1ml/minで溶出した。
JP0003680131B2_000004t.gif
【0032】
(4)疎水クロマトグラフィー:
細胞壁タンパク質画分を50mMリン酸緩衝液(pH7.0, 1M 硫酸アンモニウムと 2mM DTTを含む)に溶解して、疎水クロマトグラフィー用試料とした。カラムはアマシャムファルマシアのHitrap Phenyl Sepharose FF, HPを使用し、基本液(A液)は上記緩衝液、溶離液(B液)として50mMリン酸緩衝液(pH7. 2mM DTTのみ含む)を用い、流速0.8ml/minで溶出した。
JP0003680131B2_000005t.gif
【0033】
(5)逆相クロマトグラフィー:
細胞壁タンパク質画分を10mM ジチオトレイトールを含有する0.1重量%トリフルオロ酢酸に溶解して、逆相クロマトグラフィー用試料とした。カラムはシリカ系の逆相カラム、Wakosil-II5C18ARを使用した。基本液(A液)には0.1重量%トリフルオロ酢酸含有水、溶離液(B液)として0.1重量%トリフルオロ酢酸/アセトニトリルを用い、流速0.8ml/minで溶出し、ピーク部分を手動で回収した。なお、溶出条件は以下のように実施した。
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【0034】
上記の単離・精製の結果、ゲル濾過クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーにおいてはピシウム・オリガンドラム細胞壁由来のTタイプタンパク質及びSタイプタンパク質を単離・精製することができなかったが、逆相クロマトグラフィーを使用した場合のみ、Tタイプのタンパク質2種(T-1タンパク質及びT-2タンパク質)とSタイプのタンパク質1種(S-1タンパク質)を単離・精製することができた。逆相クロマトグラフィーの結果を図2に示す。
【0035】
[実施例4]
実施例3の逆相クロマトグラフィーで得られた精製画分をSDS-PAGE試料緩衝液に溶解後、100℃、3分間熱処理し、SDS-PAGE試料とした。この試料を12.5%のポリアクリルアミドゲル上において、20 mAの電流下で電気泳動させた。電気泳動後、クマシーブリリアントブルーで染色した結果、図3に示すように、T-1、T-2及びS-1について、各々、28kDa、24kDa、27kDaの単一のバンドを確認することができた。以上の結果から、MMR2はTタイプであり、MMR3はSタイプであることがわかった。
【0036】
[実施例5]精製T-1、T-2及びS-1のアミノ酸配列分析
実施例3の逆相クロマトグラフィーで得られたタンパク質T-1、T-2及びS-1の各精製画分について、アミノ酸配列分析を行った。
N末端のアミノ酸配列は、以下のような方法により決定した。細胞壁タンパク質を上記SDS-PAGEで分離した後、PVDF膜に電気的に転写して(0.8 mA/cm2, 90 min)、クマシーブリリアントブルーで染色し、60%メタノールで脱色し、風乾した後に、膜状のT-1、T-2、S-1部分を切り出して、アミノ酸シーケンサー(Applied Biosystems, Inc. Model 476A)に直接かけて配列を決定した。
【0037】
酵素処理による内部アミノ酸配列の決定は、以下の方法により決定した。上記逆相クロマトグラフィーで精製したT-1、T-2、S-1を還元カルボキシルメチル化した後、リジルエンドペプチダーゼ又はサーモライシンにより、37℃、20時間消化させた。酵素消化用緩衝液として前者は0.5M NEM、0.1M 酢酸、0.1 % SDS-1M 尿素、pH8.6を、後者は0.5M NEM, 1mM CaCO3, 0.2%SDS, pH8.0を用いた。前記酵素により消化したタンパク質T-1、T-2、S-1を凍結乾燥後、上記の逆相クロマトグラフィーにかけて、記録計に現れるピークを手動で分取した。分取した試料をそれぞれ上記アミノ酸シーケンサーにかけて配列を決定した。
その結果、タンパク質T-1、T-2、S-1が各々以下の部分アミノ酸配列を有していることが確認された。
【0038】
(1) タンパク質T-1
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Lys Glu Glu Xaa Asp Ala Ala Phe Thr Gly Glu Val Gly Lys Leu Thr Lys Asp (配列番号1)
▲2▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Ser Ile Gly Gly Gly Ser Thr Xaa Ser Ser Ala Pro Xaa Thr Asp Thr Thr (配列番号2)
▲3▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Leu Val Asp Pro Tyr Xaa Xaa Asp Xaa Gly (配列番号3)
▲4▼ サーモリシン消化配列:Gly Lys Asp Ser Gly (配列番号4)
【0039】
(2) タンパク質T-2
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Ala Lys Glu Xaa Gln Asp Ala Phe Thr Gly Glu Val Ala Lys Leu Thr Thr Gly (配列番号5)
▲2▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Pro Leu Val Gln Pro Ser Ser Ser Asp (配列番号6)
▲3▼ リジルエンドペプチダーゼ消化によるアミノ酸配列:Ser Ile Ser Gly Gly Gly Ser Thr Xaa Ser Ser Ala Pro Pro Ser Gly Thr Thr (配列番号7)
▲4▼ サーモリシン消化配列:Ala Leu Ser Gly Gln Asp Ala (配列番号8)
【0040】
(3) タンパク質S-1
▲1▼ N末端アミノ酸配列:Leu Thr Lys Glu Glu Xaa Asp Ala Ala Phe Thr Gly Glu Val Gly Lys Leu Thr Lys Asp (配列番号9)
▲2▼ サーモリシン消化配列:Gly Lys Asp Ser Gly (配列番号10)
【0041】
B. T-1、T-2及びタンパク質S-1のアミノ酸組成決定の試験
上記逆相クロマトグラフィーで精製したT-1、T-2、S-1を還元カルボキシルメチル化し、6N HClを用いて110℃にて24時間加水分解処理を行った後、上記多波長HPLCシステムによりアミノ酸組成分析を行った。
その結果、タンパク質T-1、T-2及びS-1が、表5に示す各アミノ酸組成を有していることが明らかになった。
【0042】
【表5】
JP0003680131B2_000007t.gif
【0043】
[実施例6]MMR2のTタイプタンパク質とMMR3のSタイプタンパク質の耐病性誘導活性の検定
テンサイを人工気象室において3週間育苗した。実施例3で調整したMMR2とMMR3の細胞壁タンパク質画分(750μgを350μlの蒸留水に溶解したもの)を育苗したテンサイの根から吸収させ、耐病性誘導に関連する主要酵素の一つであるフェニールアラニンアンモニアリアーゼ(以下、PALと称す)活性の変動を調査した。PAL活性は、Hugers RK and Dickerson AG. 1989. Phsiol. Mol. Plant Pahtol.31:667-675の方法に準じて調べた。なお、対照区では蒸留水を吸収させた。
その結果を図4に示す。図4において明らかなように、いずれのタンパク質標品においても処理4時間後に対照区に比べて顕著なPAL活性の増加が認められた。特に、Tタイプ細胞壁タンパク質画分処理区において増加程度が高かった。
【0044】
また、病原菌の侵入に対する細胞の物理的強化に関係する細胞壁のフェノール物質の沈着も調べた。フェノール物質の沈着は、Stadnik, MJ and Buchenauer, H. 2000. Phsiol. Mol. Plant Pathol.57:25-34の方法に準じて調査した。結果を図5に示す。その結果、細胞壁のフェノール物質の沈着も細胞壁タンパク質画分処理を行った方が高く、病原菌の侵入に対する細胞が物理的に強化されていることがわかった。
【0045】
次に、細胞壁タンパク質画分を上記の方法によりテンサイの根から吸収させ、その5日後に病原菌である根腐病菌の培養菌体(フスマ・バーミキュライト培地)を0.5gずつ、テンサイの根に接種してその感染抑制効果を調べた。根腐病菌には、テンサイ根腐病菌Rhizoctonia solani AG2-2を用いた。その結果を図6に示す。
【0046】
図6から明らかなように、細胞壁タンパク質画分処理したテンサイでは、対照区に比べて根腐病に対する被害程度が低く、特にTタイプの細胞壁タンパク質画分処理区では被害程度は約60%に抑制されていた。
以上の結果から、ピシウム・オリガンドラムの細胞壁タンパク質画分のTタイプタンパク質及びSタイプタンパク質はテンサイに対する耐病性誘導活性を有していることが確認できた。
【0047】
[実施例7]タンパク質T-1、T-2及びS-1による土壌病害の抑制効果
タンパク質T-1、T-2及びS-1を用いて、土壌病害の抑制効果について検討した。
人工気象室で8週間育生したテンサイの菜根のディスク(10×2 mm)に、実施例3の逆相クロマトグラフィーで得られた耐病性誘導活性を有するT-1、T-2及びS-1を蒸留水に溶解して各々25μl(12.5μg/disk)ずつ滴下した。対照区は、蒸留水25μlを滴下したディスクを用いた。24時間後に、滴下した面にテンサイ根腐病菌(Rhizoctonia solani AG2-2)のブドウ糖加用ジャガイモ寒天培地上の菌体を接種した。接種7日後に、各処理区のテンサイのディスクの腐敗程度を乾物率を指標に評価し、抑制効果を検定した。
その結果を表6に示す。表6に明らかなように、T-1、T-2及びS-1のいずれのタンパク質も対照区のディスクに比べて高い乾物率を示し、テンサイ根腐病菌による組織の腐敗を軽減する耐病性誘導活性の効果が確認された。
【0048】
【表6】
JP0003680131B2_000008t.gif
【0049】
[実施例8]タンパク質T-1、T-2及びS-1を用いた耐病性誘導剤の調整実施例3で単離・精製した前記タンパク質25μgを各々蒸留水25μlに溶解し、耐病性誘導剤とした。
【0050】
【発明の効果】
本発明のピシウム・オリガンドラム細胞壁由来のT-1、T-2及びS-1耐病性誘導活性を有するタンパク質は、植物体に対する優れた耐病性誘導活性を有しているので、植物体の病害菌による感染を抑制することができる。
【0051】
【配列表】
JP0003680131B2_000009t.gifJP0003680131B2_000010t.gifJP0003680131B2_000011t.gifJP0003680131B2_000012t.gifJP0003680131B2_000013t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】北海道内の土壌からスクリーニングしたピシウム・オリガンドラム19株と標準株3株の細胞壁タンパク質画分のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【図2】ピシウム・オリガンドラムMMR2株のT-1及びタンパク質T-2及びMMR3株のタンパク質S-1の逆相クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図3】ピシウム・オリガンドラムMMR2株のT-1及びタンパク質T-2及びMMR3株のタンパク質S-1について、SDS-PAGEの結果を示す図である。
【図4】T-タイプ細胞壁タンパク質画分及びS-タイプ細胞壁タンパク質画分のPAL活性の変動を示す図である。
【図5】T-タイプ細胞壁タンパク質画分及びS-タイプ細胞壁タンパク質画分の細胞壁へのフェノール物質沈着に対する効果を示す図である。
【図6】T-タイプ細胞壁タンパク質画分及びS-タイプ細胞壁タンパク質画分のテンサイ根腐病に対する抑制効果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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