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明細書 :酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を用いた複合病害抵抗性植物の作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3716302号 (P3716302)
公開番号 特開2003-199448 (P2003-199448A)
登録日 平成17年9月9日(2005.9.9)
発行日 平成17年11月16日(2005.11.16)
公開日 平成15年7月15日(2003.7.15)
発明の名称または考案の名称 酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を用いた複合病害抵抗性植物の作出方法
国際特許分類 A01H  5/00      
C12N  5/10      
C12N 15/09      
C07K 14/43      
FI A01H 5/00 A
C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 C
C07K 14/43
請求項の数または発明の数 52
全頁数 45
出願番号 特願2002-000962 (P2002-000962)
出願日 平成14年1月7日(2002.1.7)
審査請求日 平成14年1月7日(2002.1.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】青木 秀之
【氏名】矢頭 治
【氏名】中島 敏彦
【氏名】黒田 秧
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
審査官 【審査官】内藤 伸一
参考文献・文献 1.Plant Cell, (1989), 1, p.285-291
2.FEBS Lett., (1991), 29, [1], p.127-131
3.Plant Sci., (1992), 83, p.155-161
4.Biochimie, (1993), 75, p.687-706
5.Plant Cell Physiol., (1997), 38, [7], p.783-791
6.育種学雑誌, (1997), 47, [1], p.192
7.Planta, (1998), 205, p.514-521
8.Plant Cell Physiol., (1999), 40[2], p.184-191
9.第23回日本分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集, (2000), p.507 (2PB-216)
10.Plant Mol. Biol., (2002), 50, p.371-377
調査した分野 A01H 5/00
C12N 5/00
C12N 15/00
C07K 14/43
PubMed
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための方法であって、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2のアミノ酸残基1~244位に記載されるアミノ酸配列を有するナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(b)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、および/もしくは置換を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、ここで該タンパク質は酸性でありかつ抗真菌活性を有する、ポリヌクレオチド、
を含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記発現ベクターが導入された植物細胞を、前記酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病原性細菌が、白葉枯病細菌(Xanthomonas campestris)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物が、単子葉植物または双子葉植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記植物が単子葉植物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単子葉植物がイネ科植物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イネ科植物がイネである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための方法であって、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(c)配列番号1のヌクレオチド残基35~766位に記載されるヌクレオチド配列を含む、ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(d)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチドに対してストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
を含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含する、方法。
【請求項9】
前記発現ベクターが導入された植物細胞を、前記酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記病原性細菌が、白葉枯病細菌(Xanthomonas campestris)である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記植物が、単子葉植物または双子葉植物である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記植物が単子葉植物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記単子葉植物がイネ科植物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記イネ科植物がイネである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための方法であって、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2のアミノ酸残基1~244位に記載されるアミノ酸配列を有するナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(b)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、および/もしくは置換を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、ここで該タンパク質は酸性でありかつ抗真菌活性を有する、ポリヌクレオチド、
を含有しかつ発現し得る発現ベクターを植物細胞に導入する工程を包含
該少なくとも2つの病原体は、少なくとも1つの病原性真菌および少なくとも1つの病原性細菌または少なくとも2つの病原性細菌を含む、方法。
【請求項16】
前記発現ベクターが導入された植物細胞を、前記酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記病原体が、病原性真菌および病原性細菌を含む、請求項15または16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも2つの病原体が、病原性真菌と病原性細菌との組み合わせである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも2つの病原体が、いもち病菌(Pyricularia oryzae)と白葉枯病菌(Xanthomonas campestris)との組み合わせである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記植物が、単子葉植物または双子葉植物である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記植物が単子葉植物である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記単子葉植物がイネ科植物である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記イネ科植物がイネである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための方法であって、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(c)配列番号1のヌクレオチド残基35~766位に記載されるヌクレオチド配列を含む、ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(d)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチドに対してストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
を含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含
該少なくとも2つの病原体は、少なくとも1つの病原性真菌および少なくとも1つの病原性細菌または少なくとも2つの病原性細菌を含む、方法。
【請求項25】
前記発現ベクターが導入された植物細胞を、前記酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記病原体が、病原性真菌および病原性細菌を含む、請求項24または25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも2つの病原体が、病原性真菌と病原性細菌との組み合わせである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも2つの病原体が、いもち病菌(Pyricularia oryzae)と白葉枯病菌(Xanthomonas campestris)との組み合わせである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記植物が、単子葉植物または双子葉植物である、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記植物が単子葉植物である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記単子葉植物がイネ科植物である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記イネ科植物がイネである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項1に記載の方法によって作出された、植物組織。
【請求項34】
カルスおよび芽条原基からなる群から選択される、請求項33に記載の植物組織。
【請求項35】
請求項2に記載の方法によって作出された植物体であって、前記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する、植物体。
【請求項36】
請求項35に記載の植物体から得られる、植物組織。
【請求項37】
前記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される、請求項36に記載の植物組織。
【請求項38】
請求項8に記載の方法によって作出された、植物組織。
【請求項39】
カルスおよび芽条原基からなる群から選択される、請求項38に記載の植物組織。
【請求項40】
請求項9に記載の方法によって作出された植物体であって、前記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する、植物体。
【請求項41】
請求項40に記載の植物体から得られる、植物組織。
【請求項42】
前記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される、請求項41に記載の植物組織。
【請求項43】
請求項15に記載の方法によって作出された、植物組織。
【請求項44】
カルスおよび芽条原基からなる群から選択される、請求項43に記載の植物組織。
【請求項45】
請求項16に記載の方法によって作出された植物体であって、前記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する、植物体。
【請求項46】
請求項45に記載の植物体から得られる、植物組織。
【請求項47】
前記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される、請求項46に記載の植物組織。
【請求項48】
請求項24に記載の方法によって作出された、植物組織。
【請求項49】
カルスおよび芽条原基からなる群から選択される、請求項48に記載の植物組織。
【請求項50】
請求項25に記載の方法によって作出された植物体であって、前記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する、植物体。
【請求項51】
請求項50に記載の植物体から得られる、植物組織。
【請求項52】
前記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される、請求項51に記載の植物組織。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新しい育種素材・新品種の開発に利用できる有用遺伝子の新規の機能を明らかにし、この機能を利用して病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性の植物を作出する方法、ならびにこの遺伝子を含み、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を有する植物に関する。さらに詳細には、本発明は、酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を用いて病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性の植物を作出する方法、ならびに酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を含み、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を有する植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
イネは日本を含むアジアの主作物であり、そのためアジア諸国では古くからイネの収量増加のための研究が行われてきた。イネの収量を減少させる主要な原因の一つに病害がある。植物の病原体としては、糸状菌を含む真菌類、細菌、ウイルス、ウイロイド、ファイトプラズマ、線虫、昆虫などが知られており、これらの病原体は単独でも病因となり得るが、実際には、複数の病原体が関与することが多い。
【0003】
イネに深刻な被害をもたらす病害の例としては、例えば、いもち病(Pyricularia oryzae)や白葉枯病(Xanthomonas campestris)などが挙げられる。いもち病は日本で最も恐れられている病害であり、主に日本の中部から北部にかけて長雨、冷害に伴って発生する。いもち病は糸状菌病の一種である。いもち病に冒されたイネは黒色の斑点型病斑を生じ、イネの成長を停止し、症状が進むと枯死する。白葉枯病は細菌病の一種であり、九州から東南アジアにかけて深刻な被害をもたらす病害である。白葉枯病に冒されたイネは、白褐色の病斑が葉縁に沿って拡大し、葉全体が枯死する(Ohata,1989,Zenkoku Noson Kyoiku Kyokai Co.Ltd.563頁)。
【0004】
植物は病原体の侵入シグナルを認識すると、植物を防御するために感染特異的タンパク質(PRタンパク質)を誘導発現し防御応答を行う(Bowles, 1990, Annu. Rev. Biochem. 59, 873)。PRタンパク質はその機能、性質から現在14種類に分類されており、それらの多くは抗菌活性を有するタンパク質である。この様に病原体の感染によって誘導されるPRタンパク質は、病原体に直接作用することによって植物の防御機構に関わっていると考えられている(Van Loon,1994,Plant Mol.Biol.Report.12,245;Van Loon,1999,Physiol.Mol.Plant Path.55,85)。これまでにPRタンパク質の性質を利用して、PR2(グルカナーゼ)やPR3(キチナーゼ)を遺伝子組換えする事によって、植物に病害抵抗性をもたらした報告が成されている(Nishizawa,1999,Kagaku to Sheibutsu 37,295)。
【0005】
タウマチン様タンパク質はPR5に属するタンパク質であり、その等電点から塩基性型、酸性型、および中性型に大別される。塩基性型と酸性型のタウマチン様タンパク質は、発現する細胞学的位置、誘導因子、および抗菌性を示す病原性真菌に対して特異性があることが知られている(Ibeasら、Plant J.(2000)23(3):375-383;Grenierら、Plant J.(1999)19(4):473-480;Nikiら、Plant Cell Physiol.(1998)39(5):500-507;Singhら、Plant Physiol.(1987)85:529-536を参照のこと)。詳細には、塩基性型タウマチン様タンパク質は、液胞に局在して発現し、主に創傷(wounding)によって発現が誘導されることが公知である。また、塩基性型タウマチン様タンパク質は、人為的なジャスモン酸処理によっても発現が誘導されることが公知である。一方で、酸性型タウマチン様タンパク質は、細胞外に分泌されることが公知であり、主に感染(infection)によって誘導される。また、酸性型タウマチン様タンパク質は、人為的なサリチル酸処理によっても発現が誘導されることが公知である。さらに、塩基性型タウマチン様タンパク質と酸性型タウマチン様タンパク質が示す真菌抵抗性には特異性があることも公知である。詳細には、インビトロにおいて、塩基性型タウマチン様タンパク質によって生育が抑制された病原性真菌が、酸性型タウマチン様タンパク質によっては生育に影響を受けず、同様に、酸性型タウマチン様タンパク質によって抑制された病原性真菌が、塩基性型タウマチン様タンパク質によっては抑制されなかったという報告が成されている(Vigers,1992,Plant Sci.83,155)。
【0006】
塩基性型タウマチン様タンパク質はその抗菌性に関して早くから研究がなされており、病原菌の細胞壁に存在する糖鎖を認識して抗菌性をもたらすことが分かっている(Ibeas,2000,Plant J.23,375)。また塩基性型タウマチン様タンパク質の遺伝子導入によって病害抵抗性が付与された結果も複数報告されている(Liu,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,1888;Malehorn,1994,Plant Physiol.106,1471;Liu,1996,Plant Sci.121,123)。
【0007】
一方、酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子に関する研究は、これまでほとんど進展していない。これまでに、酸性型タウマチン様タンパク質は、真菌類(例えば、糸状菌(Trichoderma reesei、Alternariasolani、Verticillum albo-atrum、Verticillum dahliae、Fusarium oxysporum、Cercospora beticola)、および酵母(Candida albicans、Saccharomyces cerevisiae))に対して抗菌性を示すことがインビトロで確認されているのみであった(Hu,X.およびReddy,A.S.N.、Plant Molecular Biology 34:949-959(1997);Vigers,A.J.ら、Plant Science 83:155-161(1992);およびGrenier,J.ら、Plant Physiol.103:1277-1283(1993)を参照のこと))。そして、過去に酸性型タウマチン様タンパク質の植物への遺伝子導入実験が行われたが、組換え体は病害抵抗性をもたらさなかった(表1を参照のこと)。
【0008】
【表1】
JP0003716302B2_000002t.gifそのため、酸性型タウマチン様タンパク質は、少なくとも単独では病害抵抗性に関与しないのではないかという議論も成されていた(Linthorst,1989,Plant Cell 1,285)。これまでに、本発明者らによって、酸性型タウマチン様タンパク質の1つであるナシのPsTL1をイネで発現させて、糸状菌病であるいもち病に対する抵抗性を付与しようとする試みがなされている(青木ら、第23回 日本分子生物学会年会講演要旨集、507頁(2000年11月25日発行))。しかしこれまで、酸性型タウマチン様タンパク質を植物に導入して病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性の付与に成功した研究は発表されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するためのものであり、その目的とするところは、イネ新育種素材・新品種の開発のために、酸性型タウマチン様タンパク質を用いて病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性病害耐性の植物を作出する方法を提供することである。本発明の他の目的は、酸性型タウマチン様タンパク質を含み、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を有する植物、およびこの植物から得られる植物組織を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意努力した結果、酸性型タウマチン様タンパク質を植物に導入し、この酸性型タウマチン様タンパク質を恒常的に発現する植物体を作出することに成功した。また、この植物は、病原性真菌病のみならず病原性細菌病に対しても病害抵抗性を有したことから、本発明に従って酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子を導入することによって植物に複合病害抵抗性を付与し得ることが明らかとなった。
【0011】
病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための本発明の方法は、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2のアミノ酸残基1~244位に記載されるアミノ酸配列を有するナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(b)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、および/もしくは置換を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、ここで該タンパク質は酸性でありかつ抗真菌活性を有するポリヌクレオチドを含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含する。
【0012】
別の実施形態では、病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための本発明の方法は、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(c)配列番号1のヌクレオチド残基35~766位に記載されるヌクレオチド配列を含む、ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(d)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチドに対してストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための上記方法は、発現ベクターが導入された植物細胞を、酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、上記病原性細菌が、白葉枯病細菌(Xanthomonas campestris)である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物が、単子葉植物または双子葉植物である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物が単子葉植物である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、上記単子葉植物がイネ科植物である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、上記イネ科植物がイネである。
【0019】
さらに本発明は、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための方法であって、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号2のアミノ酸残基1~244位に記載されるアミノ酸配列を有するナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(b)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、および/もしくは置換を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、ここで該タンパク質は酸性でありかつ抗真菌活性を有するポリヌクレオチドを含有しかつ発現し得る発現ベクターを植物細胞に導入する工程を包含する方法に関する。
【0020】
別の実施形態では、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための本発明の方法は、以下の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド:
(c)配列番号1のヌクレオチド残基35~766位に記載されるヌクレオチド配列を含む、ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチド;または
(d)該ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)をコードするポリヌクレオチドに対してストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含有しかつ発現し得る発現ベクターを、植物細胞に導入する工程を包含する。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための上記方法は、上記発現ベクターが導入された植物細胞を、上記酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物体に再生する工程をさらに包含する。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、上記病原体が、病原性真菌、病原性細菌、および病原性ウイルスからなる群より選択される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、上記少なくとも2つの病原体が、病原性真菌と病原性細菌との組み合わせである。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、上記少なくとも2つの病原体が、いもち病菌(Pyricularia oryzae)と白葉枯病菌(Xanthomonas campestris)との組み合わせである。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物が、単子葉植物または双子葉植物である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物が単子葉植物である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、上記単子葉植物がイネ科植物である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、上記イネ科植物がイネである。
【0029】
さらに本発明は、病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された、植物組織に関する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物組織は、カルスおよび芽条原基からなる群から選択される。
【0031】
さらに本発明は、病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された植物体であって、上記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして病原性細菌に対して抵抗性を有する、植物体に関する。
【0032】
さらに本発明は、病原性細菌に対して抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された上記植物体から得られる、植物組織に関する。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される。
【0034】
さらに本発明は、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された、植物組織に関する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物組織は、カルスおよび芽条原基からなる群から選択される。
【0036】
さらに本発明は、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された植物体であって、上記酸性型タウマチン様タンパク質を発現し、そして少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する、植物体に関する。
【0037】
さらに本発明は、少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性を有する植物を作出するための上記方法によって作出された上記植物体から得られる、植物組織に関する。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、上記植物組織が、葉、茎、根、花粉、種子胚、および種子からなる群より選択される。
【0039】
【発明の実施の形態】
発明の理解を容易にするために、本明細書において使用する用語を説明する。
【0040】
本発明において用いられる「酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド」は、当該ポリヌクレオチドが導入された植物に、以下に説明するような病害抵抗性を与え得る。ここで、用語「植物」とは、他に特に示さない限り、完全な植物体のみではなく、その植物体を構成する植物細胞、組織、および器官をも含み得る。本明細書中に出てくる植物の構成要素を示す用語(例えば、根、茎、葉、塊茎、花粉、種子胚、種子、プロトプラスト、カルス、および芽条原基など)は、当業者が通常理解し得る通りの構成物を表す。
【0041】
本明細書において使用する用語「酸性型タウマチン様タンパク質」は、PR5に属するタンパク質であって、等電点が酸性(pI<7.0)のタンパク質を意味する。酸性型タウマチン様タンパク質の具体例としては、ナシのPsTL1、タバコのPR-RおよびPR-S、シロイヌナズナのATLP-1およびATLP-3、オオムギのIFW15(Grenier,J.ら、Plant Physiol.103:1277-1283(1993)を参照のこと)などが挙げられるが、これらに限定されない。精製された酸性型タウマチン様タンパク質は、インビトロにおいてCercospora beticola、Trichoderma reesei、Fusarium oxysporum、Alternaria solani、Verticillum albo-atrum、Verticillum dahliae、Candida albicansなどのような真菌類に対して抵抗性を示し得る(例えば、Vigersら、1992、Plant Sci.83、155;およびHuら、1997、Plant Mol.Biol.34、949を参照のこと)。
【0042】
アミノ酸配列に基づいた酸性型タウマチン様タンパク質間の配列比較を、図2に示す(配列整列プログラムclustalw(http://www.clustalw.genome.ad.jp/)を使用)。GENETYX(ソフトウェア株式会社、東京)配列解析ソフトを使用して計算した場合、PsTL-1と他の酸性型タウマチン様タンパク質との間の配列相同性は、アミノ酸配列に基づいて40.89~51.39%であり、そして塩基配列に基づいて54.21~59.03%であった。しかし図2において示されるように、酸性型タウマチン様タンパク質は配列保存性の高い領域を数カ所共有しており(例えば、PsTL-1配列に基づいて、29残基目のNから36残基目のWまで、72残基目のRから94残基目のCまで、124残基目のDから135残基目のNまで、158残基目のIから163残基目のPまで、191残基目のCから244残基目のPまで)、このことは、これらの酸性型タウマチン様タンパク質が、この保存領域において共通の機能的活性(例えば、植物の病原体感染防御機構に関わる活性)を担う可能性が高いことを示唆する。
【0043】
本発明で使用され得る、酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドはさらに、既知の酸性型タウマチン様タンパク質(例えば、図1に示したアミノ酸配列を有するナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1))のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列に対して実質的な同一性を有する改変体をコードするポリヌクレオチドを含む。本明細書中で使用される場合、既知の酸性型タウマチン様タンパク質のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列に対して実質的な同一性を有する改変体とは、このタンパク質のN末端および/またはC末端に対する1つ以上のアミノ酸の欠失(すなわち、短縮化)または付加;このタンパク質中の1つ以上の部位のアミノ酸の欠失または付加;あるいはこのタンパク質の1つ以上の部位のアミノ酸の置換によりネイティブタンパク質から誘導されたタンパク質を意図する。
【0044】
酸性型タウマチン様タンパク質の改変体において、目的のタンパク質の生物学的活性に影響しない適当なアミノ酸置換に関する指針は、Dayhoffら(1987)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.Washington、D.C.、これは、参考として本明細書中に援用される)のモデルに見出され得る。保存的置換(例えば、1つのアミノ酸を同様の特性を有する別のものと交換する置換)が好ましいとされ得る。このような置換としては、疎水性アミノ酸(Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、Tyr、Val);親水性アミノ酸(Arg、Asp、Asn、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Lys、Ser、Thr);脂肪族側鎖を有するアミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Pro);水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(Ser、Thr、Tyr);硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(Cys、Met);カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(Asp、Asn、Glu、Gln);塩基含有側鎖を有するアミノ酸(Arg、Lys、His);芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(His、Phe、Tyr、Trp)同士の置換が挙げられる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「1つ以上のアミノ酸の挿入、欠失、および/もしくは置換」とは、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与し得る限りにおいて、任意の数(例えば、1または数個)のアミノ酸が上記アミノ酸配列において欠失、付加、および/もしくは置換していることを意味する。アミノ酸の置換、欠失および/もしくは付加のような改変が活性に与える影響は、改変されるアミノ酸の位置、程度、種類などに依存し得ることは当業者には明らかである。本発明で使用され得るポリヌクレオチドは、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与し得る限りにおいて、好ましくは以下のアミノ酸配列同一性を満たす個数で欠失、置換および/もしくは付加された改変体をコードする。
【0046】
さらに、本発明で使用される「酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド」とは、縮重異性体をすべて含むものである。ここで、「縮重異性体」とは、縮重コドンにおいてのみ異なっていて、同一のポリペプチドをコードすることのできる遺伝子を意味する。例えば、図1の塩基配列を有するDNAに対して、そのアミノ酸のどれかに対応するコドン、例えばAsnに対応するコドン(AAC)が、これと縮重関係にあるコドン例えばAATに変わったものを縮重異性体と呼ぶこととする。また、pBluescriptSK+(Stratagene)などのプラスミドに組み込まれたタウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを用いても良い。
【0047】
本発明で使用され得る酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与し得る限り、配列表の配列番号2の1位のMetから244位のProまでのアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを包含する。
【0048】
さらに、上記に示したように、酸性型タウマチン様タンパク質のアミノ酸配列において、機能的活性(例えば、植物の病原体感染防御機構に関わる活性(例えば、本明細書中に開示された、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性))を担う可能性が高い保存領域は明らかである(図2を参照のこと)。従って、このような保存領域を考慮することによって、配列表の配列番号2の1位のMetから244位のProまでのアミノ酸配列に対して、全体としてはより低い配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを用いても、本願発明と等価な効果が得られることは、当業者に容易に明らかである。従って、例えば、配列表の配列番号2の29残基目のAsnから36残基目のTrpまで、72残基目のArgから94残基目のCysまで、124残基目のAspから135残基目のAsnまで、158残基目のIleから163残基目のProまで、191残基目のCysから244残基目のProまでのうちの1つ以上(例えば、1、2、3、4、または5つ)の部分配列に対する高い配列同一性(例えば、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性)を含む限りにおいて、アミノ酸配列全体としては、少なくとも40%、好ましくは45%、より好ましくは50%、さらに好ましくは55%、なおさらに好ましくは60%、さらにより好ましくは65%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドもまた、本願発明において使用され得る。
【0049】
本発明で使用され得る酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与し得る限り、配列表の配列番号2の1位のMetから244位のProまでのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(好ましくは、配列番号1の35位のAから766位のTまでに示されるヌクレオチド配列)と、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%の配列同一性、なおより好ましくは少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを包含する。
【0050】
さらに、上記に示したように、酸性型タウマチン様タンパク質のアミノ酸配列において、機能的活性(例えば、植物の病原体感染防御機構に関わる活性(例えば、本明細書中に開示された、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性))を担う可能性が高い保存領域は明らかである(図2を参照のこと)。従って、このような保存領域を考慮することによって、配列表の配列番号2の1位のMetから244位のProまでのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(好ましくは、配列番号1の35位のAから766位のTまでに示されるヌクレオチド配列)に対して、全体としてはより低い配列同一性を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを用いても、本願発明と等価な効果が得られることは、当業者に容易に明らかである。従って、例えば、配列表の配列番号1の119位のAから142位のGまで、248位のCから316位のCまで、404位のGから439位のCまで、506位のAから523位のTまで、605位のTから766位のTまでのうちの1つ以上(例えば、1、2、3、4、または5つ)の部分配列に対する高い配列同一性(例えば、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性)を含む限りにおいて、アミノ酸配列全体としては、少なくとも40%、好ましくは45%、より好ましくは50%、さらに好ましくは55%、なおさらに好ましくは60%、さらにより好ましくは65%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドもまた、本願発明において使用され得る。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「参照配列」とは、配列比較の基準として使用される規定の配列である。参照配列は、記載された配列のサブセットまたは全体であり得る;例えば、全長cDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全DNAもしくは遺伝子配列としてである。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「比較ウィンドウ」は、ポリヌクレオチド配列の連続しかつ特定化されたセグメントについて言及し、ここで比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(これは、付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。一般的に、比較ウィンドウは、少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり、そして必要に応じて、30、40、50、100以上の長さであり得る。当業者は、ポリヌクレオチド配列中にギャップを含むことにより、参照配列に対して高い類似性となることを避けるために、典型的には、ギャップペナルティーを導入し、そしてこれを、一致の数から差し引くことを理解する。
【0053】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当該分野において周知である。参照配列(本発明の配列)と対象配列との間の最適な全体の整合を決定するための好ましい方法として、例えば、BLAST(Altshulら、1997、Nucleic Acids Res.、25、3389-3402)を利用した相同性解析が用いられる。配列整列において、参照配列および対象配列は、両方ともDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換することによって比較され得る。上記の全体的配列整列の結果が、同一性%である。同一性%を算定するためにDNA配列のBLAST整列において、一般的には、デフォルトパラメーターが使用され得る。
【0054】
本明細書中で使用される場合、2つの核酸配列または2つのポリペプチド配列の文脈において「配列同一性」または「同一性」は、特定化された比較ウインドウにわたって最大に一致するように整列された場合に同一である2つの配列中の残基に対して言及される。タンパク質に関して配列同一性%が使用される場合、しばしば、保存的アミノ酸置換によって同一ではない残基位置は異なることが理解される。上述したように、保存的アミノ酸置換では、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する他のアミノ酸残基で置換されるため、分子の機能的特性を変化させない。配列が保存的置換において異なる場合、配列同一性パーセントは、置換の保存的性質について矯正するように上方に調整され得る。このような保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有するといわれる。この調整をするための手段は、当業者には周知である。代表的には、これは、完全なミスマッチではなく、部分的なものとして保存性置換を点数付けすることを含み、それによって配列同一性パーセントを増加させる。従って、例えば、同一のアミノ酸が1のスコアを与えられ、そして非保存的置換が0のスコアを与えられる場合、保存的置換は、0と1との間のスコアを与えられる。保存的置換の点数付けは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics,Mountain View,California)において実行されるように計算される。
【0055】
本明細書中で使用される場合、「配列同一性%」は、比較ウィンドウにわたって最適に整列された2つの配列を比較することによって決定された値を意味し、ここで比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の一部は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(これは、付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。この割合(%)は、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在して一致した位置の数を生じる、位置の数を決定すること、一致した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で除算すること、およびその結果に100をかけて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0056】
用語、ポリヌクレオチドの「実質的な同一性」は、ポリヌクレオチドが、標準的なパラメーター(例えば、デフォルトパラメーター)を使用して、記載されるかさもなくば公知のアラインメントプログラムの1つを用いて参照配列と比較して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。当業者は、コドンの縮重、アミノ酸の類似性、リーディングフレームの位置などを考慮に入れることによって、2つのヌクレオチド配列によってコードされる対応するタンパク質の同一性を決定するために、これらの値が適切に調整され得ることを理解する。これらのために、対応するアミノ酸配列の実質的な同一性は、通常、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、80%、90%、および最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を意味する。
【0057】
ペプチドの文脈における用語「実質的同一性」は、ペプチドが、特定化された比較ウィンドウにわたって、参照配列に対して、少なくとも70%の配列同一性、好ましくは80%、より好ましくは85%、最も好ましくは少なくとも90%または95%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。好ましくは、最適なアラインメントは、Needlemanら(1970)J.Mol.Biol.48:443の相同性アラインメントアルゴリズムを使用して行われる。例えば、2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合に、ペプチドは、第2のペプチドと実質的に同一である。「実質的に類似の」ペプチドは、同一ではない残基の位置が保存的アミノ酸変化によって異なり得るということ以外は、上記に示したような配列同一性を共有する。
【0058】
本明細書中で使用される場合、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を与える酸性型タウマチン様タンパク質の生物学的に活性な部分をコードするフラグメントは、少なくとも15、25、30、50、100、125、150、175、200、225の連続するアミノ酸、または本発明で使用される酸性型タウマチン様タンパク質の全長タンパク質に存在するアミノ酸の総数まで(例えば、配列番号2の244アミノ酸)をコードする。ハイブリダイゼーションプローブ(例えば、PCRプライマーについて)として用いるための、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質のフラグメントは、一般に、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質をコードする遺伝子により発現されるタンパク質の生物学的に活性な部分をコードする必要はない。
【0059】
ナシ(Pyrus pyrifolia)以外の他の植物に由来する、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を与える酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドホモログもまた、本願発明において使用され得る。そのようなポリヌクレオチドホモログは、例えば、公知の酸性型タウマチン様タンパク質(例えば、図1に記載されたナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1))の全長または一部のヌクレオチド配列に基づいて設計したプライマーを用いて、選択した植物のゲノミックDNAを鋳型としてPCRを行い、その後、得られた増幅DNA断片をプローブとして用いて同じ植物のゲノミックDNAまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより単離され得る。このようにして、PCR、ハイブリダイゼーションなどのような方法が、公知の酸性型タウマチン様タンパク質(例えば、図1に記載されたナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)の配列に対するそれらの配列同一性に基づいてこのような配列を同定するために使用され得る。とりわけ、図1に記載の配列全体に対する、またはそれらのフラグメントに対する、それらの配列同一性に基づいて単離された配列は、本発明によって特に好ましく使用される。
【0060】
ハイブリダイゼーション技術において、公知の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするヌクレオチド配列の全てまたは部分が、選択された生物由来のクローン化されたゲノムDNAフラグメントまたはcDNAフラグメントの集団(すなわち、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリー)中に存在する他の対応するヌクレオチド配列に選択的にハイブリダイズするプローブとして使用される。このハイブリダイゼーションプローブは、ゲノムDNAフラグメント、cDNAフラグメント、RNAフラグメント、または他のオリゴヌクレオチドであり得、そして検出可能な基(例えば、32P)または任意の他の検出可能なマーカーで標識化され得る。従って、例えば、ハイブリダイゼーションのためのプローブは、本発明の病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質のヌクレオチド配列に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドを標識することによって作製され得る。ハイブリダイゼーションのためのプローブの調製およびcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーの構築の方法は、一般に、当該分野で公知であり、そしてSambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Plainview、New York、(これは、本明細書中に参考として援用される))において開示される。
【0061】
例えば、本明細書中に示された病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質をコードするヌクレオチド配列全体、またはそれらの1つ以上の部分が、対応する病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質の遺伝子配列およびメッセンジャーRNAに特異的にハイブリダイズし得るプローブとして使用され得る。種々の条件下で特異的なハイブリダイゼーションを達成するために、このようなプローブは、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質をコードする遺伝子配列間で独特であり、そして好ましくは少なくとも約10ヌクレオチド長、最も好ましくは少なくとも約20ヌクレオチド長である配列を包含する。このようなプローブは、選択された生物から対応する病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を付与する酸性型タウマチン様タンパク質をコードする遺伝子配列をPCRによって増幅するために使用され得る。PCR増幅の方法は、当該分野で周知である(PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification、HA Erlich編、Freeman Press、NewYork、NY(1992);PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、Innis、Gelfland、Snisky、およびWhite編、Academic Press、San Diego、CA(1990);Mattilaら(1991) Nucleic Acids Res. 19: 4967;Eckert、K.A.およびKunkel、T.A.(1991)PCR Methods and Applications 1: 17;PCR、McPherson、Quirkes、およびTaylor、IRL Press、Oxford、これらは、本明細書中で参考として援用する)。この技術は、所望の生物からさらなるコード配列を単離するために使用され得る。ハイブリダイゼーション技術は、プレート化したDNAライブラリーのハイブリダイゼーションスクリーニングを包含する(プラークまたはコロニーのいずれか;例えば、Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A LaboratoryManual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press 、Plainview、New York)を参照のこと)。
【0062】
このような配列のハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で実施され得る。「ストリンジェントな条件」または「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、プローブが、他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えば、バックグラウンドよりも少なくとも2倍)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件を意図する。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、そして異なる環境下で異なる。ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、プローブに対して100%相補的である標的配列が同定され得る。あるいは、ストリンジェンシー条件は、より低い程度の類似性が検出され得るように、配列中にいくらかミスマッチとなることが可能になるように調整され得る。一般に、プローブは、約1000ヌクレオチド長未満であり、好ましくは500ヌクレオチド長未満である。
【0063】
代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が約1.5M Naイオン未満であり、代表的には約0.01~1.0M Naイオン濃度(または他の塩)(pH7.0から8.3)であり、そして温度が、短いプローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃であり、そして長いプローブ(例えば、50ヌクレオチドより大きい)については少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、脱安定剤(例えば、ホルムアミド)の添加によって達成され得る。例示的な高ストリンジェントな条件としては、50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中の37℃におけるハイブリダイゼーション、そして60~65℃における0.1×SSC中の洗浄が挙げられる。例示的な中程度のストリンジェントな条件としては、40~45%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中の37℃におけるハイブリダイゼーション、そして55~60℃における0.5×~1×SSC中の洗浄が挙げられる。例示的な低ストリンジェントな条件としては、30~35%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の緩衝溶液を用いた37℃におけるハイブリダイゼーション、そして50~55℃における1×~2×SSC(20×SSC=3.0M NaCl/0.3M クエン酸三ナトリウム)中の洗浄が挙げられる。
【0064】
特異性は、代表的には、ハイブリダイゼーション後の洗浄の関数であり、決定的な要因は、最終洗浄溶液のイオン強度および温度である。DNA-DNAハイブリッドについては、Tmは、MeinkothおよびWahl(1984)Anal.Biochem.138:267-284の式:Tm=81.5℃+16.6(logM)+0.41(%GC)-0.61(%form)-500/Lから概算され得;ここでMは、1価カチオンのモル濃度であり、%GCは、DNA中のグアノシンヌクレオチドおよびシトシンヌクレオチドのパーセンテージであり、%formは、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドのパーセンテージであり、そしてLは、塩基対中のハイブリッドの長さである。Tmは、相補的な標的配列の50%が完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度およびpHで)である。Tmは、1%のミスマッチにつき約1℃低下する;従って、Tm、ハイブリダイゼーション、および/または洗浄条件は、所望の同一性の配列にハイブリダイズするために調整され得る。例えば、90%以上の同一性を有する配列が求められる場合、Tmは、10低下し得る。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列およびその相補物に対する熱融点(Tm)よりも約5℃低く選択される。しかし、厳しいストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)よりも1、2、3、または4℃低いハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得;中程度のストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)よりも6、7、8、9、または10℃低いハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得;低いストリンジェントな条件は、熱融点(Tm)よりも11、12、13、14、15、または20℃低いハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得る。この式、ハイブリダイゼーションおよび洗浄組成物、ならびに所望されるTmを使用して、当業者は、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーおよび/または洗浄溶液におけるバリエーションが固有に記載されることを理解する。所望されるミスマッチの程度が45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)よりも低いTmを生じる場合、より高い温度が使用され得るようにSSC濃度を増加させることが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションについての広範なガイドは、Tijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic AcidProbes、第1部、第2章(Elsevier,New York);およびAusubelら編(1995)Current Protocols in Molecular Biology、第2章(Greene Publishing and Wiley-Interscience,New York)に見出される。Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,New York)を参照のこと(これらは本明細書中に参考として援用される)。
【0065】
本発明で使用され得るポリヌクレオチドは、代表的には、既知の酸性型タウマチン様タンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2に記載されるナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)のアミノ酸配列)の情報またはそれをコードするヌクレオチド配列情報に従って得られるが、それらの既知の配列情報を基に、化学合成によっても得られ得る。例えば、本発明で使用され得るポリヌクレオチドは、Applied BioSystems(現Perkin Elmer社)のポリヌクレオチド合成機を用いて製造業者によって提供される仕様書に従って合成され得る。
【0066】
さらに他の実施形態では、本発明で使用される酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得する1つの方法としては、核酸合成の手法に従ってそのポリヌクレオチドの少なくとも一部を化学合成し、これをプローブとして使用して、適当なcDNAライブラリー、ゲノムライブラリー、BACクローンライブラリー、PACクローンライブラリー、YACクローンライブラリーなどから、慣用されている方法(例えば、免疫学的方法あるいはハイブリダイゼーション法など)により取得する方法を挙げることができる。上記の方法に用いるいくつかのプラスミド類、様々な制限酵素やT4DNAリガーゼ、その他の酵素類としては市販のものを使用し得る。また、DNAのクローニング、各プラスミドの構築、宿主の形質転換、形質転換体の培養および培養物からのDNA,RNA等の回収は文献記載の方法(Molecular Cloning、第2版(Sambrook,1989 Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York)およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel,1987,John Wiley&Sons))に準じて行い得る。
【0067】
さらに別の実施形態では、以下の様にして、酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得することができる。まず、既知のタウマチン様タンパク質(例えば、図1に記載されるナシの酸性型タウマチン様タンパク質)中の2種類のアミノ酸部分配列を選択し、これらのアミノ酸配列のC末端をコードすると考えられるあらゆる塩基の組み合わせのプライマーと上記アミノ酸配列のN末端側をコードすると考えられるあらゆる塩基の組み合わせのプライマーとを作製し、これらをミックスプライマーとして用い、適当なライブラリーおよびRNAを鋳型としてPCR反応(Saiki,1988,Science 239,487)(例えば、RT-PCR反応(Berchtold,1989,Nucl.Acid Res.17,453))を行う。その後、PCR反応生成物の中から、増幅が予想される特定の長さの増幅断片を取り出し、これらの塩基配列を決定する。得られた増幅断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、上記のライブラリーからタウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを獲得する。
【0068】
得られたポリヌクレオチドの塩基配列は、当該分野で公知のヌクレオチド配列解析法マキサムーギルバート法(Maxam-Gilbert,1980,Methods Enzymol.65,499)やジデオキシ法(Messing1982,Gene 19,269))、または市販されている自動シーケンサーにより決定し得る。決定された塩基配列から、取得されたポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の等電点を決定する方法は、当該分野において周知である。例えば、決定された塩基配列から推定されるアミノ酸配列情報を用いて、GENETYX(ソフトウェア株式会社、東京)などの配列解析ソフトを使用することにより、取得されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の等電点を容易に推測し得る。
【0069】
また、得られたポリヌクレオチドを適切な発現ベクターに挿入すること、そして適切な宿主においてポリペプチドを発現させることによって、コードされるタンパク質を容易に組換え的に発現させ得る。当業者に公知の任意の種々の発現ベクターを用いて、組換えタンパク質を発現させ得る。組換えタンパク質の発現は、取得されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換またはトランスフェクトされた任意の適切な宿主細胞において達成され得る。適切な宿主細胞としては、原核生物細胞、酵母細胞および高等真核生物細胞などが挙げられる。好ましくは、用いられる宿主細胞は、E.coli、酵母または哺乳動物の細胞株(例えば、COS細胞またはCHO細胞)である。この様式で発現されるポリペプチドは、天然に存在するポリペプチド、天然に存在するポリペプチドの一部分、またはそれらの他の改変体をコードし得る。組換えポリペプチドを分泌する適切な宿主/ベクター系由来の上清は、まず、市販のフィルターを用いて濃縮され得る。次いで、この濃縮物は、アフィニティーマトリクスまたはイオン交換樹脂のような適切な精製マトリクスに供され得る。最後に、1回以上の逆相HPLCの工程が用いられ、組換えポリペプチドは、さらに精製され得る。
【0070】
このようにして精製されたタンパク質の等電点は、pIマーカー(例えば、Amersham pharmacia biotech,Inc.より入手可能)と共に等電点電気泳動を行い、そして目的のタンパク質のバンドの位置が、どのマーカーと一致するかを調べることによって容易に決定され得る(例えば、Current protocol in molecular biology:CHAPTER 10、John Wiley&Sons,Inc.を参照のこと)。
【0071】
上記のように取得されたポリヌクレオチドが、抗真菌活性を有するタンパク質をコードするか否かを、当業者は容易に確認し得る。例えば、タンパク質の抗菌活性を測定する方法としては、阻止円法(佐藤昭二ら、植物病理学実験法、第219-223頁、講談社を参照のこと)が挙げられる。詳細には、取得されたポリヌクレオチドがコードするタンパク質を、上記のように組換え生成することにより獲得し、病原菌胞子などを混合した寒天培地上に、この組換え生成タンパク質を染み込ませた濾紙ディスクを載せて、所定時間培養する。組換え生成タンパク質が、使用された病原菌に対して抗菌性を有している場合、この濾紙の周りに生育阻止円が形成される。さらに、タンパク質濃度に応じて阻止円の大きさを測定することによって、抗菌性の強さを測定し得る。
【0072】
本発明に用いる酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドの代表的形態は、プラスミドまたはファージDNAなどの中に構成員の一部としてこのポリヌクレオチドが挿入された形態、並びに、ゲノムDNAの中にこのポリヌクレオチドが挿入された形で微生物またはファージ粒子あるいは植物の中に存在する形態である。本明細書中で使用される微生物の一例として、大腸菌やアグロバクテリウムを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明に用いる酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、3’-末端側に接して少なくとも1個の停止コドン(例えばTAG)を有することが望ましい。
【0074】
さらに本発明に用いる酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、所望により5’-側上流に翻訳フレームと合わせて翻訳開始のメチオニンをコードするATG配列、その5’-側上流および3’-下流に非翻訳領域として適当な長さの他のポリヌクレオチドが結合しても良い。
【0075】
本発明における使用に有用な発現ベクターとしては、例えば、プラスミドpBI121,pBI221,pBI101(Clontech)、pPZP202(Hajdukiewicz,1994,Plant Mol.Biol.25,989)などが挙げられる。酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドが植物中で安定に発現しうるように、このポリヌクレオチドに、種々のプロモーター、エンハンサー、翻訳開始コドンをコードするDNA(ATG)またはターミネーターを、適宜組み合わせて付加することが好ましい。
【0076】
上記のプロモーターとしては、本発明のタンパク質を恒常的あるいは誘導的に発現させるためのプロモーターが挙げられる。
【0077】
恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Langridge,1985,Plant CellRep.4,355)、カリフラワーモザイクウイルス19S-RNAを生じるプロモーター(Guilley,1982,Cell 30,763)、カリフラワーモザイクウイルス35S-RNAを生じるプロモーター(Odell,1985,nature 313,810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang,1991,Plant Cell 3,1155)、トウモロコシユビキチンプロモーター(Cornejo 1993,Plant mol.Biol.23,567)、CaMV35S改良型REXφプロモーター(Mitsuhara,1996,Plant Cell Physiol.37,49)などを用い得る。特に好ましい実施形態では、CaMV35S改良型REXφプロモーターを使用し得る。
【0078】
誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、病原体の感染や侵入、光、傷害、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現を誘導することが知られているプロモーターなどが挙げられる。この様なプロモーターの例としては、例えば、光照射によって発現を誘導するリブロース-1,5-2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニットをコードする遺伝子のプロモーター(Fluhr,1986,Pro.Natl.Acad.Sci.USA 83,2358)、糸状菌・細菌・ウイルスなどの病原体の感染や侵入によって発現を誘導するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu,1996,Plant Mol.Biol.30,387)およびタバコのPRタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター(Ohshima,1990,Plant Cell2,95)、低温によって発現を誘導するイネのlip19遺伝子のプロモーター(Aguan,1993,Mol.Gen.Genet.240,1)、高温によって発現を誘導するイネのhsp72,hsp80遺伝子のプロモーター(Van Breusegem,1994,Planta 193,57)、乾燥によって発現を誘導するシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター(Nundy,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1406)、紫外線の照射によって発現を誘導するトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert,1989,EMBO J.8,651)などが挙げられる。また、上記のイネキチナーゼ遺伝子のプロモーターおよびタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターは、サリチル酸またはジャスモン酸などの特定の化合物によって、rab16遺伝子のプロモーターは植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導されることが公知である。
【0079】
本発明で使用され得るターミネーターとしては、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Depicker,1982,J.Mol.Appl.Gen.1,561)、オクトピン合成酵素遺伝子のターミネーター(Gielen,1984,EMBO J.3,835)などを用い得る。
【0080】
植物細胞および植物体への遺伝子導入法としては、通常公知の方法、例えば「Plant genetic transformation and gene expression;a laboratory manual,Draper,Blackwell Scientific Publications,19」記載の方法を用いて行うことができる。その例としては、生物的方法(例えば、ウイルスを用いる方法またはアグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いる方法(Hood,1993,Transgenic Res.2,218、Toki S,Plant Mol.Biol.Reporter 15,16.)など)、物理・化学的方法(例えば、エレクトロポレーション法(Tada,1990,Theor.Appl.Genet.80,475)、ポリエチレングリコール法(Lazzeri,1991,Theor.Appl.Genet.81,437)、パーティクル・ガン法(sanford,1987,J.Part.Sci.Tech.5,27)など)などが挙げられる。
【0081】
ポリヌクレオチド導入に使用するための植物材料としては、導入法などに応じて、葉、茎、根、塊茎、プロトプラスト、カルス、花粉、種子胚、苗条原基などから適当なものを選択し得る。植物細胞としては特に制限はないが、植物体への再分化の系が確立されている、例えば、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの植物細胞が特に好ましい。適当な導入法および植物材料を選択することは、当業者によって容易になされ得る。
【0082】
植物培養細胞へポリヌクレオチドを導入する場合、材料として代表的にはプロトプラストを用いて、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法などの物理・化学的方法によってポリヌクレオチドの導入が行われる。植物組織へポリヌクレオチドを導入する場合、材料としては葉、茎、根、塊茎、カルス、花粉、種子胚、苗条原基など(好ましくは葉、茎、カルス)を用いて、ウイルスもしくはアグロバクテリウムを用いた生物学的方法またはパーティクルガン法などの物理・化学的方法、好ましくはアグロバクテリウムを用いた生物学的方法によって、ポリヌクレオチドの導入が行われる。
【0083】
上記方法により、酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が導入された植物組織または植物細胞から完全な植物を再分化させるには、このような形質転換植物組織または形質転換植物細胞を、再分化培地またはホルモンフリーのMS培地などにおいて培養すればよい。発根した幼植物体は、土壌に移植して栽培することにより植物体とすることができる。再分化の方法は、使用される植物組織または植物細胞の種類により異なり、適切な再分化方法の選択は、当業者によって容易になされ得る。様々な文献において、各種の植物(例えば、イネ(Fujimura,1995,Plant Tissue Culture Lett.2,74)、トウモロコシ(Shillito,1989,Bio/Technol.7,581、Gorden-Kamm,1990,Plant Cell 2,603)、ジャガイモ(Visser,1989,Theor.Appl.Genet.78,594)、タバコ(Nagata,1971,Planta 99,12)など)の再分化の方法が記載されている。
【0084】
本発明の方法によって作出された遺伝子組換え植物が、病原体に対する抵抗性を有しているか否かは、例えば、Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens,Japan Plant Protection Associationに記載されている試験方法により容易に確認し得る。例えば、イネいもち病の場合は、実施例4に記載のように、特定のイネ品種にその品種に罹病性のイネいもち病菌のレースを接種した場合の病斑形成や病斑面積率の程度を、原品種と組換え体とを比較することによって検定することが可能であるが、これに限定されることはない。例えば、イネいもち病の抵抗性検定については、今回の実験で使用した噴霧接種法の他に、イネの葉に接種用パンチで穴を開け、その上にいもち病菌胞子のペーストをのせて感染させるパンチ接種法、針の先にいもち病菌胞子ペーストを付けて葉を突き刺す針接種法が挙げられる。これらの接種法では、病斑は葉の傷口から広がるように発病するので、病斑の伸展長を測定することによって、抵抗性強度の検定を行い得る(例えば、K.Ohataら、Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens、第37-41頁、Japan Plant Protection Association(1995)を参照のこと)。また例えば、白葉枯病の場合は、実施例8に記載のような、枯病細菌懸濁液中に抵抗性を検定する植物の組織(例えば、成葉)を浸漬し、病斑の進行距離を測定する方法、または噴霧接種法、針接種法が挙げられる。いずれの方法においても、葉全体の病斑面積率を測定することによって、発病程度を評価する(例えば、K.Ohataら、Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens、第37-41頁、Japan Plant Protection Association(1995)を参照のこと)。
【0085】
上記のような方法で酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を導入し、発現させることにより、病原体に対する抵抗性を付与または増強することができる「植物」としては、病原体に感染するあらゆる植物を挙げることができる。特定の実施形態では、本発明の方法に従って形質転換される植物は、単子葉植物または双子葉植物である。より詳細には、本発明の方法に従って形質転換される植物の例としては、例えば、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ライムギ、パンコムギ、ジャガイモ、タバコ、ナス、トマトなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明の方法に従って得られる植物、またはその植物器官もしくは植物組織が抵抗性を示す「病原体」としては、植物に感染可能なあらゆる病原体、例えば、真菌類(糸状菌を含む)、細菌、ウイルスなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0087】
病原性真菌としては、イネいもち病菌、イネ紋枯病菌、イネ苗腐病菌、イネ苗立枯病菌、イネばか苗病菌、イネ黄化萎縮病菌、イネごま葉枯病菌、ムギ類さび病類菌、ムギ類うどんこ病菌、ジャガイモ疫病菌、タバコ疫病菌、タバコ灰色かび病菌、タバコ舞病菌、シバ類さび病類菌、立枯病類菌、雪腐病類菌、野菜類の疫病菌、べと病菌、うどんこ病菌、灰色かび病菌、炭そ病菌、苗立枯病菌、根こぶ病菌、カーネーション萎ちょう病菌、キク白さび病菌、ウリ類べと病菌、オオムギ黒穂病菌、ナシ赤星病菌、カンキツにせ黄斑病などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
病原性細菌としては、イネ白葉枯病細菌、イネ苗立枯細菌病細菌、イネもみ枯細菌病細菌、イネゴマ葉枯病細菌、タバコ空洞病細菌、タバコ野火病細菌、各種野菜類の軟腐病細菌、斑点細菌病細菌、青枯病細菌、インゲンマメかさ枯病細菌、核果類かいよう病細菌、クワ縮葉細菌病細菌、アブラナ科植物黒腐病細菌、カンキツかいよう病細菌、トマトかいよう病細菌、ジャガイモ輪腐病細菌、ジャガイモそうか病細菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
病原性ウイルスとしては、イネ萎縮病ウイルス、イネ縞葉枯病ウイルス、ムギ斑葉モザイクウイルス病ウイルス、タバコモザイク病ウイルス、タバコ輪点ウイルス病ウイルス、タバコ条斑ウイルス病ウイルス、カリフラワーモザイクウイルス病ウイルス、ジャガイモモザイク病ウイルス、ジャガイモ葉巻病ウイルス、ジャガイモXウイルス病ウイルス、ジャガイモYウイルス病ウイルス、キュウリモザイク病ウイルス、キュウリ緑斑モザイク病ウイルス、トマト黄化えそ病ウイルス、ダイズ矮化病ウイルス、エンドウ茎えそ病ウイルス、ビート萎縮病ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の方法に従って得られる植物が示す「少なくとも2つの病原体に対する複合病害抵抗性」とは、真菌類(糸状菌を含む)、細菌、ウイルスなどの分類群から選択される少なくとも2つの異なる分類に属する少なくとも2つの病原体に対する抵抗性を意味する。例えば、少なくとも2つの病原体に対する抵抗性としては、病原性真菌と病原性細菌との組み合わせに対する抵抗性、病原性細菌と病原性ウイルスとの組み合わせに対する抵抗性、病原性真菌と病原性ウイルスとの組み合わせに対する抵抗性などが挙げられる。
【0091】
本発明により、植物に導入された酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、植物体から植物体へ種子を媒介として後代へと遺伝され得る。このため、本発明の植物体の花粉あるいは子房から形成される種子においても導入したポリヌクレオチド配列が存在し、遺伝形質が子孫へと受け継がれ得る。従って、本発明の酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が導入された植物は、例えば、種子による増殖によって、病原菌に対する抵抗性が失われることなく、増殖が可能である。また、植物組織細胞を用いた大量培養法や従来から行われている挿木、接木、株分けなどによっても、病害抵抗性が失われることなく、増殖が可能である。このような増殖によって得られた後代または子孫もまた、本発明によって包含される。
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0093】
【実施例】
本発明者らは、酸性型タウマチン様タンパク質の一例としてナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)(表2)をコードするポリヌクレオチドをアグロバクテリウム形質転換法を用いてイネに形質転換を行い、植物体内で発現させることに成功した。本発明者らは、さらに、この遺伝子の解析を進めた結果、この酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子の発現と植物の病害抵抗性との間に顕著な相関関係が認められることを見いだした。本発明で使用され得る酸性型タウマチン様タンパク質および植物が、以下に記載の特定の例に限定されず、類似の酸性型タウマチン様タンパク質および植物によっても同様の効果が得られ得ることは、当業者に容易に明らかである。
【0094】
(実施例1.ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)遺伝子を発現させる発現ベクターの構築)
ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)遺伝子は横浜市立大学木原生物学研究所でクローニングされ、pBluescriptSK+(Stratagene)のEcoRIサイトにサブクローニングされた形で供与された(表2、図1、Sassa,1998,Planta 205,514)。
【0095】
【表2】
JP0003716302B2_000003t.gif(表2:ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)の特徴)
本研究で使用したタウマチン様タンパク質はナシの花柱で発現するpI4.8の酸性型である。アミノ酸配列から推測される分子量は22.9kDaであるが、細胞中では糖鎖が付加されるため32.0kDaに増加する。
【0096】
形質転換用バイナリーベクターはpPZP202(Hajdukiewicz,1994,Plant Mol.Biol.25,989)を用いた。発現ベクター作製の際の基本的実験操作は実験書Molecular Cloning、第2版(Sambrook,1989 Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York)およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel,1987,John Wiley&Sons)に順じて行った。形質転換の際に用いたプラスミドベクターpBluescriptSK+(Stratagene)を、大腸菌はDH5α(東洋紡)を用いた。pPZP202をHindIII-BamHI(宝酒造)で処理し、Ligation high(東洋紡)を用いてCaMV35S改良型REXφプロモ-タ-(Mitsuhara,1996,Plant Cell Physiol.37,49)をライゲーションした。SacI-EcoRI(宝酒造)で処理し、Ligation high(東洋紡)を用いてNOSターミネーター(Depicker,1982,J.Mol.Appl.Gen.1,561)をライゲーションした。KpnI-SacI(宝酒造)で処理し、Ligation high(東洋紡)を用いてPsTL1のcDNAをセンスに組み込んだ。最後にHindIII-BamHI(宝酒造)で処理し、Ligation high(東洋紡)を用いてハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT:hygromycin B phosphotransferase,Gritz,1983,gene 25,179)にCaMV35Sプロモ-タ-(Odel,1985,Nature 313,810)とNOSターミネーターを連結させた遺伝子を選抜マーカーとして導入した。以上の方法でPsTL1が高発現する発現ベクターを構築した(図3)。
【0097】
(実施例2.PsTL1遺伝子導入イネ系統の作出)
ナシの酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子(PsTL1)を高発現させる形質転換植物の作出はアグロバクテリウムによる方法を用いた(Toki S,Plant Mol.Biol.Reporter 15,16.Hiei,1994,Plant J.6,271)。アグロバクテリウムの系統はEHA101(Hood,1986,J.Bacteriol.168,1291)を用いた。
【0098】
上記実施例1で構築した発現ベクターをエレクトロポレーション法でアグロバクテリウムEHA101に形質転換した。エレクトロポレーション装置はGENE PULSERaII(BIO-RAD)を用い、導入条件を200Ω、25μF、2.5kV、0.2cmキュベットに設定した。エレクトロポレーションを行ったアグロバクテリウムをSOC培地に懸濁し、28℃で2時間振とう培養した。この培養液を20mg/lカナマイシン、100mg/lスペクチノマイシンを含むLBプレート培地(10 g/lトリプトン、5 g/l酵母エキス、10g/l塩化ナトリウム、水酸化ナトリウムでpH5.8に調製)上に拡散し、増殖した形質転換個体を選抜した。
【0099】
遺伝子導入したアグロバクテリウムを水稲品種「どんとこい」胚盤由来カルス(4週間)に感染させた。「どんとこい」種子から穎を除き玄米とし、これを70%エタノールで1分間殺菌し、滅菌蒸留水で2回洗浄した。さらに、2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で40分間殺菌し、滅菌蒸留水で2回洗浄した。この玄米を、カルス誘導培地(30g/lシュクロース、0.3g/lカザミノ酸、2.8g/lプロリン、2mg/l 2,4-Dを添加し、pH5.8に調製し、4 g/lのゲルライトで固化させたN6培地(Chu,1974,Sci.Sinica 18,659))上に置床した。玄米は28℃明所で生育させカルスを得た。このカルスをアグロバクテリウム感染に用いた。
【0100】
20mg/lカナマイシン、100mg/lスペクチノマイシンを含むLBプレート培地に28℃で培養したアグロバクテリウム0.5cm四方をミクロスパテルでかき取り、10mg/lアセトシリンゴンを含むAAM培地(Toriyama,1985,Plant Sci.41,179)に懸濁した。この懸濁液をカルスに注ぎ、2分間浸漬させた。このカルスを水切りした後、10mg/lアセトシリンゴンを含むカルス誘導培地上で28℃で3日間培養した。感染後のカルスを滅菌蒸留水で5回洗浄し、余分なアグロバクテリウムを除去した。
【0101】
アグロバクテリウムを除去したカルスを選抜培地(50mg/lハイグロマイシン、300mg/lカルベニシリンを含むカルス誘導培地)に28℃で2週間培養し、再び同じ培地に移し替えさらに2週間培養した。その結果、遺伝子組換えされたカルスがハイグロマイシン耐性になり、選抜培地上で増殖した。
【0102】
増殖したカルスを50mg/lハイグロマイシン、200mg/lカルベニシリンを含む再分化培地(30g/lシュクロース、30g/lソルビトール、2g/lカザミノ酸、20μg/l NAA、2.2mg/lカイネチンを添加し、pH5.8に調製し、4g/lのゲルライトで固化させたMS培地(Murashige,1962,Physiol.Plant 15,473))上に移植した。再分化培地では28℃で2週間の培養を2回行い、再分化固体を選抜した。
【0103】
再分化したイネを鉢上げし、200系統の再分化個体(T0)を隔離温室内で生育させた。これを図4に示す。左側が原品種「どんとこい」であり、右側が酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子導入系統(TL192)の生育個体である。生育したタウマチン様タンパク質遺伝子組換え系統では不稔、矮性化などが生じず、外見上、原品種「どんとこい」と大きな差異は認められなかった(図4)。これらの組換え系統からT1種子を採種した。
【0104】
(実施例3.T1世代の非組換え個体の除去)
遺伝の法則からT1種子には組換え個体と非組換え個体が、3:1の割合で混合していることが示唆された。このうち、組換え個体はハイグロマイシンに対して抵抗性を有することが推測された。
【0105】
そこで採種したT1種子と原品種の「どんとこい」種子を50mg/lハイグロマイシンを含み4g/lのゲルライトで固化させたMS培地(Murashige,1962,Physiol.Plant 15,473)上で発芽させ、28℃で1週間培養した。培養後のT1種子および原品種「どんとこい」種子を図5に示す(A:原品種「どんとこい」、B:組換え系統)。実験に使用したハイグロマイシン濃度において、原品種「どんとこい」種子はすべて、ハイグロマイシンの影響を受けて、発芽後黒変し枯死した(図5A)。タウマチン様タンパク質遺伝子組換え系統から採種したT1種子は正常に生育した個体と枯死した個体に分離した(図5B)。その比率は約3:1であった(図4)。
【0106】
以上の結果から、この選抜方法によってT1世代の非組換え個体を除去し得た。また後に行ったゲノミックサザン法による分析の結果、正常に生育したT1個体にはPsTL1遺伝子が導入されていることが確認できた。正常に生育したT1世代系統をシードリングケースに鉢上げし、4.5葉期になるまで生育させた。
【0107】
(実施例4.病原性真菌抵抗性検定)
本実施例では、病原性真菌として、糸状菌であるいもち病菌を用いて、本発明の方法によって得られた植物の病原性真菌抵抗性検定を行った。いもち病菌の接種は噴霧接種法を用いた(Yaegashi,1995,Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens,Japan Plant Protection Association,37)。
【0108】
いもち病菌(Pyricularia oryzae Cav.:レース007)を粉末オートミール培地に移植し、26℃で培養した。菌叢がシャーレ全面を覆った段階で殺菌水を加え、絵筆で培地表面をこすり気中菌糸を取り除いた。その後シャーレの蓋を外し、近紫外光を照射して胞子形成を行った(Furuta,1967,Plant Protection 21,160)。
【0109】
4.5葉期まで生育した原品種個体と組換え体(T1)の幼苗に、いもち病菌胞子の懸濁液(胞子数5×108/ml)を噴霧し、接種箱内で26℃で24時間接種した。接種後の原品種及び組換え系統を隔離温室に移動し、病斑を観察した。この噴霧接種検定の結果を図6に示す。写真中、左の植物群が原品種(接種せず)、中の植物群が原品種(接種後20日)、右の植物群がTL192(接種後20日)を示す。耐病性検定は病斑の形状の判定と、病斑面積率の測定を行い、以下に示す病斑指数を用いていもち病菌接種後の日数と病状の解析を行った(Asaga,1981,J.Cent.Agric.Exp.Stn.35,51)。
【0110】
病斑指数 病状 病斑面積率
0.罹病性病斑が全く認められない 0%
1.罹病性病斑がわずかに認められる 1%
2.罹病性病斑が一見して認められる 2%
3.罹病性病斑が中程度に認められる 5%
4.罹病性病斑が多く認められる 10%
5.罹病性病斑がはなはだしいか、枯死葉がわずかに認められる 20%
6.枯死葉が一見して認められる 40%
7.枯死葉が中程度に認められる 60%
8.枯死葉が多く認められる 80%
9.全葉ほとんど枯死 90%
10.全茎葉枯死 100%
この耐病性検定の結果を図7に示す。図7中、横軸は接種後日数、縦軸は病斑指数を表す。また図中、黒菱形はWT(野生型)、白四角は組換え体(192-1)、黒三角は組換え体(192-2)、Xは組換え体(192-3)、黒丸は組換え体(192-4)を示す。
【0111】
この結果、組換え体では原品種と変わらない罹病性病斑が認められた。また、組換え体の中に、原品種と比較していもち病の進行が遅延する系統が見つかった(図6,7;T1世代:TL192)。これらの個体はいもち病の罹病性病斑が認められるものの、病斑面積率は非常に小さかった。従って、PsTL1組換え系統はいもち病に対して圃場抵抗性型の抵抗性をもたらすことが明らかになった。
【0112】
(実施例5.ゲノミックサザン法によるPsTL1遺伝子導入の確認)
原品種及び病害抵抗性が確認されたPsTL1組換え系統(T1)の葉身からCTAB(Cetyltrimethylammonium bromide)法(Murray,1980,Nucleic Acids Res.8,4321)を用いてゲノミックDNAを抽出した。イネ地上部10gを液体窒素で凍結させた後、乳鉢で粉砕した。粉末状となったイネを1.5×CTAB液(1.5%CTAB、 75mM Tris-HCl、pH8.0、15mM EDTApH8.0、1.05M塩化ナトリウム)と混合し、56℃で20分間軽く浸透してDNAを溶出させた後、クロロホルム抽出を2回行ってタンパク質を除去した。この溶液に1/10容量の10%CTAB、1.5容の沈殿溶液(1%CTAB、50mM Tris-HCl、pH8.0、10mM EDTA、pH8.0)を加えDNAを析出した。このDNAを1M塩化ナトリウムに溶解し、Ribonuclease AでRNAを分解した後、エタノール沈殿を行ってゲノミックDNAを抽出した。
【0113】
抽出したゲノミックDNA(10μg)を制限酵素EcoRV,PstI,HindIIIで処理し、1.2%アガロ-スゲルで18時間電気泳動を行った。泳動後のゲルを加水分解液(0.25M HCl液)に10分間、アルカリ変性(1.5M NaOH、0.5M NaCl)に30分間浸漬して軽く振とうした。その後、アルカリ転写液(0.4M NaOH)を用いてDNAをナイロンメンブレン(Hybond-N+(Amersham pharmacia biotech,Inc.))に転写した。ゲノミックDNAが転写されたナイロンメンブレンを80℃で2時間ベーキングしてDNAを固定した後、PsTL1のcDNA(約0.9kbp)をプローブに用いてゲノミックサザンハイブリダイゼーションを行った(Southern,1975,J.Mol.Biol.98,503)。サザンハイブリダイゼーションの検出にはAlkPhos Direct(Amersham pharmacia biotech,Inc.)を用いた。洗浄条件は、ECL(Enhanced Chemiluminescence)の場合には、0.2×SSC濃度の洗浄液を使用し、Alkphos(アルカリホスファターゼ)の場合には、供給業者の推奨するプロトコールに記載された洗浄液を用いて、55℃で洗浄を行った。
【0114】
この結果を図8に示す。図8中、レーン1は原品種 EcoRV、レーンMは1kb DNA ladder、レーン2はTL192 EcoRV、レーン3はTL192 PstI、レーン4はTL192 HindIIIを示す。
【0115】
サザンハイブリダイゼーションの結果、原品種からはPsTL1プローブとハイブリダイゼーションしたバンドが全く確認されなかったのに対し、いもち病接種検定に用いた酸性型タウマチン様タンパク質組換え系統(TL192)からは1本のバンドが検出された(図8)。従って、これらの組換え系統には1コピーのPsTL1遺伝子が導入されていることが明らかになった。
【0116】
(実施例6.ノ-ザン法によるPsTL1のmRNA発現の確認)
原品種及びPsTL1組換え系統(T1)の葉身から、CTAB/LiCl法で全RNAを抽出した(Chang,1993,Plant Mol.Biol.Report 11,113)。イネ地上部2gを液体窒素で凍結させた後、乳鉢で粉砕した。粉末状となったイネを10容の2×CTAB液(2%CTAB,100mM Tris-HCl、pH9.5、20mM EDTA,1.4M塩化ナトリウム,1%メルカプトエタノール)と混合し、60℃で10分間軽く浸透してRNAを溶出させた後、クロロホルム抽出を2回行ってタンパク質を除去した。この溶液に1/4容の10M塩化リチウムを加えRNAを析出した。RNAをTE(10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM EDTA、pH8.0)に溶解させ、フェノール/クロロホルム抽出理を行った後、上記方法で塩化リチウム抽出をもう一度行い、全RNAを単離した。
【0117】
単離した全RNA(30μg)を6.3%ホルムアルデヒドを含む1.2%アガロ-ス変性ゲルで電気泳動し、20×SSC(3M塩化ナトリウム、300mMクエン酸三ナトリウム二水和物)を用いて全RNAをナイロンメンブレン(Hybond-N+(Amersham pharmacia biotech,Inc.))に転写した。全RNAが転写されたナイロンメンブレンに、PsTL1 cDNA(約0.9kbp)をプロ-ブに用いてノーザンハイブリダイゼーションを行った(Alwine,1977,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 74,5350)。ノーザンハイブリダイゼーションの検出にはAlkPhos Direct(Amersham pharmacia biotech,Inc.)を用いた。
【0118】
これらの結果を、図9に示す。Aは、全RNA像であり、Bはノーザンハイブリダイゼーション像を示す。AおよびBの両方とも、レーン1~4で順に、原品種、TL183、TL192、TL194を示す。
【0119】
ノーザンハイブリダイゼーションの結果、原品種からはPsTL1プローブとハイブリダイゼーションしたバンドが確認されなかったのに対し、いもち病接種検定において抵抗性を示した酸性型タウマチン様タンパク質組換え系統(TL183、192、および194)から約1,500bpのバンドが確認できた(図9、矢印)。従って、これらの組換え系統にはPsTL1 mRNAが発現していることが明らかになった。
【0120】
(実施例7.ウェスタン法によるPsTL1タンパク質発現の確認)
ウェスタン法(Towbin,1979,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76,4350-4354)によるタンパク質の発現解析の際の基本的実験操作は実験書Molecular Cloning、第2版(Sambrook,1989、Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York)に順じて行った。ウサギ由来のナシ酸性型タウマチン様タンパク質に対する一次抗体は横浜市立大学木原生物学研究所で作製されたものを供与された(Sassa,1998,Planta 205,514)。二次抗体はAlkaline phosphatase conjugated Affinipure Goat Anti-Rabbit IgG(H+L)(Jackson)を用いた。抗体の検出にはAP発色キット(BIO-RAD)を用いた。また、その他の汎用溶液としてPBS(137mM塩化ナトリウム、8.1mMリン酸水素二ナトリウム、2.68mM塩化カリウム、1.47mMリン酸二水素ナトリウム、pH7.4)、TBS(137mM塩化ナトリウム、2.68mM塩化カリウム、25mM Tris-HCl、pH7.4)、リン酸ナトリウム溶液pH7.0(リン酸水素二ナトリウム:リン酸二水素ナトリウム=39:61)、Diss溶液(250mM Tris-HCl、pH6.8、8%SDS、40%グリセロール、80μg/mlブロムフェノールブルー)を用いた。
【0121】
原品種及びPsTL1組換え系統(T1)の葉身0.2gを液体窒素で凍結させた後、乳鉢で粉砕した。粉末状となったイネを800μlのタンパク質抽出液(100 mMリン酸ナトリウム溶液pH7.0、1mM PMSF、1%2-メルカプトエタノール、1%PVP、4%コンプリート(ロシュ))と800μlのサンプル溶液(Diss溶液:2-メルカプトエタノール=92:8)に溶解させた。その後100℃で5分間加熱し、遠心して上清をサンプルとして用いた。
【0122】
イネの葉から抽出したサンプル100μgを12.5%SDS-PAGE用ゲル、トリスグリシン溶液(25mM Tris-HCl、pH8.2、200mMグリシン、1%SDS)を用いて電気泳動を行った。電気泳動後のゲルをメタノールで前処理したPVDFメンブレン(Immun-Blot PVDF membrane,BIO-RAD)にエレクトロブロット(NA-1513:日本エイドー)した。タンパク質が転写されたPVDFメンブレンを、一次ブロッキング溶液(PBS、0.05%Tween20、10%スキムミルク)に浸して1時間、二次ブロッキング溶液(PBS、0.05%Tween20、1%BSA)に浸して30分間振とうし、0.05%アジ化ナトリウムを含むTBS-T溶液(TBS、0.05%Tween20)で10,000倍希釈したナシの酸性型タウマチン様タンパク質抗体を一次抗体に用いて一晩ウェスタンハイブリダイゼーションを行った。メンブレンを洗浄液(PBS、0.05%Tween20)で3回洗浄後、二次ブロッキング溶液に浸して30分間振とうし、さらに二次抗体溶液(二次抗体、PBS、0.05%Tween20、1%BSA、0.05%アジ化ナトリウム)で40分間ハイブリダイゼーションを行った。メンブレンを洗浄液で3回洗浄後、アルカリフォスファターゼ発色キット(NBT/BCIP:BIO-RAD)を用いて検出した。
【0123】
この結果を図10に示す。図10中、レーン1はナシ花柱から抽出した総タンパク質を示し、レーン2は原品種、レーン3はTL183、レーン4はTL192、レーン5はTL194を示す。
【0124】
ウェスタン法による解析を行った結果、原品種からはPsTL1の発現が確認されなかったのに対し、いもち病の接種検定において抵抗性を示した酸性型タウマチン様タンパク質組換え系統(TL183、192、および194)から約32kDaの位置にバンドが確認できた(図10、矢印)。従って、これらの組換え系統にはPsTL1タンパク質が発現していることが明らかになった。また、組換え系統から検出されたバンドが32kDaであったことから、イネの細胞内でもタウマチン様タンパク質に糖鎖付加が行われていることが示唆された。
【0125】
(実施例8.病原性細菌抵抗性検定)
本実施例では、病原性細菌として白葉枯病菌を用いて、本発明の方法によって得られた植物の病原性細菌抵抗性検定を行った。上記実施例4において、いもち病菌に対して抵抗性が確認されたPsTL1組換え系統(T1)を成苗に生育させた。また白葉枯病菌(Xanthomonas campestris pv.oryzae:レース3-A)を馬鈴薯半合成培地(馬鈴薯300g、硝酸カルシウム0.5g、リン酸水素二ナトリウム・12水和物2g、ペプトン5g、ショ糖15g、寒天20g、蒸留水1l)で増殖させた。試験管の中に蒸留水10mlを入れ、白葉枯病菌0.5cm四方を懸濁させ、接種用の懸濁液を作製した。原品種及びPsTL1組換え系統(T1)の成葉の先端を白葉枯病菌の懸濁液に浸したハサミで切り取り、白葉枯病の接種を行った(Tsushima,1995,Methods for Isolation,Cultivation,Inoculation of Plant Pathogens,Japan Plant Protection Association,28)。
【0126】
20日後、葉の先端から白葉枯病が進行した距離を測定することによって、白葉枯病に対する抵抗性を検定した。この結果を図11に示す。図中、WTは原品種の葉であり、TL192-2、TL192-8は、それぞれ組換え系統(T1)(接種後20日)の葉である。原品種(WT)に比べてPsTL1組換え系統(T1世代:TL192-2,8)は白葉枯病斑の進展の遅延が観察された。原品種1個体(6葉)と、タウマチン様タンパク質遺伝子組換え系統(TL192)のT1世代9個体(それぞれ10-21葉)に対して、白葉枯病の進行程度を測定し、グラフにまとめた(図12)。図12において、横軸は、試験に供した植物個体(WT:野生型、TL192-1~9:組換え系統)を、縦軸は、白葉枯病罹病進度(cm)を表す。多くのTL192の各系統が原品種と比べて白葉枯病の進行が遅延した。従って、PsTL1組換え系統は白葉枯病に対して抵抗性をもたらすことが明らかになった。
【0127】
【発明の効果】
今回の報告から、酸性型タウマチン様タンパク質が植物における病害抵抗性に重要な役割を担っていることが示唆された。酸性型タウマチン様タンパク質をコードするポリヌクレオチドを本発明の方法に従って植物細胞、特に高等植物細胞に導入して発現させることにより、病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を植物に付与し得る。本発明の方法に従って作出された病原性細菌抵抗性または複合病害抵抗性を有する植物は、各種病原菌に対する抵抗性を有するために生産性の向上、収量の安定化、品質の向上、農薬使用量の低減化とそれによる生産コストと労働時間の低減化や環境に対する負荷の軽減に効果があると期待される。また、病害抵抗性の性質から、有機栽培農法や農薬使用が困難な発展途上国においても高い収量が確保できると考えられる。
【0128】
【配列表】
JP0003716302B2_000004t.gifJP0003716302B2_000005t.gifJP0003716302B2_000006t.gifJP0003716302B2_000007t.gifJP0003716302B2_000008t.gifJP0003716302B2_000009t.gifJP0003716302B2_000010t.gifJP0003716302B2_000011t.gifJP0003716302B2_000012t.gifJP0003716302B2_000013t.gifJP0003716302B2_000014t.gifJP0003716302B2_000015t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】ナシの酸性型タウマチン様タンパク質(PsTL1)cDNAの塩基配列及び翻訳されるアミノ酸配列を示す図である。
【図2】アミノ酸配列に基づいた酸性型タウマチン様タンパク質間の配列比較を示す図である。
【図3】PsTL1遺伝子の発現ベクター(pPZP202)の構築を示す図である。
【図4】タウマチン様タンパク質遺伝子組換え系統(TL192)の形態を示す生物形態写真である。
【図5】組換え系統T1種子のハイグロマイシン選抜の様子を示す生物形態写真である。
【図6】いもち病(レース007)の噴霧接種検定の結果を示す生物形態写真である。
【図7】組換え系統(TL192)のいもち病に対する抵抗性程度を示すグラフである。
【図8】ゲノミックサザン法による導入遺伝子の確認を示す電気泳動図である。
【図9】ノーザン法によるPsTL1 mRNAの発現調査を示す電気泳動図である。
【図10】ウェスタン法によるPsTL1タンパク質発現の確認を示すブロット図である。
【図11】白葉枯病の接種検定の結果を示す生物形態写真である。
【図12】酸性型タウマチン様タンパク質遺伝子組換え系統の白葉枯病に対する抵抗性程度を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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