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明細書 :ハイドロゲルの製造方法および細胞培養支持体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3412014号 (P3412014)
公開番号 特開2002-186847 (P2002-186847A)
登録日 平成15年3月28日(2003.3.28)
発行日 平成15年6月3日(2003.6.3)
公開日 平成14年7月2日(2002.7.2)
発明の名称または考案の名称 ハイドロゲルの製造方法および細胞培養支持体
国際特許分類 B01J 13/00      
A61L 15/16      
C12N  1/00      
FI B01J 13/00 E
C12N 1/00
A61L 15/01
請求項の数または発明の数 3
全頁数 5
出願番号 特願2000-385662 (P2000-385662)
出願日 平成12年12月19日(2000.12.19)
審査請求日 平成12年12月19日(2000.12.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】玉田 靖
個別代理人の代理人 【識別番号】100106105、【弁理士】、【氏名又は名称】打揚 洋次 (外3名)
審査官 【審査官】新居田 知生
参考文献・文献 特開 平1-308431(JP,A)
特開 平8-268905(JP,A)
調査した分野 B01J 13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
絹フィブロイン水溶液に対して0.05~10容量%の水溶性有機溶媒を添加したものを一定時間凍結させ、次いで融解してハイドロゲルを得ることを特徴とするハイドロゲルの製造方法。

【請求項2】
前記絹フィブロイン水溶液の濃度が0.1~10重量%であることを特徴とする請求項1記載のハイドロゲルの製造方法

【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法で製造したハイドロゲルを含有することを特徴とする細胞培養支持体
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、ハイドロゲルの製造方法とそのハイドロゲルを含有する細胞培養支持体に関するものである。

【0002】

【従来の技術】ハイドロゲルは、コンタクトレンズや創傷被覆材、薬剤徐放担体等の医療分野や、紙おむつや生理用品等の生活日用品分野、あるいは土壌保水剤、食品加工用シート等の農林水産分野等の産業上広い分野に利用されている。これらの分野に利用されるハイドロゲルを構成する材料は、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドやポリアクリル酸等の水溶性高分子あるいはそれらの共重合体の架橋物からなるものや、アガロース、アルギン酸やゼラチン等の天然高分子からなるものが知られている。

【0003】
近年、ハイドロゲルは、その重要な利用用途として、組織工学や再生医工学という先端医療分野における細胞培養支持体や組織再生支持体として注目を集めている。これらの用途に利用するためには、生体安全性や生体親和性が要求されるため、主として生体由来のコラーゲンを主体としたハイドロゲルが利用されている。しかしながら、コラーゲンは動物組織からの抽出により生産され、かつオートクレーブ滅菌が不可能であることから、未知病原体による汚染等の可能性も否定できない。また、コラーゲンハイドロゲルは、その分解速度が速すぎるため、化学的や物理的な架橋処理が必要である。一般的に、化学的架橋剤は、細胞毒性を示すものが多く、残存架橋剤による毒性が否定出来ず、また、物理的な架橋では放射線や紫外線照射施設等の設備が必要となり、簡便には生産できない。さらに、もっとも重大な問題として、コラーゲンでは力学的強度に優れたハイドロゲルを生産できないことが指摘されている。すなわち、組織工学や再生医工学用素材として力学的強度が要求される部位、例えば軟骨組織再生や骨膜組織再生等に利用することが出来ないという制限がある。そこで、力学的強度をもち、生体安全性や生体親和性に優れたハイドロゲルの開発が求められている。

【0004】
絹フィブロインタンパク質(以下、「絹フィブロイン」と称する。)は、手術用縫合糸としても使用されており、生体親和性に優れた材料の一つである。また、最近の研究結果から、精練した絹糸は免疫反応を惹起することがなく(Opthalmology,91,479-483(1984))、また、絹フィブロイン材料の炎症性は高くない(J.Biomed.Mater.Res.,46,382-389(1999))ことが報告されている。さらに、絹フィブロインフィルム上では、細胞付着や増殖が良好であり(J.Biomed.Mater.Res.,89,1215-1211(1995))、表皮細胞の増殖活性化効果がある(特開平11-253155)ことが報告されている。このように、絹フィブロイン材料は、組織工学や再生医工学用材料として優れた材料である。

【0005】
絹フィブロインを用いたハイドロゲルの製造方法も種々開示されている。例えば、絹フィブロイン溶液に絹フィブロインの貧溶媒であるアルコール等を大量に加えて沈殿させゲル化する方法が広く知られているが、得られたゲルはもろく十分な強度をもったゲルは製造出来ない。絹フィブロイン水溶液のpHを等電点以下に低下させて沈殿させゲル化する方法が開示されているが(特開平1-118544)、この製造方法によっても得られるゲルはもろく十分な強度をもったゲルは製造できない。また、絹フィブロイン溶液を徐々に乾燥することによりゲル化する方法も知られているが、得られたゲルは柔軟性がなく、製造に長時間かかる。さらに、濃厚フィブロイン溶液に対し凍結と融解を繰り返すことによりハイドロゲルを作製する方法も開示されている(特開平1-308431)が、強度あるゲルを作製するためにはフィブロインの濃厚溶液が必要であり、細胞培養支持体や組織工学・再生医工学用素材としての十分な含水率をもったゲルの作製が困難であり、また強度あるゲルを作製する場合は凍結・融解操作を繰り返す必要があり、工程は非常に煩雑になる欠点を有している。

【0006】

【発明が解決しようとする課題】このような状況をふまえて、本発明は、上記の従来技術がかかえる問題点を解決することを課題とした。すなわち、本発明は、組織工学や再生医工学用素材として求められる生体親和性や力学的強度に優れたハイドロゲルの簡便な製造技術を提供することを課題としている。さらに、組織工学や再生医工学用素材に要求される優れた細胞増殖や細胞維持特性を有する細胞培養支持体を提供することも課題とした。

【0007】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、絹フィブロイン水溶液に水溶性有機溶媒を添加し、これを凍結した後、融解するという簡便な方法により、高含水率であり、かつ力学的強度に優れたハイドロゲルを製造できる技術を見出し、また、このハイドロゲルが優れた細胞増殖機能を有する優れた細胞培養支持体として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0008】
本発明のハイドロゲルの製造方法は、絹フィブロイン水溶液に対して0.05~10容量%の水溶性有機溶媒を添加したものを一定時間凍結させ、次いで融解してハイドロゲルを得ることからなる。絹フィブロイン水溶液の濃度は、0.1~10重量%である。

【0009】
本発明の細胞培養支持体は、このようにして製造されたハイドロゲルを含有することからなる。

【0010】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。

【0011】
本発明で用いる絹フィブロインとしては、家蚕、野蚕、天蚕等の蚕から生産されるものであればいずれでもよく、その製造方法としては、繭からの抽出、絹糸腺からの抽出等のような既知の如何なる方法を用いても良い。特に、製造工程の簡便性から家蚕の繭からの抽出が好ましい。本発明では、絹フィブロインを水溶液として用いるが、その方法は公知の如何なる方法を用いてもよく、例えば臭化リチウム水溶液に溶解した絹フィブロインを水に対して透析する方法が挙げられる。この絹フィブロイン水溶液をハイドロゲル製造のための原料として用いるわけであるが、組織工学・再生医工学用素材や細胞培養支持体として用いる場合は、この段階にて通常のオートクレーブ滅菌処理をしてもよい。用いる絹フィブロイン水溶液の濃度は、使用目的に合わせて自由に選択できるが、好ましくは0.1重量%~10重量%、特に好ましくは0.5重量%~5重量%である。0.1%重量未満では、十分な強度を持ったハイドロゲルが製造できない場合があり、また10重量%を超えると、原料水溶液の調製が困難であったり、製造したハイドロゲルが組織や細胞の増殖や維持に対して不利になる場合がある。

【0012】
本発明によれば、この絹フィブロイン水溶液に水溶性有機溶媒を添加して、所定時間凍結処理し、次いで融解処理することにより、ハイドロゲルを製造する。添加する水溶性有機溶媒は、水に対して部分的にでも混和できればよい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、イソアミルアルコール、グリセロール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン等が挙げられる。細胞保存用溶媒として広く使用されているグリセロールやジメチルスルホキシドを用いると、生体組織や細胞に対する危険性が少なく好ましく使用できる。添加する量は、絹フィブロイン水溶液にこれらの有機溶媒を添加したときに絹フィブロインが沈殿しない範囲ならば特に制限はないが、好ましくは0.05容量%~10容量%、特に好ましくは0.1容量%~5容量%である。0.05容量%未満では、ハイドロゲルを形成しない場合もあり、10容量%を超えると、絹フィブロインの沈殿の危険性があり、また、十分な機械的強度を持ったハイドロゲルを製造できない。凍結温度は特に制限されないが、設備の簡便性から考えて、通常のフリーザー等が利用できる温度を用いればよい。凍結時間は、十分に凍結することのできる時間であればよく、好ましくは4時間以上、特に好ましくは6時間以上である。4時間未満であると、フリーザーの種類にもよるが、ハイドロゲルが製造出来なかったり、製造したハイドロゲルの機械的強度が十分でない場合がある。凍結した絹フィブロイン水溶液を、そのまま融解することでハイドロゲルが製造できる。融解は加温して行ってもよいが、通常、室温下で放置すれば、より簡便にハイドロゲルが製造できる。得られたハイドロゲルを組織工学・再生医工学用素材や細胞培養支持体として用いる場合は、水や燐酸緩衝生理食塩水(PBS)のような生理的緩衝溶液等中で添加した水溶性有機溶媒を置換したのち、通常のオートクレーブ滅菌処理を行う。

【0013】
ハイドロゲルに、コラーゲンや細胞成長因子を混合したり、あるいは生理活性物質を付与した改変絹フィブロイン等を混合することもできる。この場合は、絹フィブロイン水溶液あるいはあらかじめオートクレーブ滅菌処理した絹フィブロイン水溶液に、コラーゲン、細胞成長因子、あるいは改変絹フィブロインを混合し、上記と同様の製造工程を経ることで、これらの分子を含んだハイドロゲルを製造できる。また、絹フィブロイン分子にタンパク質工学的手法により各種の生理活性分子や機能性分子を融合したキメラフィブロイン分子等も同様に混合して、上記と同様の処理を行うことにより、これらの分子を含んだハイドロゲルを製造できる。組織工学や再生医工学用素材や細胞培養支持体として用いる場合は、あらかじめオートクレーブ滅菌した絹フィブロイン水溶液を用いる方が安全性等の面から好ましい。

【0014】
製造したハイドロゲルを細胞培養支持体として用いる場合は、絹フィブロイン水溶液と細胞浮遊液とを混合し、細胞に対して傷害を与えないような水溶性溶媒、たとえばグリセロールやジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、上記のハイドロゲル製造工程によりゲル化することで3次元的な培養が可能となる。また、もっと簡便には、あらかじめ製造したハイドロゲル上へ細胞浮遊液を添加することで、徐々に細胞がゲル内部へ進入して3次元的な培養が可能となる。3次元細胞培養支持体として広く利用されているコラーゲンに比較して、本発明のハイドロゲルは、そのゲルの空隙率や孔径を制御しやすく、また経時的なゲル体積の縮小もなく、より効率的に細胞を培養できる特色がある。

【0015】

【実施例】以下に実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)精錬した絹糸を9M臭化リチウム水溶液中に溶解した後、蒸留水に対して十分に透析して絹フィブロイン水溶液を調製した。1重量%および2重量%絹フィブロイン水溶液中に、表1に示した各種水溶性有機溶媒を全量に対して1容量%になるように添加し、よく混合したのち、-20℃のフリーザー中で12時間凍結した。凍結したサンプルを室温下で放置し、ゲル化の状態を観察した。

【0016】

【表1】
JP0003412014B2_000002t.gif(注)
+++:堅いゲル、++:柔らかいゲル、+:もろいゲル、-:ゲル化せず
表1から明らかなように、溶媒未添加の場合はゲル化しなかった。また、溶媒の種類によりゲルの状態をコントロールすることができる。

【0017】
また、上記のようにして得られたヒドロゲルの力学的強度は、次のようであった。3重量%に調製した絹フィブロイン水溶液に1容量%になるようにt-ブタノールを添加しよく混合した後、90mm径のシャーレ中に厚み2mmになるように絹フィブロイン水溶液をを添加し、-20℃のフリーザー中で12時間凍結し、その後室温下に放置することでヒドロゲル板を作製した。この試料をダンベル片に打ち抜き、引っ張り強度を測定した。また、同じ絹フィブロイン水溶液を同じシャーレ中に2mm厚になるように入れ、-20℃のフリーザー中12時間、室温下に12時間の凍結-融解を5回繰り返してヒドロゲルを作製して同様のダンベル片を作製して、引っ張り強度試験の対照とした。測定は4回繰り返し、その結果の平均を表2に纏めた。

【0018】

【表2】
JP0003412014B2_000003t.gif表2から明らかなように、本発明の製造方法で得られたヒドロゲルは、凍結-融解を繰り返して得たヒドロゲルよりも優れた力学的強度を持っていることが分かる。
(実施例2)実施例1と同様に調製した種々の濃度(重量%)の絹フィブロイン水溶液に対して、0.5容量%から2容量%までのDMSOを添加して、-20℃のフリーザー中で12時間凍結した後、室温下で放置してハイドロゲルを作製した。このハイドロゲルを蒸留水中に数日間浸漬して平衡状態まで含水させ、重量を測定した(Wa)。このゲルを60℃の減圧乾燥機中で十分に乾燥させ、ゲルの乾燥重量を測定した(Wb)。次式に従って含水率を算出し、表2に示した。

【0019】

含水率(%)=(Wa-Wb)×100/Wb

【0020】

【表3】
JP0003412014B2_000004t.gif表2から明らかなように、絹フィブロイン水溶液濃度や添加溶媒濃度を変動させることにより、含水率をコントロールすることができる。
(実施例3)実施例1と同様に調製した絹フィブロイン水溶液に対し、121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、2重量%濃度の滅菌絹フィブロイン水溶液を得た。無菌条件下で、このフィブロイン水溶液に滅菌DMSOを1容量%になるように添加し、-20℃のフリーザー中で12時間凍結した後、取り出して室温下で放置し、ハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを無菌PBS中に浸漬した後、96穴マルチウェルに入れ、5×105個/mLの細胞浮遊液を100mL添加して、37℃、5%CO2環境下で培養した。所定時間ごとにゲルを取り出し、LDH法により細胞数を計数した。得られた結果を図1に示した。
(比較例1)新田ゼラチン製のCellMatrix A(コラーゲン)を用いて、実施例3と同じ細胞数の添加されたコラーゲンゲル中で、実施例3と同様の培養条件下で細胞培養評価を行った。得られた結果を図1に示した。

【0021】
図1から、本発明の方法で製造したハイドロゲル(実施例3)に対しては、極めて良好な細胞増殖が観察され、優れた細胞培養支持体であり、従来のコラーゲンゲル(比較例1)に比較して、細胞増殖効果が極めて優れていることがわかる。

【0022】

【発明の効果】本発明によれば、生体親和性に優れた絹フィブロインを用いてハイドロゲルを製造する際に、水溶性有機溶媒の添加と凍結・融解のみの簡便な製造工程により、力学的特性に優れたハイドロゲルを製造することができる。また、この製造方法により得られたハイドロゲルは、従来のコラーゲンゲルよりも細胞増殖性が高く、力学的特性に優れているため、細胞培養支持体として、あるいは組織工学や再生医工学用素材としても好適に利用できる。
図面
【図1】
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