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明細書 :昆虫類の行動を抑制して行う飼育法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3321605号 (P3321605)
公開番号 特開2001-321018 (P2001-321018A)
登録日 平成14年6月28日(2002.6.28)
発行日 平成14年9月3日(2002.9.3)
公開日 平成13年11月20日(2001.11.20)
発明の名称または考案の名称 昆虫類の行動を抑制して行う飼育法
国際特許分類 A01K 67/033     
A01K 67/04      
A01N 43/90      
A01N 47/12      
A01N 63/02      
FI A01K 67/033 502
A01K 67/04
A01N 43/90
A01N 47/12
A01N 63/02
請求項の数または発明の数 6
全頁数 4
出願番号 特願2000-138131 (P2000-138131)
出願日 平成12年5月11日(2000.5.11)
審査請求日 平成12年5月11日(2000.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】立石 剣
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 渡辺常富ら、「山梨県蚕業試験場研究要報」、第31号第26-29頁(1992)
調査した分野 A61K 67/033 502
A61K 67/04
特許請求の範囲 【請求項1】
昆虫類に、神経系に作用する生理活性物質を投与し、その後ウィルスを投与することを特徴とする昆虫類の飼育方法。

【請求項2】
昆虫類に、ウィルスを注射で投与することを特徴とする請求項1記載の昆虫類の飼育方法。

【請求項3】
昆虫類に、神経系に作用する生理活性物質を投与し、その後寄生性昆虫を寄生させることを特徴とする昆虫類の飼育方法。

【請求項4】
寄生性昆虫がクワコヤドリバエであることを特徴とする請求項3記載の昆虫類の飼育方法。

【請求項5】
神経系に作用する生理活性物質がカルタップ及び/又はエマメクチンである請求項1、2、3又は4記載の昆虫類の飼育方法。

【請求項6】
昆虫類がカイコ、エビガラスズメ又はハスモンヨトウのいずれかである請求項1、2、3、4又は5記載の昆虫類の飼育方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、昆虫類の行動を抑制して飼育することによって、昆虫を飼育する労力を軽減し、飼育設備を縮小することに関する。

【0002】

【従来の技術】従来、昆虫、特にカイコの飼育は自動飼育機により機械化、省力化が行われてきた。しかし、自動飼育機は高価でもあり、スペースも必要とする等の欠点を有していた。昆虫、特に有用物質生産に適したカイコ等の大量飼育を行う場合、飼育場と生産工場の両方において飼育を行う必要があり、このことにより設備を重複させる等無駄な経費を要した。生産工場内の飼育労力を軽減し設備を縮小するには、給餌を行わないで飼育することが望まれるが、餌が無い状態では昆虫は動きまわり、他の個体に悪影響を与え、体力を消耗するため、長時間の飼育は困難である。そこで労力が軽減でき、スペースもとらない昆虫の飼育方法の開発が望まれているところである。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】昆虫を飼育する労力を軽減し、飼育設備を縮小する手法の開発を課題とする。

【0004】

【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意努力した結果、昆虫類の神経系に作用する生理活性物質を投与することにより、解決できることを見出した。

【0005】
すなわち、本発明は(1)昆虫類に、神経系に作用する生理活性物質を投与することを特徴とする昆虫類の飼育方法、(2)神経系に作用する生理活性物質がカルタップ及び/又はエマメクチンである(1)記載の昆虫類の飼育方法、(3)昆虫類がカイコ、エビガラスズメ又はハスモンヨトウのいずれかである(1)又は(2)記載の昆虫類の飼育方法に関する。

【0006】
本発明は、昆虫類の神経系に作用する生理活性物質を投与して、運動を抑制して飼育を行うものであり、このことにより飼育労力を軽減でき、飼育設備を縮小することができる。投与する生理活性物質は、昆虫の神経に作用し、運動を抑制する物質あるいは摂食行動を阻害する物質で、例えばカルタップ、エマメクチン及びその類縁化合物等の神経系に作用する物質である。なお、カルタップはネライストキシン系殺虫剤で商品名パダン(製造:武田薬品工業株式会社)として市販されており、エマメクチンはマクロライド系殺虫剤で商品名アファーム(製造:北興化学工業株式会社)で市販されている。

【0007】
カルタップ及びエマメクチンの投与量は、カイコ5齢2日目幼虫に対し、カルタップ水溶液を虫体浸漬する場合、10ppm以上の処理により、運動抑制効果が認められ、特に100ppm以上の処理が効果的である。また、エマメクチン水溶液の場合では、1ppm以上の処理が効果的である。注射を行う場合、カルタップでは虫体1gに対して0.5μg、エマメクチンでは虫体1gに対して0.004μgの投与があれば効果を有する。さらに、人工飼料中に混入する場合、カルタップ及びエマメクチンともに飼料中に0.1ppm以上の濃度となるように混入すれば十分である。

【0008】
これら物質を経皮的あるいは経口的に処理することによって、昆虫類の行動は抑制され、自由に移動することはなくなり、昆虫の体力の消耗を最小限に抑えることができる。従って、餌を与えなくとも昆虫類は静止した状態で、長時間の飼育が可能となる。また、薬剤の作用部位が神経系であるため、それ以外の組織への直接的な影響はない。さらに、有用物質の抽出等においては、本発明により昆虫類の動きが鈍くなるので、麻酔をする必要がなくなるため、その作業における労力を軽減することができる。

【0009】
本発明において昆虫類とは、有用物質生産用の昆虫及び天敵生産のための宿主となる昆虫類のことで、例えばカイコ、エビガラスズメ、ハスモンヨトウがある。従来、生理活性物質を用いて有用物質及び天敵生産のための昆虫飼育の例は、ウィルスの封入体の生産方法と、天敵のハエ類の飼育のために、幼若ホルモンを使用する技術が開発されているが、これは蛹化の防止のために、成長を制御することを目的とするものである。一方、養蚕業において営繭行動の斉一化のために脱皮ホルモンの使用技術が知られているが、これはホルモンにより成長及び変態をコントロールすることにより、間接的に行動を制御するものである。

【0010】
本発明の生理活性物質の処理の目的は、成長の制御ではなく、直接的な行動の制御であり、特に給餌作業を不必要とさせることにある。更に、行動の抑制の結果として、処理後の昆虫類の扱いが簡便になる利点を有している。薬物または病原体等を投与した昆虫類の飼育は、飼育を行う者への被爆を回避するために、昆虫との接する機会を最小限にする必要があるが、本発明の飼育方法によれば、給餌を行わないので昆虫と人とが接する機会を低減させることができる。

【0011】
更に、薬物または病原体等を投与した昆虫類の糞等の廃棄物の処理においては、環境へ悪影響を及ぼさないように、漏洩を防止する必要がある。ところが本発明では、糞等の発生が著しく軽減されるので、廃棄物の発生が少なく廃棄物処理施設の規模を小さくすることができ、それにかかる作業も軽減することができる。有用物質の抽出等においては、本発明により麻酔をする必要がなくなるため、その作業における労力を軽減することができ、また有用物質回収後の昆虫が逃亡することがなく、廃棄を行う際に殺虫処理をする必要がない等種々の効果を有している。次に、実施例を示し本発明を更に詳細に説明する。

【0012】

【発明の実施の形態】
【実施例1】カイコ5齢2日目の個体を0、1、10、100ppmのカルタップ水溶液に3分間浸漬した。その後微生物の繁殖を抑えるため0.1%のホルマリン5mlを180mm×120mmの紙に含ませ、その上にカルタップを処理したカイコ10個体を載せ、220mm×140mm×60mmの容器に入れて25℃にて保温した。 処理5日後にカイコの行動を観察したところ、表1にあるように、カルタップ濃度が10ppm以上で行動停止の状態が見られた。同様に0、0.1、1、10ppmのエマメクチン水溶液で処理した場合、表2に示すように1ppm以上で、行動停止が見られた。

【0013】

【表1】カルタップ水溶剤浸漬処理による行動停止作用
JP0003321605B2_000002t.gif【0014】
【表2】エマメクチン乳剤浸漬処理による行動停止作用
JP0003321605B2_000003t.gif【0015】次に、注射処理した場合についての結果を表3、4に示す。

【0016】

【表3】カルタップ注射処理による行動停止作用
JP0003321605B2_000004t.gif【0017】カルタップを100μlの蒸留水に溶解し、5齢2日目の幼虫に注射を行い、処理3日後に行動の観察を行った。処理した昆虫の体重は平均1.9gであった。その結果、表3から分かるように、カルタップの注射処理では虫体1g当たり0.5μgで行動停止100%である。

【0018】

【表4】エマメクチン注射処理による行動停止作用
JP0003321605B2_000005t.gif【0019】次に、エマメクチンを100μlの蒸留水に溶解し、5齢2日目の幼虫に注射を行い、処理3日後に行動の観察を行った。処理した昆虫の体重は平均2.3gであった。その結果、表4からわかるように、行動停止虫率が100%であるためには、4.3ng/虫体1gすなわち、0.0043μg/虫体1gの投与量であれば十分である。

【0020】

【実施例2】カイコ5齢2日目の個体を100ppmのカルタップ水溶液に3分間浸漬し、その4時間後に核多角体ウィルス液0.1mlを注射した。なお、ウィルス量の検定の結果、このウィルス液1μl中に100個相当のウィルスが存在していた。実施例1の方法で5日間保温した後に体液を採取し、体液中の多角体を観察したところ、1μl当たり平均1.1×10000個の多角体が観察された。

【0021】
対照としてカルタップの処理を行わずに同様にウィルスを注射し、絶食状態で5日間保温した場合では、体液1μl当たり7.0×1000個のウィルスが観察された。また、5齢脱皮直後のカイコにカルタップ処理を行わずにウィルス液を注射し、5日間人工飼料を与えて飼育した後に、ウィルス量を調査したところ、1μl当たり平均1.1×10000個であった。この結果から本発明による飼育法を行ったとしても、カイコが核多角体ウィルスを増殖させる能力を依然として持つことが明らかとなった。

【0022】

【実施例3】カイコ5齢脱皮直後にクワコヤドリバエを寄生させ、3日間飼育を行った。寄生3日後に寄生されたカイコに10、100、1000ppmのカルタップを実施例1の方法により処理した。処理後、直径5cm、高さ3cmの塩化ビニール製のカップの中に1頭ずつ入れ、25℃にて保温し、7日目にカイコから脱出した寄生バエの蛹の有無を観察した。

【0023】
その結果、表5からわかるように、10ppm以上の濃度のカルタップ処理によりカイコの行動停止が観察され、10及び100ppmのカルタップ処理において、無処理と同等の80%のカイコにおいてクワコヤドリバエの蛹が観察され、寄生の成功が認められたが、1000ppmのカルタップ処理では全く蛹は観察されず、寄生は成功しなかった。

【0024】
さらに、カルタップを処理した幼虫から脱出した蛹を2週間後に観察したところ、正常なハエが羽化することも観察された。すなわち、このことにより10ppm及び100ppmカルタップの処理により、宿主であるカイコの行動を停止させ、さらに寄主であるハエの成長に影響を与えないで飼育することが可能であることがわかる。

【0025】

【表5】クワコヤドリバエを寄生させたカイコに対するカルタップ浸漬処理による寄生への影響
JP0003321605B2_000006t.gif【0026】
【実施例4】カイコ5齢2日目の幼虫10頭を220mm×140mm×60mmの容器に入れ、10ppmのカルタップ水溶液及びエマメクチン水溶液100μlをそれぞれ、100μlの蒸留水に溶解し、10gの人工飼料に滴下し飼料中の濃度を0.1ppmとして与えた。25℃にて保温し、1日後に行動の状態を観察した。その結果、いずれの薬剤を与えた場合においても、行動の停止が認められた。

【0027】

【表6】カルタップ及びエマメクチン経口投与による行動停止作用
JP0003321605B2_000007t.gif【0028】すなわち、表6から明らかなように、人工飼料中に混入する場合は、カルタップあるいはエマメクチンを飼料中0.1ppm以上の濃度となるように投与すれば、十分な効果を奏すると言える。

【0029】

【発明の効果】本発明によれば、有用物質生産や天敵生産において、工場内の飼育設備や飼育に関わる労力を著しく軽減することが可能であり、さらに廃棄物の減少や昆虫類からの物質及び天敵の採取作業に関わる労力の軽減を行うことが可能となる。