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明細書 :カイコ等の昆虫に対するウイルスの感染、増殖方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2969181号 (P2969181)
登録日 平成11年8月27日(1999.8.27)
発行日 平成11年11月2日(1999.11.2)
発明の名称または考案の名称 カイコ等の昆虫に対するウイルスの感染、増殖方法
国際特許分類 C12N 15/09      
C12N 17/00      
FI C12N 15/00 A
C12N 17/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 5
出願番号 特願平10-153608 (P1998-153608)
出願日 平成10年5月18日(1998.5.18)
審査請求日 平成10年5月18日(1998.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
【識別番号】598072847
【氏名又は名称】米村 真之
発明者または考案者 【氏名】米村 真之
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】白崎 真二
審査官 【審査官】引地 進
参考文献・文献 特開 平7-289270(JP,A)
特開 昭61-9288(JP,A)
特開 昭62-208276(JP,A)
特開 平9-215499(JP,A)
特開 平7-303488(JP,A)
特表 平7-508410(JP,A)
特表 平7-500963(JP,A)
米国特許5283185(US,A)
要約 【課題】 有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルス等をカイコ等の昆虫に接種して感染させ、増殖して有用物質を大量生産する場合に、ウイルスによる環境汚染のおそれがなく、安全で且つ簡単な操作で、効率よく有用物質を生産することができる新規な方法を提供すること。
【解決手段】 ウイルスから分離精製したDNAをカチオン性脂質を含む水溶液と混合してカイコ等の昆虫に経皮接種することからなる、ウイルスDNAの宿主への感染導入を促進しウイルスを増殖する方法において、ウイルスからウイルスDNAを分離精製する際に、ウイルスの封入体を沈降速度遠心法により純化し、次いで稀薄な炭酸ナトリウム水溶液で溶解して遊離したウイルスを酵素処理した後、ウイルスDNAのアルコール沈殿回収に先立ちヨウ化ナトリウムを添加することを特徴とする、ウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
カイコ核多角体病ウイルスから分離精製したDNAをカチオン性脂質を含む水溶性と混合してイコに経皮接種することからなるウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法。

【請求項2】
カイコ核多角体病ウイルスから分離精製したDNAをカチオン性脂質を含む水溶性と混合してイコに経皮接種することからなる、ウイルスDNAの宿主への感染導入を促進しウイルスを増殖する方法において、ウイルスからウイルスDNAを分離精製する際に、ウイルスの封入体を沈降速度遠心法により純化し、次いで稀薄な炭酸ナトリウム水溶液で溶解して遊離したウイルスを酵素処理した後、ウイルスDNAのアルコール沈殿回収に先立ちヨウ化ナトリウムを添加することを特徴とする、ウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、組換えウイルス等のDNAをカイコ等の昆虫に感染させ、昆虫体内でそのウイルスを増殖させて有用物質を効率よく生産する方法に関する。

【0002】

【従来の技術】今日、カイコには広食性蚕品種が開発され、また桑葉の粉末を寒天等に練り込んで調製したカイコ用の人工飼料などの常時調達可能な飼料が開発されている。そのため、遺伝子組換え技術を利用し、カイコ等の昆虫を用いて(いわゆる昆虫工場として)有用なタンパク質を生産する技術が盛んに研究されるようになった。有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルスをカイコ等の昆虫に接種して感染させ、増殖して有用物質を大量生産しようとする試みについては、これまでに、例えば、特開昭61-9288号公報、特開昭62-208276号公報、特開平7-303488号公報、特開平9-215499号公報等いくつかの報告がなされている。

【0003】
現在、核多角体病ウイルスをカイコ等の昆虫に接種する方法には、経口接種による方法と経皮接種による方法がある。前者の経口接種では、ウイルスを包埋した封入体の懸濁液を人工飼料に吸着または桑葉に塗布してカイコに食下させる方法や、ウイルス液をそのまま人工飼料に吸着または桑葉に塗布し5齢脱皮直後に例えば5℃で24時間低温処理したカイコに食下させる方法が採用されている。また後者の経皮接種の場合には、遊離型ウイルス、包埋型ウイルス及び遺伝子組換えウイルス等のウイルス液を注射器でカイコの体内へ注入する方法が採用されている。

【0004】
このようなウイルスを経皮接種する方法は、少量の接種液量で確実に感染させることができるという利点はあるが、一方では、接種時にウイルス液が飛散するなどして、作業環境を汚染する欠点もある。そのため、組換えウイルスを物理的に封じ込めるという観点からみると難点がある。

【0005】
一方、核多角体病ウイルスには、封入体に包埋されない遊離型ウイルスと封入体に包埋された包埋型ウイルスとの2形態がある。一般に、前者の遊離型ウイルスの場合は、ウイルスに感染した培養細胞の培養液またはウイルスに感染した昆虫の体液から、密度勾配超遠心によってウイルス分画を分離し、分離したウイルス分画をDNA精製に供する。また後者の包埋型ウイルスの場合は、沈降速度遠心にかけて精製した封入体をアルカリ液で溶解し、遊離させたウイルスを含む水溶液をウイルス分画として、DNA精製に供する。

【0006】
分離したウイルス分画からウイルスDNAを精製するには、フェノール法が適用されるが、ウイルス分画中の峡雑物が多いとフェノール抽出を繰り返し行なわなければならない。もっとも、前処理に密度勾配超遠心を行えばフェノール抽出を繰り返し行う操作を省いて直接フェノール/クロロホルム抽出を行うこともできるが、いずれにしてもフェノール法を適用する限りタンパク質を簡単に取り去ることは困難である。

【0007】
フェノール法には、具体的には、上記分離したウイルス分画に、(1)ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)およびタンパク質分解酵素を加えて55℃で約1時間放置し、ウイルス粒子を分解した後に、(2)水相が無色透明になるまで(水相と等量の)フェノールを加え抽出を繰り返し、引き続き、(3)フェノール:クロロホルム(1:1)溶液を水相と等量加え抽出を行い、さらに(4)クロロホルムを等量加えて抽出を行い、水相に残留するフェノールを完全に除去し、最後に(5)水相の2倍量のエタノールを加えてウイルスDNAを沈殿回収し、(6)回収したDNAをエタノール水溶液で洗浄する、という諸工程を経て精製する方法がある。しかし、この精製法では、かなりの労力と時間がかかる上に、タンパク質を完全に除去して純粋なDNAを得るには必ずしも十分に満足できる方法とはいえない。

【0008】
また、これまでにDNAのトランスフェクション試薬として各種カチオン性脂質試薬が開発されているが、これらの試薬は、DNAを培養細胞へ導入するために開発された試薬であり、試薬とDNAを一定の割合で混合して得られるDNAのカチオン性脂質試薬溶液を培養細胞の培養液に混入するような方法でDNAの導入を図るものである。

【0009】
このDNAのカチオン性脂質試薬溶液を用いた方法を使った導入実績のある培養細胞としては、ヒト、サルおよびハムスター等の哺乳類由来の細胞、カイコおよびヨトウ等の昆虫由来の細胞などを挙げることができる。しかし、これらは、いずれも細胞レベルで扱うものであり、個体レベルを対象に実施した例はこれまで発表されていない。これは、動物個体に対してDNAのカチオン性脂質試薬溶液を経皮接種したとしても動物体内の防御機構によってDNAが代謝されてしまうためであると考えられていたからである。

【0010】
ただ、1990年代半ばになって、ヒトの遺伝子治療を視野に入れた試験的な実験として、DNAのカチオン性脂質試薬溶液を大量にラットの肝臓に対して投入し、遺伝子組換えを図る実験が行われている。しかし、有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルスをカイコ等の昆虫に接種して感染させ、増殖し有用物質を大量生産するという目的で、ウイルスDNAのカチオン性脂質試薬溶液を用いるという試みは、未だなされていない。

【0011】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルス等をカイコ等の昆虫に接種して感染させ、増殖して有用物質を大量生産する場合に、上述のような従来の問題点を回避し、ウイルスによる環境汚染のおそれがなく、安全で且つ簡単な操作で、効率よく有用物質を生産することができる新規な方法を提供することを目的とする。

【0012】

【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らは、有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだ組換えウイルス自体を使用する代わりに、該組換えウイルスDNAを直接宿主に感染させ、増殖する方法について鋭意研究を行った結果、ウイルスDNAにカチオン性脂質試薬を混入した水溶液をカイコ等の宿主昆虫に経皮接種した場合には、幸いなことに、ウイルスDNAが宿主の防御機構によって代謝されることなくウイルスを感染導入することができ、ウイルスの増殖を効率よく行うことができることを見出だした。

【0013】
本発明は、この知見を基になされたものである。

【0014】
すなわち、本発明は、(1)、ウイルスから分離精製したDNAをカチオン性脂質を含む水溶性と混合してカイコ等の昆虫に経皮接種することからなる、ウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法に存する。

【0015】
そして、(2)、上記ウイルスが、カイコ核多角体病ウイルスである上記(1)記載の方法に存する。

【0016】
そしてまた、(3)、ウイルスから分離精製したDNAをカチオン性脂質を含む水溶性と混合してカイコ等の昆虫に経皮接種することからなる、ウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法において、ウイルスからウイルスDNAを分離精製する際に、ウイルスの封入体を沈降速度遠心法により純化し、次いで稀薄な炭酸ナトリウム水溶液で溶解して遊離したウイルスを酵素処理した後、ウイルスDNAのアルコール沈殿回収に先立ちヨウ化ナトリウムを添加する、ウイルスDNAの宿主への感染を促進しウイルスを増殖する方法に存する。

【0017】
本発明は、ウイルスDNAを精製する際に、封入体のアルカリ溶解液にヨウ化ナトリウムを添加する方法を適用することにより、従来のフェノール法を適用した場合に必要となるタンパク質除去やフェノール除去工程を行うことなく、精製したウイルスDNAを簡単な操作で且つ短時間に調製することができるものである。また、本発明は、最終的には、ウイルスとして有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルスを用いて、該組換えウイルス等のDNAを上記(1)ないし(3)の方法を適用して有用物質を効率よく生産することができるものである。

【0018】

【発明の実施の形態】
【実施例】〔実施例1〕
(イ)ウイルスDNAの精製;カイコ核多角体病ウイルスの封入体をパーコール等による沈降速度遠心法により純化し、次いで稀薄な炭酸ナトリウム水溶液による溶解で遊離したウイルスを酵素処理によって分解した後、ウイルスDNAのアルコール沈殿回収に先立ちヨウ化ナトリウムを添加することによって、ウイルスDNAへのタンパク質成分の混入を防止した。すなわち、以下の(i)~(iv)の工程により精製したカイコ核多角体病ウイルスDNAを得た。

【0019】
(i) カイコ核多角体病ウイルスの封入体をパーコール等による沈降速度遠心法により純化し、次いで純化したカイコ核多角体病ウイルスに炭酸ナトリウムを加えて0.1M濃度の水溶液にして室温で約15分間放置して封入体(タンパク質)を溶解させる。
(ii) 封入体を溶解させた溶液に、タンパク質分解酵素(プロティナーゼK)を濃度1mg/mlとなる量で加え、同時に緩衝液を加えて溶液のpHを7~8とし、約55℃で1時間放置してタンパク質を分解する。
(iii) タンパク質を分解した溶液に、ヨウ化ナトリウムを最終濃度が4M以上となる量で加え約55℃で15分間放置し、次いでイソプロパノールを加えてウイルスDNAを沈殿回収する。
(iv) 回収したDNAを70%エタノール水溶液で洗浄する。

【0020】
(ロ)ウイルスDNAとカチオン性脂質を含む水溶液(注射液)の調製;上記(イ)で得た精製ウイルスDNAに、カチオン性脂質水溶液〔1,2-ジミリスチリルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミドとコレステロールとのモル比1:1の混合物を含む水溶液:DMRIE-C試薬、(GIBCO BRL社製)〕を加え、ウイルスDNA濃度が10ng/μl、カチオン性脂質濃度が1μg/μlの水溶液からなる注射液を調製した。カチオン性脂質水溶液としては、上記DMRIE-C試薬の他に、リポフェクトアミン試薬、リポフェクトエース試薬およびセルフエクチン試薬(以上GIBCOBRL社製)、トランスフェクタム試薬、トランスファスト試薬、Tfx-10試薬、Tfx-20試薬およびTfx-50試薬(以上Promega 社製)等を用いることができる。

【0021】
(ハ)カイコへのウイルスDNAの接種;上記(ロ)で調製した注射液10μlをカイコ5齢幼虫13個体に接種したところ、そのすべてが発病した。

【0022】

【比較例】〔比較例1~3〕上記実施例1の注射液10μlに代えて、蒸留水10μl(比較例1)、ウイルスDNA濃度が10ng/μlの水溶液10μl(比較例2)、およびカチオン性脂質濃度が1μg/μlの水溶液10μl(比較例3)を、それぞれ用いた以外は、実施例と同様の条件で注射液をカイコ5齢幼虫に接種(比較例1;10個体、比較例2;12個体、比較例1;11個体)した。以上の結果を〔表1〕に示す。また、参考までに無処理(無接種・5個体)のものを参考例として掲げた。なお、ウイルスDNAのみの経口接種およびDMRIE-Cと混合したウイルスDNAの経口接種ではカイコが発病しないことを別途確認した。

【0023】

【表1】
JP0002969181B1_000002t.gif【0024】〔結果〕〔表1〕に示されるように、蒸留水の経皮接種、ウイルスDNAのみの経皮接種およびDMRIE-C液のみの経皮接種ではいずれもカイコが発病しないのに対し、ウイルスDNAとカチオン性脂質を含む水溶液の経皮接種では100%発病していることからみて、ウイルスから分離精製したウイルスDNAをカチオン性脂質を含む水溶液と混合した場合には、ウイルスDNAを直接宿主へ感染導入させ、ウイルスを増殖させることができることが確認される。

【0025】
ウイルスDNAにカチオン性脂質を含ませた場合に、経皮接種が有効に機能する理由は、ウイルスDNAのみでは昆虫の体液中の酵素あるいは血球細胞によってDNAが破壊、分解されてしまうのに対し、カチオン性脂質を含ませた場合には、DNAが該カチオン性脂質の小胞内部に保護されるとともに、該脂質小胞と宿主の細胞膜とが良好な親和性を有するために両者は融合し、その結果、脂質小胞内部のDNAが宿主細胞内部へ有効に到達することによるものと推測される。

【0026】

【発明の効果】本発明は、有用なタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウイルス等をカイコ等の昆虫に接種して感染させ、増殖して有用物質を大量生産する場合に、ウイルスによる環境汚染の恐れが全くない。また、安全で且つ簡単な操作で、効率よく有用物質を生産することができる。