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明細書 :トランスジェニック動物の作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3735655号 (P3735655)
公開番号 特開2003-180197 (P2003-180197A)
登録日 平成17年11月4日(2005.11.4)
発行日 平成18年1月18日(2006.1.18)
公開日 平成15年7月2日(2003.7.2)
発明の名称または考案の名称 トランスジェニック動物の作出方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
A01K  67/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027
A01K 67/02 ZNA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2001-380370 (P2001-380370)
出願日 平成13年12月13日(2001.12.13)
審査請求日 平成13年12月13日(2001.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】後藤 英夫
【氏名】今村 憲吉
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
審査官 【審査官】内藤 伸一
参考文献・文献 特表2000-523468(JP,A)
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/00
PubMed
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
幼若雄精巣又は成熟雄陰睾精巣に連結した輸出管より上行性に目的DNA断片を含む溶液を注入し、
その後、上記精巣から得られた精子を用いて交配することを特徴とする
トランスジェニック非ヒト動物の作出方法。
【請求項2】
上記目的DNA断片を精祖細胞の幹細胞及び/又は精母細胞に導入することを特徴とする請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物の作出方法。
【請求項3】
自然交配により、上記精巣から得られた精子を受精させることを特徴とする請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物の作出方法。
【請求項4】
上記目的DNA断片を含む溶液は、遺伝子導入用試薬を含むことを特徴とする請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物の作出方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、所望のDNA断片を導入してなるトランスジェニック動物の作出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1983年にGordonらが受精直後の1細胞期胚の前核に顕微鏡観察下でマイクロピペットおよびマイクロマニピュレーターを用いてDNA溶液を注入する技術により遺伝子導入動物(トランスジェニック動物)を作出する方法を発表した。以来、この方法がトランスジェニック動物の作出方法として広く一般に用いられている。
2001年10月現在、学術論文データベースMedlineには23,045件のトランスジェニックマウス(transgenic AND (mouse OR mice))に関する論文が登録されている。しかし、この方法は熟練度の高い技術が必要なこと、数多くの動物を使用する必要があることといった問題点がある。
【0003】
例えば、熟練した技術者は一日に約100~200個の受精卵にDNAを注入している。この数の受精卵を得るためには、一般によく使用されるC57BL/6J系統マウスの場合、13~25匹の雌マウスを犠牲にして自然交配によって受精卵を得るか、あるいは人工的にホルモンを投与することによって少し少ない数の雌マウスを犠牲にしなければならない。自然交配の方法を行う場合、雌マウスの性周期が5日であるため、特定の日に100~200個の受精卵を得るためには65~125匹の雌マウスを用意する必要がある。DNAの注入を行った細胞のうちで次のステップである受精卵移植可能な細胞は50~80%であり、移植後出産される数はさらに50~80%の効率である。
【0004】
生まれた個体のうち注入したDNAがゲノムに導入される効率は、注入されるDNAの構造、技術者の熟練度などにより異なるが、5%以下であることが一般的である。すなわち、全体的な効率を考慮すると、100~200個の受精卵にDNAを注入し場合、最大限5~10匹のトランスジェニックマウスの作出が見込まれる。ただし、このような効率で遺伝子導入マウスが作出されることは稀であり、一般的には更に1桁近く効率が低いことが現実である。
【0005】
この方法はすでに確立された方法であるため、さらなる効率の向上を望むことは困難である。この方法の欠点は、▲1▼受精卵採取、DNA注入、および受精卵移植というように作業ステップ数が多いこと、▲2▼DNA注入については、マイクロマニピュレーター等の高額機器を必要とするとともに、高度な熟練技術を必要とすること、さらに、▲3▼C57BL/6J系統、FVB系統、F1ハイブリッド系など限られた系統の動物しか用いられていないことなどが挙げられる。特に、「▲3▼」の系統の問題に関しては、他の系統を用いた場合に全体的な効率がさらに低下することがあるため、理論上では可能なものの現実的には行われていないのが現状である。このことは、作出された遺伝子導入動物の使用範囲に限界があることをあらわしている。他の動物種、例えばラット(Swansonら、1992)、ウサギ(Hammerら、1985)、ブタ(Hammerら、1985)、ヒツジ(Hammerら、1985)、ヤギ(Ebertら、1991)、ウシ(Bondioliら、1991)などについても、同様の方法で遺伝子導入動物が作出されている。しかし、マウスよりも大型の動物は経済的理由により多くの困難が伴うことは当然である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上述したような実状に鑑み、容易且つ優れた効率で目的DNA断片を導入することができ、また、幅広い動物に適用することができるトランスジェニック動物の作出方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するために、本発明者が鋭意検討した結果、精祖細胞の幹細胞又は精母細胞の核内に目的のDNA断片を導入し、当該DNA断片で組み換えられた染色体を有する精子を用いてトランスジェニック動物を作出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)精巣に連結した輸出管より上行性に目的DNA断片を含む溶液を注入し、その後、上記精巣から得られた精子を用いて交配することを特徴とするトランスジェニック動物の作出方法。
(2)上記精巣として幼若雄精巣を用いることを特徴とする(1)記載のトランスジェニック動物の作出方法。
(3)上記精巣として成熟雄陰睾精巣を用いることを特徴とする(1)記載のトランスジェニック動物の作出方法。
【0008】
(4)上記目的DNA断片を精祖細胞の幹細胞及び/又は精母細胞に導入することを特徴とする(1)記載のトランスジェニック動物の作出方法。
(5)自然交配により、上記精巣から得られた精子を受精させることを特徴とする(1)記載のトランスジェニック動物の作出方法。
(6)上記目的DNA断片を含む溶液は、遺伝子導入用試薬を含むことを特徴とする(1)記載のトランスジェニック動物の作出方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るトランスジェニック動物の作出方法について詳細に説明する。
本発明は、遺伝子を含むDNA断片により形質転換した動物(トランスジェニック動物)を作出する方法である。本方法において、動物としては、特に限定されないが、非ヒト動物である脊椎動物を挙げることができる。脊椎動物として、ラット、マウス、ハムスター、ブタ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、サル等の哺乳類動物、鶏等の鳥類、メダカ等の魚類を挙げることができる。
【0010】
本方法では、まず、DNA断片を含む溶液を準備する。本発明において、DNA断片は、いかなる遺伝子を含んでいてもよく、また、コード領域を含まないものであってもよい。DNA断片は、いわゆる遺伝子導入試薬に溶解させることで溶液とする。
【0011】
遺伝子導入試薬とは、少なくとも脂質を含む試薬を意味する。遺伝子導入試薬を用いることによって、当該脂質と目的のDNA断片との間に複合体を形成し、細胞内にDNAを導入することができる。ここで、遺伝子導入試薬に含まれる脂質としては、複数種類のポリアミン脂質、カチオン性脂質、ポリカチオン性脂質、コレステロール、中性脂質、カチオン性ポリアミン脂質等を挙げることができる。カチオン性脂質としては、DMRIE(1,2-ジミリスチルオキシプロピル1-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド)、DOTMA(N-[1-(2,3ジオレイロキシ)プロピル]-n,n,n-トリメチルアンモニウムクロライド)及びYKS-220等を挙げることができる。ポリカチオン性脂質としては、2,3ジオレイオキシ-N-2(スペルミンカルボキサミド)エチル-N,n-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート等を挙げることができる。中性脂質としては、DOPE(ジオレオイルフォスフォチジルエタノールアミン)等を挙げることができる。ポリカチオン性脂質としては、カチオニックリポポリアミン等を挙げることができる。
【0012】
また、遺伝子導入試薬には、リポフェクトアミン、ポリエチレンイミン、3b-[N-(n,n’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール、N-t-ブチル-N’-テトラデシルアミノプロピオンアミジン、N-[1-(2,3-ジオレオイロキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルスルフェイト及び1,3-ジ-オレオイロキシ-2-(6-カルボキシスペルミル)-プロピルアミド等の脂質が含まれるものであってもよい。
【0013】
また遺伝子導入用試薬としては、市販されているものを使用することができる。市販されている遺伝子導入試薬としては、例えば、Effectene (Qiagen社製), TransIT LT1(Takara社製), TransIT LT2 (Takara社製), TransIT 100 (Takara社製), TransIT In Vivo (Takara社製), DMRIE-C (Gibco社製), Lipofectamine Plus (Gibco社製), Lipofectamine (Gibco社製), Lipofectin (Gibco社製), ExGEN 500 (Wako社製), DAC30 (Wako社製), Transome (Wako社製), CLONfectin (Clontech社製), Transfectam (Bioseptra社製), DOTAP (Boehringer Mannheim社製), Dosper (Boehringer Mannheim社製), Fugene 6 (Boehringer Mannheim社製)を例示することができる。そして、市販の遺伝子導入試薬を用いる場合には、添付の操作手順説明書に従ってDNA断片を含む溶液を調整することができる。
【0014】
本方法では、導入目的のDNA断片を含むDNA溶液を精巣内に注入する。このとき、DNA溶液は、精巣に連結した輸出管より上行性に注入する。ここで、例えば、輸出管を切開し、切開部位から微細ガラス管を輸出管内に挿入することによって、この状態で微細ガラス管を介してDNA溶液を注入することができる。
【0015】
輸出管より上行性にDNA溶液を注入すると、精巣内に詰まっている精細管にDNA溶液が浸潤する。ここで、精巣としては、幼若雄精巣又は成熟雄陰睾精巣を用いることが好ましい。幼若雄精巣とは、性成熟に達しない雄、すなわち、成熟精子が精巣内に出現する以前の雄動物の精巣を意味する。例えば、マウスの場合には、例えば、誕生直後から約40日令までの精巣を意味する。また、成熟雄陰睾精巣とは、性成熟に達した雄の精巣を、外科的処置により腹腔内に固定することにより、精子発生後段の細胞を可逆的に消失させた精巣を意味する。例えば、マウスの場合、生後2ヶ月令の成熟雄マウスの精巣を外科的手術によって腹腔内上腹部に固定し、約2週間飼育することにより作出することができる。
【0016】
幼若雄精巣では、輸出管及び精細管に空腔が形成されるため、輸出管より上行性にDNA溶液を注入することによって精細管内に当該DNA溶液を浸潤させることができる。一般に、哺乳動物では、誕生時に精巣精細管内には体細胞であるセルトリ細胞および精祖細胞のみが存在し、誕生後、精祖細胞が分化し、性成熟とともに精子が生産されるようになる。誕生時以降、数日間の精巣精細管には管空が無く、輸出管からDNA溶液を注入することは出来ない。しかしながら、哺乳動物において、幼若期となると管空が空くため、DNA溶液を注入することができる。特に、幼若期の初期においては、精細管内の生殖細胞が精祖細胞のみであるため、精巣へDNA溶液を注入することによって精祖細胞のみにDNA断片を導入することができる。また、幼若期の初期を過ぎると、精細管内の生殖細胞が精祖細胞及び精母細胞から構成され、精巣へDNA溶液を注入することによって精祖細胞の幹細胞及び精母細胞にDNA断片を導入することができる。
【0017】
例えば、C57BL/6J系統マウスにおいては、図1「d7(生後7日令、以下同様)」に示すように、幼若期以前では管空が空いていないが、図1「d8」及び「d9」に示すように、幼若期の初期で管空が形成されるとともに精祖細胞のみが露出している。さらに、図1「d10」、「d11」及び「d12」に示すように、幼若期の初期を過ぎると、精母細胞が増加している。したがって、C57BL/6J系統マウスにおいては、生後8日令~9日令の間で精巣にDNA溶液を注入することによって、精祖細胞のみにDNA断片を導入することができる。また、C57BL/6J系統マウスにおいては、生後10日令以降の幼若期にDNA溶液を注入することによって、精祖細胞及び/又は精母細胞にDNA断片を導入することができる。
【0018】
また、成熟雄陰睾精巣では、大部分の精細管において精母細胞以降の発生段階の生殖細胞(第2次精母細胞、精娘細胞、精子細胞、精子)がアポトーシスによって消失しており、精細管の管空側に精母細胞が露出している。さらに、成熟雄陰睾精巣では、生殖細胞の配列に乱れが生じて生殖細胞間に空所が認められる。このため、成熟雄陰睾精巣においては、輸出管より上行性にDNA溶液を注入することによって、露出した精母細胞にDNA断片を導入できるとともに、生殖細胞間の空所を経由して精祖細胞の幹細胞へもDNA断片を導入することができる。
【0019】
例えば、C57BL/6J系統マウスにおいては、図2「無処置成熟雄精巣」に示すように、生後2週令の成熟雄精巣に精母細胞以降の発生段階の生殖細胞が存在しているが、図2「成熟雄陰睾精巣」に示すように、生後2週令の成熟雄陰睾精巣に精母細胞が露出するとともに生殖細胞の配列に乱れが生じ、生殖細胞間に空所が認められる。このため、C57BL/6J系統マウスにおいては、成熟雄陰睾精巣を作出し、この成熟雄陰睾精巣にDNA溶液を注入することによって、精祖細胞及び/又は精母細胞にDNA断片を導入することができる。
【0020】
目的のDNA断片が導入されたか否かは、上述したような処置を施した雄から精子を取り出し、当該精子中に上記DNA断片に由来する領域が存在するか否かを検出することによって判別することができる。具体的には、処置を行った雄の精巣上体尾部より精子を採取し、当該遺伝子の発現の検査を行うことによって、目的のDNA断片が導入されたか否かを判別することができる。
【0021】
注入されたDNA断片は、ゲノム内に組み込まれない場合、時間とともに細胞内のDNA消化酵素による分解をうけるため、約2週間後には遺伝子発現が認められなくなることが知られている。言い換えると、DNA断片の注入後、2週間以内であれば、細胞核内に留まり分解を受けずに存在するDNA断片に含まれる遺伝子の発現が認められる可能性があるものの、この期間を越えて遺伝子発現が認められる場合、注入したDNA断片がゲノムに組み込まれていると考えられる。
【0022】
さらに、長期飼育後においてもDNA断片に含まれる遺伝子の発現が認められる場合には、精祖細胞の幹細胞にDNA断片が導入されたことを示唆している。言い換えると、本方法において、精祖細胞の幹細胞にDNA断片を導入することによって、当該DNA断片を組み込まれた生殖細胞又は精子を長期間に亘って生産することができる。
一方、精母細胞においては、減数分裂の過程で全ての染色体において遺伝子の相同組換えが起こるため、DNA断片がゲノム内へ高い効率で導入される。但し、精母細胞へDNA断片が導入された場合には、DNA断片を導入した精子が一過性にしか生産されないことになる。
【0023】
本方法では、上述したように、目的のDNA断片を含む溶液を注入した雄を所定の期間飼育した後、当該雄の精子を用いて交配する。目的のDNA断片を含む溶液を注入した雄は、精子発生の1サイクルに要する機関、例えばマウスの場合、約5週間以上飼育することが好ましい。また、当該雄を用いた交配には、自然交配を行うことが好ましい。交配によって得られた産仔が目的のDNA断片を有するか否かは、例えば、産仔から染色体DNAを抽出し、当該染色体DNAを鋳型としたPCRを行い、増幅されたPCR産物を解析することによって行うことができる。
【0024】
上述した方法においては、精巣に連結した輸出管より上行性に目的DNA断片を含む溶液を注入することによって、精祖細胞の幹細胞及び/又は精母細胞に当該目的DNA断片を導入することができる。精祖細胞の幹細胞及び/又は精母細胞に目的DNA断片を導入することによって、精巣からは、目的DNA断片で組み換えが起こった精子が生産されることとなる。したがって、この精子を用いて交配させることによって、目的DNA断片で組み替えられたトランスジェニック動物を作出することができる。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
<1.DNA溶液の調整>
市販の遺伝子導入用試薬、商品名Effectene(Qiagen社製)を用い、添付の取扱説明書に従ってDNA溶液を調製した。この際、雄生殖細胞の短期培養に用いられるEKRB液(O'Brien,D.A. Methods Toxicol. 1993, 3A: 246-264. Isolation, separation, and short-term culture of spermatogenic cells. )を培養液として用いた。
【0026】
DNA断片としては、図3に模式的に示すように、市販のpEGFP-Fプラスミド(Clontech社)を制限酵素EcoO 109Iで切断した4.8 kb断片を用いた。また、DNA溶液には、注入確認を目的としたトリパンブルー色素を最終濃度0.04%となるように加えた。さらに、これを0.22μm 濾過フィルターで濾過することによってDNA溶液を調整した。
【0027】
<2-1.幼若雄精巣へのDNA溶液の注入>
上記1.で調整したDNA溶液を、生後8日令から17日令までのC57BL/6J系統マウス精巣に注入した。C57BL/6J系統マウスは、40 mg/kgのケタミン及び8 mg/kgのキシラジンを皮下投与することにより麻酔するとともに、エーテルの吸入により補助麻酔を行った。麻酔導入後、下腹部を切開し、図4に模式的に示すように、実体顕微鏡下でDNA溶液の注入を行った。DNA溶液の注入は片側の精巣にのみ行い、他方の精巣は切除した。微細ガラス管の操作は手動で行い、溶液の注入にはシリンジポンプを用いた。トリパンブルー色素の分布により、DNA溶液の注入を確認することができた。
【0028】
<2-2.成熟雄陰睾精巣へのDNA溶液の注入>
上記1.で調整したDNA溶液を、生後2ヶ月令の成熟C57BL/6J系統マウス精巣に注入した。具体的には、Itoらの方法(Ito K, Tanemura K, Gotoh H, Kurohmaru M, Hayashi Y J Vet Med Sci 1997 May ; 59(5) : 353-9 Apoptosis-like cell death in experimentally-induced cryptorchidism in adult mice.)に従い、生後2ヶ月令の成熟雄マウスの精巣を、外科的手術により腹腔内上腹部に固定し2週間飼育することにより陰睾精巣を作出した。次に、陰睾精巣を作出したマウスを腹腔内に、ケタミン 80mg/kg、キシラジン 16mg/kgを投与することによって麻酔を行った。DNA溶液の注入は、上記2-1.と同様に行った。DNA溶液の注入は片側の精巣にのみ行い、他方の精巣は切除した。注入後、精巣は手術用縫合糸により陰嚢内に固定した。
【0029】
<2-3.成熟雄精巣へのDNA溶液の注入>
上記1.で調整したDNA溶液を、生後2ヶ月令の成熟C57BL/6J系統マウス精巣に注入した。本例は、無処置の成熟雄マウスの精巣内に、上記2-1.と同様にしてDNA溶液を注入した例である。なお、無処置の成熟雄マウスの精巣内には、精祖細胞から精子に至るまでの全ての発生段階の生殖細胞が存在し、最も管空側にある細胞は精子が存在する。
【0030】
<3.遺伝子発現の検証、結果及び考察>
上記2-1、2-2及び2-3で処置を施した雄マウスの精子を精巣上体尾部より採取し、DNA断片に含まれる遺伝子の発現の検査を行った。すなわち、採取した精子における遺伝子の発現を検査することによって、DNA溶液に含まれるDNA断片が導入されたか否かを検証することができる。具体的には、EGFP-Fタンパク質の精子における局在を蛍光顕微鏡で観察することによって、DNA断片に含まれる遺伝子発現の検定を行った。なお、EGFP-Fタンパク質は細胞膜の内側に局在するタンパク質で、最大励起波長488ナノメーター、最大吸収波長510ナノメーターの光学特性を持つ蛍光物質である。EGFP-Fタンパク質が精子で発現した場合、細胞全体に蛍光物質が観察される。マウスの精子においては、このような光学特性を示す物質がないため、蛍光顕微鏡を用いた観察により遺伝子発現の検定を行うことが出来る。観察には、型式DMIRB倒立蛍光顕微鏡、L5蛍光フィルター(いずれもライカマイクロシステムズ社、東京)を用いた。
【0031】
その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
JP0003735655B2_000002t.gif【0033】
幼若雄精巣へ注入を行った個体(上記2-1、表1中「幼若精巣」と記載する)および成熟雄陰睾精巣へ注入を行った個体(上記2-2、表1中「成熟陰睾」と記載する)においては、図5(b)に示すように、所定の蛍光を呈する精子を確認することができた。なお、図5(a)には、コントロールとしてDNA溶液を注入していないC57BL/6J系統マウスから抽出した精子を示す。また、無処置成熟雄精巣へ注入を行った個体(上記2-3、表1中「成熟精巣」と記載する)の精子においては、所定の蛍光を呈する精子を確認することができなかった。
また、表1から判るように、DNA溶液の調整に遺伝子導入試薬を用いなかった実験群では、今回の実験では遺伝子発現は認められなかった。さらに、表1に示すように、長期飼育後に遺伝子発現の認められる精子が観察されたことから、精祖細胞の幹細胞に遺伝子が導入されたことが示唆された。
【0034】
<4.自然交配によるトランスジェニックマウスの作出>
上記2-1、2-2及び2-3で処置を施した雄マウスを5週間以上飼育した後、C57BL/6J系統雌マウスに対して自然交配を行わせた。そして、妊娠した雌マウスから産仔を得た。産仔ゲノムの解析は、Southern法により行った。Southern法は、5μgのゲノムDNAをHindIIIにより消化し、導入遺伝子特異的なオリゴDNA 5’-TTTTGGCACCAAAATCAACG-3’(配列番号1) および 5’-TTCATTTTATGTTTCAGGTTCAG-3’(配列番号2)によって増幅した1.0kbのDNA断片をプローブとし、定法(Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T. 1989 Molecular Cloning. (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, NY, U. S. A.))に従い解析を行った。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
JP0003735655B2_000003t.gif【0036】
表2から判るように、幼若雄精巣および成熟雄陰睾精巣とも、遺伝子導入試薬を用いて調整したDNA溶液を注入した個体(個体番号:R63A,R66A,R85A及びR23A,R37A)からは、遺伝子導入動物が作出された。一方、DNA溶液調製に遺伝子導入試薬を用いなかった個体(個体番号:R75A,R75B,R83A,R83B)及び無処理成熟雄精巣へのDNA溶液注入を行った個体(個体番号:C11A,C12A,C21A,C21B)からは、遺伝子導入動物が作出されなかった。このことから、DNA溶液調製に遺伝子導入試薬を用いない場合及び無処置成熟雄精巣へDNA溶液を注入した場合には、遺伝子導入動物を作出できないことを示唆している。
【0037】
図6にSouthern法による導入遺伝子の検定結果を示した。図6に示す電気泳動写真において、レーン1は近交系マウスC57BL/6個体(コントロール)であり、レーン2~8は幼若精巣にDNA溶液を注入したR66個体の子孫であり、レーン9~16は、レーン4の個体(遺伝子の導入が確認された個体)の子孫である。図6のレーン4に示すように、本方法により遺伝子が導入されていることを確認することができた。さらに、図6のレーン12~16に示すように、遺伝子が導入された個体(レーン4)の子孫においても、導入遺伝子に起因するバンドを確認できることから、当該導入遺伝子が子孫に伝達されていることが判る。また、レーン4で確認されたバンドと、レーン12~16で確認されたバンドが同じ位置であることは、導入遺伝子はゲノム中の1カ所に組み込まれたことを示唆している。
【0038】
【配列表】
SEQUENCE LISTING
<110> National Agricultural Research Organization and Hideo Gotou
<120> A method for generating a transgenic animal
<130> P01-0036
<160> 2
<170> PatentIn Ver. 2.0
<210> 1
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence:Primer
<400> 1
ttttggcacc aaaatcaacg 20
<210> 2
<211> 23
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence:Primer
<400> 2
ttcattttat gtttcaggtt cag 23
【0039】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1及び2は、合成プライマーである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 C57BL/6J系統マウスの幼若期における精巣の発達を示す実体顕微鏡写真である。
【図2】無処置の成熟雄精巣及び成熟雄陰睾精巣を示す実態顕微鏡写真である。
【図3】実施例で用いたDNA断片の構成を示す模式図である。
【図4】精巣に対するDNA溶液の注入方法を示す模式図である。
【図5】 DNA溶液を注入した精巣から得た精子におけるDNA断片の発現を確認するための実態顕微鏡写真である。
【図6】 Southern法による導入遺伝子の検定結果を示した電気泳動写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5