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明細書 :カイコ卵へのポリヌクレオチドの効率的導入方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4132760号 (P4132760)
公開番号 特開2003-088273 (P2003-088273A)
登録日 平成20年6月6日(2008.6.6)
発行日 平成20年8月13日(2008.8.13)
公開日 平成15年3月25日(2003.3.25)
発明の名称または考案の名称 カイコ卵へのポリヌクレオチドの効率的導入方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/033       (2006.01)
A01K  67/04        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 B
A01K 67/033
A01K 67/04 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2001-284927 (P2001-284927)
出願日 平成13年9月19日(2001.9.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年3月22日~23日 開催の「日本蚕系学会第71回学術講演会」において文書をもって発表
審査請求日 平成15年6月24日(2003.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】田村 俊樹
【氏名】神田 俊男
【氏名】全 国興
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 特公平05-055101(JP,B2)
蚕糸昆虫研報,1991年,vol. 2,31-46
日本蚕糸学会第71回学術講演会 2001 講演要旨集,2001年 3月22日,54 (324)
木村滋 編,第4章 遺伝子を組み換えた昆虫,昆虫バイオ工場,2000年 9月19日,初版,154-167
高見丈夫,蚕種総論,1969年,初版
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 5/00- 5/10
A01K 67/033
A01K 67/04
JSTPlus(JDreamII)
AGRICOLA/BIOSIS(STN)
CROPU/WPIDS(STN)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
トランスジェニックカイコの作製に利用するための、カイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法であって、該卵の背側の側面の位置にポリヌクレオチド注入用の管を、挿入角度が該卵の背側の側面に対して80°から90°となるように卵内に挿入し、卵の背側の卵表から0.01mm0.05mmの位置にポリヌクレオチドを注入することを特徴とする方法。
【請求項2】
以下の(a)および(b)の工程を含む、トランスジェニックカイコの作製に利用するための、カイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法。
(a)カイコ卵の背側の側面に針で穴を空ける工程
(b)ポリヌクレオチド注入用の管を、挿入角度が該卵に対して80°から90°となるように該穴から卵内に挿入し、卵の背側の卵表から0.01mm0.05mmの位置にポリヌクレオチドを注入する工程
【請求項3】
針とポリヌクレオチド注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
カイコ卵が基板に固定されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法により、カイコ卵にポリヌクレオチドを導入する工程を含むことを特徴とするトランスジェニックカイコの作製方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、効率的にトランスジェニックカイコを作出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カイコ(Bombyx mori)に外来遺伝子を導入し、トランスジェニックカイコを作ることは長い間できなかった。2000年になってようやく、他の昆虫で見いだされたトランスポゾンを利用することによって、トランスジェニックカイコを作る方法が開発された(Tamura,T., Thibert,C., Royer,C., Kanda,T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C., and Couble, P. (2000). A piggyBac-derived vector efficiently promotes germ-line transformation in the silkworm Bombyx mori L. Nature Biotech., 18, 81-84.)。
【0003】
これはDNA型のトランスポゾンを持つプラスミドに外来遺伝子を挿入し、得られたプラスミドを大腸菌中で増殖し、精製したものをカイコの卵に注射する方法である(図1)。この場合、カイコの卵殻が固いため卵への注射は2つのマニピュレーターに別々に固定したタングステン針とガラスキャピラリーを用い、タングステン針で空けた卵の穴に、ガラスキャピラリーを誘導して卵内に挿入し、DNAを注射する方法がとられていた。また、卵は産卵台紙に産卵したものをそのまま紙と共にスライドグラスに張り、注射に用いられている。しかし、この方法では卵へのDNAの注射に熟練が必要で、特にタングステン針で空けた卵表面の穴にガラスキャピラリーをガイドし、キャピラリーの先端を卵内に挿入するのが困難であった。さらに、卵へのキャピラリーの挿入角度を低くすることができず、卵内への注射部位を自由に設定することが困難であった。実際に、従来の方法でトランスジェニックカイコを作出した場合の出現率は約1%と低く、このことが上記トランスジェニックカイコの作出方法を利用する面での大きな障害となっていた。これに加え、トランスポゾンを利用して卵にDNAを注射しトランスジェニック個体を作る場合、別の外来遺伝子を挿入すると全体として挿入する遺伝子のサイズが大きくなり、このことによってトランスジェニック個体の出現率が著しく低下することが知られている。そのため、目的とする外来遺伝子が挿入されたトランスジェニックカイコを作出するためには、従来の方法では非常に多くの労力を必要とした。
【0004】
トランスジェニックカイコは医薬品等のカイコでの生産や耐病性の品種の作製、新しい形質を付与した絹の生産等の多くの実用的な分野で利用できる。そのため、従来の技術を改良し、トランスジェニックカイコの作出効率を高める方法の開発が強く望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、効率的にトランスジェニックカイコを作出する新規な方法を開発することである。より詳細には、効率的なカイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法および該ポリヌクレオチド導入方法を用いた効率的なトランスジェニックカイコの作製方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。まず、DNA導入用の装置の構築を行った。これまで別々のマニュピュレーターで操作していたタングステン針とガラスキャピラリーを一体型のマニュピュレーターに固定することで、マニュピュレーターのレバー操作によってタングステン針で空けた卵表面の穴にガラスキャピラリーを容易に挿入できるようになった。さらに、卵の方向を揃えてスライドグラス上に固定する方法を開発した。上記の装置と方法を使用することで、カイコ卵内の目的の位置へのDNAの導入が著しく容易になった。これら装置を使用してガラスキャピラリーをカイコ卵の背側の側面に対してほぼ垂直方向に挿入してポリヌクレオチドを注入したところ、驚くべきことに、トランスジェニックカイコの作出効率が従来の方法の10倍以上になることが明らかとなった。これらの結果は、効率的なカイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法、および該ポリヌクレオチドの導入方法を用いた効率的なトランスジェニックカイコの作製方法が開発されたことを示すものである。
【0007】
開発されたトランスジェニックカイコの作製方法は、医薬品を生産できる品種の作製方法、耐病性等の新しい形質を付与した絹の生産等に用いる実用品種の作製方法等として医薬品製造分野や農産業分野等において利用されるものと大いに期待される。
【0008】
即ち、本発明は、効率的にトランスジェニックカイコを作出する方法に関し、より具体的には、
〔1〕カイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法であって、ポリヌクレオチド注入用の管を、挿入角度が該卵の背側の側面に対してほぼ垂直となるように卵内に挿入し、ポリヌクレオチドを注入することを特徴とする方法、
〔2〕以下の(a)および(b)の工程を含む、カイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法、
(a)カイコ卵に針で穴を空ける工程
(b)ポリヌクレオチド注入用の管を、挿入角度が該卵に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入し、卵内にポリヌクレオチドを注入する工程
〔3〕針とポリヌクレオチド注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用する、〔2〕に記載の方法、
〔4〕将来的に生殖細胞になる位置にポリヌクレオチドを注入する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕カイコ卵が基板に固定されている、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法、
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法により、カイコ卵にポリヌクレオチドを導入することを特徴とするトランスジェニックカイコの作製方法、
〔7〕〔6〕の方法により作製されたトランスジェニックカイコ、を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、カイコ卵へのポリヌクレオチドの新たな導入方法を開発し、この方法を利用することで効率的にトランスジェニックカイコを作製できることを見出した。従って本発明は、カイコ卵へのポリヌクレオチド導入方法を提供する。具体的には、カイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法であって、ポリヌクレオチド注入用の管を、挿入角度が該卵の背側の側面に対してほぼ垂直となるように卵内に挿入し、ポリヌクレオチドを注入することを特徴とする方法を提供する。
【0010】
本発明におけるカイコ卵としては、産卵後一定時間以内の卵であることが好ましい。この一定時間とは、注射したDNAが生殖細胞に取り込まれ、細胞中で機能し得る時間であれば、特に限定されず、通常、胚発生の初期で胞胚期以前の卵、即ち産卵後8時間以内の卵であり、好ましくは、2~6時間である。
【0011】
本発明の上記方法は、ポリヌクレオチドを導入したい所望のカイコ品種(例えば、実用品種である「200」や実験系統であるpnd-w1等)から産下した卵に適用可能であり、実験系統であるpnd-w1から産下した卵に対して好適に実施することができる。
【0012】
本発明における上記ポリヌクレオチドとしては、DNAまたはRNAの両方が含まれ、具体的には、遺伝子DNA、遺伝子の転写産物であるRNA、アンチセンスRNA/DNA、遺伝子DNAを含むベクター、トランスポゾンを含むベクター、2重鎖のRNA等を例示することができる。
【0013】
本発明においては、カイコ卵へポリヌクレオチド注入用の管を直接卵内へ挿入することが可能であるが、好ましい態様としては、前もって物理的または化学的に卵殻に穴を空け、ポリヌクレオチド注入用の管を挿入角度が該卵の背側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入する。
【0014】
本発明において、物理的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば針、微小レーザー等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。好適には針を用いた方法によって卵殻に穴を空けることができる。該針は、カイコの卵殻に穴を空けることができるものであれば、その針の材質、強度等は、特に制限されない。なお、本発明における針とは、通常、先端が尖った棒状の針を指すが、この形状に限定されず、卵殻に穴を空けることができるものであれば、全体の形状は特に制限されない。例えば、先端の尖ったピラミッド型の物質、または先端の尖った三角錐の形状の物質もまた、本発明の「針」に含まれる。本発明においては、タングステン針を好適に使用することができる。本発明の針の太さ(直径)は、後述のキャピラリーが通過可能な穴を空けることができる程度の太さであればよく、通常2~20μm、好ましくは5~10μmである。一方、化学的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば薬品(次亜塩素酸等)等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。
【0015】
本発明において、穴を空ける位置としては、該穴からポリヌクレオチド注入用の管を挿入した場合に卵の背側の側面に対する挿入角度を、ほぼ垂直にできる位置ならば特に制限はないが、好ましくは背側の側面またはその反対側であり、より好ましくは背側の側面であり、さらにより好ましくは卵の背側側面のやや降誕よりの中央部である。
【0016】
本発明において、「ほぼ垂直」とは、70°~120°を意味し、好ましくは80°~90°を意味する。
【0017】
本発明において、「将来的に生殖細胞になる位置」としては、通常、卵の背側の卵表に近い位置(通常、卵表から0.01mm~0.05mmの位置)であり、好ましくは、卵の背側中央の卵表に近い位置でやや後極よりの位置である。
【0018】
本発明のポリヌクレオチド注入用の管は、その管の材質、強度、内径等は特に制限されないが、ポリヌクレオチド注入用の管を挿入する前に、物理的または化学的に卵殻に穴を空ける場合は、空けられた穴を通過できる太さ(外径)であることが好ましい。本発明のポリヌクレオチド注入用の管としては、例えば、ガラスキャピラリー等を挙げることができる。
【0019】
本発明のポリヌクレオチドの導入方法において、好ましい態様としては、上記のカイコ卵に物理的または化学的に穴を空け、ポリヌクレオチド注入用の管を挿入角度が該卵の背側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入し、ポリヌクレオチドを注入する工程を、針とポリヌクレオチド注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用して行う。通常、該マニュピュレーターを構成要素の1つとする装置を使用して本発明は好適に実施される。
【0020】
このような装置としては、図2および3に示したように解剖顕微鏡、照明装置、可動式のステージ、顕微鏡に金具で固定した粗動マニュピュレーター、このマニュピュレーターに付けたマイクロマニュピュレーター、DNAを注射するための空気圧を調整するインジェクターから構成されている。インジェクターに用いる圧力は窒素ボンベから供給され、圧力のスイッチはフットスイッチによっていれることができる。注射はガラススライド等の基板上に固定した卵に対して行い、卵の位置は移動式のステージによって決める。また、マイクロマニュピュレーターのガラスキャピラリーは4本のチューブで繋がれた操作部によって操作する。実際の手順は、図4に示したように、卵に対するタングステン針の位置を粗動マニュピュレーターで決め、ステージのレバーで水平方向に卵を動かし穴を空ける。続いて、マイクロマニュピュレーターの操作部のレバーを操作して、穴の位置にガラスキャピラリーの先端を誘導し、再びステージのレバーによりキャピラリーを卵に挿入する。この場合、卵の背側の側面に対し垂直にガラスキャピラリーが挿入される必要がある。フットスイッチを入れDNAを注射し、レバーを操作して卵からキャピラリーを抜く。空けた穴を瞬間接着剤等でふさぎ、25℃、80~90%の湿度のインキュベーターで保護する。
【0021】
本発明に使用される装置としては、好適には、特許第1654050号に記載の装置または該装置を改良した装置が挙げられる。
【0022】
また、本発明の態様においては、ポリヌクレオチドの導入に用いるカイコ卵が基板に固定されていることが好ましい。本発明の基板として、例えば、スライドグラス、プラスチック板等を用いることができるが、これらに特に制限されない。
【0023】
本発明の上記態様においては、カイコ卵内の将来的に生殖細胞になる位置に正確にポリヌクレオチドを注射するために、卵の方向を揃えて固定することが望ましい。
【0024】
また、上記態様においては、基板へ固定するカイコ卵の数には、特に制限はない。また、複数個のカイコ卵を用いる場合、カイコ卵を基板へ固定する方向性としては、好ましくは背腹の向きが一定となるような方向である。
【0025】
本発明の上記カイコ卵の基板への固定は、例えば、水性の糊をあらかじめ塗布した市販の台紙(バラ種台紙)の上に産卵させ、台紙に水を加えて卵をはがし、次いで濡れた状態の卵を基板に整列させ、風乾することによって行う。より具体的には、後述の実施例1(2)に示した方法によって、卵をスライドグラス上に卵の方向を揃えて固定することができる。また、卵の基盤への固定は両面テープや接着剤等を用いることによっても可能である。
【0026】
また、本発明においては、上記のポリヌクレオチドの導入方法により、カイコ卵にポリヌクレオチドを導入することを特徴とするトランスジェニックカイコの作製方法が提供される。
【0027】
本発明におけるトランスジェニックカイコの作製は、本発明の方法に従ってポリヌクレオチドを導入することにより実施される。ポリヌクレオチドが導入された卵から生じたカイコからトランスジェニックカイコを選択するには、例えば、選択マーカーを用いて行うことができる。本発明における選択マーカーとしては、当業者において一般的に使用されるマーカー、例えば、GFP等の蛍光タンパク質や皮膚が透明になる油蚕、卵色が白くなる白卵などの突然変異に対応する野生型の遺伝子等を挙げることができる。これらマーカーを有しているカイコを、例えば、蛍光、体色、卵色などを指標に選択することができる。
【0028】
また、トランスジェニックカイコの作製は、ウイルスをベクターとして用いることによっても行うことができる(Yamao, M., Katayama, N., Nakazawa, H., Yamakawa, M., Hayashi, Y., Hara, S., Kamei, K., & Mori, H. (1999). Gene targeting in the silkworm by use of a baculovirus. Genes Dev, 13(5), 511-516.)。本発明の上記方法のポリヌクレオチドとして、例えば、アンチセンスRNAやDNAを用いることにより、所望の遺伝子の発現を制御したカイコを作出することができる。また、2重鎖のRNAを用いることにより、カイコのある遺伝子の機能が欠損した所謂トランスジェニックカイコの作製も可能である(Quan, G. X., Kanda, T. and Tamura, T.:Induction of the white egg 3 mutant phenotype by injection of the double-stranded RNA of the silkworm white gene. Insect Molecular Biology に投稿中)。
【0029】
さらに本発明は、上記の方法によって作製されるトランスジェニックカイコを提供する。本発明のトランスジェニックカイコの遺伝子型または表現型は特に限定されず、遺伝子が改変されたカイコであれば本発明のトランスジェニックカイコに含まれる。具体的には、外来のポリヌクレオチドが染色体中に挿入され該ポリヌクレオチドが遺伝子として発現するように改変されたカイコ、2重鎖のRNAの干渉によって標的遺伝子の機能が欠損したカイコ等を例示することができる。このようなカイコは、医薬品製造分野や農産業分野等において利用されるものと大いに期待される。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1] カイコ卵への効率的なDNA導入方法の開発
(1)注射装置の構成
カイコ卵への注射装置は、解剖顕微鏡、照明装置、可動式のステージ、顕微鏡に金具で固定した粗動マニュピュレーター、このマニュピュレーターに付けたマイクロマニュピュレーター、DNAを注射するための空気圧を調整するインジェクターから構成されている(図2および3)。この装置は、ナリシゲの油圧式ダブルピペットホルダーを改良し、ピペットホルダーの一つにタングステン針と他の一つにガラスキャピラリーを装着できるようにした。また、このホルダー内のレバーで操作できる距離を大きくできるような改良を行ったものを特注して作らせ、これをマニュピュレーターとして使用した。このマニュピュレーターへの固定によって、タングステン針とガラスキャピラリーを同時に装着でき、レバー操作によって両方を平行に動かすことができる(図4)。そのため、卵に対する相対的な空間位置を最初に決めると、後は自動的に卵に針で空けた穴にキャピラリーを導くことができる。従って、この装置を用いることにより熟練者でなくても容易にカイコ卵への注射ができるようになった。
【0032】
(2)卵の背腹の方向揃えた卵をガラススライドに効率的に固定する方法の開発カイコの卵内の目的とする部位に正確にDNAを注射するため、卵の方向を揃えて固定する必要がある。カイコの成虫を交尾させた後、5~10℃の低温で一晩保存し、次の日室温に移すと一斉に産卵を始める。このとき、雌蛾を表面に糊が塗布されたバラ種台紙の上に移し、産卵させる。産卵開始から1時間以内に卵を台紙ごと回収し、その一部をシャーレーに移し、上から蒸留水を加え5~10分放置する。この間に卵は台紙からはがすことができるようになるため、卵を蒸留水中に浮遊させる。そのまま、卵が濡れた状態でスライドグラス上に移し、解剖顕微鏡で卵の方向を観察しながら、方向をきめる。このようにして、整列した卵をそのまま風乾することによって、卵はスライドグラス上に固定し、張り付ける方法を開発した(図5)。
【0033】
(3)カイコ卵内におけるDNAの導入位置の同定とカイコ卵へのDNA導入
カイコの生殖細胞の発生は産卵後24時間以上になってようやく確認できるようになる。この時期に生殖細胞ができる位置は背側中央の卵表に近い位置でやや後極よりある。一方、DNAの注射は、注射したDNAが生殖細胞に取り込まれ、細胞中で機能する必要があるため、産卵後6時間以内に行う必要がある。そのため、卵のどの位置にDNAを注射すれば、DNAが効率よく生殖細胞に取り込まれ、効率よくトランスジェニックカイコを作出できるかは大きな問題であった。しかも、カイコの卵は不透明であるため、注射中は卵内の状態を見ることはできない。このことも注射の困難性を増していた。特に従来の方法は卵の上側からの注射しかできなかったため、生殖細胞が発生すると考えられる卵の背側の卵表に近い位置に正確にDNAを注射することはできなかった。
【0034】
そこで本発明の方法では、卵に対するタングステン針の位置を粗動マニュピュレーターで決めた後、図4の上図の位置でステージのレバーで水平方向に卵を動かし穴を空ける。続いて、マイクロマニュピュレーターの操作部のレバーを位置1から位置2に動かして、穴の位置にガラスキャピラリーの先端を誘導し、再びステージのレバーによりキャピラリーを卵に挿入する。この場合、卵の背側の側面に対し垂直にガラスキャピラリーが挿入される必要がある。これらの操作により、卵の背側の卵表に近い位置にDNAを正確に注射できるようになった。
【0035】
上記方法を用いて注射した場合、一人で1時間当たり150~300の卵にDNAを注射することが可能であり、注射する速度はこれまでよりも早くなった。
【0036】
[実施例2] トランスジェニックカイコの作製
実施例1で開発したDNA導入方法を使用するによって、どの程度の頻度でトランスジェニックカイコが得られるかを調べた。
【0037】
具体的には、産卵後8時間以内の卵にトランスポゾンの一つであるpiggyBacを用いて作成したヘルパープラスミドDNAとpiggyBacの間に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を挿入したベクタープラスミドDNAを注射した。最初に、pnd-w1の卵にこれらのDNAを注射した結果、次世代の卵を得た。これを1蛾ごとに飼育して、飼育開始から2日後に蛍光顕微鏡で幼虫の蛍光の有無を観察した結果、蛍光を発する幼虫が認められた。
【0038】
次に、これらの蛍光を発するカイコにGFP遺伝子が挿入されているかどうかを調べた。蛍光を発する幼虫を成虫まで飼育し、採卵終了後の成虫からDNAを抽出し、GFP遺伝子の存在をサザンハイブリダイゼーション解析により調査した。成虫から抽出したDNAを、ベクターとして用いたトランスポゾン内を切断する制限酵素(Eco RV、Xmn I)で処理すると、GFP遺伝子だけの挿入なら約3.5Kbのサイズになる。GFPと別の遺伝子と別の遺伝子が同時に挿入した場合は、3.5Kbより大きなサイズになる制限酵素で処理し、ベクターに挿入したGFP遺伝子をプローブとしてサザンハイブリダイゼーション解析を行った。その結果、3.5Kbのバンドと3.5Kbのよりおおきなバンドが検出された。このことから、外来遺伝子が染色体に挿入されたトランスジェニックカイコが得られたことが明らかになった。次に、サザンハイブリダイゼーションによりGFP遺伝子が確認できたカイコの次世代におけるGFP遺伝子の発現について調査した結果、次世代にGFP発現カイコがメンデルの法則から予測される頻度で出現することが明らかになった。
【0039】
検討の結果、一回目の実施では、表1に見られるように次世代の蛾区の6.5%においてトランスジェニックカイコが出現し、従来のトランスジェニックカイコができる効率が1%前後であること(表2)と比較すると少なくとも5倍以上効率が上がった。また、2回目の実施では次世代でのスクリーニングにおいて、実に15.5%の蛾区にトランスジェニックカイコが出現した(表3)。なお、孵化率は0.4mg/mlのDNA溶液1~3nlを卵に注射した場合で20~40%であり、従来の方法よりやや低かったが、これはDNAを注射した位置が胚発生において胚盤が形成される重要な場所に正確に注射できるようになったためであると考えられる。
【0040】
【表1】
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【0041】
【表2】
JP0004132760B2_000003t.gif
【0042】
【表3】
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【0043】
【発明の効果】
本発明者らによって、効率的なカイコ卵へのポリヌクレオチドの導入方法、該ポリヌクレオチド導入方法を利用したトランスジェニックカイコの作製方法、および該作製方法によって作製されるトランスジェニックカイコが提供された。本発明におけるトランスジェニックカイコの作製方法は、医薬品を生産できる品種や耐病性等の新しい形質を付与した絹の生産等に用いる実用品種の作製方法として医薬品製造分野や農産業分野等において利用されるものと大いに期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 卵へのDNAの注射によるトランスジェニックカイコの作製方法を示す図である。
【図2】 カイコ卵へのDNA注射装置を示す写真である。
【図3】 カイコ卵へのDNA注射装置の模式図である。
【図4】 卵へのDNA注射のためのマニュピュレーターと操作法を示す図である。
【図5】 卵が張り付けられたスライドグラスを示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4