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明細書 :舌上皮前駆細胞の単離培養方法およびその分化誘導方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4129516号 (P4129516)
公開番号 特開2003-102470 (P2003-102470A)
登録日 平成20年5月30日(2008.5.30)
発行日 平成20年8月6日(2008.8.6)
公開日 平成15年4月8日(2003.4.8)
発明の名称または考案の名称 舌上皮前駆細胞の単離培養方法およびその分化誘導方法
国際特許分類 C12N   5/06        (2006.01)
FI C12N 5/00 E
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2002-216303 (P2002-216303)
出願日 平成14年7月25日(2002.7.25)
優先権出願番号 2001225641
優先日 平成13年7月26日(2001.7.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成14年7月26日(2002.7.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
【識別番号】301050647
【氏名又は名称】大倉 哲也
発明者または考案者 【氏名】大倉 哲也
【氏名】日野 明寛
【氏名】川本 恵子
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】水落 登希子
参考文献・文献 特開2000-004900(JP,A)
国際公開第98/043091(WO,A1)
国際公開第00/045169(WO,A1)
特表2000-513927(JP,A)
口腔病学会雑誌,1987年,Vol.54, No.1,p.271-301
生体の科学,1998年,Vol.49, No.3,p.203-206
口腔科学会雑誌,1995年,Vol.44, No.4,p.596-602
Cell Tissue Res., ,2001年 1月,Vol.303, No.1,p.35-45
飯島記念食品科学振興財団年報,1997年,Vol.1995,p.294-298
Cell,1989年,Vol.57,p.201-209
Exp.Cell Res.,1998年,Vol.239,p.50-59
Exp.Cell Res.,1984年,Vol.155,p.64-80
Tokai J.Exp.Clin.Med.,1991年,Vol.16, No.5,6,p.223-229
臨床血液,1990年,Vol.31, No.4,p.438-442
神奈川歯学,1991年,Vol.25, No.4,p.397-408
Commun.Appl.Cell Biol.,1992年,Vol.10, No.1/2,p.14-21
Dev.Biol.,1980年,Vol.77,p.103-115
Int.J.Devl.Neurosci.,1991年,Vol.9, No.4,p.391-404
Int.J.Devl.Neurosci.,1999年,Vol.17, No.8,p.829-838
Physiology & Behavior,2000年,Vol.69, No.4,p.439-444
調査した分野 C12N 1/00ー15/90
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトを除く哺乳類の有郭乳頭付近の舌上皮細胞より、インテグリンβ1を発現する細胞を磁気カラムを用いて選抜すること、および、前記で選抜した細胞を、塩基性繊維芽細胞成長因子を含みカルシウム濃度が3.0~7.0mg/mlである培地で培養することを特徴とする舌上皮前駆細胞の単離増殖方法。
【請求項2】
哺乳類がマウスである請求項1記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、舌上皮前駆細胞の単離方法およびその分化誘導方法に関し、詳しくは舌上皮細胞より舌上皮前駆細胞を単離と培養する方法並びに該前駆細胞を上皮様細胞または神経様細胞に分化誘導する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上皮細胞は、体の表面あるいは内腔の内面を覆っている組織であり、様々な種類の細胞の存在が知られており、例えば皮膚の表皮、腸の粘膜上皮や腹膜の上皮等がある。このうち、皮膚や小腸等の上皮については、該上皮前駆細胞や長期生存細胞を単離し、さらに培養したことが報告されている(Kunimura C. ら、Oncogene (1998) 17, 187-197)。
一方、表皮や上皮組織では、低親和性神経成長因子受容体やインテグリンβ4が特異的に発現している長期生存細胞が発見され、これらを指標として長期生存細胞を単離する方法が提案されている(特開2000-4900号公報)。
【0003】
しかし、舌上皮細胞に関しては、舌の味細胞の培養方法についての報告があるが、僅か3日程度しか味細胞様の形態を維持できないことが知られている(Ann NY Acad. Sci. 1998, Nov. 30; 855: 1-13)。また、胎児舌の器官培養においても、7日間程度しか舌の形状を保つことができず、培養は非常に困難であることが知られている。舌上皮前駆細胞については、単離して培養したという報告は全くなく、長期生存細胞も同定されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
舌上皮細胞においては、長期生存細胞やインテグリンβ1を発現する上皮前駆細胞を培養することは困難であった。その理由は、舌上皮の上皮前駆細胞の細胞数が少なく、同定が困難であったこと、舌上皮を筋肉層から効率よく剥離し、その後舌上皮から舌上皮前駆細胞を効率よく単離することが難しいこと、さらに該前駆細胞を舌の上皮細胞および味細胞へ分化させる方法とそのことを確認する方法が確立されていないからであった。
本発明の目的は、第1に舌上皮細胞から該前駆細胞を単離・培養する方法を確立することであり、第2に該前駆細胞を上皮様細胞または神経様細胞に分化誘導する方法を確立することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、インテグリンβ1を発現する舌上皮前駆細胞を効率良く単離する方法を確立することに成功した。さらに、該舌上皮前駆細胞を培養するにあたり、舌上皮前駆細胞の培養上清を存在させると、味細胞の前駆細胞が多く含まれる部位からの舌上皮前駆細胞を増殖させることができ、この培養物から該味細胞前駆細胞を取得できることを見出した。このようにして得られた味細胞前駆細胞を含む舌上皮前駆細胞を、分化誘導因子を加えた培地で培養すると、舌上皮に存在する上皮様細胞もしくは味細胞を含む神経様細胞に分化誘導させることができることも判明した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
請求項1記載の本発明は、ヒトを除く哺乳類の有郭乳頭付近の舌上皮細胞より、インテグリンβ1を発現する細胞を磁気カラムを用いて選抜すること、および、前記で選抜した細胞を、塩基性繊維芽細胞成長因子を含みカルシウム濃度が3.0~7.0mg/mlである培地で培養することを特徴とする舌上皮前駆細胞の単離増殖方法である。
請求項2記載の本発明は、哺乳類がマウスである請求項1記載の方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の本発明は、上記したように、ヒトを除く哺乳類の有郭乳頭付近の舌上皮細胞より、インテグリンβ1を発現する細胞を磁気カラムを用いて選抜すること、および、前記で選抜した細胞を、塩基性繊維芽細胞成長因子を含みカルシウム濃度が3.0~7.0mg/mlである培地で培養することによって、舌上皮前駆細胞を単離増殖する方法である。
本発明の方法を適用することができる舌上皮細胞には特に制限がなく、例えばマウス、ラット、ブタ、ヒトをはじめとするあらゆる哺乳動物由来の細胞が挙げられる。
本発明に用いる舌上皮細胞としては、幹細胞およびtransit amplifying細胞を含むものが好ましい。これらの細胞を維持するための条件を採用することによって、舌上皮前駆細胞の培養系樹立が可能となる。
【0008】
舌上皮前駆細胞の単離方法について、マウス舌上皮前駆細胞の場合を例として詳しく説明する。まず、マウスから舌を採取し、該舌から舌上皮細胞シートを調製する。本発明の方法においては、舌上皮細胞シート全体または有郭乳頭付近等の特定の部分を用いることもできる。
調製した舌上皮細胞シートから、上皮前駆細胞集団を分離するために、プロテアーゼを上皮直下に注射器で注入し、30~40℃、好ましくは37℃で15~45分間、好ましくは30分間程反応させることによって、筋肉に富んだ層から上皮層を分離させる。
【0009】
このとき用いるプロテアーゼとしては、通常の組織培養に用いられるものであれば特に制限はないが、コラゲナーゼ、トリプシン、エラスターゼ等が好ましいものであり、これらの中から1種もしくは2種以上を適宜選択して用いることができる。中でも、基底膜に存在するコラーゲンタイプIVを分解するコラゲナーゼであるコラゲナーゼIV(フナコシ社製)およびエラスチンを分解するエラスターゼ(フナコシ社製)を組み合わせることが好ましい。
プロテアーゼの使用量は、5~30units(2~4mg)、好ましくは8~10units(2~3mg)である。なお、プロテアーゼとして、コラゲナーゼIVおよびエラスターゼを用いた場合の使用量の1例を示すと、コラゲナーゼIVは10units(2.5mg)、エラスターゼは8units(2mg)である。
【0010】
プロテアーゼ処理によって筋層から分離した舌上皮層よりピンセット等の器具を用いて上皮をシート状に剥がし、メス刃で細かく裁断する。上皮を裁断後、細胞を分散させるために、再度プロテアーゼ処理をする。このプロテーゼ処理は、プロテアーゼの溶解した酵素液に裁断した上皮細胞を浸漬し、35~40℃、好ましくは37℃で10~20分間、好ましくは15分間反応させることによって、細胞塊を1個ずつの細胞に分散させる。
このとき用いるプロテアーゼとしては、通常の組織培養に用いられるものであれば特に制限はないが、好適にはディスパーゼ等を用いることができる。ディスパーゼの使用量は、900~1050units(3.0~3.5mg)、好ましくは1000units(3.3mg)である。
【0011】
続いて、剥がれて分散した1個ずつの上皮細胞を回収する。回収の方法は、常法によればよく、例えばピペッティングをして70μm幅のセルストレイナーによって回収する。このようにして回収した舌上皮細胞は、氷冷したPBS(-)で数回、通常は3回リンスし、0.5~2.0×106 cells/ml、好ましくは1.0×106 cells/mlになるようにPBS(-)に懸濁する。この懸濁液に、1~5μg/ml、好ましくは4μg/mlの濃度となるように一次抗体であるビオチン標識抗インテグリンβ1抗体を加え、一定の振盪を与えながら舌上皮細胞と抗体とを2~10℃、好ましくは4℃で20~40分間、好ましくは30分間反応させる。
【0012】
次に、一次抗体と反応させた舌上皮細胞をPBS(-)で数回、通常は3回洗浄し、これを再度PBS(-)に懸濁し、舌上皮前駆細胞を含む舌上皮細胞懸濁液を得ることができる。
該懸濁液に、磁気ビーズ10~20μl、好ましくは20μlを加え、6~12℃、好ましくは10℃で10~20分間、好ましくは15分間反応させる。このとき用いる磁気ビーズは、抗体等を考慮して適宜選択することができるが、選択に要する時間の短縮のため、ストレプトアビジン-マイクロビーズ(Miltenyi社製)が好ましいものである。
反応終了後、磁気ビーズの結合した舌上皮前駆細胞をPBS(-)で数回、通常は3回洗浄した後、磁気細胞分離システム、すなわちバリオMacs磁気装置(Miltenyi社製)にRS+カラム(Miltenyi社製)を装着したものに、該細胞をロードする。
該細胞をロードしたカラムをPBS(-)で数回、通常は3回洗浄した後、カラムを磁気装置から離し、抗体でトラップされた舌上皮前駆細胞をPBS(-)で溶出する。このとき用いるPBS(-)の量は1~1.5ml、好ましくは1mlが適当である。
この溶出液には、インテグリンβ1陽性細胞集団である舌上皮前駆細胞のみが含まれていることになる。
【0013】
次に、上記手法によって単離した上皮前駆細胞を培養する方法について説明する。
まず、単離した舌上皮前駆細胞を2~10×104 個、好ましくは5×104 個となるように調製し、これを下記の組成を有する培地(MCDB基本培地)20~100μl、好ましくは50μlに懸濁する。このとき用いる培地のカルシウム濃度は3.0~7.0mg/mlが適当で、5.0mg/mlが好ましい。
その懸濁液をドロップレットとして、直径3cm程度の培養皿の上に設置し、炭酸ガスインキュベーター内で15~180分間、好ましくは30分間の培養を行う。次いで、舌上皮前駆細胞の前培養液に、さらに下記の組成を有する培地(MCDB基本培地)1~3ml、好ましくは2mlを加え、35~38℃、好ましくは37℃で1~3週間、好ましくは2週間の培養を行う。
【0014】
培地:MCDB153基本培地(Ca濃度は、5.0mg/ml)
上皮細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
塩基性繊維芽細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
インシュリン 最終濃度 5μg/ml
トランスフェリン 最終濃度 10μg/ml
ヒドロコルチゾン 0.5μg/ml
エタノールアミン 0.5μM
ホスホエタノールアミン 0.5μM
透析された牛胎児血清 最終濃度 0.5%
【0015】
上記の培養によって取得した味細胞前駆細胞を含む舌上皮前駆細胞を、適当な分化誘導因子を添加した培地にて培養することによって、上皮様細胞あるいは神経様細胞に分化誘導することができる。
上記の舌上皮前駆細胞を上皮様細胞に分化させる場合には、分化誘導因子としてカルシウムを培地に添加する。すなわち、上記の培地に、分化誘導因子としてカルシウムを0.1~2.0mM、好ましくは1mMを添加し、さらに2~5日間、好ましくは3日間培養を続けることにより、上皮様細胞に分化誘導させることができる。なお、カルシウムの添加濃度が上限を超えた場合は、細胞死を誘導するため好ましくない。また、下限に満たない場合は、上皮様細胞に分化できないため好ましくない。上皮様細胞に分化させる場合に用いることができる培地の組成を、以下に示す。
【0016】
(分化誘導因子としてカルシウムを添加する場合の培地)
培地:MCDB153高カルシウム培地(Ca濃度は、11.8mg/ml(0.145mM))
上皮細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
塩基性繊維芽細胞成長因子 最終濃度 1ng/ml
インシュリン 最終濃度 5μg/ml
トランスフェリン 最終濃度 10μg/ml
ヒドロコルチゾン 0.5μg/ml
エタノールアミン 0.5μM
ホスホエタノールアミン 0.5μM
透析された牛胎児血清 最終濃度 0.5%
なお、カルシウムはCaCl2 の溶液として用いた。
【0017】
舌上皮前駆細胞が上皮様細胞へ分化したことの確認については、常法によって行うことができるが、下記にその1例を示す。すわちち、0.1%トライトンX-100等の界面活性剤と4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)で分化させた細胞を固定後、抗β-カテニン抗体と抗E-カドヘリン抗体等の抗体を用いて免疫染色することによって確認することができる。
β-カテニンは、細胞間の接着分子であるカドヘリンの細胞内領域に結合するタンパク質である。E-カドヘリンは、上皮細胞等に存在するカドヘリン・スーパーファミリーに属する細胞接着因子であり、カルシウム依存的にE-カドヘリン同士が結合することが知られている。これらは、共に上皮細胞のマーカーとして用いられているタンパク質である。
【0018】
また、単離した舌上皮前駆細胞を神経様細胞に分化させる場合には、培地に分化誘導因子としてレチノイン酸を添加する。すなわち、前記した培地に、分化誘導因子としてレチノイン酸を1~5μM、好ましくは2μMを添加して3日間培養し、さらにレチノイン酸のみを抜いて3~14日間、好ましくは5~10日間培養を続けることにより、神経様細胞に分化させることができる。レチノイン酸の添加濃度が上限を超えた場合は、細胞死を誘導するため好ましくない。また、下限に満たない場合は、分化が十分に行われないため好ましくない。
さらに、舌上皮前駆細胞を単離する際に、舌上皮細胞シートのうち味細胞前駆細胞が多く含まれている有郭乳頭付近等の特定の部分を用いた場合には、味細胞等に分化させることができる。神経様細胞に分化させる場合に用いることができる培地の組成を、以下に示す。
【0019】
(分化誘導因子としてレチノイン酸を添加する場合の培地)
培地:MCDB153神経分化培地(Ca濃度は、5.0mg/ml)
上皮細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
塩基性繊維芽細胞成長因子 最終濃度 1ng/ml
アクチビン 最終濃度 5ng/ml
インシュリン 最終濃度 5μg/ml
トランスフェリン 最終濃度 10μg/ml
ヒドロコルチゾン 0.5μg/ml
エタノールアミン 0.5μM
ホスホエタノールアミン 0.5μM
レチノイン酸 0.6μg/ml(2μM)
透析された牛胎児血清 最終濃度 0.1%
【0020】
神経様細胞への分化の確認についても、上皮様細胞の場合と同様に、常法によって行うことができる。以下に、その1例を示す。すなわち、培養後に0.1%トライトンX-100等の界面活性剤及び4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)で細胞を固定後、抗神経中間系フィラメント抗体と抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体等の抗体を用いて免疫染色することによって確認することができる。なお、神経中間系フィラメントおよび脳特異的L型カルシウムチャンネルは、共に神経細胞のマーカーとして用いられているタンパク質である。
【0021】
図1は、本発明に係る舌上皮前駆細胞の単離方法および単離した上皮前駆細胞の培養方法の1例のフローチャートを示したものである。すなわち、コラゲナーゼIV(フナコシ社製)とエラスターゼ(フナコシ社製)による処理を行って舌より剥がした舌上皮シートを、さらに細かく裁断してから、ディスパーゼ処理により細胞を1個ずつに分散させる。
ここに、ビオチン標識した抗インテグリンβ1抗体とストレプトアビジン磁気ビーズを添加して、インテグリンβ1を発現する細胞を磁場により選択して、培養を行う。この培養細胞は、培養液中にカルシウムを加えると、上皮様に分化し、レチノイン酸を加えると、神経様に分化した。
【0022】
【実施例】
以下において、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(抗インテグリンβ1抗体による舌上皮前駆細胞の検出)
舌上皮前駆細胞の検出は、マウスから採取した舌から摘出した有郭乳頭付近の組織を、抗インテグリンβ1抗体(ベクトンディッキンソン社製)を用いて免疫染色することによって行った。
誕生4日後のマウスから舌を摘出し、この舌から有郭乳頭付近をメス刃で切除した後、直ちに凍結切片作製用の試薬であるO.C.T.コンパウンド(サクラ精器製)0.5ml中で急速凍結した。この後、クライオセクションCM1850(ライカ社製)を用いて10μmの凍結切片を作製した。
【0023】
切片(10μm)を乗せたスライドグラスを、0.1%トライトンX-100(半井社製)と4%ホルムアルデヒドを含むPBS(-)で20分間室温にて固定した。
固定後、5%ヤギ血清(ケミコン社製)を含むPBS(-)を用い室温で2時間ブロッキング処理し、一次抗体である抗インテグリンβ1抗体(ベクトンディッキンソン社製)0.4μg/mlと4℃で一晩反応させた。
固定化した切片と抗体との反応終了後、余分な抗インテグリンβ1抗体を0.05%ツウィーン20(半井社製)を含むPBS(-)で数回洗い流した。
次に、一次抗体の結合した固定された切片と蛍光色素であるCy3で標識された抗ハムスター二次抗体(ジャクソンラボ社製)1.25μg/mlとを、室温にて1時間反応させた。反応終了後、余分な二次抗体を上記と同様の0.05%ツウィーン20を含むPBS(-)で洗い流し、蛍光顕微鏡DMRIB(ライカ社製)で観察した。図2は、抗インテグリンβ1抗体を用いて有郭乳頭付近の組織を免疫染色した場合の蛍光顕微鏡像の写真である。
【0024】
図2の蛍光顕微鏡像から明らかように、生後4日目の有郭乳頭付近では、抗インテグリンβ1抗体は基底膜および膜より上層部のtransit amplifying細胞が存在すると考えられる部位を認識していた。このことから、インテグリンβ1発現細胞が該部位に存在することが強く示唆された。
【0025】
実施例2(抗インテグリンβ1抗体による舌上皮前駆細胞の単離と培養)
マウス舌上皮前駆細胞の単離と、単離した該細胞の培養は、以下の方法によって実施した。
(1)舌上皮前駆細胞の単離
実施例1と同様に、生後8-12週齢のマウスから舌を摘出し、これからシート状の上皮組織を作製し、舌上皮前駆細胞集団を抗インテグリンβ1抗体を用いて選抜した。すなわち、10units(2.5mg)のコラゲナーゼIV(フナコシ社製)と8units(2mg)のエラスターゼ(フナコシ社製)を上皮直下に注射器で注入し、37℃で30分間反応させた。
【0026】
続いて、上記の処理をした舌上皮をピンセットでシート状に剥がし、メス刃で細かく裁断した後、さらに1000units(3.3mg)のディスパーゼ(三光純薬社製)を加えて、37℃で15分間反応させた。
反応終了後、数回ピペッティングを行い、剥がれた1個ずつの細胞を70μm幅のセルストレーナー(ベクトンディキンソン社製)により回収した。こうして回収した舌上皮細胞は、氷冷したPBS(-)で3回リンスし、1.0×106 cells/mlになるようにPBS(-)に懸濁した。
【0027】
この懸濁液に、4μg/mlの濃度となるようにビオチン標識抗インテグリンβ1抗体(ベクトンディッキンソン社製)を加え、舌上皮細胞と抗体とを一定の振盪条件下に4℃で30分間反応させた。
次に、抗体と反応させた舌上皮前駆細胞をPBS(-)で3回洗浄し、これをPBS(-)80μlに懸濁し、舌上皮前駆細胞懸濁液を得た。該懸濁液に、磁気ビーズであるストレプトアビジン-マイクロビーズ(Miltenyi社製)20μlを加え、10℃で15分間反応させた。
【0028】
反応終了後、バリオMacs磁気装置(Miltenyi社製)にRS+カラム(Miltenyi社製)を装着し、該細胞をロードした。
該細胞をロードしたカラムは、PBS(-)で3回洗浄した後、カラムを磁気装置から離し、抗体でトラップされた舌上皮前駆細胞をPBS(-)500μlにて溶出した。この溶出液に、インテグリンβ1陽性細胞集団である舌上皮前駆細胞のみが含まれていることを間接免疫抗体法による免疫染色にて確認した。
【0029】
(2)単離された舌上皮前駆細胞の培養
上記(1)で単離された舌上皮前駆細胞の培養を以下の方法で行った。すなわち、上記(1)で単離された舌上皮前駆細胞を5×104 個となるように調整し、これを下記の組成を有する培地50μlに懸濁した。その懸濁液をドロップレットとして、直径35mmの培養皿の上に設置し、炭酸ガスインキュベーター内で30分間の培養を行った。次いで、舌上皮前駆細胞の前培養液に、さらに下記の組成を有する培地2mlを加えて、37℃にて2週間の培養を行った。
【0030】
培地:MCDB153基本培地(Ca濃度は、5.0mg/ml)
上皮細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
塩基性繊維芽細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
インシュリン 最終濃度 5μg/ml
トランスフェリン 最終濃度 10μg/ml
ヒドロコルチゾン 0.5μg/ml
エタノールアミン 0.5μM
ホスホエタノールアミン 0.5μM
透析された牛胎児血清 最終濃度 0.5%
【0031】
2週間の培養後、培養した舌上皮前駆細胞をメタノールで固定した。固定後、5%ヤギ血清を含むPBS(-)で室温にて2時間処理し、0.4μg/mlの濃度となるように調製した一次抗体である抗インテグリンβ1抗体(ベクトンディッキンソン社製)と4℃で一晩反応させた。
反応終了後、舌上皮前駆細胞を0.05%ツウィーン20を含むPBS(-)で3回洗浄した。洗浄後、蛍光色素であるCy3で標識された抗ハムスター二次抗体(ジャクソンラボ社製)1.25μg/mlと室温で1時間反応させた。その後、余分な二次抗体を0.05%ツウィーン20を含むPBS(-)で洗い流してから、蛍光顕微鏡DMRIB(ライカ社製)で観察した。図3Aは、舌上皮前駆細胞を透過光で撮影した顕微鏡像の写真である。また、蛍光を撮影した顕微鏡像の写真を図3Bに示す。
【0032】
図3Aは、透過光で撮影した顕微鏡像の写真であり、細胞の形態を明確に識別することができる。また、図3Bは、同一視野のCy3で染色した蛍光顕微鏡像の写真であり、培養細胞はインテグリンβ1を発現していることが分かる。
【0033】
実施例3(上皮前駆細胞のカルシウム添加による上皮様細胞への分化)
実施例2(2)に示したMCDB153基本培地に、分化誘導因子として1mMのカルシウムを添加し、この培地に実施例2(2)で得た培養細胞を接種し、さらに3日間培養を続けた。なお、対照として、分化誘導因子であるカルシウムを添加しなかったこと以外は同じ条件で培養した。
培養終了後、0.1%トライトンX-100(半井社製)と4%パラホルムアルデヒド(シグマ社製)を含むPBS(-)で細胞を固定したのち、抗β-カテニン抗体(ベクトンディッキンソン社製)と抗E-カドヘリン抗体(タカラ社製)を用いて免疫染色した。図4は、カルシウム添加の有無による抗β-カテニン抗体と抗E-カドヘリン抗体による免疫染色の結果を示した写真である。
【0034】
図4から明らかなように、分化誘導因子であるカルシウムを培養液に添加しないで培養を行った場合、β-カテニンおよびE-カドヘリンの細胞膜で発現量は共に低かった。
これに対して、分化誘導因子として1mMのカルシウムを添加して培養した場合は、β-カテニンとE-カドヘリンの細胞膜、特に細胞と細胞とが接している部位への両タンパク質の局在が認められ、形態的にも上皮様細胞に分化していることが明らかとなった。
【0035】
実施例4(舌上皮前駆細胞のレチノイン酸添加による神経様細胞への分化)
実施例2(2)に示したMCDB153分化培地に、分化誘導因子として2μMのレチノイン酸(和光純薬社製)を添加し、この培地に実施例2(2)で得た培養細胞を接種して3日間培養を続けた。
さらに、以下の培地を用いて7日間培養を続けた。なお、対照として、分化誘導処理しないものについても同様に実施した。
【0036】
培地:MCDB153神経分化培地(Ca濃度は、5.0mg/ml)
上皮細胞成長因子 最終濃度 10ng/ml
塩基性繊維芽細胞成長因子 最終濃度 1ng/ml
アクチビン 最終濃度 5ng/ml
インシュリン 最終濃度 5μg/ml
トランスフェリン 最終濃度 10μg/ml
ヒドロコルチゾン 0.5μg/ml
エタノールアミン 0.5μM
ホスホエタノールアミン 0.5μM
透析された牛胎児血清 最終濃度 0.1%
【0037】
7日間および14日間の培養を続けた後に、0.1%トライトンX-100(半井社製)と4%パラホルムアルデヒド(シグマ社製)を含むPBS(-)で細胞を固定後、抗神経中間系フィラメント抗体(ケミコン社製)と抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体(ケミコン社製)を用いて免疫染色した。図5は、レチノイン酸添加の有無による抗神経中間系フィラメント抗体と抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体による免疫染色の結果を示した顕微鏡写真である。
【0038】
図5から明らかなように、通常の培養条件の場合には、神経細胞のマーカーである神経中間系フィラメントと脳特異的L型カルシウムチャンネルの発現レベルは低かった。
これに対して、分化誘導因子であるレチノイン酸を添加した分化培地で培養した場合には、神経中間系フィラメントと脳特異的L型カルシウムチャンネルがいずれも、より顕著に発現が上昇していた。このことから、培地に分化誘導因子としてレチノイン酸を添加した神経分化培地で舌上皮前駆細胞を培養することによって、神経様細胞に分化することが明らかとなった。
【0039】
実施例5(培養上清存在下での特定部位由来の舌上皮前駆細胞の培養と分化)
生後4週齢のマウスより得た舌上皮細胞シートから、有郭乳頭付近の部位を鋏で切り出した。次に、該部位をマトリゲル(ベクトンディッキンソン社製)でコートした35mmディッシュを用いて、炭酸ガスインキュベーター内で37℃で2週間培養した。このとき用いた培地は、実施例2(2)で使用した培地に、実施例2において舌上皮前駆細胞の培養で得た培養上清を該培地の1/3~1/10量を加えたものである。
【0040】
続いて、実施例4と同様に、分化誘導因子としてレチノイン酸を添加した培地を用いて上記の舌上皮前駆細胞を培養し、分化誘導を行った。培養終了後、0.1%トライトンX-100と4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)で、分化した細胞を固定した。固定化した細胞について、味細胞で特異的に発現することが知られているガストデューシンの発現の有無を、抗ガストデューシン抗体(サンタクルス社製)を用いた免疫染色を以下のように行った。すなわち、培養した細胞を、内在性のペルオキシダーゼの活性を抑えるために0.3%ヒドロキシルペルオキシドを含むメタノールで25℃で30分間処理し、その後0.2%トゥイン20を含むPBSで5分間洗浄した。洗浄後、5%正常ウサギ血清を含むブロッキング試薬で25℃にて2時間処理し、抗ガストデューシン抗体と4℃で一晩反応させた。続いて、ビオチン標識化された二次抗体と25℃で30分間反応させた後、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンと25℃で10分間反応させた。反応終了後、3,3’-ジアミノベンチジン(DAB)、1nM ヒドロキシルペルオキシドを含むトリス-塩酸緩衝液(pH7.6)で染色した。
【0041】
また、分化誘導前の細胞およびレチノイン酸を添加して分化誘導した細胞を試料として用い、これらから常法によってRNAを抽出し、これを用いてRT-PCRを行うことによって、mRNAレベルでのガストデューシンの発現の有無を確認した。まず、1μgのトータルRNAから、以下のようにして、Preamplification kit (Gibco 社、18089-011)を用いてcDNAを合成した。1μgの oligo(dT)とトータルRNAを混合し、70℃で10分間インキュベートした後、1分間氷冷を行った。これにPCRバッファー 2μl、25mMMgCl2 2μl、10mM dNTPmix 1μl、0.1M DTT 1μlを加え、42℃で15分間加熱した。ここに、1μlのSuperscript II Reverse Transcriptaseを加え、42℃で50分間反応させた。次いで、70℃で15分間加熱して酵素を失活させた後、室温に戻して1μl RNase Hを加えて、37℃で20分間反応させた。得られた反応液2μlに、2μl 10×PCRバッファー、2μl 25mM MgCl2 、1μl 10mM dNTPmix 、1μl ガストデューシン プライマー セット、1μl Taq DNAポリメラーゼ(タカラ社製)1μlを加え、94℃ 1分間(変性)、55℃ 1分間(アニーリング)、72℃ 1分間(伸長)を35サイクル行ってDNAを増幅させて、その5μlを電気泳動に供した。
【0042】
結果を図6に示す。この図は、特定部位由来の舌上皮前駆細胞における抗ガストデューシン抗体で免疫染色の結果を示した顕微鏡写真である。また、図7は、RT-PCRを行った試料についての電気泳動写真である。図中、レーン1は有郭乳頭付近の細胞、2は分化誘導前の細胞、3は分化誘導後の細胞を示す。
【0043】
図6から明らかなように、培養細胞の一部の細胞質が染色されていることから、特定部位由来の舌上皮前駆細胞を用いても、分化誘導因子であるレチノイン酸を培地に添加することにより、味細胞に特異的なガストデューシンを発現する神経様細胞に分化誘導できることが明らかとなった。
また、図7から明らかなように、味細胞で特異的に発現するガストデューシンmRNAは、レチノイン酸を培地に添加した場合に発現しており、このことからもレチノイン酸添加により味細胞に分化している細胞が誘導されたことは明らかである。
【0044】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、従来は困難であった舌上皮細胞および味細胞の前駆細胞を培養することが可能となる。また、本発明の方法により、味細胞の分化過程を経時的に詳細に解析することが可能となると同時に、分化途上の味細胞および分化した味細胞を長期間に渡って維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 舌上皮細胞から、免疫磁気ビーズにより上皮前駆細胞を単離、培養する本発明の流れを示したフローチャートである。
【図2】 実施例1において、抗インテグリンβ1抗体を用いて免疫染色を行った場合の蛍光顕微鏡像の写真である。
【図3】 実施例2において、培養した舌上皮前駆細胞を撮影した顕微鏡像の写真である。図中のAは、磁気ビーズにより選択された培養細胞の顕微鏡の透過像、Bは選択に用いた抗インテグリンβ1抗体によりAの培養細胞を免疫染色した顕微鏡像である。
【図4】 実施例3のカルシウム添加の有無において、抗β-カテニン抗体と抗E-カドヘリン抗体で免疫染色した顕微鏡像の写真であり、各タンパク質が発現していることを示している。図中、Aは抗β-カテニン抗体を用い通常の低カルシウムで培養したもの、Bは抗E-カドヘリン抗体を用い通常の低カルシウムで培養したもの、Cは抗β-カテニン抗体を用いカルシウムを添加して培養したもの(本発明)、Dは抗E-カドヘリン抗体を用いカルシウムを添加して培養したもの(本発明)をそれぞれ示す。
【図5】 実施例4のレチノイン酸添加の有無において、抗神経中間系フィラメント抗体と抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体で免疫染色した顕微鏡像の写真であり、各タンパク質が発現していることを示している。図中、Aは基本培地で培養したものを抗神経中間系フィラメント抗体で染色したもの(本発明)、Bは基本培地で培養したものを抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体で染色したもの、Cは基本培地にレチノイン酸を添加して培養したものを抗神経中間系フィラメント抗体で染色したもの(本発明)、Dは基本培地にレチノイン酸を添加して培養したものを抗脳特異的L型カルシウムチャンネル抗体で染色したもの(本発明)をそれぞれ示す。
【図6】 実施例5において、特定部位由来の舌上皮前駆細胞における抗ガストデューシン抗体で免疫染色の結果を示した顕微鏡写真である。
【図7】 実施例5において、RT-PCRを行った各試料についての電気泳動写真である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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