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明細書 :低温で糊化するサツマイモデンプンおよびそのデンプンを塊根中に含むサツマイモの作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3366939号 (P3366939)
公開番号 特開2001-278902 (P2001-278902A)
登録日 平成14年11月8日(2002.11.8)
発行日 平成15年1月14日(2003.1.14)
公開日 平成13年10月10日(2001.10.10)
発明の名称または考案の名称 低温で糊化するサツマイモデンプンおよびそのデンプンを塊根中に含むサツマイモの作出方法
国際特許分類 C08B 30/00      
A01H  1/00      
A23L  1/0522    
A23L  1/214     
C13K  1/06      
FI C08B 30/00
A01H 1/00
A23L 1/214
C13K 1/06
A23L 1/195
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2000-099090 (P2000-099090)
出願日 平成12年3月31日(2000.3.31)
審査請求日 平成12年3月31日(2000.3.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人 農業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】片山 健二
【氏名】田宮 誠司
【氏名】小巻 克巳
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外3名)
審査官 【審査官】内藤 伸一
参考文献・文献 特開 平6-305799(JP,A)
調査した分野 C08B 30/00
A01H 1/00
A23L 1/0522
A23L 1/214
C13K 1/06
特許請求の範囲 【請求項1】
サツマイモ「関東116号」の塊根から採取した、デンプン濃度28%で昇温速度1℃/分で測定したときの糊化ピーク温度が38~51℃及び/又はデンプン濃度10%で測定したときの粘度上昇開始温度が45~58℃であるサツマイモデンプン。

【請求項2】
請求項1記載のサツマイモデンプンを含むサツマイモ塊根を用いた食品。

【請求項3】
請求項1記載のサツマイモデンプンを含む食品。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、サツマイモデンプンおよびそのデンプンを塊根中に含むサツマイモの作出方法に関する。

【0002】

【従来の技術】デンプンが糊化する温度やデンプンの糊化しやすさの程度は、そのデンプンを含む塊根や食品を加熱調理する際やデンプンを分解して糖類やアルコールを製造する際に、加熱温度・時間や分解反応の効率を左右する重要な特性である。従来のサツマイモデンプンの糊化温度は61~78℃の範囲を示し、粘度上昇温度は62~74℃の範囲を示す。このため、従来のデンプンを含む塊根や食品では、これらの糊化温度以上の温度で加熱調理する必要があった。また、従来のデンプンを分解して糖類やアルコールを製造する際も、分解反応の効率を上げるためには、デンプンを液化する時の温度を上げるなどの操作が必要であり、コストも多くかかった。このため、より低い温度で糊化するサツマイモデンプンが望まれてきたが、現在まで、そうした特性を有するサツマイモデンプンを得る方法は知られていない。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、従来のサツマイモデンプンより低い温度で糊化するデンプンおよびこのデンプンを用いて製造した食品・糖類・アルコールを提供するとともに、そのデンプンを塊根中に含むサツマイモを作出する方法を提供することを目的とする。

【0004】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のサツマイモ品種の交配育種により、従来のサツマイモデンプンより低い温度で糊化するデンプンを塊根中に含むサツマイモを作出できることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0005】
即ち、本発明は、糊化ピーク温度が38~51℃、および/または粘度上昇開始温度が45~58℃であるサツマイモデンプンである。また、本発明は、サツマイモ品種「ベニアズマ」と「九州30号」との交配育種により、上記サツマイモデンプンを塊根中に含むサツマイモを作出する方法である。

【0006】
さらに本発明は、上記サツマイモデンプンを含むサツマイモ塊根を用いた食品である。さらにまた、本発明は、上記サツマイモデンプンを含む食品である。また、本発明は、上記サツマイモデンプンを用いて製造した糖類およびアルコールである。以下に本発明を詳細に説明する。

【0007】

【発明の実施の形態】本発明のサツマイモデンプンは、糊化ピーク温度が38~51℃、および/または粘度上昇開始温度が45~58℃であることを特徴とするものである。糊化ピーク温度とは、示差走査熱量測定による吸熱曲線の頂点を与える温度であり、物理化学的立場からみて生デンプンと糊化デンプンの化学ポテンシャルが等しくなる温度をいう。本発明のサツマイモデンプンは、好ましくは38~51℃、より好ましくは40~46℃、最も好ましくは43℃の糊化ピーク温度を有する。

【0008】
粘度上昇開始温度とは、粘度測定器によりデンプン粒と水の懸濁液を攪拌しながら加熱したとき、デンプン粒が吸水・膨潤し、粘度の上昇が始まる時の温度をいう。粘度測定器による粘度上昇開始温度は、デンプン粒が糊化してからある一定の限度までデンプン粒が膨潤して初めて粘度として記録されるため、糊化ピーク温度よりも一般に高い温度を示す。本発明のサツマイモデンプンは、好ましくは45~58℃、より好ましくは47~53℃、最も好ましくは50℃の粘度上昇開始温度を有する。

【0009】
本発明のサツマイモデンプンは、示差走査熱量計(DSC-10型、セイコー電子工業)を用い、デンプン濃度28%で室温から130℃まで1分当たり1℃で昇温して測定した際、以下のような糊化特性を示す。すなわち、従来のサツマイモのデンプンは糊化ピーク温度が61~78℃であるが、本発明のデンプンは糊化ピーク温度が43℃前後を示し、従来のデンプンより低温で糊化しやすいという特徴を有する。

【0010】
また、本発明のデンプンは、ラピッドビスコアナライザー等の粘度測定器を用い、デンプン濃度10%で粘度変化を調査した際、以下のような挙動を示す。すなわち、従来のサツマイモのデンプンは糊化すると62~74℃の温度で急激に粘度が上昇するが、本発明のデンプンは糊化すると50℃前後で粘度が上昇し、従来のデンプンより低温で糊化しやすいという特徴を有する。

【0011】
さらに、本発明のデンプンは、デンプンのヨウ素呈色液の680nmにおける吸光度から求めたアミロース含量を調査した際、従来のサツマイモと同程度のアミロース含量を示す。また、高性能アニオン交換クロマトグラフィーを用いて本発明のデンプンのアミロペクチンの側鎖長分布を調査した際、そのアミロペクチンはグルコースの重合度が6~10の短い側鎖が多い構造変異を示す。

【0012】
本発明のサツマイモデンプンは、特定のサツマイモ系統の塊根から得ることができる。そのようなサツマイモ系統として、例えば、「関東116号」を挙げることができる。「関東116号」の塊根は、農林水産省農業生物資源研究所ジーンバンクに寄託保存されている(保存番号01021296)。

【0013】
また、このようなサツマイモは、「ベニアズマ」と「九州30号」との交雑による後代植物の中から、塊根デンプンの粘度上昇温度が低い植物個体を選抜することにより、作出することができる。「ベニアズマ」と「九州30号」の塊根は農林水産省農業生物資源研究所ジーンバンクに寄託保存されている(「ベニアズマ」の保存番号01000180、「九州30号」の保存番号45001036)。

【0014】
本発明のサツマイモデンプンは、例えば、以下の方法によって特定のサツマイモ系統の塊根から採取することができる。細断した塊根に水を加え、ミキサーで撹拌した懸濁液を濾過し、水洗・沈殿を繰り返し、精製する。この方法は一般的に行われているデンプン採取法である。

【0015】
本発明のデンプンを含む塊根を用いた食品としては、上記デンプンを含む塊根を原料とする限り、どのようなものでもよく、例えば、焼きいも、蒸しいも、蒸し切り干しいも、大学いも、菓子類、麺類、レトルト食品、いも焼酎などを挙げることができる。

【0016】
本発明のデンプンを含む食品としては、上記デンプンを含む限り、どのようなものでもよく、例えば、麺類、菓子類、たれ類、インスタント食品などを挙げることができる。本発明のデンプンを分解して製造する糖類およびアルコールとしては、上記デンプンを原料とする限り、どのようなものでもよく、例えば、水飴、ブドウ糖、マルトース、異性化糖およびエチルアルコールなどを挙げることができる。

【0017】

【実施例】以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕 サツマイモ新系統の作出
以下の手順(1)~(5)により、本発明のデンプンを塊根中に含むサツマイモ新系統「関東116号」を作出した。
(1)1993年に「ベニアズマ」を母本、「九州30号」を父本とする交配組み合わせで交雑を行い、種子を採取した。
(2)1994年3月に交雑種子194粒を苗床に播種し、発芽した全個体の苗を5月に圃場へ定植した。10月に全個体の塊根を収穫し、塊根の肥大性に優れる13個体を選抜した。
(3)1995年には13系統を圃場で栽培し、6系統を選抜した。1996年には6系統から1系統を選抜した。1997年にはその1系統を「関系92」として選抜した。
(4)1998年3月に「関系92」の塊根を苗床に伏せ込み、5月22日に苗を圃場へ定植し、10月21日に塊根を収穫した。塊根から採取したデンプンの糊化特性をラピッドビスコアナライザー(フォス・ジャパン社製、RVA-3D)で分析した結果、粘度上昇開始温度が50℃前後を示すことが明らかとなった。

【0018】
(5)1999年3月に「関系92」の塊根を苗床に伏せ込み,5月に苗を圃場へ定植し、10月塊根を収穫し、新たに系統名を「関東116号」として選抜した。塊根から採取したデンプンの糊化特性をラピッドビスコアナライザーで分析した結果、粘度上昇温度が50℃前後を示すという低温糊化性が維持されており、この特性が「関東116号」において再現性を示すことを確認した。尚、上記の全ての栽培は、施肥条件を全量基肥で化成肥料(N-P2O5-K2O:3-12-10%)を60 Kg/10a、栽稙条件を畦幅100cm×株間25cmとしたポリマルチ栽培で、1994年は1個体につき1株ずつ、1995年は1系統につき20株ずつ、1996年は1系統につき32株ずつ2反復、1997年以降は1系統につき40株ずつ3反復して実施した。

【0019】
〔実施例2〕 デンプンの特性解析
実施例1で得られた新系統「関東116号(関系92)」および比較品種として「コガネセンガン」と「ベニアズマ」を、1998年に上記栽培条件で1品種・1系統につき20株ずつ栽培した。これらの品種・系統の生塊根を細断して水を加え、ミキサーで攪拌した懸濁液を200メッシュ(75μm)の篩に通し、水洗・沈殿を4~5回繰り返して水洗デンプンを採取した。タンパク質を除去するために、デンプンに3倍量の水を加えた懸濁液に1/8容積のトルエンを加えて一晩振とうし、遠心分離して上澄み液を捨てる操作を4~5回行い、その後4~5回水洗した。さらに脱脂するために、クロロホルム:メタノール=2:1の混合液中で3時間攪拌した後<HAN>、</HAN>混合液を吸引除去する操作を2回繰り返した。これらの操作により精製したデンプンの糊化温度を調べた。

【0020】
(糊化温度の測定)上記デンプンの糊化温度の測定は、KohyamaおよびNishinari(1991)の方法により、示差走査熱量計(DSC-10型、セイコー電子工業(株))を用い、デンプン濃度28%(乾物重換算)で室温から130℃まで1.0℃/分で昇温して実施した。吸熱曲線から、糊化開始温度(T0)、糊化ピーク温度(Tp)、糊化終了温度(Tc)および糊化エンタルピー(△H)を求めた。測定は2反復で行なった。結果を表1に示す。

【0021】

【表1】
JP0003366939B2_000002t.gif【0022】表1の結果から、「関東116号」由来のデンプンは43℃前後の糊化ピーク温度を有し、従来のサツマイモのデンプンと比較して20℃程度低い温度で糊化することが示された。

【0023】
(糊化特性の解析)次に、上記「関東116号」由来の水洗デンプンを用い<HAN>、</HAN>デンプン濃度10%(乾物重換算)で蒸留水25ml中で撹拌し、ラピッドビスコアナライザー(RVA)で糊化特性(粘度上昇開始温度および粘度上昇にかかった時間)を解析した。それぞれの解析を2反復で行った。RVAの条件設定は、(0~1分:25℃、1~48分:1分間に1.5℃の割合で昇温、48~58分:95℃、58~105分:1分間に1.5℃の割合で降温、105~110分:25℃)である。比較品種として「ベニアズマ」と「コガネセンガン」を用いた。図1に「関東116号」と比較品種のデンプンの粘度曲線を示す。また表2に粘度上昇開始温度と粘度上昇を始めるまでにかかった時間を示す。

【0024】

【表2】
JP0003366939B2_000003t.gif【0025】図1および表2に示すように、「関東116号」のデンプンは比較品種のデンプンより、粘度上昇開始温度が20℃程度低く、粘度上昇を始めるまでの時間も13分早かった。これらのことから、「関東116号」のデンプンは、従来のデンプンより低い温度や短い加熱時間で糊化するという特徴を有していることが明らかになった。

【0026】
デンプンの糊化温度はそのアミロペクチンの構造と関係があることが指摘されている(Nodaら、1998)。そこで、さらに上記「関東116号」由来のデンプンを用いてそのアミロース含量、ヨウ素呈色吸収スペクトル、アミロペクチンの側鎖長分布について調査を行った。デンプンは、「関東116号」の生塊根を細断して水を加え<HAN>、</HAN>ミキサーで攪拌した懸濁液を篩に通し<HAN>、</HAN>水洗・沈殿を繰り返して採取した。脱脂するために<HAN>、</HAN>85℃の85%メタノール中で2時間攪拌した後<HAN>、</HAN>メタノールを吸引除去する操作を3回繰り返した。これらの操作により精製したデンプンを調査に用いた。各解析は2反復で行った。

【0027】
(アミロース含量およびヨウ素呈色吸収スペクトルの測定)生塊根重当たりの乾燥デンプン重の割合をデンプン含量とし、「関東116号」由来のデンプンのヨウ素呈色吸収スペクトルは、デンプンをジメチルスルホキシド中で70℃で3時間攪拌した後35℃で一晩放置して溶解し、全水溶液50mL中にデンプン2mg、ヨウ素4mg、ヨウ化カリウム40mgを含むデンプンヨウ素呈色溶液を調整して分光光度計で測定した。またアミロース含量は<HAN>、</HAN>このデンプンヨウ素呈色液の680nmにおける吸光度を青価とし、アミロース含量(%)=(試料の青価-0.166)×100/(1.48-0.166)の計算式で求めた。比較品種として「コガネセンガン」および「ベニアズマ」を用いた。結果を表3に示す。

【0028】

【表3】
JP0003366939B2_000004t.gif【0029】(結果)表3に示すヨウ素呈色吸収スペクトル、アミロース含量およびデンプン含量から、「関東116号」は比較品種よりも最大吸収波長がやや高波長側にあるものの、アミロース含量は同程度で、デンプン含量にも極端な差は見られなかった。これらのことから、「関東116号」はアミロース含量、デンプン含量については比較品種と同程度であることがわかった。

【0030】
(アミロペクチンの側鎖長分布の解析)「関東116号」由来のデンプンのアミロペクチンの側鎖長分布を解析した。解析は、Nagamine and Komae(1996)の方法を用いて、イソアミラーゼでデンプンを枝切り処理した分解物を試料とし、パルス電流検出器(Model PED)とCarboPac-PA1カラムを用いた高性能アニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC) Dionex DX-500システム(Dionex社)で行った。グルコースの重合度(DP)が6~36までの各オリゴ糖ごとに、各検出ピーク面積をその重合度で割った値を各オリゴ糖の分子当たり面積とし、各オリゴ糖単位側鎖のモル%=(各オリゴ糖の分子当たり面積÷DP6-36の各オリゴ糖分子当たり面積の合計)×100の式で、各単位側鎖のモル%(モル比)を求めた。HPAECによりアミロペクチンの側鎖長分布を解析した結果について、クロマトグラフの溶出パターンを図2に、各単位側鎖のモル%の分布を図3に示す。

【0031】
(結果)「関東116号」は、比較品種よりDP6-10の短い側鎖の検出ピークおよびモル%が高く、明確な差が認められた。また、<HAN>「</HAN>関東116号<HAN>」</HAN>と比較品種との側鎖長分布の差が正と負に分かれるDP6-10とDP11-36の二つの鎖長領域別に分けた側鎖のモル%は、それぞれ下記表4に示すとおりであった。

【0032】

【表4】
JP0003366939B2_000005t.gif【0033】「関東116号」は比較品種に比べてDP6-10の短い側鎖が多く、DP11-36の側鎖が少なくなっており、したがって、「関東116号」はアミロペクチンの構造が比較品種とは明確に異なっていることが明らかとなった。従って、上記糊化特性の解析により明らかとなった、本発明のサツマイモデンプンの低温糊化特性は、アミロペクチンの構造変異に由来していると考えられる。

【0034】
〔実施例3〕 再現性の確認
実施例1(4)で得られた「関東116号」の塊根を1999年3月に苗床に伏せ込み、5月に苗を圃場へ定植し、10月に塊根を収穫した。塊根から採取したデンプンの糊化特性を実施例2と同様にしてラピッドビスコアナライザーで分析した。その結果、このデンプンにおいて粘度上昇開始温度が50℃前後を示すという低温糊化性が維持されており、この特性が「関東116号」において再現性を示すことが確認された。

【0035】

【発明の効果】本発明により、従来のデンプンより20℃程度低い温度で糊化するサツマイモデンプンおよび該デンプンを含むサツマイモの作出方法が提供される。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図2】
2