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明細書 :有色素米玄米の吸水化法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第2936136号 (P2936136)
公開番号 特開平11-196789 (P1999-196789A)
登録日 平成11年6月11日(1999.6.11)
発行日 平成11年8月23日(1999.8.23)
公開日 平成11年7月27日(1999.7.27)
発明の名称または考案の名称 有色素米玄米の吸水化法
国際特許分類 A23L  1/10      
A23L  1/275     
FI A23L 1/10 A
A23L 1/275
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願平10-001254 (P1998-001254)
出願日 平成10年1月7日(1998.1.7)
審査請求日 平成10年1月7日(1998.1.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591224478
【氏名又は名称】農林水産省北陸農業試験場長
【識別番号】598002578
【氏名又は名称】小林 明晴
【識別番号】598002589
【氏名又は名称】小川 紀男
発明者または考案者 【氏名】小林 明晴
【氏名】小川 紀男
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】小橋 信淳
審査官 【審査官】冨士 良宏
参考文献・文献 特開 昭53-145943(JP,A)
特開 平6-311859(JP,A)
特開 平6-303927(JP,A)
特開 昭62-14752(JP,A)
特公 昭3-3420(JP,B1)
調査した分野 A23L 1/10
A23L 1/275
特許請求の範囲 【請求項1】
米粒の糠層に有用色素を含有する紫黒米あるいは赤米の玄米を、吸水して着色米飯及びその加工食品へ利用する有色素米玄米の吸水化法において、
上記有色素米玄米を米飯の着色料あるいは着色米飯として使用する場合に、通常の精米の米飯と食感上の違和感が少なく、且つ有用色素の損失や色調変化の極めて少ない易吸水性玄米を製造するに際して、有色素米玄米を玄米の変質・発芽・色素の損失のない5℃の低温下において2~3日間吸水させて吸水量を飽和にして膨潤化し、これを凍結乾燥させることにより多穴質の膨化玄米とし、これにより、米粒浸水時の吸水が速やかで着色効率に優れ、精米と混合炊飯しても違和感の少ない易吸水性の有色素米玄米を得るようにしたことを特徴とする有色素米玄米の吸水化法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、食料品である米自体に由来する安全な色素により米飯を効率よく着色でき、且つ通常の精米との混合炊飯においても、食感上の違和感の少ない着色米飯が得られ、これにより、付加価値の高い米飯食品が製造でき、食品産業の活性化に寄与すると共に、米の新用途の開発により、米の需要拡大にも寄与できる有色素米玄米の吸水化法に関する。なお、本発明品を製造する施設・装置は食品産業で一般に使用されている施設・装置(冷蔵庫・凍結乾燥器)で対応できる。

【02】

【従来の技術】紫黒米等の有色素米の色素は「糠層」に偏在する。従って、色素の利用は玄米の利用あるいは米糠の利用法でもある。従来、有色素米を粒状で着色米飯等食品着色料として使用する場合、
.一般精米に有色素米玄米を少量加え、炊飯・蒸煮により着色米飯を製造する方法。
.有色素米玄米を2分搗等糠の一部を残して、全量を用いて着色米飯とする方法。.玄米を蒸煮処理により色素を胚乳組織へ移行させ、この玄米を乾燥させた後搗精し、着色精米としてから着色米飯とする方法(パーボイル加工米)。

【03】
しかし、これら従来の技術には、以下のような欠点がある。上記.の場合、玄米は浸水及び炊飯時に吸水し難くいため炊飯されにくく、精米との混合炊飯の場合、精米米飯粒と玄米米飯粒との間に物性上の著しい差異があり、食感上の違和感がある。また、玄米の色素を全量使用してはいるが、色素の溶出がやや緩慢で白米への着色効率も劣る。.の場合、ほぼ精米状態で使用するため、色素の一部しか利用できない。また、搗精により糠外層部分の鮮やかな色調の色素が失われるため、色調もやや劣る。.の場合、米飯物性は精米であるので良好であるが、玄米の蒸煮処理により色素の分解損失があり、色調の鮮やかさも減少する。

【04】

【発明が解決しようとする課題】玄米は吸水性が悪いので、精米と同じ炊飯をした場合、玄米米飯は精米に比較して、食感上硬い、粘らない等の欠点がある。精米との米飯物性の差異をなくすには玄米を易吸水させる必要がある。しかし、このとき、目的色素の損失、色調の変化がないことが必要であり、着色効率も損ねてはならない。さらに,「食品に由来する安全な色素」という安全イメージを損ねないために、処理工程で食品衛生法上規制のある溶媒などの資材の使用や接触のないことが必要である。

【05】
本発明は、これらの問題点を解決することを目的になされたもので、その方法として、有色素米玄米を変質・発芽・色素の損失のない低温下において吸水させて膨潤化し、これを凍結乾燥させることにより多穴質の膨化玄米とし、着色効率に優れ、精米と混合炊飯しても違和感の少ない有色素米玄米を得られるようにしたが、このようにした易吸水性玄米の製造法はこれまでに開発されていない。

【06】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために本発明は、米粒の糠層に有用色素を含有する紫黒米あるいは赤米の玄米を、吸水して着色米飯及びその加工食品へ利用する有色素米玄米の吸水化法において、上記有色素米玄米を米飯の着色料あるいは着色米飯として使用する場合に、通常の精米の米飯と食感上の違和感が少なく、且つ有用色素の損失や色調変化の極めて少ない易吸水性玄米を製造するに際して、有色素米玄米を玄米の変質・発芽・色素の損失のない5℃の低温下において2~3日間吸水させて吸水量を飽和にして膨潤化し、これを凍結乾燥させることにより多穴質の膨化玄米とし、これにより、米粒浸水時の吸水が速やかで着色効率に優れ、精米と混合炊飯しても違和感の少ない易吸水性の有色素米玄米を得るようにしたことを特徴としている。

【07】

【作用】上記の手段により本発明の有色素米玄米の吸水化法は、玄米を5℃の低温下において2~3日間吸水させて吸水量を飽和にすることで玄米の糠層及び胚乳組織が吸水し膨潤化する。これを凍結乾燥することにより膨潤化した形態を保ったまま乾燥し、糠層及び胚乳組織が多穴質となる。組織が多穴質になるため、この玄米の浸水時及び炊飯時の吸水が容易となる。このため、米飯物性が改善され、色素の溶出も容易となり被着色性が向上する。

【08】
この易吸水性玄米の製造工程は全て5℃の低温下の操作であるので、色素の熱分解や自身の持つ酵素等の色素分解因子の作用を受けず、色素の減少や変色がない。また,薬品の添加をしないので安全イメージを損ねない。

【09】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を表を参照して具体的に説明する。本発明の導出は、以下の根拠による。
1)玄米及び精米を5°Cの水に浸し、浸水時間と吸水率を調べた結果、玄米は精米に比較し吸水が遅いため、短時間の浸水では水分含量が少なかった。しかし2~3日間吸水させると吸水量が飽和に達し、供試した穀実間での水分含量はほぼ等しくなった。この結果より、短時間の浸水処理による炊飯では、玄米と精米では米飯物性に著しい差異が生じる根拠となる。

【10】
玄米を5℃の水に浸し、飽和まで吸水させた後凍結乾燥させた紫黒米玄米は、吸水性が著しく向上している(表1参照)。
【表1】
JP0002936136B2_000002t.gif表1は、玄米及び精米を5°Cの水に浸し、浸水時間と吸水率を調べた結果である。玄米は精米に比較し吸水が遅い。これに対して本発明の易吸水化玄米(処理玄米)は吸水性が著しく改善されている。この結果より本発明の有効性が明らかである。

【11】
2)有色素米の色素を温存しつつ米飯特性を精米に近づける方法としては、従来技術として部分搗精や予備蒸煮後乾燥して搗精するパーボイル処理がある。これらの従来技術による処理済米の色素含量及び色調の変化を調べた結果、搗精歩留まりが少なくなる(より精米に近づく)に従い溶媒により抽出される色素量が低下する。また、この米の抽出色素の透過光の色調はL(鮮やかさ)及びa(赤)が低下し、b(黄)が増し、結果として目視的な赤色が損なわれる(表2参照)。
【表2】
JP0002936136B2_000003t.gif表2は、紫黒米の有色素米の搗精歩合と色素含量及び色調を調べたものである。精歩留まりが少なくなる(より精米に近づく)に従い色素量が低下する。また、この米の抽出色素の透過光の色調はL(鮮やかさ)及びa(赤)が低下し、b(黄)が増し、結果として目視的な赤色が損なわれる。

【12】
玄米を予備蒸煮した場合も色素量の低下が著しく、色調のL及びa(赤)が低下し、b(黄)が増し、結果的に、鮮やかな赤紫色系の色調は失われた(表3参照)。

【13】
3)本発明の方法である吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米と、未処理玄米の色素特性を比較した結果、各種試料(品種・系統)とも処理と未処理間で色素量にほとんど変化がなく、処理による色素の損失がない。また、色調のL、a、b値にもほとんど変化がなく、鮮やかな色調が保たれており、本発明法の有効性が明らかである(表8参照)。
【表3】
JP0002936136B2_000004t.gif表3は、従来技術である玄米を予備蒸煮した場合も色素量の低下が著しく、色調のL及びa(赤)が低下し、b(黄)が増し、結果的に鮮やかな赤紫色系の色調は失われたことを示している。

【14】
4)紫黒米玄米及び吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を、着色料として使用した場合における精米への着色能力の比較をした。即ち、ヒメノモチ精米(白米)に未処理玄米及び吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を25%混合し、これを浸水して精米の着色程度を調べた結果である。
【表8】
JP0002936136B2_000005t.gif表8は、紫黒米の吸水凍結乾燥による色素含量及び色調の変化を調べた結果である。処理による色素含量及び色調の変化が極めて少なく、本発明の有効性を示す結果である。

【15】
精米部分のみを分別し、反射光による色調を調べた結果、精米部分の色調は、未処理玄米を混合した区よりも、吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を混合した区の方がL値が低く、より濃く染色されている。色の成分はa値が高く、b値は逆に低くなった。即ち、未処理玄米よりも、吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を使用した方がより濃く赤紫色系に染色されていることが明らかである(表4参照)。
【表4】
JP0002936136B2_000006t.gif表4は、紫黒米玄米及び吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を、着色料として使用した場合における精米への着色能力の比較をした結果である。即ち、ヒメノモチ精米(白米)に溶媒による色素量の等しい未処理玄米及び吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を25%混合し、これを浸水して精米の着色程度を調べた結果である。未処理玄米よりも、吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米を使用した方がより濃く赤紫色系に染色されていることが明らかである。

【16】
5)玄米を吸水させることにより膨潤化する。これを凍結乾燥することにより、膨潤化した形態を保った状態で水分のみが除去されるので、糠層及び胚乳組織が多穴質の玄米となる。これが玄米の浸水時の吸水性の向上、米飯物性及び玄米の柔軟化、色素の溶出促進による着色能力の向上に寄与すると推定される。

【17】
吸水凍結乾燥処理による易吸水化した玄米のかさ密度を測定した結果、未処理玄米に比較してかさ密度が明確に低下している。これが多穴質化した根拠である(表5参照)。
【表5】
JP0002936136B2_000007t.gif表5は、玄米のかさ密度を測定した結果、吸水凍結乾燥処理による易吸水化した玄米は未処理玄米に比較してかさ密度が明確に低下している。これが多穴質化した根拠である。

【18】
6)吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄米の硬度について「破砕硬度」を指標にし、未処理玄米と比較した結果、処理玄米は著しく硬度が低下しており、多穴質・膨化状態であることが推定できた(表6参照)。

【19】
7)玄米の浸水時間と凍結乾燥玄米の硬度との関係を調べた結果である。浸水時間が長くなるに従い硬度が低下した。このことより浸水時間(吸水率)を変えることにより、処理済玄米の硬度の調整が可能であることが明らかである(表7参照)。表6は、玄米の硬度について「破砕硬度」を指標にして、吸水凍結乾燥処理による易吸水化玄と米未処理玄米とを比較した結果である。処理玄米は著しく硬度が低下しており、多穴質・膨化状態であることが推定できる。表7は、玄米の浸水時間と凍結乾燥玄米の硬度との関係を調べた結果である。浸水時間が長くなるに従い硬度が低下した。このことより浸水時間(吸水率)を変えることにより、処理済玄米の硬度の調整が可能であることが明らかである。表9は、玄米の蒸煮米飯(おこわ)の米飯物性を示したものである。易吸水化玄米は未処理玄米に比較して食感上の硬さに相当する動的弾性率及び動的損失が低下(少ないと柔らかい)し、また、粘りに相当する損失正接が上昇(多いと粘る)し、モチ精米の場合の物性に著しく近づいている。このことは本発明の有効性を示している。

【20】
8)紫黒米の吸水凍結乾燥による色素含量及び色調の変化を調べた結果、処理による色素含量及び色調の変化が極めて少なく、本発明の有効性を示す結果である(表8参照)。

【21】
9)本発明による処理玄米の蒸煮米飯(おこわ)の物性改善効果を示したものである。処理玄米は未処理玄米に比較して食感上の硬さに相当する動的弾性率及び動的損失が低下(柔らかく)し、また、粘りに相当する損失正接が上昇(粘りが強くなり)し、モチ精米の場合の物性に著しく近づている。このことより本発明の有効性が明白である(表9参照)。

【22】

【発明の効果】以上説明したように本発明の有色素米玄米の吸水化法は、上記の手段により、有用色素の損失がなく、且つ食品衛生法上の問題点もない易吸水化玄米が製造できる。この製造法により、以下の効果を奏することができる。

【23】
.糠層にアントシアン系色素、あるいはタンニン系色素を含有する有色素玄米を、通常の精米に一部混合して炊飯、あるいは蒸煮して着色米飯を得るための食品着色料への利用に際して、有色素米玄米を玄米の変質・発芽・色素の損失のない5℃の低温下において2~3日間吸水させて吸水量を飽和にして膨潤化し、これを凍結乾燥させることにより多穴質の膨化玄米として利用する。

【24】
.これにより、米粒浸水時の吸水が速やかで、着色効率に優れ食品衛生法上の問題点もなく、通常の精米と混合炊飯しても違和感の少ない米飯が得られる。

【25】
.この玄米は利便性が高く、また、食品由来の安全な天然着色料であるので、着色食品のイメージアップになり、製菓業など食品工業の発展に寄与できると共に、米の新規用途が拡大し、米の需要拡大にも寄与できる。