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明細書 :新規含硫アミノ酸

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3421670号 (P3421670)
公開番号 特開2001-058980 (P2001-058980A)
登録日 平成15年4月25日(2003.4.25)
発行日 平成15年6月30日(2003.6.30)
公開日 平成13年3月6日(2001.3.6)
発明の名称または考案の名称 新規含硫アミノ酸
国際特許分類 C07D211/60      
A23L  1/221     
A23L  1/226     
FI C07D 211/60
A23L 1/221
A23L 1/226
請求項の数または発明の数 2
全頁数 3
出願番号 特願平11-232579 (P1999-232579)
出願日 平成11年8月19日(1999.8.19)
審査請求日 平成12年6月9日(2000.6.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501168814
【氏名又は名称】独立行政法人水産総合研究センター
発明者または考案者 【氏名】村田 裕子
【氏名】潮 紀子
個別代理人の代理人 【識別番号】100090941、【弁理士】、【氏名又は名称】藤野 清也 (外2名)
審査官 【審査官】中木 亜希
参考文献・文献 日本水産学会誌,1998年,第64巻,第3号,第477-478頁
調査した分野 C07D 211/60
A23L 1/22 - 1/24
特許請求の範囲 【請求項1】
次の一般式で示される 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸〔4-(2-carboxy-2-hydroxy-ethylthio)-2- piperidinecarboxylic acid〕、その塩、およびその低級アルキルエステル。
【化1】
JP0003421670B2_000002t.gifただし、式中R1及びR2はその両者あるいはその一方がそれぞれ水素原子あるいは低級アルキル基である。またR1及びR2は、一方あるいは両者がアルカリ金属アルカリ土類金属、その他の典型金属、または遷移金属であっても、また当該化合物が塩基と塩を形成しているものでもよい。

【請求項2】
請求項(1) 記載の化合物よりなる苦味剤。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、ウニ卵巣から抽出された、苦味を呈する新規アミノ酸、及びその用途に関する。

【0002】

【発明が解決しようとする課題】ウニの呈味成分については、これまでに食用とされている未成熟のバフンウニのエキス成分を明らかにし、その呈味効果についての報告 (日本水産学会誌vol.30,No.9,749-756(1964))がなされている。またキタムラサキウニについては顕微鏡を用いて雌雄を判別し、雌雄の生殖腺のエキス成分を比較した報告例がある(日本水産学会誌vol.44,No.9, 1037-1040(1978))。これらの報告よりウニの生殖腺にはバリン、ロイシン、イソロイシンなどの苦味アミノ酸の存在が認められるている。その含量は、雌雄とも同程度であり、ウニ特有の呈味に関与していると考えられている。

【0003】
本発明者らは、ウニの呈味成分について検索を行ったところ、バフンウニの放卵期直前の成熟した卵巣より従来の文献に記載されていない新規なアミノ酸を見出した。そして、このアミノ酸は苦味を有し、苦味のマスキング剤の開発等のための研究のツールや苦味を付与する呈味成分、また、誤飲防止のための塗布剤として用いられることを見出して本発明をなすに至った。すなわち、本発明の課題は、ウニの卵巣から抽出して得られる新規アミノ酸、及び苦味剤を提供することにある。

【0004】

【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、次の化学式(II)で示される 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ) -2- ピペリジンカルボン酸〔4-(2-carboxy-2-hydroxy-ethylthio)-2-piperidinecarboxylic acid〕に関する。

【0005】

【化2】
JP0003421670B2_000003t.gif【0006】さらに、本発明の化合物は、2個のカルボキシル基を有するが、その一方及び両者が、低級アルキル基でエステル化されていてもよい。このように低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャルブチル基等がある。

【0007】
また、本発明の化合物は、その化学構造から異性体が存在するが、本発明ではこれらの異性体をも含むものである。また、本発明の化合物は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属、その他の典型金属また、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属等の無機イオンやアンモニウム、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基等と塩を形成するが、本発明の化合物はこれらの塩をも含むものである。上記化学式(II)で示されるアミノ酸は放卵期直前の成熟した卵巣より抽出されたものであり、これまでにウニやその他の動植物から抽出されたという報告はない。また、合成化学的にも本発明化合物または類似物の合成例は報告されていない。従って、本発明の化合物 (アミノ酸及びその誘導体) は、新規な化合物であると判断される。

【0008】
次に、本発明の化合物の製造法を示す。本発明の 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ) -2- ピペリジンカルボン酸 (式(II)) を得るには次の方法が用いられる。バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus) の卵巣を含水エタノールで抽出し、抽出液を減圧濃縮し、水とジエチルエーテルで2層分配する。得られた水層と残渣の含水メタノールによる抽出液とを合わせ、濃縮する。この濃縮液をODSの中圧カラムを用いて、水を溶離液として分画を行う。苦味を有する画分はゲルろ過後、さらに、酢酸水溶液を溶離液としたODS中圧カラムにより分画し、最終的に酢酸水溶液を移動相としたODSによる高速液体クロマトグラフィーで精製し、4-(2- カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸を得る。この方法において、バフンウニの卵巣は、成熟した生殖腺が用いられ、抽出液の含水エタノールとしては、70~90容量%のものが、また含水メタノールとしては、10~30容量%のものが、酢酸水溶液としては、 0.5~3 容量%程度のものが用いられる。

【0009】
また、本発明の前記エステル誘導体は 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸を低級アルコールでエステル化することによって得ることができる。この場合のエステル化反応としては、通常の反応条件が用いられる。また、本発明の前記塩類は、イオン交換カラムを用いて製造される。

【0010】
さらに本発明は、前記 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ- エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸又はその誘導体よりなる苦味剤に関する。製薬分野での経口剤の苦味、また、タンパク質加水分解物や植物抽出物を用いた機能性食品の開発途上派生する苦味は大きな問題でいずれも苦味のマスキングが重要な課題となっている。苦味のマスキングには苦味の発現機構を解明することが不可欠である。しかし、苦味物質は多種多様であり、その化学構造と苦味の強さ、さらに苦味の受容サイトの構造も多様であると考えられている。このため苦味物質の構造とその発現機構の解明にはより多くの苦味モデル化合物(研究ツール)が必要とされている。

【0011】
一方、コーヒー、ビールなどのように苦味が好ましい味とされる食品も多く、苦味物質の食品への応用も期待される。近年、新しいタイプの加工食品の開発が進められている中で、苦味物質を調味料として利用することが考えられている。また、ブロックなどの玩具や消しゴムなどの文房具に苦味物質を塗布することにより、幼児の誤飲による窒息等の事故を未然に防げると考えられる。本発明化合物は、新規の構造を有する苦味の研究ツールおよび苦味添加剤としても有効である。

【0012】
本発明の苦味剤は、前記化合物よりなるものがあり、この化合物自体を用いてもよいし、あるいは粉剤、顆粒剤、あるいは溶液の形に製剤し、これを苦味の好ましい食品に添加したり、幼児の誤飲を防ぐため、玩具等に塗布したり、あるいは苦味のマスキング剤開発のため等の苦味のモデル化合物として用いることができる。本発明の化合物の苦味は、キニーネのようであり、その閾値は、0.006 %程度である。本発明の化合物はウニの卵巣に存在する化合物であり、急性毒性はないものと判断される。

【0013】

【発明の実施の形態】次に、本発明の具体的な実施の態様を実施例として示す。
【実施例1】原料として用いたウニは、福島県いわき市小名浜にて採取したバフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus) で、放卵期直前の成熟した卵巣を用いた。この卵巣800g(湿重量) に80%エタノールを加えホモジナイズし、抽出した(2.4l ×3回) 。この抽出液を遠心分離し、得られた上清を減圧濃縮後、水とジエチルエーテルで2層分配を行った。また、残渣を20%メタノール (1.2l×3回)で抽出し、得られた抽出液と先の水層を合わせて減圧濃縮後、コスモシールODSの中圧カラムクロマトグラフィーで水を溶離液として分画を行った。得られた苦味を有する画分はセファデックスG-10 によるゲルろ過、さらに、1%酢酸水溶液を用いたODS中圧カラムクロマトグラフィーで分画後、最終的に1%酢酸水溶液を移動相としたODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで精製し、苦味物質(化学式(II)の化合物) 60mgを白色粉末として得た。

【0014】
得られた化合物の理化学的性状は次のとおりであった。
施光度: [α] 24D =-16.5° (c0.20, H2O)
薄層クロマトグラフィーのRf値:Rf=0.12 (シリカゲル薄層を使用、展開溶媒; n-ブタノール:酢酸:水=4:1:2 、ニンヒドリンで検出)
核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR, 13C-NMR): 1H-NMR(D2O-CD3OD(40:1) 中、CD3OD 内部標準、測定温度 300K, 600MHz); δ 4.19(1H,dd, J=6.7, 3.8) 、3.64(1H, dd, J=12.7, 3.1) 、3.49(1H, ddd, J=13.1, 4.2, 2.3) 、3.08(1H, m), 3.06(1H,dd,13.8, 3.8)、3.03(1H,m)、2.90(1H,dd, J=13.8, 6.7)、2.58(1H, ddd,J=14.2, 6.2, 3.1) 、2.25(1H,m)、1.63(1H,m)、1.61(1H,dd, J=12.7, 14.2)
13C-NMR(D2O-CD3OD(40:1) 中、CD3OD 内部標準、測定温度 300K, 67.5MHz);δ180.0s(1C), 174.2s(1C), 72.3d(1C), 60.0d(1C), 44.1t(1C), 39.6d(1C), 35.2t(1C),34.3t(1C), 29.8t(1C)

【0015】
質量分析値(FABMS, HRFABMS): FABMS(マトリックス チオグリセロール); m/z(相対強度) 250(25),204(15), 162(22), 128(48), 82(98)
HRFABMS; m/z 250.0749(C9H16O5NS (M+H)+ として) 、250.0755 (実験値)
この理化学的性状から得られた化合物は、 4-(2-カルボキシ-2- ヒドロキシ-エチルチオ)-2-ピペリジンカルボン酸〔4-(2-carboxy-2-hydroxy-ethylthio)-2-piperidinecarboxylic acid〕と決定した。この化合物の0.05%水溶液はキニーネのような苦味を呈した。

【0016】

【発明の効果】本発明によりウニの生殖腺より新規化合物が提供される。本発明の新規化合物は苦味を呈し、医薬品等の苦味のマスキング剤開発のための苦味のモデル化合物として用いられる。また、新しいタイプの機能性食品や加工食品の開発のための苦味の添加剤として用いられる。さらに幼児による誤飲防止のための玩具、文房具等への苦味塗布剤として用いられる。