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明細書 :神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4480952号 (P4480952)
公開番号 特開2004-321016 (P2004-321016A)
登録日 平成22年3月26日(2010.3.26)
発行日 平成22年6月16日(2010.6.16)
公開日 平成16年11月18日(2004.11.18)
発明の名称または考案の名称 神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法
国際特許分類 C12Q   1/26        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
FI C12Q 1/26
G01N 21/64 Z
G01N 21/78 C
C12M 1/34 E
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2003-116525 (P2003-116525)
出願日 平成15年4月22日(2003.4.22)
審査請求日 平成18年4月18日(2006.4.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】吉田 祥子
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 J. Neurosci. (2000) vol.20, no.5, p.1800-1808
調査した分野 C12Q 1/26
PubMed
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
組織外に放出された伝達物質アミノ酸を特異的に定量して二次元的に測定する神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法において、
(a)閉鎖系反応チャンバー中にニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸と緩衝液を封入し、
(b)分子量100以下の分子に透過性を持つ半透膜を通して前記反応チャンバー内に伝達物質アミノ酸の浸透を受け、
(c)薄膜画像素子で前記反応チャンバーの反応前の画像を撮影し、
(d)微小キュベットから個々のアミノ酸と特異的に反応して前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を還元する酵素を前記反応チャンバー内に定量注入し、前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸と反応させ前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を還元させ、
(e)光ファイバーから励起光で前記還元されたニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を励起し、前記薄膜画像素子で前記反応チャンバーの反応後の画像を撮影し、
)アミノ酸濃度に比例する平均蛍光変化率dF/F0を用いて組織外に放出された特定の伝達物質アミノ酸を定量することを特徴とする神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、神経組織からの放出アミノ酸、中でも情報伝達に関わる小分子として重要なグルタミン酸とγアミノ酪酸の量を、二次元画像として検出する新しい方法に関するものである。この方法は、組織からの放出アミノ酸量を短時間に、かつ放出細胞を特定しながら測定することができるため、再生組織における組織の状態の判定や病理検査などに有用である。
【0002】
【従来の技術】
神経組織は特定の分子を細胞外へ放出して情報伝達しており、この放出される分子を神経伝達物質と呼ぶ。その中でもグルタミン酸とγアミノ酪酸の2種のアミノ酸は、小分子でありながら多くの神経から放出され、神経組織の成熟・機能・病変に深く関わる重要な分子である。
【0003】
従来、これらのアミノ酸量の測定は、組織周辺の溶液を採取して蛍光性の担体を付加し、高速液体クロマトグラフィで定量する方法がほとんどだった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来のアミノ酸量の測定方法では、組織周辺溶液を用いるため、どの細胞種が放出したアミノ酸かを知ることができない。また、採取時にアミノ酸を放出していない組織の周辺の溶液も混入するため正確な濃度を測定することが難しい。しかも、小分子を測定するため極めて感度の鋭敏な担体を付加する必要があり、一回の測定が大変高価なものになっている。
【0005】
また、二次元的にグルタミン酸放出量を測定する試みが、非神経性の単一細胞でなされてきたが、この方法では、神経細胞からの放出量を測定することはできない。神経組織からのグルタミン酸の放出量を測定するためには、バックグラウンドのノイズを低減し、グルタミン酸放出量と放出組織とを対応させて測定できる条件を設定し、適切なチャンバーを構成したシステムを考える必要がある。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、バックグラウンドのノイズを低減し、放出量と放出組織とを対応させて測定できる神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕組織外に放出された伝達物質アミノ酸を特異的に定量して二次元的に測定する神経組織からの放出アミノ酸二次元検出方法において、閉鎖系反応チャンバー中にニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸と緩衝液を封入し、分子量100以下の分子に透過性を持つ半透膜を通して前記反応チャンバー内に伝達物質アミノ酸の浸透を受け、薄膜画像素子で前記反応チャンバーの反応前の画像を撮影し、微小キュベットから個々のアミノ酸と特異的に反応して前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を還元する酵素を前記反応チャンバー内に定量注入し、前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸と反応させ前記ニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を還元させ、光ファイバーから励起光で前記還元されたニコチンアミドジヌクレオチドまたはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸を励起し、前記薄膜画像素子で前記反応チャンバーの反応後の画像を撮影し、アミノ酸濃度に比例する平均蛍光変化率dF/F0を用いて組織外に放出された特定の伝達物質アミノ酸を定量することを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す神経組織からの放出アミノ酸二次元検出システムの模式図であり、図1(a)はその全体構成図、図1(b)はそのチャンバーの斜視図であり、ここでは、生体外で測定する場合に用いるシステムを示している。
【0009】
この図において、1はガラス容器、2は開放系チャンバー、3はサンプル(個々のアミノ酸)、4は個々のアミノ酸3と特異的に反応してNAD(ニコチンアミドジヌクレオチド)またはNADP(ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸)の還元を行う酵素(例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼGDH)、5はUV光源、6は1次フィルター及びレンズ、7は励起UV光、8は反射ミラー、9は2次フィルター、10は冷却CCDカメラ(光検出器)、11はマイクロピペット、12はチャンバー2の上面に設けられる穴である。つまり、倒立培養顕微鏡(5~9)と冷却CCDカメラ10を用いて測定するように構成している。例えば、パテで接着剤を塗布し、容器1に厚さ1.0cm、容量270μlのチャンバー2を接着する。サンプルを供給した後、酵素とNADをマイクロピペット11でチャンバー2の穴12に供給する。なお、開放系チャンバー2の材料としては、例えば、テフロン(登録商標)を用いることができる。
【0010】
このように、神経組織からの放出アミノ酸の二次元検出において、生体外で測定する場合は、開放系チャンバー2を用い、倒立培養顕微鏡(5~9)と冷却CCDカメラ10を用いて測定する。
このように、個々のアミノ酸3と特異的に反応してNADまたはNADPの還元を行う酵素4を用い、組織外に放出された特定の伝達物質アミノ酸を定量する。還元されたNADまたはNADPは、特定波長の蛍光を発するため、これを冷却CCDカメラ10で撮影して画像処理することにより、伝達物質アミノ酸の二次元的な放出量を知ることができる。
【0011】
図2は本発明の第2実施例を示す神経組織からの放出アミノ酸二次元検出システムの模式図であり、図2(a)はその正面図、図2(b)はその側面図である。ここでは、脳内で測定する場合のシステムを示している。
この図において、21は微小キュベット(酵素溜め)、22は電磁弁、23は反応チャンバー(閉鎖系チャンバー)、24は半透膜、25は光ファイバー(シリカガラス製:340nm励起光)、26は400nmバンドパスフィルタ、27は薄膜画像素子(人工網膜LSI)、28は薄膜画像素子27の出力である。
【0012】
この図に示すように、反応チャンバー23表面には分子量100以下に透過性を持つ半透膜24を設け、サンプルとしての伝達物質アミノ酸を脳内で直接反応チャンバー23内に浸透させる。励起光はシリカガラス製光ファイバー25で導入し、画像撮影は人工網膜LSIなどの薄膜画像素子27を用いて行う。また、定量の酵素を添加するため電磁弁22を備えた微小キュベット21を備える。
【0013】
測定は以下の手順で行う。
(1)まず、反応チャンバー23中にNADまたはNADPと緩衝液を封入する。
(2)次に、分子量100以下の分子に透過性を持つ半透膜24を通して反応チャンバー23内に伝達物質アミノ酸の浸透を受ける(30秒)。
【0014】
(3)次に、薄膜画像素子(人工網膜LSI)27で反応前の画像を撮影する(F0)。
(4)次に、微小キュベット21から酵素を反応チャンバー23内に定量注入し反応させる(10秒)。
(5)光ファイバー25から励起光340nmで還元されたNADまたはNADPを励起し、薄膜画像素子(人工網膜LSI)27で反応後の画像を撮影する(F1)。
【0015】
(6)平均蛍光変化率dF/F0(dF=F1-F0)がアミノ酸濃度に比例するので、これを用いて放出アミノ酸量を算出する。
本発明によれば、上記したように、
(i)生体外測定の時は開放系チャンバー、脳内測定の場合は閉鎖系チャンバーを用いるなど適切なチャンバーを備え、試料の非破壊検査法による測定システムを提供した。
【0016】
(ii)測定サンプル・細胞の量を限定せず、一定時間での組織表面からの放出量を測定面の面積を超えない範囲で任意の測定面積を設定できるウインドウ観測をするシステムを提供する。つまり、ウインドウの面積を越えない範囲でどのような試料でも測定することができる。
(iii )測定チャンバーは反応酵素が短時間で十分行き渡る小ささであり、かつ、酵素の添加により環境が大きく変化しない大きさとする(例えば、容量約300μlのチャンバーが適切である)。
【0017】
(iv)酵素の失活による副反応を防ぐために、短時間測定とする。本発明では酵素反応開始後10秒での測定が可能である。
図3は小脳培養組織から放出されたグルタミン酸を本発明の第2実施例の方法により測定した結果を示す図であり、図3の上段、つまり図3(a)、(b)、(c)、(d)が脳組織の顕微鏡画像、図3の下段、つまり図3(e)、(f)、(g)、(h)がその組織からのグルタミン酸放出を輝点で表した画像であり、図3の上段と下段、つまり図3(a)と(e)、図3(b)と(f)、図3(c)と(g)、図3(d)と(h)は同じ組織を写したものであり、ディジタルCCDカメラで撮影している。
【0018】
すなわち、図3(a)と(e)は、脳の成熟が始まった時期の脳組織で、組織全体ではなく、組織の特定の場所(顆粒細胞という神経細胞のある場所)に、グルタミン酸の放出が見られることを示している。
図3(b)と(f)は、脳の成熟が落ち着いてきた時期の脳組織で、同じく組織の特定の場所からのグルタミン酸の放出が見られる。図3(e)及び(f)の暗い部分にも脳組織は存在しているが、グルタミン酸の放出がないので光っていない。
【0019】
図3(c)と(g)は、脳の成熟を起こさない条件下での脳組織では、グルタミン酸の放出が見られないことを示している。この組織は図3(a)と(e)の脳組織と同時期の脳であるが、成熟を起こさないようにされている。
図3(d)と(h)は、そのような脳組織でも時間を経るとグルタミン酸の放出が現れることを示している。
【0020】
最下段に示されているAve.of dF/F0は、光っている場所の平均蛍光変化率を出したものであり、Aveはaverageの略、dFは蛍光変化量、Foは蛍光初期値を示しており、この蛍光測定法では、dF/F0が化学物質(グルタミン酸)の濃度に比例して変化している。ここでは、その平均蛍光変化率は、図3(e)では105.0、図3(f)では146.9、図3(g)では46.1、図3(h)では119.1を示している。
【0021】
その値をあらかじめ測定したキャリブレーション(較正)と照らして放出グルタミン酸の濃度に換算した値が、図3(e)では450μM、図3(f)では740μM、図3(g)では230μM、図3(h)では600μMを示している。単位は濃度単位のモル、mol/lのMで示している。
このように、ここでは、顆粒細胞上に特異的にグルタミン酸の放出を確認することができた。
【0022】
このとき用いた反応と酵素は以下のようである。
グルタミン酸+ニコチンアミドジヌクレオチド→
αケトグルタル酸+還元型ニコチンアミドジヌクレオチド
酵素;グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
さらに、小脳組織から放出されたγアミノ酪酸を、本発明の方法により測定したところ、プルキンエ細胞付近に特異的に105.0μM〔100μM程度〕のγアミノ酪酸の放出量を確認した。このとき用いた反応と酵素は以下のようである。
【0023】
γアミノ酪酸+ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸→
コハク酸+還元型ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸
酵素;γアミノ酪酸分解酵素
反応基質の拡散と酵素の濃度から、測定に用いるチャンバーの溶液体積は300μlとした。
【0024】
上記したように、本発明によれば、
(A)個々のアミノ酸と特異的に反応してNADまたはNADPの還元を行う酵素を用い、組織外に放出された特定の伝達物質アミノ酸を定量する。
(B)還元されたNADまたはNADPが発する特定波長の蛍光を、CCDカメラで撮影して画像処理することにより、伝達物質アミノ酸の二次元的な放出量とその放出組織を知ることができる。
【0025】
このように、本発明は、神経組織からの放出アミノ酸、中でも情報伝達に関わる小分子として重要なグルタミン酸とγアミノ酪酸の量を、二次元画像として検出する新しい方法に関するものであり、この方法は組織からの放出アミノ酸量を短時間に、放出細胞を特定しながら測定することができるため、再生組織における組織の状態の判定や病理検査などに有用である。
【0026】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0027】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
脳組織からの放出される伝達物質アミノ酸は、情報伝達だけでなく、脳の発達状態や病変の強力な指標である。従来の方法では、伝達物質放出量の空間分布を知ることが不可能だったが、本発明により、組織中の特定の細胞からの伝達物質放出量、及びその空間分布を測定することが可能になる。
【0028】
これにより、以下のようなことが可能になる。
(1)病変の考えられる脳組織からのグルタミン酸およびγアミノ酪酸放出量を測定して神経回路性の病変か否かを判定する。
(2)再生工学的に調整された脳組織の機能検査を行う。
(3)酵素反応のセンサー化によって患者の脳内のグルタミン酸放出量を測定することで、外傷や脳梗塞を発症した患者の脳内での神経細胞死を予測して抑制する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例を示す神経組織からの放出アミノ酸二次元検出システムの模式図である。
【図2】 本発明の第2実施例を示す神経組織からの放出アミノ酸二次元検出システムの模式図である。
【図3】 小脳培養組織から放出されたグルタミン酸を、本発明の第2実施例の方法により測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
1 ガラス容器
2 開放系チャンバー
3 サンプル(個々のアミノ酸)
4 個々のアミノ酸3と特異的に反応してNADまたはNADPの還元を行う酵素
5 UV光源
6 1次フィルター及びレンズ
7 励起UV光
8 反射ミラー
9 2次フィルター
10 冷却CCDカメラ(光検出器)
11 マイクロピペット
12 穴
21 微小キュベット(酵素溜め)
22 電磁弁
23 反応チャンバー(閉鎖系チャンバー)
24 半透膜
25 光ファイバー(シリカガラス製:340nm励起光)
26 400nmバンドパスフィルタ
27 薄膜画像素子(人工網膜LSI)
28 薄膜画像素子(人工網膜LSI)の出力
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2