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明細書 :高品質結晶成長方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3451314号 (P3451314)
公開番号 特開2001-316197 (P2001-316197A)
登録日 平成15年7月18日(2003.7.18)
発行日 平成15年9月29日(2003.9.29)
公開日 平成13年11月13日(2001.11.13)
発明の名称または考案の名称 高品質結晶成長方法
国際特許分類 C30B 19/12      
C30B 29/40      
FI C30B 19/12
C30B 29/40
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2000-131570 (P2000-131570)
出願日 平成12年4月28日(2000.4.28)
審査請求日 平成12年4月28日(2000.4.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012246
【氏名又は名称】静岡大学長
発明者または考案者 【氏名】早川 泰弘
【氏名】熊川 征司
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開 平11-263697(JP,A)
特開 平7-267783(JP,A)
特開 昭52-128889(JP,A)
特開 昭58-208195(JP,A)
特開2001-270800(JP,A)
飯田晋 ほか,窒化シリコン膜付きGaAs基板上へのInGaAs横方向成長(III),電子情報通信学会技術研究報告,1998年 5月21日,Vol.98,No.61,pp.15-22
飯田晋 ほか, 窒化シリコン膜付きGaAs基板上へのInGaAs横方向成長,電子情報通信学会技術研究報告,1996年 5月23日,Vol.96,No.66,pp.13-19
飯田晋 ほか, 窒化シリコン膜付きGaAs基板上へのInGaAs横方向成長(II),電子情報通信学会技術研究報告,1997年 5月23日,Vol.97,No.59,p.79-86
飯田晋 ほか, 窒化シリコン膜付きGaAs基板上へのInGaAsブリッジ成長,電子情報通信学会技術研究報告,1999年 5月21日,Vol.99,No.66,pp.55-62
永井洋希 ほか,InAs組成変換基板上への高In組成比InGaAs成長,日本結晶成長学会誌,2002年,Vol.29,No.2,p.46
調査した分野 C30B 1/00 - 35/00
特許請求の範囲 【請求項1】
基板上に結晶成長防止膜を形成する工程と、
前記結晶成長防止膜の一部を選択的に除去して前記基板を露出させ、露出した基板表面をさらに除去して溝を形成する工程と、
成長させる結晶の溶液を前記基板に接触させて、少なくとも前記溝に面する基板の側面に前記成長溶液の元素を混入させ、前記側面の組成を変換する工程と、
前記成長溶液の温度を下げて、組成変換した前記基板側面から結晶を成長させる工程とを具備することを特徴とする高品質結晶成長方法。

【請求項2】
基板上に結晶成長防止膜を形成する工程と、
前記結晶成長防止膜の一部を選択的に除去して前記基板を露出させ、露出した基板表面をさらに除去して溝を形成する工程と、
前記溝に面する基板の底面にさらに結晶成長防止膜を形成する工程と、
成長させる結晶の溶液を前記基板に接触させて、前記溝に面する基板の側面に前記成長溶液の元素を混入させ、前記側面の組成を変換する工程と、
前記成長溶液の温度を下げて、組成変換した前記基板側面から結晶を成長させる工程とを具備することを特徴とする高品質結晶成長方法。

【請求項3】
組成変換前の前記基板と、組成変換した前記基板側面から成長させる結晶との組み合わせが、InAs基板とInGaAs結晶、InP基板とInGaP結晶、InSb基板とInGaSb結晶、InN基板とInGaN結晶、またはZnSe基板とZnSSe結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の高品質結晶成長方法。

【請求項4】
前記基板の表面に形成する溝の深さを40μm以上とし、組成変換した前記基板側面から結晶をブリッジ状に成長させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高品質結晶成長方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、紫外域から赤外域に渡る広い波長範囲の発光・受光デバイス、太陽電池を含む熱光起電デバイスの作製に有用な半導体の結晶成長技術に関し、特に基板と格子定数が大きく異なる高品質な薄膜の結晶成長技術に関する。

【0002】

【従来の技術】発光・受光デバイスの発光および受光の波長は基板上に成長させる薄膜の禁制帯幅に依存するため、薄膜の材料を選ぶことで発光・受光の波長を制御できる。特に、InxGa1-xAsなどの三元混晶半導体は組成比を変化させることで禁制帯幅を連続的に制御できるため、発光・受光デバイス材料として極めて重要な材料である。しかし現在のところ結晶成長用基板として使用可能なのはシリコン等の元素やGaAsやInAs等の二元化合物半導体に限られているため、任意の組成比の三元混晶半導体を成長させることはできない。それは、成長層の組成比が基板の組成比と近くて格子定数差が小さい場合には単結晶成長が容易であるが、両者の組成比が異なって格子不整合が大きくなると、ミスフィット転位や基板からの貫通転位が成長層に導入されて、単結晶成長が極めて困難になるからである。その結果、デバイスの発光・受光効率が悪化するという問題点がある。

【0003】
このようなミスフィット転位の発生や基板からの貫通転位の伝搬を抑制するために、基板を窒化シリコン膜や酸化シリコン膜で覆って窓を開け、窓に露出する基板に溝を形成した後、溝底面を窒化シリコン膜や酸化シリコン膜で覆う方法が提案されている。この溝付き基板に結晶を成長させると、溝側面のみから結晶が成長して溝底面と接触しないため、転位の少ない良質な単結晶が成長できる。しかし、成長させる結晶と基板との間の組成比の違いによる格子不整合率が大きい場合には、単結晶成長そのものが困難であるため、上記の方法を用いても良質な結晶の成長が困難であった。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、基板と格子定数が大きく異なる高品質な結晶の成長方法を提供することにある。

【0005】

【課題を解決するための手段】本発明によれば、基板上に結晶成長防止膜を形成する工程と、前記結晶成長防止膜の一部を選択的に除去して前記基板を露出させ、露出した基板表面をさらに除去して溝を形成する工程と、成長させる結晶の溶液を前記基板に接触させて、少なくとも前記溝に面する基板の側面に前記成長溶液の元素を混入させ、前記側面の組成を変換する工程と、前記成長溶液の温度を下げて、組成変換した前記基板側面から結晶を成長させる工程とを具備することを特徴とする高品質結晶成長方法が提供される。

【0006】
また本発明によれば、基板上に結晶成長防止膜を形成する工程と、前記結晶成長防止膜の一部を選択的に除去して前記基板を露出させ、露出した基板表面をさらに除去して溝を形成する工程と、前記溝に面する基板の底面にさらに結晶成長防止膜を形成する工程と、成長させる結晶の溶液を前記基板に接触させて、前記溝に面する基板の側面に前記成長溶液の元素を混入させ、前記側面の組成を変換する工程と、前記成長溶液の温度を下げて、組成変換した前記基板側面から結晶を成長させる工程とを具備することを特徴とする高品質結晶成長方法が提供される。

【0007】
本発明において、組成変換前の前記基板と、組成変換した前記基板側面から成長させる結晶との組み合わせとして、InAs基板とInGaAs結晶、InP基板とInGaP結晶、InSb基板とInGaSb結晶、InN基板とInGaN結晶、またはZnSe基板とZnSSe結晶が挙げられる。また、本発明においては、前記基板の表面に形成する溝の深さを40μm以上とし、組成変換した前記基板側面から結晶をブリッジ状に成長させることが好ましい。

【0008】

【発明の実施の形態】本発明では、結晶成長用基板を作製した後、この基板上に液相エピタキシャル成長法を用いて単結晶を成長させる。具体的には、まずInAsなどの結晶基板にSiNxなどの結晶成長防止膜を被覆して窓を開けた後、窓に露出する基板に溝を形成して結晶成長用基板を作製する。次にこの成長用基板に、InxGa1-xAsなどの成長させる結晶の溶液(成長溶液)を接触させて、成長用基板の組成を成長させる結晶の組成近傍に変換する。その後、成長溶液の温度を下げて、組成変換された成長用基板に格子整合する成長させる結晶を溝側面より横方向にブリッジ状に成長させる。

【0009】
本発明では、基板の組成を成長させる結晶の組成近傍に変換した後に、この組成変換した基板上に結晶を成長させるため、基板と成長結晶との間の格子不整合率が単結晶成長のための許容範囲に入る。その結果、基板のもともとの組成に拘らず任意の組成の単結晶をエピタキシャル成長させることができる。また溝側面から成長したブリッジ層は溝底面の基板表面と接触しないため、基板からの貫通転位や基板と成長層との界面で発生するミスフィット転位が成長層に導入されず、高品質な単結晶を成長させることができる。その結果、基板と格子定数が大きく異なる任意の組成の結晶を高品質で成長させることができる。例えばxの値が任意に設定されたInxGa1-xAs単結晶を高品質で成長させることができる。このように本発明は、特に基板と成長させるエピタキシャル層とが格子不整合である系の結晶成長に多大な効果を有する。

【0010】
本発明においてエピタキシャル成長させる結晶は、InGaAs、InGaP、InGaSb、InGaNなどのIII-V族三元混晶半導体、HgCdTeやZnSSeなどのII-VI族三元混晶半導体等である。

【0011】
本発明では、結晶成長用基板に使用する結晶基板の選択は重要である。結晶基板には、成長溶液を構成する元素の組み合わせの中で融点の低いものなどを使用する。例えば、三元混晶半導体結晶を成長させる場合には、この結晶を構成する元素の組み合わせの中で融点の低いものからなる二元化合物基板を用いる。より具体的には、InGaAs結晶を成長させる場合にはInAs基板を使用し、InGaP結晶にはInP基板を使用し、InGaSb結晶にはInSb基板を使用し、InGaN結晶を成長させる場合にはInN基板を使用し、ZnSSe結晶を成長させる場合にはZnSe基板を使用する。

【0012】
例えばInxGa1-xAs結晶を成長させるときにInAs基板ではなくGaAs基板を選ぶと、In-Ga-As溶液をGaAs基板に接触させても、GaAs基板はInGaAs基板に変換しない。GaAs基板は融点が高くて元素同士の結合が強いので、Gaが混入しないからである。しかし融点の低いInAs基板を用いると、InAs基板中にGaが混入してInAs基板がInGaAs基板に変換する。

【0013】
こうして選択した結晶基板に、プラズマ蒸着法などによって第1結晶成長防止膜を被覆して窓を開けた後、窓に露出する基板に溝を形成して結晶成長用基板を作製する。

【0014】
第1結晶成長防止膜は、シリコンなどの非晶質の半導体膜、窒化シリコン(SiNx)膜もしくは酸化シリコン(SiOx)膜などの非晶質の絶縁膜などである。第1結晶成長防止膜は基板表面からの結晶成長を抑えるためであり、該防止膜には成長させる結晶と反応しないものを選ぶ。それは結晶と反応すると成長溶液中に不純物が混入し、この不純物が成長結晶中にも混入する可能性があるからである。

【0015】
第1結晶成長防止膜への窓の形成は、通常のフォトリソグラフィー技術を用いて行う。窓の形状は円形状またはストライプ状などである。

【0016】
露出する基板への溝の形成は、例えば基板表面をエッチング除去して行う。溝の深さは40μm以上が好ましい。こうすることで、溝側面から成長したブリッジ層が溝底面からの成長結晶と接触せず、基板からの貫通転位や基板と成長層との境界で発生するミスフィット転位が成長層に導入されない。

【0017】
なお、基板に形成した溝の底面にさらに第2結晶成長防止膜を形成して、溝側面のみを露出させることが好ましい。第2結晶成長防止膜の材質は、前述の第1結晶成長防止膜のそれと同様である。こうして溝側面のみを露出させることで、溝側面からの結晶成長を溝底面と接触させずにより確実に行うことができる。

【0018】
このように完成させた結晶成長用基板に、成長させる結晶の固相組成比と平衡する液相組成をもつ成長溶液を、一定温度一定時間で接触させた後、溶液の温度を下げて結晶を成長させる。

【0019】
より具体的には、成長させる結晶の結晶成長開始温度よりもわずかに高い温度で融解している成長溶液を、所定時間のあいだ結晶成長用基板に接触させる。接触によって、溝の内面のうち少なくとも溝側面すなわち溝に面する基板の側面に成長溶液の元素を混入させ、この溝側面の組成を成長させる結晶の組成近傍に変換する。接触時間が長いほど、側面から基板の深くまで組成変換が行われる。

【0020】
例えば、溝を形成したInAsの二元化合物基板に、InxGa1-xAsの三元混晶結晶の固相と平衡するIn-Ga-Asの三元溶液を接触させてGaを混入させ、溝に面するInAs基板をInxGa1-xAsの三元混晶基板に変換する。なお、前述したように溝底面に第2結晶成長防止膜を形成した場合には、露出する溝側面のみに成長溶液の元素が混入される。

【0021】
このように成長溶液を接触させて基板を組成変換した後、成長溶液の温度を下げて結晶成長開始温度以下とし、組成変換された溝側面から結晶を横方向にブリッジ状に成長させる。例えば、前述のIn-Ga-As溶液の温度を下げて、InxGa1-xAsに組成変換された溝側面からInxGa1-xAs単結晶を横方向に成長させる。こうして、基板と格子定数が大きく異なる任意の組成の結晶を高品質で成長させることができる上述したように、本発明では、基板の組成を成長させる結晶の組成近傍に変換した後に、この基板上に結晶を成長させるため、基板の組成に拘らず任意の組成の単結晶を成長させることができる。また溝側面からブリッジ状に成長した結晶は溝底面の基板と接触しないため、基板からの貫通転位などが成長層に導入されず、高品質な結晶を成長させることができる。従って本発明においては、基板と格子定数が大きく異なる任意の組成の高品質結晶を成長させることができる。

【0022】
なお本発明に係る方法では、成長溶液に過飽和をつけずに成長用基板に接触させる。また溶液を基板に接触させた後すぐに温度を下げて結晶成長させるということはせず、前述したように溶液を成長開始温度よりも高い温度で基板にしばらく接触させて組成変換してから、温度を下げて結晶成長させる。溶液を基板に接触させた後すぐに結晶成長させると、基板表面に成長した結晶によって、溶液の元素が基板表面へ混入することが阻まれるため、基板表面の組成変換が行われない。

【0023】
以下に本発明の一例として、高品質のIn0.8Ga0.2As単結晶を、溝側面のみが露出するInAs結晶基板上にエピタキシャル成長させる方法について説明する。

【0024】
最初に、結晶成長用InAs基板をフォトリソグラフィー技術を用いて、図1に示す工程図に従って以下のように作製する。

【0025】
(a)まず図1(a)に示すように、InAs結晶基板1を用意し、この基板1の表面に、プラズマ蒸着法などによって第1結晶成長防止膜であるSiNx膜2を被覆する。

【0026】
(b)次に図1(b)に示すように、SiNx膜2上に、ポジまたはネガのフォトレジスト膜3を塗布する。

【0027】
(c)図1(c)に示すように、フォトレジスト膜3をマスク乾板(図示せず)を介して露光して、フォトレジスト膜3の一部を円形状の窓4として除去する。図2(a)に使用するマスクパターンの一例を示す。露光されたフォトレジスト3をAZディベロッパーなどの現像液を用いて現像して、円形の窓4が開口されたフォトレジスト膜3をSiNx膜2上に残す。

【0028】
(d)図1(d)に示すように、リアクティブイオンエッチング法などによって、フォトレジスト膜3のパターンに従ってSiNx膜2のみをエッチング除去する。こうして、InAs結晶基板1が露出する円形の窓4を有するSiNx膜2を形成する。

【0029】
(e)図1(e)に示すように、ウェットエッチング法によって窓4に露出するInAs結晶基板1をエッチングして、凹部である円形の溝5を形成する。溝5の深さは40μm以上とする。エッチング液には、H2SO4:H2O:H2O2=3:1:1の混合溶液などを用いる。図から分かるように、形成した溝5の底部6および側面部7には、InAs結晶基板1の結晶面が露出する。

【0030】
(f)図1(f)に示すように、アセトンなどを用いてフォトレジスト膜3を除去して、溝5の内面(底部6および側面部7)が露出し、溝5内面以外の基板表面にはSiNx膜2が形成されたInAs結晶基板1を得る。前述したように、このInAs基板1を結晶成長用基板10として用いて、In0.8Ga0.2As結晶を成長させることもできる。

【0031】
(g)次に図1(g)に示すように、プラズマ蒸着法などによって溝5の内部を含むInAs結晶基板1上に、第2結晶成長防止膜であるSiNx膜8を形成する。

【0032】
(h)図1(h)に示すように、前述の工程(b)と同様にして、SiNx膜8上にフォトレジスト膜9を塗布する。

【0033】
(i)図1(i)に示すように、前述の工程(c)と同様にして、フォトレジスト膜9をマスク乾板(図示せず)を介して露光した後、現像して除去する。ここで使用するマスクパターンは、溝側面7の垂直上方に位置するSiNx膜8を被覆するレジスト膜9のみを、リング状に除去するようなものとする。図2(b)に使用するマスクパターンの一例を示す。こうして、溝5の開口部を規定するSiNx膜2のエッジ部と溝側面7とを覆うSiNx膜8を、現像後に露出させる。

【0034】
(j)図1(j)に示すように、リアクティブイオンエッチング法などによって、フォトレジスト膜9のパターンに従ってSiNx膜8を垂直にエッチングして、InAs基板1の溝側面7のみを露出させる。

【0035】
(k)最後に図1(k)に示すように、アセトンなどでフォトレジスト膜9を除去して、結晶成長用InAs基板20を完成させる。図に示すように溝側面7以外の基板表面にはSiNx膜2および8が被覆されて、溝側面7のみが露出している。

【0036】
次に、上述のようにして作製した結晶成長用InAs基板20の上に、図3に示す液相成長法装置を用いて、In0.8Ga0.2As結晶をエピタキシャル成長させる。図3は、スライドボート法によって液相エピタキシャル成長させるための装置を示す概略断面図である。

【0037】
図3に示した装置は、高純度カーボン製の固定ボート21、固定ボート21内にスライド可能に収納された高純度カーボン製のスライドボート22、および固定ボート21上部にカーボン製のネジ23によって装着された高純度カーボン製の蓋24から構成される。蓋24は、成長溶液の蒸発による濡れを防ぐとともに、成長溶液の急激な温度変化を防ぐためのものである。装置全体は、水素雰囲気の電気炉(図示せず)の中に配置されて、ステンレス製の固定用棒25によって電気炉部材(図示せず)に固定されている。

【0038】
固定ボート21の床部には、前述のようにして作製した結晶成長用InAs基板20、および成長溶液の濃度を飽和させるための後述する溶液飽和用InAs結晶基板26が埋設されている。両基板は、ボート22のスライド方向に沿って互いに離して配置されている。

【0039】
ステンレス製のスライド用棒27が、固定ボート21の側壁に設けた孔28を通して外部より挿入され、スライドボート22に接続されている。スライド用棒27を押して、ボート22を固定ボート21床部の上でスライドさせることができる。

【0040】
スライドボート22は上下に貫通する貫通孔29を有し、この貫通孔29と固定ボート21の床部との間で溶液溜29を形成する。スライドボート22をスライドさせて、溶液溜29に溜めた成長溶液30を、前述の溶液飽和用InAs基板26、結晶成長用InAs基板20に、順次接触させることができる。

【0041】
図3に示す装置を用いて、以下の工程(a)~(e)に従って、結晶成長用InAs基板20の上に、In0.8Ga0.2As結晶をエピタキシャル成長させる。各工程は(a)仕込み時(原料溶解時)、(b)溶液飽和時、(c)組成変換時、(d)結晶成長時、(e)成長終了時である。なお図4(a)~(e)には各工程に対応した図3の装置の操作状態を示し、また図5(a)には各工程に対応した試料の温度プロファイルを示す。

【0042】
(a)まず図4(a)に示すように、In-Ga-As三元相図を用いて決定されたIn<HAN>、</HAN>Ga<HAN>、</HAN>GaAs組成を有する原料結晶を、溶液溜29に挿入する。具体的には、原料結晶の仕込み組成をIn:Ga:As=0.9:0.02:0.08にする。次に装置全体を電気炉の中で加熱して、原料結晶を溶かしてIn-Ga-As成長溶液30を形成する。原料結晶を完全に溶かすために、In0.8Ga0.2As結晶の成長開始温度(約680℃)よりも高温(約700℃)で3時間保持する。この工程は、溶液30の対流によって成長溶液30を均一にするためである。その後、温度を下げて成長開始温度よりもやや高い温度にする。なお、InxGa1-xAs結晶の成長開始温度は、成長させる結晶組成比(xの値)によって変わる。

【0043】
(b)温度が安定したところで、スライドボート22をスライドさせて、溶液溜29の成長溶液30を、溶液飽和用InAs基板26に接触させる。そして、680℃で所定の時間(1時間)保持し、InAs基板26を溶解させて溶液30中のInAs濃度を飽和させる。

【0044】
(c)成長溶液30が十分に飽和した後、ボート22をさらにスライドさせて、溶液30をInAs基板20に接触させる。ここで一定時間(ここでは約30分)および一定温度(ここでは約680℃)で保持して、InAs基板20の露出する溝側面7にGaを混入させて組成変換し、InAs基板20をIn0.8Ga0.2As基板に変換する。

【0045】
図6(a)、(b)に組成変換の模様を模式的に示す。図6(a)に示すように溝側面7のみが露出するInAs基板20に、図6(b)に示すように成長溶液30を接触させて、溝側面7に組成変換領域11を形成する。なお領域11の大きさは接触させる時間に依り、接触時間が長いほど領域11は大きくなり、InAs基板20の深くまで組成変換が行われる。

【0046】
(d)変換が十分に行われた後に、所定の温度降下(InGaAs結晶の場合、温度降下速度約10℃/時)を行って、成長溶液30の温度をIn0.8Ga0.2As結晶の成長開始温度以下にする。こうして、組成変換されたInAs基板20上へのIn0.8Ga0.2As結晶のエピタキシャル成長を開始する。図6(c)に結晶が成長する模様を模式的に示す。溝側面7の組成変換領域11からIn0.8Ga0.2As結晶12が横方向にブリッジ成長する。成長した結晶12は、さらに溝5外部のSiNx膜8上へと横方向にエピタキシャル成長する。なお溝底面6はSiNx膜8で覆われていて、この面からは結晶成長が起きないため、成長層は溝底面6とは接触しない。

【0047】
(e)In0.8Ga0.2As結晶が十分に成長した後に、スライドボート22を再びスライドさせて、溶液溜30を成長用InAs基板20から切り離せる位置まで動かす。その後、装置全体を室温まで徐冷して、電気炉(図示せず)から取出す。以上のようにして、In0.8Ga0.2As単結晶12をInAs基板20上にエピタキシャル成長させることができる。

【0048】

【実施例】(比較例1)前述した組成変換時の工程(c)において、通常の過冷却の工程を行った以外は、前述した方法に従って、InAs基板20上にIn0.8Ga0.2As結晶を成長させた。図7(a)~(e)には本比較例での各工程に対応した図3の装置の操作状態を示し、また図5(b)には各工程に対応した試料の温度プロファイルを示す。

【0049】
具体的には、工程(b)で成長溶液30のInAs濃度を飽和させた後、工程(c)でボート22をスライドさせて、成長溶液30を溶液飽和用InAs基板26から切り離せる位置まで動かした。そして、その位置で温度を下げて成長溶液30に1℃の過飽和をつけ過冷却状態にした。その後、工程(d)でボート22をさらにスライドさせて、過飽和をつけた溶液30をInAs基板20に接触させ、すぐに10℃/時で温度降下させて、In0.8Ga0.2As結晶を成長させた。

【0050】
こうして成長させたIn0.8Ga0.2As結晶は単結晶にはならず、多結晶であった。

【0051】
(比較例2)前述した図1(k)に示す結晶成長用InAs基板20の代わりに、図1(d)においてSiNx膜2のパターニング後にアセトンなどを用いてフォトレジスト膜3を除去したInAs基板1を用いた以外は、前述した方法に従って、In0.8Ga0.2As結晶を成長させた。このInAs基板1を覆うSiNx膜2には、基板1が露出する円形の窓4が形成されているが、基板1自体には溝5が形成されていない。

【0052】
図8(a)に、InAs基板(111)1上に成長させたIn0.8Ga0.2As単結晶の表面の電子顕微鏡写真を示す。平坦な層が成長している。

【0053】
図8(b)は、図8(a)の成長結晶の断面の電子顕微鏡写真である。また、図8(c)は図8(b)の写真に対応する模式図である。図8(c)に示すように、InAs基板1の中にGaが混入してInxGa1-xAsに組成変換された領域11が形成されている。成長層12は組成変換領域11の上に成長し、その一部はSiNx膜2の上に横方向成長している。成長層12の側面には{111}の平坦な面(ファセット)が現れている。

【0054】
図9(a)および(b)は、成長層12の組成比分布を確認するために行った電子線マイクロアナライザーの測定結果である。図9(a)は、図8(a)のの線に沿って測定した表面のGa組成比の測定結果である。成長層の表面はIn0.8Ga0.2Asとなっていて一定組成の結晶が成長していることが確認された。図9(b)は、図8(b)のの線に沿って測定した深さ方向のGa組成比の測定結果である。図の点線の左側が組成変換領域11、右側が成長層12を示す。図9(b)から、組成変換領域11(横軸の座標が0μmから430μmまでの範囲)はもともとはInAs基板だが、Gaが混入した結果、InxGa1-xAs基板に変換されたことが確認された。すなわちGa組成比の値は基板底面(横軸の0μm)では0.09だが、基板表面(横軸の430μm)に向かうにつれて値が増加して、基板表面では0.2になっている。一方、成長層12の組成比分布では、点線で示した基板表面から離れるにつれてGa組成比が徐々に小さくなり、成長層12表面(横軸の560μm)では0.2になっている。成長層12表面ではIn0.8Ga0.2Asとなっていることがやはり確認された。

【0055】
図10(a)および(b)は、図8(a)の四角で囲んだ領域のエッチピット分布の電子顕微鏡写真と密度分布のグラフである。領域Aは図8(c)に示したSiNx膜2上に成長したIn0.8Ga0.2As単結晶であり、領域Bは組成変換領域11上に直接成長したIn0.8Ga0.2As単結晶である。図10(b)のグラフより、SiNx膜2上に成長した結晶の領域Aのエッチピット密度は低く高品質な成長層が得られているが、組成変換領域11上に直接成長した結晶の領域Bのエッチピット密度は非常に高く、結晶性が悪いことが分かる。

【0056】
(実施例1)前述の図1(k)に示す結晶成長用InAs基板20の代わりに、図1(f)に示す結晶成長用InAs基板10を用いた以外は、前述した方法に従って、In0.8Ga0.2As単結晶をエピタシャル成長させた。前述したように、InAs基板10には、溝5の側面7だけでなく底面6も露出するようにSiNx膜2が形成されている。

【0057】
図11(a)~(c)に、InAs基板10にIn-Ga-As成長溶液30を接触させてInAs表面を組成変換し、その後、In0.8Ga0.2As単結晶をエピタキシャル成長させる様子を模式的に示す。

【0058】
図11(a)に示す溝底面6および側面7が露出するInAs基板10に、図11(b)に示すように成長溶液30を接触させて、溝底面6および側面7に組成変換領域11を形成した。なお前述した図6(b)の場合と同様に、領域11の大きさは接触させる時間に依り、接触時間が長いほど領域11は大きい。組成変換が十分に行われた後に、溶液30の温度をIn0.8Ga0.2As結晶の成長開始温度以下にして、図11(c)に示すように、溝底面6および側面7の組成変換領域11からIn0.8Ga0.2As結晶12を成長させた。In0.8Ga0.2As結晶12は、溝側面7からブリッジ状に成長し、溝底面6から成長した結晶12とは接触しなかった。これは溝5の深さが40μm以上と十分深いために、溝底面6からの成長結晶12が溝側面7からの成長結晶と接触しないためである。

【0059】
(実施例2)前述した図1(k)に示す結晶成長用InAs基板20を用いて、前述した方法に従って、In0.8Ga0.2As結晶をエピタキシャル成長させた。

【0060】
図12はInAs(111)基板20上に成長させたIn0.8Ga0.2As単結晶の表面の電子顕微鏡写真である。成長層の表面は平坦でスムースとなっていることが分かる。

【0061】
また図13(a)および(b)は、図12の写真の四角で囲んだ領域A、BおよびCのエッチピット分布の電子顕微鏡写真と密度分布のグラフである。領域Aは前述した図6に示す溝5外部のSiNx膜8上に成長したIn0.8Ga0.2As単結晶であり、領域Bは溝側面7の組成変換領域11から成長したIn0.8Ga0.2As成長層であり、領域Cは溝5内部のブリッジ成長層である。図13(b)のグラフより、溝側面7と接触する領域Bのエッチピット密度は高い値を示すが、SiNx膜8上の成長層の領域Aおよび溝5内部の成長層の領域Cのエッチピット密度は低いことが分かる。これは前述したように、溝5外部のSiNx膜8上および溝5内部の成長層が、溝側面7からブリッジ状に横方向成長したものであり、溝底面6と接触していないためである。

【0062】

【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、基板と格子定数が大きく異なる高品質な結晶の成長方法が提供される。本発明は、例えば、溝を形成したInAs基板にIn-Ga-As溶液を接触させて、溝に面するInAs基板をInxGa1-xAsに変換させた後、溶液の温度を下げて溝側面からInxGa1-xAs結晶をブリッジ状に成長させる方法である。本発明によって、任意の組成を持つ欠陥の少ない良質な結晶層を成長させることができる。その結果、太陽電池を含む高効率の熱光起電デバイスを作製できる等の効果がもたらされる。
図面
【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図9】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図13】
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