TOP > 国内特許検索 > リグニン誘導体を用いた光電変換素子及び光電気化学電池 > 明細書

明細書 :リグニン誘導体を用いた光電変換素子及び光電気化学電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3934068号 (P3934068)
公開番号 特開2004-265622 (P2004-265622A)
登録日 平成19年3月30日(2007.3.30)
発行日 平成19年6月20日(2007.6.20)
公開日 平成16年9月24日(2004.9.24)
発明の名称または考案の名称 リグニン誘導体を用いた光電変換素子及び光電気化学電池
国際特許分類 H01M  14/00        (2006.01)
H01L  31/04        (2006.01)
FI H01M 14/00 P
H01L 31/04 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 24
出願番号 特願2003-032891 (P2003-032891)
出願日 平成15年2月10日(2003.2.10)
審査請求日 平成15年2月12日(2003.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】舩岡 正光
【氏名】青柳 充
個別代理人の代理人 【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
審査官 【審査官】前田 寛之
参考文献・文献 特開2003-017145(JP,A)
調査した分野 H01M 14/00
H01L 31/04
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によって増感された半導体膜を用いた光電変換素子。(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物であるリグノフェノール誘導体
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
【請求項2】
光電変換素子であって、
前記半導体膜は、リグノフェノール誘導体で増感されている、請求項1記載の素子。
【請求項3】
前記フェノール化合物は、p-クレゾール、2,6-キシレノール、2,4-キシレノール、2-メトキシフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール、及びフロログルシノールから選択される1種あるいは2種以上である、請求項1又は2に記載の素子。
【請求項4】
前記フェノール化合物は、p-クレゾールである、請求項1又は2に記載の素子。
【請求項5】
前記半導体膜は、前記リグニン誘導体とともに有機材料及び/又は無機材料を含有するセルロース系材料、セラミックス系材料、金属系材料及びガラス系材料から選択される1種あるいは2種以上の材料を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の素子。
【請求項6】
前記リグニン誘導体は、加熱、光照射、及び放射線照射から選択される1種あるいは2種以上のエネルギー照射がなされている、請求項1~5のいずれかに記載の素子。
【請求項7】
前記半導体膜は、前記リグニン誘導体とともに、セルロース系材料、リグニン系材料、及びポリフェノール系材料を含有するリグノセルロース系材料由来の有機材料又はその誘導体を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の光電変換素子を備える、光電気化学電池。
【請求項9】
以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によって増感された半導体粒子。
(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
【請求項10】
以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体である、光増感剤。
(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リグニンにフェノール化合物を導入して得られるリグニン誘導体の利用に関し、特に、半導体薄膜電極、光電変換素子及びこれを用いた太陽電池への利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽電池は、光電エネルギー変換を目的とする光電池であり、現在、広く普及している。最も広く使用されているものは、半導体結晶又はアモルファス板の表面付近にpn接合を形成し、可視光線の照射によって接続する外部回路にpからnに向かって電流を発生するものである。ケイ素を代表としたこのような太陽電池は、製造工程で多くのエネルギーを消費し、かつ有害重金属な化学物質を使用するなど、エネルギー、環境保全上に問題を内包している。また、同時に製造コストも高かった。
【0003】
近年、環境への負荷が小さい、製造コストが安い、高い変換効率があるなどの長所があることから色素増感光電変換セルが注目されるようになった。1991年にスイスのグレーツェル(Graetzel)らが、多孔質な酸化チタン薄膜表面にルテニウムビピリジンカルボン酸色素を吸着させた電極を用いて、10.0%の光電変換効率を達成している。この色素増感太陽電池としては、ルテニウム等の貴金属錯体、クロロフィル誘導体やポルフィリンの亜鉛錯体などが励起中心として提案されている。
しかし、励起中心となるルテニウムなどの貴金属には資源的制約が伴うと考えられる。さらに、色素のリガンド構造の合成原料は主に石油等の化学資源由来物質であり、今後、炭素資源的制約が伴うと考えられる。
【0004】
また、シリコン系、有機金属錯体系の両太陽電池以外に有機物のみを用いた太陽電池が提供されている。有機物、又は有機色素で増感された酸化物半導体電極を含む太陽電池は、例えば、クマリン系色素を用いたものが発表されている(非特許文献1)。かかる有機色素増感型太陽電池の光電変換効率は6.0%という高いものであった。有機色素太陽電池は性能以外でも、材料、環境負荷、コストの面から見ると非常に有利なものであるといえる。しかし、他の太陽電池と同様に、合成原料は主に石油等の化学資源由来物質である。したがって、依然として炭素資源的制約が伴うことが予測される。
【0005】
【非特許文献1】
Chem. Commun., (6), 569-570 (2001)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明では、炭素資源的制約を伴わない光電変換素子半導体薄膜電極、光電変換素子及びこれを用いた太陽電池を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、森林資源であるリグノセルロース中のリグニンに着目した。すなわち、このリグニンを所定方法によりフェノール化合物で誘導体化して得られるリグニン誘導体を用いて半導体薄膜電極を構成したところ、当該電極が光電変換特性を示すことを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0008】
(1)以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によって増感された半導体膜を用いた光電変換素子。
(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体(以下、本明細書においてリグノフェノール誘導体という。)
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
(2)増感された半導体粒子を用いた光電変換素子であって、
前記半導体粒子は、リグノフェノール誘導体というで増感されている、(1)記載の素子。
(3)前記フェノール化合物は、p-クレゾール、2,6-キシレノール、2,4-キシレノール、2-メトキシフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール、及びフロログルシノールから選択される1種あるいは2種以上である、(1)又は(2)に記載の素子。
(4)前記フェノール化合物は、p-クレゾールである、(1)又は(2)に記載の素子。
(5)前記半導体膜は、前記リグニン誘導体とともに有機材料及び/又は無機材料を含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の素子。
(6)前記リグニン誘導体は、加熱、光照射、及び放射線照射から選択される1種あるいは2種以上のエネルギー照射がなされている、(1)~(5)のいずれかに記載の素子。
(7)前記半導体膜は、前記リグニン誘導体とともに、セルロース系材料、リグニン系材料、及びポリフェノール系材料を含有するリグノセルロース系材料由来の有機材料又はその誘導体を含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の素子。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の光電変換素子を備える、光電気化学電池。
(9)以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によって増感された半導体粒子。
(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
(10)以下の(a)~(e)からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体である、光増感剤。
(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体
(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体
(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体
(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体
(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体
【0009】
本発明の光電変換素子及び光電気化学電池によれば、持続的に再生産可能な森林資源であるリグニン含有材料由来のリグニン誘導体で増感された半導体を備えるため、石油などの化石系炭素資源の枯渇の危険性を回避することができる。また、森林資源の新たな用途を提供することにより、森林資源の循環利用を促進することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の光電変換素子及び光電気化学電池は、森林資源由来のリグニン含有材料を原料とするリグニン誘導体により増感された半導体薄膜電極を備えることを特徴としている。
以下、この半導体薄膜電極について説明し、さらに本素子及び電池について説明する。
【0011】
本発明の半導体薄膜電極は、所定のリグニン誘導体により増感されている半導体層を備えている。
(リグニン誘導体)
本発明におけるリグニン誘導体とは、(a)リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物の誘導体、(b)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる二次誘導体、(c)リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される2種以上の反応を行って得られる高次誘導体、(d)前記二次誘導体のうち架橋性基導入反応により得られる二次誘導体が架橋されている二次誘導体の架橋体、(e)前記高次誘導体のうち、架橋性基導入反応を経て得られる高次誘導体が架橋されている高次誘導体の架橋体からなる群をいい、これから1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0012】
(リグノフェノール誘導体)
本発明において用いるリグニン誘導体の1種であるリグノフェノール誘導体は、リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物による誘導体である。この反応過程によりリグニンのアリールプロパンユニットのベンジル位(側鎖C1位、以下、単にC1位という。)にフェノール化合物がグラフト(導入)されたリグニン誘導体を得ることができる。フェノール化合物は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位にて前記C1位の炭素原子に結合する。この結果、1,1-ビス(アリール)プロパンユニットがリグニン中に形成される。この反応において、フェノール化合物は、前記C1位に対して選択的に導入されるため、出発原料であるリグニン含有材料におけるC1位における様々な結合を開放し、リグニンマトリックスの多様性を低減し、また、低分子量化することができる。さらに、この結果、従来のリグニンにはなかった各種溶媒への溶解性、熱流動性、熱可塑性など各種の特性を発現することが既に知られている。
なお、ここで、フェノール化合物で溶媒和するとは、液体のフェノール化合物にリグニン含有材料を浸漬する等して溶媒和する他、液体あるいは固体のフェノール化合物を当該フェノール化合物が溶解する溶媒に溶解させたものをリグニン含有材料に適用後、溶媒を留去することでリグニン含有材料にフェノール化合物を収着することによっても達成することができる。
【0013】
本発明者らはこれまでの研究により、濃酸による炭水化物の膨潤に基づく組織構造の破壊と、フェノール化合物によるリグニンの溶媒和とを組み合わせてリグニンの不活性化を抑制しつつ、リグノセルロース系材料を炭水化物とリグノフェノール誘導体とに分離する方法を開発している(特開平2-233701号)。この方法で得られたリグノフェノール誘導体の活用法としては、例えば、セルロース系ファイバー等の成形材料に適用し成形体を作製することが報告されている(特開平9-278904号)。かかるリグノフェノール誘導体は、1,1-ビス(アリール)プロパンを高頻度構成単位として有するリグニン系ポリマーであって、高粘結性を潜在的に有していることがわかっている(特開平9-278904号)。
さらに、かかるリグノフェノール誘導体は、メチロール化することにより架橋性を付与でき、リニアあるいはネットワーク状の架橋構造を構築できると同時に、アルカリ処理によって、再び低分子化して溶媒中に溶解されることも、本発明者らにより見出されている(特開2001-261839号公報)。
また、これらの他、リグノフェノール誘導体に関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、国際公開WO99/14223号公報、特開2001-64494号公報、特開2001-261839号公報、特開2001-131201号公報、特開2001-34233号公報、特開2002-105240号公報において記載されている(これらの特許文献に記載の内容は、全て引用により本明細書中に取り込まれるものとする)。
【0014】
このプロセスによりリグノセルロース系材料からリグノフェノール誘導体を得るシステムにおける構造変換プロセスの一例を図1に示す。
この構造変換プロセスは、図1に示すように、リグノセルロース系材料を予めフェノール化合物で溶媒和しておいた上で、当該リグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグニンのアリールプロパンユニットのリグニンの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール誘導体をグラフティングさせ、リグノフェノール誘導体を生成させ、同時にセルロースとリグノフェノール誘導体とに分離できる。このプロセスにおける構造変換の一例を、図2に示す。
【0015】
リグノフェノール誘導体は、それ自体、リグノセルロース系材料などのリグニン含有材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物である。このため、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグニン含有材料のリグニン構造および反応条件により変動する。
【0016】
(リグニン含有材料)
本発明におけるリグニン含有材料には、天然リグニンを含有するリグノセルロース系材料を含む。リグノセルロース系材料は、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。さらに、各種草本植物、それに関連する農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。また、リグニン含有材料としては、天然リグニンを含有する材料のみならず、リグノセルロース材料をパルピング処理後に得られるいわゆる黒液も利用することができる。
【0017】
(フェノール化合物)
フェノール化合物としては、1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物、または3価のフェノール化合物などを用いることができる。
1価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物及び3価のフェノール化合物のうち、1種あるいは2種以上を用いることができるが、好ましくは1価のフェノールを用いる。
【0018】
1価から3価のフェノール化合物が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1~4、好ましくは炭素数が1~3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
【0019】
これらのフェノール化合物は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子がリグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素に結合することにより、1,1-ビス(アリール)プロパンユニットが形成されることになる。したがって、少なくとも1つの導入サイトを確保するには、オルト位及びパラ位のうち、少なくともひとつの位置に置換基を有していないことが好ましい。
フェノール化合物のフェノール性水酸基のオルト位炭素原子が前記C1位に結合して形成されたユニットをオルト位結合ユニットといい、フェノール化合物のフェノール性水酸基のパラ位炭素原子が前記C1位に結合して形成されたユニットをパラ位結合ユニットという。図3に、オルト位結合ユニット及びパラ位結合ユニットの一例として、フェノール化合物として、それぞれp-クレゾールと、2,6-ジメチルフェノールを用いて形成されるユニットを示す。
【0020】
以上のことから、本発明では、無置換フェノール誘導体の他、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール誘導体の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0021】
オルト位結合ユニットとパラ位結合ユニットとは、例えば、後述するアルカリ処理工程において異なる機能を発現する。オルト位結合ユニットは、緩和なアルカリ処理により導入されたフェノール化合物におけるフェノール性水酸基を消失させるとともにアリールクマラン構造を当該ユニットにおいて生成し、強いアルカリ処理によりアリール基移動に伴って分子形態が変動する。いずれにおいても、オルト位結合ユニットは、アルカリ処理による効率的なリグノフェノール誘導体の低分子化に寄与する。
一方、パラ位結合ユニットは、アルカリ処理によりアリールクマラン構造やその後の分子形態変動を生じず、当該ユニット部位における低分子化には寄与しない。したがって、アルカリ処理耐性を付与する機能を有するといえる。
【0022】
また、リグノフェノール誘導体において、使用するフェノール化合物の種類を選択することにより、得られるリグノフェノール誘導体への後段の二次誘導体化工程での架橋性官能基の導入頻度を調節し、結果として架橋性体(プレポリマー)の架橋反応性を制御することができる。
後述するが、架橋性基の導入部位は、フェノール性水酸基に対してオルト及びパラ位である。また、導入フェノール化合物のリグニンのフェニルプロパン単位への導入サイトもフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位である。したがって、導入フェノール化合物における、フェノール性水酸基に対するオルト位及びパラ位(最大3サイト)への置換基の導入態様により、導入フェノール化合物への架橋性官能基の導入サイトや導入量を制御し、ひいてはリグニン母体側への導入量も制御できる。例えば、導入フェノール誘導体の置換態様とリグニンへの結合部位及び架橋性基の導入部位は、以下の表のとおりとなる。
【表1】
JP0003934068B2_000002t.gif
【0023】
このように、反応性の異なる架橋性基導入部位を有するフェノール化合物や、導入部位数がないか、あるいは異なるフェノール化合物を1種あるいは2種以上組み合わせてリグニンに導入することにより、後で架橋性基の導入時に、架橋性基の導入部位や数を制御することができ、結果として、架橋性体を架橋して得られる架橋体の架橋密度も制御することができる。
【0024】
また、オルト位結合ユニットを有するリグノフェノール誘導体を得るには、少なくとも一つのオルト位(好ましくは全てのオルト位)に置換基を有していないフェノール化合物を用いる。また、少なくとも一つのオルト位(2位あるいは6位)が置換基を有さず、パラ位(4位)に置換基を有するフェノール化合物(典型的には、2,4位置換1価フェノール誘導体)が好ましい。最も好ましくは、全てのオルト位が置換基を有さず、パラ位に置換基を有するフェノール化合物(典型的には、4位置換1価フェノール化合物)である。したがって、4位置換フェノール化合物及び2,4位置換フェノール化合物を1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
パラ位結合ユニットを有するリグノフェノール誘導体を得るには、パラ位に置換基を有していないフェノール化合物(典型的には、2位(あるいは6位)置換1価フェノール化合物)が好ましく、より好ましくは、同時に、オルト位(好ましくは、全てのオルト位)に置換基を有するフェノール化合物(典型的には2,6位置換1価フェノール化合物)を用いる。すなわち、2位(あるいは6位)置換フェノール化合物及び2、6位置換フェノールのうち1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0026】
フェノール誘導体の好ましい具体例としては、p-クレゾール、2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。p-クレゾールを用いることにより、高い導入効率を得ることができる。
【0027】
(酸)
リグニン含有材料と接触させる酸としては、特に限定しないで、リグノフェノール誘導体を生成しうる範囲で各種無機酸や有機酸を使用することができる。したがって、硫酸、リン酸、塩酸などの無機酸の他、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができる。リグニン含有材料としてリグノセルロース系材料を使用する場合には、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、38重量%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、85重量%以上(好ましくは95重量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸又はギ酸である。
【0028】
リグニン含有材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換し、分離する方法としては各種方法が採用できる。
例えば、図1に示すように、リグニン含有材料に、液体状のフェノール誘導体(上記で説明したもの、例えば、p-クレゾール)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次に、リグノセルロース系材料に酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。この方法によると、リグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール化合物が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール化合物相に生成される。このフェノール化合物相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。リグノフェノール誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。図2は、アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対して相分離処理を行うことにより、本発明におけるリグノフェノール誘導体が得られることを示している。
【0029】
フェノール化合物相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール化合物相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、リグノフェノール誘導体を得る。なお、粗リグノフェノール誘導体は、フェノール化合物相やアセトン可溶区分を単に減圧蒸留により除去することによって得ることができる。
【0030】
また、リグニン含有材料に、固体状あるいは液体状のフェノール化合物を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去(フェノール誘導体の収着)した場合も、先の方法と同様、リグノフェノール誘導体が生成される。この方法においては、生成したリグノフェノール誘導体は、液体フェノール化合物にて抽出分離することができる。あるいは、全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得ることもできる。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
【0031】
以下に、リグノセルロース系材料から得られるリグノフェノール誘導体の有する全体的、一般的性質を挙げる。ただし、本発明におけるリグノフェノール誘導体を、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が2000~20000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約170℃、広葉樹由来で約130℃に固-液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどに容易に溶解する。
なお、リグノフェノール誘導体においては、C1位へのフェノール化合物の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。また、得られるリグノフェノール誘導体においては、通常、フェノール化合物がグラフトされていないアリールプロパンユニットも残存している。
【0032】
(二次誘導体)
また、本発明において用いるリグニン誘導体は、このリグノフェノール誘導体に対してさらに化学的な修飾を行って得られる二次誘導体を含んでいる。
二次誘導体とは、リグノフェノール誘導体に対して、アシル基導入反応、カルボキシル基導入反応、アミド基導入反応、架橋性基導入反応及びアルカリ処理反応から選択される1種の反応を行って得られる誘導体である。
ここで、アシル基導入反応とは、アシル基(RCO-)をリグノフェノール誘導体中の水酸基に導入し、結果として、フェノールのOH基の酸素原子に、アシル基が結合して、-O-COR基が芳香環に形成される反応である。具体的には、無水酢酸などのアシル化剤との反応により水酸基に対してアシル基を導入する。結果として、水酸基を保護することにもなる。アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トルオイル基、好ましくはアセチル基)を導入することによって行うことが好ましい。具体的には、無水酢酸などと接触させることにより行う。当該アシル化処理により、水酸基が保護される。このため、水酸基による特性発現が抑制される。たとえば、水素結合が低減されて、会合性を低下させることができる場合がある。このアシル基導入反応は、一般的なアシル基導入反応条件をリグノフェノール誘導体に適宜適用して実施することができる。なお、アセチルクロリドなどのカルボン酸モノハライドを用いてもアシル基を導入することができる。
【0033】
カルボキシル基導入反応とは、酸ジクロリドなどの酸ジ(あるいはそれ以上の)ハライドを用いてフェノール性水酸基をエステル化すると同時にカルボキシル基を導入する反応である。例えば、アジピン酸ジクロリドやマレイン酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリドなどを用いることができる。これらの酸ハロゲン化物を用いたエステル化反応については、当業者において周知であり、一般的な反応条件をリグノフェノール誘導体についても適宜適用して実施できる。
【0034】
アミド基導入反応とは、アミド基(-CONHR)をリグノフェノール誘導体中の水酸基に導入する反応である。アミド基のRとしては、炭素数1~5程度の低級直鎖あるいは分岐アルキル基あるいは、炭素数6~9程度の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アルキルアリール基、アラルキル基などを挙げることができる。アミド基の導入反応は、リグノフェノール誘導体中の二重結合あるいは前記カルボキシル基導入反応後に当該カルボキシル基に対して行う。これらの部分に対するアミド基導入反応については、従来公知の各種試薬及び条件を適宜選択して用いることができる。
【0035】
架橋性基導入反応は、リグノフェノール誘導体を、アルカリ条件下で架橋性基形成化合物と反応させて、リグノフェノール誘導体中のフェノール性水酸基のオルト位及び/又はパラ位に架橋性基を導入することにより実施することができる。
すなわち、本二次誘導体は、用いるリグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基を解離しうる状態下において、リグノフェノール誘導体に架橋性基形成化合物を混合して反応させることによって得られる。リグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基が解離しうる状態は、通常、適当なアルカリ溶液中において形成される。使用するアルカリの種類、濃度及び溶媒はリグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基が解離するものであれば、特に限定されない。例えば、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を使用できる。
【0036】
このような条件下において、架橋性基はフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位に導入されるので、用いたフェノール化合物の種類や組み合わせによって、架橋性基の導入位置がおおよそ決定される。すなわち、オルト位及びパラ位において2置換されている場合には、導入フェノール核には架橋性基は導入されず、リグニン母体側のフェノール性芳香核に導入されることになる。母体側のフェノール性芳香核は、主としてリグノフェノール誘導体のポリマー末端に存在するため、主としてポリマー末端に架橋性基が導入されたプレポリマーが得られる。
また、オルト位及びパラ位において1置換以下の場合には、導入フェノール核とリグニン母体のフェノール性芳香核に架橋性基が導入されることになる。したがって、ポリマー鎖の端末の他、その長さにわたって架橋性基が導入され、多官能性のプレポリマーが得られる。
【0037】
リグノフェノール誘導体に導入する架橋性基の種類は特に限定されない。リグニン母体側の芳香核、あるいは、導入フェノール化合物の芳香核に導入可能なものであればよい。架橋性基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシバレルアルデヒド基等を挙げることができる。架橋性基形成化合物としては、求核性化合物であって、結合後に架橋性基を形成するかあるいは保持する化合物である。たとえば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グルタルアルデヒド類などを挙げることができる。導入効率等を考慮すると、ホルムアルデヒドを用いることが好ましい。
【0038】
リグノフェノール誘導体と架橋性基形成化合物とを混合するに際して、架橋性基を効率よく導入する観点からは、架橋性基形成化合物をリグノフェノール誘導体中のリグニンのアリールプロパン単位の芳香核及び/又は導入フェノール核の1モル倍以上添加することが好ましい。より好ましくは、10モル倍以上であり、さらに好ましくは20モル倍以上である。
【0039】
次に、アルカリ液中にリグノフェノール誘導体と架橋性基形成化合物が存在する状態で、必要によりこの液を加熱することにより、架橋性基がフェノール核に導入される。加熱条件は、架橋性基が導入される限り、特に限定されないが、40~100℃が好ましい。40℃未満では架橋性基形成化合物の反応率が非常に低く好ましくなく、100℃より高いと架橋性基形成化合物自身の反応などリグニンへの架橋性基導入以外の副反応が活発化するので好ましくない。より好ましくは、50~80℃であり、例えば約60℃が特に好ましい。反応は、反応液を冷却等することにより停止し、適当な濃度の塩酸等により酸性化(pH2程度)し、洗浄、透析などにより酸、未反応の架橋性基形成化合物を除去する。透析後凍結乾燥などにより試料を回収する。必要であれば、五酸化二リン上で減圧乾燥する。
【0040】
こうして得られる架橋性の二次誘導体は、リグノフェノール誘導体中のフェノール性水酸基に対するオルト位および/またはパラ位に架橋性基を有するようになる。
本二次誘導体の重量平均分子量は特に限定されないが、通常は2000~20000、好ましくは2000~10000程度である。また、架橋性基の導入量は通常、0.01~1.5モル/C9単位程度であることが多い。
【0041】
(アルカリ処理)
アルカリ処理反応は、リグノフェノール誘導体を、アルカリと接触させることにより行う。好ましくは加熱する。例えば、導入したフェノール化合物のフェノール性水酸基のオルト位がC1位に導入されたオルト位結合ユニットを有するリグノフェノール誘導体においては、アルカリ処理により、図4に示すように、導入フェノール化合物のフェノキシドイオンによるC2位炭素の攻撃が生じる。一旦この反応が生じれば、C2アリールエーテル結合が開裂し、例えば、緩和なアルカリ処理では、図4に示すように、リグノフェノール誘導体がオルト位結合ユニットを有する場合、当該導入フェノール誘導体の当該フェノール性水酸基が開裂し、生じたフェノキシドイオンが、C2アリールエーテル結合を構成するC2位を分子内求核反応的にアタックして、当該エーテル結合を開裂させて低分子化することができる。
C2アリールエーテル結合の開裂により、リグニンの母核にフェノール性水酸基が生成されることになる(図4右側、点線円内参照)。また、当該分子内求核反応により、導入フェノール核が、それが導入されたフェニルプロパン単位とクマラン骨格を形成した構造(アリールクマラン単位)が発現される。
これらの結果、フェノール誘導体側にあったフェノール性水酸基(図4左側、点線円内)が、リグニン母核側(図4右側、点線円内)に移動されたことになる。このような変化により、この二次誘導体は、リグノフェノール誘導体とは異なる光吸収特性を備えることができるようになる。
【0042】
当該アルカリ処理は、具体的には、リグノフェノール誘導体の架橋体をアルカリ溶液に溶解し、一定時間反応させ、必要であれば、加熱することにより行う。この処理に用いることのできるアルカリ溶液は、リグノフェノール誘導体中の導入フェノール誘導体のフェノール性水酸基を解離させることができるものであればよく、特に、アルカリの種類及び濃度、溶媒の種類等は限定されない。アルカリ下において前記フェノール性水酸基の解離が生じれば、隣接基関与効果により、クマラン構造が形成されるからである。例えば、p-クレゾールを導入したリグノフェノール誘導体では、水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。例えば、アルカリ溶液のアルカリ濃度範囲は0.5~2Nとし、処理時間は1~5時間程度とすることができる。また、アルカリ溶液中のリグノフェノール誘導体は、加熱されることにより、容易にクマラン構造を発現する。加熱に際しての、温度、圧力等の条件は、特に限定することなく設定することができる。例えば、アルカリ溶液を100℃以上(例えば、140℃程度)に加熱することによりリグノフェノール誘導体の架橋体の低分子化を達成することができる。さらに、アルカリ溶液を加圧下においてその沸点以上に加熱してリグノフェノール誘導体の架橋体の低分子化を行ってもよい。
【0043】
なお、同じアルカリ溶液で同濃度においては、加熱温度が120℃~140℃の範囲では、加熱温度が高い程、C2-アリールエーテル結合の開裂による低分子化が促進されることがわかっている。また、該温度範囲で、加熱温度が高い程、リグニン母体由来の芳香核由来のフェノール性水酸基が増加し、導入されたフェノール誘導体由来のフェノール性水酸基が減少することがわかっている。したがって、低分子化の程度及びフェノール性水酸基部位のC1位導入フェノール誘導体側からリグニン母体のフェノール核への変換の程度を、反応温度により調整することができる。すなわち、低分子化が促進され、あるいは、より多くのフェノール性水酸基部位がC1位導入フェノール誘導体側からリグニン母体へ変換されたアリールクマラン体を得るには80~140℃程度の反応温度が好ましい。
【0044】
オルト位結合ユニットにおけるC1フェノール核の隣接基関与によるC2-アリールエーテルの開裂は、上述したようにアリールクマラン構造の形成を伴うが、リグノフェノール誘導体の架橋体の低分子化は、必ずしもアリールクラマンが効率よく生成する条件下(140℃付近)で行う必要はなく、材料によって、あるいは目的によってより高い温度(例えば170℃付近)で行うこともできる。この場合、一旦生成したクラマン環は開裂し、導入フェノール誘導体側にフェノール性水酸基が再生され、さらに、アリール基移動に伴う分子形態変動により共役系の新たな発現によりリグノフェノール誘導体や前記したアリールクマラン構造を有する二次誘導体とは異なる光吸収特性を発現させることができる。
【0045】
以上のことから、アルカリ処理における加熱温度は、特に限定されないが、必要に応じて80℃以上200℃以下で行うことができる。80℃を大きく下回ると、反応が十分に進行せず、200℃を大きく越えると好ましくない副反応が派生しやすくなるからである。
【0046】
クラマン構造の形成とそれに伴う低分子化のための処理の好ましい一例としては、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ溶液として用い、オートクレーブ内140℃で加熱時間60分という条件を挙げることができる。特に、この処理条件は、p-クレゾール又は2,4-ジメチルフェノールで誘導体化したリグノフェノール誘導体に好ましく用いられる。また、新たな共役系の発現を伴うようなアルカリ処理の一例としては、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ溶液として用い、オートクレーブ内170℃で加熱時間20分~60分という条件を挙げることができる。
【0047】
(高次誘導体)
これらの誘導体化処理により各種二次誘導体を得ることができる。さらに、これらの二次誘導体に対して、さらに上記した各処理(好ましくは種類の異なる処理)を行うことにより、高次誘導体化することができる。
この場合、施された処理によって発生した構造的特徴を組み合わせて保持する高次誘導体を得ることができる。例えば、アルカリ処理と架橋性基導入反応、アルカリ処理とアシル基導入反応などの水酸基保護処理、架橋性基導入反応とアシル基導入反応などの水酸基保護処理とを組み合わせることができる。
【0048】
(架橋体)
架橋体は、架橋性基が導入された二次架橋性体あるいは高次架橋性体を熱架橋して得られる。架橋体は、半導体粒子あるいは半導体層に架橋性体を供給しその場で熱架橋されることにより生成される。熱架橋等の条件については後述する。なお、リニアリティの高い架橋性体は、有機溶媒への溶解性を有する場合がある。この場合、光増感剤溶液として半導体粒子や半導体層にリグニン誘導体を吸着させることも可能である。
【0049】
各種のリグニン誘導体は、加熱、光、放射線照射などの各種のエネルギー照射が施されていてもよい。これらのいずれかのエネルギー照射により、リグニン誘導体の重合が促進され、それにより形成される共役系により光吸収域や吸収強度を増大させることができる。エネルギー照射は、特に限定しないで、熱線、各種光線、放射線、電子線を1種あるいは2種以上を組み合わされる。これらのエネルギー照射はリグニン誘導体の分離抽出や循環利用等の過程において施され、特に、共役系の増加を意図されていなくてもよい。なお、後述するように、リグニン誘導体を担持した半導体粒子に対して別個にこれらのエネルギー照射を施すこともできる。
【0050】
(半導体薄膜電極、光電変換素子及び光電気化学電池)
次に、図5及び6に示す、各種リグニン誘導体を用いた半導体薄膜電極2、光電変換素子20及び光電気化学電池40について説明する。本半導体薄膜電極2は、導電性支持体4とそれに積層される半導体層6とから構成され、半導体層6には、リグニン誘導体の1種あるいは2種以上が担持されている。また、光電変換素子20においては、さらに電荷移動層22と対極24とを備えている。本明細書においては、光電変換素子を外部回路で仕事をさせる電池用途に構成したものを光電気化学電池というものとする。光電気化学電池は、太陽電池を包含している。
【0051】
(導電性支持体)
導電性支持体4は、金属のように支持体そのもに導電性があるもの、又は表面に導電剤を含む導電層(導電剤層)を有するガラスもしくはプラスチックの支持体を使用することができる。当該導電剤としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、炭素、もしくは導電性の金属酸化物(インジウム-スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)を挙げることができる。
【0052】
導電性支持体4は、実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは、光の透過率が10%以上であり、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上である。したがって、透明導電性支持体としては、ガラスもしくはプラスチックに導電性の金属酸化物を塗布したものが好ましい。
【0053】
(半導体層)
半導体層6は、単層であっても多層構成であってもよい。半導体としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体の他、金属のカルコゲニド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物等)に代表される化合物半導体まはたペルブスカイト構造を有する化合物を使用することができる。金属のカルコゲニドとして好ましくはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブもしくはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物、カドミウム、鉛の硫化物、カドミウム、鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等を挙げることができる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウムヒ素、銅-インジウム-セレン化物、銅-インジウム-硫化物等を挙げることができる。
【0054】
また、ペロブスカイト構造を有する化合物としては、好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムを挙げることができる。
本発明に用いる半導体としては、より好ましくは、Si、TiO2、SnO2、Fe23、WO3、ZnO、Nb25、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2とすることができ、さらに好ましくは、TiO2であり、Nb25である。最も好ましくは、TiO2である。
【0055】
本発明に用いられる半導体は、単結晶でも多結晶でもよい。また、粒子径は、特に限定しないが、平均粒子径として、0.01~0.06μmであることが好ましい。半導体粒子は、各種粒径分布のものを組み合わせて用いることもできる。
また、半導体粒子は、従来公知のゾル-法などにより作製することができる。
【0056】
(光増感剤)
光増感剤として、1種あるいは2種以上のリグニン誘導体のみを利用することもできるし、リグニン誘導体以外の他の有機系増感剤等を併せて用いることもできる。光電気化学電池の作製を目的とする場合には、異なる光吸収特性を備え、光電変換の波長域をできるだけ広くとることが好ましい。あるいは特に太陽光に適した吸収特性を備えるようにすることが好ましい。したがって、光電変換の波長域が広くなるようにあるいは適切となるように、各種のリグニン誘導体あるいはリグニン誘導体と他の有機系増感剤等を組み合わせて用いることができる。例えば、リグノp-クレゾール固体は437nmに極大吸収ピークを有し、700nmまでブロードな吸収を有している。
リグニン誘導体は、上記したように、各種の二次変換や架橋構造を容易に実現することができる。このため、光電変換特性の制御の他、半導体への吸着や半導体層形成のための構造制御が容易である。
なお、他の有機系増感剤としては、例えば、フタロシアニン、ポルフィリン、シアニン、メロシアニン、オキソノール、トリフェニルメタン系などのメチン系色素やキサンチン系、アゾ系、アンスラキノン系等の色素を挙げることができる。また、併せて用いることのできる金属錯体としては、ルテニウム錯体やフタロシアニン、ポルフィリンなどが好ましい。
【0057】
なお、リグニン誘導体を光増感剤として、半導体粒子あるいは半導体層6に付与するには、リグニン誘導体と他の材料、例えば、ガラスなどの無機あるいはセルロースなどの有機材料と予め複合化して得られた複合材料を用いることができる。また、かかる無機及び/又は有機材料は、半導体膜6内にて複合化されてもよい。無機材料としては、セラミックス、ガラス、金属などが挙げられる。また、有機材料としては、セルロース系材料の他、各種樹脂などが挙げられる。
リグニン誘導体と無機あるいは有機材料との複合材料を用いることにより、リグニン誘導体が安定して保持され、リグニン誘導体がよく固定され、しかも均一に分散保持された半導体層6を容易に得ることができる。
【0058】
(電極の作製)
光増感剤を保持する半導体層6は、光増感剤を担持させた半導体粒子を導電性支持体4上に供給して層体を形成するか、あるいは導電性支持体4上に半導体層6を形成したのち、当該半導体層6に光増感剤を担持させることもできる。
半導体粒子あるいは半導体層6のいずれに対して光増感剤を担持させるには、光増感剤の溶液中に乾燥した半導体粒子や支持体4上に形成した半導体層6を浸漬する方法を採用することができる。光増感剤の溶液は必要に応じて加熱することができる。例えば、50℃以上100℃以下に加熱することができる。
【0059】
光増感剤の溶液は、リグノフェノール誘導体、二次誘導体及び高次誘導体など、用いようとするリグニン誘導体が溶解する溶液を用いることが好ましい。リグノフェノール誘導体を溶解する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アルカリ水溶液、あるいはこれらの1種あるいは2種以上の混液、あるいはこれらの1種あるいは2種以上と水との混液とを採用することができる。
本リグニン誘導体にあっては、アセトン、ピリジン、メタノール、THF等の1種あるいは2種以上を組み合わせてを用いることができる。
【0060】
光増感剤として架橋性の二次誘導体や高次誘導体を溶解した光増感剤溶液に浸漬等して、半導体粒子や半導体層6に十分に光増感剤を吸着させた後には、これらの架橋性誘導体を熱架橋させて架橋体を生成させ、架橋体を光増感剤として機能させることができる。
熱架橋の条件は、架橋反応を進行できる限り、特に限定されない。例えば、1℃~2℃/分の昇温プログラム条件で150℃~180℃程度まで加熱し、その後冷却することができる。また、昇温後、最高設定温度に達してから1時間保持した後、冷却する条件を挙げることができる。各種の架橋構造を図7に示す。
【0061】
架橋によって構築される架橋体構造は、上述のとおり、導入フェノール核の置換部位と置換数とによって決まってくる。図7の左側は、1置換フェノールとして例えば、p-クレゾールを用いたリグノフェノール誘導体をメチロールしてプレポリマーとし、熱架橋することにより、ネットワーク型の高分子材料ができることを示している。このプレポリマーでは、分子鎖の全体にわたって架橋性基が導入されているからである。
【0062】
一方、図7の右側には、二置換フェノールとして2,4-ジメチルフェノールを用いたリグノフェノール誘導体をメチロール化してプレポリマーとし、熱架橋することにより、リニア型の架橋構造が形成されることが示されている。このようなプレポリマーでは、主としてポリマー末端に架橋性基が導入されているからである。
【0063】
さらに、図7の中央には、導入フェノール誘導体として、1置換フェノールと二置換フェノールとを用いることにより(典型的には、p-クレゾールと2,4-ジメチルフェノール)、両者に基づく第一のユニットを備えたリグノフェノール誘導体に架橋性基を導入してプレポリマーとし、結果として、ネットワーク型とリニア型とを混成させた高分子材料が得られることが示されている。
【0064】
なお、半導体層6には、各種リグニン誘導体(特に、リグノフェノール誘導体他、架橋性体を除く二次誘導体及び高次誘導体)と、各種ジイソシアネート類等の重合性化合物、フェノール樹脂材料、エピクロロヒドリンなどを用い、これらを半導体粒子あるいは半導体層に供給して、その場でリグノフェノール誘導体とこれらの重合性化合物等とを反応させて各種リグニン誘導体の架橋体構造を構築し、これにより光電変換を実現することもできる。
【0065】
また、半導体層6には、本発明のリグニン誘導体以外の森林資源由来の有機化合物やその誘導体を含ませることができる。かかる有機化合物及び誘導体には、セルロース系材料、ポリフェノール系材料、溶媒に可溶な他のリグニン系材料等が挙げられる。セルロースは、半導体膜等の形状保持作用を有し半導体膜等に使用することができる。また、リグノフェノール系誘導体の製造プロセスにおける副産物としてあるいは他のリグニン製造プロセスにおける副産物であるポリフェノール系材料は、光増感作用を有し、他の光増感剤として本リグニン誘導体と組み合わせて使用することができる。ポリフェノール系材料としては、例えば、木材の脱脂アセトン液の140℃加熱濃縮物(木材抽出液)を利用することができる。また、公知のクラフトリグニンや蒸煮爆砕などの各種工業リグニンであって光増感剤溶液に用いる溶媒に可溶なものを他の光増感剤として使用することができる。
【0066】
なお、光増感剤を吸着したあるいは吸着していない半導体粒子を導電性支持体4表面に供給して半導体層6を形成するには、半導体粒子の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体4上に塗布する方法やゾル-ゲル法等の従来公知の各種方法を用いることができる。具体的には、浸漬法、ローラ法、ディップ法、エアーナイフ法、エクストルージョン法、スライドホッパー法、ワーヤーバー法、スピン法、スプレー法、キャスト法、各種印刷法等を採用することができる。好ましくは、塗布法あるいは印刷法、浸漬法等湿式の膜付与方法を採用することができる。なお、半導体層6は、導電性支持体4への密着性を向上させるため、約40°以上約700℃以下で加熱処理を行うことが好ましい。かかる加熱処理を行う場合には、加熱処理後(好ましくは直後)に光増感剤を吸着させることが好ましい。また、導電性支持体4表面に半導体粒子と光増感剤とを同時に供給して光増感された半導体層6を形成することもできる。
なお、半導体粒子の分散液の調製方法としては、ゾル-ゲル法の他、乳鉢やミルを用いて粉砕する方法を採用できる。分散媒としては、水、又は各種の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルなどを用いることができる。
【0067】
最終的に得られる光増感剤を保持する半導体層6は、リグニン誘導体が本来的に有する粘結性が発揮されて、リグニン誘導体と半導体粒子とが良好に密着された半導体層6を形成することができる。リグニン誘導体が架橋されている場合には、一層密着力及び強度の高い半導体層6を形成することができる。
【0068】
(光電変換素子及び光電気化学電池)
次に、導電性支持体4と半導体層6とを備える半導体薄膜電極2に電荷移動層22と対極24とを備える、光電変換素子20及び光電気化学電池40について説明する。
(電荷移動層)
電荷移動層22は、典型的には、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体(電解液)、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体をポリマーマトリックスに含浸したゲル電解湿、酸化還元対を含有する溶融塩などを挙げることができる。さらに、固体電解質や正孔(ホール)輸送材料を挙げることができる。
【0069】
本発明で用いることのできる電解液は、電解質として、I2とヨウ化物との組み合わせとすることが好ましい。ヨウ化物としては、LiI、NaI、KI、CsI、CaI2などの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどの4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を用いることができる。Br2と臭化物との組み合わせにおいて、臭化物としては、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2などの金属臭化物あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など)のほか、フェロシアン酸塩-フェリシアン酸塩やフェロセン-フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール-アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン-キノンなどを用いることができる。なかでも、I2とヨウ化カリウムの組み合わせやヨウ化リチウムとシルリチウムとの組み合わせを用いることもできる。
【0070】
本発明の電解質に使用する溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、スルフォランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
【0071】
本発明では、電解質はポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(固体化)させて使用することもできる。なお、本発明では、電解質の替わりに有機または無機あるいはこの両者を組み合わせた正孔輸送材料を使用することもできる。
【0072】
電荷移動層22の形成は、例えば、次のようにして行うことができる。光増感剤を担持させた半導体層6の上に先に対極24を貼り合わせておき、その間隙に液状の電荷移動層22を挟み込むことができる。また、別法として、半導体層6上に直接電荷移動層22を付与する方法で、対極24はその後付与することもできる。
前者の場合の電荷移動層22の挟み込み方法として、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセスと常圧より低い圧力にして気相を液相に置換する真空プロセスが利用できる。後者の場合、湿式の電荷移動層22においては未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置も施すことになる。またゲル電解質の場合には湿式で塗布して重合等の方法により固体化する方法もあり、その場合には乾燥、固定化した後に対極を付与することもできる。電解液のほか湿式有機正孔輸送材料やゲル電解質を付与する方法としては、半導体層6や色素の付与と同様に、湿式の各種方法を適用することができる。浸漬法、ローラ法、ディップ法、エアーナイフ法、エクストルージョン法、スライドホッパー法、ワーヤーバー法、スピン法、スプレー法、キャスト法、各種印刷法等が考えられる。固体電解質や固体の正孔(ホール)輸送材料の場合には真空蒸着法やCVD法等のドライ成膜処理で電荷移動層22を形成し、その後対極を付与することもできる。
【0073】
(対極)
対極24は、光電変換素子20を光電気化学電池40としたとき、光電気化学電池の正極として働くものである。対極24は通常前述の導電性支持体4と同様に導電性層を有する支持体を用いることもできるが、強度や密封性が十分に保たれるような構成では支持体は必ずしも必要でない。具体的に対極に用いる導電性の材料としては、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、パラジウム等の金属、炭素、または導電性の金属酸化物(インジウム-スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。好ましくは白金を用いる。これらは単独でも用いることもできるし、2種以上を組み合わせた合金(例えば、Au/Pdなど)として用いることもできる。
対極の厚さは、特に制限はないが2nm以上20μm以下であることが好ましい。
【0074】
半導体層6に光が到達するためには、前述の導電性支持体4と対極24の少なくとも一方は実質的に透明でなければならない。本発明の素子20及び電池40においては、導電性支持体4が透明であって光(太陽光)を支持体側から入射させるのが好ましい。この場合、対極24は光を反射する性質を有することがさらに好ましい。本発明において対極24としては金属または導電性の酸化物を蒸着したガラスまたはプラスチック、あるいは金属薄膜も使用できる。
【0075】
対極24の形成については電荷移動層22の場合と同様に、電荷移動層22の上に付与する場合と先に半導体層6上に付与する場合の2通りある。いずれの場合も、対極材の種類や電荷移動層22の種類により、適宜、電荷移動層22上または半導体層6上に対極材を塗布、ラミネート、蒸着、貼り合わせなどの方法により形成可能である。例えば、対極24を貼り合わせる場合は、上記の導電性材料を塗布、蒸着、CVD等の手法により導電層として設けられた基板を貼り合わせることができる。また、電荷移動層22が固体の場合には、その上に直接、前述の導電性材料を塗布、メッキ、PVD、CVD等の手法で対極24を形成することができる。
【0076】
本発明の光電変換素子20及び光電気化学電池40によれば、光増感剤として用いたリグニン誘導体が、光電変換特性を有するとともに、森林資源由来であることから、化石資源によらずに電力を供給できる。リグノフェノール誘導体、二次誘導体、高次誘導体及び架橋体は、いずれもポリマーであるとともに本来的に粘結性を有するため、半導体粒子と良好な複合形態を構成し、また半導体層に良好に複合化され、安定的に効率的な光電変換を実現することができる。また、リグノフェノール誘導体、二次誘導体、一部の高次誘導体は、いずれも、高分子にかかわらず有機溶媒に対して溶解性を備えており、光増感剤溶液を容易に調製することができる。また、リグノフェノール誘導体、二次誘導体、高次誘導体の備える有機溶媒溶解性により、使用後の素子等を所定の有機溶媒に浸漬等することにより、半導体とリグニン誘導体との複合状態を解放して、これらの両材料あるいは一方の再利用を容易に行うことができる。なお、架橋体であっても架橋構造のリニア性が高い場合(フェノール化合物として、2,4-置換フェノール誘導体(たとえば、2,4-ジメチルフェノール)のみを用いて構成したリグノフェノール誘導体の架橋性の二次誘導体)の場合、THFに溶解するため、再利用は容易である。
【0077】
さらに、リグニン誘導体がオルト位結合ユニットを備える場合、アルカリ処理によりリグニン誘導体(架橋体であっても)を容易に低分子化することができる。すなわち、誘導化の一種であるアルカリ処理を、素子からリグニン誘導体を分離する手段として採用することができる。アルカリ処理を採用することによれば、リグニン誘導体や架橋体の低分子化による半導体層6からの解放を達成でき、しかも、それにより構造変換も実現することができる。
【0078】
なお、半導体層6からのリグニン誘導体解放のためのアルカリ処理は、半導体層あるいは素子をそのまま、好ましくは粉砕等により小片化あるいは粉末化したものに対して行う。アルカリ処理条件は、複合材料を脱複合させることができればよく特に限定しない。上記したアルカリ処理の項において開示した各種の条件を採用できる。例えば、0.1N~0.5N程度のNaOHなどのアルカリ溶液を100℃以上(例えば、140℃程度)に加熱することによりリグノフェノール誘導体及びその架橋体の低分子化を達成することができる。加圧下で沸点以上に加熱することもできる。緩和な条件としては、約80℃以上約150℃以下を採用することができる。また、増強された条件としては、約150℃以上約170℃以下で行うこともできる。
特に、リグニン誘導体は、アルカリ処理により低分子化とともに、新たな部分構造やフェノール性水酸基などが発現されることにより、さらなる誘導体化の自由度が高くなっている。
【0079】
また、リグニン誘導体は、既に説明したように、分離や解放が容易である一方、各種の構造変換が可能である。したがって、望ましい光電変換特性や半導体層への吸着特性等を得るための構造や組成構成も容易である。さらに、森林資源を光電変換素子として利用した後に、他の用途に逐次的にそのまま使用あるいは構造変換して使用することが可能であり、また、他の用途に使用した後、そのままあるいは構造変換して光電変換素子として利用できる。
【0080】
【実施例】
以下、本発明を具体例を挙げて説明するが、この具体例は本発明を具体的に説明するものであって、本発明を拘束するものではない。
(実施例1:リグノフェノール誘導体の調製)
アセトンで脱脂した乾燥ベイマツ木粉3.0gにp-クレゾール3.0gを含有するアセトン溶液3.0mlを加えて攪拌し、密閉して1夜放置した。放置後、ガラス棒で攪拌しながら、アセトンを留去し、p-クレゾールを収着させた木粉を得た。この収着木粉の全量に対して72%硫酸3.0mlを加えガラス棒で素早く攪拌し、粘度が低下した後、空気中室温にて1時間磁気攪拌を行った。次いで、300mlのイオン交換水に攪拌しながら投入し、pH5~6まで遠心分離を行いながら酸を除去した。遠沈物を、一晩凍結乾燥して得た乾燥物を300mlのアセトン中に投入し、空気中室温で密閉状態の中、一晩磁気攪拌した。この液を遠心分離し、褐色の上澄み液を回収し、80mlまで濃縮した後、300mlジエチルエーテルに氷冷下1滴ずつ滴下した。得られた白紫の沈殿を遠心分離によって回収、エーテルを除去して本発明のリグノフェノール誘導体である(フェノール化合物としてp-クレゾールを用いたものベイマツ-リグノ-p-クレゾールを得た。
【0081】
(実施例2:光電気化学電池の作製)
実施例1で得たリグノフェノール誘導体10mgを20mlのアセトンに溶解させて光増感剤溶液を調製した。酸化チタン薄膜を30mm×20mmの面積でコーティングしたFTOガラスをこの光増感剤溶液に浸漬し、一晩放置した。ガラスを取り出し、乾燥し、酸化チタン表面にI2/KI溶液を3滴滴下し、炭素を60KeVで蒸着させたFTOガラスで挟み、固定して、光電気化学電池(太陽電池)を作製した。
【0082】
(実施例3:性能の評価)
実施例2で作製した電池に太陽光、20WFL蛍光灯、20WHL白熱灯の各種光線を照射すると表1に示す光起電力と光電流とを得ることができた。
【表2】
JP0003934068B2_000003t.gif
【0083】
表2に示すように、実施例2で作製した電池は、電力を供給できることがわかった。
【0084】
(実施例4)
実施例1で調製したリグノ-p-クレゾール10mgを20mlのアセトンに溶解させて光増感剤溶液を調製した。酸化チタン薄膜を30mm×20mmの面積でコーティングしたFTOガラスっをこの光増感剤溶液を浸漬し、一晩放置した。ガラスを採りだし乾燥後、酸化チタン表面にLiI/I2/プロピレンカーボネート溶液(0.5M KI、0.05M I2)を9滴滴下し、Au-Pd合金(60/40)を蒸着させたFTOガラスで挟み、固定して、光電気化学電池(太陽電池)を作製した。また、実施例1のリグノフェノール誘導体に替え、木材の脱脂アセトン液の140℃加熱濃縮物(木材抽出液であってポリフェノール類を含有する)9滴滴下し、同様にして光電気化学電池を作製した。
これら電池について直射日光下、光起電力と光電流とを測定した。結果を表3に示す。
【表3】
JP0003934068B2_000004t.gif
【0085】
(実施例5)
乾燥ヒノキ木粉に対して実施例1と同様に操作して、フェノール化合物として、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロールのそれぞれを用いて、各種のリグノフェノール誘導体を調製した。各リグノフェノール誘導体10mgを20mlのアセトンに溶解させて光増感剤溶液を調製した。酸化チタン薄膜を40mm×20mmの面積でコーティングしたITOガラスにこの光増感剤溶液を滴下し、直後に乾燥した。乾燥した薄膜表面にLiI/I2/プロピレンカーボネート溶液(0.5M KI、0.05M I2)を25μL滴下し、Au-Pd合金(60/40)を蒸着させたITOガラスで挟み、固定して、光電気化学電池(太陽電池)を作製した。
この電池について直射日光下、光起電力と光電流とを測定した。結果を表4に示す。
【表4】
JP0003934068B2_000005t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】リグノフェノール誘導体の製造プロセスの一例を示す図である。
【図2】アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対するフェノール化合物を用いる相分離処理により構造変換してリグノフェノール誘導体が得られることを示す図である。なお、本図に示されるのは、フェノール化合物としてp-クレゾールを用いた構造変換例である。
【図3】フェノール誘導体中に形成されうる、オルト位結合ユニットとパラ位結合ユニットとをそれぞれ示す図である。
【図4】オルト位結合ユニットを有するリグノフェノール誘導体をアルカリ処理した場合の構造変換例を示す図である。
【図5】薄膜電極の一例を示す図である。
【図6】光電変換素子と光電気化学電池の一例を示す図である。
【図7】リグノフェノール誘導体を得るときに用いたフェノール化合物の種類により架橋体構造が異なることを示す図である。
【符号の説明】
2 半導体薄膜電極
4 導電性支持体
6 半導体層6
20 光電変換素子
22 電荷移動層
24 対極
40 光電気化学電池
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6