TOP > 国内特許検索 > 殺虫性組成物 > 明細書

明細書 :殺虫性組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3574866号 (P3574866)
公開番号 特開2003-137709 (P2003-137709A)
登録日 平成16年7月16日(2004.7.16)
発行日 平成16年10月6日(2004.10.6)
公開日 平成15年5月14日(2003.5.14)
発明の名称または考案の名称 殺虫性組成物
国際特許分類 A01N 43/16      
FI A01N 43/16 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2001-331821 (P2001-331821)
出願日 平成13年10月30日(2001.10.30)
審査請求日 平成13年10月30日(2001.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
発明者または考案者 【氏名】柏葉 晃一
【氏名】友岡 憲彦
【氏名】ダンカン・ヴォーン
【氏名】加賀 秋人
【氏名】小野 裕嗣
【氏名】亀山 眞由美
【氏名】吉田 充
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】吉住 和之
参考文献・文献 Journal of Economic Entomology,1969年,Vol.62,No.3,p.643-646
調査した分野 CA(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン及び/又は6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを有効成分として含有する殺虫性組成物。
【請求項2】
殺虫性組成物が、貯穀害虫用殺虫性組成物である請求項1記載の殺虫性組成物。
【請求項3】
貯穀害虫が、マメゾウムシ類である請求項2記載の殺虫性組成物。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は殺虫性組成物に関し、詳しくはマメゾウムシ類などの貯穀害虫による食害からアズキ、ササゲ、リョクトウといった食用マメ種子を有効に防除することのできる殺虫性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
作物を害虫から防除し、収量の安定と収穫物の品質を確保する方法は古来より行われてきた。
このような害虫防除には、20世紀初頭からは、有機塩素系、有機リン系などの合成殺虫剤が使用されてきており、農業生産に多大な貢献を果たしてきた。
【0003】
しかし、近年になると環境保護や安全性への意識が高まり、このような合成殺虫剤の使用が制限されるようになってきている。
また、合成殺虫剤の使用量の増加と共に、薬剤に対して抵抗性を獲得した害虫の出現が報告され、合成殺虫剤の使用による従来の防除に代わる新たな技術開発が求められている。
【0004】
一般に天然物由来の殺虫剤は、環境への負荷が少ないと考えられている。
特に植物由来の天然化合物は多種にわたり、ピレスロイドなどをはじめする化合物が利用されてきた。フラボノイド配糖体は、植物の生産する化合物のひとつである。フラボノイドの機能については不明な点も多いが、抗菌活性、酵素阻害、昆虫による食害の防衛、ホルモン作用などに寄与すると考えられている。
殺虫性を示すフラボノイドとしては、これまでにオオタバコガの幼虫に殺虫性を示す6-C-β-D-グルコシル-ルテオリンが報告されているが、マメゾウムシ類などの貯穀害虫に対する殺虫性については全く記載がない。
【0005】
マメゾウムシ類は、熱帯地域から亜熱帯地域にかけて生息する小さな甲虫である。マメゾウムシ類としては、アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシなどが知られ、いずれもアズキ、ツルアズキ、ササゲ、リョクトウ種子に甚大な食害をもたらす。そのうちヨツモンマメゾウムシは、アフリカ及び東南アジアを原産とするが、今後、温暖化と共に日本に侵入し定着する恐れのある貯穀害虫である。
【0006】
マメゾウムシ類の成虫は、マメの栽培圃場に飛来し、若莢に産卵する。孵化した幼虫は種子に侵入し、食害し、収穫後に羽化する。羽化した成虫は、貯蔵中のマメに産卵し、世代を繰り返す。
このようなマメゾウムシ類は、生育可能な環境条件さえ整えば加速度的に増殖し、食害による被害が深刻であるため、これまでマメの栽培圃場における農薬散布、収穫後における薬剤処理を中心とした防除方法が展開されてきた。
【0007】
しかし、成虫の移動能力が高いこと、マメ類種子に侵入した幼虫の駆除は難しいこと、食餌となる植物が野生植物にもあること、などから、マメ類種子に侵入したマメゾウムシ類の幼虫の駆除は難しく、充分な防除効果を上げていないのが現状である。
従って、新たな防除方法の確立が世界各国で切望されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、登熟中及び貯蔵中の食用マメ種子を食害するマメゾウムシ類を有効に防除することのできる、虫害抵抗性を有する、天然(植物)由来の殺虫性組成物を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
虫害抵抗性の開発には、害虫に対して高い殺虫性を有する化学物質の利用が有効である。
本発明者らは、上記従来の問題点を解消するため鋭意検討を重ねた結果、農業生物資源研究所が収集した500系統のマメ科植物種子の中から、日本在来の食用ツルアズキ( Vigna umbellata )が、アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシなどのマメゾウムシ類に対して高い殺虫性(虫害抵抗性)を有することを見出した。
【0010】
このためツルアズキ種子には、マメゾウムシ類に対して殺虫性(虫害抵抗性)を示す有効成分が含まれていると考えられた。しかも、ツルアズキ種子は食用であるため、その種子中に含まれる有効成分も安全性が高いと考えられた。
【0011】
本発明者らは、このようなツルアズキが示すマメゾウムシ類抵抗性の要因を明らかにするために、様々な抽出方法と抽出液とを検討し、ツルアズキ種子粉から殺虫活性物質の分離を進めた結果、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンにアズキゾウムシに対する高い殺虫活性を認めた。また、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンとは別に6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンの既知化合物にアズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシに対する高い殺虫活性を認め、これらの知見に基いて本発明を完成するに至った。
なお、これら2つの物質はいずれも既知の化合物ではあるが、マメゾウムシ類に対して殺虫性(虫害抵抗性)があることは、これまで全く知られていない。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明は、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン及び/又は6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを有効成分として含有する殺虫性組成物を提供するものである。
【0013】
次に、請求項2に係る本発明は、殺虫性組成物が、貯穀害虫用殺虫性組成物である請求項1記載の殺虫性組成物を提供するものである。
【0014】
また、請求項3に係る本発明は、貯穀害虫が、マメゾウムシ類である請求項2記載の殺虫性組成物を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を示す。
請求項1に係る本発明は、殺虫性組成物に関し、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン及び/又は6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを有効成分として含有するものである。
【0016】
ここで8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンは、式〔I〕
【化1】
JP0003574866B2_000002t.gifで表されるものである。
【0017】
また、6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンは、式〔II〕
【化2】
JP0003574866B2_000003t.gifで表されるものである。
【0018】
前記したように、これら2つの物質はいずれも既知の物質ではあるが、マメゾウムシ類に対して殺虫性(虫害抵抗性)があることは、これまで全く知られていない。
【0019】
これら2つの物質は、様々な方法により得ることができるが、例えば、いずれも食用のツルアズキ種子粉をメタノール水溶液で抽出することにより得ることができる。
例えば、上記式〔I〕で表される8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを得るには、まずツルアズキ種子粉を85%メタノール水溶液で抽出する。得られた抽出液を濃縮した後、水飽和ヘキサン、酢酸エチル、水飽和ブタノールで分配し、マメゾウムシ類に対する殺虫活性を認めたブタノール層を濃縮しシリカゲルに吸着させた後、酢酸エチル/メタノールの混合溶媒で溶出する。アズキゾウムシに殺虫活性を認めた酢酸エチル:メタノール(8:2)の濃縮画分を低圧液体クロマトグラフィーで精製する。その後、最も活性の強い濃縮画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製することにより、上記式〔I〕で表される8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンが得られる。
【0020】
次に、上記式〔II〕で表される6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを得るには、まずツルアズキ種子粉を85%メタノール水溶液で抽出する。得られた抽出液を濃縮した後、水飽和ヘキサン、水飽和ブタノールで分配する。マメゾウムシ類に対する殺虫活性を認めたブタノール層を濃縮し、耐有機溶媒親水性ビーニルポリマーを充填させたゲルクロマトグラフィーで精製する。そして活性の強い2つの濃縮画分をHPLCで精製する。アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシに殺虫活性を示すピーク画分を精製することにより、上記式〔II〕で表される6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンが得られる。
【0021】
以上のように、これら2つの物質はいずれも食用のツルアズキ種子中に含まれる成分であることから、安全性が高いと考えられる。
【0022】
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、上記した如き8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン及び/又は6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを有効成分として含有するものであり、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンと6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンをそれぞれ単独で用いてもよいし、或いは両者を併用してもよい。
【0023】
また、請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、上記した如き8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン及び/又は6C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを有効成分として含有するものであればよく、本発明の目的を損なわない範囲において、既知の殺虫性物質を併用することもできる。
【0024】
このような請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、請求項2に記載したように、特に貯穀害虫用殺虫性組成物として有用である。
ここで貯穀害虫としては、請求項3に記載されているように、マメゾウムシ類が挙げられる。
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、貯穀害虫の中でも、アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシなどのマメゾウムシ類に対して特異的、選択的に虫害抵抗性がある。
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、このようなマメゾウムシ類などの貯穀害虫による食害から、アズキ、ササゲ、リョクトウといった食用マメ種子を有効に防除することができる。
【0025】
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、害虫体内への薬剤の侵入経路からみると、基本的には殺虫剤の内の消化中毒剤の範疇に属するものであって、これを食した害虫を中毒に陥らせ死に至らしめて防除するものである。請求項1に係る本発明の殺虫性組成物において、殺虫剤としての使用の態様は特に制限されないが、害虫によく食せしめるために、これを例えばマメを模した人工マメの形態に練り上げたものとしておくとよい。
【0026】
【実施例】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0027】
試験例1〔ツルアズキ種子粉の殺虫活性試験〕
マメゾウムシ類の幼虫は、食用ツルアズキ種子内部を食することによって死亡することが確認されたことから、マメゾウムシ類の幼虫にツルアズキ種子粉を含む人工マメを食べさせることにより、ツルアズキ種子(子葉)のマメゾウムシ類に対する殺虫活性を確認すべく、以下の試験を行った。
【0028】
(1)ツルアズキ
材料は、日本在来の栽培ツルアズキ( Vigna umbellata )を用いた。
【0029】
(2)マメゾウムシ類
マメゾウムシ類としては、日本産アズキソウムシ( Callosobruchus chinensis )とタイ産ヨツモンマメゾウムシ( C. maculatus )の2種を使用した。ヨツモンマメゾウムシは、植物防疫所より輸入禁止許可申請を受け、タイ国カセサート大学より導入し継代飼育した。
これらの2種のマメゾウムシは、同一の方法で飼育した。すなわち、リョクトウ種子300粒を用意した9cmシャーレに十数頭のマメゾウムシ成虫を放ち産卵させた。産卵後、成虫を除去し、30℃、湿度60%の恒温器内で飼育した。産卵後25-30日を経過すると成虫が羽化する。羽化した成虫を殺虫活性試験に供試した。
【0030】
(3)人工マメ(リョクトウ100%)の作成
殺虫活性物質の同定を行うためには、人工飼料によるマメゾウムシの飼育が必要である。そこで、マメゾウムシ類に感受性であるリョクトウ子葉粉から、人工マメ(人工飼料)を作成し、マメゾウムシ類の生育を調査した。リョクトウ子葉粉1gに少量の蒸留水を添加し、マメ状の固形物(約0.25g)を作成し、凍結乾燥した。この固形物を人工マメ(リョクトウ100%)と呼び、実験に供試した。
人工マメ(リョクトウ100%)を9cmシャーレに置き、羽化後間もない成虫を放ち、産卵をさせた。飼育環境は30℃、湿度60%に設定した。産卵後25-30日を経過すると人工マメ(リョクトウ100%)より成虫が正常に羽化した。このように、マメゾウムシ類は人工マメを利用して産卵、羽化を行うことが明らかとなり、人工マメはマメゾウムシ類の殺虫活性試験に有用であることが確認された。
【0031】
(4)ツルアズキ種子粉を含む人工マメの作成及び殺虫活性の測定
この試験区の人工マメを一粒ずつ9cmシャーレに置き、羽化後間もないアズキゾウムシおよびヨツモンマメゾウムシの成虫を放ち、産卵をさせた。産卵後は30度、湿度60%に設定した恒温器に入れて飼育した。人工マメへの産卵数を記録し、そして人工マメから羽化する成虫数を産卵後50日まで記録しつづけ、羽化率をもとめた。産卵50日目に羽化が認められない人工マメは、ピンセットで分割し成虫の有無を調査した。なお、人工マメによる殺虫性試験は4反復した。
ツルアズキ種子粉を各割合で混合した人工マメから羽化した成虫数を図1に示す。なお、図1中、散点部分はアズキゾウムシの結果、斜線部分はヨツモンマメゾウムシの結果である。
【0032】
図1より、ツルアズキ種子粉の割合が100%の人工マメ、及びツルアズキ種子粉80%+リョクトウ種子(子葉)粉20%の人工マメは、いずれも2種類のマメゾウムシ類の羽化を完全に阻害したことが明らかである。
この結果に基づいて、ツルアズキ種子粉の全活性(units)と比活性を算出した。
すなわち、まず上記人工マメについて殺虫活性(羽化率0%)を示すのに必要なツルアズキ種子粉の濃度を検討し、これを最小致死濃度とした。この最小致死濃度によって、ツルアズキ種子粉の総重量から作成することのできる人工マメの重量(g)で表わしたもの(ツルアズキ種子粉の総重量を、最小致死濃度で割ったもの)を、ツルアズキ種子粉の全活性とした。
さらに、ツルアズキ種子粉1g当たりの全活性を、比活性(units/g)として算出した。
【0033】
本試験例の場合、ツルアズキ種子粉の割合が100%の人工マメ、及びツルアズキ種子粉80%+リョクトウ種子(子葉)粉20%の人工マメが、いずれもマメゾウムシ羽化を完全に阻害したことから(図1参照)、最小致死濃度は80%であることが分かる。
この結果を基準としてツルアズキ種子粉の全活性を求めると、1000.0gのツルアズキ種子粉から、マメゾウムシを殺虫可能な1250.0gの人工マメを作れることから、全活性は1250.0unitsであることが明らかである。また、比活性は、1.3units/gであった。結果を第1表に示す。
【0034】
このように、マメゾウムシ類の幼虫はツルアズキ種子を混合した人工マメを食べることによって死亡することから、ツルアズキ種子はマメゾウムシ類に対し殺虫活性を有することが明らかとなった。
この結果から、ツルアズキにはマメゾウムシ類に対し殺虫性を示す有効成分が含まれていると考えられたので、以下の実施例1及び2により、ツルアズキ種子から殺虫活性物質の分離を進めることとした。
【0035】
実施例1〔8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンの製造〕
ツルアズキ種子から、マメゾウムシ類に対する殺虫活性を有する物質を、マメゾウムシ類に対する殺虫活性に基づいて分離精製した。分離精製の手順を図2に示す。
なお、殺虫活性については、各精製段階で得られる抽出物をツルアズキ種子粉の代わりに用いる他は、試験例1の条件及び手順と同様にして全活性、比活性を算出することにより観察した。
また、試験例1で得られるツルアズキ種子粉の全活性に対する、各精製段階で得られる抽出物の全活性の比率を百分率で示したものを、収率として算出した。
【0036】
(1)メタノール抽出
ツルアズキ種子粉に85%メタノール(メタノール:水=85:15)10Lを加え48時間連続抽出した(4℃)。抽出液を濾過し、上澄9.5Lを得た。この工程を3回行い、合計3000gの種子粉から約28Lのメタノール抽出液を得た。
メタノール抽出物について、試験例1と同様にして全活性、比活性及び収率を算出した。これらの結果を第1表に示す。
第1表から、メタノール抽出によりツルアズキ種子粉100%の場合に比べ、殺虫活性が向上していることが明らかとなった。
【0037】
(2)各種溶媒への分配
メタノール抽出液を濃縮し、水飽和ヘキサン、酢酸エチル、水飽和ブタノール分配した。
得られる水飽和ヘキサン分配層、酢酸エチル分配層、水飽和ブタノール分配層及び水層残さのそれぞれについて、殺虫活性試験を行った。
すなわち、試験例1において、ツルアズキ種子粉の代わりにヘキサン分配層を3%、酢酸エチル分配層を3%、ブタノール分配層を1%、2%及び3%、水層残さを3%の各割合で混合した人工マメを用いた他は同様にして、羽化率を確認した。各分配層を混合した人工マメの羽化率の結果を図3に示す。図3中、白色部分はアズキゾウムシの結果を、黒色部分はヨツモンマメゾウムシの結果を示す。
【0038】
図3から明らかなとおり、ヘキサン分配層、酢酸エチル分配層、水層残さを混合した人工マメの羽化率は高く、リョクトウ種子(子葉)粉100%の人工マメの場合と同様にマメゾウムシ類殺虫活性は認められなかった。一方、ブタノール分配層を混合した人工マメの羽化率は2種類のマメゾウムシ類のいずれについても低かった。ブタノール分配層の抽出物3%を混合した人工マメでは、羽化率が0%であったので、最小致死濃度は3%であることが分かった。
そこで、ブタノール分配層を混合した人工マメについて、試験例1と同様に、全活性及び比活性を算出した。さらに、収率を算出した。これらの結果を第1表に示す。
第1表から明らかなとおり、全活性及び比活性は、メタノール抽出物と比較して高いことが分かる。
以上の結果から、ブタノール分配層に2種類のマメゾウムシ類に対する殺虫活性を認め、以下の精製に供した。
【0039】
(3)シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離
ブタノール分配層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶出した。溶出液はヘキサン:酢酸エチル=90:10、ヘキサン:酢酸エチル=60:40、ヘキサン:酢酸エチル=40:60、酢酸エチル、つづいて酢酸エチル:メタノール=80:20、酢酸エチル:メタノール=60:40、酢酸エチル:メタノール=40:60、メタノールとした。
【0040】
溶出した各溶液を濃縮し、アズキゾウムシに対する殺虫活性を確認した。
すなわち、試験例1と同様に殺虫試験を行った。その結果、酢酸エチル:メタノール=80:20により溶出した溶液の濃縮物にアズキゾウムシに対する殺虫活性を認めた。酢酸エチル:メタノール=80:20の濃縮物についてのアズキゾウムシに対する全活性、比活性及び収率の結果を第1表に示す。
【0041】
(4)ゲルクロマトグラフィーによる分離
この酢酸エチル:メタノール=80:20の濃縮物を、少量の10%メタノール(メタノール:水=10:90)に溶解し、LH-20で充填させたゲルクロマトグラフィー(2×120cm)で分離した。
すなわち、10%メタノールを開始溶媒とし、100%メタノールとの間で、1400分間の直線濃度勾配によって分離した(流速2ml/min、カラム温度20℃)。試料添加から10分間ごとに分取した。分取した各フラクションは減圧濃縮し、凍結乾燥した。
【0042】
各フラクションについて、アズキゾウムシに対する殺虫活性を確認した。
すなわち、上記各フラクションを混合した人工マメを作成し、試験例1と同様に殺虫試験を行い、羽化率、全活性、比活性を算出した。その結果、アズキゾウムシに対する殺虫活性の認められるフラクションが得られた。アズキゾウムシに対する殺虫活性の認められたフラクションの全活性、比活性及び収率の結果は、第1表に示す通りである。
【0043】
(5)HPLCによる分離
アズキゾウムシに対する殺虫活性の認められたフラクションを、HPLC(島津)で精製した。カラムはセンシュー科学ODS-C18(20×250mmと10×250mm)、資生堂ODS-UC18(4.6×250mm)を使用した。検出波長は200-400nmの吸光度とした。
すなわち、まずアズキゾウムシに対する殺虫活性の認められたフラクションを、ODS-UC18(4.6×250mm)、流速0.8ml/min、カラム温度40℃、溶離液20%アセトニトリル(アセトニトリル:水=20:80)で分析した。HPLCの結果を図4に示す。図4から明らかなとおり、7本のピーク(No.1~7)が検出された。
【0044】
各ピークを分取して、殺虫活性を確認した。すなわち、各ピークを混合した人工マメを作成した他は試験例1と同様にして殺虫試験を行い、羽化率、全活性、比活性を算出した。
その結果、アズキゾウムシに殺虫活性を認めたのは溶出時間17-18分のピークであった(No.6と7)。17-18分のピーク(No.6と7)についてのアズキゾウムシに対する全活性、比活性及び収率の結果を第1表に示す。
【0045】
溶出時間17-18分のピーク(No.6と7)を、ODS-C18(20×250mmと10×250mm)で集めた。このピークは2本のピークからなるため、更に集めたピークの凍結乾燥物を資生堂ODS-C18(4.6×250mm)により分離した。
No. 6のピークについて、殺虫活性を確認した。すなわち、No. 6のピーク0.05%、0.1%、0.2%をそれぞれ混合した人工マメを作成した他は、試験例1と同様にして殺虫試験を行い、羽化率を算出した。No. 6のピークを混合した人工マメの羽化率の結果を図5に示す。図5中、白色部分はアズキゾウムシの結果を、黒色部分はヨツモンマメゾウムシの結果を示す。
【0046】
図5から明らかなとおり、No. 6のピークの抽出物を混合した人工マメの羽化率は、アズキゾウムシについて低かった。No. 6のピークを0.1%、0.2%の各割合で混合した人工マメでは、アズキゾウムシに対する羽化率が0%であったので、最小致死濃度は0.1%であることが分かった。
そこで、No. 6のピークの抽出物を混合した人工マメについて、試験例1と同様に、全活性及び比活性を算出した。さらに、収率を算出した。結果を第1表に示す。
【0047】
【表1】
第1表〔各精製段階における抽出物の殺虫活性〕
JP0003574866B2_000004t.gif
【0048】
第1表から明らかなとおり、No. 6のピークは、全活性が低く、比活性が高いことがわかる。
以上の結果から、No. 6のピークにアズキゾウムシ殺虫活性を認め、以下の分析に供した。
【0049】
フーリエ変換イオンサイクロトン共鳴質量分析計(FTICR-MS)により、No.6のピークの凍結乾燥物に含まれる化合物を高分解能質量分析した。その結果、[M+H]がm/z 435.12854、[M-H]がm/z 433.11418に観測された。なお、M=C212310としたときの計算値は、[M+H]がm/z 435.12857、[M-H]がm/z 433.11402である。
さらに、一次元及び二次元NMR,UV,円二色性スペクトル(CD)により、No. 6のピークの凍結乾燥物を分析した結果、No. 6のピークは、上記式〔I〕で表される化合物8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンであることが判明した。
【0050】
以上の結果から、ツルアズキ種子に含まれるアズキゾウムシ殺虫性物質は、既知の化合物である8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンであることが判明したものの、該化合物がマメゾウムシ類に対して殺虫性(虫害抵抗性)を有していることは、これまで全く知られていない。
【0051】
実施例2〔6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンの製造〕
実施例1において、ツルアズキから、アズキゾウムシ殺虫性物質8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを分離した。
しかしながら、図1に示すように、ツルアズキ種子はヨツモンマメゾウムシにも抵抗性を示すため、8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニン以外の殺虫性物質を含むと推定される。
実施例1において、ヨツモンマメゾウムシに対する殺虫活性は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶出すると失活することから、シリカゲルの使用を避け、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに対して殺虫性を有する物質の分離を試みた。分離精製の手順を図6に示す。
【0052】
(1)メタノール抽出
ツルアズキ種子(1000g)を高速粉砕器で粉砕した。粉砕した種子粉に85%メタノール(メタノール:水=85:15)10Lを加え48時間連続抽出した(4℃)。抽出液を濾過し、上澄を9.5L得た。この工程を4回行い、合計4000gの種子粉から約38Lのメタノール抽出液を得た。
このメタノール抽出物について、試験例1と同様にして全活性、比活性、収率を算出した。これらの結果を第2表に示す。
第2表から、メタノール抽出により殺虫活性が向上していることが明らかとなった。
【0053】
(2)各種溶媒への分配
メタノール抽出液を濃縮し、水飽和ヘキサン、酢酸エチル、水飽和ブタノール分配した。ブタノール層を濃縮し、凍結乾燥した。
各分配層の2種のマメゾウムシ類に対する殺虫活性を確認した。
すなわち、上記各分配層をそれぞれ混合した人工マメを作成し、試験例1と同様に殺虫試験を行った。その結果、ブタノール分離層に殺虫活性を認めた。ブタノール分離層の2種のマメゾウムシ類に対する全活性、比活性及び収率の結果を第2表に示す。
【0054】
(3)ゲルクロマトグラフィーによる分離
ブタノール分配層の凍結乾燥物を、少量の10%メタノール(メタノール:水=10:90)に溶解した。溶解した試料をLH-20で充填させたゲルクロマトグラフィー(6×100cm)で分離した。10%メタノールを開始溶媒とし、100%メタノールとの間で、48時間の直線濃度勾配により分離した(流速5ml/min、カラム温度20℃)。試料添加120分後から10分間ごとに分取した。分取した各フラクションを減圧濃縮した。アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに殺虫性を示すフラクションを特定した。
【0055】
各フラクションについて、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシとに対する殺虫活性を確認した。
すなわち、上記各フラクションを混合した人工マメを作成し、試験例1と同様に殺虫試験を行い、羽化率、全活性、比活性を算出した。その結果、2種のマメゾウムシ類に対する殺虫活性の認められるフラクションが得られた。殺虫活性の認められたフラクションの全活性、比活性及び収率の結果は、第2表に示す通りである。
【0056】
(4)HPLCによる分離
殺虫活性を認めたフラクションをHPLC(島津)で精製した。カラムはセンシュー科学ODS-C18(20×250mmと10×250mm)、資生堂ODS-UC18(4.6×250mm)を使用した。検出波長は200-400nmの吸光度とした。
すなわち、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシとに殺虫活性を認めたフラクションをODS-UC18(4.6×250mm)、流速0.8ml/min、カラム温度30℃、溶離液15%アセトニトリル+0.1%ギ酸(アセトニトリル:水=15:75)で分析した結果、図7に示すように5本のピークが検出された(No. 1~5)。各ピークを分取し濃縮した。
【0057】
各ピークの殺虫活性を確認した。すなわち、上記各ピークを混合した人工マメを作成し、試験例1と同様にして殺虫試験を行った結果、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシとに殺虫活性を認めたのは、溶出時間16-17分のピークであった(No. 4)。
【0058】
この16-17分のピーク(No. 4)を、ODS-C18(20×250mmと10×250mm)により分離した。
No. 4のピークについて、殺虫活性を確認した。すなわち、No. 4のピーク0.1%、0.2%、0.3%をそれぞれ混合した人工マメを作成した他は試験例1と同様にして殺虫試験を行い、羽化率を算出した。
No. 4のピークを混合した人工マメの羽化率の結果を図8に示す。図8中、白色部分はアズキゾウムシの結果を、黒色部分はヨツモンマメゾウムシの結果を示す。
【0059】
図8から明らかなとおり、No. 4のピークの抽出物を混合した人工マメの羽化率は、2種類のマメゾウムシ類のいずれについても低かった。No. 4のピーク0.1%と0.2%をそれぞれ混合した人工マメでは、アズキゾウムシに対する羽化率が0%であったので、最小致死濃度は0.1%であることが分かった。
そこで、No. 4のピークの抽出物を混合した人工マメについて、試験例1と同様に、全活性及び比活性を算出した。さらに、収率を算出した。結果を第2表に示す。
【0060】
【表2】
第2表〔各精製段階における抽出物の殺虫活性〕
JP0003574866B2_000005t.gif
【0061】
第2表から明らかなとおり、No. 4のピークは、全活性が低く、比活性が高いことが分かる。
以上の結果から、No. 4のピークにアズキゾウムシ及びヨツモンマメゾウムシに対する殺虫活性を認め、以下の分析に供した。
【0062】
フーリエ変換イオンサイクロトン共鳴質量分析計(FTICR-MS)により、No.4のピークの凍結乾燥物に含まれる化合物を高分解能質量分析した。その結果、[M+H]がm/z 435.12854、[M-H]がm/z 433.11405に観測された。なお、M=C212310としたときの計算値は、[M+H]がm/z 435.12857、[M-H]がm/z 433.11402である。
さらに、一次元及び二次元NMR,UV,円二色性スペクトル(CD)により、No. 4のピークの凍結乾燥物を分析した結果、No. 4のピークは、上記式〔II〕で表される化合物6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンであることが判明した。
【0063】
以上の結果から、ツルアズキ種子に含まれるアズキゾウムシ殺虫性物質の一つは、既知の化合物である6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンであることが判明したものの、該化合物がマメゾウムシ類に対して殺虫性(虫害抵抗性)を有していることは、これまで全く知られていない。
【0064】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、虫害抵抗性を有しており、登熟中及び貯蔵中のマメ類種子(アズキ、ササゲ、リョクトウといった食用マメ種子)を食害するマメゾウムシ類を有効に防除することができる。
しかも、請求項1に係る本発明の殺虫性組成物における有効成分は、有機合成を用いて製造されたものではなく、天然(植物)由来のものである。すなわち、有効成分はいずれも食用のツルアズキ種子中に含まれる成分であることから、安全性が高いと考えられる。
請求項1に係る本発明の殺虫性組成物は、貯穀害虫の中でも、アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシなどのマメゾウムシ類に対して特異的、選択的に虫害抵抗性がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】ツルアズキ種子粉を混合した人工マメから羽化した成虫数を示す図である。
【図2】ツルアズキ種子から8-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを分離精製するまでの手順である。
【図3】各溶媒分配層を混合した人工マメの羽化率を示す図である。
【図4】HPLCの結果を示す図である。
【図5】No. 6のピークを混合した人工マメの羽化率を示す図である。
【図6】ツルアズキ種子から6-C-β-D-グルコシル-(S)-ナリンゲニンを分離精製するまでの手順である。
【図7】HPLCの結果を示す図である。
【図8】No. 4のピークを混合した人工マメの羽化率を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7