TOP > 国内特許検索 > 生体膜に特異的に作用する新規なペプチド > 明細書

明細書 :生体膜に特異的に作用する新規なペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4366497号 (P4366497)
公開番号 特開2004-248666 (P2004-248666A)
登録日 平成21年9月4日(2009.9.4)
発行日 平成21年11月18日(2009.11.18)
公開日 平成16年9月9日(2004.9.9)
発明の名称または考案の名称 生体膜に特異的に作用する新規なペプチド
国際特許分類 C07K  14/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
FI C07K 14/00 ZNA
A61K 37/02
A61P 31/04
A61P 35/00
C12N 15/00 A
C07K 14/435
請求項の数または発明の数 14
全頁数 49
出願番号 特願2003-303747 (P2003-303747)
出願日 平成15年8月27日(2003.8.27)
優先権出願番号 2002253169
2003021198
優先日 平成14年8月30日(2002.8.30)
平成15年1月29日(2003.1.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成17年10月7日(2005.10.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】町田 幸子
【氏名】温 浙盛
【氏名】徳安 健
【氏名】松永 茂
【氏名】小堀 真珠子
【氏名】榊原 祥清
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 特開平11-335394(JP,A)
Biosci. Biotechnol. Biochem.,2000年 5月23日,Vol.64, No.5,p.985-994
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.,1997年 5月13日,Vol.94, No.10,p.4937-4942
J. Am. Chem. Soc.,2002年 1月30日,Vol.124, No.4,p.538-543
Nature,2001年 4月 5日,Vol.410, No.6829,p.715-718
Drug Discov. Today,2001年 7月 1日,Vol.6, No.14,p.721-727
調査した分野 C12N 15/00 -15/90
C07K 4/00 -14/825
A61K 38/00
A61P 31/04
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドを含有する、微生物を殺傷するための薬学的組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドを含有する、食品または工業製品の腐敗を予防するための薬学的組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドを含有する、微生物による感染症を処置するための薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドを含有する、抗生物質。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドを含有する、微生物感染部位に薬物を送達するための、薬学的送達物。
【請求項7】
請求項1に記載のペプチドを含有する、癌を処置するための薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のペプチドを含有する、癌病変部位に薬物を送達するための、薬学的送達物。
【請求項9】
請求項1に記載のペプチドを含有する、アポトーシスを抑制するための、薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドを含有する、アポトーシスが進行する部位に薬物を送達するための、薬学的送達物。
【請求項11】
前記微生物が、動物病原性である、請求項2~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記微生物が、植物病原性である、請求項2~6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記植物病原性微生物が、エルウィニア・カロトボラ(Erwinia Carotovoraである、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記癌が、膀胱癌、胃癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、グリア芽腫、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、腎癌および白血病からなる群より選択される、請求項7または8に記載の薬学的組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体膜に特異的に作用する新規ペプチドおよびそのスクリーニング方法に関し、具体的には、微生物細胞膜に特異的に作用するが、正常な動物細胞膜に作用しないペプチドおよびそのスクリーニング方法に関する。さらに本発明は、微生物細胞膜に対して特異的ポア形成能を有するが溶血能を欠くペプチドおよびそのスクリーニング方法に関する。本発明は、微生物を殺傷するための抗菌ペプチドに関する。具体的には、本発明は、食品または工業製品の腐敗の原因となる微生物に対する抗菌ペプチドに関する。本発明はまた、動物および/または植物に感染する微生物に対する抗菌ペプチドに関する。また、本発明は、本発明のペプチドを含む、微生物を殺傷するための薬学的組成物、微生物による感染症を処置するための薬学的組成物、癌の処置のための薬学的組成物、またはアポトーシスを抑制するための薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然には、生体膜に作用して膜に穴をあける能力(ポア形成能)を有するペプチドが存在する。このペプチドは、膜作動性ペプチドと呼ばれ、植物、昆虫、無脊椎動物からヒトを含む脊椎動物にわたって広く存在し、微生物を含む広範な生物の生体膜を認識し、そして特異的に作用することが知られている。特に、微生物の生体膜に作用する膜作動性ペプチドは、生体膜のバリアー能を損傷させることによって微生物を殺傷する能力を有する。このようなペプチドとして単離されたものは、例えば、Michael Zasloff,Nature 415:389-395(2002)、および松崎勝巳著「抗菌性生体防御ペプチド:作用機構とその応用」FFI JOURNAL,No.190:23-27(2001)に総説され、また、例えば、特開2001-288105公報、特開2001-186887公報、特開2001-2582公報、特開2000-63400公報、特表2002-503701公報、特表2002-503641公報、特表2001-527412公報、特表2001-517422公報、および特表平9-512711公報などに開示される。微生物に対する膜作動性ペプチドとしては、ミツバチ毒由来のメリチン、スズメバチ毒由来のマストパランXおよびアフリカツメガエル由来のマガイニン2が挙げられる。メリチンおよびマストパランXは、微生物細胞膜に作用すると同時に溶血性も示すが、マガイニン2は、溶血性を示さず、微生物細胞膜に特異的なポア形成能を有する。また、マストパランXの基本骨格を改変したペプチドであるマスト21(mast21)は、微生物細胞膜に対して特異的ポア形成能を有しかつ溶血性を欠失している(特許第2967925号明細書を参照のこと)。このように、溶血性を示さず、かつ微生物細胞膜に対して特異的なポア形成能を有するペプチドは、生体防御ペプチドと呼ばれる。本発明の生体防御ペプチドは、食品または工業製品の腐敗を生じさせる微生物を殺傷するための抗菌ペプチド、あるいは動物および/または植物に感染する微生物に対する抗菌ペプチドして機能する。さらに、本発明のペプチドは、耐性菌を産生させる可能性の低い抗生物質として利用し得る。
【0003】
生体防御ペプチドは、微生物細胞膜を特異的標的とすることから、微生物などの異物が体内に侵入した場合に、これら異物に対して所望の薬剤を送達する機構である、ドラッグデリバリーシステムのシグナルとして利用し得る。従って、本発明のペプチドは、例えば、薬物を体内の必要な場所にのみ必要な量だけを作用させて、その効果を最大限に発揮させるドラッグデリバリーシステムにおけるシグナルとしての利用といった広範な種々の応用が期待されている。
【0004】
微生物の生体膜と動物細胞の生体膜との間には、含有されるリン脂質に基づく構造上の差異が存在する。微生物細胞膜表面にはフォスファチジルグリセロール、フォスファチジルセリン、カルジオリピンなどの酸性リン脂質が存在するのに対して、健康な動物細胞膜表面には酸性リン脂質は露出しておらず、逆に微生物細胞膜には存在しないコレステロールが豊富に存在している。生体防御ペプチドは、このような膜の構造上の差異を認識して膜にポアを形成すると考えられている。しかし、既知の生体防御ペプチドが有する抗菌性は、全ての細菌、真菌などに対して示されるものではなく、ペプチド毎に様々な抗菌スペクトルを示す。その上、安定性に欠けるといった問題点も指摘され、生体防御ペプチドを抗菌ペプチドとして利用するには至っていない。目的に応じたペプチドを得るために、配列が既知であるペプチドを改変し、目的に応じた活性を増強したペプチドを作出するなどの試みが行われている(例えば、Sachiko Machidaら、Biosci.Biotechnol.Biochem.,64:985-994(2000)、およびSong Yub Shinら、Biochemical Biophysical Research Communications,275:904-909(2000)を参照のこと)。しかし、ランダムなライブラリーから細胞膜構造を認識しかつ作用することを指標に特定のアミノ酸配列のペプチドを選択する手法はなかった。
【0005】
安定なおよび/または所望の抗菌スペクトルを有する生体防御ペプチドを得るために、既知のペプチド配列を改変し、目的に応じた活性を増強したペプチドを作出するなどの試みが行われている。例えば、コンビナトリアルケミストリーなどの方法を用いるハイスループットスクリーニングが、近年さかんに行われている(例えば、Sylvie E.Blondelle and Richard A.Houghten,TIBTECH,14:60-64(1996)、Hong,S.Y.ら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy,42:2534-2541(1998)、およびKyoung-Chul Choiら、Biotechnology Letters,24:251-256(2002)を参照のこと)。しかし、ランダムペプチドライブラリーから微生物細胞膜に特異的に作用するペプチドを得たという成功例は報告されていない。また、一定の鎖長以上のペプチドライブラリーを合成することも、スクリーニング後に直接ペプチドのアミノ酸配列を決定することも困難である。そこで、ペプチドのアミノ酸配列と遺伝子情報を対応付けることにより、ペプチドをコードする塩基配列側からペプチドのアミノ酸配列を決定する方向で研究が進展してきた(例えば、ファージディスプレイ、細菌表層ディスプレイ、酵母表層ディスプレイなど(例えば、土屋信英、柳川弘志著「進化分子工学を構成する技術(3)遺伝子型と表現型の対応化技術」、化学と生物、第37巻:811-815(1999)、およびN.Doi and H.Yanagawa、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening,4:497-509(2001)を参照のこと))。しかし、これらの手法はいずれも、生きた細胞を使ってタンパク質を合成する技術であり、微生物やファージなどの生物の力を利用する段階を含んでいるため、生体防御ペプチドのような、生物に致死的なペプチドおよび生物の増殖に影響を与える可能性のあるペプチドのアミノ酸配列を選択することは不可能であった。
【0006】
これに対して、リボソームディスプレイやエマルジョン法などのように、スクリーニングの全過程を、無細胞系、すなわち、微生物やファージなどの生きた細胞の力を利用せずにインビトロで行う技術の開発が進められている(例えば、N.Doi and H.Yanagawa、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening,4:497-509(2001)、Anthony D.Keefe and Jack W.Szostak,Nature,410(2001)、およびPatrick Amstutzら、Current Opinion in Biotechnology,406-405(2001)を参照のこと)。特に、リボソームディスプレイは、タンパク質・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)を形成させ、特定の機能を持ったタンパク質をスクリーニングする手法である。このような方法を用いることによって、生物に致死的なペプチドおよび生物の増殖に影響を与える可能性のあるペプチドのアミノ酸配列を選択し得る。
【0007】
しかし、タンパク質のスクリーニングの選択圧の開発が困難であり、上記の方法は、今のところ方法論の開発が主となっているに過ぎない。従って、生体膜に特異的に作用する新規ペプチドをスクリーニングする方法に関しての成功例は、未だ報告されていない。

【特許文献1】特開2001-288105公報
【特許文献2】特開2001-186887公報
【特許文献3】特開2001-2582公報
【特許文献4】特開2000-63400公報
【特許文献5】特表2002-503701公報
【特許文献6】特表2002-503641公報
【特許文献7】特表2001-527412公報
【特許文献8】特表2001-517422公報
【特許文献9】特表平9-512711公報
【特許文献10】特許第2967925号明細書
【非特許文献1】Michael Zasloff,Nature 415:389-395(2002)
【非特許文献2】松崎勝巳著「抗菌性生体防御ペプチド:作用機構とその応用」FFI JOURNAL,No.190:23-27(2001)
【非特許文献3】Sachiko Machidaら、Biosci.Biotechnol.Biochem.,64:985-994(2000)
【非特許文献4】Song Yub Shinら、Biochemical Biophysical Research Communications,275:904-909(2000)
【非特許文献5】Sylvie E.Blondelle and Richard A.Houghten,TIBTECH,14:60-64(1996)
【非特許文献6】Hong,S.Y.ら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy,42:2534-2541(1998)
【非特許文献7】Kyoung-Chul Choiら、Biotechnology Letters,24:251-256(2002)
【非特許文献8】土屋信英、柳川弘志著「進化分子工学を構成する技術(3)遺伝子型と表現型の対応化技術」、化学と生物、第37巻:811-815(1999)
【非特許文献9】N.Doi and H.Yanagawa、Combinatorial Chemistry & High Throughput Screening,4:497-509(2001)
【非特許文献10】Anthony D.Keefe and Jack W.Szostak,Nature,410(2001)
【非特許文献11】Patrick Amstutzら、Current Opinion in Biotechnology,406-405(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、生体膜に特異的に作用する新規ペプチドをスクリーニングする方法、ならびにこのスクリーニング方法によって新規な抗微生物ペプチド、抗癌ペプチドおよびアポトーシス抑制性ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの局面において、本発明は、Zのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるペプチドまたはそのアナログであって、ここで、X~Xは、任意のアミノ酸であり、Z~Zの少なくとも2個は、塩基性アミノ酸である、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0010】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記塩基性アミノ酸が、リジン(K)またはアルギニン(R)であり得る。
【0011】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記X~Xの少なくとも2個は、疎水性アミノ酸であり得る。
【0012】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される配列を含み得る。
【0013】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVGおよびKVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0014】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、KVL、およびRVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0015】
他の局面において、本発明は、ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される配列を含む、微生物細胞膜に特異的に作用する、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0016】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0017】
さらに他の局面において、本発明は、ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される配列を含む、異常を生じた動物細胞膜に特異的に作用する、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0018】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0019】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0020】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVGおよびKVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0021】
さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVGおよびKVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0022】
さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVGおよびKVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0023】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、KVL、およびRVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0024】
さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、KVL、およびRVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、ALR、KVL、およびRVGからなる群より選択される配列を含み得る。
【0026】
別の局面において、本発明は、以下の第1~第3の配列を含むペプチド:
i)ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される、第1の配列:
ii)ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される、第2の配列:ならびに
iii)ALR、WALR、WGALR、RLAWG、GWALR、RVL、KVL、RVG、KVG、GVR、VGR、RVA、RSV、RVS、KVS、SVKおよびVSKからなる群より選択される、第3の配列
を提供する。
【0027】
さらに別の局面において、本発明は、配列KVLまたはALRを少なくとも3回以上繰り返して含む、ペプチドを提供する。
【0028】
別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0029】
さらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、微生物細胞膜に特異的に作用する、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0030】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0031】
なおさらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、異常を生じた動物細胞膜に特異的に作用する、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0032】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0033】
別の実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0034】
さらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/または置換を有し、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持する、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0035】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0036】
なおさらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/または置換を有し、かつ異常を生じた動物細胞膜に特異的に作用する性質を保持する、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0037】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0038】
別の実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0039】
さらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸が保存的に置換され、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持する、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0040】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0041】
なおさらに別の局面において、本発明は、配列番号11~配列番号122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該アミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸が保存的に置換され、かつ異常を生じた動物細胞膜に特異的に作用する性質を保持する、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0042】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0043】
別の実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0044】
他の局面において、本発明は、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはそのアナログであって、微生物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0045】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0046】
さらに他の局面において、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはそのアナログであって、異常を生じた動物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0047】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0048】
別の実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0049】
他の局面において、本発明は、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該配列中の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/または置換を有し、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持するペプチドまたはその改変体であって、微生物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0050】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0051】
さらに他の局面において、本発明は、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはそのアナログであって、ここで、該改変体は、該配列中の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/または置換を有し、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持するペプチドまたはその改変体であって、異常を生じた動物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはそのアナログを提供する。
【0052】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0053】
別の実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0054】
他の局面において、本発明は、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはその改変体であって、ここで、該改変体は、該配列中のKまたはR以外の1つ以上のアミノ酸が保存的に置換され、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持するペプチドまたはその改変体であって、微生物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはその改変体を提供する。
【0055】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはその改変体は、上記微生物が、食品または工業製品の腐敗を生じさせ得る。
【0056】
さらに他の局面において、本発明は、配列RNWRGIAGMARRLLGRNWRLMを含む、ペプチドまたはそのアナログであって、ここで、該改変体は、該配列中のKまたはR以外の1つ以上のアミノ酸が保存的に置換され、かつ微生物細胞膜に特異的に作用する性質を保持するペプチドまたはその改変体であって、異常を生じた動物細胞膜に作用する能力が、配列KNWRGIAGMAKKLLGKNWKLMより少なくとも2倍高い、ペプチドまたはそのアナログ。
【0057】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、癌細胞であり得る。
【0058】
1つの実施形態において、本発明のペプチドまたはそのアナログは、上記異常を生じた動物細胞が、アポトーシス細胞であり得る。
【0059】
別の局面において、本発明は、複数の核酸配列を含むライブラリーであって、該核酸配列の各々は、以下:
(1)第1のペプチドをコードする塩基配列を含む第1のカセット;
(2)該第1のペプチドをコードする塩基配列と同じ読み枠である、第2のペプチドをコードする塩基配列を含む第2のカセットであって、ここで該第2のペプチドは該第1のペプチドのフレキシブルな動きを可能にする部位を含む、第2のカセット;ならびに
(3)該第1および第2のカセットの転写および翻訳に必須の塩基配列を含み、第1および第2のカセットと作動可能に連結された、第3のカセット、
の3つのカセットを含み、ここで、該ライブラリーは、該第1のカセットが互いに異なる、少なくとも2つの該核酸配列を含む、ライブラリーを提供する。
【0060】
1つの実施形態において、本発明のライブラリーは、上記第2のカセットがタグ配列をコードする塩基配列をさらに含み得る。
【0061】
別の実施形態において、本発明のライブラリーは、上記第1のカセットが終止コドンを含み得ない。
【0062】
別の実施形態において、本発明のライブラリーは、上記第1のカセットが互いに異なる少なくとも100種の前記核酸配列を含み得る。
【0063】
別の実施形態において、本発明のライブラリーは、上記第1のカセットが互いに異なる少なくとも1000種の前記核酸配列を含み得る。
【0064】
さらに別の実施形態において、本発明は、上記のライブラリーを含むベクターであり得る。
【0065】
さらに別の局面において、本発明は、生体膜に作用するペプチドをコードする核酸をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下の工程:
DNAライブラリーを構築する工程;
無細胞系において、該ライブラリー中のDNAを転写および翻訳してペプチドを調製し、該ペプチドと、リボソームおよびmRNAとの複合体を形成する工程;ならびに
膜モデルへ特異的に結合する該複合体を選択する工程、
を包含する、方法
を提供する。
【0066】
1つの実施形態において、本発明の方法は、上記DNAライブラリーが、複数の核酸配列を含むライブラリーであって、該核酸配列の各々は、以下:
(1)第1のペプチドをコードする塩基配列を含む第1のカセット;
(2)該第1のペプチドをコードする塩基配列と同じ読み枠である、第2のペプチドをコードする塩基配列を含む第2のカセットであって、ここで該第2のペプチドは該第1のペプチドのフレキシブルな動きを可能にする部位を含む、第2のカセット;ならびに
(3)該第1および第2のカセットの転写および翻訳に必須の塩基配列を含み、第1および第2のカセットと作動可能に連結された、第3のカセット、
の3つのカセットからなり得、ここで、該ライブラリーは、該第1のカセットが互いに異なる、少なくとも2つの該核酸配列を含み得る。
【0067】
1つの実施形態において、本発明の方法は、上記DNAライブラリーが3つのカセットを含むライブラリーであって、上記第1のカセットが終止コドンを含み得ない。
【0068】
別の実施形態において、本発明の方法は、上記膜モデルが、生物の細胞膜構造を模倣した人工脂質二重膜であり得る。
【0069】
別の実施形態において、本発明の方法は、上記膜モデルが、固相に固定化されている固定化膜モデルであり得る。
【0070】
さらに別の実施形態において、本発明の方法は、上記固相が磁気ビーズであり得る。
【0071】
別の実施形態において、本発明の方法は、選択した上記複合体中のmRNAをDNAへ逆転写する工程をさらに包含し得る。
【0072】
さらに別の実施形態において、本発明の方法は、上記逆転写工程で得られたDNAを用いて、再度DNAライブラリーを調製し、上記複合体の形成工程、上記複合体の選択工程および逆転写工程を反復し得る。
【0073】
なおさらに別の実施形態において、本発明の方法は、上記反復が4回以上行われ得る。
【0074】
1つの局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、微生物を殺傷するための薬学的組成物を提供する。
【0075】
他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、食品または工業製品の腐敗を予防するための薬学的組成物を提供する。
【0076】
他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、微生物による感染症を処置するための薬学的組成物を提供する。
【0077】
さらに他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、抗生物質を提供する。
【0078】
さらに他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、微生物感染部位に薬物を送達するための、薬学的送達物を提供する。
【0079】
1つの局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、癌を処置するための薬学的組成物を提供する。
【0080】
他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、癌病変部位に薬物を送達するための、薬学的送達物を提供する。
【0081】
さらに他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、アポトーシスを抑制するための薬学的組成物を提供する。
【0082】
さらに他の局面において、本発明は、上記のペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、アポトーシスが進行する部位に薬物を送達するための、薬学的送達物を提供する。
【0083】
1つの局面において、本発明は、生体膜に作用するペプチドをコードする核酸をスクリーニングするためのキットであって、該キットは:
膜モデル作製のための脂質、
を含む、キット
を提供する。
【0084】
1つの実施形態において、本発明のキットは、無細胞系においてペプチド・リボソーム・mRNA複合体を形成するための酵素およびリボソームをさらに含み得る。
【0085】
さらなる実施形態において、本発明のキットは、上記酵素およびリボソームが、無細胞抽出液として提供され得る。
【0086】
なおさらなる実施形態において、本発明のキットは、上記無細胞抽出液が、大腸菌抽出液のS30抽出物であり得る。
【0087】
別の実施形態において、本発明のキットは、上記のライブラリーをさらに含み得る。
【0088】
1つの局面において、本発明は、配列番号5、107、121および122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、微生物を殺傷するための薬学的組成物を提供する。
【0089】
他の局面において、本発明は、配列番号5、107、121および122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、食品または工業製品の腐敗を予防するための薬学的組成物を提供する。
【0090】
他の局面において、本発明は、配列番号5、107、121および122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、微生物による感染症を処置するための薬学的組成物を提供する。
【0091】
1つの実施形態において、本発明の薬学的組成物は、上記微生物が動物病原性である。
【0092】
他の実施形態において、本発明の薬学的組成物は、上記微生物が植物病原性である。
【0093】
さらなる実施形態において、本発明の薬学的組成物は、上記植物病原性微生物が、Erwinia Carotovoraである。
【0094】
1つの局面において、本発明は、配列番号5、107、121および122からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのアナログもしくは改変体を含有する、癌を処置するための薬学的組成物を提供する。
【0095】
1つの実施形態において、本発明の薬学的組成物は、上記癌が、膀胱癌、胃癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、グリア芽腫、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、腎癌および白血病からなる群より選択される。
【発明の効果】
【0096】
本発明の方法によって、任意のライブラリーから生体膜に作用するペプチドを効率的にスクリーニングし得る。特に、本発明の方法によって、微生物やファージなどの生命体をペプチドの発現のために用いるファージディスプレイ、細菌表層ディスプレイ、酵母表層ディスプレイなどの手法と比較して、スクリーニング過程にあるペプチドの生体への影響を完全に排除することができ、生物に致死的なペプチドや、生物の増殖に影響を与える可能性のあるペプチドを生成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0097】
(定義)
本明細書中で使用される場合、用語「病原性」とは、病原体(細菌などの微生物を含む)が生物に感染し得る状態をいう。本明細書中で使用される場合、用語「動物病原性」の微生物とは、動物に感染し得る微生物をいい、そして用語「植物病原性」の微生物とは、植物に感染し得る微生物をいう。本明細書中で使用される場合、「腐敗性微生物」とは、食品または工業製品の腐敗を生じさせる微生物をいう。
【0098】
本明細書中で使用される場合、用語「ライブラリー」とは、複数の配列を含む集団をいい、好ましくは、この配列は核酸配列である。1つの実施形態において、この核酸配列は、ベクターに組み込まれている。本明細書中で使用される場合、用語「核酸配列」は、塩基配列と交換可能に使用され得る。「ベクター」とは、同種または異種のDNAを、宿主、および/または遺伝子の転写、翻訳を行う無細胞系へ運搬するDNAをいう。この核酸配列としては、ある生物種の全DNAまたは特定の組織もしくは器官の全DNAを断片化して得た核酸配列、あるいは合成して得た核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。特定のライブラリーは、所望の性質を有するタンパク質、アミノ酸またはペプチドをコードするDNAをスクリーニングするために使用され得る。本明細書中で使用される場合、用語「スクリーニング」は、合成された新化合物、または天然物よりクローニングされた化合物の中から所望の性質を有するものを選び出すことをいう。本明細書中で使用される場合、用語「クローニング」は、遺伝子およびタンパク質、アミノ酸またはペプチドを単離することをいう。
【0099】
本明細書中で使用される場合、用語「アミノ酸」は、L-アミノ酸だけでなくD-アミノ酸も含む。D-アミノ酸は、天然には、細菌細胞壁に存在するペプチドグリカンおよび一部のペプチド系抗生物質の構成成分として存在する。本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」は、天然由来のペプチドであっても合成ペプチドであってもよく、このペプチドは、L-アミノ酸またはD-アミノ酸から構成される。L-アミノ酸とD-アミノ酸とを区別する必要がないことによって、合成ペプチドをライブラリーに使用する際に、ペプチド合成のコストを大いに削減し得る。
【0100】
水溶液中で、タンパク質の内側に存在する確率の高いアミノ酸を「疎水性アミノ酸」、外側に出やすいアミノ酸を「親水性アミノ酸」という。具体的には、「疎水性アミノ酸」は、フェニルアラニン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、メチオニン、バリン、アラニンなどであり、「親水性アミノ酸」は、リジン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、スレオニン、アスパラギン、アルギニン、セリンなどである。タンパク質の表面上の疎水性領域は、他のタンパク質および膜脂質部分と結合すると考えられる。
【0101】
本明細書中で使用される場合、用語「アナログ」は、表1および表2のペプチドをいう場合には、このようなペプチドと実質的に同じ生物学的機能または生物学的活性を保持するペプチドを意味する。アナログは、そのペプチドのC末端カルボキシル基がブロックされている場合を含む。C末端カルボキシル基の好ましいブロックとしては、アミド化が挙げられるがこれに限定されない。「生物学的機能」とは、生物がその生命を維持するために有する機能をいい、例えば、遺伝子レベルでの複製、転写および翻訳、タンパク質、細胞および個体レベルでの異化、同化、代謝などが挙げられるが、これらに限定されない。用語「生物学的活性」とは、任意の生物学的アッセイで測定される活性をいう。用語「アナログ」は、参照分子の生物学的に活性な誘導体またはこのような誘導体のフラグメント(これらは、本明細書中に記載されるアッセイにおいて所望の活性を維持する)をいう。一般に、用語「アナログ」は、改変が所望の活性を破壊しない限り、ネイティブ分子に対して、1以上のアミノ酸付加、置換(一般に、天然においては保存される)、および/または欠失を有するネイティブなペプチド配列および構造を有する化合物をいう。好ましくは、「アナログ」は、ネイティブな分子と少なくとも1つの同じ活性を有するが、アナログの活性は、ネイティブなペプチドと同じである必要はなく、ネイティブなペプチドの活性よりも高くても低くてもよい。ペプチドアナログを作製するための方法は、当該分野で公知であり、そして以下にさらに記載される。
【0102】
特に好ましいアナログは、天然では保存的である置換(すなわち、それらの側鎖が関係するアミノ酸のファミリー内で起こる置換)を含む。具体的に、アミノ酸は、一般的に4つのファミリーに分類される:(1)酸性--アスパラギン酸およびグルタミン酸;(2)塩基性--リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)疎水性--グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)中性で親水性--アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、しばしば、芳香族アミノ酸として分類される。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンでの、アスパラギン酸のグルタミン酸での、スレオニンのセリンでの単独置換、またはアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸の類似の保存的な置換は、生物学的活性に対して、主要な効果は有さないことが、合理的に予測可能である。例えば、目的のペプチドは、分子の所望の機能がインタクトなままである限り、1、2、3、4の保存的アミノ酸置換もしくは非保存的アミノ酸置換、5~15までの保存的アミノ酸置換もしくは非保存的アミノ酸置換、または5~15の間の任意の整数の保存的アミノ酸置換もしくは非保存的アミノ酸置換を有し得る。当業者は、当該分野で周知の、Hopp/Woods法(Hoppら、Proc.Natl.Acad.Sci USA,78:3824-3828(1981))およびKyte-Doolittle法(Kyteら、J.Mol.Biol.,157:105-132(1982))を参照することによって、変化を許容し得る目的の分子の領域を容易に決定し得る。
【0103】
目的のペプチドの改変体を構築する際に、改変体が望ましい活性を保有し続けるように改変がなされる。目的のペプチドの生物学的に活性な改変体は、一般的に、参照ペプチド分子のアミノ酸配列(これは、比較のための基準として役立つ)に対して、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは約90%~95%以上、そして最も好ましくは約98%以上のアミノ酸同一性を有する。目的のネイティブなペプチドの生物学的に活性な改変体は、1~15アミノ酸、1~10、例えば、6~10、5、4、3、2、または1のアミノ酸残基だけネイティブなペプチドと異なり得る。「配列同一性」は、同じアミノ酸残基が、改変体ペプチド、および改変体のアミノ酸配列の特定の連続的なセグメントが整列し、参照分子のアミノ酸配列と比較される場合、参照として役立つペプチド分子内に見出されることを意図する。2つのアミノ酸配列の間のパーセンテージ配列同一性は、同一のアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置の数を決定してマッチした位置の数を得、マッチした位置の数を参照分子との比較を受けるセグメント内の位置の全数で割り、そしてその結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0104】
2つの配列の最適な整列のために、改変体のアミノ酸配列の連続的なセグメントは、参照分子のアミノ酸配列に関してさらなるアミノ酸残基または欠失したアミノ酸残基を有し得る。参照アミノ酸配列との比較に使用される連続的なセグメントは、少なくとも20の連続的なアミノ酸残基を含み、そして30、40、50、100以上の残基であり得る。改変体のアミノ酸配列におけるギャップを含むことによって変化する配列同一性の補正は、ギャップペナルティーを割り当てることによってなされ得る。配列整列の方法は、アミノ酸配列についてとアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列についての両方について当該分野において周知である。
【0105】
従って、任意の2つの配列間の%同一性の決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの1つの好ましい非限定的な例は、MyersおよびMiller(1998)CABIOS 4:11-17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)において利用され、これは、GCG配列整列ソフトウェアパッケージの一部である。アミノ酸配列を比較する場合、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティが、ALIGNプログラムと共に使用され得る。2つの配列を比較する際に使用するための、数学的アルゴリズムの別の好ましい、非限定的な例は、KarlinおよびAltschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264のアルゴリズムであり、これは、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877のように改変された。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組込まれる。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、文字長=12を用いて実施されて、目的のペプチドをコードするヌクレオチド配列に相同的なヌクレオチド配列が得られ得る。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、文字長=3を用いて実施されて、目的のペプチドに相同的なアミノ酸配列が得られ得る。比較の目的のためのギャップのある整列を得るために、Gapped BLASTが、Altschulら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389に記載されるように利用され得る。あるいは、PSI-Blastは、分子間の距離的関係を検出する反復検索を実施するために使用され得る。Altschulら(1997)前出を参考のこと。BLAST、Gapped BLAST、およびPSI-Blastプログラムを使用する場合、各々のプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る。http:/www.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと。ALIGNプログラム(Dayhoff(1978)、Atlas of Protein Sequence and Structure 5:補遺3(National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.)およびWisconsin Sequence Analysis Package,Version 8(Genetics Computer Group,Madison,Wisconsinから入手可能)のプログラム(例えば、GAPプログラム、ここで、プログラムのデフォルトパラメータが利用される)もまた参照のこと。
【0106】
アミノ酸配列同一性の割合を考慮する場合、いくつかのアミノ酸残基位置が、タンパク質機能の特性に影響しない保存的アミノ酸置換の結果として異なり得る。これらの例において、%配列同一性は、保存的に置換されたアミノ酸における類似性をカウントするために上方調節される。このような調節は、当該分野で周知である。例えば、MyersおよびMiller(1988)Computer Applic.Biol.Sci.4:11-17を参照のこと。
【0107】
ペプチドの正確な化学構造は、多くの因子に依存する。イオン化可能なアミノ基およびカルボキシル基が分子中に存在するために、特定のペプチドは、酸性塩または塩基性塩、あるいは中性の形態として得られ得る。適切な環境条件に配置された場合、それらの生物学的活性を保持する全てのこのような調製物は、本明細書で使用されるようにペプチドの定義に含まれる。さらに、このペプチドの一次アミノ酸配列は、糖部分を使用する誘導体化(グリコシル化)によって、または脂質、ホスフェート、アセチル基などのような他の補足的な分子によって増強され得る。この配列はまた、糖類との結合によって、増強され得る。このような増強の特定の局面は、産生宿主の翻訳後プロセシング系を介して達成される;他のこのような改変は、インビトロで導入され得る。任意の事象において、このような改変は、ペプチドの活性が破壊されない限り、本明細書中で使用されるペプチドアナログの定義に含まれる。このような改変は、種々のアッセイにおいて、このペプチドの活性を増加させるかまたは減少されるかのいずれかによって、その活性に定量的にまたは定性的に影響し得ることが期待される。さらに、鎖中の個々のアミノ酸残基は、酸化、還元、または他の誘導体化によって改変され得、そしてペプチドは、活性を保持するフラグメントを得るために切断され得る。活性を破壊しないこのような変更は、本明細書中で使用されるような目的のペプチドアナログの定義からこのペプチド配列を排除しない。
【0108】
本明細書中で使用される場合、用語「フレキシブル」は、複数のペプチドまたはタンパク質由来のフラグメントが互いに干渉しあうことなく、自由に動き得る状態をいう。好ましくは、この複数のペプチドまたはタンパク質由来のフラグメントは、リンカー配列(リンカー、リンカーペプチドともいう)によって連結される。本明細書中で使用される場合、用語「リンカー配列」は、3、4、5、6、7、8、9、10、または10以上連続するアミノ酸配列である。1つの実施形態において、リンカー配列は、配列番号4を含み得る。好ましい実施形態において、リンカー配列は、配列番号4を2回以上反復した配列であり得る。
【0109】
1つの局面において、本発明のペプチドは、フレキシブルな動きを可能にするためのリンカー配列、およびプレ選抜を行うためのタグ配列と連結されている。「プレ選抜」とは、所望の性質を有する物質をスクリーニング(本選抜ともいう)する前に予め行うスクリーニングをいう。1つの局面において、プレ選抜は、本発明のペプチドの特徴とは異なる性質に基づいて物質をスクリーニングし得る。「タグ配列」とは、抗体または親和性樹脂と結合するアミノ酸配列をいい。本発明のペプチドと同種であっても異種であってもよい。好ましい実施形態において、このタグ配列は、異種性エピトープである。異種性エピトープとしては、FLAG、myc、HA、SV40 T抗原、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、6ヒスチジン、およびマルトース結合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
本明細書中で使用される場合、用語「生体膜」は、「細胞膜」と交換可能に使用され得る生物のインタクトな細胞膜構造をいう。用語「膜モデル」は、生体膜を模倣して構築した膜構造をいう。生物の細胞膜構造を「模倣」するとは、生物のインタクトな細胞膜構造の性質および特徴の全てまたはその一部を有することをいう。好ましくは、この膜モデルは、含有する脂質の種類および/または比率を変化させることによって、異なる生物種の細胞膜構造を模倣する。1つの局面において、本発明に用いる膜モデルは、人工脂質二重膜からなるリポソームであり得る。微生物の細胞膜構造を模倣した微生物細胞膜モデルとしては、コレステロールを含まず、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリンなどの酸性リン脂質を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。健康な動物の細胞膜構造を模倣した動物細胞膜モデルとしては、コレステロールを含み、酸性リン脂質を含まないものが挙げられるが、これに限定されない。
【0111】
リポソームは、その構造体が、大きな一枚膜リポソーム(large unilamella vesicle(LUV))、多重層リポソーム(multi lamel1a vesicle(MLV))、小さな一枚膜リポソーム(small unilamel1a vesicle(SUV))のいずれであってもよく。その大きさは、LUVでは200~1000nm、MLVでは400~3500nm、SUVでは20~100nm程度の粒子径をとり得る。
【0112】
リポソームの製造方法としては、以下のような慣用の方法が挙げられるが、これらに限定されない:逆相蒸発法(Szoka,F.,et al:Biochim.Biophys.Acta,Vol.601 559(1980))、エーテル注入法(Deamer,D.W.:Ann.N.Y.Acad.Sci.,Vol.308 250(1978));界面活性剤法(Brunner,J.,et al: Biochim.Biophys.Acta,Vol.455 322(1976))。
【0113】
リポソームを形成するための脂質は、リン脂質、コレステロール類および窒素脂質(例えば、糖脂質)などが用いられ、一般的かつ好ましくは、リン脂質である。リン脂質としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:天然リン脂質(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、およびリゾレシチンなど)、または常法によってこれらに水素添加したもの;合成リン脂質(例えば、ジセチルホスフェート、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、およびエレオステアロイルホスファチジルセリンなど)。
【0114】
これらのリン脂質を含む脂質類は、単独でも2種以上を組合わせても使用し得る。リポソームを形成する際に、主要リン脂質以外にリポソーム形成用添加剤(例えば、コレステロール類、ステアリルアミン、α-トコフェロールなど)を併用し得る。
【0115】
リポソームの製造法は、例えば、上記のリポソーム形成物質をコレステロール等とともに有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノールなど)に溶解し、次いで溶解物を適当な容器に入れて減圧下にて溶媒を揮発させ、容器内面にリポソーム形成物質の膜を形成させる。得られた膜に緩衝液を加えて撹拌し、所望される場合、上記の膜融合促進物質をさらに加えた後、リポソームを単離する。得られたリポソームは適当な溶媒中に懸濁させるか、または凍結乾燥させ必要に応じて適当な溶媒に再分散させて用い得る。膜融合促進物質は、リポソームを単離した後、使用するまでの間に加えてもよい。
【0116】
本明細書中で使用される場合、用語「無細胞抽出液」とは、細胞を破砕した後、その破砕液を遠心分離して得られるその可溶性画分をいう。「無細胞抽出液」には、mRNAの翻訳に必要なリボソーム、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)、ポリペプチド鎖開始因子(IF)、ポリペプチド鎖伸長因子(EF)、およびポリペプチド鎖終結因子(RF)が含まれる。
【0117】
本明細書中で使用される場合、用語「処置」とは、所定の細胞および個体の有する1以上の症状を減少するかまたは緩和すること、悪化するかもしくは進行することから1以上の症状を予防すること、回復を促進するかもしくは予後を改善すること、および/または疾患のない個体において疾患を予防すること、ならびに存在する疾患の進行を遅延もしくは減弱することをいう。所定の個体について、症状の改善、その悪化、退行、または進行は、客観的測定または主観的測定によって決定され得る。処置の効力は、罹患率または死亡率における改善として測定され得る(例えば、選択された集団についての生存曲線を延長する)。予防法(例えば、再発の発生を予防または減少すること)もまた、処置とみなされる。処置はまた、他に存在する処置の様式(例えば、1以上の他の薬物および1以上の他の医療手順)との組合せを含み得る。
【0118】
本明細書中で使用される場合、「異常を生じた」細胞とは、アポトーシス細胞、癌細胞などのように、健康な動物細胞に比べて異常を生じている細胞をいい、好ましくは、酸性リン脂質が細胞外に露出している動物細胞をいう。「健康な」細胞とは、正常細胞または健常細胞を意味し、好ましくは、酸性リン脂質が細胞外に露出していない動物細胞をいう。
【0119】
本明細書中で使用される場合、「少なくとも2個」とは、2以上のあらゆる整数個をいう。好ましくは、「少なくとも2個」は、2、3、4、5、6、7または8個をいう。
【0120】
本明細書中で使用される場合、生体膜に「作用する」とは、生体膜を標的化することをいい、生体膜に付着および/または結合すること、ならびに生体膜を通過することを含む。好ましい実施形態において、本発明のペプチドは、特定の細胞膜に作用することによって、細胞の機能を抑制または阻害し得る。さらに好ましい実施形態において、この細胞は、微生物細胞、癌細胞またはアポトーシス細胞のいずれかであり得る。本明細書中で使用される場合、「微生物」としては、病原性微生物、腐敗性微生物などが挙げられる。別の実施形態において、本発明のペプチドは、特定の細胞膜に作用することによって、細胞の機能を促進し得る。さらに別の実施形態において、本発明のペプチドは、特定の細胞の機能に何ら影響を与えることなく生体膜に作用し得る。当業者は、特定の細胞に所望の物質(例えば、薬物、遺伝子)を送達するために本発明のペプチドが有用であることを、容易に認識する。
【0121】
(発明の要旨)
(A.目的とする生体膜に作用するペプチドのスクリーニング方法)
本発明者らは、目的とする生体膜に作用するペプチドのスクリーニング方法を構築するにあたり、2種類の膜作動性ペプチド(マスト21(配列番号5)、マストパランX(配列番号10))を指標に用いた。マスト21は、微生物細胞膜に特異的に作用し動物細胞膜にはしない。一方、マストパランXは、微生物細胞膜、動物細胞膜の双方に作用する。すなわち、細胞膜構造に作用するペプチドの選択手法において、これら2種類のペプチドを選択の対象とした場合に、固定化膜モデルとして微生物細胞膜モデルを用いた場合はマスト21とマストパランXの双方が選抜され、動物細胞膜モデルを用いた場合はマストパランXのみが選抜され、しかも欠損を生じることなくペプチドのアミノ酸配列の全長が得られる手法を確立できれば、ランダムペプチドライブラリーから細胞膜構造に作用するペプチドをスクリーニングする方法に適するものであると考えた。しかし、これらのペプチドは、いずれも強い抗菌活性を示すため、ファージディスプレイや細菌表層ディスプレイ、酵母表層ディスプレイなどの生物の力を利用する段階を含む手法では、選抜が不可能であるか、または欠損が生じたものしか選抜されてこない。本発明者らは、スクリーニングの全過程を、無細胞系、すなわち、微生物やファージなどの生きた細胞の力を利用せずにインビトロで行うことにより、それらの生物に致死的なペプチドや、生物の増殖に影響を与える可能性のあるペプチドが選択の対象であっても、スクリーニングの過程におけるペプチドの生体への影響を完全に排除することができること、すなわち、生体への作用が期待されるアミノ酸配列の一部が欠損したり、排除されたりする可能性が著しく低下することを見出した。
【0122】
本発明者らはまた、無細胞系において転写および翻訳を行わせるライブラリーを、第1のカセットおよび第2のカセットが第3のカセットと作動可能に連結した形で設計および構築することによりペプチドのアミノ酸配列と遺伝子情報を対応付けることができ、ランダムペプチドライブラリーを効率よく発現させることができることを見出した。ランダムペプチドライブラリーを効率よく発現させ得る本発明のライブラリーは、複数の核酸配列を含むライブラリーであって、該核酸配列の各々は、以下:
(1)第1のペプチドをコードする塩基配列を含む第1のカセット;
(2)該第1のペプチドをコードする塩基配列と同じ読み枠である、第2のペプチドをコードする塩基配列を含む第2のカセットであって、ここで該第2のペプチドは該第1のペプチドのフレキシブルな動きを可能にする部位を含む、第2のカセット;ならびに
(3)該第1および第2のカセットの転写および翻訳に必須の塩基配列を含み、第1および第2のカセットと作動可能に連結された、第3のカセット、
の3つのカセットを含み、ここで、該ライブラリーは、該第1のカセットが互いに異なる、少なくとも2つの該核酸配列を含む。具体的には、最上流のカセットに、転写並びに翻訳に必須の塩基配列を組み込み、中央部のカセットに目的のペプチドに応じて設計したDNAライブラリーを入れ、最下流のカセットに発現したペプチドのフレキシブルな動きを可能とする部位を挿入するように設計した。好ましくは、このDNAライブラリーは、終止コドンを欠くDNAからなる。第2のカセットおよび第3のカセットは全てのライブラリーに共通して使用可能である。従って、第1のカセット、第2のカセットおよび第3のカセットを連結し、無細胞系における転写および翻訳を同時に進行させることにより、翻訳産物であるペプチドと転写産物であるmRNAの複合体が形成され、目的に応じたペプチドのアミノ酸配列と遺伝子情報との対応付けが容易なペプチドライブラリーの作製が可能となる。
【0123】
そこで、これら2種類のペプチド(マスト21、マストパランX)をコードする遺伝子の塩基配列を含むDNAライブラリーを設計および構築し、無細胞系において転写および翻訳を行ってペプチド・リボソーム・mRNA(PRM)複合体を形成させ、さらに、マグネシウム濃度を高くすることによってPRM複合体を安定化させて、効率的に固定化膜モデルに対して特異的に作用するペプチドをスクリーニングおよび濃縮した。最終的にペプチドの全長を得た。具体的には、マスト21またはマストパランXのアミノ酸配列をコードする塩基配列を挿入したカセットを各々作製し、無細胞系におけるPRM複合体の形成と固定化膜モデルによるスクリーニング、結合能を有したペプチドの遺伝子情報の確認を行った。
【0124】
さらに、本発明者らは、微生物細胞膜に作用するペプチドを効率的に濃縮していく手法の開発にあたり、スクリーニングのための選択圧として、目的に応じた種々の生物の細胞膜構造を模倣した人工脂質二重膜からなるリポソームを固相に固定化したものが固定化膜モデルとして機能し得ることを想起し、この固定化膜モデルに対し結合能を有するペプチドを、ペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)として無細胞系から効率的に回収した。
【0125】
そして、固定化膜モデルに特異的に結合したPRM複合体を磁気ビーズと共に回収し、PRM複合体中のmRNAのみを精製し、RT-PCRによりDNAに逆転写することにより、上記のサイクルを繰り返し行うことが可能となった。スクリーニングサイクルを数回以上繰り返すことにより、微生物細胞膜に特異的に作用するペプチドが濃縮されていくことと考えられる。さらに、最終サイクル後には、得られたDNAの塩基配列を決定することにより、固定化膜モデルに対し特異的結合能を示したペプチドのアミノ酸配列が判明することを見出した。
【0126】
1つの局面において、本発明は、生体膜に作用するペプチドをコードする核酸をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下の工程:
DNAライブラリーを設計および構築する工程;
無細胞系において、該ライブラリーを転写および翻訳して、ペプチド・リボソーム・mRNA複合体を形成する工程;ならびに
膜モデルへ特異的に結合する該複合体を選択する工程、
を包含する方法を提供する。
【0127】
(B.本発明の方法によって得られたペプチド)
上記の方法によって、生体膜に特異的に作用する新規ペプチドをスクリーニングし得る。1つの局面において、この生体膜は、微生物細胞膜であり得る。好ましくは、この微生物は、病原性微生物または腐敗性微生物であり得る。他の局面において、この生体膜は、真核生物細胞膜であり得る。好ましくは、この真核生物は、哺乳動物細胞であり得る。さらに好ましくは、この哺乳動物細胞は、癌細胞またはアポトーシス細胞であり得る。別の局面において、この生体膜は、微生物細胞であっても真核生物細胞であってもよい。
【0128】
健康な動物細胞と比較して細胞膜に異常を生じた細胞(アポトーシス細胞、癌細胞など)の生体膜もまた、酸性リン脂質が細胞外に露出しているために、本発明のペプチドによって特異的に認識される。従って、本発明のスクリーニング方法は、微生物細胞膜に特異的に作用する新規ペプチドを得るために限定されず、癌細胞およびアポトーシス細胞を認識してこれらに作用するペプチド、好ましくは、癌細胞を殺傷するペプチドおよびアポトーシスを抑制するペプチド(本明細書中、「アポトーシス抑制性ペプチド」という)を得るためにも使用され得ることを、当業者は容易に認識する。
【0129】
本発明はさらに、マスト21よりも強く生体膜に作用するペプチドを提供する。好ましくは、このペプチドは、マスト21の2倍以上、より好ましくは、3倍、4倍、5倍以上、さらに好ましくは、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍以上有意に生体膜に作用する。好ましい実施形態において、このペプチドは、マスト21R(配列番号107)である。
【0130】
本発明のペプチドは、癌および/またはアポトーシスに関連し得、従って、本発明のペプチドは、癌および/またはアポトーシスに関連する多くの疾患を処置するのに有用である。例えば、本発明のペプチドによって処置され得る疾患としては、以下が挙げられる:癌(例えば、濾胞性リンパ腫、p53変異を伴う癌、およびホルモン依存性腫瘍(大腸癌、心臓腫瘍、膵臓癌、黒色腫、網膜芽細胞腫、肺癌、腸癌、精巣癌、胃癌、神経芽細胞腫、グリア芽細胞腫(神経膠芽細胞腫)、粘液腫、筋腫、リンパ腫、内皮腫、骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、腺腫、乳癌、前立腺癌、腎癌、子宮癌、膀胱癌、カポジ肉腫および卵巣癌が挙げられるが、これらに限定されない));自己免疫障害(例えば、多発性硬化症、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、胆汁性肝硬変、ベーチェット病(Behcet’s disease)、クローン病、多発性筋炎、全身性エリテマトーデスおよび免疫関連糸球体腎炎ならびに慢性関節リウマチ)およびウイルス感染(例えば、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスおよびアデノウイルス)、炎症、対宿主性移植片病、急性移植片拒絶、ならびに慢性移植片拒絶。好ましい実施形態において、本発明のペプチドは、特に上記に列挙される、癌の増殖、進行、および/または転移を阻害するために使用される。
【0131】
本発明のペプチドによって処置または検出され得る細胞生存に関連したさらなる疾患または状態としては、以下のような悪性腫瘍および関連する障害の増殖および/または転移が挙げられるがこれらに限定されない:白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病(骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、および赤白血病を含む))、および慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ球性白血病)を含む)、真性赤血球増加症、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ヴァルデンストレームマクロ大グロブリン血症、H鎖病、および固形腫瘍(肉腫および癌腫(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、骨膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原生癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、頸部癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽細胞腫、頭蓋咽頭腫、脳室上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、黒色腫、神経芽細胞腫、および網膜芽細胞腫。
【0132】
本発明のペプチドによって処置または検出され得る、アポトーシスの進行に関連する疾患としては、以下が挙げられる:AIDS;神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、色素性網膜炎、小脳変性および脳腫瘍または以前に関連した疾患);自己免疫障害(例えば、多発性硬化症、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、胆汁性肝硬変、ベーチェット病(Behcet’s disease)、クローン病、多発性筋炎、全身性エリテマトーデスおよび免疫関連糸球体腎炎ならびに慢性関節リウマチ)、脊髄形成異常症候群(例えば、再生不良性貧血)、対宿主性移植片病、虚血性傷害(心筋梗塞、発作および再灌流傷害によって生じるようなもの)、肝臓傷害(例えば、肝炎関連肝臓傷害、虚血/再灌流傷害、胆汁うっ滞(cholestosis)(胆管傷害)および肝臓癌);毒物誘導性肝臓疾患(アルコールによって引き起こされるようなもの)、敗血症性ショック、悪液質ならびに食欲不振。
【0133】
好ましい実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを化学合成し、例えば、蛍光物質(カルセイン)内包モデル膜(リポソーム)(例えば、特許第2967925号明細書を参照のこと)を用いて細胞膜構造に作用する能力を調べ得る。他の実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを、米国National Committee for Clinical Laboratory Standard(NCCL Documents M7-A3)に従って評価し得る。別の実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを、動物から採血した新鮮血を遠心分離して得た赤血球に対する溶血性を調べることによって、正常動物細胞に対する反応性を評価し得る。さらなる実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを、種々の腫瘍細胞株に作用させることによって、癌細胞に対する特異性および癌細胞を殺傷する効果を評価し得る。なおさらなる実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを、アポトーシスを誘導させた細胞および/または細胞株に作用させることによって、アポトーシス細胞に作用する反応性を評価し得る。さらなる実施形態において、本願発明の方法で得られた配列のペプチドを、種々のアポトーシス細胞に作用させることによって、アポトーシスを抑制および/または阻害する効果を評価し得る。
【0134】
当業者が上記の方法を容易に改変して種々の細胞膜に特異的なペプチドをスクリーニングし得ることは、明白である。当業者は、上記の方法において用いる膜モデルが含有する脂質の種類および/または比率を変化させることによって、種々の細胞(例えば、哺乳動物細胞、微生物細胞など)の膜モデルを調製することが可能である。例えば、生物の細胞膜構造を模倣した膜モデルのリン脂質の組成は周知であり、哺乳動物細胞膜としては、PC:Chl=10:1、またはPC:Sph:Chl=3:3:2の組成を有する膜モデルが挙げられ、微生物細胞膜としては、PC:PG=7:3、PE:PG=7:3、PC:PS=1:1、PS(もしくはPE):PG:CL=7:2:1、またはPC:PG:CL=3:3:2(ここで、PSは、ホスファチジルセリン、PCは、ホスファチジルコリン、PGは、ホスファチジルグリセロール、PEは、ホスファチジルエタノールアミン、Chlは、コレステロール、Sphは、スフィンゴミエリン、CLは、カルジオリピンである)の組成を有する膜モデルが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、上記の膜モデルは、PA(ホスファチジン酸)、LPS(リポ多糖)、リピドAを含有し得る。PGは、PSよりも調整後のリポソームが安定であるので、当業者は、膜モデルを作製する際に、PGをPSと交換可能に使用し得る。このような周知技術に基づいて、所望の細胞膜に特異的に作用するペプチドを容易に得ることができる。さらに、当業者は、得られたペプチドを毒性試験に供することによって、任意の生物に対する毒性を容易に評価し得る。
【0135】
上記の方法によってスクリーニングされたペプチドは、種々の用途に用いられ得る。好ましくは、得られた本発明のペプチドを感染症に使用する場合、本発明のペプチドは、宿主細胞または正常細胞を損傷することなく、標的細胞に対して選択的に毒性を発現する生体防御ペプチドとして機能し得る。1つの実施形態において、この標的細胞は、病原性微生物であり得る。他の実施形態において、この標的細胞は、癌細胞であり得る。別の実施形態において、この標的細胞は、アポトーシスを生じている「アポトーシス細胞」であり得る。このペプチドの好ましい用途としては、例えば、微生物を殺傷するための薬学的組成物、微生物による感染症を処置するための薬学的組成物、抗生物質、微生物感染部位に薬物を送達するための薬学的送達物、癌を処置するための薬学的組成物、癌病変部位に薬物を送達するための薬学的送達物、アポトーシスを抑制するための薬学的組成物、アポトーシスが進行する部位に薬物を送達するための薬学的送達物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
(C.薬学的組成物)
本発明は、有効な量の本発明の薬学的組成物を被験体に投与することによる、処置方法を開示する。好ましい実施態様において、薬学的組成物は、実質的に純粋である。この被験体は、好ましくは動物であり、この動物は、好ましくは、哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0137】
薬学的組成物の投与の方法および投与経路が、以下に記載されるものの中から選択され得る。
【0138】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的送達物」は、薬学的組成物送達系を含む組成物をいう。多くの型の薬学的組成物送達系が当該分野で周知であり、そして本発明の薬学的組成物を投与するために利用され得る。これらの前述の送達系としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:(i)リポソーム、微粒子およびマイクロカプセルにおけるカプセル化;(ii)薬学的組成物を発現し得る組換え細胞;(iii)レセプター媒介エンドサイトーシス(例えば、WuおよびWu、1987、J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照のこと);(iv)レトロウイルスまたは他のベクターの一部分としての薬学的組成物核酸の構築など。本発明のペプチドは、病巣部位(例えば、微生物、癌細胞またはアポトーシス細胞)を標的化して所望の薬剤送達を行うための送達系として使用され得る。投与/導入の方法としては、以下が挙げられるが、それらに限定されない:皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜上経路および経口経路。この薬学的組成物は、任意の都合のよい経路により(例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜内層(例えば、口内粘膜、直腸粘膜および腸内粘膜など)を介する吸収により)投与され得、そして他の生物学的活性薬剤とともに投与され得る。投与は、全身的であってもよいし、局所的であってもよい。さらに、任意の適切な経路(例えば、脳室内およびクモ膜下腔または硬膜下腔内注入)により中枢神経系へ、本発明の薬学的組成物を導入することは、望ましくあり得る。脳室内注入は、例えば、リザーバを取り付けた脳室内カテーテルの使用により容易にされ得る。肺投与もまた(例えば、吸入器またはネブライザーおよびエアロゾル化薬剤を有する処方物の使用により)利用され得る。
【0139】
本発明の特定の実施態様において、本発明の薬学的組成物を処置を要する領域に局所的に投与することは望ましい;これは、例えば、限定ではないが、手術の間の局所的注入、局所的適用(例えば、手術後の包帯とともに)、注射により、カテーテルにより、坐剤により、またはインプラント(このインプラントは、多孔性、非多孔性、またはゼラチン様物質膜のような膜または線維を含む)により達成され得る。
【0140】
本発明の別の特定の実施態様において、この薬学的組成物は、小胞(特にリポソーム)中で送達され得る。例えば、Langer、1990、Science 249:1527-1533を参照のこと。なお別の特定の実施態様において、この薬学的組成物は、以下を含むが、これらに限定されない徐放システムを介して送達され得る:ポンプ(例えば、Sefton,1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照のこと)およびポリマー物質(例えば、SmolenおよびBall、1983、Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance(Wiley,New York,NY)を参照のこと)。さらに、徐放システムは、治療標的(例えば、脳)の近位に配置され、従って、わずか全身的用量全体の何分の1かが必要であるにすぎない。例えば、Goodson、1984、Medical Applications of Controlled Release,(Wiley,New York,NY)を参照のこと。
【0141】
本発明はまた、薬学的組成物を開示する。このような組成物は、治療的に有効量の薬学的組成物を薬学的に受容可能なキャリア内に含む。特定の実施態様では、用語「薬学的に受容可能」は、本明細書中で利用される場合、動物、より特定には、ヒトにおける使用のために、政府により認可されているか、あるいは薬局方に記載されている組成物として規定される。用語「キャリア」は、本明細書中で利用される場合、治療剤がともに投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルをいう。このような薬学的キャリアには、無菌の液体(例えば、水、生理学的食塩水など)および油(例えば、石油、動物、植物または合成起源の油(例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など))が挙げられるが、これらに限定されない。水は、薬学的組成物が静脈内に投与される場合に好ましいキャリアである。さらに、生理食塩水溶液ならびに水性デキストロース溶液およびグリセロール溶液もまた、液体キャリアとして、特に注射用溶液のために用いられ得る。適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、イネ、フラワー、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。所望される場合、組成物はまた、わずかな量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤を含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳化剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性処方物などの形態を採り得る。この組成物は、坐剤として、伝統的な結合剤およびキャリア(例えば、トリグリセリド)とともに処方され得る。経口処方物は、標準的なキャリア(例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなど)を含み得る。適切な薬学的キャリアの例は、Martin、1965.Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。このような組成物は、治療的に有効量の薬学的組成物を、好ましくは精製された形態において、および最も好ましくは、実質的に精製された形態において、患者に対して適切な投与のための形態を提供するために適切な量のキャリアと共に含む。この処方物は、投与の様式に適合されるべきである。
【0142】
本発明の好ましい実施態様では、この組成物は、ヒトへの静脈内投与のために採用される薬学的組成物として、慣用的な手順に従って処方される。代表的には、静脈内投与のための組成物は、無菌性の等張水性緩衝液における溶液である。必要な場合、この組成物はまた、可溶化剤および注射の部位での痛みを軽減するための局所麻酔剤を含み得る。一般に、成分は、別々にか、または一緒に混合されてかのいずれかで、単位投薬形態において、例えば、ハーメチックシールされた容器(例えば、活性薬剤の量を示すアンプル)中に乾燥凍結乾燥粉末または水を含まない濃縮物として供給される。この組成物が注射により投与されなければならない場合、これは、無菌性の薬学的グレードの水または生理食塩水を含む注入ビンで分散され得る。この組成物が注射により投与される場合、注射のための無菌水または生理食塩水のアンプルが提供され得、その結果、これらの成分が投与前に混合され得る。
【0143】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に受容可能な塩(塩酸、リン酸、酢酸などから誘導される塩、および遊離カルボキシル基を用いて形成された塩を含む(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、水酸化鉄(III)、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導された塩)。
【0144】
特定の障害または状態の処置に効果的である、本発明の薬学的組成物の量は、障害または状態のその性質に依存し、そして標準的な臨床技術によって定量的に決定され得る。さらに、インビトロアッセイは、必要に応じて、最適な投薬範囲の同定を補助するために用いられ得る。この処方物中に用いられるべき正確な用量はまた、投与の経路、およびこの疾患もしくは障害の重篤度に依存し、そして開業医の判定および各患者の状況に従って決定されるべきである。しかし、静脈内投与のための適切な用量範囲は、一般に、体重1キログラム(kg)あたり約20~500μgの活性化合物である。鼻腔内投与のために適切な投薬範囲は、一般に、体重1kgあたり約0.01pgから体重1kgあたり約1mgである。有効用量は、インビトロまたは動物モデルの試験系から誘導される用量応答曲線から推定され得る。坐剤は、一般に、0.5重量%~10重量%の範囲で活性成分を含み;経口処方物は、好ましくは、10%~95%の活性成分を含む。
【0145】
(D.キット)
本発明はまた、本発明の薬学的組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を備える、薬学的包装物またはキットを提供する。必要に応じて、薬学的製品または生物学的製品の製造、使用または販売を取り締まる政府機関により指示される形態における通知(この通知は、ヒトでの投与のための製造、使用、販売の機関による認可を示す)が、このような容器に付随する。
【0146】
別の実施形態では、本発明は、核酸分子の逆転写もしくは増幅時に使用されるキットまたは核酸分子の配列決定時に使用されるキットに組み立てられ得る。本発明のこの局面に従うキットは、箱、カートン、チューブなどのようなキャリア手段を含み、このキャリア手段は、その内部にバイアル、チューブ、アンプル,ビンなどのような1個以上の容器手段を緊密に拘束して有する。そこで第1番目の容器手段は、逆転写酵素活性を有するペプチドを含有する。逆転写活性を持つ1種を超えるペプチドが使用される場合、それらは2種以上のペプチドの混合物として単一または別々の容器に収納され得る。本発明のキットは(同一のまたは別々の容器に)一以上のDNAポリメラーゼ、適切な緩衝液、一以上のヌクレオチド、および/または一以上のプライマーをも含有し得る。
【0147】
本発明の特定の局面において、この逆転写および増幅キットは、一以上の成分を(混合物として、または別々に)含み得る。これらの成分としては、本発明のペプチドをコードする核酸配列を含むライブラリー、核酸分子の合成に必要とされる一以上のヌクレオチド、逆転写のためのオリゴ(dT)、および/または一以上のプライマーが挙げられる。このような逆転写および増幅キットはさらに、一以上のDNAポリメラーゼを含み得る。本発明の配列決定キットは、本発明のペプチドをコードする核酸配列を含むライブラリー、ならびに必要に応じて一以上のDNAポリメラ一ゼ、核酸分子の配列決定に必要とされる一以上の反応停止薬(例えば、ジデオキシヌクレオシド三リン酸分子)、一以上のヌクレオチドおよび/または一以上のプライマーを含み得る。逆転写酵素活性を有する好ましいペプチド、DNAポリメラーゼ,ヌクレオチド、プライマー、ならびに本発明の逆転写、増幅および配列決定キットの使用に適する他の成分としては、上述のものが挙げられる。本発明のこの局面に含まれる本キットはさらに、標準的な核酸逆転写、増幅または配列決定方法を実施するために必要なさらなる試薬および化合物を含み得る。本発明の逆転写酵素活性を有するこのようなペプチド、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド、プライマーならびにさらなる試薬、成分または化合物が、1個以上の容器に含有され得、そして上述の成分の2以上の混合物でこのような容器に含まれ得るか、または別々の容器において本発明のキットに含まれ得る。
【0148】
(E.抗体産生)
本発明は、本発明のスクリーニング方法によって得られたペプチドに対する抗体を提供する。抗体を惹起するための免疫原は、本発明のペプチドをアジュバントと混合することによって調製される。あるいは、ペプチドは、より大きな免疫原タンパク質との融合タンパク質として作製される。ペプチドはまた、他のより大きな免疫原タンパク質(例えば、キーホールリンペット(keyhole limpet)ヘモシアニン)と共有結合される。免疫原は、代表的に、皮内に、皮下に、または筋肉中に投与される。免疫原は、実験動物(例えば、ウサギ、ヒツジおよびマウス)に対して抗体を作製するために投与される。必要に応じて、この動物脾臓細胞は、単離され、そしてミエローマ細胞と融合され、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを形成する。
【0149】
選択されたペプチドに特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の調製は、当該分野で公知の標準方法を使用して行われる。抗体は、配列表に開示されるペプチドに存在するエピトープに特異的に結合する。代表的には、少なくとも6、8、10または12個の連続したアミノ酸は、エピトープを形成するために必要とされる。短いペプチド配列は、公知のタンパク質との交差反応性の可能性のために、対応する新規タンパク質を同定するために抗体を惹起するエピトープとしての使用には適切でないかもしれない。しかし、この抗体は、他の目的について、特にそれらが公知のタンパク質および本発明の新規のペプチドの共通の構造的特徴を同定する場合、有用であり得る。
【0150】
この提供されたペプチドと特異的に結合する抗体は、ウエスタンブロットまたは他の免疫化学アッセイで使用される場合、他のタンパク質で提供される検出シグナルより少なくとも5、10または20倍高い検出シグナルを提供するはずである。好ましくは、本発明のペプチドと特異的に結合する抗体は、検出可能なレベルで免疫化学アッセイにおいて他のタンパク質と結合せず、そして溶液からこの特異的なペプチドを免疫沈降し得る。
【0151】
ヒト集団における本発明のペプチドに対する血清抗体の存在を試験するために、ヒト抗体は、当該分野で周知の方法によって精製され得る。好ましくは、この抗体は、対応する選択されたペプチドまたは融合タンパク質が結合されるカラムに抗血清を通すことによりアフィニティ精製される。次いで、この結合抗体は、例えば、高塩濃度を有する緩衝液を使用してカラムから溶出され得る。
【0152】
以下、本発明の生体膜に作用するペプチドのスクリーニング方法、および本発明の方法によって取得した新規ペプチドについて、より具体的に説明する。
【0153】
(発明の詳細な説明)
まず、終止コドンを欠いた、複数のペプチドをコードする塩基配列を含むカセットを含むライブラリーの設計および構築を行う。好ましくは、ペプチドをコードする塩基配列は、終止コドンを欠く。終止コドンがあると、後述する転写および翻訳の産物であるペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)において、ペプチドとmRNAがリボソームを介して結合した複合体の状態が維持できないので好ましくない。しかし、後述するように、終止コドンが生じた場合やフレームシフトが生じた場合は、プレ選択によってスクリーニングから除外されるので、用いるDNAライブラリーは終止コドンを欠いたものに限定される必要がなく目的のペプチドに応じて作製すればよいことを、当業者は容易に理解する。
【0154】
好ましい実施形態において、本発明において使用するライブラリーは、ランダムな21アミノ酸からなるペプチドをコードする塩基配列のDNAライブラリーであり得る。好ましい実施形態において、この塩基配列は、終止コドンが生じない配列(XXB)20XAG(ここで、Xは、A、T、GまたはC、Bは、TまたはGである)であり得る。
【0155】
作製したDNAライブラリーは、第1のカセット、第2のカセットおよび第3のカセットを含む。これらのカセットは、作動可能に連結することにより、ペプチドのアミノ酸配列と遺伝子情報を対応付けることができ、ランダムペプチドライブラリーを効率よく発現させることができる。すなわち、本発明のライブラリーは、第1のカセット、第2のカセットおよび第3のカセットの3つのカセットが作動可能に連結したものであり、最上流の第3のカセットには転写および翻訳に必須の塩基配列が含まれ、中央部の第1のカセットには目的のペプチドに応じて設計したDNAライブラリー、好ましくは終止コドンを欠いたDNAからなるDNAライブラリーに含まれる核酸配列が含まれ、最下流の第2のカセットには発現したペプチドの自由な動きを可能とする部位が含まれていることを特徴とするものである。複数の第1のカセットがDNAライブラリー本体であり、スクリーニングするライブラリーの塩基配列に相当する。中央部の第1のカセットに目的のペプチドに応じて設計した種々の核酸配列、好ましくは終止コドンを欠いた核酸配列を挿入することにより複数の第1のカセットを構築し、これをライブラリーとして用いて様々な塩基配列をスクリーニングできる。
【0156】
第3のカセット:第1のカセット:第2のカセットという順番以外の順番でカセットを連結しても、本発明を実施し得る。
【0157】
第3のカセットは、第1および第2のカセットの転写および翻訳に必須の塩基配列を含む。ベクター中のDNA配列は、適切な発現制御配列(プロモーター)に作動可能に連結され、mRNAの合成を指示する。このようなプロモーターの代表的な例としては、以下が挙げられ得るがこれらに限定されない:LTRまたはSV40プロモーター、E.coli lacまたはtrp、λファージPプロモーター、および原核生物細胞または真核生物細胞あるいはそのウイルス内で遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーター。ベクターはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位を含有する。ベクターはまた、発現を増幅するための適切な配列を含有し得る。必要に応じて、第1および第2のカセットから転写されたmRNAを安定化するために、5’ステム-ループ(配列番号3)を第3のカセット内に挿入し得る。さらに、第1のカセットとの連結を容易に行えるように3’側に制限酵素部位(例えば、NdeI部位)を含み得る。
【0158】
また、第1のカセットは、第3のカセットおよび第2のカセットとの連結を容易に行えるように5’部位および3’部位に制限酵素部位(例えば、それぞれNdeI部位およびXbaI部位)を導入し得る。第1のカセットに挿入する塩基配列を変えることにより、長さ、ランダム度、予想される構造や性質などの違う全てのペプチドをスクリーニングの対象とし得る。ここで、第1のカセットに挿入する塩基配列が終止コドンを欠くことが好ましいのは先述したとおりであって、これは、転写および翻訳の産物であるペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)において、ペプチドとmRNAがリボソームを介して結合した複合体の状態を維持するためである。
【0159】
第2のカセットには、mRNAの安定性を増すための3’ステム-ループや、翻訳されたペプチドのフレキシブルな動きを可能にするためのリンカー配列(配列番号4の4回繰り返し配列×2)、さらに後述のプレ選抜を行う場合には、同族の抗体または親和性樹脂が利用可能である異種性エピトープ(例えば、FLAG、myc、HA、SV40 T抗原、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、6ヒスチジン、マルトース結合タンパク質)などのタグなどを導入し得る。リンカー配列は、配列番号4に記載の4回繰り返し配列×2を1単位として、必要に応じて長さを延長または短縮することが可能である。任意の繰り返し回数の設定が可能なアミノ酸配列をコードするリンカー第2のカセットとの連結を容易に行えるように5’部位に制限酵素部位(例えばXbaI部位)を導入し得る。
【0160】
1つの局面において、第3のカセットおよび第2のカセットは全ての場合に共通に使用し、第1のカセットのみ目的のペプチドに応じて作製し得る。第1のカセットの設計は、選択に供したい目的の細胞膜構造に作用するペプチドをコードする遺伝子の塩基配列、例えば微生物細胞膜に特異的に作用するマスト21を選択したい場合には、マスト21をコ一ドするDNAを終止コドンを欠いた状態で化学合成などにより作製する。このDNAをPCRにより増幅した後に第2のカセットと連結し、さらに増幅するためにPCRを行った後、制限酵素で切り出し、さらに上流域のカセットと連結した後、PCRにより増幅し、転写および翻訳系に供するための鋳型DNAとする。
【0161】
続いて、無細胞系において、ライブラリーを転写および翻訳して、ペプチド・リボソーム・mRNA複合体を形成する工程;ならびに膜モデルへ特異的に結合する該複合体を選択する工程、を包含するスクリーニングを行う。好ましくは、上記ライブラリーは、終止コドンを欠いたDNAからなる。好ましくは、上記膜モデルは、生物の細胞膜構造を模倣した人工脂質二重膜である。ここで、スクリーニングは無細胞系で、すなわち、微生物やファージなどの生きた細胞を利用せずにインビトロで行うことが好ましい。無細胞系ではなく、ファージディスプレイ、細菌表層ディスプレイ、酵母表層ディスプレイなどのように生きた細胞を使ってインビボでタンパク質を合成する技術を用いると、微生物やファージなどの生物を利用する段階を含んでいるため、それらに致死的なぺプチドや、それらの増殖に影響を与える可能性のあるペプチドのアミノ酸配列を選択することができなくなる。
【0162】
本発明のライブラリーの転写および翻訳によるペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)を形成する工程;固定化膜モデルへ特異的に結合するPRM複合体を選択する工程;および、選択したPRM複合体中のmRNAをDNAへ逆転写する工程、からなるスクリーニングは、図2に示した流れで行うことができる。
【0163】
本発明のライブラリーの転写および翻訳によるペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)を形成する工程は、転写産物であるmRNAと翻訳産物であるペプチドがリボソームを介した安定な複合体を形成するような条件下で行う。具体的には、終止コドンを欠いたDNAライブラリーの転写および翻訳を、大腸菌、植物、あるいは動物の無細胞抽出液を利用して試験管内で行ってPRM複合体を形成させる。例えば、大腸菌の無細胞抽出液は、細胞を破砕した後、その破砕液を30,000×gで遠心分離したその可溶性画分(S30抽出物と呼ばれる)として得られる。S30抽出物には、mRNAの翻訳に必要なリボソーム、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)、ポリペプチド鎖開始因子(IF)、ポリペプチド鎖伸長因子(EF)、およびポリペプチド鎖終結因子(RF)が含まれる。無細胞抽出液は、大腸菌由来に限定されず、真核生物(例えば、ウサギ網状赤血球系、コムギ胚芽系など)由来であり得る。当業者は、無細胞抽出液に用いる生物種に依存して、TATAボックス(例えば、TATA(A/T)A(A/T))や、開始コドンATGの上流および下流にKozakコンセンサス配列(例えば、ACCATGG)を必要に応じて選択すればよいことを容易に理解し得る。
【0164】
先述したように、第1のカセット中のDNAは終止コドンを欠いているため、転写産物であるmRNAと翻訳産物であるペプチドは、リボソームを介して結合したままとなり、よって、PRM複合体が形成される。さらにその後、マグネシウム濃度を高くすることにより、ペプチド・リボソーム・mRNAの複合体を安定化し得る。
【0165】
次に、固定化膜モデルへ特異的に結合するPRM複合体の選択を行う。具体的には例えば、DNaseI処理により残っているDNAを分解した後、マグネシウム濃度を上げPRM複合体の安定性を増し、続いて固定化膜モデルと1~60分間反応させ得る。
【0166】
ここで、固定化膜モデルとしては、目的に応じた種々の生物の細胞膜構造を模倣した人工脂質二重膜からなるリポソームを固相に固定化したものを用いることができる。種々の生物の細胞膜構造を模倣した人工脂質二重膜の組成は、微生物の細胞膜構造を模倣した微生物細胞膜モデルとしては、コレステロールを含まず、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリンなどの酸性リン脂質を含むものが挙げられ、一方、健康な動物の細胞膜構造を模倣した動物細胞膜モデルとしては、コレステロールを含み、酸性リン脂質を含まないものが挙げられる。具体的には、例えば、微生物細胞膜モデルとしては、ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール=1:1(総リン脂質量の1.4%のビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含む)の組成を、動物細胞膜モデルとしては、ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール:コレステロール=10:1:1(総リン脂質量の1.4%のビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含む)の組成を用いることができるが、これらの組成に限定されない。いずれの固定化膜モデルも、ビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを少量含んでもよい。このビオチンを介して、固定化膜モデルを、ストレプトアビジンをコートしたビーズやプレートに固定し得る。
【0167】
人工脂質二重膜からなるリポソームは、MLV、LUVおよびSUVのいずれでもよいが、直径100nm以下のSUVが好ましい。SUVの製造は、例えば、生物の細胞膜構造を模倣した上記組成のリン脂質を、クロロホルム溶液として、窒素ガス存在下で乾固させた後、一晩減圧下におき完全に有機溶媒を揮発させてリン脂質フイルムとし、TBS(20mM Tris-HCl、150mM NaCl(pH7.6))を添加して激しく撹拝し、MLVとし、さらに、超音波処理することにより、LUVを作製した後、ポリカーボネイト製のフィルターを通すことにより得ることができる。
【0168】
固相への固定化は、上記のような人工脂質二重膜からなるリポソームを、ビーズ、プレートなどの固相に固定化することにより達成される。ビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを少量含むリポソームを用いた場合には、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ上にビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを介して固定化することができる。なお、磁気ビーズ上に固定化した場合は磁石により簡単に回収可能なため、固定化膜モデルに特異的に結合したペプチドの回収を効率的に行える。
【0169】
さらに、選択したPRM複合体中のmRNAのDNAへの逆転写を行う。具体的には例えば、固定化膜モデルに特異的に結合したPRM複合体を磁石により磁気ビーズごと回収し、TBS(20mM Tris-HCl、150mM NaCl(pH7.6))にて洗浄後に、EDTAを含む緩衝液によりmRNAのみを溶出させ、さらに精製しRT-PCRを行い(例えば、C.thermo.po1ymerase one-step RT-PCRキット(ロシュ社製)を用いる)、1サイクルを終えたDNAライブラリーを得ることができる。
【0170】
これらの工程からなるスクリーニングは、4サイクル以上繰り返して行うが、好ましくは5サイクル以上、より好ましくは6サイクル以上繰り返すことにより、所望の膜構造に特異的に作用するペプチドを濃縮することができるので好ましい。なお、スクリーニングの各サイクルにおいてDNAが得られているかは、アガロース電気泳動などの周知の方法によって確認可能である。
【0171】
最後に、前記スクリーニングの最終サイクル後に得られたDNAについて、塩基配列を決定し、対応するアミノ酸配列を決定する。この手順は周知である。具体的には例えば、最終サイクル後のDNAについて、RT-PCRの直後にTAクローニングなどによりクローニング用のベクターに挿入して塩基配列を決定し、対応するアミノ酸配列を決定することにより、所望の膜構造に特異的に作用したペプチドのアミノ酸配列を知ることができる.
なお、前記スクリーニングを行なう前に、DNA合成やPCRの際に誤りが生じて、ペプチドライブラリーの全長が発現していない複合体を除くために、「プレ選抜」を行うことが好ましい。このプレ選抜の過程を経ることにより、不完全な塩基配列を実際のスクリーニング系に持ち込む確率が著しく低減される。
【0172】
さらなる局面において、プレ選抜は、以下の方法に従って行う。固定化膜モデルの代わりに異種性エピトープ(例えば、FLAG、myc、HA、SV40 T抗原、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、6ヒスチジン(6His)、マルトース結合タンパク質)などのタグに対する抗体を固定化してあるビーズやプレートを利用する以外は、基本的に前記スクリーニングと同様の手順で行う。例えば、抗FLAG抗体を利用する場合、上記の終止コドンを欠いたライブラリーを、大腸菌、植物、あるいは動物の無細胞抽出液を利用して転写および翻訳を行わせると、フレームがシフトしたり途中に終止コドンが生じるクローンが含まれる。このようにフレームシフトした塩基配列は、FLAGタグを正しく発現できないため、転写および翻訳の結果生じるPRM複合体が抗FLAG抗体に結合することができず、磁石によって回収されることなく上清に残る。次に、DNaseI処理により鋳型となったDNAを分解した後、マグネシウム濃度を上げPRM複合体の安定性を増して、抗FLAG抗体でコートした磁気ビーズ又はプレートと反応させることにより、正しくFLAGを発現している複合体のみを吸着させる。正しく全長を発現しているペプチド・mRNA複合体と磁気ビーズをTBSにて洗浄し、EDTAを添加してmRNAのみを溶出させる。溶出後のmRNAを精製し、RT-PCRを行い、全長をコ一ドしたDNAライブラリーを得て、全長が得られない塩基配列を持つDNAを除去する。その後に、先述のスクリーニング(すなわち、本選抜)を行う。なお、プレ選抜には、抗FLAG抗体のほか、カセットに導入したエピトープタグの種類に応じて、抗myc抗体や抗His抗体なども利用し得る。
【0173】
本発明者が実際にマスト21を用いて本発明の方法を実施した場合には、微生物細胞膜モデルを用いた場合にのみ選択的に濃縮された。また、マスト21の代わりにマストパランXを用いて同様に行った場合には、どちらの固定化膜モデルを使用しても選抜された。このことから、本発明の方法は、細胞膜構造の差異を識別するペプチドの選択に有効である。なお、マスト21およびマストパランX以外の細胞膜構造に作用するペプチド、例えば、マガイニン、タキプレシン、ディフェンシン、セクロピン、PGLa、デルマセプチン(dermaseptin)などについても同様に適用可能である。
【0174】
さらに、タキプレシンおよびその誘導体などの強い抗菌活性が期待されるペプチドのみからなるライブラリーであり、かつファージディスプレイ法では欠損したアミノ酸配列のみしか得られなかったライブラリーに関して、本発明の方法を適用したところ、完全長のペプチドを効率よく得ることができた。従って、微生物やファージなどの生物をペプチド発現のために用いず、ランダムな遺伝子配列の発現とスクリーニングの全過程を無細胞系で行うことにより、スクリーニング過程にあるペプチドの生体への影響を完全に排除し得ること、すなわち、生体への作用が期待されるアミノ酸配列の一部が欠損したり、排除されたりする可能性を著しく低下し得ることが実証された。さらに、実際にランダムなペプチドライブラリーを対象として本発明の方法を適用しても、特定のアミノ酸配列を含むペプチドを濃縮し得た。これらのことから、本発明のスクリーニング方法は、生体膜に作用するペプチドの効率的なスクリーニング方法としての利用が期待される。
【0175】
微生物細胞膜モデルとして使用した酸性リン脂質が細胞外に露出したタイプのリポソームは、異常を生じた細胞(例えば、アポトーシス細胞、癌細胞)のモデルとしても使用可能である。従って、本発明のスクリーニング方法は、微生物細胞膜に特異的に作用する新規ペプチドを得るために限定されず、癌細胞および/またはアポトーシス細胞に特異的に作用するペプチドを得るためにも使用され得ることを、当業者は容易に認識する。
【0176】
本発明者らは、本発明のスクリーニング方法によって上記のランダムな21アミノ酸からなるペプチドをコードする塩基配列をスクリーニングして配列決定した結果、得られたペプチド中に、塩基性アミノ酸であるK(リジン)またはR(アルギニン)と数個の疎水性アミノ酸とからなるモチーフが高頻度で出現することを見出した。ペプチドが塩基性であることは、負に荷電している微生物細胞膜に特異的に作用するために必須である。さらに、両親媒性へリックスおよび/または両親媒性βシート構造が、微生物細胞膜に対する透過性を高め、ポア形成能を有し、そして微生物細胞膜に損傷を与える。本発明者らは、上記のモチーフを繰り返すことによって、塩基性であり両親媒性へリックスおよび/または両親媒性βシート構造を有し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0177】
本発明は、本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングした、生体膜に特異的に作用する新規ペプチドを提供する。1つの局面において、この生体膜は、微生物細胞膜であり得る。好ましくは、この微生物は、病原性微生物であり得る。他の局面において、この生体膜は、真核生物細胞膜であり得る。好ましくは、この真核生物は、哺乳動物細胞であり得る。さらに好ましくは、この哺乳動物細胞は、癌細胞またはアポトーシス細胞であり得る。別の局面において、この生体膜は、微生物細胞膜であっても真核生物細胞膜であってもよい。
【0178】
好ましい実施形態において、本発明のペプチドは、両親媒性へリックスおよび/または両親媒性βシート構造をとるための配列を含み、この配列は、好ましくは、ZまたはX(ここで、X~Xは、任意のアミノ酸であり、Z~Zの2、3または4個は、塩基性アミノ酸である)であり得る。さらに好ましくは、これらの塩基性アミノ酸は、リジン(K)またはアルギニン(R)であり得る。なおさらに好ましくは、上記X~Xの少なくとも2個、好ましくは、3、4、5、6個または7個以上は、疎水性アミノ酸であり得る。
【0179】
好ましい実施形態において、本発明のペプチドは、ZXXXZXXZXXXZXX(Zはリジン(K)またはアルギニン(R)、Xは任意のアミノ酸)をコードするDNA配列を含み得る。
【0180】
本発明はさらに、薬学的に受容可能なキャリア内に、本発明のペプチドの有効量を含む薬学的組成物を提供する。特定の実施態様において、本発明のペプチドを含む薬学的組成物は、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセルによって投与され得る。本発明のペプチドの徐放性放出を達成するために、このような組成物を使用することは有用であり得る。
【0181】
本発明はまた、本発明の薬学的組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を備える、薬学的包装物またはキットを提供する。
【0182】
本発明は、本発明のスクリーニング方法によって得られたペプチドに対する抗体を提供する。
【0183】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明する。ただし、以下の実施例は、例示であって、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0184】
(実施例1:第1のカセット~第3のカセットの作製)
あらゆるライブラリーの設計に適用可能なように、DNAライブラリー構築のための遺伝子を、図1に示すように、3つの部分(第1のカセット、第2のカセットおよび第3のカセット)から構成した。第1のカセットは、複数の核酸配列を含むライブラリーを挿入する部位であり、スクリーニングにかけるライブラリーに相当する遺伝子の塩基配列を挿入する。ただし、翻訳産物であるペプチドとmRNAがリボソームとを介して結合したPRM複合体の状態を維持するために、第1のカセットに挿入する塩基配列は終止コドンを含まない。また、第2のカセットおよび第3のカセットを連結するために、第1のカセットの5’部位にNdeI部位を、3’部位にXbaI部位を付加した。
【0185】
第2のカセットには、プレ選抜を行うためのFLAGタグをコ一ドする塩基配列を5’部位に導入し、mRNAの安定性を増すための3’ステム-ループ、翻訳されたペプチドがフレキシブルな動きが可能なようにリンカー配列(配列番号4に記載の4回繰り返し配列×2をコ一ドする塩基配列)を挿入した。このリンカーの長さは、配列番号4に記載の4回繰り返し配列×2を1単位とし、必要に応じて長さを延長することが可能である。さらに第1のカセットとの連結のために5’部位にXbaI部位を付加した。
【0186】
第3のカセットは、転写並びに翻訳に必要な全ての塩基配列(T7プロモーター配列(配列番号1)、Shine-Dalgano(SD)配列(配列番号2)、並びに転写後のmRNAの安定性を増すための5’ステム-ループ(配列番号3))を含む。また、T7プロモーターからSD配列までの距離が最適となるように設計した。さらに、第1のカセットとの連結のために第3のカセットの3’部位には制限酵素NdeI部位を付加した。
【0187】
(実施例2:DNAライブラリーの構築)
スクリーニングに供する、ペプチドライブラリーに対応する塩基配列を、化学合成して第1のカセットとした。第1のカセット内の塩基配列として使用した塩基配列は、(XXB)20XAGであるため、終止コドンを含まない。さらに、制限酵素部位を5’部位および3’部位に付加した。第1のカセットと第2のカセットとをDNAリガーゼにより結合した後、プライマー3および4(それぞれ、配列番号6および配列番号7)により第1のカセットと第2のカセットとの連結産物を増幅した。このPCR産物をNdeIで処理し、精製した後、第3のカセットとDNAリガーゼによって結合し、次いで第3のカセットと第1のカセットおよび第2のカセットとの連結産物を、プライマー1および4(それぞれ、配列番号8および配列番号7)を用いて増幅した。得られたPCR産物を、DNAライブラリーとして使用した。
【0188】
(実施例3:無細胞系におけるDNAの転写および翻訳)
構築したDNAライブラリ一0.5μgを、総量20μlの一工程転写および翻訳系に使用した。反応系は、大腸菌S30抽出液、20種類のアミノ酸を含んでおり、0,8μlのT7 RNAポリメラーゼを添加し、37℃で30分間反応させた。続いて、RNaseを含まないDNaseIを添加し、さらに20分間反応させ、鋳型DNAを完全に分解した。次いで、氷上で冷却すると同時に、マグネシウムの最終濃度が50mMとなるように、1Mの酢酸マグネシウム溶液を加え、ペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)を安定化した。
【0189】
(実施例4:プレ選抜)
続いて、プレ選抜を行った。プレ選抜の過程を経ることにより、DNA合成時やPCRの際に誤りが生じた結果、終始コドンが生じ、そのために目的のペプチドの全長が発現していない複合体を除くことができる。従って、不完全な塩基配列を実際のスクリーニング系に持ち込む確率が著しく低減される。
【0190】
まず、ビオチン化抗FLAG抗体をストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ上に固定化した後、PRM複合体溶液と1時間反応させた。フレームがずれたり途中に終止コドンが生じたりしたDNAは、FLAGタグを正しく発現できないため、抗FLAG抗体に結合することができず、磁石により磁気ビーズを回収した際に、回収されずに上清に残る。
【0191】
磁石により回収されたビーズは、50mMの酢酸マグネシウムを含む冷TBS(20ml Tris-HCl、150mM NaCl(pH7.6))により5回洗浄した。続いて、20mM EDTA溶液を氷上で10分間反応させて、複合体からmRNAを溶出した。溶出したmRNAを、アマシャム社製のG-25マイクロスピンカラムにより精製し、プライマー2および4を用いたRT-PCRによりDNAとして逆転写および増幅し、さらに精製した後に次のスクリーニングサイクルに供した。
【0192】
(実施例5:固定化膜モデルの作製)
微生物細胞膜モデルとしては、ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール=1:1(総リン脂質量の1.4%のビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含む)の組成のリポソームを、動物細胞膜モデルとしては、ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール:コレステロール=10:1:1(総リン脂質量の1.4%のビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含む)の組成のリポソームを用いた。
【0193】
直径15mmのガラス試験管内に総量20mgのリン脂質を含むクロロホルム溶液を窒素ガス存在下で乾固させた後、一晩減圧下におき完全に有機溶媒を揮発させてリン脂質フイルムを得た。リン脂質フイルムにTBS(20mM Tris-HC1,150mM NaC1(pH7.6))を添加して、激しく攪拌し、MLVとした。さらに、超音波処理することにより、LUVを作製した後、600nm、400nm、100nmのポアサイズのポリカーボネイト製のフィルターを10回ずつ通すことにより直径100nm以下のSUVを作製した。100μl(1mg)のストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ(ロッシュ社)を、TBSにて洗浄後、500μlのTBSに懸濁し、リン脂質量16.8μgのビオチン化リポソームを添加し、4℃で1時間攪拌させながら反応させ、ビオチン化リポソームを磁気ビーズ上に固定化した。反応後のビーズを、TBSにより洗浄して4℃で保存した。
【0194】
(実施例6:固定化膜モデルによるDNAライブラリーのスクリーニング)
スクリーニングを、図2に示したような流れで行った。プレ選抜後のDNAライブラリー0.5μgを、実施例3と同様に総量20μlの一工程転写および翻訳系を行い、ペプチド・リボソーム・mRNA複合体(PRM複合体)を形成させた。
【0195】
次いで、このPRM複合体を、実施例5で作製したビオチン化リポソーム(微生物細胞膜モデルリポソームまたは動物細胞膜モデルリポソーム)を固定化した磁気ビーズと反応させ、磁石を用いて磁気ビーズを回収し、50mMの酢酸マグネシウムを含む冷TBSにより5回洗浄した。次いで、20mM EDTA溶液と氷上で10分間反応させることにより、複合体からmRNAを溶出した。溶出したmRNAを、アマシャム社製のG-25マイクロスピンカラムにより精製し、プライマー2および4(それぞれ、配列番号9および配列番号7)を用いたRT-PCRによって逆転写および増幅した。RT-PCRの後、増幅産物をさらに精製して、さらなる選抜の過程に供した。
【0196】
RT-PCRを、ロシュ社製のC.thermo.po1ymerase one-step RT-PCRキットにより行った。0.4mM dNTP,5% DMSO、0.5% DTTおよび0.8単位 RNaseインヒビター(いずれも最終濃度)を含む反応液に、0.3pmol(最終濃度)のプライマー2(配列番号9)、プライマー4(配列番号7)、および10pg~2ngのmRNAを加え、総量を25μlとした。この反応液を、サーマルサイクラーにより、60℃で30分、95℃で5分の温度処理を行った後に、95℃で30秒、57℃で30秒、72℃で1分のサイクルを25サイクル繰り返した後、72℃で6分間反応させることにより、逆転写反応と引き続くDNAの増幅を連続して行った。RT-PCRの後、増幅産物をさらに精製して、さらなる選抜の過程に供した。
【0197】
このようなスクリーニングを6サイクル繰り返して、細胞膜に特異的に作用する能力を有したペプチドを濃縮し、RT-PCR後にTAクローニングを行い、塩基配列を決定し、その結果、所望の膜構造に特異的に作用するペプチドのアミノ酸配列に関する情報を取得した。
【0198】
(比較例:ファージディスプレイ法と固定化膜モデル系を組み合わせたスクリーニング)
本発明の方法と比較するため、ファージディスプレイ法と固定化膜モデル系を組み合わせたスクリーニングを行った。ファージディスプレイ法は、T7ファージシステム(Novagen社製)を用いて以下の条件および手順にて行った。発現させるペプチドをコードしている遺伝子に対し、化学合成する際にベクターアームヘの挿入に、一方の5’部位に5’-aattを、相補鎖の5’部位に5’-agctを導入して合成した。続いて、アニーリングにより2本鎖DNAとした。このDNAを、T7ファージベクターの左腕(left arm)と右腕(right arm)に挿入するが、左腕はttaaが、右腕はagctが突出するように予め処理しておいた。左腕、挿入するDNAおよび右腕を、DNAリガーゼにより連結して、発現用ベクターを構築した。
【0199】
続いて、インビトロパッケージングによりファージ粒子を形成させた。インビトロパッケージングの方法を、25μLのT7パッケージング抽出液に1μgのDNAを添加し、22℃で2時間反応させることにより行った。反応を、270μlのLB培地(10g Bacto trypton、0.5g Yeast Extract、10g NaCl/L)を添加することにより停止し、24時間以内に次の工程に使用した。24時間以上1週間以内で使用する場合は、20μLのクロロホルムを添加し、4℃で保存した。
【0200】
ファージ力価を決定した後、ファージの感染宿主である大腸菌株BL21を使用して、ファージライプラリーの増幅を、プレート法で行った。即ち、50mlの新鮮なTB培地(12g Bacto trypton、2g Yeast Extract、4ml グリセロール、100ml リン酸カリウム/L)に37℃で一晩培養したBL21を0.5m1添加し、濁度がOD600=0.6~1.0に達するまで培養した。10mlの大腸菌培養液に対して1×10pfu(プラーク形成単位)のファージを添加し、1m1のアリコートを15mlチューブに移した後、45~50℃に冷ましたトップアガロース(1g Bacto trypton、0.5g Yeast Extract、0.5g NaCl、0.6g アガロース)を加え、直ちに混和し直径15mmのLBプレートに全量を注ぎ均一に広がるようにした。トップアガロースが固まった後、37℃でファージプラークがプレート全面を覆うまで培養した(3~4時間)。続いて、ファージを溶出させるために、10mlの溶出バッファーI(20mM Tris-HCl(pH8.0)、100mM NaC1、6mM MgSO)をプレートに注ぎ、4℃で2時間~一晩放置し、溶出バッファー中にファージを回収し、3,000×gで5分間遠心し、得られた上清をファージライブラリーとして使用した。再度ファージ力価を確認した後、ファージライブラリーを、4℃で保存した。
【0201】
上述の方法で得られたファージライブラリーに関して、実施例6と同様のスクリーニングを行った。膜モデルを固定化してある磁気ビーズに上記のファージライブラリーを添加し、4℃で10分から60分反応させた。磁石にて吸着したファージをビーズごと回収した後、TBSにて5~10回洗浄した。続いて溶出バッファーII(5M NaCl、1% SDS)を添加し、室温で20~30分放置し、固定化膜モデルに吸着していたファージを溶出させ回収した。
【0202】
回収したファージを、前述のプレート法で増殖させ、次の固定化膜モデルへ吸着させるスクリーニングのサイクルに使用した。この過程を4回以上繰り返し、ファージ力価が十分に上昇した時点で、十分に離れたプラークをアガロースごと回収し、ファージDNAを回収した後に配列決定して、吸着したペプチドのアミノ酸配列を決定した。
【0203】
(実施例7:微生物細胞膜に作用するマスト21の濃縮効果)
実施例6で得た最終増幅産物を、アガロースゲル電気泳動により確認した。その結果を図3に示す。図3中、レーン1および8は分子量マーカーを示す。レーン2~4は微生物細胞膜モデルを使用した場合の結果を、レーン5~7は動物細胞膜モデルを使用した場合の結果を示す。レーン2および6は、マスト21の結果を、レーン3および7はマストパランXの結果を、レーン4および5は、ライブラリーの挿入が無い場合の結果を示す。マストパランXの場合には、どちらの固定化膜モデルを使用してもスクリーニングされて、正しい分子量の位置にDNAのバンドが検出された。一方、マスト21の場合は、微生物細胞膜モデルを使用した場合のみ選抜された。いずれのペプチドも塩基配列を確認したところ、欠損などを生じずに全長が得られていた。
【0204】
マスト21(配列番号5)をコードする遺伝子の塩基配列を、第1のカセットに挿入して前記のスクリーニングを行った。微生物細胞膜モデルを使用した場合のみ、RT-PCR後に、該当するDNAのシグナルが得られた。このスクリーニングの結果は、微生物細胞膜のみに特異的に作用し、動物細胞膜には作用しないというマスト21の特性と一致した。また、サイクルを繰り返した後に塩基配列を確認しても、ほとんどのクローンが全長をコードしており、欠損が生じたりしている例は稀であった。このことは、本発明の方法が微生物細胞膜に特異的に作用するペプチドのスクリーニングに有効であることを示す。また、ファージディスプレイ法と固定化膜モデル系を組み合わせたスクリーニング系を用いた場合は、ペプチドの塩基配列の濃縮効率が極めて悪い上、得られた塩基配列は全て欠損変異を生じていた。これらのことは、本発明の方法が、微生物の増殖に影響するペプチドを対象とする場合であってもスクリーニング可能であることを示すものである。
【0205】
(実施例8:非特異的に作用するマストパランXの濃縮効果)
マスト21(配列番号5)をコードする遺伝子の塩基配列の代わりに、マストパランX(配列番号10)をコードする遺伝子の塩基配列を、第1のカセットに挿入して前記のスクリーニングを行った。微生物細胞膜モデルと動物細胞膜モデルのいずれを使用しても、RT-PCR後に、該当するDNAのシグナルが得られた(図3のレーン3および6)。この結果は、いずれのタイプの膜にも作用し、選択性がないというマストパランXの特性と一致した。また、サイクルを繰り返した後に塩基配列を確認した場合、ほとんどのクローンが、全長をコードしており、欠損が生じたりしている例は稀であった。このことは、本発明の方法が微生物細胞膜、動物細胞膜などの生体膜に作用するペプチドのスクリーニングに有効であることを示す。一方、ファージディスプレイ法と固定化膜モデル系を組み合わせたスクリ一ニング系を用いた場合は、ペプチドの濃縮効率が極めて悪い上、得られた塩基配列は全て欠損変異を生じていた。これらのことは、本発明の方法が、生物の増殖などに影響するペプチドであってもスクリーニング可能であることを示すものである。
【0206】
(実施例9:強い抗菌性が期待されるライブラリーを選抜した結果)
強い抗菌活性を示すタキプレシンおよびその誘導体からなるライブラリーを、本発明によるスクリーニング系に供した。これと同じライブラリーをファージディスプレイ法と固定化膜モデル系を組み合わせたスクリーニング系に供した結果は、ファージ力価の上昇が極めて悪い上、最終的に得られたアミノ酸配列は100%欠損変異を生じていた。一方、本発明の方法によるスクリーニングの結果、全長のペプチドが効率的に得られた。このことは、本発明の手法が、生物に致死的なペプチドや、生物の増殖に影響するペプチドであっても適応可能な方法であることを示す。
【0207】
(実施例10:ランダムペプチドをコードするライブラリーを用いた、微生物細胞膜に特異的に作用する新規ペプチドのスクリーニング)
第1のカセットにランダムな21アミノ酸からなるペプチドをコードする塩基配列を用いた。ただし、完全に、ランダムにすると終止コドンが生じて全長が得られないため、(XXB)20XAGという塩基配列を用いた(ここで、Xは、A、T、GまたはC、Bは、TまたはGである)。3番目のコドンをT,もしくはGに限定することにより、終止コドン出現の可能性を排除した。また、カセット連結の都合上、21番目のアミノ酸をコードする塩基配列をXAGとする必要があったため、出現するアミノ酸は、Tyr、His、Asn、Aspの4種類に限定された。上記のランダムペプチドライブラリーを第1のカセットとして使用し、実施例6に記載の方法に従って、カセットに連結した。
【0208】
実施例6に記載のスクリーニング方法に従って得られたPCR最終産物を精製し、TOPO TA cloning kit(Invitrogen社)を用いてTAクローニングを行い、宿主であるTOPO10にプラスミドを導入した。ペプチド配列を挿入されたプラスミドを導入されたコロニーを、プレート上に増殖させたTOPO10コロニーから選択し、各々のTOPO10からプラスミドを抽出した。得られた50クローンの各々を、PE Applied Biosystems社製のABI PRISM310により配列決定した。50クローンの内、48クローンが、欠損などを生じることなく、21アミノ酸をコードしていた。これはファージディスプレイなどでは得られない結果である。得られた配列を、表1に示す。
【0209】
【表1】
JP0004366497B2_000002t.gif
(実施例11:セミランダムペプチドをコードするライブラリーを用いた、微生物細胞膜に特異的に作用する新規ペプチドのスクリーニング)
微生物細胞膜は、酸性脂質(PG、PS、リポ多糖など)が表層に露出しているため、負に荷電している。従って、微生物細胞膜に特異的に作用するペプチドの機能には、ペプチドが塩基性であることが必須である。さらに、生体防御ペプチドは、両親媒性の構造をとる事によって、微生物細胞膜に対する透過性を高め、ポア形成能を有し、そして微生物細胞膜に損傷を与えるということが考えられる。
【0210】
特定の数アミノ酸からなるモチーフ(例えば、RVG、ALR、RVSなど)が、実施例10において得られたペプチド中に高頻度で出現した。これらは、塩基性アミノ酸であるK(リジン)またはR(アルギニン)と数個の疎水性アミノ酸とからなるモチーフであった。これらのモチーフは、微生物細胞膜との結合に必要な最小単位であると思われる。これらのモチーフを繰り返すことにより、両親媒性へリックスや両親媒性βシート構造を取り得ることを予想し、さらに効果的に微生物細胞膜に結合し得るペプチドを得るためのライブラリーを設計してスクリーニングに供した。すなわち、効果的に両親媒性のペプチドが得られるような位置にKもしくはRを配置したZXXXZXXZXXXZXX(ZはK(リジン)またはR(アルギニン)、Xは任意のアミノ酸)という14アミノ酸をコードするDNA配列のライブラリーをスクリーニングした。ペプチドライブラリー以外は、実施例10と同様に行った。
【0211】
実施例6に記載の方法に従ってスクリーニングを行い、最終段階で得られたmRNAからの逆転写産物を実施例10と同様にTAクローニングし、配列決定し、そして対応するアミノ酸配列を決定した。50クローンの配列を決定し、その内、47クローンが、欠損などを生じることなく、正しく全長をコードしていた。得られた配列を、表2に示す。表2に示したように、得られたペプチドには、KVZ、RVZ、KSV、KV、RSVという配列が、複数認められた。このように、得られたペプチドのほとんどは、K/Rの後には疎水性のアミノ酸が続いており、まれに親水性のアミノ酸であってもS(セリン)などの無電荷極性のアミノ酸であり、塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸が存在することはなかった。このことは、予想されたように、本発明のスクリーニング方法によって得られたペプチドが両親媒性へリックス構造や両親媒性βシート構造を形成しやすいことを示し、生体防御ペプチドとして有用であることを裏付ける。
【0212】
【表2】
JP0004366497B2_000003t.gif
(実施例12:マスト21の改変体であるマスト21R(mast21R))
微生物細胞膜に特異的に作用しかつ動物細胞膜には作用しないマスト21(配列番号5)のアミノ酸配列のうち、K(リジン)をR(アルギニン)に改変した。得られたペプチドを、マスト21R(配列番号107)と名付けた。マスト21Rは、マスト21同様に微生物細胞膜に特異的に作用する、強い抗菌活性を有した。
【0213】
【表3】
JP0004366497B2_000004t.gif
(実施例13:固定化膜モデルを用いた、新規ペプチドの膜特異性の評価)
各ペプチドを、サワディーテクノロジー(東京)に合成を外注した。化学合成後、HPLCにより純度95%以上にまで精製した。精製ペプチドを、マススペクトロメトリーによって分子量を確認した。
【0214】
細胞膜構造に作用する能力は、特許2967925号に記載の方法を一部修正して、蛍光物質(カルセイン)内包モデル膜(リポソーム)を用いて評価した。
【0215】
(A:蛍光物質(カルセイン)内包モデル膜(リポソーム)の作製方法)
リン脂質組成の異なる3種類のモデル膜を作製した:典型的な微生物細胞膜モデルとしてのリポソームA(PC/PG=1/1);微生物細胞膜モデルに近いモデルとしてのリポソームB(PC/PG=10/1);典型的な健康な動物細胞膜モデルとしてのリポソームC(PC/PG/Chl=10/1/1)。ここで、PCは、ホスファチジルコリン、PGは、ホスファチジルグリセロール、Chlは、コレステロールである。
【0216】
リン脂質を、上述の比でクロロホルム溶液として調製(20mg/ml)し、直径15mmの試験管に移した。窒素ガスを噴霧しながら濃縮し、試験管壁に脂質薄膜を形成させる。この脂質薄膜をデシケータ内で一晩減圧下におき、有機溶媒を完全に揮発させた。次いで、70mM カルセインを含む10mM HEPES溶液(pH7.4)を1.5ml添加し、ボルテックス社製の攪拌機で10分間攪拌して脂質薄膜を剥離させ、MLVを形成させた。続いて、懸濁液が透明になるまで超音波処理を行い、カルセインを内包したLUVを形成させた。このカルセイン内包リポソームとフリーのカルセインとを分離するために、ゲル濾過(セファロースCL-4B、1cm×25cm、流速0.25ml/分、分画サイズ2ml)にかけた。カルセイン内包リポソームを含むフラクションを集め、以下の実験に供した。リポソームは、直径数百nmである。リポソームの定量は、過マンガン塩灰化法によりリン脂質量を定量(和光純薬製リン脂質テストワコー使用)することにより行った。
【0217】
(B:ペプチドの膜への作用の検出)
リポソームを、96ウェルのマイクロプレートに加え、10mM HEPES緩衝液で希釈して使用した。カルセイン内包リポソーム100μl(20μM)/ウェルに、1、2、4、5μM(最終濃度)のペプチド水溶液を添加した後、一定時間ごとに、マイクロプレート対応蛍光光度計(Molecular Devices社製、SPECTRAmax GEMINI)を励起波長485nmおよび蛍光波長538nmで用いて、漏出するカルセイン量を検出した。カルセインは、リポソーム内部では蛍光消光のために蛍光を発し得ないが、ペプチドがリポソームに作用してリポソームに穴が開くことによって、リポソーム外に漏れ出すと、カルセインは、励起波長により蛍光を発する。
【0218】
膜に対するペプチドの作用の評価を、蛍光強度の相対値で示した。すなわち、TritonX-100(最終濃度1%)を添加し、リポソームを完全に破壊し、全てのカルセインがリポソーム外に放出された際の蛍光強度を100%とし、緩衝液のみを添加した際の蛍光強度を0%とした。100%は、蛍光強度で5,000以上になるように設定した。結果を、表4に示す。
【0219】
【表4】
JP0004366497B2_000005t.gif
(C:考察)
細胞膜構造に作用するための最小単位(3アミノ酸)のペプチドでは,顕著な膜への作用は検出されなかった(5%以下を、全てndと表示)。しかし、特異的に細胞膜構造に作用する能力が期待されるこれらの配列をタンデムに並べたペプチド(例えば、KLV5:KLVの配列を5回繰り返したKLVKLVKLVKLVKLV)に細胞膜構造に特異的に作用する能力が認められた。また、表中には記載しなかったが、KLVなどは、鎖長が延長されるに従って作用が高まった。KLVとKLV3との間で数%の膜構造に作用する能力の上昇が観察された。この上昇は、KLV3が特異的に細胞膜構造に作用することを示す。
【0220】
例えば、KVL5、ALR5では、典型的な微生物細胞膜モデルであるリポソームAには、強く作用するが、動物細胞膜モデルであるリポソームCに対する作用は、有意に低かった。
【0221】
また、マストパランX(表中、mastoparan X)は、リポソーム(Liposome)A、BおよびCの全てのタイプのリポソームに同レベルで作用する(データは示さず)。すなわち、抗菌活性および細胞毒性が、共に強いペプチドである。このペプチドに、KLVなどのペプチドを付加することにより、リポソームCへの作用が激減し、微生物細胞膜に対する特異性が向上した。これは、KLVなどのペプチドが、微生物細胞に作用するためのシグナル配列として選択的に働く最小単位である可能性を示す。
【0222】
実施例11で得たマスト21Rは、微生物細胞膜モデルへの特異的かつ強い作用を示したが、その作用は、マスト21と比較して有意に高かった。
【0223】
(実施例14:抗菌活性の評価)
(A:抗菌活性の評価法)
抗菌活性を、米国National Committee for Clinical Laboratory Standard(NCCL Documents M7-A3)に従って評価した。すなわち、マイクロタイタープレートを用いて、菌の増殖を阻害するペプチドの最小濃度を求めた。細菌を、感受性測定用ブイヨン培地(カザミノ酸 16.5g、ハートエキス粉末 3.0g、溶性デンプン 1.5g、ブドウ糖 2.0g、L-トリプトファン 0.05g、L-シスチン 0.05g、ビオチン5μg/L)で16時間培養した後、A600における吸光度を測定した。予め求めた濁度とコロニー形成単位(colony forming unit(CFU))との相関から、規定のCFUになるように感受性測定用ブイヨン培地で希釈した。各菌株を5×10CFU/ml(最終濃度)になるように添加した。各ペプチドの5mM水溶液、および感受性測定用ブイヨン培地を用いた1.6mM溶液を調製し、ここから段階希釈を行った(0.78μMを最小とした)。菌液50μlを分注したマイクロプレートに各濃度段階のペプチドを50μlずつ分注した(ペプチドの最終濃度は0.39μM~800μM)。ペプチド無添加のものをネガティブコントロールとした。プレートを37℃で18時間静置培養し、菌の増殖を阻害する最小濃度(最小発育阻止濃度:MIC)を求めた。結果を、表5に示す。表中に記載の濃度を、μMで示す。
【0224】
【表5】
JP0004366497B2_000006t.gif
(B:考察)
通常、MICが100μg/ml以下の場合、抗菌剤として有望であると評価される。ペプチドの場合、分子量によりこの濃度は大きく変わるので、便宜上100μM以下で有望と判断した。
【0225】
微生物細胞膜に特異的に作用したKLV5、ALR5などに抗菌活性が認めらた。またKLV6(KLVの配列を6回繰り返したKLVKLVKLVKLVKLVKLV)およびALR6(ALRの配列を6回繰り返したALRALRALRALRALRALR)の活性は、それぞれKLV5およびALR5の活性より上昇した。抗菌スペクトルは、E.coliのようなグラム陰性菌から、S.aureusのようなグラム陽性菌にわたる。
【0226】
抗菌活性の結果と微生物細胞膜への作用の結果は、ほぼ一致した。本実施例において用いた微生物は、感染性微生物でも腐敗性微生物でもあるので、本発明のペプチドは、感染症の処置および/または腐敗の予防に有用である。
【0227】
さらに、マスト21Rおいて、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトルが観察され、抗菌剤として有望な配列であることが示された。
【0228】
(実施例15:溶血性の評価)
(A:溶血性の評価方法)
動物細胞膜モデルへの作用の指標として、赤血球に対する作用を評価した。
【0229】
ヒトから採血した新鮮血を遠心分離し(700×g、5分)、得られた赤血球を等張液(0.15mM NaCl/リン酸緩衝液(pH7.4))で洗浄し、赤血球溶液とした。720μlの赤血球溶液(2×10細胞/ml)に各ペプチドの等張液溶液80μlを添加し(最終濃度を表中に記載)、30分間、37℃で穏やかに混合しながら反応させた。反応後、700×gで5分間遠心分離し、上清に回収されるヘモグロビンを540nmの吸光度で測定した。
【0230】
溶血性を相対値で示した。すなわち、等張液のみを添加した際の吸光度を0%とし、TritonX-100を添加して完全に溶血させた場合の吸光度を100%とした。結果を、表6に示す。
【0231】
【表6】
JP0004366497B2_000007t.gif
(B:考察)
動物細胞膜に作用するために細胞毒性が強いペプチドであるマストパランX(表中、mastoparan X)は高い溶血性を示すが、得られた全てのペプチドは、低い溶血性しか示さなかった。これは、ペプチド配列のスクリーニングの過程において、動物細胞膜モデルに作用しないことを指標にした手法の有効性を示している。また、この結果は、表4に示した膜への作用の結果と一致している(リポソームCに対する作用が低い)。さらに、この結果は、得られたペプチドが、ヒトを含めた動物の細胞膜に対する作用が低いことを示し、安全性の高い抗菌剤、および微生物細胞膜に特異的に作用するシグナル配列として機能し得ることを示す。
【0232】
(実施例16:抗癌活性の評価)
抗癌活性を、米国国立研究所(NCI)にて行われてきたヒト癌細胞パネルによる抗癌剤スクリーニング方法(1990年)に準じる方法を使用して評価した。実験に用いた細胞は、以下の3つの細胞株である:HL60細胞(ヒト白血病由来細胞株);HeLa細胞(ヒト子宮癌由来細胞株);HCT116(ヒト大腸癌由来細胞株)。これらの細胞を使用する場合に適した培地は、それぞれ10% FCSを含むRPMI-1640培地;10% CSを含むMEM培地;10% FCSを含むMcCoy5A培地である。
【0233】
培地に懸濁した細胞を、1×10細胞/cmで96ウェルプレートに播種して、一晩インキュベートした。本発明のペプチドを種々の濃度で含むペプチド溶液を添加して、COインキュベータ内にて37℃で2日間培養した。この間の細胞増殖をスルホローダミンBによる比色定量で測定し、コントロールに比べ増殖を50%に抑制する濃度(GI50)、見かけ上、本発明のペプチドを添加した時点から細胞数の増減がない、ペプチド添加時と同じ細胞数に増殖を抑制する濃度(TGI)、および、ペプチド添加時の50%にまで細胞を減少させる濃度(LC50)の3種類を求めた。表7に、マスト21RおよびKVL5のLC50結果を示す。
【0234】
【表7】
JP0004366497B2_000008t.gif
LC50値が1×10-4以下の場合、抗癌活性を有する。従って、表7は、マスト21Rが抗癌活性を有することを示す。
【0235】
次いで、種々の癌細胞を用いてマスト21Rの抗癌活性を確認した。各癌細胞を10% FCSを含むRPMI-1640培地中で培養し、上記の方法によって求めたマスト21、マスト21R、ALR6およびKVL6のLC50結果を、表8に示す。
【0236】
【表8】
JP0004366497B2_000009t.gif
マスト21Rは、種々の癌細胞に対して抗癌活性を有した。マスト21もまた、一部の癌細胞に対して抗癌活性を有することが見出されたが、マスト21Rの抗癌活性は、マスト21の抗癌活性の2倍以上であった。
【0237】
またALR6およびKVL6も、一部の癌細胞に対して抗癌作用を有した。
【0238】
(実施例17:植物病原性細菌に対する抗菌活性の評価)
マスト21、マスト21R、ALR6およびKVL6について、軟腐病の植物病原性細菌であるErwinia Carotovora(NBRC3380)に対する抗菌活性を、評価した。すなわち、マイクロタイタープレートを用いて、菌の増殖を阻害するペプチドの最小濃度を求めた。細菌を、培養培地(Difco Nutrient Broth 8g、NaCl 5g/L、pH7.0)で16時間培養した後、A600における吸光度を測定した後、菌株を1×10CFU/mlに調製した。各ペプチドの5mM水溶液を調製し、培養培地を用いて段階希釈を行った。菌液50μlを分注した96ウェルマイクロタイタープレートに各濃度段階のペプチドを50μlずつ分注した(菌株の最終濃度は5×10CFU/ml、ペプチドの最終濃度は0~50μM)。プレートを30℃で16~24時間静置培養し、菌の増殖を阻害する最小濃度(最小発育阻止濃度:MIC)を求めた(μMおよびμg/ml)。結果を、表9に示す。表中に記載の濃度を、μMで示す。
【0239】
【表9】
JP0004366497B2_000010t.gif
マスト21、マスト21R、ALR6およびKVL6のいずれもが、軟腐病の植物病原性細菌であるErwinia Carotovora(NBRC3380)に対して高い抗菌活性を示した。特にマスト21Rは、マスト21の約2倍の抗菌活性を示した。
【0240】
(実施例18:アポトーシス抑制活性の評価)
強力なアポトーシス誘導試薬であるシクロヘキシミドで処理したHL60細胞を、アポトーシス細胞として用いた。通常、アポトーシスが誘導されると、細胞核ではクロマチンの凝集が起こり、染色体の断片化が生じる。次いで、数時間以内にアポトーシス小体が形成される。シクロヘキシミド処理したアポトーシス細胞を位相差顕微鏡を用いて観察した場合、全細胞の80%以上において、このようなアポトーシス小体を確認した。
【0241】
2×10細胞/mlになるように、HL60細胞を、10% FCSを含むRPMI-1640培地に懸濁した。最終濃度が1×10-7Mのシクロヘキシミドとともに、蛍光標識したマスト21Rを含むペプチド溶液を、これらの細胞培養物に添加した。これらの細胞培養物を、COインキュベータ中にて37℃で数時間培養した後、蛍光顕微鏡で観察した、その結果、蛍光標識したマスト21Rが、アポトーシス細胞に結合していることを確認した。
【0242】
マスト21Rがアポトーシス細胞を認識しかつ結合することを確認したので、次いで、マスト21Rのアポトーシス誘導抑制効果を位相差顕微鏡観察を評価した。
【0243】
2×10細胞/mlになるように、細胞を、10% FCSを含むRPMI-1640培地に懸濁した。最終濃度が1×10-7Mになるようにシクロヘキシミドを添加して、これらの細胞を、COインキュベータ中にて37℃で数時間培養した。その後、これらのアポトーシス細胞培養物に、マスト21Rを種々の濃度で含むペプチド溶液を添加し、細胞の変化を継時的に観察した。ペプチドを添加しないコントロール群では、シクロヘキシミド処理の数時間以内にアポトーシス小体が形成したが、マスト21Rを添加した場合、シクロヘキシミド処理の12時間後においていずれの細胞でもアポトーシス小体は形成しなかった(データは示さず)。
【0244】
上記で議論または引用された全ての特許、学術論文および他の文献は、それらの全体が本明細書中に参考として援用される。
【0245】
前述から、本発明が、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具体化され得ることは、当業者に明らかである。記載された実施形態は、単に例示としてみなされるべきであり、限定的とはみなされない。なぜなら、本発明に提供される法的保護の範囲は、本明細書ではなく添付の特許請求の範囲によって示されるからである。
【0246】
以下の図面は、本発明の実施態様の例示であり、そして請求の範囲により包含される本発明の範囲を限定することを意味しない。
【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】図1は、DNAライブラリーの設計の一例を示す。
【図2】図2は、スクリーニングの流れを示す。
【図3】図3は、スクリーニング後の産物をアガロースゲル電気泳動によって確認した結果を示す。
【符号の説明】
【0248】
レーン1および8は分子量マーカーを示す。レーン2~4は微生物細胞膜モデルを使用した場合の結果を、レーン5~7は動物細胞膜モデルを使用した場合の結果を示す。レーン2および6はマスト21の結果を、レーン3および7はマストパランXの結果を、レーン4および5はライブラリーの挿入が無い場合の結果を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2