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明細書 :食害抑制剤、この食害抑制剤を含む食害抑制素材、及びこの素材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3899405号 (P3899405)
公開番号 特開2004-244352 (P2004-244352A)
登録日 平成19年1月12日(2007.1.12)
発行日 平成19年3月28日(2007.3.28)
公開日 平成16年9月2日(2004.9.2)
発明の名称または考案の名称 食害抑制剤、この食害抑制剤を含む食害抑制素材、及びこの素材の製造方法
国際特許分類 A01N  37/06        (2006.01)
A01N  43/08        (2006.01)
A01N  59/16        (2006.01)
A01N  59/20        (2006.01)
A01N  61/00        (2006.01)
A01P  17/00        (2006.01)
D06M  13/165       (2006.01)
D06M  13/238       (2006.01)
D06M  14/06        (2006.01)
D06M  15/263       (2006.01)
D06M 101/12        (2006.01)
D06M 101/14        (2006.01)
FI A01N 37/06
A01N 43/08 C
A01N 59/16 A
A01N 59/16 Z
A01N 59/20
A01N 61/00 D
A01P 17/00
D06M 13/165
D06M 13/238
D06M 14/06
D06M 15/263
D06M 101:12
D06M 101:14
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2003-034925 (P2003-034925)
出願日 平成15年2月13日(2003.2.13)
審査請求日 平成15年2月13日(2003.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】加藤 弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100119585、【弁理士】、【氏名又は名称】東田 潔
【識別番号】100120802、【弁理士】、【氏名又は名称】山下 雅昭
【識別番号】100106105、【弁理士】、【氏名又は名称】打揚 洋次
審査官 【審査官】冨永 保
参考文献・文献 特開平10-204776(JP,A)
特開平08-301702(JP,A)
特開2000-143408(JP,A)
特開2001-295184(JP,A)
調査した分野 A01N 37/06
A01N 43/08
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式[I]:
CH2 = C(R)COOXY [I]
(但し、一般式[I]中、
RはH又はCH3であり、
Xは(CH2)aOb(aは0~4、bは0又は1である。)であり、
Yは(1)(CF2)cZ(cは1~10、ZはH又はFである。)で表されるフッ化アルキル基、
(2)テトラヒドロフルフリル基、又は
(3)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカニル基若しくはデセニル基である。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体、その重合体、若しくは該誘導体と該重合体との組合せ物、又は
下記一般式[II]:
CH2 = C(R)COOZ [II]
(但し、一般式[II]中、RはH又はCH3であり、Zは鉄、銀、銅、亜鉛、コバルト、及びクロムから選ばれた金属である。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩、又は
一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体、その重合体、若しくは該誘導体と該重合体との組合せ物と、一般式[II]で表される(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩との混合物
を有効成分とすることを特徴とする繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制剤。
【請求項2】
前記食害昆虫が、鞘翅目カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、並びに鱗翅目ヒロズコガ科のイガ及びコイガから選ばれた昆虫であることを特徴とする請求項1記載の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の食害抑制剤が付着された繊維又は繊維製品からなる食害抑制素材であって、この繊維又は繊維製品が、カテキン若しくはタンニン酸を含む絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品であることを特徴とする繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材
【請求項4】
前記カテキン又はタンニン酸が、前記天然タンパク質繊維又は繊維製品を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、又は該繊維又は繊維製品をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することにより該繊維又は繊維製品中に含まれるようにしたことを特徴とする請求項3記載の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材。
【請求項5】
請求項1又は2記載の食害抑制剤を、絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品に付着せしめてなる食害抑制素材を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、或いはこの食害抑制素材をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することを特徴とする繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材の製造方法
【請求項6】
請求項1又は2記載の食害抑制剤の有効成分によりグラフト加工された天然タンパク質繊維又は繊維製品であって、絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品からなる食害抑制素材を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、或いはこの食害抑制素材をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することを特徴とする繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材の製造方法
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維、繊維製品を主として食害する害虫による食害被害を防止するための食害抑制剤、この食害抑制剤を含む食害抑制素材、及びこの食害抑制素材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
私たちの身の回りには多くの繊維害虫が生存しており、貴重な繊維製品を食害し、製品の品質を著しく劣悪にする。このような繊維害虫は、衣類や、昆虫、小動物の死骸や、乾燥魚、乾燥肉、玄米、小麦等の乾燥食品を餌にして増殖する。
食害の実態を理解するために、繊維害虫及び食害等についての一般的知識を次に述べる。羊毛繊維、羊毛繊維製品、絹タンパク質繊維、絹タンパク質繊維製品等を加害する昆虫には、鞘翅目カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、並びに鱗翅目ヒロズコガ科のイガ及びコイガ等がいる。このうち、以下、カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシについて主として説明する。
【0003】
カツオブシムシ及びヒメマルカツオブシムシ:
カツオブシムシは、成虫で体長約4mmであり、その体色は赤褐色から黒褐色を呈する。幼虫は体長約9mmであり、体色は黄褐色から茶褐色を呈する。
ヒメマルカツオブシムシは、成虫で体長約2.5mmであり、その体色は黄色、白色を呈し、褐色の斑紋が特徴的である。幼虫は体長約4mmであり、その体色は暗褐色から黒褐色を呈する。
【0004】
カツオブシムシとヒメマルカツオブシムシは、通常年1回発生し、幼虫で越冬する。3~5月に蛹化し、5~6月に成虫になる。両者の幼虫期間は300日である。幼虫は、加害物や貯蔵庫の隙間等に潜入して休眠し、越年する。幼虫の期間中、衣類を食べ続けるわけでなく、幼虫がある一定の大きさになるとほとんど食べない期間がある。ヒメマルカツオブシムシでは9月頃から食べる量が次第に減少する。ヒメマルカツオブシムシが盛んに食べるようになると、1週間に自分の体重の2~3倍量も増加する。
【0005】
カツオブシムシ及びヒメマルカツオブシムシ幼虫による食害:
カツオブシムシやヒメマルカツオブシムシ等の昆虫は、羊毛製品に重大な食害を及ぼすため大きな問題となっている。羊毛の他にも、絹、皮製品、毛皮等の動物性繊維製品や干し魚等動物性乾燥食品、あるいは動物のはく製や昆虫標本等がこれらの昆虫の被食害物質として知られており、さらに、穀類や種子類等も食害被害にあう。
このような食害昆虫を防除するには、消極的ではあるが、昆虫の成虫を家に入れないように留意することが大切である。すなわち、衣類を食害するのは幼虫だけであり、成虫は春から野外に出没し、秋にかけて産卵するため、成虫を屋内に持ち込まない配慮が必要である。
【0006】
一般に、食害昆虫に対する基本的な防除対策は次の3種類に大別できる。▲1▼害虫の発生を抑制する対策、▲2▼害虫を駆除する対策、▲3▼害虫の食害を抑制する対策である。
害虫の駆除:
衣類は、汚れている部分が好んで食害されるので、繊維製品は使用後、ドライクリーニングしてから収納することが望ましい。食害の予防には、ナフタリン、パラジクロルベンゼン等の防虫剤が効果的であり、殺虫剤による駆除には、有機リン系の粉剤や油剤散布が効果的であるが、対象物(衣類や食品)の品質管理には十分な注意を要する。
【0007】
上記防虫剤は、有効成分が気体となって空気中に蒸散し、害虫を殺すものであるため、人体への悪影響も考えられる。できるだけ使用量を減らし、衣類の入替えをするときは、部屋の空気を換気する必要がある。
繊維害虫の防除方法:
繊維害虫に対する防除方法は次の2種類に大別できる。▲1▼防虫・殺虫剤による化学的防除法、▲2▼低温・高温処理や、脱酸素剤による物理的防除法である。化学的防除法の場合には、人畜への安全性を優先的に考えなくてはならず、使用場所の環境、材質、密閉度や、散布量、並びに経済性を考慮する必要がある。
【0008】
パラジクロルベンゼン、ナフタリン、樟脳等の昇華性防虫剤は、保存容器の合成樹脂を溶かす恐れがあり、また、ポリ塩化ビニルを劣化させたり、金や銀糸の光沢を失わすことがあるため使用時の注意が必要である。更に、異なる複数の昇華性防虫剤、例えばパラジクロルベンゼンと樟脳とを同時に使用すると、両者は溶け、衣類にシミを残すことがある。
蒸散性防虫剤、くん煙殺虫剤は、通常、白色系統の製品に直接かかると黄色に変色することがある。また、臭化メチル剤、燐化アルミニウム等の燻蒸殺虫剤は、人畜に対して有害である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、食害昆虫による食害を抑制するため、従来の防虫・殺虫剤とは異なり人畜の健康状態に悪影響を及ぼすことがなく、使用に当たっては特別の注意を払う必要が無く、また、効率的かつ経済的に食害を抑制する繊維害虫防除技術あるいは繊維害虫を寄せ付けない素材の開発が望まれているが、未だ満足すべき技術は提案されていない。
【0010】
上記した問題の1つの解決方法として、繊維素材自体を加工処理し、繊維害虫を寄せ付けないようにする技術の開発が考えられる。例えば、特定のモノマーでグラフト加工した繊維素材を開発すること、すなわち、グラフト加工前後で繊維素材の機械的特性が劣悪化することなく、しかも食害抑制が可能となる加工薬剤を探索し、加工試薬を用いて素材を加工する技術を開発することが考えられる。
本発明の課題は、従来技術の問題点を解決し、食害昆虫に対して優れた食害抑制効果を示す食害抑制剤を提供すると共に、耐久性に優れた食害抑制効果を持つ繊維及び繊維製品等からなる食害抑制素材並びにこの素材の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、天然タンパク質をグラフトモノマーで加工処理することにより、天然タンパク質に本来備わっていない新規な食害抑制特性を付与するための基礎研究を鋭意進めてきた。その結果、特有な分子側鎖を持つ(メタ)アクリル酸誘導体でグラフト加工した天然タンパク質が、繊維への食害を有する食害昆虫の食害抑制効果を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制剤は、下記一般式[I]:
CH2 = C(R)COOXY [I]
(但し、一般式[I]中、
RはH又はCH3であり、
Xは(CH2)aOb(aは0~4、bは0又は1である。)であり、
Yは(1)(CF2)cZ(cは1~10、ZはH又はFである。)で表されるフッ化アルキル基、
(2)テトラヒドロフルフリル基、又は
(3)トリシクロ[5,2,1,02,6]デカニル基若しくはデセニル基である。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体、その重合体、若しくは該誘導体と該重合体との組合せ物、又は
下記一般式[II]:
CH2 = C(R)COOZ [II]
(但し、一般式[II]中、RはH又はCH3であり、Zは鉄、銀、銅、亜鉛、コバルト、及びクロムから選ばれた金属である。)
で表される(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩、又は
一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体、その重合体、若しくは該誘導体と該重合体との組合せ物と、一般式[II]で表される(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩との混合物
を有効成分とすることを特徴とする。本明細書中で、(メタ)アクリル酸誘導体とは、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体を意味する。
【0013】
の食害抑制剤は、鞘翅目カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、並びに鱗翅目ヒロズコガ科のイガ及びコイガから選ばれた食害昆虫の食害を回避することができる。
【0014】
本発明の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材は、上記食害抑制剤が付着された繊維又は繊維製品からなる食害抑制素材であって、この繊維又は繊維製品は、カテキン若しくはタンニン酸を含む絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品であることを特徴とする。
前記カテキン又はタンニン酸は、前記天然タンパク質繊維又は繊維製品を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、又は該繊維又は繊維製品をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することにより該繊維又は繊維製品中に含まれるようにしたことを特徴とする
【0015】
本発明の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材の製造方法は、上記食害抑制剤を、絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品に付着せしめてなる食害抑制素材を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、或いはこの食害抑制素材をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することを特徴とする
【0016】
本発明の繊維への食害を有する食害昆虫に対する食害抑制素材の製造方法はまた、上記食害抑制剤の有効成分によりグラフト加工された天然タンパク質繊維又は繊維製品であって、絹タンパク質繊維及び繊維製品並びに羊毛ケラチン繊維及び繊維製品から選ばれた天然タンパク質繊維又は繊維製品からなる食害抑制素材を濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸を含む染色浴で染色するか、或いは該食害抑制素材をカテキン又はタンニン酸を含まない染色浴で染色した後、濃度0.5~3%のカテキン又はタンニン酸の水溶液に浸漬して媒染処理することを特徴とする
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の食害抑制素材の対象となる材料としては、例えば、有機高分子として、カイコ由来の絹タンパク質、動物タンパク質の羊毛繊維やケラチン繊維等が例示できる。
本発明によれば、カイコ由来の絹タンパク質としては、家蚕由来のものも野蚕由来のものも使用できる。例えば、家蚕由来の絹繊維(家蚕生糸(繭糸))や、その近縁種のクワコ由来の絹繊維、野蚕由来の天蚕、柞蚕、ひま蚕、エリ蚕、ムガ蚕等の絹繊維(野蚕生糸)、また、生糸を精練して得られる絹フィブロイン繊維も使用できる。
【0018】
家蚕幼虫や野蚕幼虫が成熟し、吐糸して作り出すのが繭糸からなる繭であり、この繭を切り開き手で展開すると層状に剥がれる。これを繭層といい、本発明で使用できる。繭層を構成する繭糸表面は、にかわ質のセリシンで覆われており、この繭層から連続的に取り出したものが繭糸であり、複数の繭糸を繰糸工程で繰糸したものが生糸である。また、絹フィブロイン繊維を得るには、絹セリシンを精練処理により除去すればよい。家蚕繭糸の場合、例えば、炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液で煮沸処理すると絹セリシンは除去され、野蚕繭糸の場合、例えば、メタケイ酸ナトリウム及び炭酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸のような混合溶液で加熱処理すると絹セリシンは除去され、絹フィブロイン繊維となる。
【0019】
また、本発明では、細く切断した絹フィブロイン繊維をランダム状に集合体化させた絹不織布も利用できる。
さらに、絹以外のタンパク質繊維として、羊毛ケラチン等の天然有機高分子も使用できる。本発明で用いる羊毛ケラチン繊維は、例えば、次のようにして調製できる。メリノ種羊毛(64'S)に含まれる色素、脂肪分を、ベンゼン-エタノール(50/50(容積%))の混合溶液を用いて、ソックスレー抽出器で2.5時間処理することにより取り除き、本発明で用いる羊毛繊維を調製する。
本発明で用いられる絹、羊毛等の形状は、特に制限されるわけではなく、例えば、繊維、織物、編物、不織布、繊維複合体、又は粉末等であってもよい。
【0020】
本発明によれば、次の七通りの方法で被処理物を処理し、食害昆虫からの食害を抑制可能な素材を製造できる。
▲1▼上記一般式[I]で表す(メタ)アクリル酸誘導体であるグラフトモノマーでグラフト加工する方法。
▲2▼上記一般式[II]で表す(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩であるグラフトモノマーでグラフト加工する方法。
▲3▼上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材を天然の染料で染色する方法。
▲4▼上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材を一般の染料或いはコチニール等の動物性染料で染色し、これを金属イオン含有水溶液に浸漬して媒染処理する方法。
【0021】
▲5▼上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材を含金染料で染色する方法。
▲6▼上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材の染色時、染料の他にカテキン又はタンニン酸を添加した染色浴で染色する方法。
▲7▼上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材を一般の染料で染色した後、カテキン又はタンニン酸の水溶液で媒染処理する方法。
▲8▼カテキン若しくはタンニン酸の水溶液中に、上記▲1▼又は▲2▼の方法で加工しなかった素材又は加工した素材を浸漬処理する方法。
【0022】
上記の方法で、食害抑制素材を製造する手法を以下詳細に説明する。
▲1▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体としては、具体的には、例えば、トリフルオロエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、トリデカフルオロオクチルメタクリレート、ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルアクリレート、ノルボルニルメタクリレート、トリシクロ[5,2,1,02,6]デカニルアクリレート、トリシクロ[5,2,1,02,6]デカニルメタクリレート、トリシクロ[5,2,1,02,6]デセニルアクリレート、トリシクロ[5,2,1,02,6]デセニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート等が挙げられ、また、これらは、単独で用いても又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、一般式[II]で表される(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩としては、例えば メタクリル酸の銀塩、銅塩、鉄塩、亜鉛塩等、及びアクリル酸の銀塩、銅塩、鉄塩、亜鉛塩等が挙げられ、これらは単独で用いても又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施の形態では、以下、グラフト重合性に優れた(メタ)アクリル酸誘導体を例にとり説明する。
本発明の食害抑制剤は、これら(メタ)アクリル酸誘導体のみを有効成分として構成されていてもよいし、これら(メタ)アクリル酸誘導体を水、アルコール等に溶解した溶液の形態であってもよく、また、(メタ)アクリル酸誘導体が難溶性であるときは、(メタ)アクリル酸誘導体を分散剤にて水、アルコール等に分散させてなる分散液の形態であってもよい。
本発明の食害抑制剤は、その形態が液状であるときは、繊維等の製品を浸漬したり、また、塗布したりして付着処理することにより繊維等の製品に食害抑制機能を付与することができ、また、塗布、スプレイ等の方法を用いることにより浸漬処理し難い住宅建材、家具等の二次製品に簡易に食害抑制機能性を付与することもできる。
【0024】
また、本発明で用いる一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体は、炭素-炭素二重結合を有し、重合性を有することから、(メタ)アクリル酸誘導体のままで被処理物に適用し、その後重合させることもできるし、また、(メタ)アクリル酸誘導体の重合体、又はこの単量体と重合体とで構成した有効成分を被処理物に適用してもよいい。また、この重合体は、(メタ)アクリル酸誘導体と共重合可能な不飽和化合物との共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリル酸誘導体の重合体を含む食害抑制剤は、公知の有機高分子からなる樹脂に対して混練、混合等をすることにより、樹脂自体に食害抑制効果を付与することもできる。
【0025】
(メタ)アクリル酸誘導体の重合には、任意の公知の方法を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体を、過硫酸アンモニウム等の任意の重合開始剤及び界面活性剤を含み、さらにグラフト重合の効率を上げるために酸等で酸性とした水性系で加熱重合する方法を用いることもできる。
本発明の食害抑制剤は、食害昆虫に対して優れた食害抑制効果を示し、樹脂製品等を含めて各種製品に食害抑制効果を付与することができるものであり、特に本発明の食害抑制効果を持つ有効成分である一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体を付着させた繊維又は繊維製品は、食害抑制機能を持つ繊維又は繊維製品として有用なものである。
【0026】
本発明による食害抑制素材を製造するためのグラフト加工は、通常、次のようにして行われる。
グラフトモノマー(一般式[I]、[II])を界面活性剤により分散させて得た水分散液中に、天然タンパク質繊維又は繊維製品を入れ、所望により重合開始剤を添加してグラフト重合を行わせる。重合開始剤としては、タンパク質にグラフト重合の拠点となるラジカルを発生するラジカル触媒であれば、任意のものを適宜用いることができ、例えば、繊維特性を低下させないようにするためには過硫酸アンモニウムが好ましい。天然タンパク質に導入できるモノマー量はグラフト加工率(以下、単に「加工率」と称す。)に依存し、モノマー使用量、すなわち加工率は、グラフトモノマーの使用量、処理温度、処理時間、処理されるタンパク質の種類等に応じて、所望により適宜調整することができる。
【0027】
具体的なグラフト加工の加工条件の例は次の通りである。
所定量の上記グラフトモノマー、グラフト重合開始剤(例えば、過硫酸ナトリウム2.5%owf)、蟻酸(例えば、2mL/L85%蟻酸)を含む溶液に、さらにモノマー重量に対して所定量(例えば、12wt%)の乳化剤を加えて混合溶液を得、その溶液中に天然タンパク質繊維を浸漬し(例えば、浴比1:20)、グラフト加工する。恒温装置又はオーバーマイヤー型染色試験器(密閉型)等を用い、グラフト加工用溶液を、例えば、常温から80℃まで20分間で昇温せしめた後、40分間、同温度を保持して反応を進める。反応終了後、タンパク質繊維を水洗し、さらに、ハイドロサルファイトナトリウム水溶液(1g/L)にノイゲンHC(1mL/L:商品名、第一工業製薬(株)製非イオン界面活性剤)を添加した混合溶液中で、70℃、20分間還元洗浄を行う。水洗後、風乾し、次いで、標準状態(20℃、65%RH)で調湿させ、グラフト加工された繊維試料を作製する。
【0028】
本発明では、上記のとおり、食害抑制効果を持つグラフト試薬でグラフト加工することにより絹や羊毛等の天然タンパク質繊維や繊維製品に対して食害抑制機能を付与することができる。また、下記に示すように、羊毛等を染料で染色する第1段階の処理に引き続き、いろんな色調に発色させるため、染色した羊毛等を金属イオン含有水溶液に浸漬し加熱する、すなわち媒染処理による第2段階の処理を行うことで食害抑制素材を調製することも可能である。この場合に、羊毛等が▲1▼のように処理されたものでも、処理されないものであってもよい。
【0029】
▲2▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
例えば、メタクリル酸の銀塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩、クロム塩等や、アクリル酸の銀塩、銅塩、亜鉛塩、コバルト塩、クロム塩等を用い、従来公知の方法で、例えば▲1▼記載のような方法で、天然タンパク質繊維又は繊維製品をグラフト加工することにより食害抑制素材を製造できる。
【0030】
▲3▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
(1)野蚕のクリキュラ繭から取り出したクリキュラ繭抽出色素で、上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工されていない素材又は加工された素材を染色する。
(2)植物色素のラックダイ、五倍子、カテキュー、赤キャベツ、紫根で、上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工されていないで素材又は加工された素材を染色する。
(3)動物由来の色素であるコチニールやキハダで、上記▲1▼若しくは▲2▼の方法で加工されていない素材又は加工された素材を染色する。
植物由来の天然色素で試料を染色するには、試料重量に比べて10~80%owfの色素を含む染色浴を用い、酢酸の希薄水溶液を染色浴に加えて染色浴のpHを5~6に調整し、浴比1:50で、40~70℃、好ましくは55~65℃で1時間染色処理すればよい。
本発明における天然色素としては、主としてコチニールを用いたが、これは羊毛、絹等のタンパク質繊維によく染まること、耐候性も向上する点に着目したからである。
【0031】
グラフト加工用試料:
本発明の食害抑制機能を持つ素材は、繊維及び繊維製品に一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体がグラフト加工により付着されてなるものであり、繊維としては、上記したように、家蚕、野蚕等の絹繊維、羊毛繊維等の動物性タンパク質繊維が挙げられ、特に絹繊維、羊毛繊維が好ましい。繊維の形態は、綿、糸、織物、編物、不織布等の布帛或いはこれら糸、布帛からなる繊維製品のいずれであってもよい。
本発明の食害抑制機能を持つ素材において、(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体をグラフト重合により被処理繊維等の表面及び/又は内部に強固に付着させることは、食害抑制効果をより長い時間持続させるうえで好ましいことである。
【0032】
本発明の食害抑制機能を持つ素材である繊維等は、次の方法により製造される。
すなわち、被処理繊維を一般式[I]で表される(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体の溶液又は分散液にて付着処理することより製造される。
(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体の溶液又は分散液は、(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体が、水溶性であれば水溶液、アルコール可溶性であればアルコール溶液、或いは水不溶性であれば界面活性剤等の分散剤により分散させた水分散液とすることがグラフト重合の効率を上げる点で好ましい。
【0033】
付着処理する方法としては、(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体の溶液又は分散液を処理液とし、(a)処理液中に重合開始剤を存在させて被処理繊維を浸漬し、この繊維に対し(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体をグラフト重合させる処理方法、及び(b)処理液中に被処理繊維を浸漬して付着処理する方法が用いられる。その他に、(c)処理液を繊維に塗布又はスプレイして乾燥する方法等も用いられる。これらの方法のうち、特に(a)の方法は、より多くの(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体を被処理繊維に付着せしめること、耐久性に優れた食害抑制効果を有する繊維素材が得られること、また、繊維特性の劣化が軽微なることから好ましく用いられる。特に、被処理繊維として絹繊維、羊毛繊維を用いたときにおいて、(a)の方法は、有効な方法である。
【0034】
(a)の方法における重合開始剤としては、繊維にグラフト重合の拠点となるラジカルを発生させるラジカル触媒であれば、任意のものが用いられ、繊維特性を低下させない点で過硫酸アンモニウムが好ましく用いられる。(b)の方法においては、浸漬した後、必要により処理物を水で洗浄し、加熱乾燥するか或いは加温下に浸漬してもよく、また、(c)の方法においては、加熱下に乾燥してもよい。
(a)、(b)或いは(c)の付着方法における処理液中の(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体の使用量、処理温度、処理時間等の条件は、処理される繊維の種類、食害抑制機能付与の程度、食害抑制機能を持つ繊維の用途等により、適宜変更することができる。繊維へ付着する(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体の量としては、優れた食害抑制機能性の効果を発揮させるうえからは、加工率として、一般に少なくとも0.01重量%あればよく、好ましくは5重量%以上あればよい。付着量の上限は、製造コスト等を考慮して適宜選択すればよい。
【0035】
▲4▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
媒染処理に用いる金属イオンとしては、Al、Cu、Fe、Ti、Cr等のイオンが例示でき、これらの金属イオンで媒染するには、酢酸銅、木酢酸鉄、チタン媒染液、アルミみょうばん、クロムみょうばん等を用いて処理すればよい。この金属イオン含有水溶液の金属イオン濃度は、1~15g/L、好ましくは1~5g/Lである。この金属イオン含有水溶液に脱脂羊毛又はグラフト加工された脱脂羊毛を浸漬し、40℃~80℃、好ましくは55~75℃で30分~2時間加熱処理すればよい。
【0036】
▲5▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
Cr、Cu、Co等の金属イオンを含む含金染料で脱脂羊毛又はグラフト加工された脱脂羊毛を染色することにより、食害抑制素材を製造することができる。
含金染料の濃度は、一般に2~3%、好ましくは0.1~0.5%、さらに好ましくは0.05~0.2%であり、例えば、下記の含金染料を使用できる。
Cr-complex dyes:
Acid Black 54(CI=14885)、Acid Black 124(CI=15900)、Acid Red 184(CI=1 5685)、Acid Red 187(CI=16265)、Acid Blue 193(CI=15707)、Acid Violet 58(CI=16260)、Acid Blue 234(Kayakalan Blue Black RL)、及びAcid Black 155(Kayakalan Black 2RL)
Co-complex dyes:
Acid Brown 86(CI=17620)、Acid Blue 42(CI=17255)、Acid Violet 91(CI=1 5681)、及びDirect Violet 46(CI=17595)。
Cu-complex dyes:
Direct Yellow 88、Direct Blue 165、及びDirect Green 80。
【0037】
▲6▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
カテキン又はタンニン酸を添加した一般の染料を含んだ染色浴で繊維若しくは繊維製品又はグラフト加工された繊維若しくは繊維製品を染色処理することにより、食害抑制素材を製造することができる。この染色浴中に含有するカテキン、タンニン酸の濃度は、0.5~3%owf、好ましくは1~2%owfである。
【0038】
▲7▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
繊維若しくは繊維製品又はグラフト加工された繊維若しくは繊維製品を一般の染料で染色後、カテキン又はタンニン酸の水溶液で媒染処理することにより食害抑制素材を製造することができる。このカテキン、タンニン酸の濃度は、0.5~3%owf、好ましくは1~2%owfである。
▲8▼の方法で食害抑制素材を製造する場合:
1~10%owf、好ましくは2~5%owfのカテキン水溶液若しくはタンニン酸水溶液中に繊維若しくは繊維製品又はグラフト加工された繊維若しくは繊維製品を浸漬処理することにより食害抑制素材を製造できる。
なお、アクリル酸誘導体でグラフト加工した素材は、加工率が同じであれば、メタクリル酸誘導体でグラフト加工した素材よりも食害を受け難いことが分かった。但し、アクリル酸誘導体の金属塩、メタクリル酸誘導体の金属塩でグラフト加工した素材の食害割合には大差は見られなかった。
【0039】
【実施例】
以下、実施例及び製造例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例に先立ち食害実験に用いた食害昆虫と食害割合の定義を下記に示す。また、実施例で用いた被処理繊維、この繊維へのグラフト加工、染色方法等についても説明する。加工繊維の物性値は下記の方法に拠って求めた。
【0040】
<食害昆虫>
旧蚕糸昆虫農業技術研究所、原蚕種製造研究室の繭倉庫に保管した乾繭保存用の布袋の中から、乾燥繭を飼料として増殖したヒメマルカツオブシムシ幼虫を採集し、継代した幼虫(3、4齢)を25℃、湿度70~80%RHのインキュベーター(三洋電機(株)製、MIR-153)内で市販のカツオブシ粉末を餌にして1年間飼育し、大きさと齢の揃った若齢のヒメマルカツオブシムシ幼虫を食害昆虫として用いた。
【0041】
<食害割合>
ヒメマルカツオブシムシによる食害試験は次のようにして行った。
飼育容器にヒメマルカツオブシムシと複数の試料を配置する「一括法」、また、飼育容器にヒメマルカツオブシムシと一種類の試料を配置する「個別法」による食害試験を行った。この一括法による試験では、プラスチック製容器(直径154mmφ、高さ20mm)として、Greiner社製のペトリシャーレ(No.639 102)を用いた。また、個別法による試験では、Kord-Volmark社製の小ペトリシャーレ(直径55mmφ、高さ15mm)を用いた。ペトリシャーレに被検試料及び大きさと齢とを揃えた所定頭匹のヒメマルカツオブシムシを入れ、光を遮った環境下で食害試験を行い、所定の期間の間、食害を観察した。すなわち、食害試験を開始後、1~4週間まで1週間ごとに試料量を化学天秤で秤量しながら次式により食害割合を調べた。
【0042】
食害割合(%)=〔(Wa-Wb)/Wa〕×100
Wa:食害試験前の被検試料の重量
Wb:食害試験後の被検試料の重量
【0043】
<被処理繊維>
被処理繊維としてメリノ種羊毛(64'S)を用いた。この羊毛試料をグラフト加工する前に、試料に含まれる色素、脂肪等の不純物を除去するため、ベンゼン-エタノール(50/50(容積%))の混合溶媒を用いて、ソックスレー抽出器で2.5時間処理し、脱脂羊毛を調製した。
【0044】
<被処理繊維へのグラフト加工>
ニューカルゲン1515-2H(商品名、竹本油脂(株)製非イオン/アニオン混合界面活性剤)6重量%を含む水溶液に希薄蟻酸を加えてpH3.0に調整した後、所定濃度のグラフトモノマーを加え、さらに重合開始剤として所定量の過硫酸アンモニウム(APS)を上記脱脂羊毛とグラフトモノマーとの合計重量に対し1.8%owf加えてグラフト加工液を調製した。グラフト加工液の浴比を1:15とし、羊毛を浸漬し25℃から45分かけて80℃に昇温し、80℃で60分加熱処理した。処理後、ノイゲンHC(商品名、第一工業製薬(株)製非イオン界面活性剤)10%を含む水溶液で85℃で30分洗浄し、105℃で2時間乾燥した。グラフト加工条件と得られた加工率との関係を表1に示す。
【0045】
なお、グラフト重合させたときの被処理試料の加工率は次式により求めた。
加工率(%)=(B-A)/A×100
上式中、Aはグラフト重合前の試料の重量、Bはグラフト重合後の試料の重量を示す。なお、各試料重量は105℃で2時間乾燥後に測定した。
【0046】
(表1)
JP0003899405B2_000002t.gif
【0047】
表1において、THFAはテトラヒドロフルフリルアクリレート、IBXMはイソボルニルメタクリレート、512Aはジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートである。
表1から、モノマーが異なっても羊毛に対するグラフト加工が良好に進むこと、また、モノマー濃度を増加することで羊毛への加工率が増大することが確かめられた。
以下の実施例では、これらのグラフトモノマーの他に、IBXA:イソボルニルアクリレート、THF:テトラヒドロフルフリルメタクリレート、511A:ジシクロペンテニルアクリレート等も使用した。
【0048】
<銀付着、銅付着繊維>
メタクリル酸の銀塩又は銅塩を用いて上記脱脂羊毛をグラフト加工した。すなわち、羊毛繊維へのグラフト加工は、2.5%owfの過硫酸ナトリウム、85%蟻酸(2mL/L)、及び40%owfのメタクリル酸の銀塩又は銅塩を含み、さらにモノマー重量に対して12%の乳化剤を加えて調製した混合溶液中に羊毛繊維を浸漬し(浴比1:20)、加熱処理することにより行った。常温から80℃まで20分間で昇温した後、40分間、同温度を保持して反応を進めた。反応終了後、水洗いし、ノイゲンHC(1mL/L)を添加した混合溶液中で、70℃、20分間還元洗浄を行った。水洗いし、風乾した後、標準状態(20℃、65%RH)で調湿させて金属含有加工羊毛繊維を作製した。かくして、銀、銅を含むグラフト加工羊毛を調製できた。
また、グラフト加工液に重合開始剤を加えることなく、また、グラフト加工液を加熱することなく、室温で脱脂羊毛を30分浸漬し、取り出して水洗いすることで銅付着、あるいは銀付着羊毛を調製した。
【0049】
<各種染料による染色方法>
クリキュラ色素:
野蚕由来でインドネシア産のクリキュラ繭20gを1,000mlの水で90℃、1時間煮出した後、煮出し水溶液をまず濾紙で、続いてポーラスサイズが5μm、1.2μmのミクロフィルターで濾過した。濾過したクリキュラ繭抽出色素(以下、単に「クリキュラ色素」又は「クリキュラ」と称す。)を含む液をクリキュラ染色液とし、このクリキュラ染色液に酢酸を添加してpH4.5に調整したクリキュラ染色浴で羊毛布を85℃で1時間染色した。
【0050】
ラックダイ、五倍子、カテキュー、赤キャベツ、紫根:
これらの染色剤としては、各植物より色素成分を抽出し、濃縮液体化した液体植物染料(市販品、田中直染料店製)を用いた。各染色剤を上記クリキュラ色素と同じ方法で濾過後吸光度測定に使用すると共に、20%owfの植物染料を含む水溶液を弱酸性(pH5~6)とし、この染料液を用いて、浴比1:50倍に設定し、羊毛布を60℃で1時間染色した。
【0051】
コチニール、キハダ:
コチニール、キハダ(市販品、田中直染料店製)を、それぞれ、羊毛重量の20%owf、50%owf使用し、浴比を1:50に設定し、沸騰水中で30分間煮出し、熱いうちに漉して一番染液を採った。再びコチニールとキハダに水を加えて最初と同じ要領で二番染液を得た。これらの染液を合併して冷えるまで静置後、染色浴を先ず濾紙で、続いてポーラスサイズが5μmのミクロフィルターで濾過した。濾液に羊毛布の目方の50倍になるように温湯水と酢酸3%とを添加して、羊毛布を60℃で1時間染色した。
【0052】
藍:
インド藍液(市販品、田中直染料店製)を用いてメーカー推奨の飽和染法に準じて羊毛布を染色した。
化学染料:
直接染料C.I. Direct Black 51(Kayaku Direct Fast Black conc.)5%owf、無水硫酸ナトリウム30%owfの染色溶液中で羊毛布を90℃で1時間染色した。
【0053】
<コチニールの抽出及び染色方法>
コチニールは次のようにして2回の熱水抽出を行い、この抽出液を染色浴として用いた。
コチニール50gを含む水1000mLを20分間沸騰させたものをステンレス製の篩(サイズ:200メッシュ)で濾過して第一抽出液とした。濾別したコチニールに新たに水400mLを加えて20分間煮沸したものを同様にステンレス製の篩(サイズ:200メッシュ)で濾過して第二抽出液とした。次に、第一抽出液と第二抽出液とを混合し、この混合水溶液を濾紙及びミクロフィルターで濾過して不純物のない染色浴を濾別した。これに水300mLを加えて全量3000mLのコチニール染色浴を調製した。
【0054】
被処理試料(羊毛)を上記コチニール染色浴に入れ、染色浴温度を室温から98℃まで40分かけて昇温し、98℃で1時間処理して試料を染色した。染色終了後、染色浴を自然放冷して室温にしてから試料を取り出し、水洗後、室温で乾燥させた。
<ウコンの抽出及び染色方法>
ウコン色素は、(資)比嘉製茶の市販品「春ウコン」を抽出することで調製した。ウコンの抽出及び染色は、上記コチニールの抽出と染色方法に準じて行った。
【0055】
<媒染方法>
アルミ媒染は、被処理試料(羊毛)を2g/L焼きミョウバン水溶液で処理して行った。銅媒染は2g/L酢酸銅水溶液、鉄媒染は5mL/500mL木酢酸鉄水溶液、チタン媒染は5mL/500mLチタン媒染水溶液、クロム媒染は5%クロムミョウバン水溶液を用いて行った。いずれの媒染処理の温度と時間も60℃、30分であった。
<含金染料による染色>
含金染料として、Kayakalan Blue Black RL又はKayakalan Black 2RLを用いた。1g/L濃度の染料を用い、1時間、98℃処理することにより染色した。直接染料(Kayaku Direct Fast Black conc.)による染色は、濃度1g/Lの染料を含む染色浴で1時間、98℃処理することにより染色した。
【0056】
<クリキュラ絹糸の調製>
濃度12g/Lの炭酸ナトリウム水溶液1,000mLに袋詰めしたクリキュラ繭8.56gを入れ、130℃で2時間精練した。精練後の重量は6.41g(練減率25.1%)であった。
次に、このクリキュラ繭を90℃、1時間水抽出した。続いて、クリキュラ繭をソックスレー抽出器によりエチルアルコールで5時間抽出した。
ラボ・オートクレーブ(三洋 MLS-3780)を用いて、クリキュラ繭62.45gを120℃で1時間処理し、更に130℃で1時間処理した。処理後の重量は52.61g(重量減少率15.76%)であった。このようにして精練したクリキュラ絹糸を調製し、試験に供した。
【0057】
(実施例1)グラフト加工羊毛の食害実験
グラフトモノマーとしてIBXM、THFA、512Aを用い、次のようにしてグラフト加工した羊毛を製造した。ニューカルゲン1515-2H(商品名、竹本油脂(株)製非イオン/アニオン混合界面活性剤)6重量%を含む水溶液に希薄蟻酸を加えてpH2.5に調整した後、所定濃度のIBXM、THFA、又は512Aを加え、さらに重合開始剤として所定量の過硫酸アンモニウムを上記脱脂羊毛とグラフトモノマーとの合計重量に対し1.8%owf加えてグラフト加工液を調製した。グラフト加工液の浴比を1:15とし、羊毛を浸漬し、25℃から80℃まで45分かけて昇温し、80℃で60分加熱処理した。処理後、ノイゲンHC(商品名、第一工業製薬(株)製非イオン界面活性剤)10%を含む水溶液で85℃で30分洗浄し、105℃で2時間乾燥した。
なお、一部の試料加工用のグラフトモノマー濃度は前記表1に示した。
【0058】
このようにしてIBXM、THFA、512Aでグラフト加工した結果、加工率がそれぞれ14%、32%、23%のグラフト加工羊毛を調製できた。なお、メタクリル酸の銅塩、銀塩でグラフト加工しても加工率は0.2%程度であった。
一個の小プラスチック培養器に10匹のヒメマルカツオブシムシと1種類の被検用試料を入れた「個別法」により、一週間毎に4週間まで食害試験を行った。なお、ヒメマルカツオブシムシの若齢幼虫(3齢と4齢)を小プラスチック培養器に10匹を入れ、これをインキュベーター(温度24±1℃)内に保管して4週間食害試験を続けた。試験は同一試料につき2回反復試験を行い、1週間毎に試料重量を秤量し、平均値をとり食害割合を算出した。得られた食害割合を表2に示す。
【0059】
表2中の試料の項において、対照区とは、未処理未加工の脱脂羊毛を意味し、IBXM、THFA及び512Aはそれぞれ、IBXM、THFA及び512Aを用いてグラフト加工した羊毛を意味し、銅とは、メタクリル酸の銅塩でグラフト加工した羊毛を意味し、また、IBXM/銅及びTHFA/銅はそれぞれ、IBXM及びTHFAでグラフト加工した羊毛にさらに第二段階でメタクリル酸の銅塩でグラフト加工した羊毛を意味する。それぞれの試料に対して食害試験を2回繰り返し、その結果の平均値を表2に示す。
【0060】
(表2)
JP0003899405B2_000003t.gif
【0061】
表2から明らかなように、IBXM、THFA、512Aでグラフト加工した羊毛をヒメマルカツオブシムシはほとんど食害せず(食害割合はほぼ0%)、グラフト加工により食害制御素材を製造できることが確認された。また、IBXM及びTHFAでグラフト加工した羊毛を引き続いてメタクリル酸の銅塩でグラフト加工すると100%の食害抑制効果が得られた。また、メタクリル酸の銅塩でグラフト加工した羊毛も、対照区の場合と比べて食害被害を受けないことがわかる。
なお、メタクリル酸の銅塩の代わりにその銀塩、亜鉛塩、コバルト塩、クロム塩等、アクリル酸の銅塩、銀塩、亜鉛塩、コバルト塩、クロム塩等を用いても同様な結果が得られた。また、羊毛のかわりに家蚕繭糸、野蚕繭糸、セリシン繭や、精練処理前の家蚕、野蚕、繭糸に対して上記と同様にグラフト加工した試料を用いて行った食害試験の場合も、羊毛の場合と同様に食害抑制効果が認められた。
【0062】
(実施例2)グラフト加工羊毛の機械的特性変化
実施例1に従ってIBXM、THFAでグラフト加工した羊毛についての機械的特性変化を、グラフト加工の前後で繊維製品の強度・伸度が劣化するか否かを評価した。得られた結果を表3に示す。
【0063】
(表3)
JP0003899405B2_000004t.gif表3から明らかなように、羊毛にグラフト加工を施しても、グラフト加工前後における羊毛の強度、伸度の劣化程度は軽微であり、機械的実用性能が劣悪と成らないことが実証された。
【0064】
(実施例3)個別法による染色羊毛の食害試験
第一段階の処理として脱脂羊毛をコチニール染料で染色し、その後、各種の色相に発色させるための第2段階の処理として、種々な金属イオンで媒染処理した羊毛、あるいは含金染料や直接染料で染色した羊毛について、その食害割合を次に記載する方法で調べた。一個の小プラスチック培養器に10匹のヒメマルカツオブシムシと一種類の被検用試料を入れた「個別法」により、一週間毎に4週間迄食害試験を行った。食害割合は、試験開始後、2、3、4週間目の試料重量変化から求めた。得られた結果を表4に示す。
【0065】
(表4)
JP0003899405B2_000005t.gif
【0066】
表4中、コチニール染とは、コチニールを染料に用いて染めた羊毛を意味する。コチニール染+Alとは、コチニールで羊毛を染色した後、焼きミョウバン水溶液を用いて媒染処理した試料を意味する。以下、同様に、コチニール染+Cu、Fe、Ti、Crは、焼きミョウバン水溶液の代わりに、酢酸銅水溶液、木酢酸水溶液、チタン媒染水溶液、クロムミョウバン水溶液を用いて媒染染色した羊毛を意味する。また、Kayakalan Blue Black RL、Kayakalan Black 2RL、Kayaku Black conc.はそれぞれ、脱脂羊毛を、含金染料であるKayakalan Blue Black RL若しくはKayakalan Black 2RL、又は直接染料Kayaku Direct Fast Black conc.で染色しただけの羊毛を意味する。
【0067】
表4において、コチニール染+Al、コチニール染+Cu、コチニール染+Fe、コチニール染+Ti、コチニール染+Crの場合の媒染処理条件の概要、及び含金染料染め、直接染料染めの条件の概要は次の通りである。
Al媒染剤としてはアルミみょうばんを用いた:2g/Lで60℃、30min.
Cu媒染剤としては酢酸銅を用いた:2g/Lで60℃、30min.
Fe媒染剤としては木酢酸鉄を用いた:5cc/500ccで60℃、30min.
Ti媒染剤としてはチタン媒染液を用いた:5cc/500ccで60℃、30min.
Cr媒染剤としてはクロムみょうばんを用いた:5%溶液で60℃、30min.
また、Kayakalan Blue Black RL、Kayakalan Black 2RL、Kayaku Direct Fast Black conc.)等の含金染料で羊毛を染色した。0.1%の含金染料を使用し、沸騰水中で1時間染色処理を行った。
表4から明らかなように、含金染料、直接染料で染色した羊毛は、対象区に比べて食害抑制効果があった。
【0068】
(実施例4)一括法による染色羊毛の食害試験
実施例3で用いたものと同じ試料の食害割合を「一括法」で評価した。
10種類の被検試料を一個の大型プラスチック培養器にほぼ一定の距離を隔てて配位する「一括法」により食害試験を行った。なお、この大型プラスチック培養器に100匹のヒメマルカツオブシムシ幼虫を入れて食害時間が4週間になるまで食害試験を行った。食害割合は、試験開始後、3、4週間目の試料重量変化から計算して求めた。得られた結果を表5に示す。
【0069】
(表5)
JP0003899405B2_000006t.gif表5から明らかなように、含金染料及び直接染料で染色した羊毛が最も食害抑制効果がよかった。
【0070】
(実施例5)天然染料で染着した染色羊毛の食害試験
各種染料(クリキュラ、ラックダイ、コチニール、五倍子、カテキュー、赤キャベツ、紫根、藍、キハダ、直接染料C.I. Direct Black 5)で染色した脱脂羊毛のヒメマルカツオブシムシに対する食害割合を調べた。小プラスチック培養器に被検用試料と10匹のヒメマルカツオブシムシ幼虫とを入れた個別法により、一週間毎に4週間迄、食害試験を行った。表6中、IBXM/赤キャベツ及び512A/赤キャベツは、それぞれ、実施例1の方法で羊毛をグラフト加工した後、実施例5と同様の方法で赤キャベツで染色加工した試料を意味する。食害割合は、試験開始後、1、2、3、4週間目の試料重量変化から計算して求めた。得られた結果を表6に示す。また、被染物の色相も表6に示す。
【0071】
(表6)
JP0003899405B2_000007t.gif
【0072】
表6から明らかなように、未加工未処理羊毛(対象区)は、食害試験1週間の時間経過までの食害量は低いが、2週間目あたりから食害量が次第に急激に増加するようになり、4週間でサンプルの70%以上が食べ尽くされた。紫根で染色した羊毛に対するヒメマルカツオブシムシの食害量は多く、食害試験4週間で60%程度の食害量となった。クリキュラ、ラックダイ、コチニール、五倍子、アテキュー、赤キャベツ、藍、キハダ等の天然染料で染色した羊毛の食害割合は低く、経過時間4週間の食害割合はいずれも15%程度前後であり、また、化学染料で染色した羊毛の食害割合は約30%であった。また、IBXM、512Aでグラフト加工した羊毛を更に赤キャベツで染色することにより、食害抑制効果が実質的に100%発現するに至った。
【0073】
(実施例6)家蚕繭糸の食害試験
グラフトモノマーとして512Aを用い、実施例1と同様の方法でグラフト加工した家蚕繭糸について食害試験を行った。食害割合は、試験開始後、1、2、3、4週間目の試料重量変化から計算して求めた。得られた結果を表7に示す。
(表7)
JP0003899405B2_000008t.gif
【0074】
表7から明らかなように、未加工家蚕繭糸は、食害試験の経過1週間以内での食害割合は低いが、2週間目あたりから食害割合が次第に急激に増加するようになり、4週間でサンプルの70%以上が食べ尽くされた。これに対して、本発明によるグラフト加工した家蚕繭糸の食害割合は著しく軽微で、4週間経過後でも10%以下であり、グラフト加工により家蚕繭糸の食害被害が著しく減少したことがわかる。
【0075】
(実施例7)カテキン、タンニン酸を含む試料の食害試験
黒系の直接染料(C.I. Direct Black 51(Kayaku Direct Fast Black conc.)で羊毛を染色する際、カテキン、タンニン酸を染色浴に加えて染色することで、食害抑制機能を持つ素材が調製できるかどうかを検討した。なお、用いたタンニン酸は和光純薬工業株式会社製の商品であり、また、カテキンは和光純薬工業株式会社製の商品である。
試料番号と試料の調製方法とを表8にまとめて示す。
【0076】
(表8)
JP0003899405B2_000009t.gif
【0077】
次に、表8に記載した染色加工羊毛の食害試験を行った。すなわち、プラスチック容器にヒメマルカツオブシムシ10匹と各試料とを入れ、個別法により食害試験を行った。1試料につき5回の繰り返し試験を行い、得られた食害割合の平均値を表9に示す。
【0078】
(表9)
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【0079】
表9から明らかなように、(1)タンニン酸、カテキンがヒメマルカツオブシムシの食害抑制効果を持つこと、また、(2)タンニン酸、カテキンを含む染色浴で染色しても、又は(3)通常の工程で染色した後、後処理としてタンニン酸、カテキン水溶液で処理しても、食害抑制効果を持つことが分かった。
【0080】
(実施例8)スプレー処理
実施例1で用いた各グラフト加工水溶液をスプレー装置で脱脂羊毛表面にスプレーした。室温で乾燥したものについて食害試験を行ったところ、実施例1と同様に各試料の食害割合は著しく低下することが確かめられた。
【0081】
(実施例9)耐久性と食害試験。
実施例1で作製したIBXMによるグラフト加工羊毛、THFAによるグラフト加工羊毛、512Aによるグラフト加工羊毛を、JIS規格の洗濯試験(JIS L1045)に準じ、石鹸を主剤とする試験液で洗濯した。洗濯試験後の各種グラフト加工羊毛の食害試験を行ったところ、表2に記載した食害割合と同一の値であり、洗濯により食害特性が変化することはなかった。
【0082】
(実施例10)亜鉛付着羊毛の食害抑制効果
実施例1で使用したメタクリル酸の銅塩の代わりにメタクリル酸の亜鉛塩でグラフト加工した羊毛の食害割合は、メタクリル酸の銅塩で加工した羊毛とほぼ同一の値となった。
上記実施例では、処理試料として繊維が太めでグラフト加工が施しやすい羊毛、家蚕繭糸について実施したが、素材として羊毛のみに限定されるものではなく、その他に、野蚕繭糸や、これらの繭糸からセリシンを除去した絹フィブロイン繊維を用いた場合であっても、また、精練処理前の家蚕繭糸、野蚕繭糸等を用いた場合であっても同様の食害抑制効果が得られた。
【0083】
【発明の効果】
本発明の食害抑制剤によれば、特定の(メタ)アクリル酸誘導体及び/又はその重合体、又は特定の(メタ)アクリル酸誘導体の金属塩を有効成分として含んでいるので、食害昆虫に対して優れた食害抑制機能を発揮することができる。
本発明の食害抑制素材によれば、グラフトモノマーとして、上記特定の物質を用いて天然タンパク質繊維及び繊維製品をグラフト加工しているので、繊維害虫による食害割合を軽減し、繊維及び繊維製品に対する食害昆虫からの被害を防ぐことが可能となる。しかも、グラフト加工に伴い繊維製品の機械的特性はほぼ未加工時のままであり、未加工時の特性を大幅に低下させることはない。また、人畜に有害な防虫、殺虫剤、昇華性防虫剤、防除剤を用いて繊維害虫を避ける従来の技術とは異なり、本発明の食害抑制素材は、人畜に無害であり、繊維製品と接しても、繊維製品にシミをつけたり、繊維製品の色合いを変色させたりする危険性は全くない。
【0084】
また、本発明の食害抑制素材は、上記グラフトモノマーの水分散液又は溶媒分散液中に天然タンパク質繊維及び繊維製品浸漬することによっても、また、これらの液を用いてスプレー方式等で天然タンパク質繊維及び繊維製品を処理することによっても製造でき、優れた食害抑制機能を有する発現することができる。このグラフト加工した素材は耐洗濯性に優れ、洗濯後も食害抑制効果は減退することはなく、長時間持続する。
本発明によれば、グラフト加工率を制御することで素材の食害抑制程度を変えることもできる。
【0085】
さらに、本発明によれば、従来公知の染料の染色浴にタンニン酸、カテキン等の食害制御物質を含ませて天然タンパク質繊維及び繊維製品を染色することにより、又は従来公知の染料でこの繊維及び繊維製品を染色した後、染料を繊維及び繊維製品中に固定させる目的で金属水溶液に浸漬する媒染処理を行うことにより、繊維及び繊維製品に対する食害昆虫からの被害を防ぐことができる。
本発明によれば、処理される素材として、羊毛の他に、家蚕繭糸、野蚕繭糸や、これらの繭糸からセリシンを除去した絹フィブロイン繊維を用いた場合であっても、また、精練処理前の家蚕繭糸、野蚕繭糸等を用いた場合であっても同様の食害抑制効果が得られる。
【0086】
本発明の食害抑制機能を持つ素材は、食害抑制機能の効果の耐久性に優れたものであるので、例えば、肌着、シャツ、ブラウス、パジャマ等の衣料品、寝装具、タオル、ハンカチ、包帯等の各種食害抑制機能を持つ製品として、或いはマット、シート、綿体、粉砕体等の食害抑制機能性製品の素材として好適なものである。
また、本発明の食害抑制機能を持つ素材は、衣料分野はもとより、農業、園芸分野においても利用できる。