TOP > 国内特許検索 > ヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤 > 明細書

明細書 :ヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3569741号 (P3569741)
公開番号 特開2001-316280 (P2001-316280A)
登録日 平成16年7月2日(2004.7.2)
発行日 平成16年9月29日(2004.9.29)
公開日 平成13年11月13日(2001.11.13)
発明の名称または考案の名称 ヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤
国際特許分類 A61K 38/00      
A61P  1/04      
A61P 31/04      
FI A61K 37/02
A61P 1/04
A61P 31/04
請求項の数または発明の数 1
全頁数 5
出願番号 特願2000-134391 (P2000-134391)
出願日 平成12年5月8日(2000.5.8)
審査請求日 平成12年5月8日(2000.5.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】老田 茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】小堀 麻子
参考文献・文献 特開平8-266279(JP,A)
特表平7-503451(JP,A)
調査した分野 A61K 38/00-58
CA(STN)
MEDLINE(STN)
REGISTRY(STN)
BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
アルファ型および/またはベータ型チオニンを有効成分として含有することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤に関し、詳しくは天然物由来で安全なペプチドを有効成分として含有するヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、慢性胃炎や胃潰瘍の発症に、細菌のヘリコバクター・ピロリが深く関与していることが分かってきた。わが国では、全人口の半数に相当する約6千万人がヘリコバクター・ピロリに感染していると言われている(食の科学、265巻、87~99頁、2000年)。
抗生物質等の投与によって胃中から本菌を除去することにより、慢性胃炎や胃潰瘍の治癒は可能であるが、患者によっては、除菌され難い場合があり、また抗生物質については耐性菌の出現や副作用の問題もある。
さらに、発症者だけでなく、感染者に対しても除菌を行うことが望ましいが、対象者数が膨大になるため、経済的に困難とされている。
【0003】
したがって、安全性が高く、容易に摂取可能で、かつ天然物に由来するヘリコバクター・ピロリ菌用の抗菌剤が求められている。なお、天然物由来のヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤としては、茶ポリフェノール(特許第3002919号)、果実ポリフェノール(特開平11-180888号公報)、ホップα酸およびβ酸(特開平10-25247号公報)が既に開示されているが、抗菌性ペプチドを用いた例は未だ報告がない。
ペプチドの場合、たとえ抗菌作用の種特異性が低くても、消化酵素によって分解されれば、腸内細菌は影響を受け難いものと考えられる。
【0004】
一方、麦類由来のアルファ型およびベータ型チオニンについては、これまでに植物病原性糸状菌に対する抗菌作用は知られている(Plant Science 、92巻、169~177頁、1993年)が、細菌であるヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗菌作用は報告されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、慢性胃炎や胃潰瘍の発症に関与するヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻害する作用を有し、かつ天然物に由来し、安全性の高い抗菌剤を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、種々の農作物からヘリコバクター・ピロリ菌用の抗菌性物質を検索したところ、麦類ペプチドであるアルファ型およびベータ型チオニンが、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻害する作用を有していることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、アルファ型および/またはベータ型チオニンを有効成分として含有することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌用抗菌剤に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるチオニンは、大麦、小麦、燕麦、ライ麦等の麦類の穀粒粉から食塩水や塩酸、硫酸、酢酸などの酸によって抽出することができ、またチオニン遺伝子を含む組換え微生物や植物を用いて生産することもできる。
アルファ型およびベータ型チオニンは、いずれも約45個のアミノ酸で構成され、そのうちシステインが約8個含まれており、しかもそれらのシステインの一部または全てがジスルフィド結合により内部架橋している構造を特徴とする。また、これらのチオニンは、酸性条件下でも変性せず、胃中で分泌されるペプシンでは分解されないが、腸内で分泌されるトリプシン等の酵素によって分解されることが明らかにされている(日本食品科学工学会第47回大会講演集、126頁、2000年)。
【0009】
麦抽出液を硫安塩析等により濃縮し、さらに高速液体クロマトグラフィーを用いることによって、チオニンを精製することができるが、精製途中の混合物(粗精製物)であっても抗菌作用を有しているものは、本発明に使用することができる。
大麦からのチオニンの抽出・精製法の一例は、Planta、176巻、221~229頁(1988年)に記載されており、他の麦類から抽出・精製する場合も、この方法に準じて行うことが可能である。
【0010】
大麦、小麦、燕麦のチオニンの全アミノ酸配列(Plant Molecular Biology 、26巻、25~37頁、1994年)やライ麦チオニンのアミノ酸組成(Journal of Agricultural and Food Chemistry、26巻、794~796頁、1978年)は既に知られている。なお、麦の品種によっては、公知のアミノ酸組成や配列と比べて、1個もしくは数個のアミノ酸残基が置換したり、付加もしくは欠失するペプチドが存在するが、目的とする抗菌作用を有しているかぎり、これらも本発明に用いるチオニンに包含される。
【0011】
本発明に係る抗菌剤は、様々な形態とすることができ、例えばチオニンあるいは粗チオニンを単独で用い、あるいは適当な助剤(例えば賦形剤、増量剤、甘味剤など)と共に用いて粉剤、液剤、錠剤、カプセル剤等の剤形とすることができる。この抗菌剤は、経口的に投与される。
胃中のヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻害するためには、チオニンを成人1人、1日あたり、精製品として1~1000mg、好ましくは50~200mg程度投与すればよい。
チオニンに対する耐性変異菌は未だ報告されておらず、またチオニンはトリプシン等の消化酵素で速やかに分解されることから、腸内細菌への影響は極めて小さいと考えられる。さらに、モルモットに103~229mg/Kg体重のチオニンを1回経口投与し、投与後7日間観察したが、異常は認められなかったと報告されている(Cereal Chem.、19巻、301~307頁、1942年)。
【0012】
【実施例】
以下に、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0013】
製造例1
大麦の1種である裸麦の「イチバンボシ」穀粒をサイクロンミルで粉末状にしたもの100gに蒸留水300mLを加え、4℃で1時間攪拌後、遠心分離し、上清を除いた。
次に、沈殿物に200mLの1M食塩水を加え、4℃で2時間攪拌したのち、遠心分離を行った。得られた上清を硫安(50-90%飽和)塩析し、回収した沈殿物をリン酸緩衝液を用いて懸濁した。その遠心上清を高速液体クロマトグラフィーに供することにより、精製大麦アルファ型およびベータ型チオニンを得た。カラムは、Wakosil 5C4-200, 4.6mmφ×250mm (和光純薬)を用い、0.1%トリフルオロ酢酸と0→40%(0→40mm)アセトニトリルを含む水(pH2.1)による濃度勾配溶出を流速0.5mL/minで行い、集めた画分は遠心濃縮器で乾固させ、アミノ酸分析およびマススペクトル分析により、アルファ型およびベータ型チオニンであることを確認した。「イチバンボシ」穀粒粉末1Kgあたりに換算して、37mgのアルファ型チオニンと12mgのベータ型チオニンをそれぞれ得た。
【0014】
実施例1
ヘリコバクター・ピロリ菌ATCC 43504株を羊血液寒天培地プレート(日水製薬)に塗布して16時間培養した後、製造例1で得た大麦チオニンの所定量を含む水溶液5μLを滴下し、さらに24時間培養した。培養は、プレートと酸素吸収、炭酸ガス発生剤のアネロパックヘリコ(三菱ガス化学)を嫌気ジャーに入れ、37℃で保温することにより行った。プレート上のチオニン水溶液を滴下した部位の菌の増殖阻害の有無を肉眼で判定した。結果を第1表に示した。なお、滴下されたチオニンは、寒天培地中で拡散する可能性があるため、実際の阻害濃度は滴下液の濃度よりも低いものと考えられる。
したがって、表中の50μg/mL滴下の場合も十分に阻害効果を有しているものと認められる。成人の胃の容積は約1.5Lであるから、1回に50μg×1500=75mgの大麦アルファ型チオニンを服用すれば、本菌の増殖を阻害できることになる。第1表の結果から、ベータ型の場合も同程度の服用量で十分な効果を奏するものと考えられる。
【0015】
【表1】
第 1 表
JP0003569741B2_000002t.gif
【0016】
製造例2
市販薄力小麦粉100gに0.15N塩酸300mLを加えて攪拌後、37℃で30分間静置し、再び攪拌したのち、遠心分離して得た上清に10N水酸化ナトリウム水溶液を滴下して中和した。これを再度遠心分離した。
このようにして得た上清を硫安(50-90%飽和)塩析し、回収した沈殿物をリン酸緩衝液を用いて懸濁した。その遠心上清を製造例1と同じ条件で高速液体クロマトグラフィーに供することにより、精製小麦アルファ型およびベータ型チオニンを得た。
集めた画分は遠心濃縮器で乾固させ、アミノ酸分析およびマススペクトル分析により、アルファ型およびベータ型チオニンであることを確認した。薄力小麦粉1Kgあたりに換算して、36mgのアルファ型チオニンと15mgのベータ型チオニンをそれぞれ得た。
【0017】
実施例2
製造例2で得た小麦アルファ型チオニンを使用して、実施例1と同じ条件でヘリコバクター・ピロリ菌に対する増殖阻害を調べた。結果を第2表に示す。表から明らかなように、小麦由来のチオニンも大麦由来のチオニンとほぼ同程度の阻害力が認められた。
【0018】
【表2】
第 2 表
JP0003569741B2_000003t.gif
【0019】
【発明の効果】
本発明により、天然物に由来し、安全性の高いチオニンを有効成分とする抗菌剤が提供される。この抗菌剤は、慢性胃炎や胃潰瘍の発症に関与するヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻害する作用を有している。しかも、酸性条件で変性しないし、ペプシンにより分解されないので、胃炎や胃潰瘍の改善や防止に有用である。