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明細書 :高分子ゲルの製造方法およびこの製造方法で得られた高分子ゲル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3747227号 (P3747227)
公開番号 特開2004-263081 (P2004-263081A)
登録日 平成17年12月9日(2005.12.9)
発行日 平成18年2月22日(2006.2.22)
公開日 平成16年9月24日(2004.9.24)
発明の名称または考案の名称 高分子ゲルの製造方法およびこの製造方法で得られた高分子ゲル
国際特許分類 C08J   3/00        (2006.01)
C08L  93/00        (2006.01)
FI C08J 3/00 CFJ
C08L 93:00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願2003-055168 (P2003-055168)
出願日 平成15年3月3日(2003.3.3)
審査請求日 平成15年3月3日(2003.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
発明者または考案者 【氏名】中嶋 光敏
【氏名】菊池 佑二
【氏名】岩本 悟志
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
審査官 【審査官】森川 聡
参考文献・文献 特開2000-128781(JP,A)
調査した分野 C08J 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
基板表面を疎水化処理した後に親水化処理し、次いでこの基板表面に天然高分子からなるゾルを流し出し、この天然高分子ゾルを冷却してゲル状とした後、基板から剥離することを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【請求項2】
前記基板表面には多数の凹部または凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項3】
前記疎水化処理はシランカップリング処理とし、前記親水化処理はアルコール処理とし、前記天然高分子はゼラチン、寒天(アガー)、ペクチン、カラギーナンなどのゾルゲル転移を引き起こす高分子多糖とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかの請求項に記載の高分子ゲルを架橋することで機械的強度を高めることを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゼラチンなどの天然高分子からなるゲルの製造方法とその製造法によって得られた特異な形状のゲルに関する。
【0002】
【従来の技術】
ゼラチンはコラーゲン分子を熱処理して得られる天然高分子であり、毒性がなく生体適合性に優れる。そこで、活性物質を含有させたゼラチンを皮膚に付着させ、皮膚から薬剤などを吸収させるようにしたパッチが従来から知られている。例えば、活性物質を含有させたゼラチンの皮膚と接触する側に、当該活性成分を溶解させる液体(水分)を保持した裏地を設けることで、パッチが付着する皮膚表面の不足水分を補う提案がなされている。(特許文献1)
【0003】
またゼラチンはゾル・ゲル変化し、機械的に高強度の皮膜を形成する機能を有し、体内で分解吸収され、ガスバリヤ性が高い。そこで従来から、DDS(ドラッグデリバリーシステム)のキャリヤ手段として、ゼラチンカプセルが用いられている。例えば、キトサンの粉末に油脂と乳化剤を加え懸濁させた原液をゼラチンカプセル内に充填したものが提案されている。(特許文献2)
【0004】
また、DDSのキャリヤ手段や食品素材として、天然高分子を用いてマイケルカプセル化したものやエマルションの形態にしたものが知られている。(特許文献3)
【0005】
【特許文献】
特許文献1:特開2000-128781公報
特許文献2:特開2000-290187公報
特許文献3:特開2001-269115公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に開示されるマイクロパッチは、ゼラチン層の形状が単純な板状であるため、ゼラチン層自体を水分保持能力のある構造にすることができず、裏地を設けなければならない。尚、特許文献1にはゼラチン層に微細孔を形成してもよいことが記載されているが、その実現手段については開示されていない。
【0007】
また、特許文献2などに示されるゼラチン製のカプセルは、カプセルの微細化、形状の自由度、大きさの均一性において満足するものが得られていない。
【0008】
一方、特許文献3のように、エマルションとすれば微細化と大きさの均一性は問題なくなるが、エマルションにはリン脂質、非イオン性のポリグリセリン脂肪酸エステル、プロビタンエステルなどの界面活性剤が不可欠である。これら界面活性剤は厚生省の認可を得たものであるが、界面活性剤自体有益な栄養素ではないため、できるだけ食品として用いることは避けたい。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以上の問題点を解決するため本発明に係る高分子ゲルの製造方法は、例えば、多数の凹部または凸部が形成された基板表面を疎水化処理した後、親水化処理し、次いでこの基板表面に天然高分子からなるゾルを流し出し、この天然高分子を冷却してゲル状とした後に剥離する。
【0010】
前記基板としては、シリコン基板を用いることができる。シリコン基板を用いることで集積回路の形成技術を利用して基板表面に微細な凹凸を形成することができる。尚、微細な凹凸が形成できる基板としてはシリコン基板の他に、ガラス基板やプラスチック基板でもよく、凹凸の形成方法としては機械加工、放電加工なども考えられる。
また、前記天然高分子としては、ゼラチン、寒天(アガー)、ペクチン、カラギーナンなどのゾルゲル転移を引き起こす高分子多糖が考えられる。
【0011】
ここで、何ら表面処理されていない基板表面にゼラチンなどの高分子ゾルを流し出すと、元々ゼラチンなどは接着剤(膠)としての機能があるため基板表面に強固に付着し、剥離することができなくなる。そこで、本発明にあっては基板表面にシランカップリング処理などの疎水化処理を施し、冷却後のゲル化した高分子を基板から簡単に剥離できるようにした。
しかしながら、基板表面を疎水化処理すると、基板表面に形成した凹部内に高分子ゾルが入り込みにくくなり、基板表面の形状を転写した高分子ゲルが得られなくなる。そこで、本発明にあっては疎水化処理後の基板表面にアルコール(エタノール)処理などの親水化処理を施し、凹部の隅々まで高分子ゾルが入り込むようにした。
【0012】
上記の方法によって得られる高分子ゲルの形状としては、一面側に多数の凹凸部を有するシート状のものが考えられる。各凹凸の大きさとしては一辺が10~400μm、深さが10~100μmが適当である。このシート状高分子ゲルに生細胞や薬剤を封入することで、皮膚の再生、傷口の保護や肌の美容用のパッチとして用いることができる。特に、シート状高分子ゲルは表面に微細な凹凸を有するため、間に水分などを保持することができ、また表面積が大きくなることで表面からの活性成分の放出能において優れる。
【0013】
また、高分子ゲルの別の形状としては、上記のシート状高分子ゲルのシートの部分を除去し凸部の部分を個々の微小ブロックとしたものも考えられる。シートの部分を除去するとは、一旦シート状にして除去する場合のほか、最初からシートの部分を成形しない場合も含む。
【0014】
微小ブロックとしてはキューブ状、円柱状など各種形状が考えられる。また、この高分子ゲルに生細胞や薬剤を封入することでDDS(ドラッグデリバリーシステム)に応用することができる。ゼラチンを高分子ゲルの材料とした場合には胃の部分で溶ける。したがって腸溶性とするには、更に高分子ゲルの表面にヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートやヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなどの腸溶性コーティングを施す必要がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る高分子ゲルの製造方法を説明した図、図2は基板に高分子ゾルが流し出された状態の拡大断面図である。
【0016】
高分子ゲルを製造するには、先ずゼラチンを入れたビーカを60℃の恒温装置に入れてゼラチン溶液とする。このゼラチン溶液を40℃の基板表面に滴下して膜状に広げる。
【0017】
ここで、基板は半導体ウェーハ(シリコン基板)を用いており、その表面にはホトリソグラフィー技術にて図2に示すように微細な凹凸が形成されている。凹凸部の寸法は任意であるが、例えば一辺が10~400μm、深さが10~100μm程度とする。
【0018】
凹凸部が形成された基板表面には、予め、シランカップリング処理によって疎水化処理を施した後に、アルコール(エタノール)によって親水化処理が施されている。何らの処理も施さないと、ゼラチンは基板表面に強固に付着し剥離することができず、疎水化処理のみでは基板表面に形成した凹凸部の隅々まで入り込むことができない。疎水化処理と親水化処理をこの順番で施すことで、図2に示すように、高分子ゾルが凹部内に隙間なく入り込み、基板表面の凹凸形状が正確に転写され且つ剥離しやすい高分子ゲルが得られる。
尚、高分子ゲルに生細胞や活性物質を封入する場合には、予め高分子ゾル中に生細胞や活性物質を混合しておく。
【0019】
次いで、ゼラチン溶液を基板表面に流し出したならば、基板を25℃で2時間保持し、更に5℃で一晩保持する。この冷却によって基板表面のゾルは硬化してゲル(ゼラチン膜)になる。そこで、ピンセットなどを用いてゼラチン膜を剥離する。
【0020】
図3は上記ゼラチン膜(シート状高分子ゲル)の拡大図であり、この実施例にあっては4種類の大きさの凹凸部を有する基板を用いて成形したゼラチン膜を示している。本発明によれば、基板に形成する凹凸部を変更することでゼラチン膜の形状を任意に制御できる。
【0021】
また、図4(a)~(d)は同シート状高分子ゲルを変形させた状態を示す図であり、(a)は凹凸部を形成した面を凹ませるように曲げ、(b)は畝状に曲げ、(c)は切断した部分を示し、(d)は凹凸部を形成した面を膨出させるように曲げた例を示している。これらの図から明らかなように、本発明に係るゼラチン膜(シート状高分子ゲル)は変形に強い。
【0022】
図5は別実施例を示す図3と同様の図である。前記した実施例にあっては凸部の形状を直方体としているが、この別実施例にあっては凸部の形状を円柱状としている。尚、剥離できる形状であれば凸部(凹部)の形状は上記に限定されない。
【0023】
また、高分子ゲルの機械的強度(硬さ)を向上することも可能である。例えば、高分子ゲルを0.5~5%のグルタルアルデヒド水溶液に一晩浸漬することで架橋させ、高強度のゼラチンたんぱく質からなる新規構造体(基板)を作製することができた。この新規構造体は細胞培養基板として利用することができる。また、グルタルアルデヒドの濃度を変えることで構造体(基板)の強度を制御することができる。
【0024】
細胞培養による組織再生は組織工学或いは再生医療プロジェクトとして取り組まれている。細胞が分泌した物質が主役を演じる結合組織などの再生は進展している。一方、細胞が特徴的な形態をとり、3次元配列することで高度な機能を発揮している実質組織の再生は困難な状況にある。組織細胞は細胞外マトリックスに接着してはじめて生存可能であり、さらにその細胞外マトリックスの幾何学的形状が細胞の形態変化を通して遺伝子発現に影響を及ぼし、それによって細胞の分化・増殖の制御に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。したがって、組織の形成と維持においても細胞外マトリックスの幾何学的形状が本質的な役割を果たしていると考えられる。
培養細胞の足場として従来の多孔質成形体などを用いるのでは、細胞の極性化と配列を導くことは困難である。細胞は方向性のない形態とランダムな配置をとり、その結果、生体内にあるときの機能を示さなくなるので、何らかの方法で立体パターニングされた細胞外マトリックスを培養系に導入することが求められる。
ここで、得られたゼラチン基板は、制御された微細空間構造を、細胞にやさしい生体高分子で構築していることを特徴とし、このゼラチン基板により、細胞の長期間保存が可能になる。
【0025】
図6は上記した架橋によって強度が増した高分子ゲル(ゼラチン)からなるエマルション生成用基板を示す。この基板には貫通穴が形成され、この貫通穴から分散相が供給され、供給された分散相は堰の表面に形成した凸部間のマイクロチャネルを介して連続相内に送り込まれ、エマルションが生成される。
マイクロチャネルのサイズとしては、幅10~400μm、深さ10~100μmのものが好ましい。
【0026】
尚、実施例としては天然高分子としてゼラチンを示したが、これ以外に寒天(アガー)、ペクチン、カラギーナンなども有効である。
【0027】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明に係る製造方法によれば、接着性に極めて富むゼラチンなどを成形する基板に、疎水処理と親水処理を施したことで、冷却後にゲル状の高分子を簡単に剥離することができ、任意の凹凸形状を有するシート状高分子あるいは任意の形状のブロック状高分子を得ることができる。
【0028】
そして、シート状高分子ゲルは変形能に優れたパッチ、微細ブロック状高分子ゲルは、その大きさを任意に定めることができるので、薬剤の徐放性のコントロールに優れたDDS用のマイクロカプセルなどに極めて有効である。
また、ゲル内に任意の細胞や化学物質を内包せしめることができるので、補助食品などとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る高分子ゲルの製造方法を説明した図
【図2】基板に高分子ゾルが流し出された状態の拡大断面図
【図3】同製造方法で得られたシート状高分子ゲルの拡大図
【図4】(a)~(d)は同シート状高分子ゲルを変形させた状態を示す図
【図5】別実施例を示す図3と同様の図
【図6】高分子ゲルによって作製したエマルション生成用基板の斜視図
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5