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明細書 :ストレスに応答する根特異的遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3731048号 (P3731048)
公開番号 特開2003-334084 (P2003-334084A)
登録日 平成17年10月21日(2005.10.21)
発行日 平成18年1月5日(2006.1.5)
公開日 平成15年11月25日(2003.11.25)
発明の名称または考案の名称 ストレスに応答する根特異的遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
C07K  16/16        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C07K 14/415
C07K 16/16
C12N 5/00 C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 14
出願番号 特願2002-144877 (P2002-144877)
出願日 平成14年5月20日(2002.5.20)
審査請求日 平成15年6月24日(2003.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】小松 節子
【氏名】小柴 共一
【氏名】澤 進一郎
【氏名】橋本 誠
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 The Plant Cell,1997,Vol.9,p.2243-2259
J.Plant Physiol.,1991,Vol.138,p.591-595
Physiologia Plantarum,1991,Vol.82,No.3,p.449-457
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01H 5/00
C07K 14/415
C07K 16/16
C12N 5/10
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA(STN)
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
植物に由来する、下記(a)から(e)のいずれかに記載のDNA
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、植物の根において塩化ナトリウムまたは乾燥による処理によりその産生が誘導されるが、アブシジン酸による処理によってはその産生が誘導されないタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、植物の根において塩化ナトリウムまたは乾燥による処理によりその産生が誘導されるが、アブシジン酸による処理によってはその産生が誘導されないタンパク質をコードするDNA;または
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と90%以上のアミノ酸配列の同一性を有し、植物の根において塩化ナトリウムまたは乾燥による処理によりその産生が誘導されるが、アブシジン酸による処理によってはその産生が誘導されないタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
塩化ナトリウムによる処理により発現が誘導され、アブシジン酸による処理によっては発現が誘導されない、請求項1(c)乃至(e)のいずれかに記載のDNA。
【請求項3】
乾燥による処理により発現が誘導され、アブシジン酸による処理によっては発現が誘導されない、請求項1(c)乃至(e)のいずれかに記載のDNA。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項9】
請求項6または7に記載の形質転換植物体の製造方法であって、請求項1に記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
【請求項10】
請求項1から3のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質。
【請求項11】
請求項10に記載のタンパク質に結合する抗体。
【請求項12】
配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の根由来の新規なストレス応答性のタンパク質および該タンパク質をコードする遺伝子、ならびに該遺伝子を利用した植物の改変に関する。本発明は、植物の品種改良などの分野において有用である。
【0002】
【従来の技術】
植物の耐塩性・耐乾性は農業および環境保全上重要な問題である。現在、地球上の約3分の1は乾燥地に属しているといわれ、現在も耕地や緑地の砂漠化が進んでいることから、その割合は将来増加することが予想される。2050年には世界人口が現在の1.5倍以上になるといわれ、食糧問題はますます深刻化することを考えると、耕作不適地、特に乾燥地でも育つ作物品種や栽培技術の開発は緊急を要する課題である。そこで、乾燥地の農業では、土壌における塩分集積が問題となっている。乾燥気候下では、蒸発散量が降水量を上回るため、排水が不完全な状態で潅漑を続けた場合、塩分を含んだ地下水位の上昇が促進されて塩分が地表に析出するため、土壌における多量な塩分集積に結びつく。その結果耕作が不能になる例は、チグリス—ユーフラテス文明の滅亡を代表に太古の昔から知られており、現在でも未だ問題になることが多い。以上のことから、作物の耐塩性・耐乾性を高めることは、乾燥地や塩分集積地の農業を進める上で重要な課題となっている(但野利秋 (1983) 化学と生物 21, 439-445 作物の耐塩性とその機構; 内山泰孝 (1988) 化学と生物 26, 650-659 塩性環境の農業利用)。
従って、塩あるいは乾燥等のストレスに応答する遺伝子が単離されれば、これを形質転換法により任意の品種に導入することによって、それらの系統の塩や乾燥等に対するストレス耐性の向上を図ることができる可能性がある。
【0003】
植物の環境応答に、地上部の葉や茎頂が重要な働きをすることは明白であるが、根は水や養分の吸収と連動した乾燥、塩、低温などのストレスに対応する調節機構を持ち合わせており、重要な役割を担っている。
そこで、植物の根における塩あるいは乾燥等に対するストレス応答性遺伝子の単離が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の根における新規なストレス応答性遺伝子を提供することにある。本発明の遺伝子は、単子葉植物、好ましくはイネ由来の遺伝子であり、さらに本発明は、該遺伝子を利用して植物を改良することをも目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、イネの根におけるストレス応答性タンパク質を同定し単離すべく鋭意研究を行なった。
本発明では、イネのプロテオーム解析による網羅的研究の一貫として、根の環境応答タンパク質を乾燥・塩・アブシジン酸に焦点をあて解析を行った。
【0006】
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は、植物の乾燥、低温ストレス応答や耐性の獲得、種子の成熟、休眠、発芽などの重要な生理機能に関与することが知られている。植物が乾燥や低温などの環境ストレスにさらされた時、生体内でABAが合成されることにより、植物細胞において種々の変化が起こり、環境ストレスに適応する能力を獲得するものと考えられている。
【0007】
具体的には、まず本発明者らは、播種後14日目のイネに対し、塩・乾燥の2種類のストレス処理、およびアブシジン酸処理を行い、根より抽出したタンパク質にストレス応答性のタンパク質が含まれることを発見した。候補タンパク質より、塩・乾燥処理により顕著にタンパク質量が増加するRO-292を同定した。RO-292のN末端から16アミノ酸の配列を決定し、この配列と一致する塩基配列をもつESTをDNAバンクから配布を受け、全長をシーケンスした結果、このESTは完全長cDNAであることが判明した。また、この完全長cDNAから推定されるアミノ酸配列はPR-10様タンパク質およびイネプロベナゾール誘導性タンパク質に対し約68%の相同性を有していた。
【0008】
さらに乾燥処理を行い、RO-292遺伝子の発現レベルをノーザンブロッティングによって解析した結果、葉よりも根において顕著な発現誘導が確認された。本発明者らはこのRO-292を根特異的遺伝子(Root specific induced gene)としてRSI1と名付けた。
また、RSI1は、乾燥ストレスおよび塩ストレスには応答するが、アブシジン酸には応答しないことから、アブシジン酸非依存的な環境ストレス耐性植物の作出に有用である。
【0009】
即ち、本発明者らは、植物の根に特異的に発現する塩あるいは乾燥ストレス応答性遺伝子RSI1を単離することに成功し、これにより本発明を完成するに到った。
本発明は、植物の根における新規なストレス応答性遺伝子に関し、より具体的には、
〔1〕 植物に由来する、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕 塩化ナトリウム処理により発現が誘導される、〔1〕に記載のDNA、
〔3〕 乾燥処理により発現が誘導される、〔1〕に記載のDNA、
〔4〕 アブシジン酸処理により発現が誘導されない、〔2〕または〔3〕に記載のDNA、
〔5〕 〔1〕に記載のDNAを含むベクター、
〔6〕 〔1〕に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞、
〔7〕 〔6〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
〔8〕 〔7〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体、
〔9〕 〔7〕または〔8〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
〔10〕 〔7〕または〔8〕に記載の形質転換植物体の製造方法であって、〔1〕に記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法、
〔11〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のDNAによりコードされるタンパク質、
〔12〕 〔11〕に記載のタンパク質に結合する抗体、および
〔13〕 配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、OsRSI1タンパク質をコードするDNAを提供する。本発明の上記DNAは、植物のストレスに応答して発現する性質を有する。より詳しくは、本発明のDNAは塩化ナトリウム処理もしくは乾燥処理により発現が誘導されるが、アブシジン酸処理によっては発現が誘導されない性質を有する。
【0011】
本発明のDNAが由来する植物としては、特に制限されないが、通常単子葉植物であり、好ましくはイネである。
【0012】
本発明のイネ「RSI1」遺伝子(OsRSI1)の塩基配列を配列番号:1に示す。またイネ「RSI1」遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
イネ「RSI1」の推定アミノ酸配列は、既知のストレス応答発現性タンパク質として知られるPR-10様タンパク質及びイネプロベナゾール誘導性タンパク質のアミノ酸配列と有意な相同性(68.75%)を有していた(図4)。従って「RSI1」タンパク質は、植物におけるストレス応答に重要な役割を果たしているものと考えられる。本発明のDNAは、植物の耐塩性あるいは耐乾性品種の作出に利用できるものと大いに期待される。
【0013】
本発明のDNAには、天然型「RSI1」タンパク質をコードするDNAのみならず、「RSI1」タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/若しくは付加したアミノ酸配列を有し、「RSI1」タンパク質と機能的に同等な変異タンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0014】
本発明のRSI1タンパク質をコードするDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、RSI1遺伝子を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、RSI1遺伝子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0015】
本発明は、配列番号:2に記載のRSI1タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。本発明のDNAの由来する植物種に特に制限はないが、好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくはイネ由来である。ここで「RSI1タンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質が植物のストレスに応答して発現する機能を有することを指す。より具体的には、例えば、塩化ナトリウム処理により発現が誘導される、もしくは乾燥処理により発現が誘導される機能を挙げることができる。その際、アブシジン酸処理により発現が誘導されないことが好ましい。
【0016】
本発明のDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0017】
また、変異は人為的に導入することもできる。塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界において生じ得る。アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)が挙げられる。このように天然型のRSI1タンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のRSI1タンパク質(配列番号:2)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0018】
あるDNAが植物のストレスに応答して発現する機能を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、被検DNAが導入された植物において、ストレス依存的に該タンパク質または該タンパク質をコードするmRNAが誘導されるか否かを調べることにより検証することができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム処理により発現が誘導される、もしくは乾燥処理により発現が誘導されるか否かを評価することによって、上記検証を行なうことが可能である。
【0019】
配列番号:2に記載のRSI1タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、RSI1遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、またRSI1遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からRSI1遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるRSI1タンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0020】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指すが、特にこれらの条件に限定されるものではない。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用れば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、RSI1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。
【0021】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268〈1990〉; Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877〈1993〉)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403〈1990〉)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0022】
また、本発明の上記DNAによりコードされるタンパク質も本発明に含まれる。本発明のDNAは、植物のストレス応答性、例えば、塩あるいは乾燥ストレス応答性が向上した形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。
【0023】
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法(Mandel, M. & Higa, A. (1970) Journal of Molecular Biology, 53, 158-162、Hanahan, D. (1983) Journal of Molecular Biology, 166, 557-580)を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記したマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。
【0024】
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間ののちに血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。
【0025】
本発明のDNAを利用して、ストレス応答性、例えば、塩あるいは乾燥ストレスに対する応答性が変化した形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。
【0026】
植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激(例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、高塩濃度環境、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因が挙げられる)により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al., Plant Mol.Biol., 1996, 30, 387.)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al., Plant Cell, 1990, 2, 95.)、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al., Mol. Gen Genet., 1993, 240,1.)、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al., Planta, 1994, 193, 57.)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87, 1406.)、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al., EMBO J., 1989, 8, 651.)、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 6624.)などが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0027】
ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Tokiら (1992) Plant Physiol. 100:1503-1507)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(単子葉植物の超迅速形質転換法(特許第3141084号))など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0028】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。このようにして作出された植物体は、野生型植物体と比較して、ストレス応答性、例えば、塩あるいは乾燥性に対するストレス応答性が向上していると考えられる。本発明の手法を用いれば、イネなどの有用農作物の生産性を向上させることができ非常に有益である。
【0029】
また、本発明は、配列番号:1に記載の塩基配列からなる本発明のDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを提供する。ここで「相補鎖」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70% 、好ましくは少なくとも80% 、より好ましくは90% 、さらに好ましくは95%以上の塩基配列の同一性を有すればよい。このようなDNAは、本発明のDNAの検出や単離を行なうためのプローブとして、また、増幅を行うためのプライマーとして有用である。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0031】
播種後14日目のイネ(品種:日本晴)を用いて2種類のストレス、塩処理(100 mM NaCl、24時間処理)と乾燥処理(15時間乾燥処理)及びストレスにより生合成が誘導されると考えられているアブシジン酸処理(0.1 mM ABA、24時間)を行った後、根のタンパク質を抽出し二次元電気泳動によりパターンを比較し、ストレス応答性タンパク質を検出した(表1)。
【0032】
【表1】
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【0033】
表1中、RO-287、RO-288、RO-292は、塩処理及び乾燥処理で増加する候補タンパク質であり、RO-281は2次元電気泳動の条件検討の結果選られた新たな候補タンパク質である。RO-A、RO-B、RO-Cはナンバリングされていないスポットである。
結果、乾燥及び塩処理により顕著にタンパク質量が増加するRO-292を同定した(図1)。
RO-292のN末端から16アミノ酸の配列を決定し、この配列と一致する塩基配列を持つESTをDNAバンクから配布を受け、全長をシーケンスした。その結果、このESTは完全長cDNAであり(図2)、ペプチドのシーケンスで決定された配列を持っていた(図3)。その推定アミノ酸配列はPR-10様タンパク質及びイネプロベナゾール誘導性タンパク質と相同性が68.75%であった(図4)。
さらに、RO-292の遺伝子発現レベルでの解析を行うため、プロテオーム解析と同じ条件下で乾燥処理を行い、ノーザンブロッティング解析を行った。その結果、葉よりも根において顕著な発現誘導が確認された(図5)。
本発明者らは、RO-292を根特異的遺伝子(Root specific induced gene)として、RSI1と名付けた。
【0034】
【発明の効果】
本発明において、単離された根特異的遺伝子RSI1は、植物体内で発現させることにより、該植物体にストレス応答性を付与することができると考えられる。
本発明の遺伝子は、乾燥ストレス及び塩ストレスに応答するがアブシジン酸に応答しないことから、アブシジン酸非依存的な環境ストレス耐性イネの作出に役立つ。このため、例えば、イネなど有用農作物に導入することによりストレス応答性を改変し、乾燥地等においても塩害を受けず、農作物の収穫量を増大させる上で大いに貢献しうる。
【0035】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 イネ根のタンパク質の二次元電気泳動パターンを示す写真である。Aは対照区、Bは塩処理(100 mM NaCl、24時間処理)、Cは乾燥処理(15時間乾燥処理)、DはABA処理(0.1 mM ABA、24時間処理)を示す。RO-292(OsRI1を示す)は塩処理と乾燥処理で顕著な誘導を示した。
【図2】 RO-292の完全長cDNAの塩基配列(配列番号:1)を示す図である。RO-292は744塩基からなる遺伝子である。
【図3】 RO-292の推定アミノ酸配列(配列番号:2)を示す図である。RO-292は160アミノ酸からなる。下線部分はペプチドのシーケンスで決定された配列APVSISDERAVSVSAEXXXK(配列番号:3)を表す。
【図4】 BLAST法によるRO-292アミノ酸配列と相同性を示すタンパク質の検索結果を示す図である。
【図5】 RO-292遺伝子の乾燥応答性を検証するため、15時間の乾燥処理後、葉と根からmRNAを抽出し、ノーザンブロッティング解析を行った結果を表す写真である。葉よりも根において顕著に発現が誘導された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4