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明細書 :低温ストレスに応答するCRTintP遺伝子およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3839344号 (P3839344)
公開番号 特開2003-310267 (P2003-310267A)
登録日 平成18年8月11日(2006.8.11)
発行日 平成18年11月1日(2006.11.1)
公開日 平成15年11月5日(2003.11.5)
発明の名称または考案の名称 低温ストレスに応答するCRTintP遺伝子およびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
C12N 5/00 C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 27
出願番号 特願2002-121275 (P2002-121275)
出願日 平成14年4月23日(2002.4.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2001年12月10日に、神奈川県のパシフィコ横浜で開催された第24回日本分子生物学会年会合においてArun Sharma氏らによって発表された事項(演題番号2P-079) (対応講演要旨;第24回に本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集、494頁、2P-079)
審査請求日 平成15年7月1日(2003.7.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小松 節子
【氏名】シャルマ アルン
【氏名】橋本 純治
【氏名】坂口 謙吾
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】小暮 道明
調査した分野 C12N 15/00-90
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JMEDPlus(JDream2)
PubMed
SwissProt/PIR/Geneseq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)~(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする植物由来のDNAであって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を示すアミノ酸配列を有し、低温耐性を付与できる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含むベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞。
【請求項4】
さらに、カルレティキュリンをコードするDNAで形質転換された、請求項3に記載の形質転換植物細胞。
【請求項5】
請求項3または4に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項7】
請求項5または6に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項8】
請求項5に記載の形質転換植物体の製造方法であって、
(a)請求項1に記載のDNA、または
(b)請求項1に記載のDNAおよびカルレティキュリンをコードするDNA
を植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低温ストレスに応答するCRTintP遺伝子およびその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物は通常の生育温度(植物種によって異なる)の範囲以外では、生育障害や生殖障害を起こし、種の保存にとって極めて不利な状況(強いストレスがかかっている状況)に置かれる。そのため、高温ストレスや低温ストレスに対して、植物は特定の遺伝子発現を誘導してストレスに対応する仕組みを有している(佐藤直樹,組織培養,19: 357〈1993〉; Thowashou M, Adv. Genet., 28: 99〈1990〉)。低温ストレスに対しては、(Koga-ban Y, Abe M, Kitagawa Y, Plant Cell Physiol., 32: 901-905〈1991〉)などの例に見られるように、低温ストレスがかかってから数日後に遺伝子発現が誘導されるなど、ストレス応答に時間がかかる例が多い。
【0003】
細胞質カルシウムは、動物や植物において、多くの内在性シグナル、または、環境性シグナルのためのセカンドメッセンジャーとして認識されている。植物においては、細胞質カルシウムの上昇は、オーキシンやアブシジン酸のようなホルモン、低温ストレスや機械的ストレスのような非生物性の環境シグナル、共生生物や病原体の認識に関与する生物性のシグナルによって引き起こされる。
【0004】
カルシウム結合タンパク質であるカルレティキュリン(CRT)は、細胞接着、細胞内カルシウムのホメオスタシスの維持、タンパク質フォールディング、環境ストレス応答に関与する多機能調節因子として動物では働いている(Kwor MS, Park CS, Choi K, Ahnn J, Kim JI, Eom SH, Kaujman SJ, Song WK, Mol. Biol. Cell 11: 1433-14443〈2000〉)。すでに、CRP55、Calregulin、HACBP、ERP60、CALBPおよびCaBP3は全てCRTであると確認されている。また、イネのCRTは、クローニングされており、イネカルスの再分化率の抑制及びイネの茎葉伸長制御に関与していることが知られている(Li Z, Komatsu S, Eur. J. Biochem., 267: 737-745〈2002〉)。しかしながら、その作用の分子機構は不明な点が多い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、CRTと相互作用するタンパク質をコードする遺伝子を単離・同定し、該遺伝子およびその利用方法を提供することにある。より具体的には、CRTintP遺伝子、該遺伝子を有する形質転換植物体、および、該形質転換植物体の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
CRTは他のタンパク質と相互作用して機能を発現することが知られているため(Corbett EF, Oikawa K, Francois P, Tessier OC, Kay C, Bergeron JJ, Thomas DY, Krause KH, Michalak M, J. Biol. Chem., 274: 6203-6211〈1999〉)、酵母のツーハイブリッド法(Fields, Song, Nature, 340: 245-246〈1989〉)を用いて、CRTと相互作用するタンパク質の遺伝子の単離を試みた。具体的には、イネ培養細胞由来cDNAライブラリーを用いたツーハイブリッド法を行ない、2回の実験群において対照と比較した。その結果、CRTと相互作用するタンパク質(CRTintPと命名)をコードする遺伝子が特異的に検出された。さらに、CRTintPをコードする完全長cDNAを単離し、該CRTintPをコードする遺伝子は、新規遺伝子であることを見出した。また、低温ストレス下のイネ葉身におけるCRT遺伝子及びCRTintP遺伝子の発現を解析した結果、CRT遺伝子及びCRTintP遺伝子は、共に低温ストレス15分後に顕著に発現し、30分で既にピークに達していることが明らかになった。
【0007】
即ち、本発明は、
〔1〕下記(a)~(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
〔2〕植物において低温ストレスに応答して発現する、〔1〕に記載のDNA、
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のDNAを含むベクター、
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞、
〔5〕さらに、カルレティキュリンをコードするDNAで形質転換された、〔4〕に記載の形質転換植物細胞、
〔6〕〔4〕または〔5〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
〔7〕〔6〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体、
〔8〕〔6〕または〔7〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
〔9〕〔6〕に記載の形質転換植物体の製造方法であって、
(a)〔1〕または〔2〕に記載のDNA、または
(b)〔1〕または〔2〕に記載のDNAおよびカルレティキュリンをコードするDNA
を植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法、
を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、CRTintPをコードするDNAを提供する。該DNAは、好ましくは植物において低温ストレスに応答して発現する性質を有する。
【0009】
本発明のDNAが由来する植物としては、特に制限はなく、イネ、ダイズ、ソバ、野菜、根菜、果菜、果実類などが例示できる。
【0010】
また、本発明においては、ある温度からその温度より低い温度に植物を移行させることで、低温ストレスを与えることができる。例えば、幼苗期(発芽後2週間)のイネの植物体あるいはセグメントを室温から5℃へ移行させる処理を経時的(例えば、2分~48時間)に行うことで、植物に低温ストレスを与えることができるが、この方法に限定されるものではない。
【0011】
本発明のCRTintPをコードするDNAとしては、例えば配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNAや配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0012】
また、本発明は、配列番号:2に記載のCRTintPと構造的に類似しており、CRT(カルレテイキュリン)と相互作用するタンパク質をコードするDNAを包含する。このようなDNAは、好ましくは植物において低温ストレスに応答して発現する性質を有する。
【0013】
あるDNAがCRTと相互作用するタンパク質をコードするか否かは、当業者に周知の方法で検証することができる。例えば、酵母のツーハイブリッド法、免疫沈澱法、アフィニティーカラム法、プロテインチップ法、センサー法などが挙げられる。
【0014】
また、あるDNAが低温ストレスに応答して発現するタンパク質をコードするか否かは、例えば、被検DNAが導入された植物において、低温ストレス依存に該タンパク質または該タンパク質をコードするmRNAが誘導されるか否かで検証することができる。
【0015】
このようなDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アリル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0016】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer W, Fritz H-J, Methods Enzymol 154: 350〈1987〉)が挙げられる。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得る。このように、CRTintPのアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のCRTintP(配列番号:2)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限りは、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ塩基配列が変異していても、その変異がタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わないこと(縮重変異)があるが、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0017】
配列番号:2に記載のCRTintPと機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern EM, J. Mol. Biol., 98: 503〈1975〉)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK, et al., Science, 230: 1350〈1985〉; Saiki RK, et al., Science, 239: 487〈1988〉)を利用する方法が挙げられる。すなわち、CRTintP遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、またCRTintP遺伝子(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からCRTintP遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは、当業者にとって通常行い得ることである。このように、ハイブリダイゼーション技術やPCR技術によって単離し得るCRTintPと同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた、本発明のDNAに含まれる。
【0018】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M 尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4% SDS、0.1×SSCの条件下では、より相同性の高いDNAを単離できることが期待される。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0019】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268〈1990〉; Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877〈1993〉)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403〈1990〉)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0020】
本発明のCRTintPをコードするDNAには、ゲノムDNA、cDNAおよび化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段により行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、CRTintP遺伝子を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、本発明のDNA(例えば、配列番号:1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで調製できる。また、本発明のDNA(例えば、配列番号:1)に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRを行って調製することも可能である。cDNAは、例えば、CRTintP遺伝子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAPなどのベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで、またPCRを行うことにより調製できる。
【0021】
また、本発明において、CRTintPをコードするDNAは、CRTと相互作用するタンパク質をコードするDNAとして同定された。一方、CRTをコードするDNAを用いることで、植物に矮化形質を付与できること、さらに、植物に低温ストレス応答性の形質を付与できることが知られている。よって、本発明のDNAは、このような有用なDNAを単離するためのツールになりうる。
【0022】
また、CRTintPは、イネカルスの再分化率の抑制及びイネの茎葉伸長制御に関与しているCRTと相互作用する。よって、CRTintPもまた、植物細胞の再分化率や植物の茎葉伸長を制御している可能性がある。本発明のDNAは、再分化率が改変された植物細胞や茎葉伸長が改変された形質転換植物体を作出することにも利用できると考えられる。
【0023】
本発明において、CRTintPをコードするDNAとCRTをコードするDNAはともに、低温ストレスに応答することが見出された。よって、本発明のDNAとCRTをコードするDNAはともに、低温に耐性を示す形質転換植物体を作出することに利用できる。
【0024】
本発明において、形質転換植物体を作製するには、本発明のDNA、または、本発明のDNAおよびCRTをコードするDNAが挿入されたベクターを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。
【0025】
本発明において、植物細胞が由来する植物としては、特に制限はない。また、植物細胞の形質転換に用いられるベクターは、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内で恒常的に遺伝子を発現させるためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることもできる。ここで言う「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0026】
植物細胞へのベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。アグロバクテリウムを介する方法においては、例えば、超迅速単子葉形質転換性(特許第3141084号)を用いることが可能である。また、パーティクルガン法においては、例えば、バイオラッド社のものを用いることが可能である。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki S, et al., Plant Physiol., 100: 1503〈1995〉)。
【0027】
例えば、イネにおいて形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールを用いてプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta SK: In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg, Eds) pp.66-74〈1995〉)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki S, et al., Plant Physiol., 100: 1503〈1992〉)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou P, et al., Biotechnology 9: 957〈1991〉)、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を細胞へ導入し、植物体を再生させる方法(Hiei Y, et al., Plant J., 6: 271〈1994〉)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。なお、パーティクルガン法により遺伝子を導入する細胞は、例えば、タバコBY-2細胞が挙げられる。タバコBY-2細胞は、例えば細胞バンク等から容易に得ることができる。
【0028】
ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなど)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNA、または、本発明のDNAおよびCRTをコードするDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、ならびに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0029】
このようにして作出された植物体は、野生型植物体と比較して、低温に耐性となっていると考えられる。よって、本発明の手法は、寒冷地などで農作物(好ましくは有用農作物)を収穫する上で非常に有益である。また、本発明の形質転換植物体を、本発明のDNAがコードするタンパク質の製造に利用することも可能である。製造されたタンパク質は、植物の矮化や低温ストレス応答などに関与するCRTおよびCRTをコードするDNAを単離するために有用である。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
CRTはイネカルスの再分化率の抑制及びイネの茎葉伸長制御に関与しているが、その作用の分子機構は不明な点が多い。その分子機構解明を目的に、酵母ツーハイブリッド法(Fields, Song, Nature, 340: 245-246〈1989〉)を利用して、CRTと相互作用する遺伝子群を検出した(表1)。具体的には、イネ培養細胞由来cDNAライブラリーを用いたツーハイブリッド法を行ない、2回の実験群において対照と比較した。その結果、CRTと結合するクローンの数は、実験1においては7個、実験2においては15個が得られた。これら22個について、遺伝子解析を行ったところ、全て同じRNA由来であることが明らかとなった。本発明者らは、CRTと相互作用するタンパク質をCRTintPと命名した。一方、対照として培養細胞で発現していない遺伝子であるルビスコアクチベース(RuBisCO activase)を用いてツーハイブリッドを行ったところ、CTRintPは結合しなかった。CRTと相互作用する残るクローンは、実験1においては無く、実験2においては6クローン得られた。残る6クローンはCTRintPをコードせず、それぞれ違うRNA由来と考えられるが機能未知であった。
【0031】
【表1】
JP0003839344B2_000002t.gif
【0032】
[実施例2]
検出されたCRTに結合する遺伝子について、2回の実験群において対照と比較して、多く重複して検出された遺伝子の部分配列を元に、cDNAライブラリー(イネ葉身由来のものを使用)をスクリーニングした結果、CRTintPの完全長cDNAを単離した。その結果、CRTintP遺伝子は3401塩基で966アミノ酸をコードする遺伝子(配列番号:1)であり、DDBJ等のデータベースには登録されておらず新規遺伝子であった。また、該遺伝子は、分子量約11万ダルトンのタンパク質をコードすることが判明した。
【0033】
[実施例3]
CRTintP遺伝子のゲノム中に存在する数を確認するために、[α-32P]dCTPで標識したCRTintP cDNA由来の2300塩基対のDNAプローブを用いて、42℃の条件下でハイブリダイゼーションを行い、サザンブロッティングを行ったところ、CRTintP遺伝子はイネゲノム中に1コピー存在することが明らかとなった(図1)。
【0034】
[実施例4]
パーテイクルガン法により、GFP融合CRTintPをタバコBY-2細胞に導入し、GFP融合CRTintPの細胞内局在を検討した。具体的には、5μgのDNA(GFP融合CRTintPをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターで発現させる構築)を3mgの金粒子にまぶして、1100psiの気圧で打ち込んだ結果、対照の細胞では蛍光を発しないが、GFP-CRTintP遺伝子を導入した細胞においては、緑色の蛍光を発していた。図2に示すように、発光部分の細胞における局在を観察すると、核内において発光していた。以上の結果から、CRTintPは核に存在することが明らかとなった。
【0035】
[実施例5]
CRTintPの組織特異性を検討するために、葉鞘、葉、根の組織からRNAを抽出し以下の条件で、ノザンブロッティングを行った。具体的には、RNAを1.2%の変性アガロースゲルで電気泳動を行い、CRTintPのcDNA由来の2300塩基対のDNAプローグを用いた。DNAプローグは32Pで標識を行い、ULTRA hybを用いて42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。その結果、CRTintP遺伝子は葉身でもっとも顕著に発現していることが明らかとなった(図3)。
【0036】
[実施例6]
CRT及びCRTintPの低温ストレスに対する応答性を検討するために、イネ(日本晴)を低温処理(25℃から5℃に移行し、その時の湿度は75%)してから毎時間ごとの試料(20個体からアトランダムに3回の繰り返しで試料を取る)を用いてノザンブロッティングを行った。その結果、CRTとCRTintP共に、低温ストレス条件下、15分から顕著に遺伝子発現が増加し、30分でピークに達し、その後徐々に減少していた(図4)。
【0037】
以上の結果から、CRT遺伝子と共にCRTintP遺伝子も低温ストレスに対して約30分後には顕著に遺伝子発現が誘導することが明らかとなった。このことから、これらの遺伝子を植物体に導入して過剰発現させることにより、形質転換体に低温耐性を付与できることが想定される。
【0038】
【発明の効果】
本発明者らによって、CRTintPをコードするDNAが提供された。該DNAは、CRTをコードするDNAの単離に使用できるだけでなく、低温ストレス作用の育種素材を開発することができる。
【0039】
【配列表】
JP0003839344B2_000003t.gifJP0003839344B2_000004t.gifJP0003839344B2_000005t.gifJP0003839344B2_000006t.gifJP0003839344B2_000007t.gifJP0003839344B2_000008t.gifJP0003839344B2_000009t.gifJP0003839344B2_000010t.gifJP0003839344B2_000011t.gifJP0003839344B2_000012t.gifJP0003839344B2_000013t.gifJP0003839344B2_000014t.gifJP0003839344B2_000015t.gifJP0003839344B2_000016t.gifJP0003839344B2_000017t.gifJP0003839344B2_000018t.gifJP0003839344B2_000019t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】 CRTintP遺伝子のサザンブロッテイングの結果を示す写真である。
【図2】 GFP融合CRTintPベクターの構造を示す図およびGFP融合CRTintPの細胞内局在を示す写真である。図におけるsGFP(S65T)はベクターの名前を示す。また、写真中のCONは対照を意味する。
【図3】 CRTintP遺伝子の組織特異性を示す写真である。
【図4】 CRT遺伝子及びCRTintP遺伝子の低温ストレスに対する応答性を示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3