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明細書 :アブラナ科植物根こぶ病に対する抵抗性遺伝子検出用マイクロサテライトマーカー、およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4366494号 (P4366494)
公開番号 特開2004-135554 (P2004-135554A)
登録日 平成21年9月4日(2009.9.4)
発行日 平成21年11月18日(2009.11.18)
公開日 平成16年5月13日(2004.5.13)
発明の名称または考案の名称 アブラナ科植物根こぶ病に対する抵抗性遺伝子検出用マイクロサテライトマーカー、およびその利用
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 6
全頁数 21
出願番号 特願2002-302280 (P2002-302280)
出願日 平成14年10月16日(2002.10.16)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成14年8月26・27日帯広畜産大学において開催された日本育種学会第102回講演会において発表
審判番号 不服 2005-021800(P2005-021800/J1)
審査請求日 平成14年10月23日(2002.10.23)
審判請求日 平成17年11月11日(2005.11.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】松元 哲
【氏名】平井 正志
【氏名】布目 司
【氏名】塚崎 光
【氏名】諏訪部 圭太
【氏名】藤村 みゆき
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)配列番号:1に記載の塩基配列における、55~96位
のマイクロサテライト配列を含むマイクロサテライト座
(b)配列番号:2に記載の塩基配列における、150~164位または227~241位のマイクロサテライト配列を含むマイクロサテライト座
(c)配列番号:3に記載の塩基配列における、468~530位のマイクロサテライト配列を含むマイクロサテライト座
(d)配列番号:4に記載の塩基配列における、179~226位のマイクロサテライト配列を含むマイクロサテライト座
のいずれかのマイクロサテライト座の型を検出することによる、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体の識別方法。
【請求項2】
以下の(i)~(iii)の工程を含む、請求項1に記載の識別方法。
(i)請求項1の(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト座を含むDNA領域を増幅する工程
(ii)増幅したDNAをゲル上で分離する工程
(iii)分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する工程
【請求項3】
請求項1または2記載の識別方法により、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を選抜する方法。
【請求項4】
アブラナ科植物がハクサイである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体の識別方法に使用される、以下(1)~(4)のいずれかに記載のPCRプライマー対。
(1)配列番号:1に記載の塩基配列における、
- 55~96位のマイクロサテライト配列の5’側に位置する領域の塩基配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、及び、
- 55~96位のマイクロサテライト配列の3’側に位置する領域の核酸配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、
で構成されるPCRプライマー対
(2)配列番号:2に記載の塩基配列における、
- 150~164位のマイクロサテライト配列の5’側に位置する領域の塩基配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、
及び、
- 227~241位の3’側に位置する領域の核酸配列に基づいて設計される合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、
で構成されたPCRプライマー対
(3)配列番号:3に記載の塩基配列における、
- 468~530位のマイクロサテライト配列の5’側に位置する領域の塩基配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、及び、
- 468~530位のマイクロサテライト配列の3’側に位置する領域の核酸配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、
で構成されるPCRプライマー対
(4)配列番号:4に記載の塩基配列における、
- 179~226位のマイクロサテライト配列の5’側に位置する領域の塩基配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチドからなるPCRプライマー、及び、
- 179~226位のマイクロサテライト配列の3’側に位置する領域の核酸配列に基づいて設計された合成オリゴヌクレオチド、又は、配列番号:12の塩基配列からなる合成オリゴヌクレオチドのいずれかからなるPCRプライマー、
で構成されるPCRプライマー対
【請求項6】
以下(1)~(4)のいずれかである、請求項5に記載のPCRプライマー対。
(1)配列番号:5の塩基配列からなるPCRプライマー、及び、
配列番号:6の塩基配列からなるPCRプライマー、
で構成されるプライマー対
(2)配列番号:7の塩基配列からなるPCRプライマー、及び、
配列番号:8の塩基配列からなるPCRプライマー、
で構成されるプライマー対
(3)配列番号:9の塩基配列からなるPCRプライマー、及び、
配列番号:10の塩基配列からなるPCRプライマー、
で構成されるプライマー対
(4)配列番号:11の塩基配列からなるPCRプライマー、及び、
配列番号:12の塩基配列からなるPCRプライマー、
で構成されるプライマー対
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アブラナ科植物の根こぶ病抵抗性個体の選抜に用いるDNAマーカー及び選抜法に関するものである。詳しくは特定のマイクロサテライト遺伝子座を検出しうる合成オリゴヌクレオチド並びに合成オリゴヌクレオチドを用いるDNA分析によって、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物を識別し、根こぶ病抵抗性個体を選抜する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
根こぶ病はアブラナ科野菜における最も重要な土壌病害の1つである。根こぶ病に罹病した根には、特徴的なこぶが形成され、栄養分や水分の吸収が阻害され、最終的には生育阻害、収量減を引き起こす。根こぶ病菌は休眠胞子の形で土壌中に長期間生育が可能であり、一旦発生すると防除が甚だ困難である。そのため、抵抗性品種の利用が本病害の回避に極めて効果的と言える。しかし、根こぶ病菌に対する抵抗性は多因子(量的形質; Quantitative trait loci, QTL)による遺伝を示す。そのため、抵抗性の育種素材を用い、交配による経済品種育成を試みる場合、形質の集積が困難で、かつ長期に渡る。本QTLの主動遺伝子に連鎖するDNA断片は同定されているが(非特許文献1参照)、このDNA断片はヘテロ接合体を識別できない優性マーカーであるため、抵抗性個体の選抜に用いるDNAマーカーとしては必ずしも有効ではなかった。また根こぶ病菌には複数に分化したレースに対応した抵抗性、すなわち実用レベルでの抵抗性を発現させるまでには至っていない。したがって、本病害の抵抗性に関わる他のQTLの同定が抵抗性品種開発の上で強く望まれていた。
【0003】
一方、育種現場においては、形質に連鎖したDNAマーカーの利用が、作業の効率化において非常に有効である。DNAマーカーには、RFLP(Restriction fragment length polymorphism)、AFLP(Amplified fragment length polymorphism)、RAPD(Random amplified polymorphic DNA)、STS(Sequence-tagged sites)、マイクロサテライト(SSR; simple sequence repeat)マーカーなどが知られているが、RFLP、SSRマーカーのみが共優性マーカーであり、他は優性マーカーである。ダブルハプロイド系統を用いて、ブラシカ・ラパの根こぶ病抵抗性遺伝子に連鎖する優性マーカーであるRAPDマーカーについては、既に知られている(特許文献1参照)。共優性マーカーは、供試個体の遺伝子型(ホモ/ヘテロ)の判別が可能で、育種における導入形質の固定に非常に有効である。しかし、RFLPマーカーは、純度の高いDNAを単離する必要があり、また、その後の分析も煩雑であるなど、労働時間さらには設備等におけるコスト面からも問題が多い。一方、SSRマーカーは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)ベースのマーカーであることから、純度の高いDNAは必要とせず、また、操作が極めて簡便で、高度な設備も必要としない。さらに、運用コストも低く抑えることが可能であることから、育種現場で利用しうるマーカーとしては現時点で最も優れていると言える。しかしながら、根こぶ病抵抗性遺伝子と連鎖したSSRマーカーが開発された例はない。
【0004】
【特許文献1】
特許第2730670号公報
【0005】
【非特許文献1】
Kuginukiら著, 「Euphytica」, 1997年, Vol.98, p.149-154
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、アブラナ科植物における根こぶ病抵抗性の新規QTLに連鎖するマイクロサテライトマーカーを提供し、このマーカーを用いた根こぶ病抵抗性個体の効率的な選抜方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、2~数塩基の短いヌクレオチド単位の繰り返し配列よりなるマイクロサテライト配列に着目し、ハクサイのゲノムDNAから数多くのマイクロサテライト配列を単離した。これらマイクロサテライト配列の両側の塩基配列を利用することで、それぞれのマイクロサテライト遺伝子座を特異的に増幅できるマーカーに変換した。さらに、これらマーカーから罹病性個体と抵抗性個体との間で多型性を示すマーカーをまず選抜し、次いで、罹病性個体との抵抗性個体交配後代集団を用い、本病原菌に対する表現型の分離パターンと、マーカーの多型分布を調査した。その結果、BRMS088(配列番号:1)、BRMS173(配列番号:2)、BRMS096(配列番号:3)とBRMS100(配列番号:4)のマーカーが、飼料用カブ(系統名:Siloga)由来の抵抗性親G004に由来する根こぶ病抵抗性QTLの2つと連鎖していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は配列番号:1、2、3および4に記載したマイクロサテライト配列を増幅しうる合成オリゴヌクレオチド配列、例えば、配列番号:5~12を提供すると共に、アブラナ科植物より抽出したDNAを鋳型とし、当該合成オリゴヌクレオチドを用いて増幅されたマイクロサテライト配列の長さの差異(多型)を調査することにより抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を選抜する方法に関し、より具体的には、
〔1〕 配列番号:1~4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA、
〔2〕 以下の(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA、
(a)配列番号:1に記載の塩基配列において、55~96位のマイクロサテライト配列
(b)配列番号:2に記載の塩基配列において、150~164位または227~241位のマイクロサテライト配列
(c)配列番号:3に記載の塩基配列において、468~530位のマイクロサテライト配列
(d)配列番号:4に記載の塩基配列において、179~226位のマイクロサテライト配列
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のDNAをPCR法によって検出することを特徴とする、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体の識別方法、
〔4〕 以下の(i)~(iii)の工程を含む、〔3〕に記載の識別方法、
(i)請求項1の(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅する工程
(ii)増幅したDNAをゲル上で分離する工程
(iii)分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する工程
〔5〕 〔3〕または〔4〕記載の識別方法により、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を選抜する方法、
〔6〕 アブラナ科植物がハクサイである、〔3〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 〔3〕~〔6〕に記載の方法に使用されるPCRプライマーであって、〔2〕の(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅するための合成オリゴヌクレオチド、
〔8〕 配列番号:5~12のいずれかに記載の塩基配列からなる、〔7〕に記載の合成オリゴヌクレオチド、
〔9〕 〔7〕または〔8〕に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、アブラナ科植物から抽出されたDNAを鋳型とするPCR法によって増幅されるDNA、
を、提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、まず、罹病性の 'はくさい中間母本農7号' の展開葉よりDNAを抽出し、制限酵素Sau3AIで消化した。これをアガロースゲル電気泳動で分離後、200bp-1000bpの断片を単離し、ベクター、ZAP express(ストラタジーン社)に連結し、ゲノムライブラリーを作製した。ディゴキシゲニン(DIG、ロシュ社)標識した2塩基(GAあるいはGT)または3塩基(GCG)の15個の繰り返し配列をプローブとしてゲノミックライブラリーのスクリーニングを行い、マイクロサテライトクローンを単離した。これらクローンの塩基配列を決定後、得られた配列情報を基に各クローンあたり2種のマイクロサテライト特異的プライマーを設計した(以下マイクロサテライトマーカーと記載する場合あり)。これらマーカーのうち、'はくさい中間母本農7号' のDNAを鋳型としたPCRにおいて、マイクロサテライト遺伝子座を増幅しうるマーカーをまず選抜した。次いで、罹病性親 'はくさい中間母本農7号' および抵抗性親G004の2種間でマイクロサテライト配列に多型が見出されるマーカーをさらに選抜した。
【0010】
一方、罹病性親 'はくさい中間母本農7号' および抵抗性親G004を交雑し、そのFおよびF世代の後代集団を得た。これらF後代において根こぶ病抵抗性検定を実施し、抵抗性の程度を指標化して評価し、この値をF2世代各系統の評価値として還元した。さらにこれらF2後代集団のDNAを鋳型とし、上記で選抜されたマーカーを用いてPCRを行い、F2集団間における各マーカー(遺伝子型)の分離と抵抗性評価値とを比較した。その結果、配列表の配列番号:1、2、3および4を増幅しうるマイクロサテライトマーカー、BRMS088(配列番号:5,6)、BRMS173(配列番号:7,8)、BRMS096(配列番号:9,10)およびBRMS100(配列番号:11,12)により分類された各系統の遺伝子型と抵抗性評価値との間に高い相関が見出された。従って、これらのマーカーは、根こぶ病抵抗性個体を効率的に選抜する際に非常に有効であることが判明した。これらマーカーを利用することにより、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を容易に識別することが可能である。
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明はまず、抵抗性遺伝子のQTLに連鎖するマイクロサテライト配列を検出することを特徴とする、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体の識別方法を提供する。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、抵抗性遺伝子のQTLに連鎖するマイクロサテライト配列を含むDNAの検出を行い、該マイクロサテライト配列の長さの差異に基づいて、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体であるか否かの識別(判定)を行う。上記DNAの検出は、該DNAを増幅できる方法であれば特に制限されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR; polymerase chain reaction)法により、好適に実施することができる。PCR反応の鋳型となるDNA配列中のマイクロサテライト配列において、その配列の長さに差異が見られる場合、増幅されるDNA断片の長さにも差異が生じる。一般的に、この増幅DNA断片長の差は、電気泳動によってバンドパターンの違いとして観察することができる。
【0014】
本発明の上記「マイクロサテライト配列を含むDNA」としては、好ましくは、配列番号:1~4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA、もしくは該塩基配列を含むDNAを挙げることができる。配列番号:1~4に記載された配列は、それぞれ、以下に示すマイクロサテライト配列を含む。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列において、55~96位のマイクロサテライト配列
(b)配列番号:2に記載の塩基配列において、150~164位または227から241位のマイクロサテライト配列
(c)配列番号:3に記載の塩基配列において、468~530位のマイクロサテライト配列
(d)配列番号:4に記載の塩基配列において、179~226位のマイクロサテライト配列
【0015】
本発明においては、上記マイクロサテライト配列の長さの差異に基づいて根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体であるか否かの識別を行うことから、必ずしも、配列番号:1~4のいずれかに記載のDNA領域全体の検出を行わなくともよい。即ち、検出すべきDNA領域は、上記マイクロサテライト配列の長さを調べ得る程度の範囲のDNA領域であれば特に制限されない。従って、例えば、上記マイクロサテライト配列を含む配列番号:1~4のいずれかに記載の塩基配列の部分断片DNAを検出することによっても、本発明の方法を実施することができる。尚、上記マイクロサテライト配列、および該配列を含む配列番号:1~4のいずれかに記載のDNA、並びに該DNAを含むDNAもまた本発明に含まれる。
【0016】
本発明の上記識別方法における「PCR」は、上記マイクロサテライト配列を含むDNAを鋳型(テンプレート)として、該マイクロサテライト配列を増幅し得るプライマーセット(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)を用いることにより、当業者においては容易に実施することができる。
【0017】
また本発明は、本発明の識別方法に使用されるPCRプライマーであって、上記(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅するための合成オリゴヌクレオチドを提供する。
【0018】
本発明において使用されるマイクロサテライト配列を増幅し得るプライマーオリゴヌクレオチドの配列は、当業者においては、鋳型となるDNAの配列情報に基づいて、適宜、設計することが可能である。より具体的には、下記のプライマーを好適に例示することができるが、これらのプライマーのみに特に限定されるものではない。下記で例示するプライマーオリゴヌクレオチドの塩基配列において、例えば、5'末端側に数ベース程度の他の塩基への置換変異を有する、もしくは5'末端側に任意の塩基が付加されたオリゴヌクレオチドであっても、本発明のプライマーとして利用することが可能であるものと考えられる。従って本発明の合成オリゴヌクレオチドは、上記マイクロサテライト配列を増幅し得るプライマーであれば、下記の配列番号:5~12のいずれかに記載の塩基配列からなる合成オリゴヌクレオチドに特に限定されない。配列番号:5~12のいずれかに記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、あるいは該配列において置換・付加等の変異を有するオリゴヌクレオチドもまた、本発明に含まれる。
【0019】
・上記(a)マイクロサテライト配列増幅用プライマーセット
フォワードプライマー: 5'- tatcggtact gattcgctct tcaac -3'(配列番号:5)
リバースプライマー: 5'- atcggttgtt atttgagagc agat -3'(配列番号:6)・上記(b)マイクロサテライト配列増幅用プライマーセット
フォワードプライマー: 5'- gaggatgcag ttgctgttgt t -3'(配列番号:7)
リバースプライマー: 5'- cttcttcgat ggattcaaga gaac(配列番号:8)
・上記(c)マイクロサテライト配列増幅用プライマーセット
フォワードプライマー: 5'- agtcgagatc tcgttcgtgt ctccc -3'(配列番号:9)
リバースプライマー: 5'- tgaagaagga ttgaagctgt tgttg -3'(配列番号:10)
・上記(d)マイクロサテライト配列増幅用プライマーセット
フォワードプライマー: 5'- ctcttgagaa tcagagagag attac -3'(配列番号:11)
リバースプライマー: 5'- gatcttcatt atattcatct ctctc -3'(配列番号:12)
【0020】
本発明の上記オリゴヌクレオチドは、当業者においては、通常、市販されたオリゴヌクレオチド合成機もしくは合成オリゴヌクレオチド受託サービスを利用して容易に取得することが可能である。
【0021】
さらに、本発明の上記オリゴヌクレオチドをプライマーとして、アブラナ科植物から抽出されたDNAを鋳型とするPCR法によって増幅されるDNAもまた、本発明に含まれる。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、例えば、以下のようにして実施される。まず、上記(a)~(d)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅し(工程(A))、次いで、増幅したDNAをゲル上で分離し(工程(B))、分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較を行う(工程(C))。
【0023】
上記工程(A)においては、好ましくは、まず被検アブラナ科植物からDNA試料の調製(DNAの抽出)を行う。DNA試料の調製は、例えば、被検植物の葉、根、種子、カルス、葉鞘、培養細胞等を用いて行うことができるが、これらに特に限定されない。これらの植物体もしくは植物細胞からのDNAの抽出は、当業者においては一般的に公知の方法、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)法(Murray and Thompson, Nucleic Acids Research 8, p.4321-4325, 1980)等によって行うことができる。また、DNAの抽出処理を行わず、例えば、直接細胞破砕液等を用いてPCRを行い、本発明の識別方法を実施することも可能である。
【0024】
本発明におけるPCRは、当業者においては、その反応条件等について実験または経験によって最適な条件を適宜選択して実施することが可能である。通常、PCRは、反応液および耐熱性ポリメラーゼを含む市販の試薬キット、および市販のPCR装置等を利用して、簡便に実施することができる。
【0025】
工程(B)における、PCR増幅産物であるDNAのゲル上での分離は、通常、電気泳動によって行うことができる。電気泳動によるPCR増幅DNA断片の分離は、当業者においては、ゲルの組成、電圧、泳動時間等を適宜判断して簡便に実施することができる。
【0026】
工程(C)においては、通常、予めサイズが既知のDNA断片(例えば、サイズマーカー)を対照として、分離されたDNA断片のサイズを測定する。使用したプライマーの種類、および測定されたDNAサイズを基に、増幅されたDNAにおけるマイクロサテライト配列の有無もしくは該マイクロサテライト配列の長さを検出することができる。
【0027】
また、上記工程(B)および(C)においては、以下のような方法によって実施することも可能である。まず、増幅したDNAを一本鎖に解離させ、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。次いで、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。該方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism; 一本鎖高次構造多型)法が挙げられる。
【0028】
PCR-SSCP法においては、二本鎖DNA断片を一本鎖に解離すると、各鎖はその塩基配列に依存した独自の高次構造を形成する。この解離したDNA鎖を、変性剤を含まないポリアクリルアミドゲル中で電気泳動すると、それぞれの高次構造の差に応じて、相補的な同じ鎖長の一本鎖DNAが異なる位置に移動する。例えば、マイクロサテライト配列の長さの差異によっても一本鎖DNAの高次構造は変化を生じ、ポリアクリルアミドゲル電気泳動において異なる移動度を示す。従って、この移動度の変化を検出することにより増幅されたDNA断片に存在するマイクロサテライト配列の長さを検出することができる。また、増幅産物に多型を生じるような制限酵素認識部位がある場合は、PCR法によって増幅し、その増幅産物を制限酵素で処理した後、電気泳動を行う方法(例えば、PCR-RFLP法)によっても、本発明を実施することができる。多くの品種・系統を取り扱う場合、必ずしも長さによる多型が生じないことも考えられることから、この場合は、PCR-RFLP法を好適に用いて、本発明の方法を実施することができる。
【0029】
また、増幅DNA断片のバンドの数を基に、被検植物個体が根こぶ病抵抗性遺伝子をヘテロあるいはホモとして有するかどうかについて評価することが可能である。通常、上記工程においてバンドが1本検出される場合には、「ホモ」と判定され、バンドが2本検出される場合には「ヘテロ」と判定される。
【0030】
本発明においては、被検植物DNAにおける検出されたマイクロサテライト配列の長さが、上記(a)~(d)のマイクロサテライト配列の長さと同じ場合に、被検植物は根こぶ病に対する抵抗性遺伝子(遺伝子座)を有するものと判定される。例えば、配列番号:5に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、および配列番号:6に記載の塩基配列からなるリバースプライマーを使用して、本発明の識別方法を実施した場合、上記(a)に記載のマイクロサテライト配列と同一の長さのマイクロサテライト配列が検出された場合、被検植物は、根こぶ病抵抗性遺伝子(遺伝子座)を有するものと判定される。
【0031】
本発明において根こぶ病抵抗性遺伝子を有するか否かの識別が可能なアブラナ科植物としては、例えば、ハクサイ、カブ等を挙げることができる。また、本発明の方法を実施するのに好ましい品種としては、例えば、飼料用カブ系統名Siloga(シロガ)由来の系統および品種等を挙げることができる。
【0032】
また本発明は、本発明の識別方法により、根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を選抜する方法を提供する。本方法により根こぶ病抵抗性遺伝子を有するアブラナ科植物個体を効率的かつ簡便に選抜することが可能である。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1] アブラナ科植物根こぶ病の新規QTLを識別するためのマイクロサテライトマーカーの同定
罹病性親 'はくさい中間母本農7号' に抵抗性親G004を交雑し、そのFの自殖によって得られたF系統について、BRMS088、BRMS173、BRMS096およびBRMS100マーカーの分離を調査した。Fの自殖により得られたF個体について、根こぶ病抵抗性の評価を行い、抵抗性親由来のDNAマーカーを有しない個体の抵抗性程度を検定した。
【0035】
抵抗性の評価には、2種類の根こぶ病菌、すなわち安濃菌と和歌山菌を用いた。直径9cmのピートポットに根こぶ病菌を混入した園芸培土を入れて、独立したF系統を自家受粉し得られたFの種子を1系統ずつ、5~8個を1つのピートポットに播種した。播種後、それぞれのピートポットを20,000ルックス16時間明期、8時間暗期、気温25度に調節された室内で管理した。播種から6週間後、根におけるこぶの発生程度により抵抗性程度を指標化した。指標化した数字は0,1,2,3であり、無病徴(抵抗性強)は0で、支根に1個の根こぶが発生する症状を1、支根に2個以上の根こぶが連続的に発生する症状を2、主根に根こぶが発生する症状を3で最も抵抗性が弱いことを示す(図1)。1系統について2個の反復を設け、検定試験を行った。植物体の根こぶ病発生程度を指標化し、1ピートポット毎に播種したF5~8個体の値を平均しF2の解析とした。
【0036】
マーカー分離は以下のように実施した。F後代各系統の葉よりDNAを常法、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)法(Murray and Thompson, Nucleic Acids Research 8, p4321-4325, 1980)により抽出した。このDNA 2ngを鋳型として、200μM dNTPs、2.5pmol オリゴヌクレオチドプライマー(4種類、配列番号:5および6、あるいは7および8、あるいは9および10、あるいは11および12)および1 unit rTaq polymerase(Takara社)を加え、10μlの反応液とし、GeneAmp PCR system 9700(アプライドバイオシステムズ社)によりPCRを行った。反応条件は、94℃1分後、94℃1分、60℃1分、72℃1分のPCRサイクルを35回繰り返し、伸長反応の補足のため72℃で4分間とした。なお、BRMS100のプライマーセットの場合には、アニーリング温度を60℃から50℃に変更した。
【0037】
増幅産物は0.5mg/l のエチジウムブロミドを含む2.5%アガロースゲルにより分離、分析した。罹病性親に由来する断片長はそれぞれBRMS088マーカーが243bp、BRMS173が244bp、BRMS096マーカーが189bp、BRMS100マーカーが128bpであるが、抵抗性親に由来するものはこれらとは異なる断片長であるため、抵抗性親と罹病性親を確認できる(図2および図3)。遺伝子型がホモである個体での増幅産物はどちらかの親由来の一種類で、一本のバンドとして検出され、ヘテロ個体は両親由来の2種類の増幅産物が2本のバンドとして検出される。表1に各DNAマーカーの遺伝様式を示した。
【0038】
【表1】
JP0004366494B2_000002t.gif【0039】
抵抗性親(G004)に由来するDNAマーカーをg、罹病性親(ハクサイ中間母本農7号)に由来するDNAマーカーをaで表した。すなわち、抵抗性親由来のマーカーをホモで有する場合をgg、抵抗性親と罹病性親由来のマーカーを1個ずつへテロに有する場合をag、罹病性親由来のマーカーをホモに有する場合をaaで表した。BRMS088、BRMS173マーカーの分離比が理論値1:2:1からはずれるものの、BRMS096と100は理論値に合致した分離比を示し、これらのDNAマーカーは後代に確実に遺伝することが明らかであった。表2にBRMS088マーカーの遺伝子型を有する集団と安濃菌および和歌山菌に対する抵抗性程度(発病指数)との関係を、表3にBRMS173マーカーの遺伝子型を有する集団と安濃菌および和歌山菌に対する抵抗性程度(発病指数)との関係を示した。
【0040】
【表2】
JP0004366494B2_000003t.gif【0041】
【表3】
JP0004366494B2_000004t.gif【0042】
F集団94系統を用いて、根こぶ病の接種検定を行ったところ、94系統の発病指数の平均は、安濃菌で2.18、和歌山菌で2.73であった。94系統の中で、抵抗性親由来のBRMS088マーカーをヘテロに有する47系統は1.84で、さらにホモに有する9系統の平均は0.74であった。
【0043】
これらに対し、抵抗性由来のBRMS088マーカーを有しない38系統の発病指数の平均は、2.94であった。また、抵抗性親由来のBRMS173マーカーをヘテロに有する50系統は1.83で、さらにホモに有する8系統の平均は0.74であった。
【0044】
これらに対し、抵抗性由来のBRMS088マーカーを有しない36系統の発病指数の平均は、2.99であり、ほぼすべての系統で根こぶ病菌による著しい被害を受けた。
【0045】
実際栽培上は発病指数を2以下に抑えれば、経済栽培には支障がないと考えられるため、安濃菌に対しては抵抗性親由来のBRMS088マーカーまたはBRMS173を有する個体を選抜することで抵抗性の系統が得られることが明らかになった。BRMS088とBRMS173はKuginukiら(1997, Euphytica 98: 149- 154)によって考案された根こぶ病抵抗性用のDNAマーカーRA1275と連鎖関係にあり、2つのマーカーは同じ根こぶ病抵抗性のQTLに連鎖していると考えられる。しかしRA1275は優性マーカーであるため、抵抗性親由来のDNAマーカーをホモに有する系統とヘテロに有する系統とを区別できない。94系統の中で、発病指数が1未満の強度抵抗性個体の割合は、抵抗性親由来のBRMS088マーカーをホモに有する9系統の中では7個体であるのに対し、ヘテロで有する系統では47個体中4個体にすぎない。同様にBRMS173マーカーでは、8系統中6個体で、ヘテロで有する系統では50系統中5個体にすぎない。したがってRA1275では強度抵抗性個体を高頻度で選抜することはできず、BRMS088またはBRMS173を使用する優位性が確認できた。
【0046】
一方、和歌山菌に対しては、抵抗性親由来のBRMS088、BRMS173マーカーをホモに有しても発病指数が2.28、2.34であり、抵抗性の素材を選抜するには不十分であった。94系統に別の集団20系統を加えた合計114系統について和歌山菌についての抵抗性を調べた。表4および表5にBRMS088とBRMS096およびBRMS100の、表6および表7にBRMS173とBRMS096およびBRMS100マーカーの各遺伝子型を有する集団と和歌山菌に対する抵抗性程度(発病指数)との関係を示した。
【0047】
【表4】
JP0004366494B2_000005t.gif【0048】
【表5】
JP0004366494B2_000006t.gif【0049】
【表6】
JP0004366494B2_000007t.gif【0050】
【表7】
JP0004366494B2_000008t.gif【0051】
全体の発病指数の平均は2.56であり、抵抗性親由来のDNAマーカーBRMS088をヘテロでBRMS096(またはBRMS100)をホモに有する22系統は発病指数が2.01となり、さらにBRMS088とBRMS096をホモに同時に有する7(BRMS100では6)系統は発病指数が0.80と著しく低下し、強度抵抗性を示した。
【0052】
また抵抗性親由来のBRMS088とBRMS096の2つのマーカーを、両方もしくはどちらか一方を有しない5系統、つまりBRMS088とBRMS096の両方もしくはどちらかがaaタイプの発病指数は、それぞれ2.94、2.99、2.91、2.99、2.98であった。
【0053】
さらに抵抗性親由来のDNAマーカーBRMS173をヘテロでBRMS096(またはBRMS100)をホモに有する25系統は発病指数が2.00となり、さらにBRMS173とBRMS096をホモに同時に有する6(BRMS100でも6)系統は発病指数が0.64と著しく低下し、強度抵抗性を示した。
【0054】
また抵抗性親由来のBRMS173とBRMS096の2つのマーカーを、両方もしくはどちらか一方を有しない4系統、つまりBRMS088とBRMS096の両方もしくはどちらかがaaタイプの発病指数は、それぞれ2.94、2.98、3.00、3.00、3.00であり、いずれも和歌山菌に対して罹病性であった。BRMS100はBRMS096と連鎖関係にあり、BRMS096とほぼ同じ効果を示した。以上のように抵抗性親由来のBRMS088とBRMS096またはBRMS100およびBRMS173とBRMS096またはBRMS100のDNAマーカーをホモにもつ個体を選抜することによって、多犯性の和歌山菌に対して極めて選抜の効果が高かった。
【0055】
これら4種のマーカーは、根こぶ病抵抗性主導遺伝子及び補足的に作用するQTLに連鎖するものであり、かつ、アブラナ科植物の根こぶ病抵抗性の選抜マーカーとして極めて有効であることが示された。
【0056】
なお本発明によるDNAマーカーの選抜効果は、飼料用カブ系統名「Siloga」を由来とする系統を抵抗性親に用いた場合に有効である。「Siloga」を由来しない抵抗性親を用いた場合には、鎖長の異なるDNA断片が生じる場合がある。
【0057】
【発明の効果】
本発明により、アブラナ科植物根こぶ病の新規QTLを識別するためのマイクロサテライトマーカーが提供され、単独または4つのマイクロサテライト遺伝子座をPCRによって増幅し、そのサイズを調べることで、抵抗性の強弱を簡便かつ精度高く判別することができる。この方法により抵抗性個体の選抜が容易になり、また、共優性マーカーの特性上、導入した抵抗性QTLの固定の判別が極めて容易になる。したがって、アブラナ科植物の根こぶ病抵抗性品種育成が大幅に効率化されることになる。
【0058】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 根こぶ病の発病程度を示した根の写真である。0:発病なし(抵抗性)、1、2、3:発病(罹病性)
【図2】 各プライマーペアを用いてPCR後、増幅産物を2.5%アガロースゲルで分離した場合の泳動像(両側にDNAマーカー、左より抵抗性親型、罹病性親型、ヘテロ型の各泳動パターン)写真である。
【図3】 各プライマーペアを用いてPCR後、増幅産物を2.5%アガロースゲルで分離した場合の泳動像(両側にDNAマーカー、左より抵抗性親型、罹病性親型、ヘテロ型の各泳動パターン)写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2