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明細書 :顕微鏡プレパラートおよびその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4366495号 (P4366495)
公開番号 特開2004-229548 (P2004-229548A)
登録日 平成21年9月4日(2009.9.4)
発行日 平成21年11月18日(2009.11.18)
公開日 平成16年8月19日(2004.8.19)
発明の名称または考案の名称 顕微鏡プレパラートおよびその作製方法
国際特許分類 C12M   1/34        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
G01N  21/05        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G02B  21/34        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12M 1/34 A
G01N 1/28 F
G01N 21/05
G01N 33/48 R
G02B 21/34
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 18
全頁数 17
出願番号 特願2003-021192 (P2003-021192)
出願日 平成15年1月29日(2003.1.29)
審査請求日 平成17年10月7日(2005.10.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】松永 茂
【氏名】町田 幸子
【氏名】徳安 健
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 特開平10-153529(JP,A)
特開平05-312697(JP,A)
特開平04-063583(JP,A)
特開平06-003231(JP,A)
特開平10-239325(JP,A)
特開平09-322756(JP,A)
実開昭55-071310(JP,U)
調査した分野 C12M 1/34
G01N 1/28
G02B 21/34
PubMed
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
生きた細胞の観察のための光学顕微鏡用プレパラートを作製する方法であって、該方法は以下:
試料保持領域を備えた下部材の片面にプライマーをコートする工程;
カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部と、該下部材のコートされた片面とを、少なくとも一種のシーリング材で接着し、密封する工程、
を包含し、ここで該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液であり、該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液である、方法。
【請求項2】
前記下部材が、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有し該試料保持領域を取り囲む包囲部を貼り付けた透明基板、または該透明基板を備える流動式チャンバーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記包囲部が、疎水性ポリマー材料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記包囲部が、テープ材である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリウレタンを含む有機溶液の溶媒が、酢酸エチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記流動式チャンバーが、前記透明基板上に配置された、流体プールを有するリザーバ、およびノズルを備え、
該透明基板が、該リザーバに連通する第1の孔および該ノズルに連通する第2の孔を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記透明基板が、ガラス基板またはアクリル基板である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、生細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
光学顕微鏡用プレパラートであって、以下:
上面にプライマーがコートされている透明基板;
該透明基板の上面に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;
該試料保持領域内に保持された試料;および
該プライマーがコートされている透明基板上に、シーリング材により接着されたカバーガラス、
を備え、ここで該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液であり、該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、プレパラート。
【請求項10】
光学顕微鏡用プレパラートを作製するためのキットであって、
透明基板;
該透明基板の上面にコーティングするためのプライマー;
該透明基板の上面に貼付けるための、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;および
該プライマーがコートされた透明基板上にカバーガラスを接着するためのシーリング材、
を備え、ここで該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液であり、該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、キット。
【請求項11】
観察される試料をさらに備える、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記包囲部がテープ材である、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
光学顕微鏡用プレパラートであって、以下:
流体の流動式チャンバーであって、以下:
第1の孔および第2の孔を備え、面にプライマーがコートされている透明基板;
該透明基板の上面に配置された、リザーバ;および
該透明基板の上面に配置された、ノズル、
を備え、該第1の孔が該リザーバと連通し、該第2の孔が該ノズルと連通する、チャンバー;
該透明基板の下面に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;ならびに
該プライマーがコートされた透明基板の下面にシーリング材により接着されたカバーガラス、
を備え、ここで該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液であり、該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、プレパラート。
【請求項14】
前記リザーバが、温度可変装置に装着可能である、請求項13に記載のプレパラート。
【請求項15】
光学顕微鏡用プレパラートを作製するためのキットであって、以下:
第1の孔および第2の孔を備える透明基板;
該透明基板の上面にコーティングするためのプライマー;
該第1の孔と連通されるリザーバ;
該第2の孔と連通されるノズル;
該透明基板に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;ならびに
該プライマーがコートされた透明基板上にカバーガラスを接着するためのシーリング材、
を備え、ここで該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液であり、該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、キット。
【請求項16】
観察される試料をさらに備える、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
生きた細胞を継続的に観察するための方法であって、該方法は以下:
プレパラートの試料保持領域において生きた細胞を含む試料を調製する工程;
試料保持領域を備えた下部材の片面にプライマーをコートする工程;
カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部と、該下部材のコートされた片面とを、少なくとも一種のシーリング材で接着し、密封する工程、
該生きた細胞を含む試料を、光学顕微鏡で継続的に観察する工程、
を包含し、ここで該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液であり、該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液である、方法。
【請求項18】
生きた細胞の観察のためのプレパラートであって、以下:
上面にプライマーがコートされている透明基板;
該透明基板の上面に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;
該試料保持領域内に保持された試料;および
該プライマーがコートされた透明基板上にシーリング材により接着されたカバーガラス、
を備え、ここで該プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液であり、該シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、プレパラート。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、概して、顕微鏡プレパラートおよびその作製方法に関する。詳細には、高解像度の油浸式対物レンズでの観察に必須なカバーガラスを光学的透明基板にシーリング材で接着することにより、試料を封入した光学顕微鏡用プレパラートを作製する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学顕微鏡を用いた試料の観察、特に細胞・微生物・動植物の組織など水を多く含むか又は水の中に浸っている生物試料の観察に際しては、水の蒸発を防ぎ、かつ対物レンズの球面収差に試料を適合させるため、厚さ0.17mmの標準カバーガラス等で試料を覆うことが一般的に行われている。特に、高倍率・高解像度の対物レンズでは、レンズの開口数をかせぐため、試料とレンズとの間をガラスと同じ屈折率(n≒1.52)を持つ油で満たす必要があるので、試料と油との接触を防ぎ、かつレンズに適合した作動距離を確保するためには、厚さ0.17mm程度のカバーガラスで試料を覆うことは、必須である(非特許文献1)。
【0003】
試料の封入に際しては、光透過性(スライドガラス、アクリル板など)の下部材の上に水を含む試料を乗せ、さらにこの上をカバーガラスで被い試料をサンドイッチする。なお、このような封入試料を以下プレパラートと呼ぶ。固定・脱水処理の施された試料のように、樹脂中に包埋できる試料では、試料はカナダバルサム等の特殊接着剤でプレパラート内に封入できるので、長い時間をかけて接着剤が硬化されればカバーガラスはしっかりと固定される。
【0004】
しかし生きている細胞や微生物を観察する場合など、樹脂で包埋できない試料では、従来カバーガラスはただ単に試料の上に置かれ水の表面張力で張り付かせるか、被せたカバーガラスの周囲にマニキュアやパラフィンなどを塗って封じる、若しくは、試料をワセリンで覆い、その上にカバーガラスを被せることで、試料を圧しつぶさずにカバーガラスを固定する、などの方法で接着が行われてきた(非特許文献2)。
【0005】
さらに、生きた細胞の継続観察や、培地交換などが必要な場合には、下部材上にビニールテープなどを貼り、剃刀などでカバーガラスより小さな観察窓を開け厚さ0.1mm程度の台を確保すると同時に、液交換のために窓の両端などに切り込みをいれたものを準備する。観察窓を溶液で満たし、その上にカバーガラスを被せ、周辺をマニュキアなどで固定する。液交換を行う場合は、切り込みの一方に濾紙片を置き、他方に交換する液をピペットなどで落とす方法などが取られてきた(非特許文献3)。
【0006】
また、生きた細胞を長時間に渡り観察する必要がある場合には、培地の流動が可能な特殊培養チャンバー(Lucas-Highland1社製のDvorak Chamber)、あるいは自作のチャンバーなどを顕微鏡ステージ上に装着し、培地を逐次供給する方法が取られてきた。
【0007】
さらに、生きた細胞の観察においては温度管理も重要な要素であるが、顕微鏡全体を大掛かりで極めて高価な装置を装着する、あるいは、温度制御が可能な顕微鏡ステージを組み込むなどの方法が取られて来たが、いずれも場合も実際に試料を乗せるチャンバーは、自作するなどの必要性があった。
【0008】
しかしながら、これらの方法では下部材とカバーガラスとの接着力が弱いので、以下の問題がしばしば発生し、これが高解像度の油浸式対物レンズを用いることの妨げとなっている。
【0009】
対物レンズとカバーガラスの間を満たすオイル(粘性が高い)によりカバーガラスが対物レンズに付着し、プレパラートから剥離してしまう。特にこの問題は視野を移動する際に起こりやすい。
【0010】
生物試料の観察時には、観察対象は培地などの液体中に密封する場合が多い。しかし、従来の方法ではカバーガラスの密着性が低いため、数分程度で徐々に液体が蒸発し、その結果プレパラート中に気泡が入り込む。このことは単一試料を長時間観察する場合に大きな障害となる。
【0011】
動物の組織や培養細胞の観察では対物レンズがステージの下から上向きに出ている倒立型の顕微鏡が頻繁に用いられる。この倒立顕微鏡で油浸式のレンズを用いる場合にも、カバーガラスはレンズ側に来るようにセットすることが必要である(対物レンズの作動距離などの制約による)。すなわち、カバーガラスはプレパラートの下側に接着しなくてはならない。この場合、接着が弱いと培地などの液体がプレパラートから漏れ出し、対物レンズへと流れ落ちることもしばしばで、これがレンズや鏡筒内に入って顕微鏡の故障の原因となる。
【0012】
培地交換などが必要な観察に利用されるビニールテープで細工をしたチャンバーを倒立型顕微鏡へ適用した場合、培地交換時にチャンバーを一度顕微鏡ステージから外す必要があり、細胞の継続的な観察は不可能である。さらに、上述の液漏れの問題が生じ易い。
【0013】
培地流動が可能なチャンバーを使用する場合には、Lucas-Highland社製のDvorak Chamberが、倒立型顕微鏡へも装着可能な装置であるが、特殊な形状のカバーガラスが必要など、汎用性に欠ける装置である。また、温度制御の厳密さにも欠け、しばしば細胞機能に重大な影響を与えていた。
【0014】
従来の方法において、カバーガラスを接着する際の一般的な手順は、以下:
(a)スライドガラスに液体を少量乗せる;
(b)気泡が入り込まないように丁寧にカバーガラスを被せる;
(c)カバーガラスの周囲に漏れた液体をろ紙などで吸い取る;
(d)マニュキアを辺縁部に塗って硬化するまで待つ、
の順番で行われてきた(非特許文献2、非特許文献3)。しかし、これら一連の作業には数分の時間を要し、その間観察が行えない。
【0015】
生体試料の中には、試料の封入を開始してからの数秒、数分の時間帯が極めて重要な観察対象となる場合もしばしばである。例えば、受精直後の卵細胞の形態の変化を観察しようとすれば、主要な反応は卵細胞に精子を添加してから数分のうちに完了してしまう。また通常保温庫内で37度に保たれている動物組織由来の培養細胞の中には、封入作業のためほんの数分間室温にさらすことで、収縮などの形態変化を経て細胞死に至るケースが知られている。このように”プレパラートへの封入に時間を要する”ということが、カバーガラスを必須とする高解像度での顕微鏡観察に対する大きな妨げの要因となっているのである。
【0016】
【非特許文献1】
八鹿(1973)、生物顕微鏡の基礎:26-30
【0017】
【非特許文献2】
井上(1998)、新版 顕微鏡観察シリーズ▲1▼ 顕微鏡観察の基本:124-127
【0018】
【非特許文献3】
井上(1998)、新版 顕微鏡観察シリーズ▲3▼ 動物の顕微鏡観察:18-23
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、素早く、しかも強固に、カバーガラスを下部材に接着する方法を提供し、さらに、高解像度の油浸式対物レンズによる生きた細胞などの試料の長時間連続観察、および刺激に対する瞬時から長時間に渡る反応の観察が可能な、流体(培地など)の流動式チャンバー付き顕微鏡プレパラートを提供することである。
【0020】
本発明者らは、シーリング材が主鎖あるいは側鎖の構造の違いにより、多くの用途に使用されていることに着目し、このシーリング材が生物試料の観察にも適用可能であること、さらに、シリコーンとウレタン樹脂溶液を組み合わせることにより、迅速かつ強固なカバーガラスの下部材への接着を可能にすることを見出した。
【0021】
また、素早く、強固にカバーガラスを接着することにより試料の長時間連続観察を可能とする培地の流動、および試料の刺激に対する応答を観察するための物質添加が可能となるような様式の顕微鏡プレパラートを完成させ、本発明に到った。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は以下を提供する。
【0023】
(1)光学顕微鏡用プレパラートを作製する方法であって、この方法は以下:カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部と、試料保持領域を備えた下部材との間を、少なくとも一種のシーリング材で接着する工程、
を包含する、方法。
【0024】
(2)上記接着する工程が、以下:
上記下部材の片面にプライマーをコートすること;および
下部材のコートされた片面に、上記カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部をシーリング材で接着し、密封すること、
を包含する、項(1)に記載の方法。
【0025】
(3)上記下部材が、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有し試料保持領域を取り囲む包囲部を貼り付けた透明基板、または透明基板を備える流動式チャンバーである、項(2)に記載の方法。
【0026】
(4)上記包囲部が、疎水性ポリマー材料である、項(3)に記載の方法。
【0027】
(5)上記包囲部が、テープ材である、項(3)に記載の方法。
【0028】
(6)上記シーリング材が、シリコーン系ポリマー、変性シリコーン系ポリマー、ポリスルフィド、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ブチル系ポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンおよびスチレントリブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーの混合物を含む有機溶液である、項(1)に記載の方法。
【0029】
(7)上記シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物およびポリウレタンを含む有機溶液である、項(1)に記載の方法。
【0030】
(8)上記シーリング材が、少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物を含むアルコール溶液である、項(2)に記載の方法。
【0031】
(9)上記プライマーが、ポリウレタンを含む有機溶液である、項(2)に記載の方法。
【0032】
(10)上記ポリウレタンを含む有機溶液の溶媒が、酢酸エチルである、項(9)に記載の方法。
【0033】
(11)上記シーリング材が少なくとも1種のシリコーン系ポリマーの混合物を含むアルコール溶液であり、かつ上記プライマーがポリウレタンを含む酢酸エチル溶液である、項(2)に記載の方法。
【0034】
(12)上記流動式チャンバーが、上記透明基板上に配置された、流体プールを有するリザーバ、およびノズルを備え、
透明基板が、リザーバに連通する第1の孔およびノズルに連通する第2の孔を有する、項(3)に記載の方法。
【0035】
(13)上記透明基板が、ガラス基板またはアクリル基板である、項(3)に記載の方法。
【0036】
(14)上記試料が、生細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織である、項(1)に記載の方法。
【0037】
(15)光学顕微鏡用プレパラートであって、以下:
透明基板;
透明基板の上面に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;
試料保持領域内に保持された試料;および
包囲部の上面にシーリング材により接着されたカバーガラス、
を備える、プレパラート。
【0038】
(16)光学顕微鏡用プレパラートを作製するためのキットであって、
透明基板;
透明基板の上面に貼付けるための、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;および
包囲部の上面にカバーガラスを接着するためのシーリング材、
を備える、キット。
【0039】
(17)観察される試料をさらに備える、項(16)に記載のキット。
【0040】
(18)上記包囲部がテープ材である、項(16)に記載のキット。
【0041】
(19)上記シーリング材が、シリコーン系ポリマー、変性シリコーン系ポリマー、ポリスルフィド、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ブチル系ポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンおよびスチレントリブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーの混合物を含む有機溶液である、項(16)に記載のキット。
【0042】
(20)光学顕微鏡用プレパラートであって、以下:
流体の流動式チャンバーであって、以下:
第1の孔および第2の孔を備える透明基板;
透明基板の上面に配置された、リザーバ;および
透明基板の上面に配置された、ノズル、
を備え、第1の孔がリザーバと連通し、第2の孔がノズルと連通する、チャンバー;
透明基板の下面に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;ならびに
包囲部の下面にシーリング材により接着されたカバーガラス、
を備える、プレパラート。
【0043】
(21)上記リザーバが、温度可変装置に装着可能である、項(20)に記載のプレパラート。
【0044】
(22)光学顕微鏡用プレパラートを作製するためのキットであって、以下:
第1の孔および第2の孔を備える透明基板;
第1の孔と連通されるリザーバ;
第2の孔と連通されるノズル;
透明基板に貼付けられ、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有する、包囲部;ならびに
包囲部にカバーガラスを接着するためのシーリング材、
を備える、キット。
【0045】
(23)観察される試料をさらに備える、項(22)に記載のキット。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられることが理解されるべきである。
【0047】
本発明によれば、例えば生きた細胞などの試料を観察するための光学顕微鏡用プレパラートの作製方法が提供される。本発明の作製方法は、カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部と下部材との間を、少なくとも一種のシーリング材で接着する工程、を包含する。
【0048】
本明細書において、「試料」とは、観察される対象になり得るものであれば何でもよく、例えば、培養細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織が挙げられ、これら組織の水溶液、水性懸濁液、水分散体、水中油エマルジョン、水和したゲル状物なども試料に含まれる。
【0049】
本明細書において、「プレパラート」とは、光透過性の下部材(ガラス基板、アクリル基板など)とこれを被うカバーガラスから構成される構造体であり、下部材とカバーガラスとの間の空間に試料が密封可能な構造体をいう。ここで、下部材とカバーガラスとの間の空間には、試料が入っていても入っていなくてもよい。
【0050】
本明細書において、「カバーガラス」とは、屈折率が1.52程度で厚さ0.17mm±0.02mmの市販のカバーガラスをいい、通常使用される大きさは18×18mm、18×24mm、24×24mm、24×40mmであり、光学的視野に影響がない限り、本質的に任意の大きさおよび形状(円形でもよい)のものが使用され得る。本明細書中において、「カバーガラスの辺縁部」とは、カバーガラスの四辺5mm程度の幅の領域をいう。
【0051】
本明細書において、「下部材」とは、顕微鏡観察が可能な程度に光学的に透明な「透明基板」または「透明基板」を備える流動式チャンバーをいう。下部材は、一般にカバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を備えている。下部材として、例えば、顕微鏡用スライドガラスなどのガラス基板またはアクリル基板が挙げられる。ここで、「光学的に透明な」とは、自然光または人工光の中の少なくとも光学顕微鏡に用いる範囲の電磁波に対し透過性であることを意味する。
【0052】
本明細書において、「シーリング材」とは、曝露環境からの保護を目的として使用され、気体、液体、固体粒子の透過を防ぐ全ての建築、修理用シーリング材(不定形シーリング材)、およびコーキング材を含む処方物をいう。一般に、シーリング材は、建築外装の封止用に用いられる高性能シール材(25%+接合部の変位に対し、良好な回復約80%を示す)、建築内装、一般住宅建築および補修に用いられる中性能シール材(10~25%の変位に適応)および低性能シール材に大別されるが、本発明においては、いずれの性能のシール材を適用しても、接着または試料の密封に十分である。
【0053】
本明細書におけるシーリング材として、例えば、シリコーン系ポリマー、変性シリコーン系ポリマー、ポリスルフィド、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ブチル系ポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンおよびスチレントリブロック共重合体などが挙げられる。
【0054】
本発明によれば、カバーガラスには細胞などが直接に接するため、適切なシーリング材として、細胞などへの影響が少ないシロキサン結合(Si-O)を主鎖とする高分子溶液が好ましく、シリコーン系シーリング材がより好ましい。シリコーンアルコール溶液が、特に好ましい。溶媒のアルコールには、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノールなどが挙げられる。
【0055】
代表的なシリコーン系ポリマーのシーリング材の処方は、以下の通りである:主成分(ポリジメチルシロキサンジオール)80~85重量%、架橋剤5~7重量%、触媒(硬化促進、カルボン酸スズまたはチタン酸エステル)0.05~0.10%、充填剤(シリカ、カーボンブラック、ガラスミクロバルーン)6~10重量%、可塑剤(非反応性シリコーンフルイド)0~10重量%。シリコーン系ポリマーのシーリング材は、任意の難燃剤、殺菌剤、接着促進剤、顔料および粘調剤を含んでもよい。この処方は、シリコーン系ポリマーのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0056】
代表的なポリスルフィドのシーリング材の処方は、以下の通りである:主成分(LP(チオコール)ブレンド)15~60重量%、充填剤(炭酸カルシウム)30~60重量%、顔料(二酸化チタン)10重量%未満、接着促進剤(シラン、チタン酸塩)10重量%未満、酸化防止剤(フェニル-2-ナフチルアミン)10重量%未満、促進剤(p-キノンジオキシム、ジフェニルグラニジン)10重量%未満、チキソトロープ剤(Cabosil,Ircogel)10重量%未満、遅延剤(ステアリン酸、ステアリン酸エステル)10重量%未満、溶媒(トルエン、メチルエチルケトン)10重量%未満から構成されるベースコンパウンド100重量部に対し、触媒(二酸化マグネシウム、フタル酸ジブチル)10重量部。この処方は、ポリスルフィドのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0057】
代表的なポリウレタンのシーリング材の処方は、以下の通りである:主成分(ジイソシアネートプレポリマー、ジフェニルメタンジイソシアネート当量=1272)50~60重量%、充填剤(カーボンブラックなど)40~50重量%、シリカ2~4重量%、溶媒(トルエン)。ポリウレタンのシーリング材は、任意の紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤および顔料を含んでもよい。この処方は、ポリウレタンのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0058】
代表的なブチル系ポリマーのシーリング材の処方は、以下の通りである:主成分(イソブチレン、ポリブテン)40~45重量%、充填剤(クレイ、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック)30~40重量%、顔料(二酸化チタン、酸化亜鉛)2~4重量%、粘着付与剤(ロジン-ペンタエリスリトールエステル)0.5~1.0重量%、粘調剤(繊維)10重量%、溶媒(シクロヘキサン)。この処方は、ポリウレタンのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0059】
代表的なアクリル系ポリマーのシーリング材の処方は、以下の通りである:ラテックスアクリルポリマー30~40重量%、充填剤(炭酸カルシウム、アルミニウム、シリカ、タルク)30~45重量%、顔料(二酸化チタン)1.0~1.5重量%、界面活性剤1.0~1.5重量%、凝固点降下剤(エチレングリコール)20~25重量%、可塑剤7~8重量%、チキソトロープ剤1~2重量%、無機アルコール0.2重量%。アクリル系ポリマーのシーリング材は、任意の酸化防止剤、紫外線吸収剤および防カビ剤を含んでもよい。この処方は、アクリル系ポリマーのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0060】
代表的なクロロスルホン化ポリエチレンのシーリング材の処方は、以下の通りである:主成分(クロロスルホン化ポリエチレン)15~20重量%、塩化パラフィン15~20重量%、充填剤15~20重量%、顔料10~15重量%、酸化物触媒(鉛酸化物)6~8重量%、可塑剤(フタル酸ジブチル)15~20重量%、溶媒(イソプロピルアルコール)4~5重量%。この処方は、クロロスルホン化ポリエチレンのシーリング材のほんの一例に過ぎず、これに限定されない。
【0061】
本発明の方法によれば、カバーガラスの辺縁部のシーリング材によるコートは、液体の漏れない容器中にシリコーンアルコール溶液を5mm程度の深さで注ぎ、その壁にカバーガラスを立てかけることにより行われる。1辺のコートに必要な時間は1分程度であるが、コートの効率により時間の延長、短縮が可能である。1辺のコートが終了した後に、カバーガラスを90度回転させて別の辺を容器に浸す。この操作を繰り返すことで、カバーガラスの4辺に5mm程度の幅でシリコーンコートがなされる。滅菌されたカバーガラスが必要な場合は、シリコーンコートを施した後に,乾熱滅菌することが可能である。
【0062】
本発明によれば、好ましくは、下部材の片面にプライマーをコートし、この片面に、カバーガラスの少なくとも片面の辺縁部をシーリング材で接着して試料を密封する方法がとられる。
【0063】
本明細書において、下部材に塗布する「プライマー」とは、シーリング材の密着力をさらに高めるための高分子物質をいう。プライマーとしては、ウレタン結合(NHCOO)を主鎖とする高分子溶液が好ましく、ポリウレタン溶液がより好ましい。このポリウレタン溶液として、ポリウレタンのシーリング材またはウレタン樹脂溶液がさらに好ましく、ウレタン樹脂/酢酸エチル溶液が特に有効に利用し得る。
【0064】
本明細書において、「流動式チャンバー」とは、細胞などを生きたまま長時間保持するために、流体を逐次交換可能でかつ流動や還流が可能な形状のチャンバー、または流体を適宜添加可能な形状の全てのチャンバーをいう。「流体」とは、顕微鏡観察が可能な程度に光透過性であり、かつ水をベースとする任意の水溶液、水性懸濁液、水分散体、水中油エマルジョン、水和したゲル状物などをいう。例えば、流体には、培地または薬剤の溶液が挙げられる。
【0065】
カバーガラスを迅速に強固に下部材に接着させるためには、カバーガラスの辺縁を「シーリング材」でコートすること、さらにカバーガラスを密着させる下部材部には「プライマー」が塗布されていることが好ましい。
【0066】
下部材へのウレタン樹脂の塗布に先立ち、試料を密封する空間を確保するため、「透明基板」または「透明基板を備える流動式チャンバー」に、カバーガラスより面積の等しいかまたは小さい試料保持領域を有し厚みを有する「包囲部」が貼り付けられる。「包囲部」は、試料保持領域(または、観察窓ともいう)に充填される試料をはじくような疎水性ポリマー材料であることが好ましい。
【0067】
本明細書における、「透明基板」は、光学的に透明なガラス基板またはアクリル基板などをいい、好ましくは、スライドガラスである。
【0068】
包囲部を透明基板または透明基板を備える流動式チャンバーに貼り付ける際には、流体と化学反応をおこさない任意のシール材または接着剤が使用され得る。包囲部としてさらに好ましい例として、少なくとも片面に貼付け剤を有するテープ材が挙げられ、最も好ましくは、市販のビニールテープである。
【0069】
テープ材を用いて試料保持領域(または、観察窓)を形成する例は、以下の通りである。まず、スライドガラスなどの上にビニールテープ(厚さ0.1mm程度)を貼る。ビニールテープ上にウレタン樹脂/酢酸エチル溶液を塗布した後、24mm×24mmのカバーガラスを使用する場合には、ビニールテープの中央部を18mm×18mmの大きさにくり貫き、試料保持領域(または、観察窓)とする。
【0070】
観察する試料が、カバーガラス上に接着している試料の場合、例えば接着性の培養細胞などの場合には、観察窓に試料に応じた培地などを添加し、細胞が接着しているシリコーンコート処理を施したカバーガラスを、細胞が観察窓の内部にくるように伏せ、ウレタン樹脂が硬化する前にカバーガラスの縁を押し付け、シリコーンとウレタン樹脂を密着させプレパラートを作製する。このシリコーンとウレタン樹脂の組み合わせによる作製方法を、本明細書以下、「シリコーン/ウレタン樹脂法」とする。
【0071】
観察する試料が、浮遊性の場合には、試料懸濁液を観察窓に満たし、シリコーン処理を施したカバーガラスをウレタン樹脂が硬化する前に下部材に伏せ、カバーガラスの縁を押し付け、シリコーンとウレタン樹脂を密着させプレパラートを作製する。
【0072】
観察する試料が、組織などの場合、観察窓に試料を設置すると共に適当な溶液で満たし、シリコーン処理を施したカバーガラスをウレタン樹脂が硬化する前に下部材に伏せ、カバーガラスの縁を押し付け、シリコーンとウレタン樹脂を密着させプレパラートを作製する。
【0073】
シリコーンは疎水性と柔軟性を有するので、カバーガラスを押し付けると接着部位では液体がはじき出されると共に吸盤作用が生じて密着性が高まるものと考えられる。さらに、縁をシリコーンコートしたカバーガラスを硬化前のウレタン樹脂表面に押し付けると、接着面ではウレタン樹脂のシリコーンへの高い親和性とシリコーンの持つ疎水性とが同時に発揮され、水を押し出しながら両者が強く結合してゆくものと考えられる。
【0074】
生きた細胞の長時間観察のためには、細胞の温度管理と細胞の代謝に伴う培地成分の変動を防ぐため、培地を逐次新鮮なものに交換する必要がある。また、生細胞の高解像度観察は、細胞の刺激に対する反応を観察する目的で行われる場合が多い。そのためには、試料を顕微鏡上から移動することなく顕微鏡上の細胞を封入した空間内に、必要に応じた量の薬剤などが添加されることが求められる。
【0075】
培地交換、薬剤添加など、いずれの目的においても顕微鏡ステージ上における培地などの流動が可能なチャンバーが必要であるが、チャンバーを利用したプレパラートにもカバーガラスを密着する工程が含まれることから、迅速で強固な密着を可能とし、かつ、目的の培地の流動などが簡便に行われる必要がある。
【0076】
実際に、培地などの交換、還流、添加が可能であるチャンバーを利用した高解像度観察に、本発明によるカバーガラスを下部材に密着させる方法を利用しようとする場合、従来の培地などの交換、還流、添加が可能であるチャンバーでは機能を発揮し得ない。
【0077】
本発明によれば、シリコーン/ウレタン樹脂法の発明により、本発明と組み合せることにより効力を発する新様式の流体(培地など)の交換、還流、添加、さらに温度制御が可能である、流動式チャンバーを提供することができる。
【0078】
以下、流動式チャンバーの構成の一例を示すが、これは単なる例示に過ぎない。例えば、流動式チャンバーは、温度制御が可能な倒立顕微鏡ステージ上にセットして用いる流体の流動式タイプとして組み立てられる。そのため、ステージと直接接触する部分には比較的熱伝導の良いガラス基板(スライドガラスなど)を用い、その上にアクリル樹脂で囲われた流体プール、並びに流体吸引ノズルを組み立てた(図3)。流体を供給および保持するための「リザーバ」は、顕微鏡光路への干渉と流体への熱伝導性とを考慮して、丈が低くかつ広い形状が好ましい。流体(例えば、新鮮な培地など)は、チャンバーの上面に溜め置かれるが、観察対象である試料はチャンバーの下面(対物レンズ側)にセットされるので、ガラス基板には、厚み方向に貫通する少なくとも2つの孔が設けられる。例えば、ガラス基板には、第1の孔および第2の孔が設けられ、それぞれ流体の流入および吸出しの役割を担う。第1の孔はリザーバと連通し、第2の孔はチャンバーと連通している。流入穴および吸出し穴の直径は、流体の種類、粘度および流体中に存在する微粒子の直径に応じて、適宜選択され得る。例えば、組織を含む培地の場合には、直径1.5mm程度が好ましい。
【0079】
流体吸出しノズル(図3参照)より延びるチューブの遠位端にポンプを取り付けて流体をゆっくりと吸引すると、観察窓には、一定の温度に保たれた流体(例えば、新鮮で培養温度に保温された培地)がプールから供給される。またプールの流体流入口近くに、マイクロピペットで任意の薬剤を添加すれば、流体の流れに乗って薬剤はすぐさま細胞に投与されることになる。
【0080】
このような仕組みにより、組織を含む培地の観察の場合、流動式チャンバーでは、高解像度の対物レンズがセットされた顕微鏡ステージ上において、培養温度を維持しながら培地の鮮度を保つことができる。また細胞への薬物等の投与・洗浄も顕微鏡上で自在に行うことができる。
【0081】
本発明のチャンバーに、シリコーン/ウレタン樹脂法により迅速、かつ強固にカバーガラスを密着させることにより、生きた細胞の高解像度継続観察が可能になる。また、細胞の刺激に対する瞬時から長期に及ぶ反応を高解像度で観察することも可能となる。
【0082】
【実施例】
以下に本発明を実施例により詳しく解説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(実施例1:接着強度試験)
本実施例では、シリコーン処理を施したカバーガラスと、ウレタン樹脂処理を施した下部材であるスライドガラスの接着強度を検討した。本実施例に使用したカバーガラスおよびスライドガラスは、従来の方法(井上(1998)、新版 顕微鏡観察シリーズ▲1▼ 顕微鏡観察の基本:124-127[非特許文献2])を用いて洗浄、保存したものである。
【0084】
1.1. カバーガラスのシリコーン処理
液体の漏れない容器中に5mm程度の深さでシリコーン-アルコール溶液を注ぎ、その壁に24mm×24mmのカバーガラスを立てかけた。この状態で1分間放置した後、カバーガラスを90度回転させて別の辺を溶液に浸しさらに1分放置した。この操作を繰り返すことで、カバーガラスの4辺に5mm程度の幅でシリコーンコートを施した(図1a)。
【0085】
1.2. スライドガラスのウレタン樹脂処理
薄い層の蒸留水をプレパラート内に密閉するため、スライドガラスの上にビニールテープ(厚さ0.1mm)を貼り、ビニールテープ上にウレタン樹脂溶液(コニシ株式会社製、シールプライマー)を塗布した。さらにテープの中央部を18mm角の大きさでくり貫いて容器を作製した(図1b)。
【0086】
1.3. カバーガラスのスライドガラスへの密着
テープをくり抜いた穴に十分な量(100ul)の赤い色素で着色した蒸留水を満たし、上からカバーガラスを被せた(図2参照)。カバーガラスの接着にあたっては、何も処理を施さない対照区と、縁にシリコーンコートのみを施した場合、およびシリコーンとウレタン樹脂処理とを施した場合を用意し、その接着の強度を比較した。
【0087】
1.4. 接着強度の評価
接着強度の評価は、カバーガラス表面の中央付近に瞬間接着剤で糸を取り付け、その端に所定の重さの分銅を括り付けたうえ、プレパラートを垂直に立てて接着部に加重することで行った(図2)。
【0088】
コート無しの場合(図2a)、10g重の力で1分以内にカバーガラスにズレが生じ液体が漏れ、さらに5分後には完全に脱落した。
【0089】
シリコーンコートを施した場合(図2b)は、10g重の力に対して1分では不動であったが、5分後には結局脱落した。
【0090】
シリコーン/ウレタン樹脂処理を施した場合(図2c)には、20g重の力を30分間かけてもカバーガラスは全くずれず、さらに封入した液体の漏れや蒸発も無かった。接着の速さに関しても、シリコーン/ウレタン樹脂処理の場合は両者が接触した瞬間に密着した。
【0091】
以上のことから、カバーガラスのシリコーンコートでは、ある程度の密着性の向上が見られるが、これだけでは油浸式対物レンズを使用する際の問題を全て解決することにはならず、これにウレタン樹脂の方法を追加することで、迅速で強固な密封が可能であることが明らかとなった。
【0092】
(実施例2:生きた動物培養細胞の油浸式対物レンズによる高解像度撮影)
本実施例では動物の細胞レベルでの研究に一般的に用いられているチャイニーズハムスターの卵巣由来の培養細胞(CHO-K1,Riken Cell Bank)を用いて、顕微鏡上で細胞の生理条件を維持したまま、油浸式対物レンズを用いて生細胞の高解像度顕微鏡撮影を行った。
【0093】
2.1. チャンバー作製
細胞を顕微鏡上の小さな密閉容器内で生きたまま長時間保持するためには、温度を37度程度に保つことが必要である他に、酸性老廃物の細胞外排出による培地の酸性化などを防ぐため、培地を逐次新鮮なものに交換する必要がある。
【0094】
そこで本実施例では、図3に示すような流動式チャンバーを作製した。チャンバーは、スライドガラスを基板としている。チャンバーには下面の中央に24mm×24mmのカバーガラスを接着する観察窓が設けられており(図3b)、ここに観察対象となる生物を入れ、カバーガラスを密着させることにより観察が可能となる。
【0095】
付着性の培養細胞などの場合には、辺縁部にシリコーン処理を施したカバーガラス上に培養し、この観察窓にカバーガラスを密着させることにより、生きた状態での継続的な高解像度顕微鏡観察が可能となる。培地などの添加を可能とするためアクリル材で細工したプール、吸引ノズルなどが装着されている。実際の培地の流動や、薬剤の添加は、吸引ノズルを(低速で安定した速度での吸引が可能な)吸引ポンプへ接続することにより行われる。アクリル材で囲まれたプール上に目的の溶液を添加し、吸引の開始、並びに吸引速度の制御は全て吸引ポンプによって行われる。
【0096】
2.2. 観察窓の作製
上記チャンバー下面にビニールテープを貼り、さらにウレタン樹脂を塗布した後、カバーガラスを接着した際に実際に観察する部分に相当する範囲のビニールテープを切り取り、観察窓を作製した。別にシリコーン処理を施した24mm×24mmのカバーガラス上にCHO細胞を培養し、観察試料を準備した。
【0097】
2.3. カバーガラスのチャンバーへの装着
観察窓に培地を満たした後、シリコーン処理を施したカバーガラス上に培養したCHO細胞が接着しているカバーガラスを細胞が培地に接するようにカバーガラスを観察窓に伏せ、辺縁部を下部材に押し付けることによりカバーガラスの装着が完了する。カバーガラスを装着することにより、培地の流動も可能となる。
【0098】
2.4. 接着強度の比較
チャンバー内部には培地流動による水圧が負荷されるため(図3c)、カバーバラスを固定する際には強固な接着力が求められる。そこでプレパラート作製時のカバーガラスの固定方法として、周囲をマニュキアで塗り固める従来の方法(a)と、本発明のシリコーン/ウレタン樹脂による接着法(b)を試みた。それぞれの方法で作製したプレパラートについて、実際に油浸式対物レンズを用いての細胞の観察を行い、両者の実用上の差異を比較検討した。
【0099】
その結果、シリコーン/ウレタン樹脂法では、2時間の連続観察を行っても培地が漏れ出すことはなかった。
【0100】
2.5. 細胞観察
従来のカバーガラスの周囲をマニュキアで塗り固める方法(a)では、マニュキアが乾くのに要する時間などで、プレパラートの作製に5—6分程度の時間を要した(図4a)。その間、試料は室温に晒されるため、観察された細胞には著しい収縮が見られた。すなわち、従来の方法では、細胞の輪郭は丸まって楕円状になり、また細胞の周辺部には収縮により形成される小胞(白い矢頭で示した)がブドウの房状に多数観察された。また観察を続けると概ね20~30分でチェンバー内の培地がカバーガラスの接着部から漏れ出す現象が見られ、この方法では長時間の連続観察には耐えなかった。
【0101】
一方、本発明のシリコーン/ウレタン樹脂による接着法(b)では、プレパラートを2分以内に作製することができた。室温に晒される時間が短いため、細胞は収縮せずに紡錘形を保つか、さらに薄く伸展して三角形を呈した(図4b)。これは細胞が極めて健康な状態を保っていることを示している。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、光学顕微鏡観察用プレパラートのカバーガラスの下部材への密着性の不十分さに起因する全ての問題が、簡便かつ迅速に解決され、光学顕微鏡による高解像度の長時間観察が可能となる。さらに、本発明の流動式チャンバーを使用することにより、例えば、培養細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織などの生きた試料の刺激などに対する瞬時から長期に及ぶ反応の継続的な観察が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、(a)本発明のカバーガラスの四辺に対するシリコーンコーティング、および(b)本発明の光学顕微鏡用プレパラートを示す図である。
【図2】図2は、(a)全く処理を施していないカバーガラス、(b)シリコーンコーティングしたカバーガラス、(c)シリコーンコート+ウレタン樹脂で処理したカバーガラスの接着強度を評価した比較実験結果を示す図である。
【図3】図3は、(a)流動式チャンバーの斜視図、(b)流動式チャンバーの上面図、および(c)流動式チャンバーの側面図を示す図である。
【図4】図4は、(a)従来のマニュキア法により作製したプレパラート、(b)本発明の方法(シリコーン/ウレタン樹脂法)により作製したプレパラート、について撮影したチャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞の写真の比較を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3