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明細書 :高能率ゲノム走査法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3573130号 (P3573130)
登録日 平成16年7月9日(2004.7.9)
発行日 平成16年10月6日(2004.10.6)
発明の名称または考案の名称 高能率ゲノム走査法
国際特許分類 G01N 27/447     
FI G01N 27/26 325E
G01N 27/26 311A
G01N 27/26 325A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 21
出願番号 特願2001-525196 (P2001-525196)
出願日 平成12年9月22日(2000.9.22)
国際出願番号 PCT/JP2000/006512
国際公開番号 WO2001/022074
国際公開日 平成13年3月29日(2001.3.29)
優先権出願番号 1999271462
優先日 平成11年9月24日(1999.9.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成14年2月21日(2002.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】399045053
【氏名又は名称】川崎 信二
発明者または考案者 【氏名】川崎 信二
【氏名】小松田 隆夫
【氏名】間野 吉郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】郡山 順
参考文献・文献 特開平02-269935(JP,A)
特開平09-043196(JP,A)
Electrophoresis,1993年,14(7),p.566-569
Electrophoresis,1995年,16(3),p.345-349
島本功、佐々木卓治監修,「細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ7 新版植物のPCR実験プロトコール -核酸の単利法とゲノム・遺,株式会社秀潤社,1997年 7月 1日,第1版第1刷発行,第182-189頁及び奥付
Applied and Environmental Microbiology,1996年,62(8),p.2947-2951
Electorophoreis,1999年 6月,20(6),p.1177-1185
調査した分野 G01N 27/447
特許請求の範囲 【請求項1】
ゲル上の特定のDNAのバンドに対応するクローンをゲノムDNAライブラリーから選択する方法であって、
(a)特定の生物のゲノムDNAライブラリーを、それぞれが該生物の1ゲノム以下のサイズの複数のサブライブラリーに分割する工程、
(b)それぞれのサブライブラリーに含まれる全クローンに対し、サブライブラリーの行、列、プレートの番号を振り付ける工程(ここで行、列、プレートをそれぞれ座標X、座標Y、座標Zとする)、
(c)全てのプレートの特定の行を示すクローン(座標Xクローン群)、全てのプレートの特定の列を示すクローン(座標Yクローン群)、および1つのサブライブラリーの特定のプレート上の全てのクローン(座標Zクローン群)をそれぞれ集めて別々にDNAを抽出して座標サンプルとし、対照として該生物から調製したゲノムDNAを用意する工程、
(d)1030cm角のゲル板を同時に複数枚装備して電気泳動を行なうことができ、かつ、ゲル板1枚当たり64以上の核酸試料を同時に電気泳動することができ、かつ、ゲルが1レーン当たり10μlの核酸試料を適用できる1mm厚の不連続緩衝液型のゲルである、電気泳動装置を用いて、座標サンプルとしたDNAと対照としたDNAとを並べて電気泳動する工程、
(e)電気泳動後のゲル上の座標サンプルとしたDNAのバンドと対照としたDNAのバンドを染色により検出する工程、
(f)対照における目的のDNAのバンドとゲル上での泳動度が一致するバンドが、座標Xクローン群、座標Yクローン群、および座標Zクローン群のそれぞれのクローン群の中のどの座標のクローンであるかを決定する工程、
(g)決定された3次元座標に対応するクローンをサブライブラリーから選択する工程、を含む方法。
【請求項2】
特定の生物の全ゲノムDNAを覆うコンティグを作成するために実施する、請求項1に記載の方法。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、多数の核酸試料を高効率で電気泳動し、目的とする核酸を検出するための方法および該方法に用いられる電気泳動装置に関する。本発明の方法は、ゲノムDNAの多型の検出、遺伝分析、遺伝子地図作製、および生物の全ゲノムを覆うコンティグないしは物理地図の作製において特に有用である。
背景技術
生物の品種等の間での違いを核酸レベルで検出しようとする際、これまではRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法やRAPD(Randomly Amplified Polymorphic DNAs)法等の手法が主として用いられてきた。しかしながら、RFLP法は、多量のDNA試料を必用とする上に、特定遺伝子近傍のマーカーを検索するためにはその生物に対する既存のRFLPマーカーを基に作製したゲノム地図が不可欠である。しかも、この地図の作製には長い時間と膨大なコストと人員とが必用であり、十分な密度でRFLPマーカーを持った遺伝子地図を備える生物は極めて限られている。一方、RAPD法による多型の検出は、比較的多数の試料に対応しやすいが、一度に安定して得られるバンドの数は数本程度と限られている。この場合に、PCRの条件を緩めて得られるバンドの数を増やそうとすると、得られる多型バンドの再現性が低下するという問題点も有する。
最近はAFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法が一度に多数の(50-100以上の)バンドを比較でき、試料のDNAの消費量も少なく、得られるバンドの再現性も高いことから良く用いられるようになってきた。しかし、この原法は40-50cmに及ぶ大型のシークエンスゲルを用い、また、アイソトープによるオートラジオグラフによる核酸バンドの検出を行う等、多くの経験を必用とする作業である上に、使用条件が限られ、検出にも時間がかかり、かつそれほど多数の試料を分析できない(1回に数十程度)という欠点があった。
最近では、バンドを蛍光プライマーを用いたPCRと自動シークエンサーとにより、比較的簡便に検出する手法が開発されたが、この手法に用いるシークエンサーは高額(1-2千万円以上)であり、しかも、この方法による実験においては長時間に亘り、本来、遺伝子の塩基配列の決定に用いる機械を占有してしまう。さらに、この手法におけるバンドの検出は、自動シークエンサーを用いるシステムで行なわれることを前提としているため、検出後に目的のバンドを単離して解析することができない。このため、検出されたバンドを、SCAR(Sequence Characterized Amplified Region)マーカーとして、特異的プライマーにより簡便に検出することができない点が大きな問題である。また、現在供給されている蛍光プライマーは、8-9種類づつで、全て組み合わせても64-81のプライマー対の組み合わせしか得ることができない。
また、ゲノム全体にわたる多型バンドを一度の検出する方法として、RLGS(Restriction Landmark Genome Scanning)法も挙げられるが、この方法においてもラジオアイソトープを用いており、微量のマーカーの検出のために数日を要する上に、1試料毎に巨大(40×30cm)なゲルや長く細いアガロースゲルを扱う必用がある。このため、この方法では腕力と十分な経験とを必用とする。また、この方法ではアガロースゲル中で核酸の制限酵素切断を行うために、大量の高額な制限酵素を用いる必用があり、高いコストがかかるという問題点も存在する。
イネのゲノム(450MB)についてRLGS法を実施する場合を例にとれば、標識部位の限定に用いる8塩基切断酵素がNot I等限られたものしか用いることができない上、1回の電気泳動で得られるドットの上限理論値が450MB÷48=13,700であり、実際は電気泳動の性質上、この1/3~1/6程度の2,000~4,000のドットしか得られない。しかも、比較すべき個体同士が別々のゲルで電気泳動されるため、泳動パターンがずれる場合が多く、相互の比較には高価な大型スキャナーと2次元泳動ソフトとが必要となる。
一方、全ゲノムをカバーする隣接クローンが互いの重複により整理、接続されたゲノムライブラリーの作製においては、初期の頃は、RFLPマップ等の既存の地図のマーカーを利用する試みがなされていた。しかしながら、高密度マップといわれるものでもせいぜい2,000程度のマーカーがあるに過ぎず、イネ程度の小さなゲノム(450MB)を持つものでも、平均200KB/バンド以上の密度でしかないため、全ゲノムをカバーするコンティグを作製するにはまばらすぎ、またこれだけの数のRFLPマーカーの検索のためには膨大な人員とコストと時間がかかる。
最近はライブラリー構成クローンを適当な制限酵素で切断した断片を高分解能のゲルで泳動して、そのパターンを全てデジタル化してデータベースとして取り込み、コンピュータ上で共通パターンを持つクローン同士を組み合わせて、全ゲノムをカバーするコンティグに組み上げる手法が良く用いられる。しかしながら、この手法においても全クローンを切断後末端を放射標識してオートラジオグラフィーを行なうという膨大な労力とコストとが必要になる。
発明の開示
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、大量の核酸試料を効率的かつ廉価で電気泳動し、目的の核酸を検出するための方法および該方法のための電気泳動装置を提供する。また、本発明は、該方法の好ましい利用の態様において、該方法を利用したゲノムDNAの多型の検出法、遺伝分析法、遺伝子地図作製法、特定のバンドに対するゲノムクローンの同定法および全ゲノムをカバーする整列化したコンティグの集合の作製法を提供する。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、従来、タンパク質の電気泳動に一般的に用いられている小型のゲルを利用した電気泳動法が、大量の核酸を効率的に電気泳動し、目的の核酸を検出するのに好適に用いることができるのではないかと考えた。
そこで、本発明者らは、核酸を電気泳動するための電気泳動装置であって10~30cm角のゲル板を同時に複数枚装備して電気泳動を行なうことができ、かつ、ゲル板1枚当たり32以上の核酸試料を同時に電気泳動することができる電気泳動装置を独自に製作し、この電気泳動装置を用いて、イネいもち病菌の非病原性遺伝子およびイネのカマイラズ変異体遺伝子の近傍の核酸マーカーの検索を行なった。その結果、この方法により、従来法のRAPD法で検索を行なった場合と比較して、顕著に高効率で多型バンドを検出しうることを見出した。
また、検出された多型バンドにつき連鎖分析を行なった結果、検出された多型バンドのうち特に標的遺伝子の近傍に位置付けられるバンドについても、この方法によれば、従来法に比して、はるかに効率的に得られることを見出した。
さらに、この方法は、上のような手法で見出された各種の重要な多型バンドを単離して特異的に増幅させる上でも役立つことが示された。例として、本発明者等は、この方法により、精米主用10品種を識別する多数のバンドを単離し、実際にその中のあきたこまちに特異的なバンドの配列情報からプライマーを設計し、精米主用10品種から得たゲノムDNAを鋳型にPCRを行なった。その結果、あきたこまちにのみPCRによる特異的な増幅産物が検出されることを見出した。即ち、本発明の方法によればイネ品種間の識別を簡便に行なうための多型バンドを効率的に得ることもできることが示された。
さらに、本発明者等は、この方法によれば、生物の遺伝子地図の作製や生物の全ゲノムをカバーするコンティグのための核酸マーカーを得ることも可能であることを見出した。
従って、本発明は、大量の核酸試料を効率的かつ廉価で電気泳動し検出するための方法および該方法のための電気泳動装置並びにそれらの利用に関し、より具体的には、
(1) 核酸を電気泳動する方法であって、
(a)10~30cm角のゲル板を同時に複数枚装備して電気泳動を行なうことができ、かつ、ゲル板1枚当たり32以上の核酸試料を同時に電気泳動することができる電気泳動装置を用いて、核酸試料を電気泳動する工程、および
(b)電気泳動後のゲル上の核酸のバンドを検出する工程、を含む方法、
(2) 不連続緩衝液型のゲルを用いて電気泳動を行う、(1)に記載の方法、
(3) 核酸試料が変性処理による2本鎖DNAの解離により調製された1本鎖DNAであり、変性ゲルを用いて電気泳動を行う、(1)に記載の方法、
(4) ゲル上の核酸のバンドの検出を蛍光染色または銀染色により行なう、(1)に記載の方法、
(5) 被検個体間のゲノムDNAの多型を検出するために実施する、(1)、(2)、(4)のいずれかに記載の方法、
(6) 被検個体間のゲノムDNAの多型を検出するために実施する、(3)に記載の方法、
(7) 核酸試料がAFLP法により増幅されたDNA断片である、(5)に記載の方法、
(8) 核酸試料がヘテロ2本鎖DNAである、(5)に記載の方法、
(9) 多型を示すDNA断片を調製する方法であって、(5)から(8)のいずれかに記載の方法において検出された多型を示すDNA断片をゲルから単離する工程を含む方法、
(10) (9)に記載の方法により単離された被検個体間で多型を示すDNA断片、
(11) 遺伝分析を行なうために実施する、(1)から(8)のいずれかに記載の方法、
(12) 遺伝分析がF2分析、RI(recombinant imbred)分析、またはQTL(Guantitative Traits Loci)分析である、(11)に記載の方法、
(13) 生物の遺伝子地図の作成のために実施する、(1)から(8)のいずれかに記載の方法、
(14) (13)に記載の方法により検出された多型を示すゲノムDNAのバンドをマーカーとして作成された生物の遺伝子地図、
(15) (1)から(8)のいずれかに記載の方法により検出されたゲル上の特定の核酸のバンドに対応するクローンをゲノムDNAライブラリーから選択する方法であって、
(a)特定の生物のゲノムDNAライブラリーを、それぞれが該生物の1ゲノム以下のサイズの複数のサブライブラリーに分割する工程、
(b)それぞれのサブブラリーに含まれる全クローンに対し、サブライブラリーの行、列、プレートの番号を振り付ける工程(ここで行、列、プレートをそれぞれ座標X、座標Y、座標Zとする)、
(c)全てのプレートの特定の行を示すクローン(座標Xクローン群)、および全てのプレートの特定の列を示すクローン(座標Yクローン群)、および1つのサブライブラリーの特定のプレート上の全てのクローン(座標Zクローン群)をそれぞれ集めて別々にDNAを抽出して座標サンプルとし、対照として該生物から調製したゲノムDNAを用意し、座標サンプルと対照とを並べて請求項1から4のいずれかに記載する方法で電気泳動し、バンドを検出する工程、
(d)対照における目的の核酸のバンドとゲル上での泳動度が一致するバンドが、座標Xクローン群、座標Yクローン群、および座標Zクローン群のそれぞれのクローン群の中のどの座標のクローンであるかを決定する工程、
(e)決定された3次元座標に対応するクローンをサブライブラリーから選択する工程、を含む方法、を含む方法、
(16) 特定の生物の全ゲノムDNAを覆うコンティグを作成するために実施する、(15)に記載の方法、
(17) 核酸を電気泳動するための電気泳動装置であって、10~30cm角のゲル板を同時に複数枚装備して電気泳動を行なうことができ、かつ、ゲル板1枚当たり32以上の核酸試料を同時に電気泳動することができる電気泳動装置、を提供するものである。
1.電気泳動法および電気泳動装置
本発明の電気泳動装置は、小型のポリアクリルアミドゲル(10~30cm角、標準では18cm角)を装着し得る電気泳動装置であって、ゲル1枚につき32以上(標準では64)の試料と数本(標準では2-4本)のサイズマーカーを同時に電気泳動することができると共に、これを2枚以上(標準では4枚)泳動することにより、多数の(標準では265)試料を同時に電気泳動することを可能にするものである。本発明で用いる電気泳動装置の1例を図1から4で示すが、この電気泳動装置では1枚の18cm角のガラスで作製される1mm厚のゲルで66のウェルにより64サンプルと2つのサイズスタンダードとを同時に流すことができ、しかも1台の泳動装置で4枚のゲルを同時に電気泳動することができる。これにより、1度に256サンプルを同時に泳動することができる。
ゲルは、通常タンパク質の電気泳動に用いる不連続型のポリアクリルアミド電気泳動システム(Laemmli,U.K.(1970)Nature 227:680-685)を用いることができ、これにより10μlに及ぶサンプルを1mmの狭い幅のレーンでも高分解能で泳動することができ、バンドの検出の感度も向上する。
本発明の核酸の電気泳動法においては、ゲル上での核酸のバンドの分解能を向上させるために、濃縮ゲル(Tris-HCl pH6.8,0.5M)と分離ゲル(Tris-HCl pH8.8,1.5M)とを用いて2層型の電気泳動を行うことが好ましい。また、核酸の電気泳動については、二本鎖のまま泳動することも、変性させた後一本鎖として泳動することも目的に応じて可能である。この場合、変性ゲル(6~8.5Mの尿素を含んだゲル)で電気泳動を行なう。核酸の多型を検出する場合においては、ヘテロ2重鎖として電気泳動することにより、通常は検出できないような小さな多型も、高感度で検出することができる。
本発明の核酸の電気泳動法における、電気泳動後の核酸のバンドの検出には、銀染色法や蛍光染色法を用いることが好ましい。銀染色法を用いれば、短時間(1-2時間)で、高感度の検出を行うことができる。しかも、アイソトープを用いる方法に比して経験を必要とせず、また、安全であり、かつそのまま乾燥させれば、試料として保存できると共に、より感度をあげることができる。蛍光染色を用いれば、30分程の染色で結果を見ることができる他、バンドの切り出しや回収のためには核酸の回収率が高く優れている。
本発明の方法においては、例えば、8×12の96穴型マイクロプレートの穴と同じ間隔(9mm)に2レーン以上を流せるように電気泳動のゲルコームを設計することで、増幅されたDNAサンプル等をゲルにロードする際の操作効率を大幅に向上させることができる。
2.核酸マーカーの検出
本発明の方法により核酸の多型を検出しようとする場合には、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism:Vos P,et al.(1995)Nucleic Acids Research 23:4407-4414)と組み合わせる場合が最も効率が高いと考えられるが、その他の各種の核酸の多型検出法と組み合わせることも可能である。
例えば、AFLP法を利用すれば、イネ(450MB)程度のサイズのゲノムでは6塩基切断側と4塩基切断側を両側に持つゲノム断片を増幅するためのプライマーにおいては、両側で3塩基づつの選択ヌクレオチドを用いた場合、1レーン当たり約50本の増幅バンドが得られることになる(下式参照)。標準的な4ゲル256サンプルレーンからなるシステムでは約12,800本のバンドが1回の泳動で得られることになる(実施例2)。
全ゲノムサイズ÷6塩基制限酵素による切断面の数÷ゲノム断片の両側の3ヌクレオチドよる選択率=バンド数
(450MB÷46×2÷43×2≒50)
これはRLGS法を実施する場合のゲル数枚分の情報量に匹敵し、しかも比較すべきレーンを隣同士に並べることができるので、特殊な読みとり装置等を用いずに生のデータで直接容易に比較することができる。
図6(実施例2)に示した通り、イネのゲノムDNAをEcoR IとMse Iとで切断して得られた実際のAFLPの実験例からも、上記の計算により見積もられた数に近いバンド数が得られているが、特に明確なバンドはこの半数程度である。
96サンプル用の0.2mlマイクロプレートを用いて5-10μlでのPCRを行うことにより、耐熱性DNAポリメラーゼ等酵素やヌクレオチドのコストを低く押さえることができると共に、8連の10μlピペットで一度に8本のサンプルをゲルに移することができるので能率も高く、1日に1回ゲル4枚分の電気泳動を余裕を持って行うことができる。
電気泳動後のゲルは4枚同時に1つの容器で一度に銀染色を行うことにより能率良く低コストで簡便に染色が行える。染色には一般に市販のタンパク質用の銀染色キットを用いることができる。
AFLP法に用いるヌクレオチドプライマーとしては、任意の制限酵素酵素に適合するヌクレオチドを用いることができる上に、さらに1~数塩基の任意の選択配列を3'側に付加することができるため、ほとんど無限の組み合わせが可能になる。ゲノムサイズが1GB以下の植物については、6塩基と4塩基のそれぞれの制限酵素としてはEcoR IとMse Iとを用いて、各64通りづつの3ヌクレオチド選択配列を備えたPCRプライマーを用いれば、64×64=4,096通りの増幅が可能となり、5~10%の多型率のある両親間での遺伝分析においては、1~2万本の多型バンドの検索ができる。これは物理地図作製のためにも実用的には十分な数であるとともに、従来の遺伝子地図のマーカーの数を1桁以上上回るものである。
バルク分析(Michelmore RW,et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9828-9832)等で得られた、目的遺伝子近傍のバンド等の重要なバンドは染色後切り出して、ゲルを破砕後適当な緩衝液で抽出してからPCRをかけ直し、適当なプラスミドに挿入して接合することにより単離してその配列を解析することができる(実施例4)。
以上の組み合わせにより、例えば、掛け合わせの両親とF2における優性・劣性それぞれのホモ個体各10個体前後づつを混合した2サンプルとの計4サンプルを1組とし、4レーン/プライマーペアの泳動を行えば、標準的な泳動装置(4ゲル:256レーン)では1回の泳動で64プライマーペアの泳動が可能である。これにより、4,096通りの選択プライマー全ての組み合わせが64回の泳動(延べ約2ヶ月)で完了する。これは、イネの日印交雑の様に約10%の多型を持った組み合わせでは、全ゲノムで20,000本の多型バンドを走査・検索する事に相当する。この効率は、従来の手法を1桁から2桁上回るものであり、これにより遺伝子地図の有無に拘わらず、短期間で遺伝子の単離が可能となる。また、4096通りすべての検索を行なうための費用も40万円程度と廉価である。
3.遺伝分析
1)F2分析
任意の遺伝子ないしは多型マーカーの組み合わせについてその間の遺伝学的な距離(あるいはマップ上の距離)を決めようとする場合、最も普通に用いられるのがF2分析であるが、本発明の方法を利用したF2分析によれば、多型マーカー間あるいは多型マーカーと遺伝子の間の距離を極めて効率よく決定することができる。
すなわち、一般のF2分析と同じく、ある遺伝子についてそれを持つ系統(A)と、目的遺伝子を持たない、あるいはその形質について明確な差がある系統で、Aとは適度の微小な形質の差のある系統(B)とを選んで交配し、多数のF2を得る。分析するF2個体の数は分析の精度に依存し、1CMの精度を得るためにはホモ個体(通常は劣性ホモ個体)50個体を用いれば、100本の染色体について目的遺伝子と多型マーカーとの間の組み替え率を調べることにより両者の間の遺伝学的な距離を決定することができる。劣性ホモ個体を分析すると、組み替えがなければ片親で劣性形質を持った親と同じマーカーの型を持つ個体が全てであり、1/100の組み替え率では、1個体の1染色体でのみ組み替えが見られることになる。
本発明では、標準的なシステムで1度に256個体の分析ができるため、これだけのホモ個体が得られれば1回の泳動で、512染色体での多型マーカーの組み替えを検定することができ、0.2CMの精度での分析が可能である。多型マーカーとしてはAFLP法を用いることにより、ごくわずかのサンプルDNA量(100ng以下)で検定が行われる。すなわち、ゲノムDNAをそれぞれの個体から用意して、EcoR IとMse Iの2種類の酵素で2重消化を行い、それぞれの酵素に適合したアダプターをゲノムDNA断片に結合させる。このアダプターに適合した1次プライマーを用いて1次PCRを行い、ゲノム断片を増幅させる。次に1次プライマーの3'側に任意の1-4塩基を延長した2次プライマーを用いて、この配列に適合したゲノム断片の1部だけをPCR増幅し、本発明の電気泳動法で分子量に応じて分離する。泳動後ゲルを銀染色等により染色し、目的の多型マーカーに組み替えがあるか否かの検定を行う。
本発明によれば、256個体に及ぶ0.2CMレベルの精密なF2分析も少量のDNAにより、1回の泳動で完了し、ブロッティングやオートラジオグラフの必要もなく、染色・乾燥した4枚のゲルはキャビネサイズでそのままアルバムに保存できるので結果の分析も極めて容易である。
2)RI分析
RI系統(Recombinant Inbred lines)とは、異なる系統を交配して作られたF2個体をそれぞれ何代にもわたって自殖して得られた系統のことを言う。多数の自殖の結果、ほとんどの遺伝子座がホモ接合になっており、ヘテロ接合が少ないので分離比も優性形質:劣性形質が1:1となっており、優性個体も目的遺伝子がホモ接合になっているので、そのまま本発明による遺伝分析が可能である。ヘテロ接合個体の割合が1/2に及び、優性形質と劣性形質の分離比が3:1になるF2分析よりも精密な遺伝分析が可能である。適当なRI系統が利用可能であればF2分析の場合と全く同様にして、本発明を用いて多数のRI系統から抽出したゲノムDNAによる遺伝分析(RI分析)ができる。
3)近傍マーカーの絞り込み
バルク分析法で得られた目的遺伝子の近傍マーカーをF2分析で絞り込み、最終的に最近傍のマーカー群のマッピングを行うためにも、本発明の電気泳動法を利用すれば、標準法で1度に256サンプルを泳動できるために、極めて高い能率で遺伝分析が行える。すなわち、イネ(日印交雑の場合)では2.で述べたように、仮に20,000バンドの多型マーカーが2,000CMの全ゲノムに均等に分布しているとすれば、バルク法で得られる遺伝子の近傍両側の約10CMづつ、計20CMの領域に存在するマーカーの数は200バンドと予想される。これだけの近傍マーカーから、その中での最近傍マーカーの絞り込みを行うに当たっては、第一段階として、まず1マーカー当たりF2世代の劣性ホモ個体14個体と両親のDNAとを16レーンに流して、目的遺伝子と候補マーカーとの組み替えの有無を検討する。こうして各マーカーについて28本の染色体での組み替え率が算定される。この際の分解能は約3.5CMとなる。これにより1ゲル当たり4バンドの候補マーカーのテストが行われることになり、1回の泳動では16バンドのマーカーのチェックが可能であり、それと同時に遺伝子の最近傍で組み替えを起こしている個体が明らかとなる。この後は、近傍での組み替え個体6個体と両親とを合わせて8レーンを用いるだけで6回の泳動で残り192本のマーカーのチェックが完成する。
マーカーと染色体組み替えの位置とが均等に起きていると仮定すれば上記のスクリーニングにより、遺伝子の両側それぞれ約4CM以内、計8CMの近傍のマーカーが40バンド程度得られることが期待される。次の第二段階では1次スクリーニングで残ったマーカーそれぞれを1CMの精度でマッピングするために、まず3回の泳動により12本のマーカーをそれぞれゲル1枚を使って62個体の劣性ホモのF2世代+両親についてのAFLP産物を泳動する。これにより、遺伝子近傍8CM内の領域の精密地図が得られ、遺伝子近傍1CM以内程度の最近傍で組み替えを起こしている個体が明かとなる。こうした近傍での組み替え個体を用いて、残りの28本のバンドを分析すれば、この地図上でのそれぞれの位置が明確になる。やはり最近傍組み替え体6個体と、両親と併せて8レーン×28組み合わせ=224レーンを1回の泳動でチェックすれば遺伝子近傍での分析は完結する。
すなわち、20,000の多型バンドからバルク法で選ばれた近傍マーカー候補200本の中から、11回程度の泳動で約1CM以内の最近傍のマーカーを絞り込むことができる。
遺伝子の単離において、1GB以下のゲノムサイズの生物ではこの程度のマーカーがあれば、平均1CMは500kB以下となるので、平均インサートサイズ150kB程度のBAC(バクテリア人工染色体)によるゲノムライブラリーから遺伝子近傍のクローンを選択してコンティグを形成することができる。
さらに精度を上げて、256個体の劣性ホモ個体を用いて0.2CMレベルでの分析を行う場合でも、適当な近傍マーカー4バンド程度を選んで4回の泳動を行えば、どの個体が遺伝子の最近傍で組み替えを起こしているかが明らかになる。これらの近傍での組み替え個体を用いて、第二段階の時と同様にして、最近傍と思われるバンドでの組み替えの様子をチェックすれば、最近傍マーカーが1回の泳動で容易に得られる。
ここでは、電気泳動で得られるバンドがゲノム・染色体中にほぼ均一の頻度で分布していること、及び染色体の組み替えがゲノム上で一様に起きていること、の2点を前提として原理を述べているが、実際は染色体中におけるバンドと組み替え位置との分布には粗密の偏りがあるので、用いたF2の数に対して得られる近傍マーカーと目的遺伝子との距離は一様分布の時よりは大きくなる傾向がある。
4)マーカー育種への応用
また、上記のようにして得た特定の形質遺伝子の近傍マーカーは、交配による在来育種を行うに当たっても極めて信頼性の高いマーカーとして用いられると共に、交配によって得られた多数の交配後代においてマーカーの分析を行う際にも、ゲノム走査法による分析は少量のDNAサンプルを取るだけで、多数の個体の分析を容易に行うことができ、RFLP法による従来の手法と比較して大幅な作業能率の向上と、コストダウンとを図ることができる。
5)QTL(Quantitative Traits Loci:量的形質座位)分析への応用
QTLとは、定量的形質の遺伝子座のことで形質の発現が定性的なほど強くなく、多くの場合複数の遺伝子座がその形質の発現にかかわっている遺伝形質のこという。染色体のどの位置にあるどの遺伝子座がそれぞれどの程度その形質の発現に寄与しているかを解析するのがQTL分析である。
QTL分析では、全ゲノムにわたって一様に分布している多数の核酸マーカーについて、多数の交配後代個体での多型の検討を行わなくてはならない。例えば、10CM/本程度のマーカー密度で2,000CMの全ゲノムに分布するマーカーを用いてQTL分析を行うとすると、200マーカーを少なくとも50個体程度のF2について検討する必要がある。これをRFLPマーカーで行うとすると50個体の核酸をプロットしたメンブレンについて、200回のハイブリダイゼーションを行う必要があり、1回のハイブリダイゼーションには2日は要するため、1度に4枚程度を同時に行うとしても、延べ100日は要することになる。メンブレンを10回使用できるとしても、20枚のメンブレンを用意するためには、100μgもの核酸を全50個体から採取するに要する労力には莫大なものがある。
本発明の方法においてAFLP法を利用することにより、イネの日印交雑のように10%程度の多型を示すものでは1レーンにつき数本の多型バンドが得られることから、適当なプライマーペアを用いることにより200マーカーの検索を50プライマーペア強での泳動で済ませることができる。1度の泳動で5プライマーペアについて泳動が可能(50×5=250レーン)であるため、50個体の泳動は、わずか10回(延べ10日)の泳動で全てのマーカーの検討を済ませることができることになる。しかも、各個体について必要とするDNAの量は1μgもあれば十分である。
具体的には、まず当該生物についてのAFLPマーカーによるゲノム地図ができている必要があるが、既存のものがないときは、後述の5.で説明しているように本発明を用いて容易に作成することができる。この地図の中から、希望する密度でマーカーを選択するが、その時になるべく少数のプライマーペアで全ゲノムをカバーできるように選ぶと能率がよい。
掛け合わせについては、目的とする量的形質の顕著な系統と、ほとんどその形質が見られない系統で、お互いに遺伝的に隔たった組み合わせを選ぶと適当な多型頻度が得られる。あまり離れた組み合わせでは、マーカーの分離がスムースに行かない場合が考えられる。この交配から得られた約50個体程度(目的に応じて数は変わる)のF2ないしはRI系統について、目的の形質を定量的に測定すると共に、それぞれから調製したゲノムDNAを用いて、3.1)で述べたようにAFLP法によるゲノム断片の増幅を行い、本発明のシステムにより泳動してマーカーバンドの多型を調べて記録する。
目的形質の数量と各バンドについて一方の親の多型の数との積を、地図上の全てのマーカーバンドについてプロットする事により各マーカー近傍の座位による目的形質への寄与度が明らかになる。
4. 品種・系統判別への応用
本発明を用いれば、農畜産物や各種の生物種の特定の品種や系統を判別するために必要なマーカーを効率よく検索することができる。すなわち、比較しようとする多数の品種から得たDNAを用いてAFLPを行い、本発明の電気泳動置を用いて同時に泳動することにより、数十から百以上の品種について、数十本のバンドを同時に比較することができる。これにより、多数の品種に対しても特定の識別バンドを容易に選び出すことができる。
この場合、n本のバンドを組み合わせることにより、理論的には最大限2n種の品種・系統等を識別することが可能になるが、実際の場合は識別できる品種、系統の数はこれよりはやや少なくなる。
品種や系統同士が極めて近縁で、通常のAFLP等では多型が得にくい場合には、比較対象のゲノムによるAFLPやRAPDの産物等を混合後加熱冷却してヘテロ2重鎖として泳動し、対象のバンドとの比較により品種間差を感度良く、簡便に、能率良く検出することができる。
なお、特定の識別能力の高いバンドが同定されたときには、7.に述べる方法でそのバンドを単離し、特定のプライマーからPCR増幅できるようにすれば、PCR後は簡便なアガロース電気泳動により1時間程度で品種判別が可能になる。さらには、プライマーに特定の蛍光ラベルを予め施して、そこからバンドが増幅されるか否かを蛍光検出器付きのPCR装置で調べることにより、2~30分のPCRだけで、電気泳動もすることなく品種や系統を識別することも可能となる。
5.生物の遺伝子地図の作製
ある生物の全ゲノムをカバーする遺伝子地図(正確には核酸マーカー地図)を作製しようとする場合、QTL分析を行う場合と同じく数百から千以上のマーカーについて、必要とする地図の解像度に応じた数のF2個体を用いて分析する必要がある。高等植物の場合、特に主要農作物ではほとんどがゲノム全長で1,500~2,000CMであることから、約1CMの密度と精度でゲノム地図を従来のRFLP法で作製しようとすると、100個体以上のF2世代から作製されたメンブレンを1,800程度のマーカーについて繰り返してブロッティングする必要があり、1回のブロッティングにプローブの調製を含めて4日を要することから、1回に4種類のプローブを処理するとしても延べ1,800日の作業を要する。またこのために要する核酸の量も膨大なものとなりF2の各個体で1mg以上のDNAが必要となる。こうしたことから、遺伝子地図は数十人のチームにより何年にもわたる作業で作製されてきた経緯がある。
本発明では、10%程度の多型を持った交配親の組み合わせを例に取れば、1プライマー組み合わせで平均4~5本の多型が見られるので、予備試験で予め6本以上の多型を示すプライマー組み合わせを選択しておき、これを用いて標準モデルで128固体のF2世代を用いてマッピングを行うことにより、1回の泳動で2プライマーペア12本以上のマーカーのマッピングが可能になる。従って、1,800本のマーカーを持つ地図の作製も1名の人員で延べ150日間の分析で精密地図が作製されることになり、従来手法の10倍以上の効率で地図の作製が行われ、300マーカー程度の地図ならば一人で1ヶ月ほどでの作製も可能となる。
具体的手順としては、適当な遺伝的距離で隔てられた2系統を交配して、目的とする地図の精度に応じた数のF2個体ないしはRI系統を作製する。平均的な多型率が、両系統間で10%をあまり超えない範囲であれば、雑種不稔や分離比の歪みなどが出る恐れが少ない。0.5ないしは1CM程度の精度をめざすのであれば差し当たり、128ないしは64個体もあれば十分な精度が得られる。これらの個体からゲノムDNAを調製し、前に述べたF2分析やRI分析の時と同様にAFLP法で増幅したPCR断片を本発明のシステムにより泳動、染色、分析する。すなわち、調製したゲノムDNAを96穴のマイクロプレートに保存しておき、その一部(0.1ug程度)を取りEcoR I,Mse Iによる2重消化を行い、アダプターを切断面に接合した後、アダプターと同じ5'側のプライマーで予備増幅を行う。次ぎに予備増幅されたPCR産物を鋳型として適当な数の選択塩基が付いた選択プライマーで2次増幅して、これを本発明の電気泳動装置にアプライする。この際8連ないし12連のピペットあるいは8-12連のマイクロシリンジを用いるとゲルへの装填の効率が向上する。64サンプルでは4プライマーセットで、約20マーカー、128サンプルでは2プライマーセットで10マーカーの泳動が1度で行える。多型バンドの分析にはMAPLあるいはMAPMAKER等の遺伝子地図作成用のソフトを用いれば、効率がよい。
参考事例として、15レーンのゲル8枚を用いた本発明の前身のシステムでオオムギのアズマムギ×関東中生ゴールドのRI、99系統を用いて2ヶ月ほどで227マーカーのAFLP地図を作製し、それまでに得られていた45マーカーからなる地図と統合して、272マーカーからなる地図を作製した例を示す(図11)。この場合でも、一人で約2ヶ月でAFLP地図の作製ができており、以前のSTSマーカー等による地図の作製の場合と比較して約40倍の効率が達成されている。本発明の方法では、この前身のシステムよりもさらに作業効率が向上している。
6.大きなゲノムサイズを持った生物種への適用
本発明はAFLPとの併用で行う場合に最もその力が発揮されると思われるが、AFLPの特徴はEcoR I(6塩基認識)とMse I(4塩基認識)とで2重消化したゲノム断片にそれぞれの切断サイトに適合したアダプターを接続させ、1次増幅では全ての断片を増幅させるようにこのアダプター配列をPCRプライマーとして用い、次の2次増幅の際の2次プライマーとしては、1次プライマーの3'側に1~数塩基の選択配列を延長した選択プライマーを用いて、それに適合した配列を両端に持つゲノム断片だけを特異的に増幅させる点にある。ゲノムサイズの比較的小さな生物(イネなど:450MB)の場合は、2次プライマーとしてはEcoR I及びMse Iサイトの両側で各々3塩基づつの選択配列を付加したプライマーを用いている。これにより、「2.核酸マーカーの検出」で述べたように平均して約50のバンドが選択的に増幅されることになる。いもち病菌(40MB)等の糸状菌程度のサイズのゲノムでは、どちらかの制限サイトでは1塩基だけの任意配列の付加にとどめることにより、50本×(40MB/450MB)×16≒70本のバンドが得られると期待されることになる。一方、ゲノムサイズの大きな生物においては、AFLPプライマーにおける選択配列の塩基数を3から4に増やすことにより、基本的には対応ができる。
ところがもう一つの方法として、電気泳動の条件を変えることもできる。通常PCR増幅産物を電気泳動する場合には、これらの材料ではそのまま2本鎖として非変性条件で泳動すれば便利であるが、より大きなゲノムサイズを持つ生物(例:オオムギ:5.5GB)では2本鎖のまま泳動したのではバンドがきれいに分離されない。ここで8.5M尿素の入った変性ゲルを用いて、DNAサンプルを50%フォルムアミドの存在下で90℃3分の熱変性をさせて1本鎖DNAに解離したものを泳動するようにすると、多数のバンドを明確に識別することができる(実施例4)。
実際の場面では、ゲノムサイズが大きくなるにつれAFLPは困難になってくるので上記の2種類の方法を組み合わせながら対応するのが現実的である。
7.重要なバンドの単離とその配列解析によるSCARマーカー化
3.,4.,5.等で示した本発明の実施方法においては、それぞれの場合に応じて特に重要な情報を担ったバンドが同定されることになる。すなわち、3.での特定遺伝子の近傍バンド、4.での品種判別に好適なバンド、5.の遺伝子地図でランドマークとなる様なバンド等である。
こうしたバンドは、ゲルから切り出して、破砕抽出・凍結融解・電気泳動等で溶出後再度同じプライマーペアでPCR増幅を行い、適当なクローニングベクターに挿入してその配列を決定してその両端部をプライマーとするSCAR(Sequence Characterized Amplified Region)マーカーとすることができる(実施例3)。この場合、染色にはcyber green等蛍光染色を用いた方が核酸の抽出がやりやすい。バンドの同定はできてもそれを取り出すことができない、シークエンサーを利用したAFLP法と比較すると、本発明の方法は簡便でありながら本来のAFLPの重要な機能を完全に利用することができる点で優れている。
8.特定のバンドを含むゲノムクローンの単離
3.,4.,5.等で示された重要な情報を担ったバンドはそれを含むゲノムクローンを単離する必要がある場合がある。特に、重要な機能を持った遺伝子をポジショナルクローニング法で単離する場合、2.,3.のような方法で遺伝子の両側の最近傍のマーカーを同定した後、それらを利用してBACライブラリーのようなゲノムライブラリーからバンドの乗ったクローンを選択し、そのクローンの両端のマーカーを用いて次の連続するクローンを同定することを繰り返して(walking)、遺伝子の両側にあるマーカー(flanking marker)の間を連結する一連のクローンの連結集合(contig)を作製する必要がある。
コロニーハイブリダイゼーションによりゲノムライブラリーの構成クローンが整理されて結合された高密度メンブレンが既に用意されている場合は、7.のようにして直接PCR増幅されたバンド、あるいはSCARマーカーとして増幅されたバンドをプローブとして、メンブレンに対してハイブリダイゼーションを行なうことにより目的クローンを拾い上げることができる。
または、9.に述べる方法により当該生物のゲノムライブラリーをサブゲノムライブラリーに分割した後、サブゲノムライブラリー中のクローンをマイクロプレートの行、列、プレート各番号に対応する様にクローンDNAを混合した座標マーカーを作製しておき、これらに対してゲノミックDNAを対照として同じプライマーペアでAFLPを行った後、本システムを用いて泳動すれば、対照と同じバンドを増幅している、行、列、プレートの座標から、ハイブリダイゼーションに頼ることなく目的のバンドを持ったクローンを同定することができる。
9.生物の全ゲノムをカバーするコンティグの作製
ある生物のBAC等によるゲノムライブラリーをもとに、この構成クローン全てについて互いの隣接状況を明らかにできれば、個々のコンティグをつなぎ合わせて、全ゲノムをカバーするコンティグ(物理地図)に発展させることができる。こうして作製された物理地図は、いわばその生物のゲノムの構造そのものを再現したものに相当し、この完成により必ずしも全ゲノムのシークエンスを待たずに、重要な機能遺伝子の単離・同定が極めて容易に行われ、その生物のゲノムを手に取るように扱えるようになる。実際、全ゲノムコンティグが完成すればその後のゲノムシークエンスの作業はほとんど完全に機械化することも可能になる。しかし、これまでは、全ゲノムコンティグの作製は数十人を擁する大きな研究グループでしか対応できないものであった。しかるに、本発明を用いれば、イネ程度のゲノムサイズ(500MB程度)では、1人で1年程度で全ゲノムをカバーするコンティグを作製することも可能である。
これまで、全ゲノムコンティグが困難であったのは、ゲノムライブラリーを構成する各クローンをマークする特異的な標識が得にくいということが最大の理由となっていた。本発明ではAFLPとの組み合わせにより、両端の3塩基配列と塩基数(長さ)という2つのパラメーターで標識された極めて特異的なバンドを1レーンで30-50本程度も一度に得ることができる。これらの特異的バンドを全て、ゲノムライブラリーの構成クローンに対応させることができて、かつそのバンドの分布密度をBACクローンの長さより十分小さくすることができ、同じマーカーを共有するクローン相互をつなげてゆくことは難しいことではないと言える。
ここで、AFLPバンドとライブラリーのクローンのほぼ1対1の対応をとるために、通常数ゲノム相当以上ある全ゲノムのゲノムライブラリーを約1ゲノム相当のサブライブラリー数個に分割する。さらにサブライブラリーを構成するクローンはマイクロプレートの行、列、プレートの各番号と座標とすれば1義的に決定されるので、行、列、プレート番号をそれぞれ座標軸として同じ軸座標を持つクローンから少量のDNAを集めて混合し、行、列、プレート軸の各座標を代表する座標サンプルを作製する。これらを鋳型にして本発明のゲノム走査法を行ない、対照となる全ゲノムDNAを鋳型とするレーンを座標レーンの両端においてAFLPパターンを比較すればゲノムDNAを鋳型とする特定のバンドと対応するクローンをサブライブラリーの中から容易に検出することができる。仮に、サブグループに2つないしはn個の対応クローンがあると、23の8個ないしはn3個のクローンがそのバンドと対応することになるが、この場合はこの8クローンを取り出して2度目のゲノム走査法による泳動を行えば、真に対応した2クローンを同定することができる。具体的なサブライブラリーの座標サンプルの作製法は実施例5に示した。
このようにして、いもち病菌程度のゲノムサイズ(約40MB)で120kBの平均のインサートサイズのライブラリーであれば、約1ゲノム相当のサブライブラリーは約300クローンとなり、8行6列6半プレートに納めることができる。これならば、座標サンプル20レーンに対して対照のゲノム2レーン計22レーンを流しても2枚のゲルで6ゲノム相当のサブライブラリー、すなわち全ゲノムライブラリーの泳動を行うことができる。すなわち、1回の泳動で2プライマーペア、約60本のバンドの同定・対応が行えたとすると、25回の泳動で1500本のバンドの対応が可能になる。これは、40MB/1500本=27kB/本の密度であり、120kBの平均サイズのBACクローンに対して、平均4.4本のバンドが同定されることに相当するので、平均6ゲノム相当のクローンの重複があることを考えると、ほぼ全ゲノムがこれによりカバーされることが十分期待されることがわかる(実施例5参照)。
イネ程度のゲノムサイズ(450MB)に対しても平均インサートサイズ150kBの6ゲノム相当のライブラリーについては、ほぼ1ゲノム相当の32枚のプレートを用いて16行、12列、16×2プレートのマトリクスを作製することにより、6サブライブラリー分を1回で電気泳動することが可能であり、1回に約25のバンドの同定が行われる。200回の泳動で5000本のバンドの同定が行われ、これは450MB/5000本=90kB/本の密度に相当するので、150kB平均のクローンが6倍の重複度で存在するライブラリーから長いコンティグを作製するには十分の密度であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ゲノム走査法に用いる標準的な電気泳動装置の本体の正面図及び上面図である。18cm角のゲル4枚を同時に泳動することができる。1枚のゲルは1ミリ幅の66-68検体が載せられるコームによりサンプルアプライ用のウェルが作製され、2~4レーンは分子量マーカー等を流すのに用いるので、実質64サンプル/ゲル、4枚のゲルでは256サンプルを一度に泳動する事ができる。8連のマイクロピペットを用いることにより、能率良くPCR増幅したサンプルをゲルにアプライすることができる。
図2は、ゲノム走査法に用いる標準的な電気泳動装置のゲル板止め部品を示す図である。
図3は、ゲノム走査法に用いる標準的な電気泳動装置のコームを示す図である。
図4は、ゲノム走査法に用いる標準的な電気泳動装置の完成品写真を示す写真である。
図5は、バルク分析により得られたイネいもち病菌の非病原性遺伝子avrPibの近傍マーカー候補のゲノム走査法を用いた1次スクリーニングを示す電気泳動写真である。4種の近傍マーカー候補を持つプライマーペアA,B,C,Dについて、それぞれ左から親株avrPib-,+,バルクavrPib-,+,F1株avrPib-6株,+6株でAFLPと組み合わせたゲノム走査分析を行った。図中の三角はマーカー候補のバンドを示す。A,B,Cについては1次スクリーニングは全て期待通り遺伝子型と共分離を示したが、Dについては-+の1株づつで組み替えが見られた(黒三角)。それぞれのプライマーペアで5-60本のバンドが得られていることに注意。ゲル1枚で3-4,000本のバンドが走査でき、1度に4枚泳動できるので12-16,000本のバンドの走査が行える。ここで用いたプライマーペアの選択ヌクレオチド数はEcoR I側で3塩基、Msp I側で1塩基となっている。ここで用いた交配株間の多型率は、約5%であり、いもち病菌の全ゲノムは約500CMであるので、256プライマーペアで約500本の多型バンドが得られ、1CM/本のマーカー密度で全ゲノムをカバーできる。
図6は、RAPD法とゲノム走査法とで得られたイネいもち病菌の非病原性遺伝子avrPibの近傍マーカーをF1株を125株用いてそれぞれの方法でマッピングして得られた遺伝子近傍の精密地図を示す。表1に示したようにRAPD法では700プライマーを用い、ゲノム走査法では251プライマーペアのPCRによりそれぞれ近傍マーカーを検索した。RAPD法のマーカーの検索とマッピングには3ヶ月を要したのに対して、ゲノム走査法では1月で完了した。カウントしたバンドは極めて明瞭なものだけに限ったので、かなり少なめに出ている。An:ゲノム走査法で得られたマーカー。(Rn):RAPD法で得られたマーカー。
図7は、イネのセルロース合成変異体カマイラズ:bc-3の近傍マーカー検索のためのバルク分析の例を示す電気泳動写真である。4レーンづつのセットは左から変異体親株(M11:japonica)、変異体(劣性)ホモのバルク、野生型(優性)ホモのバルク、野生型親株(Kasalath:indica)。矢印はバルク間で明瞭な差が認められる遺伝子近傍マーカーの候補を示す。明瞭なバンドだけでも1レーン当り20-30本が数えられ、やや細いバンドを含めれば理論値の平均50本前後が1レーンで確認される。
図8は、オオムギの2条性を決める遺伝子を探索するための、アズマムギ(6条)×関東中生ゴールド(2条)の掛け合わせにアズマムギ(6条)による戻し交配を7代重ねながら、2条性を示す系統を選んで行き、アズマムギを背景とした2条の準同質遺伝子系統として確立されたものと、戻し親のアズマムギとをゲノム走査法で比較した写真である。32レーンで16プライマー対における差を検索したものであるが、両者で差があるものは極めて限られており、これが2条性の遺伝子と強く連鎖した領域にある多型バンドの候補である。
図9は、Aは「あきたこまち」に特異的なバンドを単離して得られたSCAR(Sequence Characterized Amplified Region)マーカーの例を示す。反転部分が作製したプライマー。Bは、Aのプライマーを用いて主要10品種の核酸からPCR増幅されたバンドを示す電気泳動写真である。「あきたこまち」でのみ特異的なバンドが増幅されている。control1は配列決定用に単離した特異的バンドをテンプレートとしたもの。
図10は、ゲノム走査法を用いて直接にゲノムライブラリーから特定バンドに対応するクローンを選択する方法を示す。ここでは、いもち病菌(ゲノムサイズ40MB)の平均インサートサイズ120kBの6ゲノム分のライブラリーをほぼ1ゲノム分のサブライブラリー6個に分割して、各々からゲノム走査法のバンドに対応するクローンを同定する場合を示している。
図Aにおいて、黒丸で示したクローンは、C行、4列、aプレートとして表示される。座標C行目を代表する座標サンプルは全ての半プレートのC行目の全ての列のクローンのDNAを10ngづつ集めて作製する。図Bにおいては、1つのサブライブラリーは、8行、6列、6半プレート分の座標サンプルと、対象のゲノムレーンとの計22レーンで構成される。6ゲノム分を同時に2枚のゲルで泳動することができ、対照のバンドと一致したバンドを示す座標から対応するクローンが同定される。
図11は、ゲノム走査法の前身となる15レーンタイプのゲルの電気泳動法でオオムギの遺伝子地図を作製した例を示す。全272マーカーのうち、この方法でマップされたAFLPマーカーは227であった。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]イネの非病原性遺伝子avrPib遺伝子の近傍核酸マーカーの精密マッピング
イネの抵抗性遺伝子Pi-bに対応するいもち病菌の非病原性遺伝子avrPibについて、その近傍の核酸マーカーの検索及び得られたマーカーと本遺伝子との間の遺伝学的距離の決定を試みた。avrPibはイネの抵抗性遺伝子Pi-bに対応するいもち病菌の非病原性遺伝子で、この遺伝子産物がイネのPi-b遺伝子に認識されることによりイネの抵抗性が成立しており、avrPib遺伝子が変異を起こせばPi-bによる抵抗性は崩壊することになる。従って、この遺伝子を単離して抵抗性崩壊をもたらした株での変異の原因と、抵抗性遺伝子産物と非病原性遺伝子産物とがどのように相互作用しているかを調べる必要がある。実際に抵抗性崩壊が起きた地域から単離されたPi-bを侵すいもち病菌との交配により、非病原性遺伝子の精密マッピングを従来法の代表としてのRAPD法と本法との間で比較した。
avrPibを保持している(Pi-bを持つイネを侵せない)菌株と、avrPibを持たない(Pi-bを持つイネを侵す)菌株との交配を行い、F1世代の菌株を多数得た。これらのF1菌株をPi-bを持つイネに接種して各菌株におけるavrPibの有無を調査した後、avrPib保持グループ(+)と欠損グループ(-)それぞれ十数株づつからゲノムDNAのバルクを作製し、親菌株2株と+,-各バルク2種類との4種類のサンプルを用いて、64×4通り=256通りのプライマーペアによるAFLP分析を行った。いもち病菌のゲノムサイズは約40MBとイネの約1/10であるため、イネの1/16程度のプライマーペアでゲノムをカバーできる。
比較のために、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNAs)法で約540プライマーを用いて増幅を行った結果と比較した。RAPD法では大型のサブマリンゲルで、例えば一度に144レーンを同時に泳動することができるが、バルク法では540×4=2160のレーンを流す必要があり、15日かけて、安定性の高い明白なバンドのみ1860本のバンドをバルク間で比較して約100本の両親間での多型バンドを見出した。
これに対して、本法では4日間で約5700本のバンドを比較検索することができて、304本の多型バンドを見出した(表1)。これから、本法の能率はRAPD法の11倍に及ぶことが示される(5700/1860×15/4)。
JP0003573130B2_000002t.gifこれらの多型バンドのうち、バルク法で優性ホモと劣性ホモと明確な差が出た遺伝子近傍バンドの候補はRAPDとAFLPではそれぞれ、6本と41本であった。これらのバンドをまず実際のF1株12株を用いて検定し、1次スクリーニングを行った(図5)。さらにF1の株数を増やして行って、最終的にはF1斤株125株での検定でavrPib近傍の精密地図を作製した(図6)。RAPD法では2本、本法では12本のバンドが実際の目的遺伝子avrPibから20CM以内にあることが示された。最も目的遺伝子に近いバンドはRAPD法で得られたものでは5.3CMであったのに対し、本法で得られたものでは1.8CMとはるかに近かった。いもち病菌では1CMは約80kBに相当するので、この距離は物理地図の作製に十分移行できる距離といえる。
[実施例2]イネのカマイラズ変異体遺伝子の一つbc-3の精密マッピング
イネの桿の細胞壁の2次肥厚に必要なセルロース合成ができなくなった変異体(カマイラズ:brittle culm)の一つであるbc-3の原因遺伝子の近傍の核酸マーカーをゲノム走査法で検索した。F2分析のための交配の親株としては、japonica型のbc-3変異体:M11、indica型の野生型Kasalathとの交配を用いた。F3世代までの分析により、変異型ホモ個体10個体、野生型ホモ個体8個体を同定して、それぞれのゲノムDNAを混合したものを、両親株と共にAFLPと組み合わせたゲノム走査法によるバルク分析に供した。それぞれの核酸をEcoR I(6塩基認識),Mse I(4塩基認識)の2種類の酵素で2重消化した後、それぞれの酵素の切断部位に隣接した3塩基の選択ヌクレオチドを持つプライマー1430組み合わせについて、バルク分析によるゲノム走査法を適用した。図7はその1例である。
その結果、97の近傍マーカーの候補が得られ、このうち50が劣性ホモ個体から、マーカーの組み替え体を検出するのに有効に用いることができる。それぞれのマーカー候補について10個体づつの劣性ホモ個体(20染色体)によるF2分析を行ってマーカーの絞り込みを行い、特に24マーカーについて劣性ホモ個体32個体64染色体での分析を行った結果、標的遺伝子と共分離している(遺伝子との距離が0CMの)マーカーが1つ見出された(図7)。
[実施例3]
オオムギ(5.5GB)のようにゲノムサイズが極めて大きな生物では、AFLPにより本発明を適用しようとする場合、ゲノム断片両側でのプライマーの選択塩基数が各々3である場合、イネ(450MB)程度のゲノムサイズの様に非変成条件で2本鎖のままDNAを泳動したのでは必ずしも明確なバンドにならない。この場合、選択プライマーの数を増やすのも一つの対応法であるが、3づつの選択マーカーを用いてもゲルに6~8.5Mの尿素を加えた変性条件下で、サンプル緩衝液にも50%のホルムアミドを加え、泳動直前に90℃3分の熱変性を加えることによりDNAを1本鎖として泳動すると、十分なバンドの解像度が得られる。
図8はオオムギの2条性を決める遺伝子を探索するため、アズマムギ(6条)×関東中生ゴールド(2条)の掛け合わせにアズマムギ(6条)による戻し交配を7代重ねながら、2条性を示す系統を選んで行き、アズマムギを背景とした2条の準同質遺伝子系統として確立されたものと、戻し親のアズマムギとをゲノム走査法で比較したところである。32レーンで16プライマー対における差を検索したものであるが、両者で差があるものは極めて限られており、これが2条性の遺伝子と強く連鎖した領域にある多型バンドの候補である。
この泳動条件でオオムギでは平均約58本のバンドが同定される。大型のシークエンサーゲルでオオムギのAFLPを行った場合での平均バンド数が約88本(Castilioni et al.1998 Genetics 149:2039-2056)であるので、約67%のバンドが同定されていることになる。大型ゲルでは1日でゲル1枚32レーン程度の効率でしかできないところが、本発明では1日で256レーンの処理ができるので、5~6倍の効率が得られることとなる。
[実施例4]ゲノム走査法で同定されたイネ品種の識別バンドの単離と配列解析による特異的プライマーの設計
市販の精米の品種を簡便に判別するためのSCARマーカーを開発して、その場合でPCRを行うことにより誰にでも容易に品種を判別できるシステムの構築を試みた。
ゲノム走査法(AFLP)で市販の精米主要10品種を識別するバンドを55種類のプライマーを用いて検索した。この検出にはわずか2日しかかからない。多数の品種判別に適したバンドが得られたが、そのうちの一つで「あきたこまち」に特異的なバンドを幅の広いレーンで泳動後、蛍光色素(vistra green)で染色して切り出し、TEバッファー中で破砕抽出してからAFLP用のプライマーを用いてPCRで増幅した。PCR増幅産物を適当なプラスミドに挿入して大腸菌に導入し、菌を培養増幅して得られたプラスミドに目的のインサートが入っていることを制限酵素で確認後、配列の解析を行い、目的バンドを特異的に増幅するプライマーを設計した(図9A)。このプライマーを用いて、主要10品種から得たDNAをテンプレートとしてそれぞれPCR増幅を行い「あきたこまち」でだけ特異的なバンドが増幅されることが確認された(図9B)。
[実施例5]核酸マーカーに対応するライブラリーのクローンの選択方法
通常、ゲノムライブラリーから本法で得られた特定のバンドに対応するクローンを同定する場合、実施例3のようにして得られたSCARマーカーを利用して、ライブラリーを載せた高密度メンブレンにコロニーハイブリダイゼーションを行ってポジティブクローンを選択することが行われるが、多数のバンドに対して全てこの方式を用いるには手間とコストがかかりすぎ、また必ずしも単離されたバンドの内部配列がユニークであるとは限らない。
マーカーバンドの単離を経ずに直接、ゲノム走査法により特定のバンドに対応するライブラリーのクローンを選択する方法としては、次のようにすればよい。まず、全てのライブラリークローンからBAC等のゲノムクローンのDNAをプラスミド抽出機により抽出して元のクローンのプレートと同じ配列のDNAによるプレートを作製しておく。次に全ゲノムライブラリーを分割して1ゲノム相当以下のサイズのサブライブラリーの集合とする。これにより、1つのサブライブラリーの中で平均1クローンだけが特定のバンドに対応するようになる。さらに、各サブライブラリーを構成する数枚分のマイクロプレートのクローンから行、列、プレートの各番号を座標として同じ座標番号を持つクローンから10ngづつのDNAを集めてゆき、各座標に対応する座標サンプルを作る。例えば、3行目にあるクローンからは、プレート番号や列番号に関わりなくすべて10ngづつDNAを取って集めて、行座標3行目の座標サンプルとする。同様にすべての座標について座標サンプルを作り、各座標サンプルと対照の全ゲノムサンプルについて同じゲノム走査法を適用する。座標サンプルDNAを作製するには、ゲノムライブラリー全クローンのDNAを抽出しなくても、2ml程度に増やした各クローンの培養をそのまま少量づつ行、列、プレートごとに混ぜて、座標サンプルとした後に、その混合培養からDNAを抽出してもよい。対照となる全ゲノムから増幅されたレーンの目的バンドと一致するバンドが行、列、プレートについて見いだせれば、その番号が求めるクローンの3次元座標となり、当該クローンをサブライブラリーから拾い上げることができる。万一、サブライブラリーに多数の該当クローン候補が存在するときは、それらを拾い集めた後に、再度最終決定のためのゲノム走査法を対照と共に行えばよい(図10)。
この手法が力を発揮するのは、ゲノムライブラリーの構成クローンを網羅するように、多数のゲノム走査法で得られるバンドをすべてライブラリークローンに対応させて、全ゲノムのコンティグを作製する場合である。これにより一人でも全ゲノムコンティグの作製が容易に行われる。
図10Aでは、いもち病菌(40MB)のゲノムライブラリー(平均120kB;6ゲノム相当)を1つがほぼ1ゲノムに相当する6個のサブゲノムライブラリーに分割した場合において、6つの半プレート(3枚のフルプレート)からなる1つのサブゲノムライブラリーから特定のクローンを同定する方法を示している。1サブゲノムライブラリーについて、行座標の1行目では6枚の半プレートの1行目のクローン(6列×6半プレート=36クローン)のすべてからDNAを10μgづつ集めて1行目を代表する座標サンプルとしている。すなわち、1サブゲノムライブラリーでは行、列、プレート軸を代表する座標としてそれぞれ8、6、6の各座標サンプル、計20の座標サンプルでサブゲノムライブラリー全体の8×6×6=288クローンを同定できる。
図10Bで示すように、この20の座標サンプルをテンプレートとした20レーンと、対照の全ゲノムをテンプレートとした2レーンとを同時にゲノム走査法で泳動することにより、22レーンで容易に対照で得られたバンドに対応するクローンを1つのサブゲノムライブラリーの中から同定することができる。
1枚のゲル(66レーン)では3つのサブゲノムライブラリーを同時に泳動できるので、2枚のゲルで全ゲノム、6サブライブラリーをカバーできる。すなわち、1プライマーペアによる1回のAFLPを考えれば、約25-40本のバンドに対応するクローンの検索が、6ゲノム相当の全ゲノムライブラリーについて2枚のゲルでできることになる。標準のゲノム走査法では4枚のゲルを用いるので、1回の泳動で2プライマーペアにより得られた50-80バンドに対応するクローンが同様に全ゲノムライブラリーから同定できることになる。
これにより控えめに見積もっても1回の電気泳動で2プライマーセットの約50-80バンドをクローンへ対応付けすることが可能であり、25回の電気泳動で約1,200-2,000本のバンドをゲノムに対応付けすることができる。いもち病菌のゲノムサイズが40MBであることを考えると1,500本のバンドが得られたとしてゲノム中でのバンドの平均密度は40MB÷1,500本≒27kB/本となり、120kBの平均的クローンに平均4.4本のバンドが得られることになり、クローンの重複度が平均6あることも考えれば、ゲノムコンティグを作製するには十分過ぎる密度と考えられる。これにより、BACのプラスミドさえ用意できていれば約1ヶ月で6ゲノム相当からなる全ゲノムライブラリーのコンティグが完成する。
プラスミド自動抽出機がフルに使えれば、18プレート分のプラスミドは2週間程度で調製可能である。
産業上の利用の可能性
本発明の方法および電気泳動装置を用いることにより、例えば、下記のような目的のための核酸マーカーを極めて簡便かつ高能率で検索、同定、取得することが可能となった。
▲1▼重要な機能・形質を制御する単一遺伝子をその近傍にある核酸の多型を利用してマークする多型マーカーの開発。
この場合、目的遺伝子を持つ生物に既存のマーカーからなるゲノムマップが存在する必用はない。
▲2▼ポジショナルクローニングにおける標的遺伝子近傍のクローンの同定および単離
重要な機能・形質を制御する単一遺伝子をポジショナルクローニング法により、その染色体上の位置情報だけに基づいて単離・クローニングしようとする場合、その極近傍のマーカーを検索し、BAC(バクテリア人工染色体)等のゲノムライブラリーから遺伝子の近傍領域のクローンをつり上げるためのマーカーを提供する。この場合、目的遺伝子を持つ生物に既存のマーカーからなるマップが存在する必用はない。
▲3▼遺伝分析、高密度地図の作製
ある生物の遺伝子地図を作製するための多数の核酸マーカーを高効率で提供すると共に、それらのF2ないしはRI系統においての連鎖分析を高能率で行い、高密度地図の作製を高い効率で行う。これにより複数の遺伝子の寄与に基づく定量的形質(QTL:Quantitative Trait Loci)の解析も容易に行われる。
▲4▼品種の識別
精米を始めとして、市場に出回っている食品類や種子の品種を識別するためのマーカーバンドを高能率で検索する。さらには、得られた識別バンドを単離・クローニングしてその配列の解析からSCAR(Sequence Characterized Amplified Region)分析用のプライマーを設計する。こうしたSCARマーカーを用いれば、その場で短時間で品種判別を行うことも可能となる。また、特定遺伝子をマークする近傍マーカーもSCAR化することにより、育種等におけるマーカーとして使いやすくなる他、遺伝子近傍のBACクローンを釣り上げるためにも役立つ。
▲5▼生物の全ゲノムをカバーするコンティグの作製
ある生物のゲノムライブラリーを構成するクローンをつなぎ合わせて、全ゲノムをカバーするコンティグを簡便に作製することができる。すなわち、数ゲノム相当からなるゲノムライブラリーを約1ゲノム相当のサブライブラリーに分割した後、各サブライブラリーを構成するマイクロプレートの集合について、その行、列、プレートをそれぞれ、x、y、z軸とする座標を作り、各座標と直交する全てのクローンのDNAをまとめて座標サンプルを作製して鋳型とする。これを通常の全ゲノムDNAを鋳型とする対照とを並べてゲノム走査法で泳動する事により、全ゲノムレーンに見出される各バンドに対応するクローンを同定することができる(図10)。1バンド/20-50kB程度の密度でバンドが見出されれば、平均して数クローンが重複した全ゲノムコンティグが完成できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図】
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