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明細書 :寄生虫の無機ピロホスファターゼ、それをコードする核酸分子及びそれらの利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4048271号 (P4048271)
公開番号 特開2004-081032 (P2004-081032A)
登録日 平成19年12月7日(2007.12.7)
発行日 平成20年2月20日(2008.2.20)
公開日 平成16年3月18日(2004.3.18)
発明の名称または考案の名称 寄生虫の無機ピロホスファターゼ、それをコードする核酸分子及びそれらの利用
国際特許分類 A61K  31/664       (2006.01)
A61K  33/16        (2006.01)
A61P  33/10        (2006.01)
C12N   9/14        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI A61K 31/664
A61K 33/16
A61P 33/10
C12N 9/14
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 21
出願番号 特願2002-243551 (P2002-243551)
出願日 平成14年8月23日(2002.8.23)
審査請求日 平成14年8月23日(2002.8.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】辻 尚利
【氏名】磯部 尚
【氏名】春日 春江
【氏名】カイルル イスラム
【氏名】新川 武
【氏名】松本 安喜
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】横田 倫子
参考文献・文献 特開2001-292785(JP,A)
Biochem. J., Vol.349 (2000) p.737-745
第134回日本獣医学会学術集会講演要旨集、2002年8月20日、p.234,2002年 8月20日
Parasitology, 121 (2000) p.671-677,2000年
J. Vet. Med. Sci., 63[3](2001)p.683-685,2001年
調査した分野 C12N 15/00-15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/Geneseq
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
動物回虫の無機ピロホスファターゼ活性をフッ化ナトリウムにより阻害することにより、非ヒト動物の動物回虫を駆除する方法。
【請求項2】
動物回虫の無機ピロホスファターゼの活性を阻害するフッ化ナトリウムを非ヒト動物に投与することを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
動物回虫が豚回虫(Ascaris suum)である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
動物回虫の無機ピロホスファターゼの活性を阻害するフッ化ナトリウムを含む回虫駆除剤。
【請求項5】
動物回虫が豚回虫(Ascaris suum)である請求項記載の回虫駆除剤。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、寄生虫の感染防御に関わる蛋白質、それをコードするDNA及びそれらの使用に関する。具体的には、寄生虫とは蠕虫を指し、これには寄生線虫、包虫、吸虫が含まれ、これらの寄生虫の感染防御抗原蛋白質、該感染防御蛋白質をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該ベクターを保持する組換え体細胞、寄生虫の感染防御抗原に対する抗体及び寄生虫の感染を防御するワクチンに関する。本発明により、寄生虫の感染防御を目的とした化合物の合成、あるいは人および動物における寄生虫感染から守るためのワクチン開発や治療薬の開発に応用できる。
【0002】
【従来の技術】
人類や家畜生産に甚大な被害をもたらしてき感染症は、ワクチンの普及によってその多くは制圧されてきた。しかし、ワクチンが開発途上にある寄生虫感染症は、依然として世界各地に分布している。とりわけ、熱帯・亜熱帯地域では寄生虫の蔓延に加え衛生状態の不備から寄生虫による人への健康被害、家畜生産への被害は莫大な額にのぼる。また、先進諸国でも最近は寄生虫による新興、再興の人畜共通感染の脅威が大きな社会問題になりつつある。寄生虫病防除の中心は化学療法剤などの薬剤利用に深く依存している。しかしながら、薬剤の連続使用によるいわゆる薬剤耐性がいずれの薬剤に対しても確立され、殺虫効果の消失するものも少なくない。さらに、薬剤の使用には常に人あるいは動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。そのうえ、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつあり、21世紀における寄生虫による人および家畜生産の被害を薬剤使用によって防ぐことは非常に難しい状況にある。
【0003】
人や家畜、愛玩動物の小腸に寄生する回虫(AscarisやToxocara属)は、熱帯・亜熱帯地域に限らず先進諸国を含め世界的に分布する寄生虫である。一般に、寄生線虫は固有宿主が限定されているが、回虫に関しては本来の固有宿主ではない非固有宿主への感染が顕著に見られる寄生虫である。そのため、豚を固有宿主とする寄生虫(Ascaris suum) や犬回虫(Toxocara canis)の人への感染例が多数報告され、人畜共通感染症としても重要視されている(松山ら, 日本呼吸器学会誌 36:208-212(1998),Maruyama et al., Lancet 347:1766-1767 (1996))。また、マウス等の実験動物でも感染が成立し、豚の代替宿主として寄生虫-マウス感染系は広く免疫学的試験等に利用されている(Kennedy et al., Clin Exp Immunol 80: 219-224. (1990))。
【0004】
寄生虫感染でもウイルスや細菌感染症に見られるような宿主の再感染防御能の獲得が知られており、古くから実験室段階で実証されている (Maizels et al., Immunol Rev 171:125-147. (1999)) 。こうした背景から寄生虫ワクチンとして実用化に至った寄生虫はPoynterによって開発された牛肺虫である(Poynter, D., Adv. Parasitol., 1:179-212.(1963))。しかし、感染幼虫を放射線照射によって製造された寄生虫ワクチンには常に人為感染の副作用があり、また、生ワクチンであるため投与の煩雑さで敬遠されるに至った。寄生虫感染においても、虫体抽出物あるいは放射線照射した感染ステージである第3期幼虫(L3)で防御免疫が誘導されることは、豚、ウサギ、マウスで明らかにされている(Stewart et al., Vet Parasitol 17: 319-326. (1985), Stankiewicz et al., J Parasitol 36:245-257(1990))。なかでも、寄生虫幼虫ステージの抽出抗原や表層抗原を免疫した動物では、顕著な感染阻止が認められことから、幼虫抗原には防御免疫を誘導する分子が含まれていることが示唆されてきている(Hill et al., Vet Immunol Immunopathol 42:161-169 (1994))。
【0005】
遺伝子組換え技術は、他の感染症と同様に寄生虫ワクチン開発に向け有効な手段となっている。現在、各国で感染防御抗原あるいは寄生虫に特有な変態関連酵素等をコードする遺伝子クローニングが精力的に進められ、安全なワクチン蛋白質の製造が試みられてきている(Blaxter et al., Parasitol Today 16:5-6. (2000)) 。しかし、遺伝子クローニング技術を基にした作製された組換え抗原あるいはインヒビター等の化合物による寄生虫感染防除技術の確立には至っていない。
【0006】
こうした中で近年では新しい寄生虫病化学療法剤として寄生虫の持つ変態関連酵素が注目されている。寄生虫は成虫から生み出された虫卵から成虫に至るまでのに合計4回の変態を他の生物とは異なった特異な発育過程をとる。たとえば、システインプロテナーゼは寄生虫の変態期に重要な役割を果たしていることが分かり、同時にシステインプロテナーゼの阻害剤によって寄生虫の変態が阻止されることが確認され、変態に関連した酵素のインヒビターが寄生虫化学療法剤の新規ターゲット分子として期待されている(Lustigman, Parasitol Today. 8:294-297.(2000); Chandrashekar and Mehta. Parasitol Today. 16:11-7. (2000))。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、寄生虫の駆除及び寄生虫感染から家畜及び人を守るための化合物の合成を提供し、様々な人畜共通の寄生虫感染症の防除法を提供するものである。具体的には、寄生虫の感染防御抗原蛋白質、該感染防御抗原蛋白質をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該ベクターを保持する組換え体細胞、寄生虫の感染防御抗原に対する抗体及び寄生虫の感染を防御するワクチンならびに寄生虫感染防除のために化合物の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、寄生虫の変態関連酵素に着目し、その中から無機ピロホスファターゼを分離した。無機ピロホスファターゼはピロリン酸を加水分解して2分子の正リン酸を生じる反応を触媒する。本発明者らは、この酵素が酵素学的に寄生虫の発育・生存、とりわけ変態に必須な酵素であることを発見した。無機ピロホスファターゼの活性を阻害するフッ化ナトリウムは近年、人や動物に重大な原虫病をもたらす病原性原虫でトキソプラズマ原虫やマラリア原虫の発育を阻止することが分かってきている(Rodrigues et al., Biochem. J. 349:737-745)。さらに、フッ化ナトリウムは細菌特有の代謝活性を阻害する作用があり、現在では虫歯予防等を目的とした歯科領域では広く用いられている。寄生虫から分離された無機ピロホスファターゼが寄生虫の発育・生存の重要であることが示された報告はなく、寄生虫無機ピロホスファターゼをコードする遺伝子及びその組換え蛋白質ならびにその阻害剤は寄生虫感染の予防・防除を目的とした化合物の作出に有効である。
【0009】
本発明者らは、寄生虫から新規な無機ピロホスファターゼをコードするDNAを単離し、該DNAがコードする抗原無機ピロホスファターゼの組換え抗原及び虫体抽出蛋白質において無機ピロホスファターゼ酵素活性を確認し、無機ピロホスファターゼの特異阻害剤を幼虫培養液に添加したところ幼虫の変態が阻止されることを見出し、該蛋白質が寄生虫の変態酵素であることを突き止め本発明を完成するに至った。本発明は寄生虫における寄生虫の無機ピロホスファターゼをコードする遺伝子(Ascaris suum AdR44遺伝子)、該感染防御抗原蛋白質及び該感染防御抗原蛋白質コード領域を蛋白質発現ベクターに挿入し、精製した組換え感染防御抗原蛋白質の作製に関連する。また、本発明は感染防御抗原に対する抗体、及び抗体の作製方法に関連する。さらに、本発明は該感染防御蛋白質をワクチンとして用いた回虫感染防御能の誘導、また寄生虫の無機ピロホスファターゼの活性を阻害する化合物に関連する。
【0010】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1) 以下の(a)又は(b)に示す寄生虫の無機ピロホスファターゼをコードするDNA。
(a) 配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b) 配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ寄生虫の無機ピロホスファターゼの生物学的活性を有する蛋白質。
(2) 以下の(c)又は(d)に示すDNAである(1)に記載のDNA。
(c) 配列表の配列番号1の79位から1161位の塩基配列を含むDNA。
(d) 配列表の配列番号1の79位から1161位の塩基配列を含むDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ寄生虫の無機ピロホスファターゼの生物学的活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(3) 以下の(a)又は(b)に示す蛋白質。
(a) 配列表の配列番号2で示す寄生虫の無機ピロホスファターゼのアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b) 配列表の配列番号2で示す寄生虫の無機ピロホスファターゼのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ寄生虫の無機ピロホスファターゼの生物学的活性を有する蛋白質。
(4) (1)または(2)のDNAを含む組換え体分子。
(5) (1)または(2)のDNAを含むベクター。
(6) (5)のベクターを含む組換え体細胞。
(7) (6)の組換え体細胞を培養し、その培養物から寄生虫の無機ピロホスファターゼを採取することを特徴とする、寄生虫の無機ピロホスファターゼを産生する方法。
(8) (3)の寄生虫の無機ピロホスファターゼを認識する抗体。
(9) モノクローナル抗体である(8)の抗体。
(10) 寄生虫の無機ピロホスファターゼの活性を阻害するインヒビターまたは化合物を含む寄生虫駆除剤。
(11) 寄生虫の無機ピロホスファターゼの活性を阻害するインヒビターまたは化合物がフッ化ナトリウムまたはイミダイドホスフェートである(10)の寄生虫駆除剤。
(12) (3)の寄生虫の無機ピロホスファターゼを含む、回虫感染防御のための全身性及び粘膜誘導型ワクチン。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるcDNAライブラリーの作製、遺伝子のクローニング、スクリーニングおよび塩基配列の決定等の分子生物学、寄生虫学、免疫学並びに生化学的な技術はJ.Sambrook, E.F.Fritsch & T.Maniatis (1989): Molecular Cloning, a laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ed Harlow and David Lanc(1988):Antibodies, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press;獣医臨床寄生虫学編集委員会編(1998)、獣医臨床寄生虫学、文英堂、等の当業者に良く知られた文献に記載された方法に従って行えばよい。また、DNA解析は、MacVector(登録商標)(コダック社)およびGENETYX(ソフトウェアー開発社)等のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0012】
本発明のDNAは、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列を有する寄生虫の無機ピロホスファターゼをコードする総てのDNAを含む。また、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ寄生虫の無機ピロホスファターゼの生物学的活性を有する蛋白質をコードする総てのDNAも含む。ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ寄生虫の無機ピロホスファターゼの生物学的活性を有する蛋白質とは、下に記載のとおりである。
【0013】
さらに、本発明のDNAは、配列番号1の79位から1161位までの塩基配列からなるDNA(無機ピロホスファターゼをコードする遺伝子(Ascaris suumAdR44遺伝子)または配列番号1に示す全塩基配列からなるDNAを含む。さらに、これらのDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる総てのDNAも含む。ここで、ストリンジェントな条件とは、寄生虫の無機ピロホスファターゼをコードするDNA配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。通常、完全ハイブリッドの融解温度より約5℃~約30℃、好ましくは約10℃~約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されており、ここに記載の条件を使用し得る。
【0014】
また、本発明の蛋白質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するもの又は、その類似蛋白質すなわち配列番号2に示すアミノ酸配列を有する蛋白質と実質的に同等の性質を有し、アミノ酸配列中、1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものであり、寄生虫無機ピロホスファターゼのアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上の相同性を有するのが望ましい。ここで、実質的に同質の性質とは、寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質の生物学的活性を有することを意味し、生物学的活性を有するとは寄生虫感染防御能を有することを意味する。
【0015】
本発明の寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼをコードするcDNAは、以下のような方法で得ることができる。
本発明で使用した豚回虫は、豚回虫感染豚より得ることができる。成虫から未成熟卵を得て、Douvres and Urban, J Parasitol., 69:549-558 (1983)らの方法によって感染ステージである第3期幼虫(L3)を含む成熟卵に発育させ、cDNAのライブラリーの作成のために供することができる。
【0016】
回虫L3より、通常行われる方法または市販のmRNA単離キットを用いて、mRNA(poly(A)RNA)を精製する。例えば、回虫L3を、グアニジン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得た後、オリゴdT-セルロースやセファロース2B等を担体とするポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、又はバッチ法によりpoly(A)+mRNAを得ることができる。
【0017】
このようにして選られたmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖DNAを合成し、適当なベクターに組み込んで、該ベクターを用いて大腸菌等を形質転換してcDNAライブラリーを作製する。cDNAは、適当な制限酵素とリガーゼを用いる通常の方法でベクターに組込むことができる。例えば、得られたcDNAを、適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法などがある。この際、後述のベクター、宿主細胞を用いてcDNAライブラリーを得ることが出来る。
【0018】
このようにして得られたクローン化DNAライブラリーから、目的のDNAを選択する。選択方法として、イムノスクリーニング法、プラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等の方法を用いることができる。例えば、得られたクローン群を、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等の誘導物質により蛋白質を発現させ、これをナイロン膜若しくはセルロース膜に転写し、目的蛋白質に対する抗体または該抗体を含む血清を用いて免疫学的に対応するクローンを選択することができる。
【0019】
このようにして調製したクローンから目的cDNAの塩基配列を決定する。
塩基配列の決定は、例えば、マキサム・ギルバート法(Maxam,A.M. andGilbert, W.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,74,560,1977)又はジデオキシ法(Messing, J et al.,Nucl.Acids Res.,9,309,1981)等により行うことができる。これらの原理を応用した塩基配列自動解析装置を用いて配列を決定することもできる。
【0020】
得られた目的DNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の遺伝子増幅法により増幅することができる。PCRは、例えば、蛋白質核酸酵素「PCR法最前線—基礎技術から応用まで—」第4巻、第5号、1996年4月号増刊、共立出版に記載されている技術により行うことができる。目的のDNAをクローン化又は増幅した後、目的DNAを回収し、これを入手可能な適当な発現ベクターに組み込んで、さらに適当な宿主細胞に形質転換し、適当な培地中で培養、発現させ、目的蛋白質を回収、精製することができる。
【0021】
この際のベクターとして、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG-1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモータを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0022】
ベクターは、商業的に入手可能なものを使用することができ、例えば細菌性のものではpQE70、pQE60、pQE-9(Qiagen)、pBluescriptII KS、ptrc99a、pKK223-3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia)、pET-11a(Novagen)、真核性のものではpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、SV40(Pharmacia)等がある。
【0023】
複製開始点として、大腸菌ベクターに対して、例えばColiE1、R因子、F因子由来のものが、酵母ベクターに対して、例えば2μmDNA、ARS1由来のものが、哺乳類細胞用ベクターに対して、例えばSV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス由来のものを用いることができる。また、プロモーターとしてアデノウイルス又はSV40プロモーター、大腸菌lacまたはtrpプロモーター、ファージラムダPLプロモーター、酵母用としてのADH、PHO5、GPD、PGK、AOX1プロモーター、蚕細胞用としての角多角体病ウイルス由来プロモーター等を用いることができる。
【0024】
選択マーカーとして、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等を、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等を、哺乳類細胞には、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を挙げることができる。
【0025】
DNAのベクターへの導入は、任意の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、または単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位にDNAを挿入することができる。本発明のDNAおよび調節配列を含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞に本発明の寄生虫感染幼虫無機ピロホスファターゼを発現、産生させることができる。
【0026】
宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、アスペルギルス属菌株等の真菌細胞、パン酵母、メタノール資化性酵母等の酵母細胞、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞、CHO、COS、BHK、3T3、C127等の哺乳類細胞等が挙げられる。
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポーレーション等の公知の方法で行うことができる。
【0027】
得られたリコンビナント蛋白質は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合蛋白質として発現される場合は、目的蛋白質と融合している蛋白質またはペプチドの性質を利用して精製することもできる。例えばヒスチジンが6個以上並んだアミノ酸配列、いわゆるヒスチジンタグとの融合蛋白質として発現させた場合、ヒスチジンタグを有する蛋白質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる。またGSTとの融合蛋白質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。
【0028】
寄生虫の無機ピロホスファターゼに対する抗体は、以下のようにして調製することができる。
該無機ピロホスファターゼを抗原として、当業者に良く知られた方法に従い例えばマウス、モルモット、ウサギ、ヤギ等の動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈に複数回接種し、十分に免疫した後、動物から採血し、血清分離し、抗回虫感染幼虫無機ピロホスファターゼ抗体を作製することができる。この際、適当なアジュバントを使用することもできる。モノクローナル抗体も公知の方法により作製し得る。例えば、寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼで免疫したマウスの脾細胞とマウスのミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマの培養上清又は該ハイブリドーマを腹腔内に投与したマウスの腹水から調製することができる。免疫抗原として用いる寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼは、寄生虫から抽出した天然蛋白質、組換え蛋白質でもよいし、化学合成したものでもよい。また、全アミノ酸配列を有する蛋白質でも良いし、該蛋白質の部分構造を有するペプチドフラグメントや他の蛋白質との融合蛋白質でも良い。ペプチドフラグメントは該蛋白質を適当な蛋白質分解酵素で分解した断片も用い得るし、配列番号1に示す塩基配列の一部を発現ベクターに組み込んで発現させた産物でも良い。融合蛋白質は、配列番号1に示す塩基配列の一部を他の蛋白質をコードする遺伝子と連結させて、発現ベクターに組み込んで発現させて製造することもできるし、ポリペプチドフラグメントを適当なキャリア蛋白質と化学結合により結合させた上で使用することもできる。得られた抗体の反応性は、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ウエスタンブロッティング等の当業者によく知られた方法により測定することができる。
【0029】
寄生虫の無機ピロホスファターゼを、寄生虫感染防止のためのワクチンとして用いることができる。
ワクチンとして用いる寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質は、寄生虫から抽出した天然蛋白質、組換え蛋白質でもよいし、化学合成したものでもよい。また、全アミノ酸配列を有する蛋白質でも良いし、該蛋白質の部分構造を有するペプチドフラグメントや他の蛋白質との融合蛋白質でも良い。フラグメントの場合、フラグメントが回虫の感染を防御する抗体(中和抗体)が認識するエピトープ(中和エピトープ)を含んでいることが必要である。ペプチドフラグメントは該蛋白質を適当な蛋白質分解酵素で分解した断片も用い得るし、配列番号1に示す塩基配列の一部を発現ベクターに組み込んで発現させた産物でも良い。
【0030】
ワクチンは、1種又は数種のアジュバント、例えばフロイントの完全若しくは不完全アジュバント、コレラトキシン、易熱性大腸菌毒素、水酸化アルミニウム、カリウムミョウバン、サポニン若しくはその誘導体、ムラミルジペプチド、鉱物油または植物油、NAGO、ノバソームまたは非イオン性ブロック共重合体、DEAEデキストラン等を含むことができる。また、医薬上許容される担体を含んでいてもよい。医薬上許容される担体は、ワクチン接種される動物の健康に悪影響を及ぼさない(すなわち、少なくとも、該動物にワクチン接種しない場合に病気により認められる影響より著しい悪影響を及ぼさない)化合物であると理解される。医薬上許容される担体は、例えば、無菌水または無菌生理塩溶液であることが可能である。より複雑な形態の場合には、該担体は例えばバッファーであることが可能である。
【0031】
本発明のワクチンは、通常の能動免疫法で投与することができ、注射により投与する全身性ワクチンでも、注射によらず経口投与等により投与する粘膜誘導型ワクチンでもあり得る。すなわち、予防的に有効な量(すなわち、回虫による攻撃に対して動物において免疫を誘導する抗原を発現しうる免疫化抗原)にて、剤形に適合した方法による単回または反復投与により投与することができる。ワクチンは、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、経口的または鼻腔内に投与することができる。また、本発明のワクチンは、同じおよび/または他の寄生虫の他の抗原成分と有効に混合することが可能である。
【0032】
ワクチンの投与量、投与回数は対象動物により変わり得るが、例えば本発明の寄生虫幼虫無機ピロホスファターゼを数十μg含むワクチンを1週間から数週間に一度の頻度で、数回投与することにより動物に防御免疫を誘導し得る。
【0033】
さらに、本発明は分離した寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼに対するインヒビターおよび該インヒビターを有効成分として含む寄生虫駆除剤に関する。分離した寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質に対するインヒビターに関する言葉は、天然物あるいは核酸技術もしくは化学合成から得られたものも含まれる。インヒビターは無機ピロホスファターゼの活性中心に直接結合するものも、あるいは活性中心においてMg2+との結合に対してOH-と競合するものでもよい。インヒビターとしては、例えばフッ化ナトリウム、イミダイドホスフェート等が挙げられる。本発明の寄生虫駆除剤は、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。かかる駆除剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、無機ピロホスファターゼに対するインヒビターを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
【0034】
その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験または動物モデル試験系から導かれる。
【0035】
また、本発明は、それら蛋白質、核酸、抗体、動物の治療を目的とした治療的化合物としてのインヒビター等、ならびにその応用も含まれる。
本発明の寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質及び核酸は、寄生虫ワクチンあるいは抗寄生虫剤の新規ターゲットに利用することもできる。
【0036】
【実施例】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 本発明における寄生虫の無機ピロホスファターゼ塩基配列の分離及び決定
寄生虫である豚回虫(Ascaris suum) の成虫は、茨城県食肉処理場下妻支所にてA. suum感染豚より採取した。成虫から得た未成熟卵はDouvres and Urban, J Parasitol., 69:549-558. (1983)らの方法によって感染ステージのL3を含む成熟卵に発育させ、以下の操作に供した。寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼをコードする遺伝子は、イムノスクリーニングによるA. suum ♀cDNAライブラリーから単離した。使用したcDNAライブラリーは、λZapII ベクター(ストラータジーン社)を用いてメーカーの推奨する方法により作製した。使用した血清は、A. suum L3を4回感染させたウサギの血清であった(Kasuga et al., Parasitology 121:671-677. (2000))。使用したファージはE.Coli XL-1Blue に感染させ、シャーレ(直径150mm)に5×104になるよう調製し、37℃で4時間培養した。プラーク出現後、isopropyl-β-D-thiogalactoside(IPTG)を浸漬させたニトロセルロース膜で培地の表層を覆い、さらに3時間培養した。培養シャーレから取り除いたニトロセルロース膜は、0.02% Tween 添加Tris-HCl(TBST)で洗浄し、さらに5%添加TBSTに室温1時間ブロッキングした。ニトロセルロース膜は、1:200に希釈したA. suum L3感染ウサギ血清と3時間室温で反応させ、TBSTで十分洗浄した後アルカリホスファターゼ標識抗ウサギIgG山羊血清と1時間反応させ、陽性ファージを5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate/nitroblue tetrazolium (NBT/BCIP)を用いて検出した。検出したクローンは、さらに上記スクリーニングを繰り返し、陽性クローンを単離した。単離したファージはExAssistTMヘルパーファージとE.Coli SOLRTM を用いてメーカーの推奨する方法に従いDNAのインビボーイクサイションを行った。
【0037】
アルカリ溶菌法により調製した組換え体プラスミドDNA(AdR44)はM13Reverse及びForwardプライマー(アプライドバイオシステム社)を用い、Dye-terminater Sequencing法(アプライドバイオシステム社テクニカルマニュアル)によりメーカーの推奨する方法に従い反応させ、反応産物をDNA sequencer Model 370A (version 1.30、アプライドバイオシステム社)を用いて解析し塩基配列を決定した。AdR44は、1375塩基で構成され、5’の79位にATGの開始コドン1159位に終止コドンがそれぞれ認められ、さらにその下流には真核生物に存在するポリアデニレーションが確認された。塩基配列から推定される蛋白質は360残基のアミノ酸から構成され、その内N末領域には17残基の真核生物シグナル配列が確認された。全アミノ酸の推定分子量は40,600Daであったのに対して、シグナル配列を除いた虫体内での予想される成熟蛋白質の分子量は、38,771Daであった。配列表の配列番号1に該DNAの塩基配列を示した。コーディング領域は、79位から1161位であった。配列表の配列番号2にアミノ酸配列を示した。アミノ酸データベースとの相同性検索から、本発明で示す推定アミノ酸構造は、動物の無機ピロホスファターゼをコードする遺伝子とそれぞれ約50%の類似性を示した。
【0038】
実施例2 組換え体蛋白質を発現させるベクター構築のための豚回虫の無機ピロホスファターゼcDNAの分離及び増幅並びに組換え体分子及び組換え体細胞の作出
上記方法で合成したA. suum♀cDNAセンスプライマー(5'-CCG AGC TCG AGA CGT GAA GCG ACA ATC TCG CAA TCT -3';CTCGAGはXhoIサイト;配列番号3)とアンチセンスプライマー(5'-CCG AAT TCT CAC TTA TGC CGG AGA AAG ACC GTC TAC-3';G AAT TCはEcoRI サイト;配列番号4)を用いたPCR反応にて増幅した。
【0039】
PCR反応は50μlの反応液〔1ng A. suum♀cDNA、1μMセンス及び1μMアンチセンスプライマー、10mM Tris-HCL(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2 、2.5U AmpliTaq DNA polymerase(プロメガ社)〕を調製し、DNA Thermal Cycler(パーキンエルマー社)を用いて、95℃にて30秒間、55℃にて30秒間、72℃にて2分間の反応を35サイクルで実施した。増幅したPCR産物はゲル電気泳動を行い、増幅したDNA断片をDNA精製キット(キアゲン社)を用いて蒸留水中に回収し、回収液を制限酵素XhoI及びEcoRIで3時間酵素処理した。プラスミド発現ベクターであるpTrcHis発現ベクター(インビトローゲン社)も挿入断片と同様に制限酵素XhoI及びEcoRI で3時間酵素処理した。制限酵素処理した挿入断片及びベクターをDNAライゲーションキット(宝酒造社)を用いてメーカーの推奨する方法に従ってDNA断片を挿入し、大腸菌Top10を用いて形質転換を行い、L-ampプレートに蒔き白色のコロニーから寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼコード領域の挿入されたクローンを選択した。
【0040】
実施例3 大腸菌における寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼの作出及び、作出した蛋白質の性状
形質転換した大腸菌を37℃でアンピシリンを含んだSOB液で培養し、培養後SOB液のOD600が0.5に到達した時点で1mMのIPTGを添加し、さらに4時間培養を続けた。経時的に産生される蛋白産生の変化は12.5%SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動{Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970)}を実施した後、クマーシー染色で確認した。その結果、約37kDa付近に組換え蛋白質の産生が認められ。また、同様に実施した電気泳動のゲルをニトロセルロース膜(アマシャム社)に電気的に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで10,000倍に希釈されたアルカリホスファターゼ標識されたT7モノクローナル抗体(ノバーゲン社)と1時間反応させた。TBSTで洗浄した後、結合した蛋白質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、このウエスタンブロット解析によって約37kDa付近に確認された組換え蛋白質と反応することが認められ、組換え蛋白質に(His)6が付加されていることが確認された(図1)。図1でレーン1は、発現前の大腸菌ライセート、レーン2は、発現後の大腸菌ライセート、レーン3は、精製した豚回虫抽出蛋白質の37kDa組換え抗原蛋白質を示している。
【0041】
実施例4 大腸菌からの豚回虫の無機ピロホスファターゼの精製、及び精製した寄生虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質に対する抗体作製
豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質はメタルキレートクロマトグラフィー(インビトローゲン)を用いてメーカーの推奨するイミダゾール溶出法によって精製した(Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79(1998))。溶出された蛋白質はCentrisart I (ザルトリウス社, cut off 10,000 MW) を用いて濃縮し、Slide-A-LyzerTM Dialysis Cassette (ピアス社)を用いてリン酸緩衝食塩液中にて透析を行った。この精製した豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質は、以下の抗体作製、各種動物の豚回虫免疫血清の反応性、無機ピロホスファターゼの酵素活性の測定に使用した。
【0042】
豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質に対するポリクローナル抗体はマウスを用いて以下のように作製した{Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79, (1998)}。豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質50μgをTiterMax GoldTM (シンテックス社)とともに皮下接種し、4週間後再度同量を接種した。再投与2週後に採血を行い、血清を-20℃に保存した。豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質を用いたウエスタンブロット解析によって、作製された37kDa組換え蛋白質マウス免疫血清は、37kDaの組換え蛋白質と強く反応することが確認された。
【0043】
実施例5 精製した豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質の各種動物のA.suum L3免疫血清との反応性
実施例4で作製した44kDa組換え蛋白質とウサギ、マウス及び豚の豚回虫免疫血清との反応性をSDS-PAGE/ウエスタンブロット法を用いて調べた。SDS-PAGE (Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970))で分離した無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質を定法に従いニトロセルロース膜(アマシャム社)に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで500倍に希釈されたウサギ、マウス及び豚の免疫血清と1時間反応させた。TBSTで転写膜を洗浄した後、免疫血清と結合した蛋白質を検出するためにアルカリホスファターゼ標識された抗ウサギ、マウス及び豚-IgG抗体(カッペル社)と1時間反応させ、結合した蛋白質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、いずれの免疫血清も37kDaの抗原組換え体蛋白質と陽性反応を示し、37kDa組換え蛋白質の抗原性が確認された。
【0044】
実施例6 イムノブロット法によるネイティブ(天然型)豚回虫の無機ピロホスファターゼの性状及び人回虫及び犬回虫における無機ピロホスファターゼ様分子の性状
実施例4で作製したマウス寄生虫の無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質免疫血清を用いて、寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質抽出液のSDS-PAGE/ウエスタンブロット法を行った。SDS-PAGE (Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970))で分離した後、定法に従いニトロセルロース膜(アマシャム社)に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで1,000倍に希釈されたマウスの無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質免疫血清と1時間反応させた。TBSTで洗浄したのち、免疫血清と結合した蛋白質を検出するために、アルカリホスファターゼ標識された抗マウス-IgG抗体(カッペル社)と1時間反応させ、結合した蛋白質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、マウス血清と反応する約37kDaの単一バンドが確認され、豚回虫抽出蛋白液中の天然型寄生虫感染幼虫の無機ピロホスファターゼが同定できた。さらに、人回虫及び犬回虫抽出蛋白からも豚回虫抽出蛋白の場合と同様の37kDaの大きさに陽性反応が確認された(図1)。図1でレーン1は人回虫、レーン2は犬回虫、レーン3は豚回虫、レーン4は寄生虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白を示している。
【0045】
実施例7 免疫組織化学法による豚回虫の無機ピロホスファターゼの局在
豚回虫♀成虫をリン酸緩衝液(PBS)にパラホルムアルデヒドを4%になるように調製した溶液で虫体を固定し、定法に従ってパラフィン切片を作製した。キシレン・アルコール系列を通した組織切片を10%正常ヤギ血清で30分ブロッキングした。組織切片にPBSで100倍に希釈されたマウスの無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質免疫血清と一晩反応させた。PBS-Tween20(PBST)で洗浄したのち、免疫血清と結合した蛋白質を検出するために、ビオチン標識された抗マウス-IgG抗体(カッペル社)と20分反応させた。PBSTで洗浄した後、ペルオキダーゼ標識されたアビジンを20分反応させ、PBSTで洗浄した後基質ジアミノベンチジンテトラハイドロクロライド(シグマ社)を用いて可視化した。その結果、陽性反応は角皮下層、背及び腹部索、筋肉、子宮及び卵巣で確認された。また、人回虫とマウスの無機ピロホスファターゼ組換え体蛋白質免疫血清を用いた同様な解析でも無機ピロホスファターゼの発現を示す陽性部位は豚回虫と同じ組織であった。
【0046】
実施例8 豚回虫の無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の無機ピロホスファターゼ活性の解析
はじめに無機ピロホスファターゼ活性を基質、ピロリン酸(PPi)を生リン酸にする反応をTakaha et al., J. Appl. Glycosci 48:71-78(2001)に従いモリブデン酸塩ブルーに基づいた比色法を用いて分光光度計で測定した。標準反応液は5mM Mg2+ 、100mM Tris-HCl(pH7.5)及び1mM Na4P2O7 で作製した。反応は標準反応液を混和した200μlの反応液の中に希釈した無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質10μlを加え55℃で実施し、200mMのグリシン溶液(pH3.0)を加え反応を停止させた。直ちに25mM硫酸を用いて調製した1%アンモニアモリブデン酸塩125μl及び0.05%硫酸カリウムで調製した1%アスコルビン酸125μlを加え十分混和し37℃で30分放置した。反応曲線を作製するため酵素濃度及び反応時間を決定した。コントロール反応は酵母の無機ピロホスファターゼ(シグマ社)及び豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質を作製した大腸菌発現系で作製した豚回虫感染防御抗原(As14, Tsuji et al., Infect. Immune. 69:7285-7292)を用いた。成分濃度は豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質活性に依存したMg2+、pH、温度、金属イオン濃度で求めた。温度安定性は異なる温度でMg2+存在の有無下で30分放置して調べた。ピロリン酸(PPi)の加水分解によって生じた生リン酸の濃度は分光光度計(島津製作所)を用いて波長700nmで測定した。豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の特異活性は分/蛋白質から産生されるμmolPiで表記した。ミカエル定数(Km)及び最大速度(Vmax)は55℃のピロリン酸濃度0.05~0.5mMの存在下で酵素を反応させ求めた。その結果、豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の最大加水分解速度は、Km値は0.12±0.01mMであった(図2)。この値はすでに報告されている牛網膜無機ピロホスファターゼのKm値0.0009~0.00147、ラット肝臓無機ピロホスファターゼのKm値0.005mM及び牛ROS無機ピロホスファターゼのKm値0.026と比較して有意な値であった。Vmaxは1分/豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質1mgで正リン酸849.01±14.64 μmolPiであった。無機ピロホスファターゼによるピロリン酸の加水分解はMg2+要求性であることから、1mMのピロリン酸を用いて豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の最大Mg2+濃度を算出した。最大酵素活性を示すMg2+濃度は5mMで、濃度の増加に伴い活性は減少した。また、豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の至適pHは7.5であった。次に、豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の耐熱性について調べた。酵素活性の最大値は温度55℃で948.11±18.20 μmolPi/min/mgを認めたが、その活性は温度60℃では半減した。豚回虫無機ピロホスファターゼ組換え蛋白質の熱安定性を5mMのMg2+存在下と除去下で異なる温度で30min反応させ活性を調べた。酵素活性はMg2+存在下では温度50℃で、除去下では40℃まで熱安定性であった。酵素活性の80%が消失する温度はMg2+存在下と除去下ともに55℃であった。さらに、無機ピロホスファターゼは二価の金属イオンによって活性が賦活化されるか検討した。その結果、二価の金属イオン濃度を5mM に統一し、5mMのMg2+存在下で得られる活性を100とした場合、Co2+及びCu2+では35%活性が確認され、Fe2+では30%、Zn2+、Mn2+、Ca2+では18%であった。
【0047】
実施例9 虫体由来のネイティブ型無機ピロホスファターゼ活性の解析
実施例8の酵素活性系を用いて豚回虫L3及びL3の分泌排泄抗原を用いて虫体抽出抗原に含まれる無機ピロホスファターゼ活性を調べた。L3抽出抗原では1.52±0.02μmolPi/min/mgに対して、分泌排泄抗原では0.51±0.03μmolPi/min/mgであった。虫体由来のネイティブ型無機ピロホスファターゼの活性は、無機ピロホスファターゼの活性中心に結合するイミドダイホスフェート(IDP, Baykov et al., Arch Biochem. Biophys. 273:287-291)及び活性中心においてMg2+との結合に対してOH-と競合するフッ化ナトリウム(NaF, Salminen et al., Biochemistry 34:782-791) の2つの阻害剤によって容量依存性に阻害されることが確認された。
【0048】
実施例10 無機ピロホスファターゼ阻害剤を用いた豚回虫幼虫ステージの変態阻止試験
実施例9までによって、豚回虫無機ピロホスファターゼは寄生虫の生存に欠くことのできない必須の酵素であることが示された。そこで、無機ピロホスファターゼの阻害剤であるイミドダイホスフェート(IDP, Baykov et al., Arch Biochem. Biophys. 273:287-291)及びフッ化ナトリウム(NaF, Salminen et al., Biochemistry 34:782-791) を用いて豚回虫幼虫L3ステージがL4へと変態するIn vitro培養を行った。ウサギに豚回虫成熟卵1×105を経口投与し、投与後7日にウサギの肺から豚回虫L3ステージを回収した。回収したL3は10%牛胎児血清になるように調製したRPMI-1640を24穴のプラスチックプレート(住友ベークライト)に入れこの中にL3が50~100匹なるように調製し、温度37℃、5%CO2の環境下で、濃度を調製した阻害剤を添加し培養した。経時的にL3の変態を観察し培養は10日間実施した。変態阻止率はコントロール群の変態率(52.6±4.1)に対する阻害剤添加群の変態率の割合で算出した。その結果、イミドダイホスフェートでは変態が一部阻止されたのに対して、フッ化ナトリウムは濃度依存的に変態が阻止された。L3の発育及び生存に影響を及ぼさないイミドダイホスフェートの濃度は最大10mMでこのときの変態阻止率は55%であった。これに対して、フッ化ナトリウムでは1mMで65%の変態阻止率が認められ、L3の発育及び生存にも全く影響を確認されなかった。変態は2mMで完全に阻止された。これらの成績から、豚回虫の変態は無機ピロホスファターゼの阻害剤で阻止されることが分かり、寄生虫の発育・生存には無機ピロホスファターゼは必須の酵素であることが示された。
【0049】
【発明の効果】
本発明により、寄生虫(Ascaris suum)の無機ピロホスファターゼ蛋白質をコードするDNAからなる遺伝子、該DNAを含むベクター及び組換え体細胞、寄生虫の無機ピロホスファターゼ蛋白質、該抗原を認識する抗体並びに該抗原を含む寄生虫感染防御のための全身性及び粘膜誘導型ワクチン、また寄生虫の駆除及び寄生虫感染から家畜及び人を守るための化合物の合成及び様々な人畜共通の寄生虫感染症の防除が可能になる。
【0050】
【配列表】
JP0004048271B2_000002t.gifJP0004048271B2_000003t.gifJP0004048271B2_000004t.gifJP0004048271B2_000005t.gifJP0004048271B2_000006t.gifJP0004048271B2_000007t.gifJP0004048271B2_000008t.gifJP0004048271B2_000009t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】イムノブロット法による人回虫、犬回虫及び豚回虫におけるネイティブ型寄生虫無機ピロホスファターゼの発現及び無機ピロホスファターゼ組換え蛋白の結果を示す図である。
【図2】無機ピロホスファターゼ組換え蛋白の酵素活性の結果を示す表である。
図面
【図1】
0
【図2】
1