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明細書 :マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質、それをコードする核酸分子及びそれらの利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3803733号 (P3803733)
公開番号 特開2004-261070 (P2004-261070A)
登録日 平成18年5月19日(2006.5.19)
発行日 平成18年8月2日(2006.8.2)
公開日 平成16年9月24日(2004.9.24)
発明の名称または考案の名称 マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質、それをコードする核酸分子及びそれらの利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A61P  33/06        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A61P 33/06
C07K 14/435
A61K 37/02
請求項の数または発明の数 2
全頁数 20
出願番号 特願2003-054495 (P2003-054495)
出願日 平成15年2月28日(2003.2.28)
審査請求日 平成15年3月3日(2003.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】辻 尚利
【氏名】神尾 次彦
【氏名】三好 猛晴
【氏名】藤崎 幸蔵
【氏名】バトツェツェグ バダガル
【氏名】新川 武
【氏名】松本 安喜
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】田村 明照
参考文献・文献 Insect Biochemistry and Molecular Biology,2001年 7月,vol. 31, No. 9,p. 857-865
第133回日本獣医学会学術集会講演要旨集,2002年 3月 1日,133rd,p. 71
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A61K 38/00-38/58
A61P 33/00-33/14
C07K 1/00-19/00
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus(JOIS)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)若しくは(b)に示すペプチド蛋白質を有効成分とするマダニのピロプラズマ原虫駆除剤。
(a) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列からなる蛋白質
(b) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質
【請求項2】
以下の(e)から(i)のいずれかのアミノ酸配列を含みマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の断片を有効成分とするマダニのピロプラズマ原虫駆除剤。
(e) 配列番号2のアミノ酸配列の第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(f) 配列番号2のアミノ酸配列の第22位から第37位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(g) 配列番号2のアミノ酸配列の第33位から第47位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(h) 配列番号2のアミノ酸配列の第43位から第57位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(i) 配列番号2のアミノ酸配列の第53位から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピロプラズマ原虫の殺虫作用に関わる蛋白質、それをコードするDNA及びそれらの使用に関する。具体的には、ピロプラズマ原虫とはタイレリア原虫及びバベシア原虫を指し、これらのピロプラズマ原虫の殺虫作用を有するペプチド蛋白質をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該ベクターを保持する組換え体細胞、組換えペプチド蛋白質及び合成ペプチドに関する。本発明により、ピロプラズマ原虫が属するマラリア原虫等をアピコンプレックス門の赤血球内寄生原虫による人および動物の寄生虫病予防及び治療を目的とした化合物の合成、あるいはそれら原虫による寄生虫感染の治療薬の開発に応用できる。
【0002】
【従来の技術】
人類や家畜生産に甚大な被害をもたらしてき感染症は、ワクチンの普及によってその多くは制圧されてきた。しかし、ワクチンが開発途上にある寄生虫感染症は、依然として世界各地に分布している。とりわけ、蚊やマダニなどの吸血性節足動物が媒介するマラリア原虫やピロプラズマ原虫による寄生虫感染症は人類が抱える最も難題であり、その防除対策には非常に苦慮している。赤血球に寄生する両原虫はいずれも貧血を主徴とする重篤な症状をもたらす致死的な感染症で、蚊によって伝播されるマラリアは人の寄生虫感染症であるのに対し、馬や牛などの愛玩・産業動物で多大な被害をもたらしているピロプラズマ症はマダニが媒介する。最近では動物のピロプラズマ原虫による新興、再興の人畜共通感染の脅威が米国や日本などの先進諸国で大きな社会問題になりつつある(Schuster FL, Clin. Microbiol. Rev15:365-375(2002))。
【0003】
ピロプラズマ症の防除は、媒介者であるマダニと病原虫であるピロプラズマ原虫対策の2つに大別される。マダニ防除の中心は化学療法剤などの薬剤利用に深く依存している。DTTが開発された1950年以降有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系などの化合物が殺ダニ剤としてマダニ防除に使用されてきた。しかしながら、薬剤の連続使用によるいわゆる薬剤耐性がいずれの薬剤に対しても確立され、殺虫効果の消失するものも少なくない。さらに、薬剤の使用には常に人あるいは動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。そのうえ、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつある。
【0004】
一方、マダニの頻回寄生に対して宿主が抵抗性を獲得する現象を応用した獲得免疫によるマダニ防除法が以前から試みられている(Fujisaki, Natl.Insit.Anim.Hlth Quart.(Tokyo)18:27-38(1978))。また、宿主への接触が全くないマダニ蛋白質がマダニ感染に対する防御抗原となることも明らかにされ、実際にワクチン抗原(Tick GARD)((Willadesen and Jogejan, Prasitology Today 15:258-262(1999))として一部のピロプラズマ原虫に対して野外応用されているものの、その有効性は1宿主性のマダニBoophilus microplusに対してのみで、多くのピロプラズマ原虫媒介者に対してのワクチンは依然として開発途上にあり、病原体側のピロプラズマ原虫の防除対策もマダニと同様に薬剤に深く依存しているのが実情である。このように21世紀におけるピロプラズマ原虫による人および家畜生産の被害を既存の薬剤使用によって防ぐことは非常に難しい状況にある。
【0005】
ピロプラズマ原虫は宿主とマダニで複雑な生活環を形成している。動物のピロプラズマ症はバベシア症とタイレリア症の2つに大別される。牛バベシア症の中で最も重篤な症状をもたらすBabesi bigeminaの生活環は、宿主赤血球に寄生したバベシア原虫(メロゾイト)は宿主体内で分裂増殖し、他の赤血球への侵入を繰り返す。牛におけるピロプラズマ症の発症はメロゾイトによるものである。マダニが媒介する動物間のバベシア原虫感染は、吸血によってバベシア感染赤血球がマダニ中腸内に取り込まれ、ガメトゴニー及びシゾゴニーによって増殖をする。唾液腺に移行したバベシア原虫はスポロゴニーによって増殖し、生じたスポロゾイト期の原虫はマダニの吸血によって宿主体内に侵入する。
【0006】
本発明者らは、マダニが有する微生物に対する先天的防御機構に着目し、これまでに各種の自然免疫関連分子を単離してきた。ピロプラズマ原虫やマラリア原虫を媒介するマダニや蚊は、進化の過程でそれらの原虫に対する抵抗性を確立してきたと想定され、それらの関連分子はピロプラズマ症防除のための新しい薬剤の開発に応用できるものと考えられ本発明者らを含め各国で関連の研究が精力的に実施されている(Hoffmann JA, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:11152-1153(1997))。
【0007】
【非特許文献1】
Fujisaki, Natl.Insit.Anim.Hlth Quart.(Tokyo)18:27-38(1978)
【非特許文献2】
Willadesen and Jogejan, Prasitology Today15:258-262(1999)
【非特許文献3】
Hoffmann JA, Proc. Natl. Acad. Sci. USA
94:11152-1153(1997)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ピロプラズマ原虫及びピロプラズマ原虫が属するマラリア原虫等をアピコンプレックス門の赤血球内寄生原虫による寄生虫感染症から人及び動物を守るための化合物の合成を提供し、様々な人畜共通のアピコンプレックス門の赤血球内寄生原虫による寄生虫感染症の防除法を提供するものである。具体的には、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質、該感染防御抗原蛋白質をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該ベクターを保持する組換え体細胞、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質に対する抗体及びピロプラズマ原虫の感染及び増殖を防ぐ化合物の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ピロプラズマ原虫の媒介者であるフタトゲチマダニの抗微生物蛋白質に着目し、その中からピロプラズマ原虫に対して殺虫作用を示すペプチド蛋白質を分離した。本発明者らは、マダニから分離したペプチド蛋白質がピロプラズマ原虫の発育・生存、とりわけ赤血球内に寄生する原虫ステージ、メロゾイトの原虫に対して増殖を抑制することを発見した。ピロプラズマ原虫は、マラリア症の病原虫であるプラスモディウム原虫と媒介者が異なるものの寄生虫特有の発育環はほぼ同一であり、ピロプラズマ症及びマラリア症ともに臨床症状を示すいわゆる発症状態を導く原虫ステージはメロゾイト期である。これまでにアピコンプレックス門に属する赤血球内原虫から本発明者らが分離したペプチド蛋白質がピロプラズマ原虫の発育・生存に重要であることが示された報告はなく、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードする遺伝子及びその組換え蛋白質は赤血球寄生のアピコンプレックス門原虫感染の予防・防除を目的とした化合物の作出に有効である。
【0010】
本発明者らは、ピロプラズマ原虫から新規なピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードするDNAを単離し、該DNAがコードする抗原ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の組換え抗原及びその蛋白質をもとに構築した合成ペプチドを得て、これらをピロプラズマ原虫培養液に添加したところピロプラズマ原虫の発育が完全に阻止されることを見出し、該蛋白質のピロプラズマ原虫殺虫作用を突き止め本発明を完成するに至った。本発明はピロプラズマ原虫におけるピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードする遺伝子(HlDfs遺伝子)、該感染防御抗原蛋白質及び該感染防御抗原蛋白質コード領域を蛋白質発現ベクターに挿入し、精製した組換えピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の作製に関連する。また、本発明はピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質に対する抗体、及び抗体の作製方法に関連する。さらに、本発明は該蛋白質の一部を利用して作製した合成ペプチド、化合物に関連する。
【0011】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1) 以下の(a)又は(b)に示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードするDNA、
(a) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列を有する蛋白質
(b) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質
(2) 以下の(c)又は(d)に示すDNAである(1)のDNA、
(c) 配列表の配列番号1の25位から246位の塩基配列を含むDNA
(d) 配列表の配列番号1の25位から246位の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質をコードするDNA
(3) 以下の(a)若しくは(b)に示すペプチド蛋白質又はその断片、
(a) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列を有する蛋白質
(b) 配列表の配列番号2で示すマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質
(4) 以下の(e)から(i)のいずれかのアミノ酸配列を含みマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する、(3)記載のマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の断片、
(e) 配列番号2のアミノ酸配列の第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(f) 配列番号2のアミノ酸配列の第22位から第37位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(g) 配列番号2のアミノ酸配列の第33位から第47位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(h) 配列番号2のアミノ酸配列の第43位から第57位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(i) 配列番号2のアミノ酸配列の第53位から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(5) (3)または(4)のペプチド蛋白質を有効成分とするマダニのピロプラズマ原虫駆除剤、
(6) (1)または(2)のDNAを含む組換え体分子、
(7) (1)または(2)のDNAを含むベクター、
(8) (7)のベクターを含む組換え体細胞、
(9) (8)の組換え体細胞を培養し、その培養物からマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を採取することを特徴とする、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を産生する方法、
(10) (3)のマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を認識する抗体、および
(11) モノクローナル抗体である(10)の抗体。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明におけるcDNAライブラリーの作製、遺伝子のクローニング、スクリーニングおよび塩基配列の決定等の分子生物学、寄生虫学、免疫学並びに生化学的な技術はJ.Sambrook, E.F.Fritsch & T.Maniatis (1989): Molecular Cloning, a laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ed Harlow and David Lanc(1988):Antibodies, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press;獣医住血微生物学 近代出版(1986);獣医寄生虫学、獣医臨床寄生虫学編集委員会編、文英堂(1998);標準医動物学 第2版,医学書院(1998)等の当業者に良く知られた文献に記載された方法に従って行えばよい。また、DNA解析は、MacVector(登録商標)(コダック社)およびGENETYX(ソフトウェアー開発社)等のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0014】
本発明のDNAは、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列を有するピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードする総てのDNAを含む。また、配列表の配列番号2で示すアミノ酸配列において、1若しくは数個(例えば1から10個、好ましくは1から5個、さらに好ましくは1または2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質をコードする総てのDNAも含む。ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質とは、下に記載のとおりである。
【0015】
また、本発明のDNAは配列表の配列番号2で示すピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列のうちシグナル配列を除いた第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチド蛋白質又はその断片であって、ピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有するペプチド蛋白質又はその断片をコードするDNAを含む。
【0016】
さらに、本発明のDNAは、配列番号1の25位から247位までの塩基配列からなるDNA(ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードする遺伝子(HlDfs遺伝子)または配列番号1に示す全塩基配列からなるDNAを含む。さらに、これらのDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる総てのDNAも含む。ここで、ストリンジェントな条件とは、ピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードするDNA配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。通常、完全ハイブリッドの融解温度より約5℃~約30℃、好ましくは約10℃~約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。ストリンジェントな条件については、J.Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されており、ここに記載の条件を使用し得る。
【0017】
また、本発明の蛋白質は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するもの又は、その類似蛋白質すなわち配列番号2に示すアミノ酸配列を有する蛋白質と実質的に同等の性質を有し、アミノ酸配列中、1個又は数個(例えば1から10個、好ましくは1から5個、さらに好ましくは1または2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものであり、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上の相同性を有するのが望ましい。ここで、実質的に同質の性質とは、ピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質蛋白質の生物学的活性を有することを意味し、生物学的活性を有するとはピロプラズマ原虫殺虫能を有することを意味する。ピロプラズマ原虫殺虫活性能を有するか否かは後記の実施例7に記載の方法により決定することができる。
【0018】
さらに、本発明は配列表の配列番号2で示すピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列のうちシグナル配列を除いた第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチド蛋白質の断片であって、ピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有するペプチド蛋白質又はその断片を含む。このような断片として例えば、配列番号2のアミノ酸配列の第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド、第22位から第37位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P1)、第33位から第47位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P2)、第43位から第57位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P3)、第53位から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P4)が挙げられる。
【0019】
本発明のピロプラズマ原虫感染幼虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードするcDNAは、以下のような方法で得ることができる。
【0020】
本発明で使用したマダニであるフタトゲチマダニ、Haemaphysalis longicornisは、独立行政法人農業技術研究機構 動物衛生研究所原虫病研究室より得ることができる。Fujisaki[Fujisaki et al., Natl Inst Anim Health Q (Tokyo) 16, 122-128, (1976)]らの方法によって成ダニを生産し、Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform 法[Chomczynski et al., Anal Biochem 162: 156-159 (1987)]にてTotal RNAを抽出した。Total RNA よりmRNA Isolation Kit (Oligotex-dT30, Takara社) を用い、メーカーの推奨する方法に従いpoly A+ RNAを精製した。例えば、成ダニを、グアニジン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得た後、オリゴdT-セルロースやセファロース2B等を担体とするポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、又はバッチ法によりpoly(A)+mRNAを得ることができる。
【0021】
このようにして得られたmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖DNAを合成し、適当なベクターに組み込んで、該ベクターを用いて大腸菌等を形質転換してcDNAライブラリーを作製する。cDNAは、適当な制限酵素とリガーゼを用いる通常の方法でベクターに組込むことができる。例えば、得られたcDNAを、適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法などがある。この際、後述のベクター、宿主細胞を用いてcDNAライブラリーを得ることが出来る。
【0022】
このようにして得られたクローン化DNAライブラリーから、目的のDNAを選択する。選択方法として、イムノスクリーニング法、プラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等の方法を用いることができる。例えば、得られたクローン群を、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)等の誘導物質により蛋白質を発現させ、これをナイロン膜若しくはセルロース膜に転写し、目的蛋白質に対する抗体または該抗体を含む血清を用いて免疫学的に対応するクローンを選択することができる。
【0023】
このようにして調製したクローンから目的cDNAの塩基配列を決定する。塩基配列の決定は、例えば、マキサム・ギルバート法(Maxam,A.M. and Gilbert, W.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,74,560,1977)又はジデオキシ法(Messing, J et al.,Nucl.Acids Res.,9,309,1981)等により行うことができる。これらの原理を応用した塩基配列自動解析装置を用いて配列を決定することもできる。
【0024】
得られた目的DNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の遺伝子増幅法により増幅することができる。PCRは、例えば、蛋白質核酸酵素「PCR法最前線—基礎技術から応用まで—」第4巻、第5号、1996年4月号増刊、共立出版に記載されている技術により行うことができる。目的のDNAをクローン化又は増幅した後、目的DNAを回収し、これを入手可能な適当な発現ベクターに組み込んで、さらに適当な宿主細胞に形質転換し、適当な培地中で培養、発現させ、目的蛋白質を回収、精製することができる。
【0025】
この際のベクターとして、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pKC30、pCFM536等の大腸菌プラスミド、pUB110等の枯草菌プラスミド、pG-1、YEp13、YCp50等の酵母プラスミド、λgt110、λZAPII等のファージのDNA等が挙げられ、哺乳類細胞用のベクターとしては、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスDNA、SV40とその誘導体等が挙げられる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモータを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0026】
ベクターは、商業的に入手可能なものを使用することができ、例えば細菌性のものではpQE70、pQE60、pQE-9(Qiagen)、pBluescriptII KS、ptrc99a、pKK223-3、pDR540、pRIT2T(Pharmacia)、pET-11a(Novagen)、真核性のものではpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、SV40(Pharmacia)等がある。
【0027】
複製開始点として、大腸菌ベクターに対して、例えばColiE1、R因子、F因子由来のものが、酵母ベクターに対して、例えば2μmDNA、ARS1由来のものが、哺乳類細胞用ベクターに対して、例えばSV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス由来のものを用いることができる。また、プロモーターとしてアデノウイルス又はSV40プロモーター、大腸菌lacまたはtrpプロモーター、ファージラムダPLプロモーター、酵母用としてのADH、PHO5、GPD、PGK、AOX1プロモーター、蚕細胞用としての核多角体病ウイルス由来プロモーター等を用いることができる。
【0028】
選択マーカーとして、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等を、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等を、哺乳類細胞には、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を挙げることができる。
【0029】
DNAのベクターへの導入は、任意の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、または単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位にDNAを挿入することができる。本発明のDNAおよび調節配列を含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞に本発明のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を発現、産生させることができる。
【0030】
宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、アスペルギルス属菌株等の真菌細胞、パン酵母、メタノール資化性酵母等の酵母細胞、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞、CHO、COS、BHK、3T3、C127等の哺乳類細胞等が挙げられる。
【0031】
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポーレーション等の公知の方法で行うことができる。
【0032】
得られたリコンビナント蛋白質は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合蛋白質として発現される場合は、目的蛋白質と融合している蛋白質またはペプチドの性質を利用して精製することもできる。例えばヒスチジンが6個以上並んだアミノ酸配列、いわゆるヒスチジンタグとの融合蛋白質として発現させた場合、ヒスチジンタグを有する蛋白質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる、またGSTとの融合蛋白質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。
【0033】
マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質に対する抗体は、以下のようにして調製することができる。
【0034】
該ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をもとに作製した合成ペプチドを牛血清アルブミン(BSA)やキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合させてコンジュゲート抗原として、当業者に良く知られた方法に従い例えばマウス、モルモット、ウサギ、ヤギ等の動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈に複数回接種し、十分に免疫した後、動物から採血し、血清分離し、抗ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質抗体を作製することができる。この際、適当なアジュバントを使用することもできる。モノクローナル抗体も公知の方法により作製し得る。例えば、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質で免疫したマウスの脾細胞とマウスのミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマの培養上清又は該ハイブリドーマを腹腔内に投与したマウスの腹水から調製することができる。免疫抗原として用いるピロプラズマ原虫感染幼虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質は、ピロプラズマ原虫から抽出した天然蛋白質、組換え蛋白質でもよいし、化学合成したものでもよい。また、全アミノ酸配列を有する蛋白質でも良いし、該蛋白質の部分構造を有するペプチドフラグメントや他の蛋白質との融合蛋白質でも良い。ペプチドフラグメントは該蛋白質を適当な蛋白質分解酵素で分解した断片も用い得るし、配列番号1に示す塩基配列の一部を発現ベクターに組み込んで発現させた産物でも良い。融合蛋白質は、配列番号1に示す塩基配列の一部を他の蛋白質をコードする遺伝子と連結させて、発現ベクターに組み込んで発現させて製造することもできるし、ポリペプチドフラグメントを適当なキャリア蛋白質と化学結合により結合させた上で使用することもできる。得られた抗体の反応性は、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ウエスタンブロッティング等の当業者によく知られた方法により測定することができる。
【0035】
本発明のペプチド蛋白質又はその断片は、マダニのピロプラズマ原虫駆除剤として用いることができる。すなわち、本発明はピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質またはその断片を有効成分として含むマダニのピロプラズマ原虫駆除剤を含む。すなわち、配列表の配列番号2で示すピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のアミノ酸配列のうちシグナル配列を除いた第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するペプチド蛋白質の断片であって、ピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の生物学的活性を有するペプチド蛋白質又はその断片を含むマダニのピロプラズマ原虫駆除剤も本発明に包含される。このような断片として例えば、配列番号2のアミノ酸配列の第23位のアミノ酸から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド、第22位から第37位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P1)、第33位から第47位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P2)、第43位から第57位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P3)、第53位から第74位のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むペプチド(P4)が挙げられる。
【0036】
本発明の分離したピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質は、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。かかる駆除剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン性界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれる。
【0037】
また、本発明は、それら蛋白質、核酸、抗体、動物の治療を目的とした治療的化合物、ならびにその応用も含まれる。
本発明のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質及び核酸は、ピロプラズマ原虫が属するマラリア原虫等を含むアピコンプレックス門の赤血球内寄生原虫による人および動物の寄生虫病予防及び治療を目的とした化合物の合成、あるいはそれら原虫による寄生虫感染の治療薬の開発に応用できる。
【0038】
【実施例】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0039】
実施例1 本発明におけるピロプラズマ原虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質塩基配列の分離及び決定
フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis) の成ダニは、独立行政法人農業技術研究機構 動物衛生研究所原虫病研究室より得ることができる。Fujisaki[Fujisaki et al., Natl Inst Anim Health Q (Tokyo) 16, 122-128, (1976)]らの方法によって成ダニを生産し、以下の操作に供した。マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードする遺伝子は、PCR法をもとに得た。節足動物の抗菌ペプチドをコードする遺伝子をもとに遺伝子間で保存されている塩基配列をもとに遺伝子断片増幅のためのPCRプライマーを作製した。成ダニcDNAは成ダニよりTotal RNA Isolation Kit(プロメガ社)を用い、メーカーの推奨する方法に則り、RNAを抽出した。抽出したRNAからmRNA Isolation Kit (プロメガ社)を用い、メーカーの推奨する方法に従いpoly-RNAを精製した。Time Saver cDNA 合成キット(ファルマシア社)を用い、メーカーの推奨する方法に従い、二本鎖cDNAを合成した。Dfs.f3 ( 5'-AGMGGNTAYGGNTGYCC-3' :センス(配列番号3)) 及びDfs.r4 ( 5'-TARCAYTTRCANGTYTGYTT-3' ;アンチセンス(配列番号4))プライマーで成ダニcDNAを鋳型にPCRを実施した。PCR反応は50μlの反応液〔1ng 成ダニcDNA、1μMセンス及び1μMアンチセンスプライマー、10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2 、2.5U AmpliTaq DNA polymerase(プロメガ社)〕を調製し、DNA Thermal Cycler(パーキンエルマー社)を用いて、95℃にて30秒間、55℃にて30秒間、72℃にて2分間の反応を35サイクルで実施した。増幅したPCR産物はゲル電気泳動を行い、増幅したDNA断片をDNA精製キット(キアゲン社)を用いて蒸留水中に回収し、回収液を直ちにTAクローニングベクター(インビトローゲン社)にメーカーの推奨する方法に従ってDNA断片を挿入し、INVαF'プラスミドの形質転換を行い、X-Gal(ナカライ社)を含むL-ampプレートに蒔き、白色のコロニーを選択することによりアンピシリン耐性で、βガラクトシダーゼ欠損のコロニーを選択した。
【0040】
選択したコロニーをL-amp培地で培養し、アルカリ溶菌法により調製した組換え体プラスミドDNAをM13Reverse及びForwardプライマー(アプライドバイオシステム社)を用い、Dye-terminater Sequencing法(アプライドバイオシステム社テクニカルマニュアル)によりメーカーの推奨する方法に従い反応させ、反応産物をDNA sequencer Model 370A (version 1.30、アプライドバイオシステム社)を用いて分析し塩基配列を決定した。塩基配列解析の結果から、遺伝子増幅断片は約100bpであった。そこでマダニ抗菌ペプチドをコードする完全長のcDNAを得るために5’及び3’RACE法を用いて欠損部位遺伝子を増幅した。増幅にはMarathonTM cDNA Amplification kit(クローンテック)を使用し、メーカーの推奨する方法に従い、上記に記載した100bpの塩基配列情報もとに作製したPCRプライマーを用いてPCR反応を実施した。得られた増幅断片はそれぞれTAクローニングベクターに挿入し、定法に従って塩基配列を決定した。
【0041】
マダニの抗菌ペプチドをコードする完全長のcDNAは、455塩基で構成され、5’には非翻訳領域に続きATGの開始コドンが、また3’には真核生物に存在するポリアデニレーション及びポリAテイルが確認された。塩基配列から推定される蛋白質は74残基のアミノ酸から構成され、その内N末領域には22残基の真核生物シグナル配列が確認された。全アミノ酸の推定分子量は8,024Daで等電点は8.4であったのに対して、シグナル配列を除いた虫体内での予想される成熟蛋白質の分子量は、5,821Da、等電点は8.3であった。配列表の配列番号1に該DNAの塩基配列を示した。コーディング領域は、25位から246位であった。配列表の配列番号2にアミノ酸配列を示した。アミノ酸データベースとの相同性検索から、本発明で示す推定アミノ酸構造は、節足動物の抗菌ペプチドと類似性を示した。最も高い類似性を示した蛋白質はさそり由来の抗菌ペプチドであった。
【0042】
実施例2 組換え体蛋白質を発現させるベクター構築のためのマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質cDNAの分離及び増幅並びに組換え体分子及び組換え体細胞の作出
上記方法で合成した成ダニcDNA、センスプライマー(5'- CCG AGC TCG AGA CAA GAT GAC GAG AGT GAC GTG CCC-3';CTCGAGはXhoIサイト;配列番号5)とアンチセンスプライマー(5'-CCG AAT TCC TAC TTG CGG TAG CAC GTG CAG G -3';GAATTCはEcoRI サイト;配列番号6)を用いたPCR反応にて増幅した。
【0043】
PCR反応は50μlの反応液〔1ng 成ダニcDNA、1μMセンス及び1μMアンチセンスプライマー、10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2 、2.5U AmpliTaq DNA polymerase(プロメガ社)〕を調製し、DNA Thermal Cycler(パーキンエルマー社)を用いて、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の反応を35サイクルで実施した。増幅したPCR産物はゲル電気泳動を行い、増幅したDNA断片をDNA精製キット(キアゲン社)を用いて蒸留水中に回収し、回収液を制限酵素XhoI及びEcoRIで3時間酵素処理した。プラスミド発現ベクターであるpTrcHis発現ベクター(インビトローゲン社)も挿入断片と同様に制限酵素XhoI及びEcoRI で3時間酵素処理した。制限酵素処理した挿入断片及びベクターをDNAライゲーションキット(宝酒造社)を用いてメーカーの推奨する方法に従ってDNA断片を挿入し、大腸菌Top10を用いて形質転換を行い、L-ampプレートに蒔き白色のコロニーからマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質コード領域の挿入されたクローンを選択した。
【0044】
実施例3 大腸菌におけるピロプラズマ原虫感染幼虫のピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の作出及び、作出した蛋白質の性状
形質転換した大腸菌を37℃でアンピシリンを含んだSOB液で培養し、培養後SOB液のOD600が0.5に到達した時点で1mMのIPTGを添加し、さらに3時間培養を続けた。経時的に産生される蛋白産生の変化は15%SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動(Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970))を実施した後、クマーシー染色で確認した。その結果、約10kDa付近に組換え蛋白質の産生が認められ。また、同様に実施した電気泳動のゲルをニトロセルロース膜(アマシャム社)に電気的に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで10,000倍に希釈されたアルカリホスファターゼ標識されたT7モノクローナル抗体(ノバーゲン社)と1時間反応させた。TBSTで洗浄した後、結合した蛋白質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、このウエスタンブロット解析によって約10kDa付近に確認された組換え蛋白質と反応することが認められ、組換え蛋白質に(His)6が付加されていることが確認された(図1)。図1でレーン1は、発現前の大腸菌ライセート、レーン2は、発現後の大腸菌ライセート、レーン3は、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の6kDa組換え抗原蛋白質を示している。
【0045】
実施例4 大腸菌からのマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の精製、及び精製したマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質に対する抗体作製
マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質はメタルキレートクロマトグラフィー(インビトローゲン)を用いてメーカーの推奨するイミダゾール溶出法によって精製した(Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79(1998))。溶出された蛋白質はCentrisart I (ザルトリウス社, cut off 10,000 MW) を用いて濃縮し、Slide-A-LyzerTM Dialysis Cassette (ピアス社)を用いてリン酸緩衝食塩液中にて透析を行った。この精製したマダニピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質は、さらにより精製度を上げるためにSDS-PAGE精製と組換えピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質に付加されているヒスチジンを含む約4kDaを除去するための酵素処理を加えた。
【0046】
SDS-PAGE精製は、14%の均一ポリアクリルアミド(SDS-PAGE)を使用し、Laemmliらの方法に従い、上記で精製したマダニピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質を電気泳動し、Zink Stain Kit(バイオラッド)によるネガティブ染色を施した後、約10kDaに位置する組換え体蛋白質を含むゲル片を切り出した。ゲル片は直ちにアトプレップMF(アトー)を用いてメーカーの推奨する方法に従い、ゲル片内にある組換え体蛋白質を溶出させた。得られた組換え体蛋白質はトリス緩衝液(20mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl)で一昼夜、4℃で透析した。
【0047】
N末端付加部位4kDaの除去は、EK AWAY(インビトローゲン社)を用いてメーカーの推奨する方法に従って実施した。
【0048】
マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質に対するポリクローナル抗体はマウスを用いて以下のように作製した(Tsuji et al., Mol Biochem Parasitol 97: 69-79, (1998))。マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の推定アミノ酸配列から親水性に富む領域を選択し、アミノ酸17残基からなる合成ペプチドを作製した。牛血清アルブミンとコンジュゲーションした合成ペプチド50μgをTiterMax GoldTM (シンテックス社)とともに皮下接種し、4週間後再度同量を接種した。再投与2週後に採血を行い、血清を-20℃に保存した。作製された抗血清はウエスタンブロット解析によって、ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質10kDaの組換え蛋白質と強く反応することが確認された。
【0049】
実施例5 イムノブロット法によるネイティブ(天然型)マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の性状
実施例4で作製したマウスのマダニピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質免疫血清を用いて、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質蛋白質抽出液のSDS-PAGE/イムノブロット法を行った。SDS-PAGE (Laemmli, et al., Nature 227:680-685(1970))で分離した後、定法に従いニトロセルロース膜(アマシャム社)に転写した。転写後、膜を5%スキムミルクで30分間ブロッキングし、次いで、TBSで1,000倍に希釈されたマウスのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質免疫血清と1時間反応させた。TBSTで洗浄したのち、免疫血清と結合した蛋白質を検出するために、アルカリホスファターゼ標識された抗マウス-IgG抗体(カッペル社)と1時間反応させ、結合した蛋白質を基質NBT/BCIP(ギブコBRL社)を用いて可視化した。その結果、マウス血清と反応する約6kDaの単一バンドが確認され、マダニ抽出蛋白液中の天然型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質が同定できた。
【0050】
実施例6 免疫組織化学法によるマダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の局在
フタトゲチマダニの成ダニをリン酸緩衝液(PBS)にパラホルムアルデヒドを4%になるように調製した溶液で虫体を固定し、定法に従ってパラフィン切片を作製した。キシレン・アルコール系列を通した組織切片を10%正常ヤギ血清で30分ブロッキングした。組織切片にPBSで100倍に希釈されたマウスのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質組換え体蛋白質免疫血清と一晩反応させた。PBS-Tween20(PBST)で洗浄したのち、免疫血清と結合した蛋白質を検出するために、ビオチン標識された抗マウス-IgG抗体(カッペル社)と20分反応させた。PBSTで洗浄した後、ペルオキダーゼ標識されたアビジンを20分反応させ、PBSTで洗浄した後基質ジアミノベンチジンテトラハイドロクロライド(シグマ社)を用いて可視化した。その結果、天然型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の局在を示す陽性反応は、マダニの消化器官である中腸上皮に確認され、その発現は吸血によって著しく増加することが確認された。
【0051】
実施例7 マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の原虫殺虫活性の解析
ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の殺虫作用は馬バベシア症の病原虫であるB. equi原虫のメロゾイト期のIn vitro培養系[Avarzed et al., J. Clin. Microbiol 36:1835-1839(1998)]を用いて調べた。この培養系はB. equiの赤血球内ステージであるメロゾイト期の発育を再現できるものである。In vitro培養系に推定アミノ酸配列から想定される成熟蛋白質の組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質を添加し、経時的にギムザ染色した培養液塗末標本を作製し、顕微鏡下でB. equi原虫の赤血球寄生率を計数した。組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質(5μg/ml)の添加によって、原虫寄生率は顕著に減少し、添加後2日目に寄生原虫はほぼ消失した(図2)。対照に使用したα-ヒトディフェンシン及びβ-ヒトディフェンシン-1、β-ヒトディフェンシン-2(ペプチド研究所)添加群の寄生率は無処置群と同一であった。成熟蛋白質の組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をもとに作製した16から22アミノ酸残基からなる4種の合成ペプチド(P1,P2,P3,P4)をIn vitro培養系に添加し原虫の赤血球寄生率を計数した。それぞれのペプチドのアミノ酸配列は以下の通りであった。
P1:Gln Asp Asp Glu Ser Asp Val Pro His Val Arg Val Arg Arg Gly (配列番号7、配列番号2のアミノ酸配列の第22~37位のアミノ酸)
P2:Arg Val Arg Arg Gly Phe Gly Cys Pro Leu Asn Gln Gly Ala Cys(配列番号8、配列番号2のアミノ酸配列の第33~47位のアミノ酸)
P3:Asn Gln Gly Ala Cys His Asn His Cys Arg Ser Ile Gly Arg Arg(配列番号9、配列番号2のアミノ酸配列の第43~57位のアミノ酸)
P4:Ser Ile Gly Arg Arg Gly Gly Tyr Cys Ala Gly Ile Ile Lys Gln Thr Cys Thr Cys Tyr Arg Lys(配列番号10、配列番号2のアミノ酸配列の第53~74位のアミノ酸)
【0052】
各合成ペプチド(10μg/ml)の添加によって、寄生率は培養開始後2日目より減少を開始した。無処置群の寄生率は培養後4日目で約6%であったのに対して、P1群では約3.5%、P2、P3及びP4群ではいずれも約2.5%まで減少した。さらに、合成ペプチド(15μg/ml)を添加し寄生率を4日間調べたところ、寄生率は2日目より減少し、4日目でP2群では約1.5%、P3及びP4群では約1%まで減少した。これらの成績から、52アミノ酸残基で構成される組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のピロプラズマ原虫の発育阻止が確認され、その効果は合成ペプチドでも認められることから、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質にピロプラズマ原虫の殺虫作用が存在することが分かった。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質をコードするDNAからなる遺伝子、該DNAを含むベクター及び組換え体細胞、マダニのピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質、該抗原を認識する抗体はピロプラズマ原虫が属するマラリア原虫等をアピコンプレックス門の赤血球内寄生原虫による寄生虫感染症防除を目的とした化合物の合成及び治療薬に応用できる。
【0054】
【配列表】
JP0003803733B2_000002t.gifJP0003803733B2_000003t.gifJP0003803733B2_000004t.gifJP0003803733B2_000005t.gifJP0003803733B2_000006t.gifJP0003803733B2_000007t.gifJP0003803733B2_000008t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】マダニの天然型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の発現及び組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質の結果を示す図である。
【図2】組換え型ピロプラズマ原虫殺虫ペプチド蛋白質のピロプラズマ原虫殺虫効果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1