TOP > 国内特許検索 > 絹タンパク質フィルムとその製造方法 > 明細書

明細書 :絹タンパク質フィルムとその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3803962号 (P3803962)
公開番号 特開2003-192807 (P2003-192807A)
登録日 平成18年5月19日(2006.5.19)
発行日 平成18年8月2日(2006.8.2)
公開日 平成15年7月9日(2003.7.9)
発明の名称または考案の名称 絹タンパク質フィルムとその製造方法
国際特許分類 C08J   5/18        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
C08L  89/00        (2006.01)
FI C08J 5/18 CFJ
A61L 27/00 V
C08L 89/00 ZBP
請求項の数または発明の数 6
全頁数 7
出願番号 特願2001-400222 (P2001-400222)
出願日 平成13年12月28日(2001.12.28)
審査請求日 平成15年8月12日(2003.8.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】馬越 淳
【氏名】田中 稔久
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】大熊 幸治
参考文献・文献 特開昭60-142259(JP,A)
特開昭63-246169(JP,A)
特開昭64-060382(JP,A)
特開平01-240189(JP,A)
特開平01-254164(JP,A)
特開平02-233128(JP,A)
特開平05-039368(JP,A)
特開平08-120593(JP,A)
特開平11-070160(JP,A)
国際公開第02/072931(WO,A1)
調査した分野 C08J 5/18
C08L 89/00- 89/06
A61L 27/00
B32B 1/00- 35/00
特許請求の範囲 【請求項1】
不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で乾燥させて製造される、絹タンパク質からなる水溶液のキャストフィルムであることを特徴とする絹タンパク質フィルム。
【請求項2】
絹タンパク質がフイブロインおよびセリシンの少くともいずれかであることを特徴とする請求項1の絹タンパク質フィルム。
【請求項3】
絹タンパク質が天然に産出されたもの、および人為的に合成もしくは改変されたものの少くともいずれかであることを特徴とする請求項1または2の絹タンパク質フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの絹タンパク質フィルムの製造方法であって、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で、絹タンパク質からなる水溶液膜を乾燥することを特徴とする絹タンパク質フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかの絹タンパク質フィルムの製造方法であって、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で、絹タンパク質からなる水溶液膜を乾燥とともに、もしくは、乾燥後に延伸することを特徴とする絹タンパク質フィルムの製造方法。
【請求項6】
絹タンパク質がフイブロインおよびセリシンの少くともいずれかであることを特徴とする請求項4または5の絹タンパク質フィルムの製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、絹タンパク質フィルムとその製造方法に関するものである。
【0002】
さらに詳しくは、この出願の発明は、生分解性の環境調和型の新しい材料を提供可能とし、高強度、高弾性な多機能性フィルムとして、医療材料や食品材料等として有用な、絹タンパク質フィルムとその製造方法に関するものである。
【0003】
【従来の技術とその課題】
従来より、フィルム材料として、合成樹脂や天然樹脂由来の各種のものが知られており、その一種としてタンパク質のフィルムが、不織布や生体適合性膜として、利用されてきている。そして、コラーゲン等のタンパク質フィルムは、各種の用途において注目されているものである。
【0004】
しかしながら、従来産業や社会生活において用いられているフィルムの圧倒的に多くのものは、そのいずれもが石油系原料等より製造された合成樹脂のフィルムである。これらの合成樹脂フィルムは、資源、エネルギー多消費型であり、廃棄物としての処分が容易ではない。そこで、生分解性を有し、環境調和型の材料としてタンパク質フィルムが注目されるところではあるが、従来では、製造工程が多いため、エネルギー多消費型となり、環境負荷が大きいという問題を有している。
【0005】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来の合成樹脂フィルムに代わるものとして、生分解性を有し、環境保全型のタンパク質材料として、医療材料や食品材料等への応用が可能で、しかも従来のタンパク質材料に代わるものとして、製造過程の簡易化、材料の透明化等が注目される、カイコやクモから得られる絹フイブロインとセリシンを用いた絹タンパク質材料として、新しい絹タンパク質フィルムを提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で乾燥させて製造される、絹タンパク質からなる水溶液のキャストフィルムであることを特徴とする絹タンパク質フィルムを提供し、第2には、絹タンパク質がフイブロインおよびセリシンの少くともいずれかであることを特徴とする絹タンパク質フィルムを、第3には、絹タンパク質が天然に産出されたもの、および人為的に合成もしくは改変されたものの少くともいずれかであることを特徴とする絹タンパク質フィルムを提供する。
【0007】
また、この出願の発明は、第4には、以上いずれかの絹タンパク質フィルムの製造方法であって、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で、絹タンパク質からなる水溶液膜を乾燥することを特徴とする絹タンパク質フィルムの製造方法を提供し、第5には、不活性雰囲気としての窒素ガス雰囲気、希ガス雰囲気あるいは真空減圧雰囲気下で、絹タンパク質からなる水溶液膜を乾燥とともに、もしくは、乾燥後に延伸することを特徴とする絹タンパク質フィルムの製造方法を提供する。
【0008】
そして、この出願の発明は、第6には、絹タンパク質がフイブロインおよびセリシンの少くともいずれかであることを特徴とする絹タンパク質フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0010】
この出願の発明によれば、タンパク質材料として、主として絹タンパク質からなるキャストフィルムであるものが提供されることになる。絹タンパク質としては、カイコやクモから得られる、絹フィブロイン、あるいは絹フイブロインとセリシンからなる天然生成物、またはバイオテクノロジー等の方法により合成ないし改変された絹タンパク質等が例示されることになる。なお、この出願の発明においては、絹タンパク質からなる材料は、絹タンパク質が主構成要素であるものを意味しており、全てが絹タンパク質であるもの、あるいはその一部が絹タンパク質以外の物質、例えば多糖類等により置換されて構成されたもの、絹タンパク質以外の物質と複合化されたもの等であってよい。
【0011】
この出願の発明は上記のキャストフィルムとして絹タンパク質の水溶液より得られたものである。絹タンパク質水溶液は、たとえば絹フイブロインの水溶液として得られる。この場合の絹フイブロインは、カイコの絹糸腺という器官において合成されたタンパク質で、絹糸腺は、後部、中部および前部の三つの器官により構成され、中部絹糸腺(M)は、さらに後区(MP)、中区(MM)、前区(MA)に分類されている。
【0012】
フイブロインは、水に溶解し、水溶液となる。
【0013】
この出願の発明において用意される絹タンパク質の水溶液の濃度については、たとえば10~30wt%の高濃度のものをはじめとして、特に限定的ではない。ほぼ完全な溶解状態にある場合だけでなく、部分的に溶解し、分散液の状態にあってよい。
【0014】
絹タンパク質キャストフィルムは、各種の方法、手段によって形成されてよい。
【0015】
たとえば水溶液の、台板や支持板、あるいは基板表面への展開によって液膜を形成し、この液膜を乾燥する方法や、対向するこれらの板状体の隙間に毛管現象によって液膜を保持し、次いで乾燥する方法、粘度が高い場合等には、板状体を水溶液中に浸漬し、これを引上げ、表面に付着している液膜を乾燥する方法、さらには、スリット開口より水溶液を乾燥域に吐出させてフィルム形成する方法が例示される。これらの各種方法の実施に際しては、より好適には、炭酸ガスが存在しない不活性雰囲気条件で絹タンパク質水溶液を乾燥することによってキャストフィルムを作製することを特徴とすることができる。
【0016】
不活性な雰囲気は、たとえば窒素ガスや希ガスの雰囲気、あるいは真空減圧雰囲気とすることができる。より実際的に好ましくは、窒素ガス雰囲気とすることが考慮される。不活性な雰囲気、特に窒素ガス雰囲気での乾燥によって、高強度、高弾性、そして透明性の高いキャストフィルムが作製できる。
【0017】
一方、炭酸ガス中での乾燥の場合には、白濁の、脆性のあるフィルムが形成されることになる。この白色脆性のフィルムは、この出願の発明者によって、絹タンパク質水溶液における大気中の炭酸ガスの吸収固定化に起因することが確認されている。
【0018】
このようなフィルム作製条件の雰囲気の違いによって、絹タンパク質水溶液が異なる形態や物性のキャストフィルムを形成することは、これまで全く知られていないことである。
【0019】
また、高濃度水溶液の場合には、前記の乾燥時に、あるいは乾燥後に延伸することもできる。この延伸によって、物理的物性を改変することも可能となる。
【0020】
もちろん、この出願の発明においては、水溶液のタンパク質濃度によって、フイブロインフィルムの厚みや乾燥時間を調製することが可能となる。
【0021】
たとえば以上のとおりのこの出願の発明について、さらに実施例に沿って説明する。
【0022】
【実施例】
<実施例1>
家蚕の中部絹糸腺中区(MM)からフイブロインを取出して水中でセリシンを除去し、水によって、絹フイブロインの濃度1wt%の水溶液を調製した。
【0023】
この絹フイブロイン水溶液を、ガラス板上に展開し、常温において乾燥した。その際の雰囲気として、窒素ガス雰囲気または炭酸ガス雰囲気とした。
【0024】
その結果、窒素ガス雰囲気での乾燥によって、形態保持性、透明性を有するフイブロインフィルムが得られた。このものは、動的ヤング率4.3×1010dyne/cm2であった。
【0025】
一方、炭酸ガス雰囲気での乾燥による場合には、白濁した不透明なフィルムとなることが確認された。
【0026】
このものの強度は測定不可能であって、脆性が大きいものであった。
<実施例2>
実施例1と同様にして、中部絹糸腺中区(MM)からのフイブロインの水溶液として、濃度が、0.72wt%、1.01wt%、および1.53wt%のものを調製し、窒素ガス雰囲気および炭酸ガス雰囲気の各々で乾燥してキャストフィルムを製造した。
【0027】
図1は、その結果を例示した写真である。
【0028】
この図1にも例示したように、窒素ガス雰囲気での乾燥によって、各々の濃度の水溶液から形態保持性、透明性を有するフイブロインフィルムが得られることと、炭酸ガス雰囲気の場合には、白濁した不透明なフィルムとなり、脆性の大きなものとなることが確認された。
<実施例3>
実施例1と同様にして、中部絹糸腺前区(MA)からのフイブロインの、濃度が、0.52wt%、0.79wt%、0.80wt%、1.13wt%の水溶液を調製し、窒素ガス雰囲気、炭酸ガス雰囲気の各々で乾燥してキャストフィルムを製造した。
【0029】
図2は、その結果を例示した写真である。
【0030】
この図2より、実施例1および実施例2と同様の結果が得られていることがわかる。
<実施例4>
実施例1と同様にして、中部絹糸腺後区(MP)からのフイブロインの、濃度0.74wt%、1.11wt%、1.14wt%、1.15wt%の水溶液を調製し、窒素ガス雰囲気、炭酸ガス雰囲気の各々で乾燥してキャストフィルムを製造した。
【0031】
図3は、その結果を例示した写真である。
【0032】
この図3から、実施例1および実施例2、さらには実施例3と同様の結果が得られていることがわかる。
【0033】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、生分解性を有し、環境保全型のタンパク質材料として、多機能性フィルムへの応用が可能で、製造過程の簡易化、材料の透明化等が注目される、新しい絹タンパク質フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】中部絹糸腺中区(MM)の絹タンパク質の濃度の異なる水溶液より窒素ガスおよび炭酸ガスの各々の雰囲気下で製造したキャストフィルムを例示した写真である。
【図2】中部絹糸腺前区(MA)の絹タンパク質の濃度の異なる水溶液より窒素ガスおよび炭酸ガスの各々の雰囲気下で製造したキャストフィルムを例示した写真である。
【図3】中部絹糸腺後区(MP)の絹タンパク質の濃度の異なる水溶液より窒素ガスおよび炭酸ガスの各々の雰囲気下で製造したキャストフィルムを例示した写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2