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明細書 :高分子量セリシンを抽出して取得する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3516059号 (P3516059)
公開番号 特開平11-092564 (P1999-092564A)
登録日 平成16年1月30日(2004.1.30)
発行日 平成16年4月5日(2004.4.5)
公開日 平成11年4月6日(1999.4.6)
発明の名称または考案の名称 高分子量セリシンを抽出して取得する方法
国際特許分類 C08H  1/00      
C07K 16/00      
D01C  3/00      
FI C08H 1/00
C07K 16/00
D01C 3/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願平09-278063 (P1997-278063)
出願日 平成9年9月24日(1997.9.24)
審査請求日 平成11年9月1日(1999.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】坪内 紘三
【氏名】山田 弘生
【氏名】高須 陽子
個別代理人の代理人 【識別番号】100103805、【弁理士】、【氏名又は名称】白崎 真二
審査官 【審査官】寺坂 真貴子
参考文献・文献 特開 昭58-26809(JP,A)
特開 平1-168906(JP,A)
特開 平4-202435(JP,A)
特開 昭51-41401(JP,A)
蒲生卓磨,繭層タンパク質のジスルフィド結合の開裂による抽出とゲル電気泳動による分別,日本蚕糸学雑誌,日本,1973年,41巻1号,P.17-23
調査した分野 C08H 1/00 - 1/06
D01C 3/00
C07K 16/00 - 16/46
特許請求の範囲 【請求項1】
絹糸虫類の吐糸した繭、該繭から得られる繭糸、生糸、未精練もしくは半精練の生糸、該生糸から調製された布、およびそれらの残糸を、100℃を超える温度において、数分ないし10分間、尿素水溶液で抽出することからなる平均分子量50,000以上のセリシンを取得する方法。

【請求項2】
100℃を越え130℃以下の温度において、尿素水溶液で抽出することを特徴とする請求項1記載のセリシンを取得する方法。

【請求項3】
絹糸虫類の吐糸した繭、該繭から得られる繭糸、生糸、未精練もしくは半精練の生糸、該生糸から調製された布、およびそれらの残糸を、100℃を超える温度において、10分間以下で、尿素水溶液で抽出することからなる平均分子量50,000以上のセリシンを取得する方法。

【請求項4】
100℃を越え130℃以下の温度において、尿素水溶液で抽出することを特徴とする請求項3記載のセリシンを取得する方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、セリシンの取得方法に関し、更に詳しくは、絹糸虫類が吐糸する繊維(繭糸)からセリシンを、その分解を抑えながらできる限り高分子量のままで抽出し、効率よく取得する方法に関する。

【0002】

【従来の技術】絹糸虫類に吐糸する繊維、つまり繭糸は、フィブロインとセリシンの蛋白質から構成されており、セリシンはフィブロインをコーティングした状態で存在している。従来から、繭糸は生糸に繰糸された後、精練され絹織物へと加工されることによって利用されてきた。繭糸を構成するセリシン自体は、セリシン分子の会合や結晶化により熱水には難溶であるが、アルカリ性の熱水には溶解することができる。そのため、通常、生糸の精練としては、アルカリ水溶液に界面活性剤、例えば、マルセル石鹸等を加え、95℃以上で数時間処理する方法や、パパインやキモトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いる方法等が採られてきている。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】従来法のアルカリ水溶液による精練工程を採用した場合には、セリシンが加水分解による分子鎖の切断のために低分子量化する傾向があった。したがって、精練工程からの廃液から抽出して得られるセリシンは、ほとんど平均分子量50,000以下のものである(特開平1-168906号公報、特開平4-202435号公報等参照)。本来、繭糸あるいは生糸を構成しているセリシンは、平均分子量が60,000~300,000(SDS電気泳動による測定)とされているにもかかわらず、現実に利用されている精練工程の廃液から抽出して得られるセリシンは、上記のように平均分子量が50,000以下のものでしかない。このようなセリシンは、主として繊維改質材として利用されている。

【0004】
ところが、近年、セリシンにおいて生体防御性を有することが注目され、そのセリシンの特有の性質を利用した新素材の開発が盛んに行われるようになった。本発明者等の知見によると、平均分子量が50,000以下の低分子量のセリシンは、水に溶け易く、強度が低く脆いものであって、フィルム形成性を有しないものであり、人体と馴染み難いことが分かった。更にまた、反対に、平均分子量が50,000を超える高分子量のセリシンの場合には、物理的強度等が、それを超えるに従って次第に大きくなり、そのためフィルム形成性の優れた水不溶性の物質となることから、人体への適用性が良くなることが分かった。

【0005】
上述の点から、セリシンにおいて生体防御性を有効に利用するには、平均分子量が50,000を超える高分子量のセリシンを抽出取得することが必要である。本発明は、以上の技術的背景をもとになされたものである。すなわち、本発明は、新しい素材、例えば、創傷被覆材、化粧用添加剤等としての利用可能性が期待できる高分子量のセリシンを得る方法を提供することを目的とする。詳しくは、繭糸あるいは生糸等からセリシンを、その分解を抑えながら可能な限り高分子量のままで抽出し、効率よく取得する方法を提供することを目的とする。

【0006】

【課題を解決するための手段】本発明者等は、セリシンの抽出条件(抽出剤と温度)と得られるセリシンの分子量との関係を綿密に検討して、高分子量セリシンを得る方法を確立した。

【0007】
即ち、本発明は、(1)、絹糸虫類の吐糸した繭、該繭から得られる繭糸、生糸、未精練もしくは半精練の生糸、該生糸から調製された布、およびそれらの残糸を、100℃を超える温度において、数分ないし10分間、尿素水溶液で抽出することからなる平均分子量50,000以上のセリシンを取得する方法に存する。

【0008】
そしてまた、(2)、100℃を越え130℃以下の温度において、尿素水溶液で抽出する上記1のセリシンを取得する方法に存する。そしてまた、(3)、絹糸虫類の吐糸した繭、該繭から得られる繭糸、生糸、未精練もしくは半精練の生糸、該生糸から調製された布、およびそれらの残糸を、100℃を超える温度において、10分間以下で、尿素水溶液で抽出することからなる平均分子量50,000以上のセリシンを取得する方法に存する。そしてまた、(4)、100℃を越え130℃以下の温度において、尿素水溶液で抽出するセリシンを取得する方法に存する。

【0009】

【発明の実施の形態】本発明でセリシンを取得するための原料としては、基本的には、家蚕および野蚕の絹糸虫類が吐糸したすべての蛋白質繊維が対象となり、これら蛋白質繊維由来のフィブロインとセリシンを含有する物質を原料とする。また、フィブロインを含まずセリシンのみを吐糸するセリシン蚕の繭も原料にすることができる。これらの原料の形態は繭、繭糸、生糸、絹織編物の未精練物また未完全精練物およびセリシンを含有する繊維、粉末、フィルム等があるが、これらすべてを原料として使用できる。

【0010】
セリシンの抽出は、原料1g当たり2~8モル/l濃度の尿素水溶液20~60ml中に浸漬し、100℃を超え約130℃以下の温度で数分かけて行う。抽出温度が100℃以下だとセリシンの抽出効率の観点で劣り、一方、抽出温度が130℃を超えると尿素の分解が起こり易く好ましくない。ここで、より高収率で高分子量のセリシンを取得するには、できる限り高温で短時間で抽出することが好ましい。抽出時間としては、10分以下が好ましく、それより長い抽出時間とするとセリシンの分解が起こるようになるから注意する必要がある。

【0011】
抽出終了後、抽出液からのセリシンの分離、回収は、例えば、以下の方法を採用して行う。
1)分子ふるいクロマトを用いる方法;分画分子量が5,000~600,000程度のセファデックス等を用いるカラムクロマトグラフィー法によって、分子量が50,000より大きい画分を集める。

【0012】
2)限外ろ過膜を用いる方法;分画分子量が50,000以上の限外ろ過膜を用いて、ろ過を行い、高分子画分を集めて濃縮する。

【0013】
3)有機溶媒で分別沈澱をおこなう方法;抽出する高分子量セリシンの分子量に応じてメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、アセトン等の親水性有機溶媒を50~80%(重量比)になるように添加して高分子量セリシンを選択的に沈澱させる。

【0014】
ここで、本発明により取得された高分子量のセリシン(通常、これらの高分子量のセリシンの分子量は液体クロマトグラフィー及び又はSDS電気泳動装置で分析する)は、分子量が高いため、フィルムに成形して腰のある新しい素材として利用できる他、粉末として或いは溶液としても当然利用することができる。また、本発明により取得された高分子量セリシンは、吸湿性に富み、強靱で、かつ熱水に溶けにくいものである。そのため、創傷被覆材などの医療用材料や化粧用添加剤等としても有用であり、また繊維製品の着用時の快適性を向上させるための繊維改良材、処理剤、コーティング剤等としても有用である。以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。

【0015】

【実施例】
〔実施例1〕家蚕の繭糸5gを、30倍量の尿素水溶液(2モル/l濃度)中に浸漬し、120℃(2気圧)で5分間かけて抽出処理した。この抽出液をファルマシア社製ハイロードQのカラム(内径2.6cm×長さ10cm)に通過させてセリシンを吸着させた。次いで、カラムを0.2モル硫酸ナトリウムで溶出し蛋白の分画を集め、アミコン社製限外ろ過膜セントリフロー50でろ過脱塩したのち凍結乾燥し、1gの粉末状セリシンを得た。この方法で得たセリシンの平均分子量は,クロマト法(セファクリルS-500)による測定で約180,000であった。

【0016】
〔実施例2〕抽出温度を110℃(1.4気圧)とした以外は上記実施例1と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約200,000のセリシン0.75gを得た。

【0017】
〔実施例3〕抽出温度を105℃(1.2気圧)とした以外は上記実施例1と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約220,000のセリシン0.65gを得た。

【0018】

【比較例】〔比較例1〕
抽出温度を100℃(1気圧)とした以外は、上記実施例1と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約220,000のセリシン0.25gを得た。

【0019】
〔比較例2〕
抽出温度を80℃(1気圧)とした以外は、上記実施例1と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理したが、セリシンは殆ど抽出できなかった。

【0020】
〔比較例
家蚕の繭糸5gを、30倍量の水に浸漬し、120℃(2気圧)で5分間かけて抽出処理した。この抽出液を濾過した後、4倍容量のエチルアルコールを加えて生成した沈澱を遠心分離して集めた。これをエチルアルコールで洗浄脱水し、エチルエーテルで洗浄、乾燥し、0.55gの粉末状セリシンを得た。この方法で得たセリシンの平均分子量は、クロマト法(セファクリルS-500)による測定で約180,000であった。

【0021】
〔比較例
抽出温度を110℃(1.4気圧)とした以外は、上記比較例と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約180,000のセリシン0.45gを得た。

【0022】
〔比較例
抽出温度を105℃(1.2気圧)とした以外は、上記比較例と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約200,000のセリシン0.25gを得た。

【0023】
〔比較例
抽出温度を100℃(1気圧)とした以外は、上記比較例と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理し、平均分子量約200,000のセリシン0.15gを得た。

【0024】
〔比較例
抽出温度を80℃(1気圧)とした以外は、上記比較例と同様な条件で家蚕の繭糸を抽出処理したがセリシンは殆ど抽出できなかった。

【0025】
以上の〔実施例〕及び〔比較例〕の結果を、まとめて〔表1〕に示す。表1から明らかなように、尿素水溶液を用いた場合には、尿素を含まない熱水を用いた場合に比較して、ほぼ2倍程度抽出率が上がり、特に、実施例1においては原料繭糸中含まれるセリシンの80%以上が抽出されていることが理解されよう。また、尿素水溶液を用いた場合には、抽出温度が100℃を越えると抽出率が大きく高まることが分かる。

【0026】

【参考例】
〔参考例1〕実施例3で得られた平均分子量約220,000のセリシンを水溶液とした(試料1)。また、実施例3で得られた平均分子量約220,000のセリシンを炭酸ソーダ0.1重量%溶液にして、5分間煮沸した後、透析して炭酸ソーダを除去したセリシン水溶液とした(試料2)。また同様に30分間煮沸した後、透析して炭酸ソーダを除去したセリシン水溶液とした(試料3)。また同様に2時間煮沸した後、透析して炭酸ソーダを除去したセリシン水溶液とした(試料4)。以上の4つの試料を室温に静置してゲル化するまでの時間を調査した。その結果とクロマト法(セファクリルS-500)で求めた分子量とを〔表2〕に示す。

【0027】
〔参考例2〕上記参考例1の試料1~試料4の水溶液からフィルム(厚さ50μm±5μm)を作成し、各フィルムの強度を〔表3〕に示す。強度は、20℃、65%RHにおけるフィルムの引張り強度(把持巾7mm、把持間隔2cm、引張り速度約100/min)で示した。これらの各フィルムを110℃±5℃のスチームで1時間処理してセリシンを結晶化させた。これらの各フイルムのセリシンの熱水(100℃±3℃,1時間)における溶解性を測定したところ〔表4〕の結果となった。

【0028】
ここで、溶解性は元の重量(A)と1時間後の熱水中の沈澱物を遠心分離(2000G)して回収し、乾燥後の重量(B)から次の式(1)で計算した。
(1)熱水溶解性(%)=(A-B/A)×100

【0029】
〔参考例3〕上記参考例1の試料1~試料4のセリシン水溶液にCgのナイロン編物を1時間浸漬し、乾燥後の重量の測定値をDgとした。次にこれらを110℃±5℃でスチーム処理を1時間行い、乾燥した後、熱水処理(100℃±3℃,1時間)し、再び乾燥した後の重量の測定値をEgとした。その結果を〔表5〕に示す。

【0030】
ここで、「セリシンの付着量」及び「熱水処理後のセリシン付着量」は下記の式(1)及び式(2)で計算した。
(1)セリシンの付着量(%)=(D-C)/C×100
(2)熱水処理後のセリシンの付着量(%)=(E-C)/C×100

【0031】

【発明の効果】以上の結果から、本願発明の抽出方法により得られたセリシンは、精練液から抽出して得られる従来の低分子量化(加水分解)されたセリシンとは異なり、分子量が大きいため、強度が増しフィルム形成能が高まる上、更に熱水不溶性を有する。また本来の吸湿性や肌触性の良い特性を合わせ持つ利点がある。セリシンが有する特有の性質である生体防御性を生かした創傷被覆材等の医療用材料や化粧用添加剤等に極めて有用である

【0032】

【表1】
JP0003516059B2_000002t.gif【0033】
【表2】
JP0003516059B2_000003t.gif【0034】
【表3】
JP0003516059B2_000004t.gif【0035】
【表4】
JP0003516059B2_000005t.gif【0036】
【表5】
JP0003516059B2_000006t.gif