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明細書 :医療用基材としての繭糸構造物及びその製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3840541号 (P3840541)
公開番号 特開2004-173772 (P2004-173772A)
登録日 平成18年8月18日(2006.8.18)
発行日 平成18年11月1日(2006.11.1)
公開日 平成16年6月24日(2004.6.24)
発明の名称または考案の名称 医療用基材としての繭糸構造物及びその製造法
国際特許分類 A61F   2/04        (2006.01)
A61F   2/06        (2006.01)
A61F   2/08        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI A61F 2/04
A61F 2/06
A61F 2/08
A61L 27/00 Q
A61L 27/00 S
A61L 27/00 V
請求項の数または発明の数 13
全頁数 9
出願番号 特願2002-341026 (P2002-341026)
出願日 平成14年11月25日(2002.11.25)
審査請求日 平成14年11月25日(2002.11.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高林 千幸
【氏名】竹澤 俊明
個別代理人の代理人 【識別番号】100119585、【弁理士】、【氏名又は名称】東田 潔
【識別番号】100120802、【弁理士】、【氏名又は名称】山下 雅昭
【識別番号】100106105、【弁理士】、【氏名又は名称】打揚 洋次
審査官 【審査官】寺澤 忠司
参考文献・文献 特開平10-121358(JP,A)
特開平10-144120(JP,A)
特開平08-269838(JP,A)
特開平06-025905(JP,A)
特開昭54-151675(JP,A)
特開2000-037346(JP,A)
調査した分野 A61F 2/04
A61F 2/06
A61F 2/08
A61L 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
煮熟繭から引き出された繭糸単独又はこの繭糸と繭糸以外の合成繊維との混繊維が隙間のないように平面形状又は立体形状の形態に巻かれ、該繭糸単独又は混繊維が巻かれた形態が、組紐作製原理により編み込む動作を組み合わせることにより巻かれた管状の形態であるか、又は左右に動く絡交により巻かれた管状の形態であり、そして繭糸相互や混繊維相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着されてなる医療用基材としての繭糸構造物において、該繭糸単独が管状に巻かれ、かつ繭糸相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着された第1層と、この第1層の上に繭糸以外の合成繊維又は金属繊維が管状に巻かれてなる第2層と、この第2層の上に繭糸単独が管状に巻かれ、かつ繭糸相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着されてなる第3層とからなる管状累層構造を有することを特徴とする医療用基材としての繭糸構造物。
【請求項2】
請求項1において、繭糸構造物の表面がさらにフィブロイン又はセリシンのコーティング膜で被覆されていることを特徴とする繭糸構造物。
【請求項3】
請求項1又は2において、繭糸構造物の表面がさらに動物細胞の接着能を付与する材料で被覆されていることを特徴とする人工血管、人工腱又は人工靱帯用の繭糸構造物。
【請求項4】
請求項において、動物細胞の接着能を付与する材料が、細胞外マトリックス成分、細胞外マトリックス成分含有ハイドロゲル、ゼラチン、レクチン、イガイ由来の接着性蛋白質、ポリリジン、接着性オリゴペプチド、及びトロンボスポンジンから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする繭糸構造物。
【請求項5】
請求項において、細胞外マトリックス成分がコラーゲンであることを特徴とする繭糸構造物。
【請求項6】
煮熟繭から引き出した繭糸単独を熱可塑性樹脂製芯棒に巻き付けて第1層を形成し、この第1層の上に繭糸以外の合成繊維又は形状記憶合金からなる金属繊維を巻き付けて第2層を形成し、次いで、この第2層の上に繭糸単独を巻き付けて第3層を形成することからなり、この第1層及び第3層を形成する工程のうち両工程において又は第3層を形成する工程において巻き付けた繭糸を加熱乾燥しながら、繭糸表面に保有されているセリシンにより繭糸相互を膠着させ、そして第3層を形成する工程において加熱により軟化した熱可塑性樹脂製芯棒を左右に牽引して細くし、この細くした芯棒を取り出して繭糸と他繊維との管状の累層構造を有する管状繭糸構造物を得ることを特徴とする繭糸構造物の製造法
【請求項7】
請求項6において、得られた繭糸構造物の表面をさらにフィブロイン又はセリシンの溶液でコーティング処理し、次いで加熱乾燥することを特徴とする繭糸構造物の製造法
【請求項8】
請求項6又は7において、熱可塑性樹脂製芯棒が、円筒形、角筒形、円錐形、角錐形、又はこれらの形状を組合せた形状を有するものであることを特徴とする繭糸構造物の製造法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかにおいて、芯棒として、熱可塑性樹脂製芯棒の代わりに、薄く細い板状の鋼材を螺旋状にして棒形状物としたものを用い、この芯棒を取り出す際に、この螺旋状の棒形状物を捻ることにより細くし、この細くした棒形状物を取り出して管状繭糸構造物を得ることを特徴とする繭糸構造物の製造法。
【請求項10】
請求項6~9のいずれかにおいて、得られた繭糸構造物の表面をさらに動物細胞の接着能を付与する材料で被覆することを特徴とする人工血管、人工腱又は人工靱帯用の繭糸構造物の製造法。
【請求項11】
請求項6~10のいずれかにおいて、煮熟繭から引き出した繭糸又は繭糸と繭糸以外の合成繊維との混繊維として、予め動物細胞の接着能を付与したものを用いることを特徴とする繭糸構造物の製造法。
【請求項12】
請求項6~11のいずれかにおいて、得られた繭糸構造物の表面をさらに細胞外マトリックス成分、細胞外マトリックス成分含有ハイドロゲル、ゼラチン、レクチン、イガイ由来の接着性蛋白質、ポリリジン、接着性オリゴペプチド、及びトロンボスポンジンから選ばれた少なくとも一種の材料で被覆し、表面に動物細胞の接着能を付与することを特徴とする繭糸構造物の製造法。
【請求項13】
請求項12において、細胞外マトリックス成分がコラーゲンであることを特徴とする繭糸構造物の製造法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療用基材としての繭糸構造物及びその製造法に関し、特に、繭糸のみ、繭糸と他繊維との混繊維等を屈曲可能な平面状ないしは管状等の立体状の形態に加工し、繭糸の生体親和性を生かした人工血管や人工臓器等の医療用基材として利用できる繭糸構造物及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
絹糸は、グリシン・アラニン等のアミノ酸を主体とするフィブロインとセリン・アスパラギン酸・グルタミン酸等のアミノ酸を生体とするセリシンとの18種類のアミノ酸で構成されているので、生体親和性に優れ、古くより手術用縫合糸として利用され、ヒトへの移植に対する安全性が確認されている。しかしながら、従来、繭糸を人工血管や人工臓器等の医療用基材として用いる繭糸構造物の例は見当たらない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、人工血管や人工臓器等の医療用基材として利用できる繭糸構造物及びその製造法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
繭糸は、上記したように、生体親和性を有すると共に、柔軟性を保ちながら引っ張り強度にも優れた物理的特性を有している。本発明者らは、このような繭糸の特徴を活かして、繭糸単独、又は繭糸と他繊維との複合物等を平面形状ないしは立体形状の任意な形態に加工し、人工血管・人工臓器等の医療用基材に用いる繭糸構造物の製造技術について鋭意開発を行っている。その結果、引張り強度に充分耐えられる人工腱又は人工靱帯、さらに血圧に充分耐えられる人工血管の構築に適している管状繭糸構造物を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明の医療用基材としての繭糸構造物は、煮熟繭から引き出された繭糸単独又はこの繭糸と繭糸以外の合成繊維との混繊維が隙間のないように平面形状又は立体形状の形態に巻かれ、該繭糸単独又は混繊維が巻かれた形態が、組紐作製原理により編み込む動作を組み合わせることにより巻かれた管状の形態であるか、又は左右に動く絡交により巻かれた管状の形態であり、そして繭糸相互や混繊維相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着されてなる医療用基材としての繭糸構造物において、該繭糸単独が管状に巻かれ、かつ繭糸相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着された第1層と、この第1層の上に繭糸以外の合成繊維又は金属繊維が管状に巻かれてなる第2層と、この第2層の上に繭糸単独が管状に巻かれ、かつ繭糸相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着されてなる第3層とからなる管状累層構造を有することを特徴とする
【0006】
本発明の繭糸構造物の表面は、さらにフィブロイン又はセリシンのコーティング膜で被覆されていることが好ましい。これにより、動物細胞の接着能の付与が容易になる。
【0007】
本発明の繭糸構造物の表面は、さらに動物細胞の接着能を付与する材料で被覆されていることが好ましく、この繭糸構造物は人工血管、人工腱又は人工靱帯として用いることができる
【0008】
動物細胞の接着能を付与する材料は、例えば、細胞外マトリックス成分、細胞外マトリックス成分含有ハイドロゲル、ゼラチン、レクチン、イガイ由来の接着性蛋白質、ポリリジン、接着性オリゴペプチド、及びトロンボスポンジンから選ばれた少なくとも一種である。細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン等があり、この中で、ハイドロゲル薄膜の作製にはコラーゲンが好ましい。
【0009】
本発明の繭糸構造物の製造法は、煮熟繭から引き出した繭糸単独を熱可塑性樹脂製芯棒に巻き付けて第1層を形成し、この第1層の上に繭糸以外の合成繊維又は形状記憶合金からなる金属繊維を巻き付けて第2層を形成し、次いで、この第2層の上に繭糸単独を巻き付けて第3層を形成することからなり、この第1層及び第3層を形成する工程のうち両工程において又は第3層を形成する工程において巻き付けた繭糸を加熱乾燥しながら、繭糸表面に保有されているセリシンにより繭糸相互を膠着させ、そして第3層を形成する工程において加熱により軟化した熱可塑性樹脂製芯棒を左右に牽引して細くし、この細くした芯棒を取り出して繭糸と他繊維との管状の累層構造を有する管状繭糸構造物を得ることを特徴とする。
【0010】
上記で得られた繭糸構造物の表面をさらにフィブロイン又はセリシンの溶液でコーティング処理し、次いで加熱乾燥することを特徴とする繭糸構造物の製造法
【0011】
上記熱可塑性等樹脂製芯棒は、円筒形、角筒形、円錐形、角錐形、又はこれらの形状を組合せた形状を有するものであることが好ましい。
上記芯棒として、熱可塑性樹脂製芯棒の代わりに、薄く細い板状の鋼材を螺旋状にして棒形状物としたものを用い、芯棒を取り出す際に、この螺旋状の棒形状物を捻ることにより細くし、この細くした棒形状物を取り出して管状繭糸構造物を得ることもできる。
さらに、得られた繭糸構造物の表面をさらに動物細胞の接着能を付与する材料で被覆することが好ましく、これにより、例えば人工血管、人工腱又は人工靱帯として用いることができる繭糸構造物が得られる。
上記煮熟繭から引き出した繭糸又は繭糸と繭糸以外の合成繊維との混繊維として、予め動物細胞の接着能を付着したものを用いてもよい。
得られた繭糸構造物の表面をさらに上記したように処理し、好ましくはコラーゲンにより処理して動物細胞の接着能を付与することができる。
【0012】
上記したように、繭糸から直接、平面形状ないしは立体形状の任意な形態の繭糸構造物、例えば管状繭糸構造物を製造するに当たり、熱可塑性樹脂等で任意な形状に成形した芯棒に煮熟繭から引き出した繭糸を巻き付け、しかる後に加熱乾燥し、繭糸表面に保有している粘着性タンパク質であるセリシンによって繭糸相互を膠着させ、その後加熱により軟化した熱可塑性樹脂製芯棒を左右に牽引して細くし、巻き付けた繭糸と芯棒とを分離して、任意の形態の繭糸による管状構造物とする。また、繭糸等を巻き取る芯棒として、薄く細い板状の鋼材を螺旋状にした棒形状物を用い、この棒形状物に煮熟繭から解離した繭糸を巻き付け、乾燥した後に螺旋状の棒形状物を捻って細くして、巻き付けた繭糸と螺旋状の棒構造物とを分離し、目的とする管状繭糸構造物を得ることもできる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る繭糸構造物の一実施の形態である管状繭糸構造物を、煮熟繭から引き出した繭糸等を芯棒に巻き付けて製造する方法について、図1~5を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、湯槽(繰解槽)1内の煮熟繭2から繭糸3を引き出し、この引き出された繭糸を絡交7とそれに連結する繭糸ガイド8とを経て、芯棒11に巻き付ける。絡交7はモーター4の回転を左右の動きに変換するギアを介して動作し、絡交幅及び絡交速度は制御装置6によって制御される。芯棒11の回転は制御装置6によって制御されるモーター5からの回転が伝達される仕組みになっており、予め制御装置6で設定した絡交の往復回数と連動してモーター5の回転及び停止が制御される。芯棒11は把持部9及び10で支えられて回転しているので、糸を巻き付ける絡交幅であるA-B間を制御装置6で任意な幅に設定することができる。
【0015】
繰糸の繭粒数は目的とする繭糸構造物のチューブの形態により異なり、細くしなやかな繭糸構造物とするには、例えば、「はくぎん3眠蚕繭(平均繊度1.1デニール)」等の細繊度繭を用い、繭粒数は1~2粒など少ない方が良い。逆に、太く硬い繭糸構造物のチューブとするには、例えば、普通蚕品種繭(平均繊度2.8デニール)や太繊度繊度繭(平均繊度4.3デニール)等を用いて、2~4粒で繰糸するのが適当である。
【0016】
また、煮熟繭2から引出した繭糸3を芯棒11に巻く際に、繭糸以外のナイロン、ポリエステル、ポリ乳酸繊維等の合成繊維の細繊度繊維と繭糸とを混繊しながら巻き付けてもよい。この混繊維としては、一般に、繭糸と合成繊維との混率が、繭糸:50~70%、合成繊維:50~30%の割合のものを用いることができる。
混繊しながら巻き付ける場合、例えば、図1に示したように、ナイロン等の他繊維を巻いてあるコーン等13を湯槽1の下方に置き、そこから解離した他繊維の糸条14を湯槽1の中心部に貫通して設けた通糸管15に挿通し、その後、繭糸と抱合させながら芯棒11に巻き付ける。さらに、煮熟繭2から引出した繭糸3を芯棒11に巻く際に繭糸のみを巻いた後で、その上に他繊維の糸条14を巻き、しかる後に繭糸を巻くなどすることにより、繭糸と他繊維とを累層構造とした管状繭糸構造物を製造することもできる。この場合、他繊維としては、例えば、繭糸以外の上記合成繊維又は形状記憶合金等の金属繊維を挙げることができる。
【0017】
図2(a)~(d)は、芯棒11のA-B間に巻き付けた繭糸12の各種パターン例を示す芯棒の側面図である。図2(a)は、絡交7の速度を遅くして、繭糸3を隙間のないように順次巻いていく方法でパターンを得る例を示す。このパターンだけでチューブを作製すると緻密な構造にはなるが、屈曲によりチューブは割れるおそれがある。そこで、図2(b)から(d)に示すパターンを単独で又は任意に組み合わせることにより、屈曲性を有する管状繭糸構造物とすることが可能となる。図2(b)から(d)は絡交速度を次第に速くしたもので、繭糸の交錯角度が次第に大きくなり、密に巻かれるようになる。実際の繰糸パターンは、これらを組み合わせて行うことが好ましい。例えば、初めに図2(a)のパターンで繭糸をA-B間20往復巻き、その上に図2(b)のパターンで10往復、その上に図2(d)のパターンで10往復、次に、図2(a)のパターンで5往復、最後に、図2(c)のパターンで10往復と言うように繭糸を累重させる。このことにより、一本の繭糸チューブの中で繭糸が色々なパターンで累重するため、強固で屈曲性を有する管状繭糸構造物の製造が可能となる。以上の組み合わせは1例であるが、目的とする構造物の厚さ・硬さ等によりその組み合わせを適宜設計すればよい。なお、繭糸以外の繊維の巻き付けパターンも上記と同様の方法で得ることができる。
【0018】
以上の方法は、繭から引き出した繭糸を芯棒へ巻き付け、その巻き付けパーターンを変えた組み合わせにより、強固で屈曲性のある繭糸チューブを製造する方法であるが、これを更に強固なものとするためには、組紐作製原理により図2に示すように繭糸を巻き付けた芯棒に繭糸又は混繊維を編み込む動作を組み入れ、更にその上に図2示す繭糸の巻き取りを組み合わせることができる。
図3はその組紐作製原理に基づいて繭糸を芯棒に編み込む方法を示すもので、まず、▲1▼図1に示す方法である程度繭糸3を芯棒11に巻いた後に、この繭糸の巻かれた芯棒11を外し、次いで、▲2▼組紐作製装置を改造利用し、繭から引き出した繭糸3を取り外した芯棒11にさらに編んでいく。その後、図1に示す装置に戻して繭糸3を再び巻き付ける。この▲1▼及び▲2▼の動作を所望の回数繰り返すことにより、芯棒に巻かれる繭糸12はより強固なものとなる。なお、図3中、15は繭ポットであり、この中に煮熟繭が入っている。
【0019】
図4は、熱可塑性樹脂製芯棒11に巻き付けた繭糸(管状繭糸構造物)12を芯棒と分離する方法を示すものである。一般に、濡れた状態の繭糸を繰枠へ巻き、その状態で乾燥させる場合、繭糸の収縮すなわち乾燥応力が生じて繭糸が繰枠を締め付け、この状態では巻かれた繭糸を繰枠から引き抜くことは不可能である。そこで、本発明では、芯棒11に繭糸等を巻き付けた後で、加熱乾燥するとともに、図4に示すように、加熱により軟化した芯棒11を左右に牽引(延伸)して細くし、次いで冷却することにより、巻き付けた繭糸等と芯棒とを容易に分離して、管状繭糸構造物を得ることができる。この場合の加熱温度は、セリシンが劣化せずかつ繭糸相互が膠着できる程度の温度であることが好ましく、例えば、一般に90~110℃、好ましくは100℃前後である。従って、芯棒としては、この加熱温度で軟化する合成樹脂製芯棒、例えば、塩化ビニル樹脂等から作製された芯棒を用いる。
【0020】
一方、上記方法以外にも、熱可塑性樹脂製芯棒の代わりに、例えば、薄く細い板状の鋼材を螺旋状の棒形状物としてその径を変化せしめることができる芯棒を用い、この芯棒に繭糸等を巻き付け、乾燥した後に螺旋状の棒形状物を捻ることにより細くし、巻かれた繭糸等と螺旋状の棒形状物とを分離して、管状繭糸構造物を得る方法がある。
【0021】
上記のようにして作製した管状繭糸構造物を人工血管や人工臓器等の医療用基材として効率よく用いるために、この構造物に動物細胞の接着能を付与することが望ましい。芯棒として熱可塑性樹脂芯棒又は螺旋状の棒形状物を用いて作製した管状繭糸構造物に対する動物細胞の接着能の付与工程を図5に示す。上記したように、煮熟繭から引き出した繭糸を芯棒へ巻き付け、加熱し、芯棒と繭糸チューブとを分離した後、繭糸チューブを支持体としたコラーゲンハイドロゲル薄膜を作製するが、これには当該チューブの外側表面及び内側表面上において、ヒト真皮由来線維芽細胞及びヒト血管内皮細胞を付与する。かくして、人工血管や人工臓器等を作製するための組織培養用基材を得ることができる。
【0022】
かくして得られた平面状繭糸構造体が組織培養基材として有用であることは、以下の実験により確認できた。本発明者らは、既に、支持体のある細胞外マトリックス成分含有ハイドロゲル薄膜の作製方法およびそれを組織培養基材とした動物細胞の培養方法を確立している(特許第3081130号)。今回、この細胞外マトリックス成分としてコラーゲンを使用して、コラーゲンハイドロゲル薄膜を作製する際の支持体として平面状繭糸構造体を用いた。その結果、従来支持体として用いていた綿製ガーゼに優る引っ張り強度を有している平面状繭糸構造体を支持体としたコラーゲンハイドロゲル薄膜を作製できた。さらに、当該コラーゲンハイドロゲル薄膜上において、ヒト真皮由来線維芽細胞及びヒト血管内皮細胞は、良好に接着、伸展、及び増殖することが分かった。
【0023】
なお、図5に示すようにして得られた繭糸チューブをより強固なものとするため、又は動物細胞の接着能の付与を容易にするため、芯棒への巻き付け後加熱前に、繭糸チューブに対して、フィブロイン溶液やセリシン溶液等を用いて処理することが好ましい。すなわち、セリシン繭から熱水抽出して得た高純度のセリシン溶液や、絹フィブロイン繊維を臭化リチウムや塩化カルシウム等で溶解した後に透析して得た高純度なフィブロイン溶液で繭糸チューブをコーティングする。
また、図6に示すように、図5に示す螺旋状の棒形状物への繭糸の巻き付け前に、繭糸へ動物細胞の接着能を付与させ、次いでこの動物細胞接着能を有する繭糸を芯棒へ巻き付け、加熱し、芯棒と繭糸チューブとを分離し、人工血管や人工臓器等を作製するための組織培養用基材を得ることもできる。この場合も、図4に示したようにして作製した繭糸チューブと同様な動物細胞の接着能が付与されていた。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、 繭糸から直接、立体状の任意な形態の繭糸構造物、例えば管状繭糸構造物を製造するに当たり、熱可塑性樹脂で任意な形状に成形した芯棒に煮熟繭から引き出した繭糸を巻き付け、しかる後に加熱乾燥し、繭糸表面に保有している粘着性タンパク質であるセリシンによって繭糸相互を膠着させると共に、加熱により軟化した熱可塑性樹脂製芯棒を左右に牽引して細くし、巻き付けた繭糸と芯棒とを分離して、任意の形態の管状繭糸構造物としているので、また、繭糸を巻き取る芯棒として、薄く細い板状の鋼材を螺旋状にした棒形状物を用いて、この棒形状物に煮熟繭から解離した繭糸を巻き付け、乾燥した後に、螺旋状の棒形状物を捻って細くすることにより、巻き付けた繭糸と螺旋状の棒構造物とを分離しているので、目的とする管状繭糸構造物を容易に提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の管状繭糸構造物を製造するための装置の概略の構成を示す配置図。
【図2】 芯棒への繭糸の巻き付けパターン例を示す側面図であり、(a)から(d)へいくに従って絡交速度を速くして巻き付けた場合の各種パターン例を示す。
【図3】 組紐作製原理により芯棒へ繭糸を巻き付ける方法を説明するための図。
【図4】
芯棒へ巻き付けて得られた管状繭糸構造物を芯棒から分離する方法を示す工程図。
【図5】 繭糸構造物を作製した後に動物細胞の接着能を付与して組織培養用基材とするプロセスを示すフロー図。
【図6】 繭糸へ動物細胞の接着能を付与した後に繭糸構造物を作製して組織培養用基材とするプロセスを示すフロー図。
【符号の説明】
2 煮熟繭 3 繭糸
4 絡交用駆動モーター 5 芯棒回転モーター
6 モーター制御装置 7 絡交
11 熱可塑性樹脂製芯棒
12 芯棒に巻かれた繭糸(管状繭糸構造物)
13 繭糸以外の合成繊維 14 繭糸以外の合成繊維の糸条
15 繭ポット
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5