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明細書 :人工衛星用推進剤タンク

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3060007号 (P3060007)
公開番号 特開平11-099996 (P1999-099996A)
登録日 平成12年4月28日(2000.4.28)
発行日 平成12年7月4日(2000.7.4)
公開日 平成11年4月13日(1999.4.13)
発明の名称または考案の名称 人工衛星用推進剤タンク
国際特許分類 B64G  1/40      
FI B64G 1/40 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願平09-266976 (P1997-266976)
出願日 平成9年9月30日(1997.9.30)
審査請求日 平成9年9月30日(1997.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012693
【氏名又は名称】宇宙科学研究所長
発明者または考案者 【氏名】上杉 邦憲
【氏名】三島 弘行
【氏名】古川 克己
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
審査官 【審査官】小山 卓志
参考文献・文献 特開 昭58-89500(JP,A)
特開 平8-11799(JP,A)
特開 昭55-148940(JP,A)
実開 平2-69599(JP,U)
実開 平4-39200(JP,U)
調査した分野 B64G 1/40
特許請求の範囲 【請求項1】
機体軸方向に推進可能であって、この機体軸に平行に配置されたスピン軸回りの回転により機体の姿勢を安定させるスピン安定型の人工衛星に用いられる推進剤タンクにおいて、
前記スピン軸から離隔して配置された球部と、円錐状に形成され前記球部に底部が連結され前記球部より外側でかつ後方に頂点が配置されたコーン部とから形成された涙滴型の形状で構成され、
その内部に貯蔵した推進剤を排出する推進剤排出口を前記コーン部の頂点部に配設し、
前記コーン部の頂点近傍におけるタンク内部の空間を仕切り、加速度で発生する推進剤のスロッシングを低減す平板状のバッフル板を、その板面が前記コーン部の軸心方向を向くように配設したことを特徴とする人工衛星用推進剤タンク。

【請求項2】
前記バッフル板は、推進剤の押しガスを通過させるガス通過孔を押しガスが通過するときに通過抵抗が大きくなるような位置に形成し、
かつ、前記推進剤を通過させる推進剤通過孔を推進剤が通過するときに通過抵抗が大きくなるとともに、前記推進剤のスロッシングの安定後に前記バッフル板よりも内側の推進剤が通過できるような位置に形成したことを特徴とする請求項1記載の人工衛星用推進剤タンク。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【1】

【発明の属する技術分野】本発明は、機体姿勢の保持、変更、若しくは推進等のために装備しているスラスタに、内部に貯蔵している推進剤を供給する人工衛星用推進剤タンクに関する。

【10】
具体的には、この公知技術は、ガス注入口と液流出口とを対向して設けた液供給タンクにおいて、ガス注入口に対向して該ガス注入口からの注入ガスGを液供給タンクの内壁に沿う方向に偏向するバッフル板を推進剤タンク内の押しガスの供給口部分に設けて、ガス注入口から推進剤タンク内に注入された注入ガスGがバッフル板に当たり、推進剤タンクの内壁に沿って流れ液面を安定化して液を液流出口の方に集めて、液のみが液流出口から流出する構成である。従って、この第1の公知技術における燃料タンクは、微小重力環境下で発生するスロッシングを防止することはできる。

【11】
しかしながら、上述したようなスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにおいて発生するスロッシングは、微小重力環境下ばかりでなく、加速度の方向が変化し、液面の方向が90度にもわたって急激に変動するような、より厳しい加速環度環境下で生じるものであり、バッフル板を推進剤タンク内の推進剤液排出口から遠い位置にある押しガスの供給口部分に設けるだけの第1の公知技術をスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクに適用しても、上述したような加速度環境下で生じたスロッシングは依然として低減することはできず、このようなスロッシングによって推進剤液排出口にガスが到達する事態が容易に生じてしまい、スラスタに供給される推進剤中にガスが容易に混入することが生じ得るという問題を解決できない。

【12】
(2)次に、特開平8-11799号公報に開示された技術(以下、「第2の公知技術」という。)は、微小重力環境下においてベーン型表面張力タンクに液体補充時の流れにより、表面張力によって保持されている気液の境界面が乱れ、液流入口(推進剤排出口)の反対側に設けてある気体出入口から液が流出することを防止するために、タンク内にバッフル板(邪魔板)を設け、液の流れが直接気体出入口に達しないようにするものである。

【13】
具体的には、基部がベーン支持棒に接続され且つベーン支持棒を中心としてベーン支持棒に対して直交する方向へ広がるバッフル板(邪魔板)を設けた構成であるため、流入する液体の慣性力を邪魔板が減殺し、タンク本体内の液体が気体出入口から流出するのを防止することができる。

【14】
しかしながら、上述したようなスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにおいて発生するスロッシングは、微小重力環境下ばかりでなく、より厳しい加速環度環境下で生じるものであり、バッフル板を推進剤タンク内の推進剤液排出口から遠い位置に取付けただけの第2の公知技術をスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクに適用しても、上述したような加速度環境下で生じたスロッシングは依然として低減することはできず、このようなスロッシングによって推進剤液排出口にガスが到達する事態が容易に生じてしまい、スラスタに供給される推進剤中にガスが容易に混入することが生じ得るという問題を解決できない。

【15】
(3)次に、特開平4-39200号公報に開示された技術(以下、「第3の公知技術」という。)は、タンク底部に十字形に組み合わせたバッフル板と、同バッフル板の外端付近に取り付けられたリング状フレームとをタンク底部に接近して設けることで、タンク内の底部に生じるスロッシングを減衰するようにしたものであり、本出願人等が提案したものである。

【16】
具体的には、十字形に組合せた平板状のバッフル板及びバッフル板の外端付近に取付けられたリング状バッフル板を、タンク底部に接近してタンク内に設け、短時間にスロッシングを減衰できるようにし、ロケットの第2段液体酸素タンク等に適用するようにしたものであり、液の排出口はロケットの第2段のタンク等を想定して、機体軸方向に発生する加速度方向と一致した方向にのみ設けるようにしており、また機体軸方向の加速度で発生するスロッシングのみを減衰できるようにしたものである。

【17】
このため、加速度方向が機体軸(スピン軸)方向、および機体軸と直交する方向との90°変るようなスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにこの第3の公知技術を適用しても、機体軸方向の加速度で発生するスロッシングを防止できるが、機体軸と直交する方向に加速度で発生するスロッシングを十分に防止できない。すなわち、タンクの軸心の方向が機体軸と平行となるようなタンクの形状であるため、そもそも機体軸と直交する方向に加速度が発生しているときには推進剤が偏り、特に推進剤が少ないときには推進剤排出口近傍になくなりスラスタに推進剤を供給できないため、スピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにそのまま適用することはできず、さらに十字形に組合せた平板状のバッフル板では機体軸と直交する方向の加速度で発生するスロッシングの低減には効果が少いからである。

【18】
(4)さらに、特開昭60-179399号に開示された技術(以下、「第4の公知技術」という。)は、タンク内側面に機軸方向に可動可能なリング状バッフル板を設けることで、ロケット姿勢制御時等に生じる衝撃によってロケットのタンク液面上に生じるスロッシングを抑制するようにしたタンク内の液体のスロッシング防止装置が提案されている。

【19】
具体的には、燃料タンクから燃焼室へ送られる燃料流量を測定する燃料流量計の測定量をもとにして、制御部はタンク内残存燃料の表面高さを算出し、アクチュエータによってバッフル板の移動量の命令を送り、制御部からの命令に応じて、アクチュエータはタンクの内側面に設けられた可動型バッフル板を機軸方向に移動させるものである。

【2】

【従来の技術】ロケット又は人工衛星等においては、機体の推進、若しくは姿勢の保持、変更のために装備しているスラスタに液体状の推進剤の供給を行う推進剤タンクが設けられている。この推進剤タンクには、回転を含む機体に発生する加速度やスラスタ作動時の衝撃によって、推進剤タンクに収容する推進剤が推進剤タンクと相対移動を起すことにより種々の不具合が発生する。

【20】
従って、このようにタンクの内側面にリング状の可動型バッフル板を設けた第4の公知技術をスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクに適用しても、上述したような機体軸方向およびこれと直交方向に発生する加速度環境で生じるスロッシング、特にスピン軸まわりの回転で発生するスロッシングを低減できず、また上述した第3の公知技術と同様に燃料の排出口が機体軸方向にのみ設けられているため、そもそも機体軸と直交する方向に加速度が発生する場合にはスラスタへの燃料供給ができず、上述したスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクとしては適用することが難しい。

【21】
そこで、本発明は、上述した第1ないし第4の公知技術で提案されている推進剤タンク若しくはスロッシング防止装置では適用が難しく、また作用・効果が期待できないスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにおいて、従来発生している上述の不具合、すなわち液面が90°も変動する厳しい加速度環境において起る大きなスロッシングによる不具合やスロッシングによってガスが推進剤排出口まで移動して推進剤に混入して引き起す不具合を解消するため、液面が急激に変動しても大きなスロッシングが発生せず、また発生したスロッシングは何れの方向の加速度で発生したものでも急速に減衰させることができ、スロッシングの発生によって生じる不具合、特に推進剤タンク内の推進剤の量が少い場合においても、推進剤タンクからスラスタに供給される推進剤中に推進剤タンク内のガスが混入して生じる不具合を解消できる人工衛星用推進剤タンクを提供しようとするものである。

【22】

【課題を解決するための手段】請求項1の本発明は、機体軸方向に推進可能であって、この機体軸に平行に配置されたスピン軸回りの回転により機体の姿勢を安定させるスピン安定型の人工衛星に用いられる推進剤タンクにおいて、スピン軸から離隔して配置された球部と、円錐状に形成され球部に底部が連結され球部より外側でかつ後方に頂点が配置されたコーン部とから形成された涙滴型の形状で構成され、その内部に貯蔵した推進剤を排出する推進剤排出口をコーン部の頂点部に配設し、コーン部の頂点近傍におけるタンク内部の空間を仕切り、加速度で発生する推進剤のスロッシングを低減する平板状のバッフル板を、その板面がコーン部の軸心方向を向くように配設したことを特徴とする人工衛星用推進剤タンク。

【23】
このような構成の本発明においては、上述の手段により涙滴型の推進剤タンク、特にスロッシングの大きさが大きくなる推進剤の量が少くなったときでも、推進剤の移動が激しく起るコーン部の頂点付近の推進剤タンクが、バッフル板によって細かく仕切られることにより、推進剤はバッフル板で区画された小部屋に閉じ込められ、その結果、加速度によって生じる推進剤のヘッド差は小さくなり、発生するスロッシングの大きさも小さくなる。

【24】
これにより、スピン軸まわりに回転し、スピン軸より最も離れた位置にある推進剤タンク壁面に推進剤が押しつけられた場合でも、また、機体軸方向の推進剤タンク最後部壁面に推進剤が押しつけられた場合でも、推進剤排出口から例えばスラスタ等に推進剤を確実に供給できるとともに、推進剤のスロッシングによって人工衛星に発生する振動を低減でき、人工衛星の姿勢保持等が容易になる。

【25】
また、推進剤が集積するコーン部の頂点に設けられた推進剤排出口の近傍にバッフル板が設けられているので、機体軸方向、機体軸と直交する方向のうち何れの方向の加速度が発生するときでも、また加速度の方向が他方向に急激に変化した場合においても、その加速度発生時にバッフル板と推進剤排出口との間に流入した推進剤は、バッフル板によって流動が妨げられ、移動速度が遅くなるため、推進剤排出口に推進剤タンク内のガスが移動して、排出される推進剤にガスが混入することが防止され、常時スラスタ等にはガスの混入しない推進剤が供給できて、スラスタ等の作動不良の発生を防止することができる。

【26】
請求項2の本発明は、バッフル板は、推進剤の押しガスを通過させるガス通過孔を押しガスが通過するときに通過抵抗が大きくなるような位置に形成し、かつ、推進剤を通過させる推進剤通過孔を推進剤が通過するときに通過抵抗が大きくなるとともに、前記推進剤のスロッシングの安定後に前記バッフル板よりも内側の推進剤が通過できるような位置に形成した請求項1記載の人工衛星用推進剤タンクである。

【27】
このような本発明においては、推進剤タンク内にスロッシングが発生しても、このスロッシングは、バッフル板に設けられた推進剤通過穴およびガス通過穴を通って、バッフル板で仕切られた小部屋に推進剤とガスが出入するときの抵抗でエネルギーが急激に失なわれ、スロッシングは速やかに停止する。これにより、人工衛星に発生する振動を、さらに低減でき、姿勢保持等がさらに容易になる。

【28】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかる人工衛星用推進剤タンクの構成を示す断面図で1は推進剤タンクである。この推進剤タンク1は、図示しない人工衛星の機体軸と同軸に設けられたスピン軸5から離隔して配置された球部2と、球部2のスピン軸5から最も離隔する部分(以下、「0°位置」という。)及び球部2のスピン軸5方向の最も後方に位置する部分(以下、「270°位置」という。)を結ぶ円弧上にその底部が接合されたコーン部3とから構成されている。

【29】
上記コーン部3は、接合部である球部2の円弧の接線方向より若干外側に向けられた側面で形成され、球部2の「0°位置」より外方で、且つ球部2の「270°位置」より後方に頂点4を持つ円錐体からなる。従って、推進剤タンク1は、その中心を通る軸心6がスピン軸5方向から後方に45°傾けられた状態で、人工衛星に搭載されていることになる。

【3】
このため、従来からこれらを解消するための改善策が種々取られている。例えば、推進方向に設けられた機体軸と同軸状に又は平行に設けられたスピン軸まわりに機体を回転させて機体姿勢を保持したり、機体軸方向に推力を発生させるスラスタに対して推進剤を供給するスピン安定型人工衛星に搭載されている推進剤タンクにおいては、図3に示すように、スピン軸105から離隔して配置された球部102と、この球部102を形成する円弧にその底部が連結されて一体化され、スピン軸105に対して機体後方へ45°傾く軸心を持ち、球部102最側方より外側で、しかも球部102最後方より後側にその頂点104が設けられた円錐体で形成されるコーン部103とからなる涙滴型の推進剤タンク101を設け、図示しないスラスタにコーン部103の頂点104近傍に設けた推進剤排出口108から推進剤107を供給するようにしている。

【30】
また、推進剤タンク1には、推進剤排出口7と押しガス供給口8とが設けられている。このうち、推進剤排出口7はコーン部3の頂点部に設けられており、頂点4を中心とする開口部が軸心6方向に向けて開口されている。また、押しガス供給口8は推進剤排出口7と対向する球部2の軸心6近傍に設けられている。さらに、推進剤排出口7に近接するコーン部3には、円板状のバッフル板9が設けられている。

【31】
このバッフル板9は、軸心6と直交する方向にその側面を向けて、推進剤タンク1の内部に搭載する推進剤量及び使用計画量に基づいて最もスロッシングの発生の抑制に効果のある位置に設けるようにしている。例えば、このバッフル板9の最適取り付け位置としては、通常飛行中において最後にスラスタが作動するに必要な推進剤10が残る高さH点を通り、軸心6に対して直角になるように取り付けることが効果的である。

【32】
図2は、図1に示す矢視A-Aにおけるバッフル板の正面図である。この図2に示すように、バッフル板9には複数のガス通過孔11が形成されている。このガス孔11は、加速度の変化等によりスロッシングが発生した場合などに推進剤タンク1内に滞留する押しガスが通過する時に抵抗が大きくなるような位置に形成することが好ましい。例えば、バッフル板の1/2半径の円周上に等ピッチに適切な数、本実施の形態では8個のガス通過孔11を形成している。

【33】
さらに、バッフル板9の外周縁上には、推進剤通過孔12が形成されている。この推進剤通過孔12は、加速度の変化等により発生したスロッシングが安定した後に、バッフル板9よりも内側の推進剤タンク1内の推進剤10を最後まで排出してスラスタに供給できるような位置に形成することが好ましい。例えば、本実施の形態では、発生し得る加速度方向Fc 、Fp を考慮して推進剤通過孔12を4ケ所に設けている。

【34】
このように構成された人工衛星用推進剤タンクにおいては、人工衛星の通常航行中において、推進剤10が少なくなり、最後にスラスタが作動するのに必要な推進剤10のみが推進剤タンク1内に残留するような場合であっても、スピン軸5まわりの回転運動により推進剤タンク1に働く加速度Fc によって、推進剤10は図示するようにスピン軸5より最も離れて位置する球部2およびコーン部3の壁面に押し付けられ、推進剤10の液面がスピン軸5と平行となるように集積されるので、推進剤タンク1のうちで最もスピン軸5から離隔した位置である頂点4に開口させた推進剤排出口7からスラスタに推進剤10を供給することができる。

【35】
さらに、このスピン軸5まわりの回転状態からスラスタ噴射により機体に推力が付加され、スピン軸5方向に加速度Fp が与えられた場合、推進剤10の液面は略90°回転してスピン軸5と直交するようになるが、この場合においても推進剤排出口7は、推進剤タンク1のうちで、最も後方の位置でもある頂点に開口しているので、同様にスラスタに推進剤10を供給できる。

【36】
また、加速度方向がFc 方向からFp 方向に変化し、液面がスピン軸5に平行な方向からスピン軸5に垂直な方向に変化した直後においては、バッフル板9と推進剤排出口7との間にある推進剤10aはバッフル板9に遮られてほとんど移動しない。つまり、バッフル板9を円板状にすることで推進剤排出口周辺に液を閉じこめるというリザーブタンク的な効果を奏し得る。この結果、推進剤排出口7の開口は常に推進剤10によって覆われることとなり、ガスの混入のない推進剤10のスラスタへの供給が保たれる。このことは、加速度方向がFp 方向からFc 方向に変化するときも同様である。

【37】
さらに、加速度の方向が変化したときバッフル板9より外側にある推進剤10bは、スロッシングを起こす。このため、加速度の方向が変化した直後には移動しなかったバッフル板9より内側にある推進剤10aのうちの一部分は、このスロッシングの影響によりバッフル板9より外側に流出し、バッフル板9を通してガスと推進剤10との移動が生じる。このガスと推進剤10がガス通過孔11と推進剤通過孔12を移動するとき、各孔11,12の通路抵抗のためにスロッシングのエネルギーが放散され、速やかにスロッシングは減衰されることになる。

【38】
この結果、推進剤10のスロッシングによって機体に発生する振動を低減でき、人工衛星の姿勢保持等が容易になるとともに、スロッシングに起因して推進剤タンク1内のガスが推進剤排出口7の開口まで移動することがなくなり、ガスが混入した推進剤10がスラスタに供給されるようなことがなくなり、スラスタの作動不良の発生を確実に防止することができる。

【39】
なお、本発明者は、実際に本発明の構成要件を具える模型タンクを作成して、スロッシング減衰効果を確認したところ、発生したスロッシングについて、上述した第3の公知技術に示された十字形に組み合わせたバッフル板よりも大きな減衰効果が得られることを確認している。

【4】
このように、推進剤タンク101を涙滴型の形状にして前述したように配置することにより、推進剤タンク101内部に残留する推進剤107が少くなった時点においても、図3(a)に示すように機体のスピン運動により推進剤タンク101に働く加速度Fc によって推進剤107はスピン軸105より最も離れた推進剤タンク101の壁面上に押しつけられその推進剤107の液面がスピン軸105と平行になるように集積されるため、コーン部103の頂点104近傍に配置された推進剤排出口108からスラスタに対して偏移した推進剤107を確実に供給できる。

【40】
また、推進剤10のスロッシングにより、バッフル板9より内側にある推進剤10の一部分がバッフル板9より外側に流出する場合においても、ガス通過孔11及び推進剤通過孔12が上述したような配置にバッフル板9に穿設されて設けられているため、推進剤排出口7の開口を覆っている推進剤10がなくなることはない。

【41】
また、本実施の形態においては、バッフル板9を1枚だけ設けたものを示したが、軸心6方向に隙間を設けて複数枚配設し、これらのバッフル板9で頂点4に近い部分の推進剤タンク1内を細く仕切るようにすれば、より一層効果的である。

【42】
さらに、本実施の形態では、軸心6方向がスラスト軸5から45°後方に傾斜した推進剤タンク1に適用した場合について述べたが、必ずしもこのようにして配置された推進剤タンク1に限定されるものではなく、推進方向や回転方向に応じて軸心6方向がスラスト軸5から45°以上又はそれ以下で後方に傾斜した推進剤タンクに適用してもよい。

【43】

【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、涙滴型の形状で構成され、その内部に貯蔵した推進剤を押しガスで圧力をかけて排出可能なスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにおいて、スピン軸回りの回転で発生する加速度及び機体軸方向の推進で発生する加速度によりコーン部の頂点の近傍に集積される推進剤を排出できるように配置された推進剤排出口と、この推進剤排出口に近接して、コーン部の軸心に直交して配設され、加速度で発生する推進剤のスロッシングを低減するバッフル板とを設けたことにより、方向が変動する加速度により、推進剤の液面が90°変動するような厳しい加速度環境化においても、スロッシングの発生を低減でき、また発生したスロッシングは何れの方向の加速度で発生したものでも急速に減衰させることができる。特に、推進剤タンク内の推進剤の量が少ないときにスロッシングの発生によって生じる問題、すなわち推進剤タンクからスラスタ等に供給される推進剤中に推進剤タンク内のガスが混入して生じるスラスタ等の作動不良発生を確実に防止できる。また、推進剤のスロッシングによる人工衛星に発生する振動を低減できるため、姿勢保持等が容易となる。

【44】
さらに、本発明は、バッフル板にガスを通過させるガス通過孔及び推進剤を通過させる推進剤通過孔を設けたことにより、発生したスロッシングを急速に減衰させることができ、姿勢保持等がさらに容易になり、人工衛星のミッション達成率を向上させることができる。

【45】
なお、バッフル板は、円板で形成し、コーン部の軸心方向に間隙を設けて複数設置することが望ましい。

【5】
また、推進剤タンク101内部に残留する推進剤107が少い状態で、このスピン軸105まわりの回転状態からスピン軸105(機体軸)方向にスラスタ噴射などにより機体に推力が加えられ、図3(b)に示すようにスピン軸105方向の大きな加速度Fp が与えられた場合においても、推進剤タンク101内部に残留する推進剤107が加速度方向の推進剤タンク101の最後端に位置する壁面上に押つけられその推進剤107の液面が略90°移動してスピン軸105と直交するように集積されるため、図3(a)に示す場合と同様に推進剤排出口108からスラスタに対して偏移した推進剤107を確実に供給することができる。

【6】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようなスピン安定型人工衛星に搭載されている推進剤タンクにおいては、加速度の方向が変化し、液面の方向が90度にもわたって急激に変動するため、この加速度方向の変化によって、推進剤タンク101内の推進剤107にはスロッシングが発生する。

【7】
この推進剤タンク101内に発生するスロッシングの大きさは、加速度方向に変わった直後の推進剤107の液面高さと、安定後の液面高さの差、つまり推進剤移動前後の液面ヘッド差に比例することが知られている。従って、加速度方向が急激に変化するようなスピン安定型の人工衛星用推進剤タンクにおいては、大きなスロッシングが頻繁に発生し、機体に振動を発生させ、機体の姿勢保持等に悪影響を与えるほか、特に推進剤タンク101内の推進剤107の量が少ない場合には、このスロッシングによって推進剤排出口108に推進剤107の排出のために推進剤タンク101に注入される等して滞留するいわゆる押しガスが移動し、推進剤タンク101から排出される推進剤107中に押しガスが混入しスラスタが作動不良を起す可能性があるという問題があった。

【8】
ところで、人工衛星に限られず、ロケットや宇宙ステーション等においても燃料等の供給タンクに生じるスロッシングの発生を防止するため、以下に示すように様々な改善策が提案されている。

【9】
(1)まず、特開平4-353100号公報に開示された技術(以下、「第1の公知技術」という)は、微小重力環境下においてガス加圧式液供給タンクに押しガスを供給する時に、供給タンク内に導入される押しガスの流れによって供給タンク内の液面が不安になり、極端な凹面状になることで、液流出口(推進剤排出口)から押しガスの混入した液が流出することを防止するため、押しガスの供給口部分に整流板を設置することで、押しガスの流れをタンク内壁に沿うようにし、液面が不安定な状態にならないようにするものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2