TOP > 国内特許検索 > ガス比例計数管及び撮像システム > 明細書

明細書 :ガス比例計数管及び撮像システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3955836号 (P3955836)
公開番号 特開2005-032634 (P2005-032634A)
登録日 平成19年5月11日(2007.5.11)
発行日 平成19年8月8日(2007.8.8)
公開日 平成17年2月3日(2005.2.3)
発明の名称または考案の名称 ガス比例計数管及び撮像システム
国際特許分類 H01J  47/06        (2006.01)
G01T   1/18        (2006.01)
G01T   1/20        (2006.01)
G01T   1/205       (2006.01)
H01J  31/50        (2006.01)
H01L  31/09        (2006.01)
FI H01J 47/06
G01T 1/18 A
G01T 1/18 D
G01T 1/20 E
G01T 1/20 G
G01T 1/205
H01J 31/50 A
H01L 31/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2003-272032 (P2003-272032)
出願日 平成15年7月8日(2003.7.8)
審査請求日 平成17年8月12日(2005.8.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】門叶 冬樹
【氏名】櫻井 敬久
【氏名】郡司 修一
個別代理人の代理人 【識別番号】100079108、【弁理士】、【氏名又は名称】稲葉 良幸
【識別番号】100093861、【弁理士】、【氏名又は名称】大賀 眞司
【識別番号】100109346、【弁理士】、【氏名又は名称】大貫 敏史
審査官 【審査官】松岡 智也
参考文献・文献 特開昭52-043354(JP,A)
特表平09-508750(JP,A)
特開平07-248555(JP,A)
特開2000-181948(JP,A)
特開平01-134288(JP,A)
特開2004-241298(JP,A)
調査した分野 H01J 47/06
G01T 1/18
G01T 1/20
G01T 1/205
H01J 31/50
H01L 31/09
特許請求の範囲 【請求項1】
不活性ガスを主成分として含む検出用ガスが充填されており、電磁波又は電離放射線が入射する窓を有するチャンバと、
前記チャンバ内に前記窓と対向して配置されており、樹脂から成り絶縁性を有する複数の管が該管の軸方向に対して交差する方向に併設されており、且つ、該複数の管の内部で前記検出用ガスの電離又は励起により電子及び光が増倍される板状体と、
前記板状体における両面上又は両面側に設けられた電極と、
を備えており、
前記電極のうち、前記板状体を挟んで前記窓と反対側に設けられた電極は、前記管の内部から該電極側に該管の軸方向に放出される光を、該軸方向延長線上において透過可能に設けられたものであ
前記検出用ガスが、分子中にハロゲン原子を含み且つ励起発光を生じる有機系ガスを含有するものである
ガス比例計数管。
【請求項2】
前記管が中空糸から成るものである請求項1記載のガス比例計数管。
【請求項3】
前記樹脂がポリオレフィンである請求項1記載のガス比例計数管。
【請求項4】
前記樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンである請求項1記載のガス比例計数管。
【請求項5】
前記有機系ガスは、少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素から成るガスである、請求項記載のガス比例計数管。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のガス比例計数管と、
前記チャンバの後段に配置された光検出器と、
を備える撮像システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス比例計数管及び撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉛ガラス製キャピラリープレートを撮像型のガス比例計数管(Capillary Gas Proportional Counter;CGPC)として動作させる新しいタイプの検出器が開発されている(非特許文献1、2参照。)。図7は、このようなCGPCを用いた撮像型X線検出装置の構成を示す模式図である(非特許文献3参照)。
【0003】
同図において、撮像型X線検出装置100は、ガス比例計数部110の後段に光学系120及び撮像系130が順に連設されたものである。ガス比例計数部110は、一方端及び他方端にそれぞれベリリウム窓111及び合成シリカから成る光透過窓112が設けられたチャンバ113の内部に、各窓111,112と同軸状に設けられたキャピラリープレート114が設置されたものである。キャピラリープレート114は、中空状を成す100μm径程度の鉛ガラス製キャピラリーが複数集積されて成っており、成形時のバイアス角度は0°とされている。
【0004】
また、キャピラリープレート114の両面には、電源系140に接続された薄膜電極(図示せず)が形成されている。さらに、キャピラリープレート114の前段には、整形リング(シェイピングリング)115,116が設けられており、ドリフト領域が画成されている。これらの整形リング115,116は、電源系160及び接地電位に接続されており、電源系160からの高電圧と接地間が抵抗分割されてそれぞれに適切なドリフト電圧が印加されるようになっている。さらに、チャンバ113内には、主成分であるArガス、CH4ガス等にペニング効果(Penning Effect)を奏するトリメチルアミン(TMA)やトリエチルアミン(TEA)が添加された混合ガス117が封入されている。
【0005】
この撮像型X線検出装置100では、ベリリウム窓111を通してチャンバ113内に入射したX線Aがベリリウム窓111/キャピラリープレート114間領域のガス分子と相互作用し、光電効果によって高エネルギーの電子(一次電子)が放出される。この一次電子(X線光電子)は、他のガス分子にエネルギーを付与しながら進み、その飛跡中に電子-イオン対を生じる。よって、この電子-イオン対の数はX線Aのエネルギーに比例する。一次電子の飛跡に沿って生じた電子(電子雲とも呼ばれる。)は、ベリリウム窓111/キャピラリープレート114間に生成された電場により、その電子雲形状を保持したままキャピラリープレート114の前面からその内部に進入する。
【0006】
キャピラリープレート114の内部には、ガスの放電及び励起発光を引き起こすのに十分な例えば104V/cm以上の電場が形成されており、電子がガス分子と次々に衝突して電子増殖及び光増殖が行われ、例えば、1個の電子が103~104個程度に増幅される。このようにして撮像型X線検出装置100は、ガス比例計数管として機能する。増幅光は光透過窓112を透過して光学系120に入射し、レンズ系121を通ってフッ化マグネシウム(MgF2)等から成る光透過窓122を透過して撮像系130へ出射される。
【0007】
撮像系130としては、例えばICCD(Intensified CCD)が採用される。入射光は、光電面(図示せず)で光電変換され、I.I.131で電子増倍された後、図示しない蛍光面で再び光電変換され、ファイバーオプティックプレート(FOP)等を通してCCDアレイ(共に図示せず)に入射する。こうして増強された二次元画像情報は電気信号として信号処理系150へ送出され、例えば二次元位置情報と各位置での発光強度から成る三次元X線発光画像が得られる。
【0008】
また、レンズ系121の代わりに反射系(リフレクタ)を用いたもの、並びに、光学系120及び撮像系130の代わりに光電子増倍管(photo multiplier tube;PMT)を備えたものも開発されている(非特許文献4~8参照。)。なお、キャピラリープレートのチャージアップを抑えるために、キャピラリープレート114に代えて、MCP同様貫通孔の内面をH2還元して低抵抗化したものも提案されている(非特許文献9参照。)。
【0009】
さらに、最近では、X線等の二次元位置検出が可能な別の放射線検出器として、ガス・エレクトロン・マルチプライアー(Gas Electron Multiplier;GEM)が注目を浴びている(例えば、非特許文献10、11参照。)。
【0010】
図8は、一般にGEMに用いられる多孔質ポリイミドフィルムの一部を示す模式平面図である。また、図9は、図8におけるIX-IX線に沿う断面図である。多孔質ポリイミドフィルム411は、例えばフォトリソグラフィ-とドライ又はウェットエッチングとを組み合わせた方法やレーザ加工等を用いて一定間隔で複数の細孔413が形成された薄膜(例えば、厚さが数十μm~100μm程度)である。
【0011】
細孔413の一般的な形状としては、例えば図8及び図9に示す如く、略筒状を成しており、多孔質ポリイミドフィルム411の厚さ方向の中央付近に突出部Kが形成されたものが挙げられる。また、細孔413の典型的な寸法としては、最大内径が50~100μm程度、最小内径(つまり突出部Kにおける内径)が最大内径の-10μm程度、細孔間隔が100~200μm程度とされる。GEMに用いられる場合、細孔413の面内密度は、例えば、104個/cm2オーダーである。
【0012】
このような多孔質ポリイミドフィルム411を用いたGEMでは、フィルム411の両面に蒸着された金属層から成る電極間に数百Vの電圧が印加され、細孔413の内部及び周辺に、ガスの放電及び励起発光を引き起こすのに十分な電場が形成される。これにより、電子がガス分子と次々に衝突して電子増殖が行われる。

【非特許文献1】H. Sakurai et al., "A new type of proportional counter using a capillary plate", Nucl. Instr. And Meth. In Phys. Res. A374(1996)341-344.
【非特許文献2】H. Sakurai et al., "Characteristics of capillary gas proportional counter", SPIE Proceedings Reprint, vol.2806(1996)569-576.
【非特許文献3】H. Sakurai et al., "Detection of photoabsorption point with capillary imaging gas proportional counter", IEEE Trans on Nucl. Sci. vol.49, No.3, (2002).
【非特許文献4】M. Tsukahara et al., "The development of a new type of imaging X-ray detector with a capillary plate", IEEE Trans on Nucl. Sci. vol.49, No.3, (1997)679-682.
【非特許文献5】H. Sakurai et al., "The form of X-ray photoelectron tracks in a capillary gas proportional counter", IEEE Trans on Nucl. Sci. vol.46, No.3, (1999)333-337.
【非特許文献6】H. Sakurai, "Imaging gas proportional counter with capillary plate", 放射線 vol.25, No.1, (1999)27-37.
【非特許文献7】H. Sakurai et al., "New type of imaging X-ray detector using a capillary plate", SPIE Proceedings Reprint, vol.3114(1997)481-487.
【非特許文献8】T. Masuda et al., "Optical imaging capillary gas proportional counter with penning mixtures", IEEE Trans on Nucl. Sci. vol.49, No.2, (2002)553-558.
【非特許文献9】Nishi,Yu.; Tanimori,Y.; Ochi,A.; Nishi,Ya.; Toyokawa,H., "Development of a hybrid MSGC with a conductive capillary plate.", SPIE, vol.3774(1999)87-96.
【非特許文献10】F. Sauli, Nucl. Instr. And Meth. A 368(1977)531.
【非特許文献11】F.A.F. Fraga et al., Nucl. Instr. And Meth. A 442(2000)417.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、本発明者らが、上記従来のCGPCを用いた撮像型X線検出装置100、及び、多孔質ポリイミドフィルム411を備えるGEMについて詳細に検討したところ、以下に示す問題点が存在することを見出した。
【0014】
撮像型X線検出装置100では、低電圧で高電場を形成させるために、キャピラリープレート114をせいぜい60~70μm程度の厚さとすることが望ましく、そのためには、ガラス製のプレートを機械的に研磨する必要がある。しかし、ガラス製のプレートをこのように薄く研磨する際には、ガラス自体が硬く脆いので、割れや剥離が生じ易く、また、機械的な衝撃に弱いため取り扱いに細心の注意を要する。
【0015】
さらに、キャピラリープレート114の両面に設けられる薄膜電極は蒸着等によって被着形成されるが、キャピラリープレート114と薄膜電極との密着性が不十分な場合があり、こうなると電極が剥離し易くなるといった不都合が生じる。またさらに、鉛ガラス製のキャピラリープレート114では、素材中に含まれる放射性鉛核種から放出されるα線バックグラウンドにより、暗電流や突発的な異常電流が発生してしまうことも確認された。
【0016】
一方、多孔質ポリイミドフィルム411を備えるGEMでは、ポリイミドフィルムに孔加工を施すので、用いる方法によっては、加工不良すなわちフィルムの貫通が不十分で細孔413の一部が形成されなかったり、貫通したとしても、所望の形状の細孔413となり得なかったりするおそれがある。また、一定間隔で均一な細孔413を形成させるのが困難な場合もある。こうなると、多孔質ポリイミドフィルム411において二次元感度分布が不均一となるおそれがある。
【0017】
さらに、図9に示すような尖塔状の内壁を有する細孔143の形状自体に不都合があるか否か不明ではあるものの、厚さ方向において突出部Kの位置や断面形状が細孔143毎に不揃いとなる懸念がある。そうなると、各細孔143内での電場に相違が生じ、場合によっては、多孔質ポリイミドフィルム411における感度分布の一様性が乱されるおそれが全くないとは言い切れない。
【0018】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、電子及び光増倍部を薄膜化しても耐衝撃性及び取扱性を向上できると共に、画一的且つ均一に配置された細孔を備える電子及び光増倍部を実現でき、これにより感度分布の一様性を高めることが可能なガス比例計数管及び撮像システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明によるガス比例計数管は、不活性ガスを主成分として含む検出用ガスが充填されており且つ電磁波又は電離放射線が入射する窓を有するチャンバと、そのチャンバ内に配置されており、且つ、樹脂から成る複数の管が該管の軸方向に対して交差する方向に併設された板状体とを備えるものである。
【0020】
このように形成されたガス比例計数管においては、板状体を構成する複数の管が併設されることによって複数の孔が一定間隔で均一に配置された部材が形成される。よって、この板状体の両面に一定の電圧が印加されると、その孔の内部及び周囲に、ガスの放電及び励起発光を引き起こすのに十分な電場が形成され得る。これらの孔は、予め中空状の管によるものなので、膜に孔加工を施す際に懸念される加工不良が生じるおそれがない。また、それらの複数の管が樹脂から成るので、板状体は柔軟性に富む。よって、キャピラリープレートのようにガラス材から成るものと異なり、割れや剥離が極めて生じ難い。
【0021】
さらに、樹脂から成る板状体は、天然放射性核種のような放射線源を実質的に含まないので、鉛ガラス製のキャピラリープレートで問題となり得る異常放電(例えば、鉛核種から放出されるα線に起因する放電)を生じ得ない。
【0022】
具体的には、管が中空糸から成るものであると好ましい。中空糸は極めて細い管を構成しており、これらが複数併設されて成る板状体は、多数の細孔が非常に狭い間隔で均一配置されたものとなる。中空糸で板状体を形成するには、多数の中空糸をバンドル状に束ねてスライスする方法等が挙げられ、そのような加工も簡便である。
【0023】
より具体的には、樹脂がポリオレフィンであると更に好適である。これらは中空糸として入手容易であるだけでなく、樹脂材のなかでも比較的高い抵抗率(体積抵抗率)を発現するので、板状体を極めて薄くしたときに、その両面に蒸着等される電極間の絶縁を充分に担保でき、電場の形成をより確実ならしめることができる。また、長期使用時に電荷が蓄積し易い程の過度な高抵抗ではないので、チャージアップによる異常な突発電流の発生が防止される。
【0024】
好ましくは、樹脂が、非ハロゲン系のもの、例えばポリエチレン又はポリプロピレンであると一層有用である。これらから成る樹脂は、ポリオレフィンのなかでも、ハロゲン系のものに比して充分に高い抵抗率が発現する。
【0025】
さらに、検出用ガスが分子中にハロゲン原子を含む有機系ガスを含有するものであると好ましい。検出用ガスとして、ハロゲン原子を含む有機系ガスを添加することにより、可視光を高効率で発光させ得るので、撮像システムに一般的な光学系を用いても透過損失が抑えられ、高感度測定が可能となる。
【0026】
この場合、有機系ガスは、少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された炭化水素から成るガス(例えば、CF4等のハロゲン化アルカン)であると、光波長及び発光量の観点から一層好ましく、本発明者の現在の知見によれば、取扱性及び工業上の利用可能性を考慮すると、CF4ガスが最も好ましいものと考えられる。
【0027】
また、本発明による撮像システムは、本発明によるガス比例計数管と、チャンバの後段に配置された光検出器とを備えるものである。この光検出器の種類は特に限定されず、CCD、PMT、陽極ボード、CMOSを用いたセンサ等を例示でき、これらのなかでもアレイ化が容易で高感度なCMOSセンサであると特に好ましい。また、CMOSセンサを用いると、CCD等を用いた場合に比して撮像システムの小規模化が可能であると共に、撮像時の時間分解能が格段に向上され、高感度のみならずより高精細且つ高速の動的解析をも達成できる利点がある。さらに、CMOSセンサを使用すると、CCDを用いた場合に比して消費電力が格段に、例えば半分以下に軽減される利点がある。
【発明の効果】
【0028】
本発明のガス比例計数管及び撮像システムによれば、電子及び光増倍部である板状体を薄膜化しても耐衝撃性及び取扱性を向上できると共に、画一的且つ均一に配置された細孔を備える板状体を実現でき、これにより感度分布の一様性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0030】
図1は、本発明によるガス比例計数管に備わる板状体の好適な一実施形態を模式的に示す平面図であり、図2は図1におけるII-II線断面図である。多孔プレート1(板状体)は、樹脂枠12内に複数の樹脂製の中空糸13(管)が配置されたものである。各中空糸13は、互いに接するように、且つ、それらの軸方向が多孔プレートの厚さ方向に沿うように併設されており、中空糸13同士の空間11は、中空糸13の側壁で充填されていてもよく、例えば他の樹脂体(接着性のもの等)が充填されていてもよい。また、多孔プレート1の両面には、例えば真空蒸着等によって形成された薄膜の電極1a,1bが設けられている。
【0031】
このような構成により、多孔プレート13は、多数の細孔が整列するように形成されており、各孔は、ガス比例計数管において各々独立した光・電子増倍器を構成する微細なチャネルとして機能する。
【0032】
すなわち、多孔プレート1において、電極1a,1b間すなわち各中空糸13で画成される細孔(チャネル)の両端に電圧が印加されると、細孔の内部及び端部の周囲に軸方向の電界が発生する。このとき、多孔プレート1の上部で生成された電子がチャネルの一方端からチャネル内に入射すると、その入射電子は電界からエネルギーを付与され、チャネル内のガス原子と電離・励起衝突を繰り返し、電子及び脱励起に伴う光子が指数関数的に激増することにより電子・光増倍(増殖)が行われる。
【0033】
ここで、多孔プレート1を構成する中空糸13の樹脂材料としては、特に制限されるものではないが、ポリオレフィンであると好ましく、なかでも非ハロゲン系のもの、例えばポリエチレン又はポリプロピレンであるとより好ましい。また、それらの樹脂は、架橋体であってもなくてもよい。
【0034】
また、多孔プレート1の外径(樹脂枠12の外径)及び有効外径(樹脂枠12の内径)は、種々の用途に応じて、また、中空糸13の細孔径及び目的とする位置分解能等に応じて適宜決定されるが、通常は、1~100mmφ程度とされる。さらに、多孔プレート1の厚さは、好ましくは0.05~2.0mm程度とされる。多孔プレート1の厚さが0.05mm未満となると、充分な膜強度が得られない傾向にある。
【0035】
またさらに、多孔プレート1における細孔径つまり中空糸13の内径は、通常、6~100μm程度とされる。中空糸13の内径がこの下限値未満であると、十分な光・電子増倍特性が得られない傾向にある。一方、中空糸13の内径が100μmを超えると、用途に依るものの、高解像度、高速応答、高分解能といった要求を十分に満足できないおそれがある。
【0036】
また、多孔プレート1の利得特性は、中空糸13の内径dに対する中空糸13の軸長Lの比(規格化長a=L/d)に依存し、一般に、高利得を得るには、この規格化長aを大きくすることが有効である。しかし、規格化長aが過度に大きいと、細孔内に存在するガス(後述)と増倍電子との衝突によってイオンフィードバックが発生し易くなる。こうなると、ノイズが増大しS/N比が低下する傾向にある。また、多孔プレート1では、その厚さが1mm程度を超えると、利得の向上に比してノイズの増大が顕著となることが懸念されることから、規格化長aの上限は例えば200程度とされる。
【0037】
このような構成を有する多孔プレート1を製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、中空糸13の長尺体を束ねてバンドル状とし、それを樹脂枠12となる長管内に固定して中空糸13が配列されたブロックを得る。次いで、そのブロックを一定の厚さとなるように細切り加工(スライス)することにより、多孔プレート1を簡便に得ることができる。
【0038】
図3は、多孔プレート1を備える本発明のガス比例計数管を用いた撮像システムの好適な一実施形態を示す斜視図(一部破断図)である。また、図4は、その要部を模式的に示す断面図である。
【0039】
撮像型X線検出装置200(撮像システム)は、撮像系210に、電源系34、並びにCAMCAユニット及び表示装置が組み込まれた制御系35(測定回路系を兼ねる。)が接続されたものである。撮像系210は、略筒状を成し上方端がベリリウム窓21(窓)で覆われ且つ側壁に排気口22a及び吸気口22bが設けられたチャンバ22と、X線Pv(電磁波)の入射方向に対してチャンバ22の後段に接合されたチャンバ23とを有している。
【0040】
チャンバ22内には、X線Pvの入射方向に沿うように、その上流側から中空状の整形リング(シェイピングリング)215,216、及び前述した多孔プレート1が同軸状に設けられている。これらの整形リング215,216は、電源系34及び接地電位に接続されており、電源系34からの高電圧と接地間が抵抗分割されてそれぞれに適切なドリフト電圧が印加されるようになっている。これらの整形リング215,216によって、多孔プレート1の前方空間にドリフト領域が画成されている。
【0041】
また、多孔プレート1の電極1a,1bは、それぞれ電源系34に接続されており、前者には所定のカソード電圧が印加されて陽極として作用し、後者には所定のアノード電圧が陰極として機能する。
【0042】
また、チャンバ22,23の境界には開口部が設けられており、そこにFOP2がチャンバ22側を封止するように嵌合設置されている。このように閉止されたチャンバ22内の空間には、主ガス成分であるHeガス、Arガス、Xeガス、CH4ガス等に、分子中に好ましくはハロゲン原子、より好ましくはフッ素原子を含むCF4等のハロゲン化アルカンといった有機系ガスが添加され、更に必要に応じてクエンチングガスが加えられた検出用ガス217が封入されている。検出用ガス217は、排気口22a及び吸気口22bを用いて適宜排気及び供気される。
【0043】
CF4等の有機系ガスの添加量は、ガスの種類に応じて適宜選択することができるものの、検出用ガス217の全量に対して好ましくは1~10体積%程度、より好ましくは数体積%とされる。このように、ベリリウム窓21、チャンバ22、整形リング215,216、多孔プレート1、及び検出用ガス217から本発明の比例計数管が構成されている。
【0044】
さらに、チャンバ23の底壁上には、多孔プレート1及びFOP2と同軸状にCMOSセンサアレイ3(CMOSセンサ;光検出器)が設置されており、その周囲には、CMOSセンサアレイ3を駆動させるための駆動回路ボード4が設けられている。またさらに、先述した電源系34は、チャンバ23の側壁に設けられた電源端子24を介して整形リング215,216及び多孔プレート1に接続されると共に、電源端子24を介して駆動回路ボード4及びCMOSセンサアレイ3にも駆動電力を供給するようになっている。さらにまた、制御系35は、チャンバ23の側壁に設けられた信号端子25を介して駆動回路ボード4と接続されている。
【0045】
このように構成されたガス比例計数管、及び撮像型X線検出装置200によれば、ベリリウム窓21を通してチャンバ22内に入射したX線Pvがベリリウム窓21/多孔プレート1間領域のガス分子と相互作用し、光電効果によって高エネルギーの電子(一次電子)が放出される。この一次電子(X線光電子)は、他のガス分子にエネルギーを付与しながら進み、その飛跡中に電子-イオン対を生じる。一次電子の飛跡に沿って生じた電子(電子雲)は、ベリリウム窓21/多孔プレート1間に生成された電場により、その電子雲形状を保持したまま多孔プレート1の前面からその内部に進入する。
【0046】
多孔プレート1の内部には、ガスの放電及び励起発光を引き起こすのに十分な例えば104V/cm以上の電場が形成されており、電子がガス分子と次々に衝突して電子増殖及び光増殖が行われ、例えば、1個の電子が103~104個程度に増幅される。この際、種々の素反応が引き起こされ、なかでも励起されたCF4分子が基底状態に遷移する際に、そのエネルギー遷移に特有な波長を有する光が発せられる(CF4*→CF4+hν)。この励起発光の波長領域は、可視光から赤外光領域にかけた広いものであり、そのピーク波長は約620nmである。
【0047】
なお、整形リング215,216は、ベリリウム窓21/多孔プレート1間のガス厚を増やしてX線の検出効率を高める場合に、補助的に使用されるものである。図示を省略したが、通常、ベリリウム窓21を接地し、多孔プレート1の直前に10~200V程度の電圧を印加することにより、ベリリウム窓21/多孔プレート1間の電場が例えば100~200V/cm程度になるように調整される。このとき、ベリリウム窓21/多孔プレート1間の距離が大きくされると電場が乱れ易くなるため、それを‘整形’する目的で整形リング215,216が用いられる。よって、X線の検出効率をさほど重視せずにベリリウム窓21/多孔プレート1間の距離が小さい場合には、整形リング215,216を用いなくともよい。
【0048】
増幅光はFOP2を透過し、再度光電変換されることなくCMOSセンサアレイ3に入射する。CMOSセンサアレイ3からは、光の入射した二次元位置情報と各入射位置での光強度に基づく電気信号が駆動回路ボード4を通して制御系35へ出力され、そこで、三次元X線発光画像が構成されて表示装置等に出力される。
【0049】
こうして用いられる多孔プレート1は、管状の中空糸13が均一に配置されているので、細孔が一定間隔で規則正しく整列した状態が生起されている。よって、本発明のガス比例計数管及びそれを備える撮像型X線検出装置200は、X線Pv等の放射線の入射位置を検出するための二次元位置検出器として、分解能に優れたものとなる。しかも、中空糸13が隣接して密に設けられているので、更なる高解像度が期待できる。
【0050】
また、多孔プレート1に形成された細孔は、中空糸13に予め備わるものなので、従来のGEMのように膜に孔加工を施す際に懸念される加工不良が生じるおそれがない。よって、多孔プレート1において二次元感度分布が不均一となることを抑止できる。さらに、細孔が直管状の中空糸13で画成されるので、多孔プレート1の厚さ方向において、従来のGEMで見られるような突出部K(図9参照)を有しない。よって、突出部Kの位置や断面形状が細孔毎に不揃いとなる懸念があったGEMと異なり、各細孔内での電場が均一化され、多孔プレート1における感度分布の一様性を高めることができる。
【0051】
またさらに、中空糸13が樹脂から成るので、ガラス製のプレートを用いるキャピラリープレートのように機械的に研磨する必要がなく、また、ガラスのように硬く脆くなく柔軟性に富むので、多孔プレート1の製造時に割れや剥離が生じ得ない。さらにまた、機械的な衝撃に強いので、そのような外部からの衝撃によって使用時に破損し難く、取扱性にも優れる。加えて、多孔プレート1は製造が平易であって、例えば上述の如くブロック体をスライスして薄膜化できる。よって、70μm程度より薄くすることも簡便であり、低電圧で高電場を形成させ易い。
【0052】
また、樹脂製の中空糸13が多孔プレート1を構成するので、蒸着等で被着される薄膜の電極1a,1bの密着性がガラス材に比して高められる。よって、電極1a,1bの剥離が充分に防止でき、装置の信頼性が高められる。さらに、多孔プレート1が天然放射性核種を含む可能性が殆どないので、従来の鉛ガラスを用いたチャネルガラスで問題となり得たα線による異常電離電流や異常発光の発生を確実に抑止でき、バックグラウンドレベルを格段に低減できる。よって、S/N比を格別に向上でき、これにより従来に比して高感度且つ高精度のX線測定が可能となる。
【0053】
またさらに、中空糸13がポリオレフィン、特にポリエチレンやポリプロピレン等の非ハロゲン系ポリオレフィンから成ると、工業上の利用性に優れると共に、適度に高い抵抗率を発現するので、多孔プレート1を極薄化したときでも、電極1a,1b間の絶縁を充分に担保でき、電場の形成をより確実ならしめることができる。また、長期使用時に電荷が蓄積し易い程の過度な高抵抗ではないので、チャージアップによる異常な突発電流の発生を防止できる。
【0054】
さらにまた、検出用ガス217として、CF4ガス等のハロゲン置換されたアルカンといった有機系ガスが添加されたものを用いると、高効率で可視領域の波長を有する光を発光させることができるので、可視光透過性に優れる汎用のFOP2を用いても、高い透過率を達成できる。よって、CMOSセンサアレイ3への入射光の減弱を十分に防止でき、更に高感度なX線測定を実現できる。
【0055】
図5は、多孔プレート1を備える本発明のガス比例計数管を用いた撮像システムに係る他の実施形態の要部を模式的に示す断面図である。撮像型光検出装置300(撮像システム)は、ベリリウム窓21の代わりに入射窓31を有する撮像系310を備えており、且つ、X線Pvの代わりに光Pxの撮像測定を行うものであること以外は、図3及び4に示す撮像型X線検出装置200と同様の構成を有するものである。
【0056】
入射窓31は、いわゆる透過型の光電面として機能し、例えば石英等の窓基材上に薄い下地金属膜が形成され、更にその上に、例えばバイアルカリ化合物、マルチアルカリ化合物や、バイアルカリ及びアンチモン若しくはテルルの化合物、又は、マルチアルカリ及びアンチモン若しくはテルルの化合物等から成る薄膜、並びに必要に応じてカーボンナノチューブ等から成る中間層を有する光電子放出膜31aが蒸着等によって形成されたものである。
【0057】
このように構成された撮像型光検出装置300では、入射窓31に入射した光Pxが光電子放出膜31aに達すると、光電変換によって生じた光電子が多孔プレート1の前段の空間に放出される。この光電子が、撮像型光検出装置200で説明した一次電子に相当し、上述したのと同様にして電子-イオン対を生じ、多孔プレート1内で電子増殖及び光増幅が行われ、CF4ガスの励起発光が得られる。この光は多孔プレート1で増幅され、FOP2を透過してCMOSセンサアレイ3へ入射し、三次元入射光画像が表示装置等に出力される。そして、撮像型光検出装置300によっても、上述した撮像型X線検出装置200と同様の作用効果が奏される(重複を避けるため、ここでの説明は省略する。)。
【0058】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、多孔プレート1における樹脂枠12を省略してもよい。この場合、多孔プレート1の製造時には、バンドル化した中空糸13の長尺体を接着性の樹脂で接合するといった方法を採用し得る。また、多孔プレート1の形状は円板状に制限されず、例えば角板状等でもよい。図6は、本発明のガス比例計数管に用いられる他の板状体の一例を模式的に示す斜視図である。多孔プレート10(板状体)は、矩形の樹脂枠212を備え、中空糸13が多数併設され、空間211が例えば他の樹脂等で埋め込まれた構造を有する。
【0059】
さらに、検出用ガス217には、CF4ガスに替えて又は加えてTMAやTEA等の他のペニング効果を奏するガスが添加されていてもよいが、励起光波長が上述の如く可視域となる点でCF4等のハロゲン化アルカン等の有機系ガスがより好ましい。
【0060】
さらにまた、CMOSセンサアレイ3に代えて、CCD、ICCD、PMT、陽極ボードを用いた撮像用センサを用いても構わないが、高精細且つ高速な動的解析用途にはCMOSセンサアレイ3を用いることが望ましい。また、FOP2の代わりに従来の光透過窓112及び光学系120の組み合わせを用いてもよいし、バンドル状の光ファイバーを用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明によるガス比例計数管及び撮像システムを用いれば、電子及び光増倍部である板状体を薄膜化しても耐衝撃性及び取扱性を向上できると共に、画一的且つ均一に配置された細孔を備える板状体を実現でき、これにより感度分布の一様性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明によるガス比例計数管に備わる板状体の好適な一実施形態を模式的に示す平面図である。
【図2】図1におけるII-II線断面図である。
【図3】多孔プレート1を備える本発明のガス比例計数管を用いた撮像システムの好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図4】多孔プレート1を備える本発明のガス比例計数管を用いた撮像システムの好適な一実施形態の要部を模式的に示す断面図である。
【図5】多孔プレート1を備える本発明のガス比例計数管を用いた撮像システムに係る他の実施形態の要部を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明のガス比例計数管に用いられる他の板状体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図7】従来のCGPCを用いた撮像型X線検出装置の構成を示す模式図である。
【図8】GEMに用いられる多孔質ポリイミドフィルムの一部を示す模式平面図である。
【図9】図8におけるIX-IX線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1,10…多孔プレート(板状体)、1a,1b…電極、3…CMOSセンサアレイ(光検出器)、4…駆動回路ボード、12,212…樹脂枠、13…中空糸(管)、21…ベリリウム窓、22,23…チャンバ、31…入射窓、31a…光電子放出膜、34…電源系、35…制御系、200,300…撮像型X線検出装置(撮像システム)、210,310…撮像系、215,216…整形リング、217…検出用ガス、Pv…X線、Px…光。


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8