TOP > 国内特許検索 > 電子放出材料 > 明細書

明細書 :電子放出材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3607947号 (P3607947)
公開番号 特開2002-274819 (P2002-274819A)
登録日 平成16年10月22日(2004.10.22)
発行日 平成17年1月5日(2005.1.5)
公開日 平成14年9月25日(2002.9.25)
発明の名称または考案の名称 電子放出材料
国際特許分類 C01B 21/082     
C23C 16/34      
H01J  1/304     
FI C01B 21/082 K
C23C 16/34
H01J 1/30 F
請求項の数または発明の数 12
全頁数 14
出願番号 特願2001-080050 (P2001-080050)
出願日 平成13年3月21日(2001.3.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成12年11月30日 ニューダイヤモンドフォーラム発行の「第14回ダイヤモンドシンポジウム講演要旨集」に発表
審査請求日 平成13年3月22日(2001.3.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】斎藤 秀俊
【氏名】大塩 茂夫
【氏名】伊藤 治彦
【氏名】内城 貴則
個別代理人の代理人 【識別番号】100102299、【弁理士】、【氏名又は名称】芳村 武彦
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 特開平08-158039(JP,A)
J.Vac.Sci.Technol.B,2000年,Vol.18,No.4,p1840-1846
調査した分野 C01B 21/082
H01J 1/304
特許請求の範囲 【請求項1】
導電性のウイスカー上に設けられたN-H終端を含有するアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜を有する電子放出材料。
【請求項2】
窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルにおける吸収面積比が、次の数式(1)を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の電子放出材料。
【数1】
JP0003607947B2_000004t.gif

【請求項3】
窒化炭素膜の膜厚が100nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子放出材料。
【請求項4】
ウイスカーの円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項5】
ウイスカーがウイスカーを形成する基板上の10μm×10μmの面積当たり0.1~10000個の密度で存在することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項6】
ウイスカーが基板表面に対して略垂直方向に形成されたものであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項7】
ウイスカーが金属酸化物により構成されたものであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項8】
金属酸化物が金属酸化物単結晶であることを特徴とする請求項7に記載の電子放出材料。
【請求項9】
ウイスカーがウイスカーの長軸方向に沿って母材組成とは異なる組成の強化層を有することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項10】
ウイスカーを構成する母材と強化構造が化学的に結合していることを特徴とする請求項9に記載の電子放出材料。
【請求項11】
ウイスカーの長さの加重平均が0.1μm以上であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の電子放出材料。
【請求項12】
有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料でウイスカーの間を充填したことを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の電子放出材料。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷陰極素子、EL素子、センサー等として用いられる電子放出材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子放出材料としては種々のタイプのものが存在するが、超薄型ディスプレー等を開発するために、エネルギー効率の高い冷陰極素子、EL素子、センサー等として使用可能な電子放出材料が求められている。
本発明者らは、このような電子放出材料として特定の形状を有する金属酸化物の針状体からなる電子放出材料を開発し、先に提案した。(特開2000-276999号公報)
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らはさらに検討を重ねた結果、エネルギー効率のきわめて優れた電子放出材料を開発することに成功した。
すなわち、本発明は従来の電子放出材料よりもエネルギー効率が高く、長時間動作可能な電子放出材料を低コストで提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
1.導電性のウイスカー上に設けられたN-H終端を含有するアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜を有する電子放出材料。
2.窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルにおける吸収面積比が、次の数式(1)を満たすものであることを特徴とする1に記載の電子放出材料。
【0005】
【数2】
JP0003607947B2_000002t.gif【0006】
3.窒化炭素膜の膜厚が100nm以下であることを特徴とする1又は2に記載の電子放出材料。
4.ウイスカーの円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上であることを特徴とする1~3のいずれかに記載の電子放出材料。
5.ウイスカーがウイスカーを形成する基板上の10μm×10μmの面積当たり0.1~10000個の密度で存在することを特徴とする1~4のいずれかに記載の電子放出材料。
6.ウイスカーが基板表面に対して略垂直方向に形成されたものであることを特徴とする1~5のいずれかに記載の電子放出材料。
7.ウイスカーが金属酸化物により構成されたものであることを特徴とする1~6のいずれかに記載の電子放出材料。
8.金属酸化物が金属酸化物単結晶であることを特徴とする7に記載の電子放出材料。
9.ウイスカーがウイスカーの長軸方向に沿って母材組成とは異なる組成の強化層を有することを特徴とする1~8のいずれかに記載の電子放出材料。
10.ウイスカーを構成する母材と強化構造が化学的に結合していることを特徴とする9に記載の電子放出材料。
11.ウイスカーの長さの加重平均が0.1μm以上であることを特徴とする1~10のいずれかに記載の電子放出材料。
12.有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料でウイスカーの間を充填したことを特徴とする1~11のいずれかに記載の電子放出材料。
【0007】
【発明の実施の形態】
アモルファス炭素系膜にはアモルファス炭素(a-C)膜のほかに、a-C膜中に水素の入っているアモルファス水素化炭素(a-C:H)膜や窒素の入っているアモルファス窒化炭素膜(a-CN)膜、水素と窒素の入っているアモルファス水素化窒化炭素(a-CN:H)膜などがある。
本発明者らは、これらのアモルファス炭素系膜を電子放出材料に適用するために、鋭意検討を行ったところ、N-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜が優れた電子放出特性を有することを発見し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、電子放出材料としてN-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜を有する材料を使用するものである。
【0008】
本発明において、N-H終端に富む窒化炭素膜とは、窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルにおける吸収面積比が、次の数式(1)を満たすものであることを意味する。
【0009】
【数3】
JP0003607947B2_000003t.gif【0010】
ここで、N-H終端の吸収面積とは、窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルにおいて、3,300cm-1付近に認められるアミノ基に起因する吸収ピークの面積を意味する。また、C-H終端の吸収面積とは、該赤外線吸収スペクトルの2,800cm-1~3,000cm-1付近に認められるメチル基及びメチレン基に起因する吸収ピークの面積を意味する。これらのピークの面積は、積分法により算出される。
【0011】
本発明の電子放出材料は、上記のN-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜を、各種の導電性を有する材料の表面に形成することによって、製造することができる。
導電性を有する材料としては特に制限はないが、好適な材料としては、銅、ニッケル、クロム、鉄、金、銀、パラジウム、アルミニウム、亜鉛、錫又はチタン等の金属;これらの金属の合金;シリコン、ITO(In/SnO)等の半導体;導電性樹脂;グラファイト、ダイヤモンド等の炭素系材料からなる板状体(基板)やウイスカー(針状体)が挙げられる。
【0012】
特に好適な材料としては、先に本発明者らが開発した金属酸化物によって構成されたウイスカーが挙げられる。(特開2000-276999号公報参照)
このようなウイスカーは、空気中の酸素または水と反応して酸化物を形成する金属化合物を原材料として用い、所定圧力の空気が存在する空間に設置された基板の面に、この金属化合物の気体および/または微粒子を向かわせて、金属酸化物を基板面上に成長させることによって、得ることができる。この方法により、基板と金属酸化物からなる多数のウイスカーとにより構成され、ウイスカーが基板表面に対して略垂直方向に形成された、隣り合うウイスカー同士に隙間を有する剣山状部材が得られる。
【0013】
本発明におけるウイスカーとしては、円近似断面径が0.01~100μm(平均値:以下同様)で、円近似断面径に対する長さの比(アスペクト比)が1以上であるものを使用することが好ましい。
ここで、ウイスカーの長さとは、ウイスカーが面上から実質的に突起する位置(基部)から先端部までの長さを意味し、円近似断面径はウイスカーの長さの1/2の位置において測定する。この円近似断面径は、例えば画像解析等による従来公知の方法で断面積を求め、得られた面積を円周率πで除したものの平方根の2倍の値で表される。
【0014】
ウイスカーの円近似断面径が0.01未満の場合には、成長したウイスカーを得ることが困難であり、100μmを超えた場合には、電子放出材料として所望の特性を得ることが難しくなる。この円近似断面径は、0.05~50μm、特に0.1~10μmとすることが好ましい。
ウイスカーの長さは、使用する用途により任意に選択されるが、通常は0.1~1000μm(平均値)、好ましくは1~500μmである。また、アスペクト比は1以上、好ましくは5以上であり、アスペクト比が小さすぎると電子放出材料としての特性が低下する。隣接するウイスカーの長さや円近似断面径は、特に均一にそろっている必要はなく、まちまちのものであってもよい。
【0015】
ウイスカーは、ウイスカーを形成する基板上の10μm×10μmの面積当たり0.1~10000個、特に1~1000個の割合で密集状に存在することが好ましい。この割合が小さい場合には、ウイスカーによる表面積増加の効果が乏しく、大きすぎる場合には成長したウイスカーを得ることが困難となる。
ウイスカーの形状としては、根元部分から先端部分まで径が変わらないもの、根元部分からある距離まで径が変わらないもの、ウイスカーの根元部分の径が小さく先端部に行くにつれ一度径が大きくなった後再度径が少しずつ減少していくもの、ウイスカーの根元部分から先端部に行くにつれ径が少しずつ減少していくもの、先端近くのある距離から角錐又は角錐台や円錐または円錐台や半球のような形状を取っているもの等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、先端が鋭利なウイスカーが好ましい。
【0016】
また、このようなウイスカーとして、本発明者らが先に提案した(特願2001-31833号)ウイスカーがウイスカーを構成する母材とは異なる元素添加によって得られる強化構造を有するものを使用することができる。
このような強化構造を有するウイスカーは、気化させた金属酸化物ウイスカー母材構成元素を含むガスと気化させた母材とは異なる元素を含むガスを、キャリアガスとともに均一に混合した後に、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付けて基材表面に金属酸化物構造体を堆積することによって得ることが出来る。
【0017】
本発明でウイスカー母材、及び場合により該母材とは異なる元素からなる強化構造を構成する金属酸化物としては、金属種が、周期律表において水素を除く1族、2族、ホウ素を除く13族、炭素を除く14族、窒素とリンと砒素を除く15族及び3、4、5、6、7、8、9、10、11、12族に属する各元素の強化物が挙げられる。金属種としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Po、Sc、Y、La、Th、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg等が挙げられ、これらのなかでも、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Ti、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi,Sc、Y、La、Ce、Th、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hgであり、さらに好ましくは、Li、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、In、Si、Sn、Pb、Th、Y、Ce、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、Cdが挙げられる。
最も好ましい金属種としては、Zn、Si、Al、Sn、Ti、Zr、及びPbが例示される。
【0018】
金属酸化物としては、例えば、MgO、Al 、In 、SiO 、SnO 、TiO 、ZnO、BaTiO、SrTiO 、LiNiO、PZT[Pb(Zr×Ti1-× )O ]、YBCO(YBaCu7-× )、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、YAG(YAl12または3Y・5Al)、ITO(In/SnO)等が挙げられる。また、アルカリ金属と他の金属を組み合わせて使用することもできる。例えば、Ta、Nbとアルカリ金属等を組み合わせてKTaOや、NbLiO のような複合化合物を形成させて、金属酸化物とすることができる。
【0019】
ウイスカーを構成する原料となる金属化合物は、目的とするウイスカーの金属酸化物中の金属を有し、酸素、水等の大気中に含まれる化合物と反応して酸化物を形成するものが好ましい。しかしながら、金属化合物を吹き付ける雰囲気に、例えばオゾン等の通常大気中に存在しない物質を供給・存在させ、これらと反応して酸化物を形成するものであっても良い。
【0020】
この様な金属化合物として、例えば、金属または金属類似元素の原子にアルコールの水酸基の水素が金属で置換されたアルコキシド類、金属または金属類似元素の原子にアセチルアセトン、エチレンジアミン、ビピペリジン、ビピラジン、シクロヘキサンジアミン、テトラアザシクロテトラデカン、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンビス(グアニド)、エチレンビス(サリチルアミン)、テトラエチレングリコール、アミノエタノール、グリシン、トリグリシン、ナフチリジン、フェナントロニン、ペンタンジアミン、ピリジン、サリチルアルデヒド、サリチリデンアミン、ポルフィリン、チオ尿素などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の錯体、配位子としてカルボニル基を有するFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、V、W、Ruなどの各種金属カルボニル、更に、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、フェニルあるいはアルキルフェニル基、オレフィン基、アリール基、シクロブタジエン基をはじめとする共役ジエン基、シクロペンタジエニル基をはじめとするジエニル基、トリエン基、アレーン基、シクロヘプタトリエニル基をはじめとするトリエル基などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の金属化合物、ハロゲン化金属化合物を使用することができる。また、その他の金属錯体も使用することができる。この中でも、金属アセチルアセトナート化合物、金属アルコキシド化合物等がより好ましく用いられる。
【0021】
このような錯体としては、金属にβ-ジケトン類、ケトエステル類、ヒドロキシカルボン酸類またはその塩類、各種のシッフ塩基類、ケトアルコール類、多価アミン類、アルカノールアミン類、エノール性活性水素化合物類、ジカルボン酸類、グリコール類、フェロセン類などの配位子が1種あるいは2種以上結合した化合物が挙げられる。
【0022】
ウイスカーを形成する基板としては、例えば、酸化アルミニウムのような金属酸化物単結晶、半導体単結晶、セラミック、シリコン、Fe、Ni等の金属、ガラス、プラスチック等が挙がられる。ウイスカーは基板上に垂直に成長をしていることがより好ましい。金属酸化物が基板上で垂直に成長しているかどうかは、通常のX線回折法により確認することができる。特に、φスキャン法により基板、及び金属酸化物の面内方位関係を観察することにより確認する方法が好ましく用いられる。
【0023】
基板として特に好ましく用いられるものは金属、半導体等の導電性基板である。具体的には、例えばステンレス鋼、P型Si、n型Si、P型SiC、n型SiC、ITO等が挙げられる。基板が結晶性物質である場合には、結晶は一種以上の単結晶であっても、多結晶であっても、非晶部と結晶部を同時に有する一種以上の半結晶性物質であっても、また、これらの混合物であってもよい。最も好ましくは単結晶である。この場合、基板表面は単結晶の特定の面になっていることが好ましい。
【0024】
これらの基板上にウイスカーを形成するには、ウイスカーを構成する原料化合物を加熱気化させたガスをキャリアガスとともに、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付ける。
キャリアガスとしては、使用する金属化合物と反応するものでなければ、特に限定はされない。具体例として、窒素ガスやヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、炭酸ガス、有機弗素ガス、あるいはヘプタン、ヘキサン等の有機物質等が挙げられる。これらのうちで安全性、経済性の上から不活性ガスが好ましい。特に、窒素ガスが経済性の面より最も好ましい。
【0025】
また、ウイスカーが形成される基材の温度は、基板近傍及び表面で金属酸化物が形成される温度であれば特に限定されないが、基板表面に吹き付ける原料ガスの温度よりも高い温度に設定することが好ましく、通常は100~700℃に設定される。
基板表面にウイスカーを形成するのに必要な反応時間は、原料の種類や反応条件、目的とする構造体の用途等に応じて適宜選択される。
【0026】
通常は、基板表面にウイスカーが密集状に形成された金属酸化物構造体が得られるが、各々のウイスカーの間には空隙が存在する。したがって、このような構造体は、使用する形態等によっては使用時に変形が起こる可能性がある。すなわち物理的応力により、多くのウイスカーがなぎ倒されたような状況になる可能性がある。これを防ぐために、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、シアノアクリレートのような瞬間接着剤等の有機物質、ガラス、セラミック等の無機物質、金属等でウイスカーの間を充填固定することもできる。
【0027】
ウイスカーの間を充填固定する為に用いられる熱可塑性樹脂としては、低、中、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(以下「SAN樹脂」と略記する)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(以下「ABS樹脂」と略記する)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタアクリレート、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエステルイミド、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイト、スチレンーブタジエン共重合体及びその水素添加組成物等、及びこれら2種類以上の組み合わせのポリマーブレンド及び共重合体、例えば、ポリカーボネートとアクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体、ポリフェニレンエーテルとポリスチレン等が挙げられる。
【0028】
また、ウイスカーの間を充填固定する為に用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、DFK樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリ(p-ヒドロキシ安息香酸)、ポリウレタン、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などが挙げられる。ウイスカーを固定する為に用いられるエラストマーとしては、天然ゴムやブタジエンゴム、シリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、塩酸ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、多硫化ゴム等の合成ゴム、等が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、石油樹脂、アルキド樹脂等も用いることができる。
【0029】
本発明の電子放出材料は、上記した導電性材料からなる基板やウイスカー上に、N-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜を形成することによって、製造することができる。このような窒化炭素膜は、アセトニトリル(CHCN)、臭化シアン(BrCN)等の原料物質を、気相や液相を通じて物理的または化学的に基板やウイスカー上に形成する方法、例えば蒸着、スパッタリング、ディッピング等の方法により形成することができる。特に好ましい方法としては、プラズマCVD法が挙げられる。
【0030】
本発明の電子放出材料は、例えば図1~図3にみられるように、種々の形態とすることができる。
図1は、本発明の電子放出材料の1例を示す模式図である。この例では、導電性材料からなる基板2上に、N-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜3を形成することによって、板状の電子放出材料1を構成したものである。
【0031】
図2及び図3は、それぞれ本発明の電子放出材料の他の例を示す模式図である。図2の例では、基板12の表面に対して略垂直方向に形成した導電性材料からなるウイスカー14上に、N-H終端に富むアモルファスないしは微結晶窒化炭素膜13を設けることによって、電子放出材料11を構成したものである。
この例では、各ウイスカー14の先端部に、それぞれ独立した窒化炭素膜13を形成してあるが、ウイスカー14の密集度を上げて、隣接するウイスカー14上に連続した窒化炭素膜13を形成するようにしてもよい。
【0032】
図3の電子材料21は、図2の電子材料11のウイスカー14の間を、充填材料15により充填したものである。この例では、ウイスカー14の間隙を充填剤で充填固定することによって、図2の電子材料11に比較して強度と形態安定性の優れた電子材料21を得たものである。また、窒化炭素膜13は連続した膜状に形成されている。
【0033】
本発明は、上記の各例に限定されるものではなく、ウイスカーとしてウイスカーの長軸方向に沿って母材組成とは異なる組成の強化層を有するものを使用するなど、種々変更することができることは勿論である。
本発明の電子放出材料は、エネルギー効率が高く、冷陰極素子、EL素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー材料等に使用することができる。
【0034】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(ウイスカーの製造)
本発明の電子放出材料に使用する導電性のウイスカーは、例えば図4に示した製造装置を使用して製造することができる。
この製造装置30は、キャリアガスである窒素の供給源31と、キャリアガスの流量を調整する流量計32と、原材料である金属化合物を気化する気化装置33と、キャリアガスを気化装置33に導入する配管34と、気化装置33で気化された金属化合物を基板12に向かわせる配管35と、基板12を加熱状態で保持する基板ステージ36とで構成されている。配管34には液体窒素トラップ37が設けてある。この液体窒素トラップ37は、供給源31から供給されたキャリアガス中に含まれる水分を除去するものである。
【0035】
配管35の先端部には所定形状の吹き出し口38が接続してあり、この吹き出し口38の開口部38aは、配管35からの気体が、基板12のウイスカーを形成する面全体に吹き出されるように形成されている。また、配管35および吹き出し口38はリボンヒータで加熱されている。基板ステージ36には基板を加熱するヒーターが設けられており、また吹き出し口38と基板12の面との距離は調節可能とされている。
【0036】
この製造装置30を使用して、次のようにしてn型シリコン基板上に、Al:ZnOウイスカーを形成した。
ウイスカーを構成する原料として、金属錯体ビスアセチルアセトナト亜鉛〔Zn(C:添川理化学製、特級〕8.0g及びトリスアセチルアセトナトアルミニウム〔Al(C:添川理化学製、特級〕2.0gを別々のボートに入れ、Zn(Cがノズル側になるように気化装置33中にセットした。
気化装置33を115℃に加熱することにより各原料を気化し、液体窒素トラップ37で水分を除去したキャリアガス(N)を流量1.2dm・min-1で供給することによって、550℃に加熱されたn型シリコン基板〔(001)Si:信越半導体製、抵抗率2.00~50.0Ω・cm〕上に気化した原料を吹き付けた。吹き出し口38と基板12の距離は15mmに設定した。吹き付けられた原料は、基板上で熱分解してウイスカーを形成した。
得られたウイスカーの走査型電子顕微鏡(SEM)による写真を図5に示す。図5において、(a)はウイスカーを上から見た写真であり、(b)はウイスカーの側面、そして(c)はウイスカー先端部を拡大した写真である。
【0037】
(窒化炭素膜の形成)
図6は、本発明でウイスカー上に窒化炭素膜を形成するのに使用する、マイクロ波プラズマCVD装置の1例を示す模式図である。
この装置40は、キャリアガスであるアルゴンの供給源41、キャリアガスの流量を調整する流量計42、キャリアガス中の水分を除去する五酸化二リン(P)トラップ43、キャリアガスを反応槽46に導入する配管44、キャリアガスにマイクロ波を印加することによってプラズマを発生させるマイクロ波発生装置45を有する。
また、窒化炭素膜を形成する原料は原料供給槽47で気化され、水分を除去する五酸化二リントラップ43を通って、配管48の先端部のノズル49から反応槽46内に設けた基板ステージ50上の基板12に吹き付けられる。このとき、ノズルから放出される原料は、キャリアガスプラズマによって分解され、基板12のウイスカー上にアモルファスないし微結晶窒化炭素膜が堆積される。反応槽46は、真空ポンプ51に接続され、減圧下に反応を行う。
【0038】
(実施例1)
上記で得られた、n型シリコン基板上に形成したAl:ZnOウイスカーの表面に、図6のマイクロ波プラズマCVD装置を使用し、以下の手順により窒化炭素膜を形成し、本発明の電子放出材料を作製した。
窒化炭素膜の原料として、アセトニトリル(CHCN:nakalai tesque製、99.5%)0.5gを原料供給槽47内で室温で気化させ、五酸化二リントラップ43で水分を除去し、0.1Torrに減圧された反応槽46内に導入して、基板12上に5mmの間隔で配置したノズル49から100℃に加熱された基板12の表面に吹き付けた。
一方、キャリアガスとして流量100SCCMでアルゴンガスを供給し、このアルゴンガスにマイクロ波発生装置45により2.45GHz、100Wのマイクロ波を印加することによって発生させたプラズマにより、基板12に吹き付ける原料ガスを分解させて、基板12のウイスカーの表面にアモルファス窒化炭素膜を堆積させた。得られた窒化炭素膜は、N-H終端及びC-H終端を有する。(図8参照)
【0039】
得られた、アモルファス窒化炭素膜を有するウイスカーのSEM写真を図7に示す。図7(a)は、長さ1.5μmのウイスカーを有する基板を使用した場合であり、窒化炭素膜は連続した膜状に形成されている。これに対して、長さ2.0μmのウイスカーを有する基板を使用した図7(b)では、窒化炭素膜はそれぞれ独立して各ウイスカーの先端部を包むように形成されている。
【0040】
(実施例2)
窒化炭素膜の原料として、臭化シアン(BrCN:nakalai tesque製、95%)0.5gを使用して、水分を除去する五酸化二リントラップを挿入しないほかは、実施例1と同様にして基板12のウイスカーの表面にアモルファス窒化炭素膜を堆積させた。得られた窒化炭素膜は、N-H終端を有する。(図8参照)
【0041】
(比較例1)
窒化炭素膜の原料として、臭化シアン(BrCN:nakalai tesque製、95%)0.5gを使用したほかは、実施例1と同様にして基板12のウイスカーの表面にアモルファス窒化炭素膜を堆積させた。得られた窒化炭素膜は、N-H終端やC-H終端を有さないものである。(図8参照)
【0042】
(比較例2)
比較のために、トッキ株式会社製の電子サイクロトン共鳴(ECR)プラズマCVD装置を使用して、基板12のウイスカー表面にアモルファス水素化炭素(a-C:H)膜を形成した。
【0043】
(赤外線吸収スペクトル)
上記実施例1、2及び比較例1、2でノンドープシリコン単結晶基板上に形成した炭素膜の赤外線吸収スペクトルを図8に示す。
図8において、a)は比較例2で得られたアモルファス水素化炭素(a-C:H)膜、b)は実施例1で得られたアモルファス窒化炭素膜、c)は実施例2で得られたアモルファス窒化炭素膜、そしてd)は比較例1で得られたアモルファス窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルである。
a)では2,800cm-1~3,000cm-1にC-H終端の吸収ピークが見られ、b)ではC-H終端の吸収ピークとともに3,300cm-1にN-H終端の吸収ピークが見られるが、N-H終端の吸収ピークの面積がC-H終端の吸収ピークの面積よりも大きい。また、c)ではC-H終端の吸収ピークは認められず、N-H終端の吸収ピークのみが認められる。そして、d)ではC-H終端の吸収ピーク、N-H終端の吸収ピークともに認められない。
【0044】
(電子放出特性試験)
図9は、上記各例で得られた電子放出性素子の、電子放出特性を試験した測定装置の模式図である。
この測定装置60には、枠61、62に固定したCu電極63、64を有し、電極63は導電性ペースト65を介して電極64と接続されている。電極63上には、上記各例で得られた電子放出性素子11が載置されるが、Cu電極64と電子放出性素子11の間に400μmの空間ができるように、装置60にはポリイミド等の絶縁材料からなるスペーサー66、66を設けてある。
この装置で、電極に電圧を印加すると放出素子11のウイスカー14先端部に強電界が発生し、電界放出によって放出素子の先端の法線方向に電子が放出される。この測定は、8×10-5Pa以下の真空度で行った。
【0045】
上記各例で得られた電子放出性素子(ウイスカー長:9μm)の電界放出特性を測定した結果を図10に示す。図10において、参考としてウイスカー先端にアモルファス炭素膜を形成しなかったものについて、測定した結果を〇で示した。
図10によれば、ウイスカー先端部に設ける炭素膜の種類によって、しきい値電界(電流密度が1μA・cm-2となったときの電界)が変化することがわかる。すなわち、各素子のしきい値電界は、アモルファス炭素膜をコーティングしていないAl:ZnOウイスカーのみの素子では14V・μm-1であるが、比較例1の素子では7.8V・μm-1、比較例2の素子では6.9V・μm-1であった。これに対して、実施例1の素子では3.5V・μm-1、また実施例2の素子では1.5V・μm-1であり、本発明のN-H終端に富むアモルファス窒化炭素膜を有する電子放出材料が、優れた電子放出特性をもつことがわかる。
【0046】
(発光現象)
上記実施例1及び2で得られた電子放出材料から、ハート形の冷陰極素子を製造し、これを電子源として赤色蛍光体薄膜(Y:Eu)を発光させたところ、明瞭な赤色に発光することが確認された。
【0047】
上記の具体例では、n型シリコン基板上に形成したAl:ZnOウイスカーの表面にアモルファス窒化炭素膜を形成した例について説明したが、基板やウイスカーの種類を変更し、或いはアモルファス窒化炭素膜に代えて微結晶窒化炭素膜を使用する、さらには、板状体の基板表面に窒化炭素膜を形成する等、種々変更できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子放出材料の1例を示す模式図である。
【図2】本発明の電子放出材料の他の例を示す模式図である。
【図3】本発明の電子放出材料の他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の電子放出材料に使用する導電性のウイスカーの製造装置を示す模式図である。
【図5】導電性ウイスカーのSEM写真である。
【図6】導電性のウイスカー上に窒化炭素膜を形成するマイクロ波プラズマCVD装置を示す模式図である。
【図7】導電性のウイスカー上に形成した窒化炭素膜のSEM写真である。
【図8】各実施例及び比較例で形成した窒化炭素膜の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図9】電子放出性素子の電子放出特性の測定装置の模式図である。
【図10】電子放出素子の電界放出特性を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
1、11、21 電子放出材料
2、12 基板
3、13 窒化炭素膜
14 ウイスカー
15 充填材料
30 ウイスカーの製造装置
31 窒素供給源
32、42 流量計
33 気化装置
34、35 配管
36、50 基板ステージ
37 液体窒素トラップ
38 吹き出し口
38a 開口部
40 マイクロ波プラズマCVD装置
41 アルゴン供給装置
43 五酸化二リントラップ
44、48 配管
45 マイクロ波発生装置
46 反応槽
47 原料供給槽
49 ノズル
51 真空ポンプ
60 電子放出特性測定装置
61、62 枠
63,64 Cu電極
65 導電性ペースト
66 スペーサー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9