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明細書 :レーザを用いた同位体分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4193981号 (P4193981)
公開番号 特開2005-069704 (P2005-069704A)
登録日 平成20年10月3日(2008.10.3)
発行日 平成20年12月10日(2008.12.10)
公開日 平成17年3月17日(2005.3.17)
発明の名称または考案の名称 レーザを用いた同位体分析方法
国際特許分類 G01N  27/64        (2006.01)
H01J  49/26        (2006.01)
FI G01N 27/64 B
H01J 49/26
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2003-208758 (P2003-208758)
出願日 平成15年8月26日(2003.8.26)
審査請求日 平成17年6月16日(2005.6.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】渡辺 賢一
【氏名】井口 哲夫
【氏名】河原林 順
個別代理人の代理人 【識別番号】100107009、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 隆生
審査官 【審査官】遠藤 孝徳
参考文献・文献 特開2000-088809(JP,A)
特開平07-209217(JP,A)
特開2000-231901(JP,A)
特表2001-521615(JP,A)
片山 淳,外2名,飛行時間型質量分析計への画像検出法導入による同位体比測定におけるダイナミックレンジの向上,分析化学,2003年 6月 5日,Vol. 52、No. 6,461-467
調査した分野 G01N 27/64
H01J 49/26
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ある同位体の共鳴吸収波長レーザー照射時でも、夫々の同位体シフトに対応するドップラー速度成分を持つ同位体が共鳴吸収励起により励起されるため、各同位体は夫々特有の速度成分を持ち、各同位体イオンが夫々僅かに異なる初速度を有することに基づく、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道の僅かな相違を利用して、各々の同位体を分離することを特徴とするレーザを用いた同位体分析方法。
【請求項2】
共鳴励起準位の小さい同位体シフトに起因する各同位体間の初速度の僅かな相違を、大きなイオン軌道の差が生ずるようにイオン引き抜き手段により強調して、各々の同位体を分離することを特徴とする請求項1記載のレーザを用いた同位体分析方法。
【請求項3】
レーザーにパルス発振のものを使用し、各同位体の質量差により生じるイオン検出器への到達時間差の情報を加味することで、より高分解能な同位体分析を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーザを用いた同位体分析方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はレーザを用いた同位体分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
特定の原子、分子或いは同位体を選択的に検出し、これらを質量分析する装置としては、図5に示すように、原子、分子の特定の準位間のエネルギーに対応する波長のレーザー光の共鳴吸収励起を基本とし、数個の光子によってより高い励起準位へ励起し、最終的にはイオンポテンシャルを越えるまで励起しイオン化するレーザー共鳴イオン化質量分析装置がある。この装置は特定の原子、分子を選択的にかつ高感度に検出できるという特徴を有する。
【0003】
現在、これらの装置はダイオキシンの分析等の環境計測分野でも良く用いられており、既に製品化されているが、現状ではこのレーザー共鳴イオン化質量分析は、気体試料に対しては確立しているものの、固体試料に対しては、未だ開発途上の段階である。
【0004】
原子のエネルギー準位は、基本的にはその元素によって決まるが、同一の元素でも図6に示すように、質量数の違い、つまり同位体によりエネルギー準位に僅かなズレ、即ち、同位体シフトがある。この同位体シフトを利用し、夫々の同位体を選択的に共鳴励起・イオン化し検出する方法も実現可能となってきている。
【0005】
レーザー共鳴イオン化法で固体試料を分析する際の簡便な固体試料の蒸気化法としては、図7に示すように、試料に蒸気化用レーザーを照射し試料蒸気を発生させ、これに通常の共鳴イオン化と同様に、共鳴イオン化用レーザーを照射して分析するレーザーアブレーション法がある。
【0006】
この方法の特徴は、分析前に試料の前処理を行う必要がなく、非常に簡便であり、高沸点材料にも適用可能という点である。しかしながら、この方法では感度を上げるために共鳴イオン化用レーザーを蒸気化スポットの極近傍に通し、より多くの蒸気原子を共鳴イオン化用レーザー内に導入する必要がある。
【0007】
このとき、試料蒸気原子温度は非常に高く、特に僅かな同位体シフトを利用し同位体選択的励起を行うような場合には、図8のドップラー拡がり効果を抑制することが必要不可欠となっている。上記のようなドップラー拡がり効果を抑制する一つの考え方として、蒸気原子の速度分布を狭めるというものがある。例えば、超音速分子線バルブや細径のクヌーセン型セル等を使用し、蒸気原子の進行方向を揃える方法である。
【0008】
また、Naの同位体比分析計として、1枚の金属電極と3枚のグリット電極とからなる電子レンズ系の所定位置へ金属Na蒸気とNa原子を光イオン化させるためのレーザー光とを導入することにより、金属Na原子を光イオン化し、生成したイオンの飛行時間の差からNa原子の同位体比を分析するものは知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
【特許文献1】
特開平7-209217号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように、レーザーアブレーション法で蒸気化し、かつ選択的励起用レーザーを蒸気化スポットの極近傍に通す場合、蒸気原子の進行方向を揃える方法を含め、速度分布を狭めることは非常に困難であり、感度が上がりにくかった。そこで本発明は、ドップラー効果を逆に利用して、非常に簡便かつ高精度に微量同位体の分析が可能なレーザを用いた同位体分析方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るレーザを用いた同位体分析方法は、ある同位体の共鳴吸収波長レーザー照射時でも、夫々の同位体シフトに対応するドップラー速度成分を持つ同位体が共鳴吸収励起により励起されるため、各同位体は夫々特有の速度成分を持ち、各同位体イオンが夫々僅かに異なる初速度を有することに基づく、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道の僅かな相違を利用して、各々の同位体を分離する構成とした。
【0012】
これにより、本発明のレーザを用いた同位体分析方法および装置は、固体試料に対し選択的イオン化を行うための種々の前処理などを必要としないで、励起される各同位体はそれぞれ特有の速度成分をもち、各同位体イオンは夫々わずかに異なる初速度をもつため、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道が僅かに異なるとを利用して、特定の同位体、特に非常に徴量な同位体を簡便かつ高精度に分析することができる。
【0013】
この発明の請求項2に係るレーザを用いた同位体分析方法は、ある同位体の共鳴吸収波長レーザー照射時でも、夫々の同位体シフトに対応するドップラー速度成分を持つ同位体が共鳴吸収励起により励起されるため、各同位体は夫々特有の速度成分を持ち、各同位体イオンが夫々僅かに異なる初速度を有することに基づく、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道の僅かな相違を利用し、共鳴励起準位の小さい同位体シフトに起因する各同位体間の初速度の僅かな相違を、大きなイオン軌道の差が生ずるようにイオン引き抜き手段により強調して、各々の同位体を分離する構成とした。
【0014】
これにより、共鳴励起準位の同位体シフトが小さいため、各同位体間の初速度の違いも僅かであるが、イオン引き抜き手段により初速度の僅かな違いを強調し、大きなイオン軌道の差が生ずるようにして、特に非常に徴量な同位体を簡便かつ高精度に分析することができる。
【0015】
この発明の請求項3に係るレーザを用いた同位体分析方法は、ある同位体の共鳴吸収波長レーザー照射時でも、夫々の同位体シフトに対応するドップラー速度成分を持つ同位体が共鳴吸収励起により励起されるため、各同位体は夫々特有の速度成分を持ち、各同位体イオンが夫々僅かに異なる初速度を有することに基づく、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道の僅かな相違を利用して、各々の同位体を分離するものにおいて、レーザーにパルス発振のものを使用し、各同位体の質量差により生じるイオン検出器への到達時間差の情報を加味することで、より高分解能な同位体分析を行う構成とした。
【0016】
これにより、本発明のレーザを用いた同位体分析方法は、固体試料に対し選択的イオン化を行うための種々の前処理などを必要としないで、特定の同位体、特に非常に徴量な同位体を簡便かつより高分解能に分析することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明は、従来技術の課題を解決するために、ドップラー効果を逆に利用するものである。次に、本発明の実施形態を図1乃至図4に基づいて以下に詳述する。本発明を実施する装置の概念図を図1に示す。図において、1は固体試料、2は共鳴励起用レーザー、3はイオン引き抜き電極、4は位置敏感型イオン検出器である。
【0026】
共鳴励起用レーザー2により固体試料1に含まれる、ある同位体の共鳴吸収波長レーザーの照射時でも、同位体シフトに対応するドップラー速度(Δν=ν・v/c、ν:周波数、v:速度、c:光速)成分をもつ同位体は、共鳴吸収励起を起こすため、励起される各同位体はそれぞれ特有の速度成分を有する。
【0027】
各同位体イオンは夫々わずかに異なる初速度をもつため、検出器へのイオン引き抜き時のイオン軌道が僅かに異なり、図中における「着目している同位体」と「着目していない同位体」の軌跡となって位置敏感型イオン検出器4の平面に到達する。これを利用し各々の同位体を分離する。
【0028】
しかし、共鳴励起準位の同位体シフトが小さいため、各同位体間の初速度の違いも僅かである。このため、この初速の僅かな違いを強調し、大きなイオン軌道の差が生じるように、イオン引き抜き電極構造3を設ける。図2において、縦軸に電位、横軸に電極構造3の一端から他端への距離、をそれぞれ表示する、速度差を強調する電位分布図に示すように、電極構造3により所定の電位分布を生じさせ、「着目している同位体」が電極構造3の中心を通れば直進するようにし、「着目していない同位体」は中心を外れているので、外方へ外方へとズレて行くようにして、位置敏感型イオン検出器4の平面に到達させる。
【0029】
位置敏感型イオン検出器4としては、可動式スリットを検出器前面に備えたものや蛍光面出力タイプのマイクロチャンネルプレートイオン検出器等の高分解能で位置情報を得られるものを採用することで、同時に多種類の同位体を測定することも可能であり、かつ非常に広いダイナミックレンジを有するものとなる。
【0030】
また、レーザーにパルス発振のものを使用し、各同位体の質量差により生じるイオン検出器への到達時間差の情報を加味することで、より高分解能な同位体分析を行うことがでる。本発明により非常に簡便かつ高精度に微量同位体の分析が可能になる。
【0031】
具体的実施例として、イオン軌道のモンテカルロ計算により、本方式の原理の検証を行った。図3は本発明を実施する装置の等価図であり、図1と同一物には同じ符号を付しており、1は固体試料、2は共鳴励起用レーザー、3はイオン引き抜き電極、4は位置敏感型イオン検出器である。この等価図の構成で計算すると、試料温度を3000度と仮定し、試料ガス中の40Caの共鳴吸収波長(422.792nm)をもつレーザーを照射したときの検出器面でのイオンの到達位置分布は図4のようになった。
【0032】
図4の検出器面でのイオン到達位置の表示から、本発明で40Caと42Ca(同位体シフト:400MHz)及びその他の同位体を弁別できることが判った。これにより、本発明は十分実施可能であることが理解できる。
【0033】
本発明のレーザを用いた同位体分析方法および装置は、極微量な核変換(人工的)生成長半減期核種の分析に用いることができる。一例としては、原子炉建家構造材の大部分を占めているコンクリート中に、中性子照射の結果生成する41Caの分析が挙げられる。
【0034】
今後増加するであろう原子炉解体時には廃材として大量にコンクリートが発生し、これが自然放射能レベル以下かどうかの評価法の精度で、コンクリート廃材を放射性廃棄物か否かのレベルが決定されるため、これにより処分すべき放射性廃棄物の量は大きく左右される。
【0035】
自然放射能レベル以下かどうかの評価を適切に行うためには、41Caのような微量かつ長半減期の核種も分析する必要があるが、現在、その有効な分析装置は存在せず、本発明はそのツールとして有力な候補の一つとなり得る。
【0036】
また、本発明は14C年代測定法のツールとしても有力な候補の一つとなり得、利用できる可能性がある。現在、14C年代測定法を行うには大型の加速質量分析装置が必要であり、かつ種々の前処理が必要であるため非常に手間がかかっていたが、本発明の同位体分析方法により大きく改善されることが期待できる。
【0037】
【発明の効果】
以上のように、本発明のレーザを用いた同位体分析方法は、同位体を選択的に励起・イオン化するため、特定の同位体、特に非常に徴量な同位体を高感度に分析することができる。また、従来、固体試料に対し同位体選択的イオン化法を行うには、種々の前処理などが必要で非常に手間が掛かっていたが、この前処理という余分な過程は分析結果の誤差の発生源であったが、前処理を必要としないと言うことは、高精度であると言うことを意味する。従って、本発明の同位体分析方法により、非常に簡便かつ高精度に徴量同位体の分析が可能となる。また、蛍光面出力タイプのマイクロチャンネルプレート等の位置敏感型イオン検出器を用いることで、同時に多種類の同位体を測定することも可能であり、かつ非常に広いダイナミックレンジを有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を実施する装置の概念図。
【図2】速度差を強調する電位分布図。
【図3】 本発明を実施する装置の等価図。
【図4】検出器面でのイオンの到達位置分布図。
【図5】レーザー光の共鳴吸収励起図。
【図6】同位体シフト図。
【図7】レーザーアブレーション法の概念図。
【図8】ドップラー効果の説明図。
【符号の説明】
1 固体試料
2 共鳴励起用レーザー
3 イオン引き抜き電極
4 位置敏感型イオン検出器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7