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明細書 :プロトン・電子混合伝導体及びその製造方法と用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4166641号 (P4166641)
公開番号 特開2005-067915 (P2005-067915A)
登録日 平成20年8月8日(2008.8.8)
発行日 平成20年10月15日(2008.10.15)
公開日 平成17年3月17日(2005.3.17)
発明の名称または考案の名称 プロトン・電子混合伝導体及びその製造方法と用途
国際特許分類 C04B  35/44        (2006.01)
C04B  41/80        (2006.01)
H01B   1/06        (2006.01)
C01F   7/16        (2006.01)
H01M   8/06        (2006.01)
FI C04B 35/44
C04B 41/80 A
H01B 1/06 A
C01F 7/16
H01M 8/06 R
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2003-209138 (P2003-209138)
出願日 平成15年8月27日(2003.8.27)
審査請求日 平成17年6月10日(2005.6.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】林 克郎
【氏名】平野 正浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】増山 淳子
参考文献・文献 国際公開第03/089373(WO,A1)
平野正浩 他,透明酸化物のナノ構造制御と電子・光・イオン物性,セラミックス,2003年 5月15日,38(5),pp.331-341
Katsuro Hayashi et al.,Light-induced conversion of an insulating refractory oxide into a persistent electronic conductor,Nature,2002年10月 3日,Vol.419,pp.462-465
調査した分野 C04B 35/44
C04B 41/80
C01F 7/16
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
水素アニオン及び水酸基を包接させた12CaO・7Al化合物、12SrO・7Al化合物、又は12CaO・7Al化合物と12SrO・7Al化合物との固溶体の水素アニオンから「電子」を熱解離させ、また、該化合物又は固溶体に包接されている水酸基、水素原子及び水素アニオン間の相互作用により「プロトン」を生じさせた、プロトンの輸率が、0.01以上であり、水素雰囲気中、温度700℃以上において、全伝導率1×10-3S・cm-1以上の値を示すことを特徴とするプロトン・電子混合伝導体。
【請求項2】
12CaO・7Al化合物、12SrO・7Al化合物、又は12CaO・7Al化合物と12SrO・7Al化合物との固溶体を水素雰囲気中で熱処理することにより、該化合物又は固溶体中に水素アニオン及び水酸基を包接させ、さらに該化合物又は固溶体を、1000ppm以上の水素を含む水素雰囲気中において、700℃以上1300℃以下に加熱して、該化合物又は固溶体中に含まれる水素種が該雰囲気と平衡になるように保持することを特徴とする請求項1に記載のプロトン・電子混合伝導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載されるプロトン・電子混合伝導体からなることを特徴とする水素透過材料。
【請求項4】
厚みが1μm以上2mm未満、相対密度95%以上の多結晶焼結層からなる自立した成形体又は多孔質基板に保持された薄膜として用い、温度700℃以上で、膜厚1mm換算で1×10-3cmSTP/分・cm以上の速度で水素ガスを透過することを特徴とする請求項記載の水素透過材料。
【請求項5】
請求項1に記載されるプロトン・電子混合伝導体からなることを特徴とする抵抗発熱体。
【請求項6】
水素透過性を有することを特徴とする請求項記載の抵抗発熱体。
【請求項7】
請求項6載の抵抗発熱体を透過膜として用い、該透過膜を通電によって700℃以上の温度に加熱し、1000ppm以上の水素ガスを含む混合ガス中の水素ガスを該透過膜中を透過させて混合ガス中から分離することを特徴とする混合ガス中から水素ガスを抽出する方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と記す。)化合物又はそれと同等の結晶構造を有する化合物又は固溶体からなる、水素及び水素同位体(以下、水素同位体を含めて「水素」と記す。)の陽イオン(以下、「プロトン」と記す。)・電子混合伝導体及びその製造方法、並びにその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、プロトンを伝導する固体物質(以下、「固体プロトン伝導体」と記す。)としては、高分子電解質、固体酸、ペロブスカイト型金属酸化物が代表的なものとして知られている。これらの固体プロトン伝導体は、水素を燃料として用いる燃料電池に不可欠な材料である他、水素センサーとして応用することもできる。
【0003】
高分子電解質としては、米国デュポン社のイオン交換膜(商標名「Nafion」)が良く知られている。高分子電解質中でのプロトン伝導は、オキソニウムイオンを介して行われるので、高分子電解質は、水分が保持される100℃以下の温度域でしか用いる事ができない。
【0004】
一方、最近、MHXOやMH(XO、(M=Cs,NH,Rb,X=S,Se)の化学式で表される固体酸からなる燃料電池が、150~160℃の温度域で動作することが示された(非特許文献1、特許文献1)。ここで用いられた固体酸化合物は、高分子電解質よりも高い温度域で用いることのできる材料であると考えられている。
【0005】
さらに、ペロブスカイト型金属酸化物は、600~1000℃のより高温度域で用いることのできる固体プロトン伝導体であり、一般的な組成は、A(B1-x)O3-d(A=Ba,Sr,Ca,B=Ce,Zr,R=Y,希土類)と表される(例えば、非特許文献2)。
【0006】
ペロブスカイト型金属酸化物を用いた燃料電池は、高温で動作するため、高価な白金系触媒が不要であるなど、酸素イオン伝導体を固体電解質として用いる固体酸化物燃料電池と共通した特長を有している。固体酸化物燃料電池の性能は電解質のイオン伝導度によって大きく影響され、イオン伝導率は高温ほど大きくなるので、電池の設計の難しさにもかかわらず、イオン伝導度が高くなる900℃以上の高温度で運転することが望ましいと考えられている。
【0007】
しかし、ペロブスカイト型金属酸化物では、約900℃以上の高温においては、プロトンの保持量が減少して、プロトン伝導度が増大しなくなるという欠点がある。また、ペロブスカイト型金属酸化物のプロトン伝導性を活用して、同酸化物を水素透過膜として応用することが提案されている。
【0008】
従来、パラジウム系合金が非常に良好な水素透過性を示すことから、同合金が水素透過膜として広く用いられている。水素の主要な工業的製造法として、炭化水素の水蒸気改質(例えば、メタン(CH)+水蒸気(HO)→3水素(H)+一酸化炭素(CO))がある。この製法で得られた水素を高分子電解質燃料電池に用いるためには、精製したガスから一酸化炭素を除去する必要がある。この際、水素透過膜を用いることによって、効率的な水素抽出が可能になる。パラジウム系合金膜を用いたメンブレンリアクター(隔膜反応槽)を用いれば、炭化水素の水蒸気改質と同時に水素抽出を行うことができ、反応温度を800℃から500℃に低下できることが報告されている(非特許文献3)。
【0009】
しかし、パラジウム系合金は高価であるため、水蒸気改質に適した温度は約800℃の高温にも係わらず、低価格化が期待される、プロトン伝導性を示すペロブスカイト型金属酸化物を用いた水素抽出が検討されている。パラジウム系合金の水素透過が原子状水素の拡散によって生じるのに対して、ペロブスカイト型金属酸化物においては、プロトン伝導と共存するホール又は電子伝導(以下、「プロトン-電子混合伝導」と記す。)によって水素透過が生じる。
【0010】
ペロブスカイト型金属酸化物においては、ホール又は電子伝導度がプロトン伝導度に比べて約2桁小さいため、水素透過率がパラジウム系合金よりも著しく小さくなっている。水素透過率を向上させるために、プロトン伝導度と共存するホール又は電子伝導度が高い新材料を見出すことが課題となっている。また、新材料の開発以外に、従来材料の薄膜化(非特許文献4)や金属との複合化(非特許文献5)によって、水素透過性を増加させる工夫もなされている。
【0011】
C12A7結晶は、2分子を含む単位胞にある66個の酸素のうち、2個は結晶格子には含まれず、結晶の中に存在するケージ内の空間に「フリー酸素」として存在する特異な特徴を持つ(非特許文献6)。
【0012】
これまで、このフリー酸素は種々のアニオンに置換できることが明らかにされた。本発明者らの一人である細野らは、CaCOとAl又はAl(OH)を原料として、空気中で1200℃の温度で固相反応により合成したC12A7結晶中に、活性酸素種の一つである超酸化物ラジカル(O)が1×1019cm-3程度の濃度で包接されていることを電子スピン共鳴の測定から発見し、フリー酸素の一部が超酸化物ラジカルの形でケージ内に存在するというモデルを提案している(非特許文献7、8)。さらに、フリー酸素の存在によって、C12A7結晶が、高い酸素イオン伝導性を示すことが報告されている(非特許文献9)。
【0013】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させ、1020cm-3以上の高濃度の活性酸素種を包接するC12A7化合物を新たに見出した。その化合物自体、その製法、包接イオンの取り出し手段、活性酸素イオンラジカルの同定法、及び該化合物の用途に関して、特許出願した(特許文献2)。
【0014】
また、該化合物中の水酸化物イオン(OH)など酸素以外のアニオン濃度を制御し、700℃付近で、活性酸素イオンの包接、取り出し方を新たに見出し、特許出願した(特許文献3)。さらに、活性酸素を高濃度に含むC12A7化合物に電場を印加して、高密度の酸素アニオンラジカル(O)によるイオン電流が取出せる事を新たに見出し、特許出願した(特許文献4)。
【0015】
また、本発明者は、水中、又は水分を含む溶媒中、又は水蒸気を含む気体中で水和反応させたC12A7化合物粉体を、酸素雰囲気中で焼成することにより、物理的なガス透過性のない緻密で、かつ、透光性を有するC12A7化合物を合成し、その化合物自体、製法、水酸化物イオンの同定法、及び該化合物の用途に関し、特許出願している(特許文献5)。
【0016】
また、C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ物質として、12SrO・7Al(以下、「S12A7」と記す)化合物(以下では、C12A7と同一の結晶構造をもつこうした物質を「同等化合物」と記す。)が知られている(非特許文献10)。本発明者らは、S12A7についても合成方法と活性酸素イオンの包接方法、該化合物の用途に関し、特許出願した(特許文献6)。
【0017】
一方、C12A7化合物を水素雰囲気中で800℃以上の温度で加熱すると酸素イオン伝導度よりも大きな高温電気伝導が観測され、その伝導性が急冷した場合のみ、700℃以下の温度域で保持されることが報告されている。直接的な証拠は示されなかったものの、この伝導性は電子伝導によるものであると推測されていた(非特許文献11)。
【0018】
本発明者らは、高温の水素雰囲気中で熱処理されたC12A7化合物を急冷することで結晶中に水素アニオンが導入され、得られたC12A7化合物の室温での紫外線照射によって、室温で絶縁体であったC12A7化合物が電子伝導体に永続的に変化し、加熱もしくは強い可視光の照射によって、再び絶縁状態に戻すことができることを見出し、該化合物の用途に関し、特許出願した(特許文献7)。
【0019】
また、本発明者らは、C12A7化合物中のフリー酸素を電子に置換することによって、紫外線照射が不要でかつ高温まで安定に持続する高い電子伝導性を発現させる方法、該化合物及びその用途に関し、特許出願した(特許文献8)。
【0020】
【非特許文献1】
S.M.Haile,他,Nature,410,910,2001
【非特許文献2】
H.Iwahara,Solid State Ionics,86-88,9,1996
【非特許文献3】
Y.M.Lin,他,Catal.Today,1351,1,1998
【非特許文献4】
S.Hamakawa,他,Solid State Ionics,48,71,1998
【非特許文献5】
G.Zhang,他,Electrochem.Solid State Lett.,5,J5,2002
【非特許文献6】
H.B.Bartl andT.Scheller,Neuses Jarhrb.Mineral.Monatsh.,1970,547
【非特許文献7】
H.Hosono andY.Abe,Inorg.Chem.,26,1193,1987
【非特許文献8】
H.Hosono andY.Abe,材料科学,第33巻,第4号,p171~172,1996
【非特許文献9】
M.Lacerda,他、Nature,332,525,1988
【非特許文献10】
O.Yamaguti他 J.Am.Ceram.Soc.,69,C-36,1986
【非特許文献11】
M.Lacerda,他,Solid State Ionics,59,257,1993
【特許文献1】
特願2000-596609(特表2002-536787号公報)
【特許文献2】
特願2001-49524(特開2002-003218号公報)
【特許文献3】
特願2001-226843(特開2002-40697号公報)
【特許文献4】
PCT/JP02/12959(WO 03/050037A1)
【特許文献5】
特願2001-117546(特開2002-316867号公報)
【特許文献6】
特願2002-045302(特開2003-238149号公報)
【特許文献7】
特願2002-117314(PCT/JP03/05016;WO03/089373A1)
【特許文献8】
特願2003-183605(PCT/JP2004/001507;WO2005/000741A1)
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
高温での水素透過膜としての可能性があると考えられているペロブスカイト型金属酸化物は、電子又はホール伝導度が小さく、そのために水素透過率が小さい。また、同化合物は、緻密化や薄膜化が困難であり、水素透過膜として、使用する事は困難であった。ペロブスカイト型金属酸化物など金属酸化物において、プロトン伝導と、電子またはホール伝導を同時に向上させることは、これまで実現されていなかった。こうした欠点を解決するために、高温で、高いプロトン-電子混合伝導率を有し、かつ緻密化や薄膜化が容易であるなど水素透過膜として優れた特徴を有する、ペロブスカイト型金属酸化物に替わる新規材料の開発が必要である。
【0022】
【課題を解決するための手段】
C12A7又はその同等化合物を水素雰囲気中で熱処理することにより、該化合物中に水素アニオン及び水酸基を包接させ、さらに該化合物を高温水素雰囲気において、該化合物に含まれる水素種が雰囲気と平衡になるように保持する事により、水素アニオンから「電子」を熱解離させ、また、該化合物に包接されている水酸基、水素原子及び水素アニオン間の相互作用により「プロトン」を生じさせ、プロトン-電子混合伝導性を大きくする。
【0023】
こうして得られた該化合物の高いプロトン-電子混合伝導性を利用して、例えば、高温水素雰囲気下における優れた水素透過性を得る。水素透過性を利用する場合は、水素ガス以外のガスの物理的な透過を防ぐために、該化合物を緻密化する、あるいは、ポーラスな基板上に緻密薄膜を形成する。さらに、抵抗発熱体としても使用できるので、自己発熱させた水素透過膜として使用できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の複合酸化物化合物又は固溶体からなるプロトン・電子混合伝導体を得るための出発物質とされるものは、C12A7又はその同等化合物である。同等化合物はC12A7化合物と同等の結晶構造をもつ12SrO・7Al又は12CaO・7Al化合物と12SrO・7Al化合物との固溶体である。
【0025】
C12A7としては、純粋なC12A7化合物でもよいし、熱処理中に、C12A7特有の結晶構造が破壊されない限りは、Caおよび/またはAlの一部を他の元素で置換した固溶体でもよい。Al3+の4/14をSi4+置換したCa12Al10Si35の結晶構造は、C12A7と同一であると報告されている(S.Fujita他、Chem.Mater.15, 255, 2003)。また、Alは微量のGa3+,Ge4+で置換可能であると考えられる。
【0026】
12SrO・7Alは12CaO・7Alの物CaをSr元素で全て置換した化合物であり、C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ。CaとSrの混合比は自由に変化させることができる。
【0027】
12CaO・7Al化合物と12SrO・7Al化合物との固溶体では、CaイオンのSrイオンによる置換率により、結晶格子定数が連続的に変化し、この結果、プロトン・電子混合伝導率及び水素透過率などの特性を、連続的に変化させる事ができる。
【0028】
C12A7又はその同等化合物にプロトン-電子混合伝導性を発現するために不要なアニオンが包接されていても、C12A7又はその同等化合物を水素雰囲気中で熱処理することにより、該C12A7又はその同等化合物中に水素アニオン及び水酸基を優先的に包接させることで、その後、高温水素雰囲気下に保持することでプロトン-電子混合伝導性や水素透過特性を得ることができる。
【0029】
本発明のプロトン・電子混合伝導体を製造するには、出発物質のC12A7又はその同等化合物を水素雰囲気中で熱処理することにより、該化合物中に水素アニオン及び水酸基を包接させ、さらに該化合物を、1000ppm以上の水素を含む窒素又は不活性ガス雰囲気、望ましくは、20体積%以上の水素を含有する窒素又は不活性ガス雰囲気中か100%水素の雰囲気中で、700℃以上1300℃以下の温度に、数分から数時間保持する。水素濃度が増えるほど電子伝導性が増すために、雰囲気の水素濃度は高いほど良い。また、前記熱処理の後に、該化合物をプロトン-電子混合伝導性を生じる使用条件に置いてもよい。使用条件、すなわち700℃以上の1000ppm以上の水素を含む雰囲気下に長時間平衡に達するように置かれた際に、プロトン輸率0.01以上、全伝導率1×10-3S・cm-1が得られるのに十分な水素化物イオン(水素アニオン)と水酸化物イオンがC12A7又はその同等化合物中に導入され、また、その濃度に応じた電子とプロトンへの熱解離が生じる。
【0030】
該化合物をプロトン-電子混合伝導性を生じる使用条件に置く場合は、前記の熱処理は、雰囲気を制御することのできる電気炉で前もって行うことが望ましい。また、該材料を水素透過膜又は水素雰囲気中での抵抗発熱体として用いる場合には、使用に適した形態に該材料を設置した後に、該材料の置かれた雰囲気に1000pp以上の濃度の水素ガスを導入しつつ、700℃以上に加熱してもよい。雰囲気と温度に応じて当該材料中のケージに、水素アニオンと水酸化物イオンが導入される。雰囲気の水素濃度が増加するほど包接される水素アニオンとその熱解離によって生じる電子、とプロトンが生成しやすくなり、プロトン-電子混合伝導性が大きくなる。雰囲気中の水素濃度が、1000ppm未満であると、約1×10-3S・cm-1以上の充分なプロトン-電子混合伝導性が得られなくなる。
【0031】
C12A7又はその同等化合物は、700℃以上1300℃以下の温度範囲において、高温になるほど水素アニオンと水酸化物イオンの濃度が増加する。図1に、C12A7に関して、その増加の様子を示した。図1は、実施例1の方法で熱処理されたC12A7緻密多結晶体に含まれる水素化物イオン(水素アニオン)(●)と水酸化物イオン(□)の、20体積%水素雰囲気中での平衡濃度を示している。700℃未満では、約1×10-3S・cm-1以上のプロトン-電子混合伝導性が発現するのに足る、水素アニオンが含まれない。また、C12A7又はその同等化合物は、水素雰囲気中で1350℃以上に加熱すると溶解ないし、結晶構造が変化してしまう。
【0032】
上記のとおりの条件で、水素ガスを含む雰囲気中で熱処理したC12A7又はその同等化合物は、水素雰囲気下、700℃以上の使用温度下では、酸素雰囲気中での酸素イオン伝導度に比較して、最大で2桁程度大きな全伝導度を示す。図2に、C12A7の全伝導率の温度変化を示す。
【0033】
図2は、実施例の方法で熱処理されたC12A7緻密多結晶体の20体積%水素雰囲気下での全伝導度の使用温度依存性を示す。比較のために、酸素雰囲気下でのC12A7における酸素イオン伝導度を破線で示した。ここで、全伝導度とは、電子伝導度、各種イオンの伝導度の総和を表す。この際の、全伝導度に占める各伝導種の割合、すなわち輸率は水素濃淡電池と水素雰囲気下でのイオンブロッキング法によって決定する事ができる。
【0034】
図3に、C12A7に関する電子、酸素イオン及びプロトンの輸率及びその使用温度依存性を示す。図3は、実施例の方法で熱処理されたC12A7緻密多結晶体の水素雰囲気下でのプロトンの輸率及び電子の輸率と、それらから見積もられた酸化物イオンの輸率を表したものである。
【0035】
この図3からわかる様に、全伝導率のうち、主な伝導を担うのは電子であるが、1000℃未満では酸化物イオン、1000℃以上ではプロトンの輸率が大きくなる。また、全伝導度と輸率から、電子伝導度、プロトン伝導度、酸素イオン伝導度が見積もられる。図4に、C12A7に関するこれらの値を示す。
【0036】
図4は、実施例の方法で熱処理されたC12A7緻密多結晶体の全伝導度及びプロトン、電子、酸化物イオンの輸率から見積もられた部分伝導度を示すものである。
【0037】
この図4には、比較のために、代表的な組成のペロブスカイト型金属酸化物の値を示した。1000℃以上の高温域では、当該C12A7中のプロトン伝導度は、ペロブスカイト型金属酸化物に比べてやや大きくなっている。さらに、電子伝導度は、当該C12A7が、ペロブスカイト型金属酸化物の電子伝導度に比較して約2桁大きく、その結果、全伝導率は、当該C12A7が著しく大きくなる。
【0038】
本発明のプロトン・電子混合伝導体を用いて水素ガスを抽出することができる。本発明のプロトン・電子混合伝導体の形態はプロトン-電子混合伝導性を利用する場合は、粉末、膜、多結晶体、単結晶のいずれの形態でもよいが、水素透過性を利用するためには、物理的なガス透過が生じるような開気孔のない、一般的には、厚みが1μm以上2mm未満で、相対密度95%以上の緻密多結晶焼結層とし、該プロトン・電子混合伝導体自体で自立している成形体、又は、水素ガスを透過しやすい多孔質基板に保持された薄膜として用いる。
【0039】
C12A7多結晶焼結体とした該プロトン・電子混合伝導体は、膜厚1mm換算で温度700℃以上で、1×10-3cmSTP/分・cm以上の速度で、水素ガスを透過する。ペロブスカイト系酸化物に比較して、運転温度が高いことも相まって、水素透過速度は格段に大きい。当該該プロトン・電子混合伝導体は酸化物イオン伝導性も有するため、温度が低くなるほど、水素ガスと共に水蒸気が透過する傾向があるが、他種のガスの透過性は皆無である。
【0040】
本発明のプロトン・電子混合伝導体を筒形に成形してその内部又は外部に水素を含むガスを導入して、水素を透過させる有効面積を増やすことにより、より効率的に水素透過及び水素抽出を行う事ができる。また、当該プロトン・電子混合伝導体の厚みが薄いほど水素透過速度が早くなるが、それにともなって自立に足る充分な強度が得られなくなる恐れがある。このために、多孔質で水素ガスが透過しやすく、充分な強度のある材質の上に緻密な当該プロトン・電子混合伝導体膜を形成することが有効である。
【0041】
本発明のプロトン・電子混合伝導体は、1000ppm以上の水素ガスを含む水素雰囲気下、1300℃~700℃の温度で10-3~10S/cmの抵抗率を持つため、数Vから数100Vの電圧印加によって、その温度を維持するのに足る抵抗発熱を得ることができる。すなわち、本発明のプロトン・電子混合伝導体は、水素雰囲気下における高温発熱体として用いることができる。本発明のプロトン・電子混合伝導体は、水素雰囲気下においても金属系発熱体に見られるような劣化や蒸発がないため発熱体として好適である。
【0042】
水素透過を効率的に得るためには、水素透過材料を特定の温度までに加熱する必要がある。通常、外部に設けたよる加熱源によって特定の温度が得られるが、熱効率を低下させる恐れがある。本発明のプロトン・電子混合伝導体は、700℃以上の温度域で抵抗加熱に好適な、電気抵抗を有するため、これを透過膜として使用して当該透過膜中に電流を印加して自己発熱させることができる。この特性を利用して、熱効率の良い水素ガス抽出系を構築することができる。
【0043】
【実施例】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
出発物質の調製
OH基を1020個/cm以上含むC12A7粉末を原料とした厚み3mm、直径20mmの成形体を乾燥酸素雰囲気で、1300℃に保持して、相対密度約99.5%に焼結し、透光性を持つC12A7多結晶体を得た。
【0044】
熱処理工程
作成した4個の該C12A7多結晶体試料を、雰囲気を制御することのできる管状電気炉を用いて、20体積%水素-80体積%窒素の混合ガス気流中でそれぞれ、820℃、950℃、1130℃、1300℃に保持し熱処理し、そのまま、該C12A7多結晶体中に含まれる水素種が雰囲気と平衡になるように保持した。平衡状態に達するに要する時間は、820℃では約40時間、1300℃では、約6時間であった。その後、水素化物イオン(水素アニオン)と水酸化物イオンの定量のために、同一雰囲気中で該C12A7多結晶体試料を電気炉の水冷された端部に速やかに移動させることで、1分以内に100℃以下にまで急速に冷却した
【0045】
イオン濃度の測定
前記の熱処理工程によって得られたC12A7多結晶体中に含まれる水酸化物イオンの濃度を赤外吸収測定により評価した。また、二次イオン質量分析によってC12A7多結晶体中に含まれる水素の全量を見積もり、水酸化物イオン中のプロトンに相当する分を差し引くことで、水素化物イオン(水素アニオン)濃度を定量した。図1に、水酸化物イオン(白四角)と水素化物イオン(水素アニオン)(黒丸)の熱処理温度における平衡濃度を表した。C12A7多結晶体を水素含有雰囲気中で熱処理した場合、熱処理温度が高くなるにつれて水酸化物イオンと水素化物イオン(水素アニオン)の平衡濃度が、共に増加することが示される。
【0046】
実施例2
全電気伝導度の測定
全伝導度を測定するために直径約15mm、厚み約1.5mmの緻密なC12A7円盤状多結晶体を実施例1と同じ方法で作製し、その両面に白金電極を予め形成して、上記実施例1と同様の熱処理を行った。
【0047】
C12A7多結晶体中に含まれる水素種が雰囲気と平衡状態に達してから、全電気伝導度を複素インピーダンス法によって測定した。この結果、図2に示す測定値の外挿線から分かる様に、該C12A7多結晶体は、水素含有雰囲気下で、試料温度700℃以上では、10-3S/cm以上の高い全電気伝導度を有することが判明した。また、700℃以上での全伝導率は、酸素雰囲気中で観測されるC12A7の酸素イオン伝導度よりも著しく大きいことが示されている。図2には、比較のために、酸素雰囲気下でのC12A7における酸素イオン伝導度を破線で示した。
【0048】
実施例3
プロトンの輸率の測定
直径約15mm、厚み約1.5mmの緻密なC12A7円盤状多結晶体を実施例1と同じ方法で作製し、その両面の中央に直径8mmの寸法の白金多孔質電極を形成した。これを、20体積%水素-80体積%窒素の混合ガス気流中で1300℃、6時間保持して熱処理した後、同一雰囲気中で1分以内に100℃以下にまで急速に冷却した。これの片面に直径14mmの白金ガスケットを介して、外径17mm、内径13mmのアルミナ管と、気密性を持つように高温融着させた。このアルミナ管の内側に外径6mmのアルミナ管を挿入して内部にガスを供給できるように設計された冶具を接続したものを、内径25mmのアルミナ管からなる雰囲気を制御した電気炉に装着した。
【0049】
以上によって、C12A7多結晶体によって隔てられた二つの隔室に異なったガスを導入できるようにした。更に、C12A7多結晶体に形成された白金電極間における電位差を測定できるように配線した。外径17mm、内径13mmのアルミナ管内部に1気圧の水素を、その外側に0.2気圧の水素(20体積%水素-80体積%窒素混合ガス)を供給しながら、図3に示すように、800~1300℃の温度でC12A7多結晶体中に含まれる水素種が雰囲気と平衡状態が達成されるように保持して、その際の起電力を測定した。
【0050】
プロトンの輸率をtH+とすると、観測される起電力は、E=RT/2F×tH+×ln0.2と表される。ここで、Rは気体定数、Tは温度、Fはファラデー定数、ln:自然対数、logの底がeのもの、をそれぞれ表す。見積もられた値は、図3中の黒四角のとおりであり、当該材料が水素を含有する雰囲気中で、プロトンを伝導して、その輸率が最大10%強程度になることが示された。
【0051】
実施例4
電子の輸率の測定と酸化物イオンの見積もり
直径約15mm、厚み約1.5mmの緻密なC12A7円盤状多結晶体を実施例1と同じ方法で作製し、その両面に多孔質白金電極を形成した。これを、20体積%水素-80体積%窒素の混合ガス気流中で1300℃、6時間保持し熱処理した後、同一雰囲気中で1分以内に100℃以下に冷却した。
【0052】
得られたC12A7円盤状多結晶体の片側に厚さ50μmの白金箔を挟んでアルミナ板上に高温融着させた。白金箔の一部を残した全面とC12A7円盤状多結晶体の側面をガラスフリット材を塗布して覆った。以上のものを約1200℃に加熱することによって、ガラスフリット材を溶融させ気密性を持たせた。すなわち、C12A7円盤状多結晶体の白金箔溶着側では、雰囲気ガスが試料に作用することができないが、反対側では、多孔質白金を通して雰囲気のガスが試料に作用することができる。
【0053】
以上のような状況下では、円盤状多結晶体両面の電極に電圧を印加した際に、C12A7内部の可動イオンが分極を起こすものの、連続的な電流を作ることができない。その結果、電子伝導性のみによる伝導度を評価することができる。20体積%水素-80体積%窒素雰囲気中で平衡状態が達成されるように保持した状態で電子伝導度の評価によって得られた結果が、図4中の白丸で表される値であり、輸率に換算したものが、図4中の黒丸にて表される値である。
【0054】
1000℃以上での電子の輸率とプロトンの輸率の和はほぼ1であり、実施例3と整合することが確認された。1000℃以下での電子とプロトンの輸率の和における1からの不足分は、酸化物イオン伝導性によるものと考えられる。見積もられる値は、図3中の白三角と、図4中の白三角で示した通りである。
【0055】
図4には、比較のために、報告されているBaCe0.9Sm0.13-dのデーター(H.Iwahara,他,J.Electrochem.Soc.,140,1687,1993)を点線で、SrCe0.950.053-dのデーター(J.Guan,他,SolidState Ionics,110,303,1998)を一点鎖線で示してある。1000℃以上の高温では、C12A7の全伝導率が、ペロブスカイト型金属酸化物に比較して著しく大きい事がわかる。酸化物イオン伝導度は、酸素雰囲気中でのそれに比べるとやや小さいが、類似した温度依存性を示している。従って、高温になるほど、酸化物イオンの伝導が抑制され、プロトン伝導性が相対的に大きくなることが示された。
【0056】
実施例
図5に、水素ガスの透過抽出系を模式的に表す。実施例1同じ方法で、直径約15mm、厚み約1mmの相対密度約95%に焼結した緻密なC12A7円盤状多結晶体を20体積%水素-80体積%窒素の混合ガス気流中で1300℃、6時間保持し熱処理した後、同一雰囲気中で1分以内に100℃以下に冷却した。得られた試料の両面に直径14mmの白金ガスケット4を介して、外径17mm、内径13mmのアルミナ管5Aと、気密性を持つように高温融着させた。このアルミナ管5Aの内側に外径6mmのアルミナ管5Bを挿入して内部にガスを供給できるように設計された冶具を接続したものを、内径25mmのアルミナ管5Cからなる雰囲気を制御した電気炉10に装着した。
【0057】
以上によって、C12A7多結晶体3を透過膜として隔てられた上下に配置された二つの隔室に異なったガスを導入できるようにした。また、電気炉の温度制御によってC12A7多結晶体3の温度を変化させた。C12A7多結晶体によって隔てられた片方の隔室に水素-窒素混合ガス導入口1から20体積%水素-80体積%窒素の混合ガスを50cpmの速度で流し水素-窒素混合ガス排出口2から排出し、もう片方の隔室に透過ガスの分析用としてヘリウムガス導入口6からヘリウムガスを50cpmの速度で流した。更に、外径17mmのアルミナ管5Aの外側には、アルゴンガス導入口8からアルゴンガスを50cpmの速度で流しアルゴンガス排出口9から排出した。
【0058】
ヘリウムガス排出口7から排出されたヘリウムガスに含まれる成分量を四重極質量分析計で測定することで、C12A7多結晶体のみを透過する水素の量を計測した。単位面積かつ単位時間あたりに厚み1.105mmのC12A7多結晶体を透過する水素の量(STP:標準温度・圧力換算)のC12A7多結晶体の使用温度依存性は、図6に示される通りである。水素透過量はC12A7多結晶体の温度の上昇と共に増加して、1300℃では約0.08cmSTP/min・cmの透過量を示した。これは、約1mm厚のペロブスカイト系酸化物にて報告されている値と比較して、1桁から2桁高い透過速度であり、当該C12A7多結晶体が高い水素透過性を示すことが証明された。また、有意な量の窒素の透過が検出されなかったことから、当該C12A7多結晶体によって水素を含有するガス中から水素を抽出できることが示された。
【0059】
【発明の効果】
本発明のプロトン・電子混合伝導体は、高温で水素を含有する雰囲気下での高いプロトン-電子混合伝導性を利用することで、水素を含有するガス中から、選択的水素透過性を利用して水素ガスを抽出することができる。例えば、メタンの水蒸気改質によって水素を生産する場合、一酸化炭素を分離して、水素ガスを抽出することが、とりわけ高分子電解質燃料電池用の燃料として用いる水素を生産する場合、に重要であるが、本発明のプロトン・電子混合伝導体の一酸化炭素の透過は皆無であるため、上記の用途に好適である。
【0060】
水素透過のためにしばしば用いられるパラジウム系合金は極めて高価である。また、ペロブスカイト系酸化物においては希土類元素がしばしば用いられるため原材料コストが比較的高い。本発明のプロトン・電子混合伝導体の原料であるカルシウムとアルミニウムは、極めて入手しやすく安価であるために、水素ガス抽出系を安価に構築することができる。また、ペロブスカイト系酸化物に比べて、当該原料は焼結の際の完全緻密化を達成し易いために、水素抽出の際の、不要なガスの物理的な透過を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で製造したC12A7緻密多結晶体に含まれる水素化物イオン(水素アニオン)(●)と水酸化物イオン(□)の、20体積%水素雰囲気中での平衡濃度を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例で製造したC12A7緻密多結晶体の、20体積%水素雰囲気下での全電気伝導度の使用温度依存性を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例で製造したC12A7緻密多結晶体の、水素雰囲気下でのプロトンの輸率及び電子の輸率と、それらから見積もられた酸化物イオンの輸率を表したグラフである。
【図4】図4は、実施例で製造したC12A7緻密多結晶体の、全伝導度及びプロトン、電子、酸化物イオンの輸率から見積もられた部分伝導度を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例のC12A7緻密多結晶体を透過膜として使用する水素ガスの透過抽出系を模式的に表した概念図である。
【図6】図6は、実施例におけるC12A7緻密多結晶体の水素透過速度の温度依存性を表したグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5