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明細書 :非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機と、遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5583701号 (P5583701)
登録日 平成26年7月25日(2014.7.25)
発行日 平成26年9月3日(2014.9.3)
発明の名称または考案の名称 非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機と、遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法
国際特許分類 F04D  29/66        (2006.01)
F04D  17/10        (2006.01)
FI F04D 29/66 J
F04D 17/10
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2011-553815 (P2011-553815)
出願日 平成23年2月3日(2011.2.3)
国際出願番号 PCT/JP2011/052274
国際公開番号 WO2011/099419
国際公開日 平成23年8月18日(2011.8.18)
優先権出願番号 201010110299.8
201010110311.5
優先日 平成22年2月9日(2010.2.9)
平成22年2月9日(2010.2.9)
優先権主張国 中華人民共和国(CN)
中華人民共和国(CN)
審査請求日 平成24年4月13日(2012.4.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
【識別番号】512088224
【氏名又は名称】清華大学
発明者または考案者 【氏名】ゼン シンチェン
【氏名】リン ルィン
【氏名】ザン ヤンジウィン
【氏名】ヤン ミンヤン
【氏名】馬場 隆弘
【氏名】玉木 秀明
個別代理人の代理人 【識別番号】100097515、【弁理士】、【氏名又は名称】堀田 実
審査官 【審査官】吉田 昌弘
参考文献・文献 特開2001-263296(JP,A)
特開2007-224789(JP,A)
特開2004-332734(JP,A)
調査した分野 F04D 29/66
F04D 17/10
特許請求の範囲 【請求項1】
回転駆動される回転軸(3)と、該回転軸に固定されるインペラ(5)とを備え、該インペラにより、前記回転軸の半径方向外側に吸入流体を送出して圧縮する遠心圧縮機であって、
前記インペラを囲む内周面を有するケーシング(7)を備え、
前記ケーシングの内部には、インペラ全羽根前縁(6a)より下流側位置からインペラ全羽根前縁より上流側位置へ流体を戻す還流路(9)が形成され、
該還流路は、前記内周面における前記下流側位置に開口して前記回転軸回りの周方向に形成される吸引リング溝(9a)と、前記内周面における前記上流側位置に開口して前記周方向に形成される還流リング溝(9b)と、を有し、
前記回転軸の軸方向における位置を軸方向位置とし、
前記吸引リング溝の軸方向位置の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称であることにより、前記還流路が無い場合にインペラ全羽根前縁より上流において生じる、前記周方向の流体圧力分布の不均一を低減するようになっており
前記吸引リング溝の前記周方向の位置が前記周方向に移行するに従って、前記吸引リング溝の軸方向位置は、インペラ全羽根前縁と反対側へ次第に移行し、その後、インペラ全羽根前縁側へ次第に移行して前記吸引リング溝の前記周方向の位置が前記周方向に1周する、ことを特徴とする非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機。
【請求項2】
回転駆動される回転軸(3)と、該回転軸に固定されるインペラ(5)とを備え、該インペラにより、前記回転軸の半径方向外側に吸入流体を送出して圧縮する遠心圧縮機であって、
前記インペラを囲む内周面を有するケーシング(7)を備え、
前記ケーシングの内部には、インペラ全羽根前縁(6a)より下流側位置からインペラ全羽根前縁より上流側位置へ流体を戻す還流路(9)が形成され、
該還流路は、前記内周面における前記下流側位置に開口して前記回転軸回りの周方向に形成される吸引リング溝(9a)と、前記内周面における前記上流側位置に開口して前記周方向に形成される還流リング溝(9b)と、を有し、
前記吸引リング溝の幅の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称になっている、ことを特徴とする非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機。
【請求項3】
回転駆動される回転軸(3)と、該回転軸に固定されるインペラ(5)とを備え、該インペラにより、前記回転軸の半径方向外側に吸入流体を送出して圧縮する遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法であって、
前記遠心圧縮機は、前記インペラを囲む内周面を有するケーシング(7)を備えるものであり、
前記ケーシングの内部に、インペラ全羽根前縁(6a)より下流側位置からインペラ全羽根前縁より上流側位置へ流体を戻す還流路(9)を形成し、
該還流路は、前記内周面における前記下流側位置に開口して前記回転軸回りの周方向に形成される吸引リング溝(9a)と、前記内周面における前記上流側位置に開口して前記周方向に形成される還流リング溝(9b)と、を有し、
前記吸引リング溝の幅の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称になるように前記還流路を形成することにより、前記還流路が無い場合にインペラ全羽根前縁より上流において生じる、前記周方向の流体圧力分布の不均一を低減する、ことを特徴とする遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法。
【請求項4】
回転駆動される回転軸(3)と、該回転軸に固定されるインペラ(5)とを備え、該インペラにより、前記回転軸の半径方向外側に吸入流体を送出して圧縮する遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法であって、
前記遠心圧縮機は、前記インペラを囲む内周面を有するケーシング(7)を備えるものであり、
前記ケーシングの内部に、インペラ全羽根前縁(6a)より下流側位置からインペラ全羽根前縁より上流側位置へ流体を戻す還流路(9)を形成し、
該還流路は、前記内周面における前記下流側位置に開口して前記回転軸回りの周方向に形成される吸引リング溝(9a)と、前記内周面における前記上流側位置に開口して前記周方向に形成される還流リング溝(9b)と、を有し、前記吸引リング溝の前記周方向の位置が前記周方向に移行するに従って、前記吸引リング溝の軸方向位置は、インペラ全羽根前縁と反対側へ次第に移行し、その後、インペラ全羽根前縁側へ次第に移行して前記吸引リング溝の前記周方向の位置が前記周方向に1周し、
前記回転軸の軸方向における位置を軸方向位置とし、
前記吸引リング溝の軸方向位置の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称になるように前記還流路を形成することにより、前記還流路が無い場合にインペラ全羽根前縁より上流において生じる、前記周方向の流体圧力分布の不均一を低減する、ことを特徴とする遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機と、遠心圧縮機に非対称自己循環ケーシングトリートメントを設ける方法に関する。遠心圧縮機は、車両や船舶用過給機、産業用圧縮機、航空エンジンなど、各種用途のターボ機械に用いられる。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機を用いたターボ式圧縮機は、往復動式圧縮機に対し、効率が高く、重量が軽く、運転が安定している等の長所があるものの、その許容作動範囲(すなわち、遠心圧縮機への流量値の範囲)は限られている。遠心圧縮機の小流量作動点(すなわち、圧縮機への流量が小さい場合)では、内部の流れ場において大幅な流体剥離などの現象が生じ、不安定な動作の現象が生じて、失速ひいてはサージをもたらす。その結果、圧縮機の効率と圧力比の急速な低下を招き、寿命が短縮し、ひいては、短時間内に損傷してしまう。そのため、様々な方法を採用することで、圧縮機の失速等の不安定な現象の発生を遅延して、その安定した作動範囲を拡大させている。
【0003】
安定した作動範囲を拡大させるために、遠心圧縮機にケーシングトリートメントを設けている。例えば、特許文献1~5のように、遠心圧縮機のインペラを囲むケーシングの内周面において、インペラの前縁より下流の吸引リング溝と、インペラの前縁より上流の還流リング溝を形成している。この構成で、遠心圧縮機への流量が少なくなった場合、ケーシング内周面に区画される流路内の流体を、吸引リング溝からケーシング内部へ流入させ、この流体を、還流リング溝から、インペラの前縁より上流にて前記流路に戻す。その結果、インペラへの流量が増加し、遠心圧縮機の動作が安定する。このようにして、安定した作動範囲を拡大させている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特許第3001902号
【特許文献2】特開2007-127109号公報
【特許文献3】特許第4100030号
【特許文献4】特許第4107823号
【特許文献5】米国特許第4930979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来においては、周方向の不均一圧力分布は考慮されていなかった。すなわち、遠心圧縮機におけるインペラから送出される流体の流路となるスクロール流路が回転軸に関して非対称の形状を有するため、遠心圧縮機出口側の流体に周方向の不均一圧力分布が生じてしまう。その結果、上流の流れ場にも影響を及ぼして、遠心圧縮機の入口の周方向流れ場が回転軸に関して非対称となることを招いてしまう。従来のケーシングトリートメントでは、回転軸に関して対称の吸引リング溝を形成するので、遠心圧縮機の内部の流れ場の非対称性を考慮できていない。すなわち、ケーシングトリートメントが全周にわたって最適化できていない。そのため、遠心圧縮機の安定した作動範囲の拡大に限界が生じている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機において、効率を下げることなく、安定した作動範囲をさらに拡大することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、回転駆動される回転軸(3)と、該回転軸に固定されるインペラ(5)とを備え、該インペラにより、前記回転軸の半径方向外側に吸入流体を送出して圧縮する遠心圧縮機であって、
前記インペラを囲む内周面を有するケーシング(7)を備え、
前記ケーシングの内部には、インペラ全羽根前縁(6a)より下流側位置からインペラ全羽根前縁より上流側位置へ流体を戻す還流路(9)が形成され、
該還流路は、前記内周面における前記下流側位置に開口して前記回転軸回りの周方向に形成される吸引リング溝(9a)と、前記内周面における前記上流側位置に開口して前記周方向に形成される還流リング溝(9b)と、を有し、
前記回転軸の軸方向における位置を軸方向位置とし、
前記吸引リング溝の軸方向位置または幅の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称になっている、ことを特徴とする非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機が提供される。
なお、「非対称自己循環ケーシングトリートメント」について、「自己循環」とは、上述の還流路により流体が循環することをいい、「非対称ケーシングトリートメント」とは、吸引リング溝において、その軸方向位置または幅の周方向分布が、前記回転軸に関して非対称になっている構成をいう。
【0008】
すなわち、前記還流路が無い場合には、インペラ全羽根前縁より上流において前記周方向の流体圧力分布が不均一となり、
前記流体圧力分布の不均一を低減するように、吸引リング溝の軸方向位置または軸方向幅を周方向位置に応じて変化させている。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明によると、前記吸引リング溝の軸方向位置または幅の前記周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称になっているので、効率を下げることなく、安定した作動範囲をさらに拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態または第2実施形態による遠心圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1の遠心圧縮機をその軸方向から見た模式図である。
【図3A】第1実施形態または第2実施形態による還流路の各パラメータを示す模式図である。
【図3B】図3Aの還流路を示す。
【図4】ケーシング内周面における流体圧力の周方向の分布の一例を示す。
【図5A】インペラ全羽根前縁に対する、吸引リング溝の軸方向距離S分布を示す。
【図5B】インペラ全羽根前縁に対する、吸引リング溝の最適な軸方向距離S分布を示す。
【図6A】第1実施形態による非対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、従来の軸対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、ケーシングトリートメントを設けない場合との間で、圧力比を比較したグラフである。
【図6B】第1実施形態による非対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、従来の軸対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、ケーシングトリートメントを設けない場合との間で、効率を比較したグラフである。
【図7A】吸引リング溝の幅b分布を示す。
【図7B】吸引リング溝の最適な幅b分布を示す。
【図8A】第2実施形態による非対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、従来の軸対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、ケーシングトリートメントを設けない場合との間で、圧力比を比較したグラフである。
【図8B】第2実施形態による非対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、従来の軸対称ケーシングトリートメントを設けた場合と、ケーシングトリートメントを設けない場合との間で、効率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。

【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による、非対称自己循環ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機10の縦断面図である。遠心圧縮機10は、回転駆動される回転軸3と、該回転軸3に固定されるインペラ5とを備え、該インペラ5により、回転軸3の半径方向外側のスクロール流路4に吸入流体を送出して圧縮する。インペラ5は、インペラ全羽根6とインペラ半羽根8とを有する。図1において、符号6aは、インペラ全羽根前縁を示し、符号6bは、インペラ全羽根後縁を示し、符号8aは、インペラ半羽根前縁を示し、符号8bは、インペラ半羽根後縁を示す。前縁は、上流端を意味し、後端は下流端を意味する。
なお、第1実施形態において、回転軸3回りの周方向を単に周方向といい、回転軸3と平行な方向を単に軸方向といい、回転軸3に対する半径方向を単に半径方向といい、前記周方向における位置を単に周方向位置といい、前記軸方向における位置を単に軸方向位置という。

【0013】
遠心圧縮機10は、さらに、インペラ全羽根6を囲むように周方向に延びる内周面7aを有するケーシング7を備える。ケーシング7の内部には、インペラ全羽根前縁6aより下流側位置からインペラ全羽根前縁6aより上流側位置へ流体を戻す還流路9が形成される。前記下流側位置は、図1の例では、インペラ全羽根前縁6a(軸方向における最上流位置)と、インペラ全羽根後縁6b(軸方向における最下流位置)との間にある。

【0014】
還流路9は、吸引リング溝9aと還流リング溝9bとリング案内路(リング案内溝)9cとを有する。吸引リング溝9aは、内周面7aにおける前記下流側位置に開口して周方向に延びる。吸引リング溝9aは、その開口位置からケーシング7内ヘ半径方向に延びている。還流リング溝9bは、内周面7aにおける前記上流側位置に開口して周方向に延びる。還流リング溝9bは、その開口位置からケーシング7内ヘ半径方向に延びている。リング案内路9cは、軸方向に延びて、吸引リング溝9aと還流リング溝9bを連通させている。リング案内路9cは、図1において、閉塞部材11により閉じられている。
なお、第1実施形態において、吸引リング溝9a、還流リング溝9b、およびリング案内路9cの「リング」とは、これらが軸方向から見てリング状であることを意味する。

【0015】
図2に示すスクロール流路4の非対称性により、吸引リング溝9aにおける流れ場は、回転軸3に関して対称性を有しなくなる。図1では、回転軸3を境界として、一方側(図1の上側)のみを示しているが、図2では、軸方向から見た回転軸3とスクロール流路4とインペラ全羽根6の全体を示している。図2のように、インペラ全羽根6へ流入した吸入流体は、インペラ全羽根6により、半径方向外側に位置するスクロール流路4へ送出され、該スクロール流路4内を周方向に流れながら、半径方向外側へ流れていく。図2のように、スクロール流路4の形状は、対称性を有しないので、スクロール流路4において流体の流れ場(流体の圧力や流量)も対称性を有しない。このような流れ場の非対称性は、スクロール流路4よりも上流側の流れ場にも影響を与える。その結果、吸引リング溝9aにおいても流れ場は、対称性を有しなくなる。

【0016】
そのため、第1実施形態と違って、還流路9が無い場合には、インペラ全羽根前縁6aより下流において(例えば、吸引リング溝9aの軸方向位置、インペラ全羽根6の軸方向中間部またはスクロール流路4において)、周方向の流体圧力分布は、不均一となる。
また、第1実施形態と違って、還流路9を、回転軸3に関し対称に形成した場合には、すなわち、還流路9の吸引リング溝9aの軸方向位置を、各周方向位置の間で一定にした場合には、インペラ全羽根前縁6aより下流において周方向の流体圧力分布は、不均一となる。
また、インペラ全羽根前縁6aより下流で圧力が低い周方向位置では、インペラ全羽根前縁6aより上流でも圧力が低くなる。従って、インペラ全羽根前縁6aより下流における周方向の流体圧力分布と、インペラ全羽根前縁6aより上流における周方向の流体圧力分布とは、同様の分布となる場合が多い。

【0017】
第1実施形態によると、吸引リング溝9aの軸方向位置の前記周方向における分布が、回転軸3に関して非対称になっている。
すなわち、第1実施形態によると、インペラ全羽根前縁6aより上流における前縁6a付近(以下、圧力分布修正軸方向位置という)での前記流体圧力分布の不均一を低減するように、各周方向位置における吸引リング溝9aの軸方向位置を、周方向位置に応じて変化させている。なお、還流リング溝9bの軸方向位置は、圧力分布修正軸方向位置と同じか、または、圧力分布修正軸方向位置より上流側である。

【0018】
本発明の実施形態についてより詳しく説明する。

【0019】
図3Aは、還流路9の各パラメータを示す。図3Bは、図3Aの還流路を示す。Sは、吸引リング溝9aの軸方向位置に相当し、インペラ全羽根前縁6aから吸引リング溝9aまでの軸方向距離である。bは、吸引リング溝9aの軸方向幅である。Sは、還流リング溝9bの軸方向位置に相当し、インペラ全羽根前縁6aから還流リング溝9bまでの軸方向距離である。bは、還流リング溝9bの軸方向幅である。bは、リング案内路9cの半径方向幅である。hは、吸引リング溝9aまたは還流リング溝9bの深さである。

【0020】
上述の各寸法のうち、Sまたはbが、遠心圧縮機10の安定した作動範囲に最も影響を与える。すなわち、上述の各寸法のうち、Sまたはbは、吸引リング溝9aと還流リング溝9bとの圧力差、および、還流路9における流体の流量に与える影響が最も大きい。
そこで、第1実施形態では、Sを、圧力分布修正軸方向位置での流体圧力分布の不均一さを低減するように各周方向位置毎に調整している。

【0021】
図4は、圧力分布修正軸方向位置での周方向における前記流体圧力分布の一例を示す。図4において、横軸は、回転軸3回りの位相角(すなわち周方向位置)を示し、縦軸は、流体の圧力を正規化して示している。図4の例では、図4における白い四角印は、実験により計測した流体圧力を示す。図4の位相角のうち、0°を図2に示している。

【0022】
図5Aは、図4に示す流体圧力分布の不均一を低減するための、各周方向位置における吸引リング溝9aの軸方向位置(すなわち、上記のS)を示す。図5Aにおいて、横軸は、回転軸3回りの位相角(すなわち、周方向位置)を示し、縦軸は、インペラ全羽根前縁6aから吸引リング溝9aまでの軸方向距離Sを示す。図5Aの位相角に関して、図2において、0°の位置、及び、θの位置を示している。

【0023】
遠心圧縮機10への流量が小さい作動時において、還流路9により、インペラ全羽根前縁6aより下流側から上流側へ一部の流体が戻される。これにより、インペラ全羽根6へ吸い込まれる流量を増加させる。従って、流体に対するインペラ全羽根6の迎角を小さくすることができ、流体剥離、失速、サージなどを防止できる。その結果、遠心圧縮機10の安定した作動範囲が拡大する。
第1実施形態では、さらに、図5AのようなSを有する吸引リング溝9aにより、圧力分布修正軸方向位置における周方向の流体圧力分布の不均一を低減するので、流体剥離、失速、サージなどを一層効果的に抑制できる。その結果、遠心圧縮機10の安定した作動範囲をさらに拡大することができる。
【実施例1】
【0024】
図5Bは、数値シミュレーションにより得た最適なSの分布を示す。この数値シミュレーションにおいては、還流路9の構造を示す各パラメータを、b=4.8mm、S=15.0mm、b=10.0mm、b=13.0mm、h=8.0mm、開始位相角θ=0°としている。
【実施例1】
【0025】
図6Aは、流量に対する遠心圧縮機の圧力比を示す。図6Aにおいて、横軸は、遠心圧縮機への流量を正規化した値で示し、縦軸は、遠心圧縮機の圧力比を比率で示している。
図6Bは、流量に対する遠心圧縮機の効率を示す。図6Bにおいて、横軸は、遠心圧縮機への流量を正規化した値で示し、縦軸は、遠心圧縮機の効率を比率で示す。
【実施例1】
【0026】
なお、遠心圧縮機の効率は、次の[数1]で表わされる。
【数1】
JP0005583701B2_000002t.gif

【実施例1】
【0027】
この式において、Cは定圧比熱であり、T1tは遠心圧縮機の入口側の温度であり、T2tは遠心圧縮機の出口側の温度であり、P1tは遠心圧縮機の入口側の圧力であり、P2tは遠心圧縮機の出口側の圧力であり、γは比熱比である。
【実施例1】
【0028】
また、図6A、図6Bにおいて、黒い四角印と、この四角印上を通過する実線による曲線は、第1実施形態の実施例(すなわち、非対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機)の場合を示す。なお、図6A、図6Bにおいて、ケーシングトリートメントをCTと略して表示している。図6A、図6Bにおいて、白い四角印と、この四角印上を通過する1点鎖線よる曲線は、吸引リング溝9aの軸方向位置が各周方向位置において一定である還流路を有する従来の遠心圧縮機(すなわち、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機)の場合を示す。図6A、図6Bにおいて、白丸印と、この丸印上を通過する破線による曲線は、還流路を有しない遠心圧縮機(すなわち、ケーシングトリートメントを有しない遠心圧縮機)の場合を示す。
【実施例1】
【0029】
図6A、図6Bにおいて、Paは、本発明の実施例がサージを発生しない小流量側の限界作動点を示し、Pbは、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機がサージを発生しない小流量側の限界作動点を示し、Pcは、ケーシングトリートメントを有しない遠心圧縮機がサージを発生しない小流量側の限界作動点を示す。これら限界作動点Pa、Pb、Pcは、本発明の実施例により、安定した作動範囲が一層拡大することを示している。すなわち、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機では、サージが発生しない安定作動範囲(流量範囲)が、ケーシングトリートメントを有しない遠心圧縮機よりも7.7%だけ拡大しており、本発明の実施例では、サージが発生しない安定作動範囲(流量範囲)が、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機よりも3.3%だけさらに拡大している。
【実施例1】
【0030】
図6Bから分かるように、本発明の実施例では、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機と比較して、効率が低下していない。
【実施例1】
【0031】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による遠心圧縮機10を説明する。第2実施形態において、以下で説明しない点は、上述の第1実施形態と同じである。
【実施例1】
【0032】
吸引リング溝9aの軸方向位置の周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称となるようにする代わりに、第2実施形態では、吸引リング溝9aの幅の周方向における分布が、前記回転軸に関して非対称となるようにする。
【実施例1】
【0033】
図7Aは、図4に示す流体圧力分布の不均一を低減するための、各周方向位置における吸引リング溝9aの幅(すなわち、上記のb)を示す。図7Aにおいて、横軸は、回転軸3回りの位相角(すなわち、周方向位置)を示し、縦軸は、吸引リング溝9aの幅bを示す。図7Aの位相角に関して、図2において、0°の位置、及び、θの位置を示している。
【実施例1】
【0034】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、図7Aのようなbを有する吸引リング溝9aにより、圧力分布修正軸方向位置における周方向の流体圧力分布の不均一を低減するので、流体剥離、失速、サージなどを一層効果的に抑制できる。その結果、遠心圧縮機10の安定した作動範囲をさらに拡大することができる。
【実施例2】
【0035】
図7Bは、数値シミュレーションにより得た最適なbの分布を示す。この数値シミュレーションにおいては、還流路の構造を示す各パラメータを、S=5mm、S=15.0mm、b=10.0mm、b=13.0mm、h=8.0mm、開始位相角θ=0°としている。
【実施例2】
【0036】
図8Aは、流量に対する遠心圧縮機の圧力比を示す。図8Aにおいて、横軸は、遠心圧縮機への流量を正規化した値で示し、縦軸は、遠心圧縮機の圧力比を比率で示している。
図8Bは、流量に対する遠心圧縮機の効率を示す。図8Bにおいて、横軸は、遠心圧縮機への流量を正規化した値で示し、縦軸は、遠心圧縮機の効率を比率で示す。
【実施例2】
【0037】
また、図8A、図8Bにおいて、黒い四角印と、この四角印上を通過する実線による曲線は、第2実施形態の実施例(すなわち、非対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機)の場合を示す。なお、図8A、図8Bにおいて、ケーシングトリートメントをCTと略して表示している。図8A、図8Bにおいて、黒い三角印と、この三角印上を通過するに実線よる曲線は、吸引リング溝9aの軸方向位置が各周方向位置において一定である還流路を有する従来の遠心圧縮機(すなわち、軸対称ケーシングトリートメントを有する遠心圧縮機)の場合を示す。図8A、図8Bにおいて、白丸印と、この丸印上を通過する破線による曲線は、還流路を有しない遠心圧縮機(すなわち、ケーシングトリートメントを有しない遠心圧縮機)の場合を示す。
【実施例2】
【0038】
図8A、図8Bから分かるように、本発明の実施例に基づいた非対称ケーシングトリートメントを遠心圧縮機に備えることにより、軸対称ケーシングトリートメントを備えた場合、および、ケーシングトリートメントを備えない場合と比較して、基本的に同じ効率を維持しつつ、安定した作動範囲を拡大することができる。
【実施例2】
【0039】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
3 回転軸、4 スクロール流路、5 インペラ、6 インペラ全羽根、
6a インペラ全羽根前縁、6b インペラ全羽根後縁、7 ケーシング、
7a ケーシングの内周面、8 インペラ半羽根、8a インペラ半羽根前縁、
8b インペラ半羽根後縁、9 還流路、9a 吸引リング溝、
9b 還流リング溝、9c リング案内路、10 遠心圧縮機、11 閉塞部材

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図4】
4
【図5A】
5
【図5B】
6
【図6A】
7
【図6B】
8
【図7A】
9
【図7B】
10
【図8A】
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【図8B】
12