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明細書 :磁場発生装置、マグネトロンカソード及びスパッタ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4948681号 (P4948681)
登録日 平成24年3月16日(2012.3.16)
発行日 平成24年6月6日(2012.6.6)
発明の名称または考案の名称 磁場発生装置、マグネトロンカソード及びスパッタ装置
国際特許分類 C23C  14/35        (2006.01)
C23C  14/34        (2006.01)
C03C  17/245       (2006.01)
FI C23C 14/35 E
C23C 14/34 Q
C03C 17/245 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2011-541971 (P2011-541971)
出願日 平成23年8月30日(2011.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2011/069597
国際公開番号 WO2012/035970
国際公開日 平成24年3月22日(2012.3.22)
優先権出願番号 PCT/JP2010/065749
優先日 平成22年9月13日(2010.9.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年10月4日(2011.10.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
【識別番号】505383316
【氏名又は名称】中国科学技▲術▼大学
発明者または考案者 【氏名】孔 為
【氏名】林 子敬
【氏名】李 明
【氏名】謝 斌
【氏名】王 海千
【氏名】姜 友松
【氏名】長江 亦周
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100111419、【弁理士】、【氏名又は名称】大倉 宏一郎
審査官 【審査官】櫻木 伸一郎
参考文献・文献 特開2009-149973(JP,A)
特開2005-8917(JP,A)
調査した分野 C23C 14/35
C23C 14/34
特許請求の範囲 【請求項1】
ターゲットの背面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線に基づく磁場を発生させる磁場発生装置において、
前記ターゲットの面に対して平行な方向に極軸を持つ環状の第1の磁石体と、
前記第1の磁石体の内側に配置され、前記第1の磁石体の極軸の方向と平行な方向に極軸を持つ第2の磁石体と、
前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体を背面から支持する透磁性の基盤と、
前記ターゲットの表面の磁界分布を変動させる磁界分布変動部材とを有し、
前記磁界分布変動部材は、前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体の間に、かつ前記基盤によって背面から支持されるように配置されていることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁場発生装置において、
前記第2の磁石体は、環状磁石体で構成されており、
前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体の双方とも、小磁石を、一方の磁極が外側面側に、他方の磁極が内側面側を向くように複数配列して形成した磁石集合体で構成されていることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁場発生装置において、
前記小磁石は、底面の形状が四角形、三角形又は扇形の柱体であることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項記載の磁場発生装置において、
前記磁界分布変動部材は、前記第1の磁石体の高さの40~60%の高さを持つことを特徴とする磁場発生装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項記載の磁場発生装置において、
前記磁界分布変動部材は、透磁率が50以上の材料で構成されていることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項6】
ターゲットの背面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線に基づく磁場を発生させる磁場発生装置を有するマグネトロンカソードにおいて、
前記磁場発生装置は、
前記ターゲットの面に対して平行な方向に極軸を持つ環状の第1の磁石体と、
前記第1の磁石体の内側に配置され、前記第1の磁石体の極軸の方向と平行な方向に極軸を持つ第2の磁石体と、
前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体を背面から支持する透磁性の基盤と、
前記ターゲットの表面の磁界分布を変動させる磁界分布変動部材とを有し、
前記磁界分布変動部材は、前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体の間に、かつ前記基盤によって背面から支持されるように配置されていることを特徴とするマグネトロンカソード。
【請求項7】
マグネトロンカソードを備えたスパッタ装置において、
前記マグネトロンカソードは、ターゲットの背面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線に基づく磁場を発生させる磁場発生装置を有し、
前記磁場発生装置は、
前記ターゲットの面に対して平行な方向に極軸を持つ環状の第1の磁石体と、
前記第1の磁石体の内側に配置され、前記第1の磁石体の極軸の方向と平行な方向に極軸を持つ第2の磁石体と、
前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体を背面から支持する透磁性の基盤と、
前記ターゲットの表面の磁界分布を変動させる磁界分布変動部材とを有し、
前記磁界分布変動部材は、前記第1の磁石体及び前記第2の磁石体の間に、かつ前記基盤によって背面から支持されるように配置されていることを特徴とするスパッタ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置、マグネトロンカソード及びスパッタ装置に関する。特に、スパッタ技術に関し、磁場によりプラズマをターゲット近傍に閉じ込めるマグネトロンスパッタ法を利用したスパッタ技術(マグネトロンスパッタ)に好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法では、被処理物であるターゲットの背面に、複数の磁石を備えた磁場発生装置が配置されるマグネトロンスパッタが主流である。マグネトロンスパッタは、ターゲット表面に磁石による磁場を形成し、電子のドリフト運動を利用してプラズマをターゲット表面近傍に閉じ込め、その結果、高密度のプラズマを形成する方法である。このように高密度プラズマをターゲット表面近傍に存在させることにより、高速の成膜が可能となる。
【0003】
ターゲットの背面に配置される磁場発生装置として、種々の提案がなされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特表2003-514991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1などに開示される、マグネトロンスパッタで使用される磁場発生装置は、一般に、平板状の磁性体であるヨークの上に磁石を設置して形成される。このとき、外周の磁石と内側の磁石は極性が反対であり、この二つの磁極間に生じる磁場により、ターゲット表面付近に電子が拘束される。そのため、ターゲットにはこの磁極間にエロージョンが現れる領域(エロージョン領域)が形成される。磁石がターゲットに対して固定されていると、ターゲット上には、その磁石の形を反映したエロージョンが出現する。
【0006】
このように、磁石がターゲットに対して固定され、ターゲット上に出現するエロージョン領域が固定される場合、従来構成の磁場発生装置では、ターゲット利用率(ターゲットの体積に対するエロージョンの体積の比)が極めて低く、経済的ではなかった。具体的に従来構成では、ターゲットの利用率はおよそ15~20%程度しかなく、高価なターゲット材料を用いて成膜する場合に問題となっていた。従って、ターゲットの利用率をより高める技術の出現が望まれている。
【0007】
本発明の一側面では、薄膜原料としての成膜物質からなるターゲットの利用率を高めることができる磁場発生装置、マグネトロンカソード及びスパッタ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0009】
本発明によれば、ターゲット(8)の背面に配置され、ターゲット(8)の表面(8a)に磁力線(11)に基づく磁場を発生させる磁場発生装置(10)において、
ターゲット(8)の面に対して平行な方向(X方向)に極軸を持つ環状の第1の磁石体(144)と、
第1の磁石体(144)の内側に配置され、第1の磁石体(144)の極軸の方向(X方向)と平行な方向に極軸を持つ第2の磁石体(142)と、
第1の磁石体(144)及び第2の磁石体(142)を背面から支持する透磁性の基盤(12)と、ターゲット(8)の表面(8a)の磁界分布を変動させる磁界分布変動部材(16)とを有し、
磁界分布変動部材(16)は、第1の磁石体(144)及び第2の磁石体(142)の間に、かつ基盤(12)によって背面から支持されるように配置されていることを特徴とする磁場発生装置(10)が提供される。
【0010】
上記構成の磁場発生装置(10)において、第2の磁石体(142)は、環状磁石体で構成することができる。この場合において、第1の磁石体(144)及び第2の磁石体(142)の双方とも、小磁石を、一方の磁極が外側面側に、他方の磁極が内側面側を向くように複数配列して形成した磁石集合体で構成することができる(図2(a)及び図2(b)参照)。なお、小磁石は、底面の形状が四角形、三角形又は扇形の柱体などで構成することができる。
【0011】
上記構成の磁場発生装置(10)において、磁界分布変動部材(16)は、第1の磁石体(144)の高さ(h1)の60%以下で、かつ40%以上の高さ(h3)を持つことができる。磁界分布変動部材(16)は、透磁率(μ2)が50以上の材料で構成することができる。
【0012】
本発明によれば、ターゲット(8)の背面に配置され、ターゲット(8)の表面(8a)に磁力線(11)に基づく磁場を発生させる、上記構成の磁場発生装置(10)を有するマグネトロンカソードが提供される。
【0013】
本発明によれば、上記構成のマグネトロンカソードを備えたスパッタ装置(1)が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記発明によれば、第1の磁石体と第2の磁石体とが双方とも、ターゲットの面に対して平行な方向(横方向)に磁極が向くように透磁性の基盤の表面に支持されることで、ターゲットの表面上に漏洩する磁力線のエロージョン領域の幅を拡げることができる。これにより、ターゲットの外周部分の利用率が向上する。
【0015】
また、第1の磁石体及び第2の磁石体の間で、かつ透磁性の基盤の表面に、ターゲットの表面の磁界分布を変動させる磁界分布変動部材を配置することで、第1の磁石体と第2の磁石体の間に磁力線パスを形成させ、これにより第1の磁石体と第2の磁石体との間に生じる磁気回路を強め、その結果、ターゲット上に生ずる磁場強度を高めることができる。これにより、ターゲットの厚み方向の利用率が向上する。
【0016】
すなわち本発明によれば、ターゲットの利用率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る磁場発生装置を備えたスパッタ装置を示す断面模式図である。
【図2】図2(a)は図1のスパッタ装置に用いられる一実施形態としての磁場発生装置をバッキングプレート側から見た平面図、図2(b)は図2(a)のIIb部分の拡大図(本発明の実施例)、図2(c)は中心磁石体の他の例を示す平面図である。
【図3】図3は図2(a)のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】図4(a)は図3の断面図(本発明の実施例)、図4(b)は磁力線の分布図、図4(c)はターゲットの幅方向(X方向)位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図5】図5(a)は図3のVa部分の拡大図に相当し本発明の比較例を示す図、図5(b)は磁力線の分布図、図5(c)はターゲットの幅方向(X方向)位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)は図3のVIa部分の拡大図に相当し本発明の比較例を示す図、図6(b)は磁力線の分布図、図6(c)はターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図7】図7(a)は図3のVIIa部分の拡大図に相当し本発明の比較例を示す図、図7(b)は磁力線の分布図、図7(c)はターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は図4(c)、図5(c)、図6(c)及び図7(c)の各曲線を同一スケールでまとめたグラフである。
【図9】図9は導磁板の構成材料の透磁率を変化させたときのターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図10】図10は図3のX部分の拡大図である。
【図11】図11は外周磁石体の高さに対して導磁板の高さ数値を変化させたときのターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【図12】図12は外周磁石体の高さに対して外周磁石体及び中心磁石体の各基端部分の段差数値を変化させたときのターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、上記発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。

【0019】
《スパッタ装置》
まず、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタ装置を説明する。

【0020】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るスパッタ装置1は、内部を真空排気可能な真空チャンバ2を有する。真空チャンバ2内上部には、下部に向けて成膜対象物5を保持するための基板ホルダ4が設置されている。スパッタ成膜に際し、基板ホルダ4に保持される成膜対象物5としては、例えばガラス基板やプラスチック基板などが挙げられる。なお、真空チャンバ2には、排気のためのポンプやガス導入部(何れも図示省略)などが接続されている。

【0021】
本実施形態では、基板ホルダ4に対向する真空チャンバ2の下部内壁部は開口しており、この開口部を塞ぐように、バッキングプレート6が設置されている。バッキングプレート6は、カソード絶縁部材7を介して真空チャンバ2の外壁に接続されている。スパッタ成膜に際し、バッキングプレート6には、表面側が基板ホルダ4に保持される成膜対象物5と対向するように、ターゲット8が取り付けられる。バッキングプレート6の、ターゲット8取付面(表面)とは反対側の非取付面(裏面)側には、電極部9が配置されている。

【0022】
《電極部》
電極部9は、マグネトロンカソードとして公知のもので、真空チャンバ2外に配置され電源3から電力が供給される。この電極部9内には、スパッタ成膜に際し、ターゲット8の成膜対象物5側の表面8a付近に、磁力線11で示すような磁場を形成するための磁場発生装置10が配置されている。

【0023】
《磁場発生装置》
図2(a)及び図3に示すように、本実施形態の磁場発生装置10は、ベース部材としてのヨーク板12を有し、このヨーク板12の上面には、複数の独立した磁石体を備えた磁石構造体14が配置されている。

【0024】
なお、以下、単に「透磁率」と言った場合「材料透磁率(μ)」を意味する。また「相対透磁率」と言った場合「材料の相対透磁率(k)」を意味する。相対透磁率kは、真空透磁率(μ0=4π×10-7)に対する材料透磁率μの比(k=μ/μ0)で算出される。

【0025】
本実施形態のヨーク板12(基盤)は、透磁率(μ1)が例えば40以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上の材料で構成することが望ましい。ヨーク板12を構成する材料の透磁率μ1の下限は、好ましくは10である。こうした材料としては、例えばステンレスやFeSi合金などが考えられる。透磁率μ1が小さすぎる材質でヨーク板12を構成した場合、ターゲット8表面の磁場が外部磁場あるいは外部磁性材料の影響を受けやすくなり、ターゲット8の表面に生ずる磁場が安定しなくなるので好ましくない。これに対し、ヨーク板12の材料として透磁率μ1が40以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上の材料を用いることで、上記不都合を生じることがない。

【0026】
ヨーク板12は、バッキングプレート6側から視認(平面視)した場合、バッキングプレート6と略同形状の外形を呈している。ヨーク板12の厚みT1(図10参照)は、例えば3~12mmとする。

【0027】
本実施形態の磁石構造体14は、中心磁石体142(第2の磁石体)と外周磁石体144(第1の磁石体)とを含み、中心磁石体142と外周磁石体144との間には導磁板16が配置してある。中心磁石体142の構成態様は特に限定されず、中実物(例えば円柱体や角柱体など)であってもよいし、中空物(例えば環状体など)で構成することもできる。本実施形態では、中心磁石体142を、中空物としての、小リング状の環状磁石体で構成する場合を例示する。外周磁石体144は、中心磁石体142の周囲に間隔を空けて配置される大リング状の環状磁石体で構成してある。中心磁石体142と外周磁石体144の間隔Wは、本実施形態では、ターゲット8側から電極部9を平面視した場合の当該電極部9の直径の20~33%程度となるように決定することができる。この間隔Wが狭すぎると放電領域が小さくなりすぎる傾向にあり、その反面、Wが広すぎると放電が立ち上がり難くなる傾向がある。なお、「環状」であるので、環の形状は円状(真円状や楕円状など)に限定されるものではなく、多角形状に環をなすものを含むことは勿論である。
図2(b)に示すように、本実施形態では、両磁石体142,144とも、底面形状が四角形の四角柱体(中実)の小磁石を、一方の磁極(例えばS極)が外側面側に、他方の磁極(例えばN極)が内側面側を向くように、断続的又は連続的に複数配列して形成した磁石集合体で構成する場合を例示する。なお、小磁石の形状は、四角柱体に限定されず、底面形状が三角形の三角柱体や、底面形状が扇形の柱体、その他の柱体で構成することもできる。
中心磁石体142を中実状の円柱体や中実状の角柱体で形成する場合には、例えば図2(c)に示すがごとく、断面が扇形で円弧部分に一方の磁極(例えばN極)を配置した小磁石を複数作製し、これらを図のように連続的に配列させることで構成することができる。

【0028】
中心磁石体142と外周磁石体144のターゲット8に向けられた面間は磁力線11(図1参照)で結ばれるようになっている。中心磁石体142と外周磁石体144を結ぶ磁力線11は、中央部分がターゲット8の表面8a上に漏洩し、中心磁石体142と外周磁石体144とが近い部分で幅狭で、遠い部分で幅広のドーム状のトンネルを形成する。

【0029】
一般に、磁界の鉛直成分がゼロの下方位置(トンネルの頂点の下方位置)が強くスパッタリングされる。つまりトンネルの頂点の下方位置に相当するターゲット部分が深く掘られる。この深く掘られる領域がエロージョン領域である。このエロージョンは、磁石がターゲットに対して固定されていると、その磁石の形を反映してターゲット上に出現する。

【0030】
《中心磁石体及び外周磁石体》
図4(a)に示すように、本実施形態では、中心磁石体142及び外周磁石体144の双方とも、ターゲット8の面に対して平行な方向(例えばターゲット8の幅方向。X方向)に、磁石両端の磁極(N極,S極)が配置されるように、ヨーク板12の上面に固定されている。ここでの中心磁石体142は、極軸が内側から外側に向けられており、中心部分は空洞となっている。具体的には、中心磁石体142は、外側から中心部分に向けて、S極、N極、空洞の順となり、中心部分から反対側の外側に向けて、空洞、N極、S極の順となっている。
つまり本実施形態の中心磁石体142及び外周磁石体144は、ヨーク板12上に、ターゲット8の面に対して平行な方向に極軸が延びるように配置されている(本発明の実施例)。なお、「極軸」とは、磁石両端の磁極であるN極とS極を通る線を意味するものとする。

【0031】
中心磁石体142及び外周磁石体144をこのように構成することで、両磁石体のうち少なくとも何れかの磁石体144a,142a,144b(図5(a),図6(a)参照。本発明の比較例)がターゲット8の面に対して直交する方向(ターゲット8の厚み方向。Z方向)に、磁極が配置される場合(つまりターゲット8の面に対して直交する方向に極軸が延びるように構成される場合)と比較して、ターゲット8の表面8a上に漏洩する磁力線11のエロージョン領域の幅を拡げることができる(図4(c)、図5(c)、図6(c)参照)。

【0032】
なお、図4(b)、図5(b)及び図6(b)は、それぞれ図4(a)、図5(a)及び図6(a)の磁石配置としたときの、ターゲット上に漏洩する磁力線の分布を示している。これら磁力線の分布は、汎用の検出ソフト(COMSOLAB社製の商品名「COMSOL MULTI PHYSICS」)を用いて検出されたものである。

【0033】
図4(c)、図5(c)及び図6(c)は、横軸をターゲット表面の幅方向(X方向)の位置とし、縦軸をターゲット表面上の磁束密度Brとしたときの、それぞれ図4(b)、図5(b)及び図6(b)の磁力線分布に基づいて得られる数値データを使用してプロットしたグラフである。

【0034】
本実施形態では磁束密度が100ガウスを超える(Br>100ガウス)領域をエロージョン領域と仮定し、この領域におけるターゲット表面の幅位置の最大を確認した。その結果、図4(c)では55mm弱、図5(c)では45mm強、図6(c)では47mm前後であった。従って、図4(a)の磁石配置が、エロージョン領域の幅の値が最も大きく、他の磁石配置の場合よりもエロージョン領域の幅が拡げられていることが理解できる。

【0035】
本実施形態では、外周磁石体144の高さh1と中心磁石体142の高さh2は、ともに、上述した中心磁石体142と外周磁石体144の間隔Wの場合と同様、ターゲット8側から電極部9を平面視した場合の当該電極部9の直径の、例えば3.5~20%程度、好ましくは6~12%程度となるように決定される。本実施形態では、h1=h2となるように外周磁石体144と中心磁石体142を形成してもよいし、あるいはh1≠h2となるように外周磁石体144と中心磁石体142を形成することもできる。本実施形態では、h1<h2となるように外周磁石体144と中心磁石体142を形成することが好ましい。

【0036】
なお、本実施形態で用いる「高さ」とは、対象物の基端部分(ヨーク板12の上面)からの高さを意味するものとする(以下同じ)。

【0037】
《導磁板》
図4(a)に戻る。中心磁石体142と外周磁石体144との間に配置される導磁板16は、ターゲット8の表面8a上のエロージョン領域の磁場強度を高めるための部材である。中心磁石体142と外周磁石体144との間に導磁板16を設けた場合に、エロージョン領域の磁場強度が高められる理由は必ずしも明らかではない。発明者が考えるところによると、これを設けることで、まず中心磁石体142と外周磁石体144の間に磁力線パスを形成させる。ここに磁力線パスを形成することで、中心磁石体142及び外周磁石体144の各磁石体内に生じる磁気回路が弱められる。その反面、中心磁石体142と外周磁石体144との間に生じる磁気回路が強められる。その結果、中心磁石体と外周磁石体の間に磁力線パスを形成しない磁石構造と比較して(例えば図7(a)参照)、ターゲット8上に生ずる磁場強度を高める(具体的には、磁束密度曲線の山部分を上に持ち上げる)ことができる(図4(c)、図7(c)参照)。

【0038】
なお、図7(b)は、上述した図4(b)、図5(b)及び図6(b)と同様、図7(a)の磁石配置としたときの、ターゲット上に漏洩する磁力線の分布を示している。図7(c)は、上述した図4(c)、図5(c)及び図6(c)と同様、横軸をターゲット表面の幅方向(X方向)の位置とし、縦軸をターゲット表面上の磁束密度Brとしたときの、図7(b)の磁力線分布に基づいて得られる数値データを使用してプロットしたグラフである。

【0039】
本実施形態では磁束密度が100ガウスを超える(Br>100ガウス)領域におけるターゲット表面の幅位置の最大は、図4(c)では55mm弱、図7(c)では57mm弱であり、ほぼ同等であった。これに対し、ターゲット幅が10mm強、25mm強、40mm前後の各位置におけるターゲット表面の磁束密度の値を確認した。その結果、図4(c)ではそれぞれ270Gs、220Gs、280Gsであった。図7(c)では200Gs、100Gs、220Gsであった。以上より、図4(a)の導磁板16を設けた場合、これを設けない場合(図7(a)の構造)と比較して、磁場強度が増加していることが理解できる。なお、参考までに、図4(c)、図5(c)、図6(c)及び図7(c)の各曲線を同一スケールでまとめたものを図8に示す。

【0040】
図4(a)に戻る。本実施形態の導磁板16は、透磁率(μ2)が例えば50以上、好ましくは55以上、より好ましくは60以上の材料で構成することが望ましい。導磁板16の構成材料は、ヨーク板12の構成材料と同じ材料でも良いし、あるいは異なる材料で構成することもできる。こうした材料としては、例えばステンレス、Ni、NiRe合金、MnZnFeOなどが考えられる。透磁率μ2が小さすぎる材質で導磁板16を構成した場合、導磁板16を設ける意味がない。透磁率μ2が50以上の材質で導磁板16を構成した場合、ターゲット8表面の磁場が導磁板16の相対透磁率(k2)の影響を受けることがなく、中心磁石体142と外周磁石体144の間の中心領域(ターゲットの幅方向位置と磁束密度との関係を示すグラフにおいて、下に凸となる部分)の磁束密度が高められる。

【0041】
図9に示すグラフによれば、導磁板16の相対透磁率k2が60以下の場合(k2≦60)、導磁板16を構成する材料の透磁率bが増加するにつれて、磁束密度の最小値及び最大値とも次第に上昇することが理解できる。

【0042】
まず導磁板16の相対透磁率k2が1のとき(k2=1)、導磁板16を導入する効果が見られない。具体的には、中心磁石体142のN極から出て行く磁力線11の大部分が中心磁石体142のS極に入る。このため、外周磁石体144のN極から出て行く磁力線11の大部分は外周磁石体144のS極に入る。これにより中心磁石体142と外周磁石体144の間の中心領域(図中、下に凸になっている部分。以下同じ。)の磁束密度の低下をもたらす。

【0043】
次に導磁板16の相対透磁率k2が1を超えるとき(k2>1)、導磁板16を導入する効果が見られる。具体的には、中心磁石体142のN極から出て行く磁力線11の一部は、導磁板16内部を伝わり外周磁石体144のS極に入り、外周磁石体144のN極から出され、その後、外周磁石体144の上方を通過して中心磁石体142のS極に入る。このようなメカニズムで、中心磁石体142と外周磁石体144の間の中心領域の磁束密度が高められる。

【0044】
これに対し、導磁板16の相対透磁率k2が60を超える場合(k2>60)、導磁板16の透磁率μ2が増加しても、これに伴う磁束密度の上昇は確認できず、この実験例では相対透磁率k2が60の時点で磁束密度の上昇は頭打ちとなった。

【0045】
図10に示すように、導磁板16の高さh3は、外周磁石体144の高さh1の60%以下(h3≦(0.6・h1))であることが好ましい。h3がh1の60%を超えると、ターゲット8の表面8aに生じるエロージョン領域の磁場強度を高める効果が少なくなり、無用に導磁板材料を使用することとなって経済的でない。一方、h3がh1に対して低すぎると、そもそも導磁板16を設ける意味がない。このため、導磁板16の高さh3の下限は、好ましくはh1の40%程度(つまり(0.4・h1)≦h3)とする。

【0046】
図11に示すグラフによれば、図10に示す構造において、h3をh1の10%、30%、50%と変動させることで、ターゲット8表面に漏洩される磁力線11の形状が変動し、これによりターゲット8表面の掘れ込み方が変わることが理解できる。図11のグラフでは、50%のケースがよりベターであると理解できる。すなわち50%のケースでは、磁力線11の形状が外周磁石体144と中心磁石体142の間で、山の高さの均一が取れており、他のものと比較して、ターゲット8を均一に彫り込むことが可能となる。

【0047】
上述したように、本実施形態では、導磁板16の材料透磁率μ2及び高さh3の一方又は双方を変化させることで、磁力線11の形状の適正化、特に外周磁石体144と中心磁石体142の間の中心領域(下に凸となる領域)の磁束密度値の調整(下に凸の程度の改変)を行うことが可能となる。従って、導磁板16の材料透磁率μ2や高さh3の変更といった比較的簡易な設計変更を行うことで、わざわざ磁石の寸法や配列を変えることなく磁力線11形状の適正化を図ることができる。

【0048】
図10に戻る。本実施形態では、外周磁石体144及び中心磁石体142の各基端部分に段差(dh1。dh2-dh3に等しい。後述)がつけられていてもよい。すなわち外周磁石体144と中心磁石体142の各基端部が、厚み方向に対して段差が生じるように中心磁石体142と外周磁石体144とが配置されていてもよい。こうすることで、導磁板16の配置と相まって、ターゲット8の表面付近に生じる磁力線11の凹凸形状を最適化することができる。具体的には、磁力線11の凹凸形状における谷の高さを、山の高さ側へ引き上げ、均一な磁場の形成に役立たせることができる。

【0049】
本実施形態では、段差dh1は、外周磁石体144の高さh1の10%以上あればよく、好ましくは10~30%程度とする。

【0050】
図12に示すグラフによれば、図10に示す構造において、dh1を0%、20%、60%、80%と変動させることで、ターゲット8表面に漏洩される磁力線11の形状が変動し、これによりターゲット8表面の掘れ込み方が変わることが理解できる。図12のグラフでは、20%のケースがよりベターであると理解できる。すなわち20%のケースでは、磁力線11の形状が外周磁石体144と中心磁石体142の間で、山の高さの均一が取れており、ターゲット8を均一に彫り込むことが可能となる。

【0051】
図10に戻る。本実施形態では、中心磁石体142と導磁板16、外周磁石体144と導磁板16、の各基端部分にも段差がつけられていてもよい。中心磁石体142及び導磁板16の各基端部分に段差(dh2)を設けることで、ターゲット8表面の掘れ込み深さを全掘れ込み領域において均一にすることができる。外周磁石体144及び導磁板16の各基端部分に段差(dh3)を設けることで、上記段差(dh2)を設けた場合と同様の効果を得ることができる。段差dh2と段差dh3は、ともに、例えば2~8mmとする。

【0052】
《スパッタ成膜方法》
次に、図1~図3を参照し、上述した磁場発生装置10を備えたスパッタ装置1での成膜手順の一例を説明する。

【0053】
スパッタ装置1の真空チャンバ2内を真空排気した後、チャンバ2内に成膜対象物5を搬送し、バッキングプレート6上に配置されたターゲット8に対向するように基板ホルダ4に保持させる。ターゲット8としては、例えばAl、Si、Nbなどの金属ターゲットが用いられる。チャンバ2にはスパッタガスが導入されてチャンバ2内を所定の圧力にする。スパッタガスとしては、例えばArガスなどである。なお、スパッタガスに反応性ガス(酸素ガスなど)を添加して反応性スパッタリングを行なってもよい。

【0054】
電極部9を介してバッキングプレート6上のターゲット8に電源3より電力(DC電力)を供給すると、チャンバ2内で放電が生じ、ターゲット8がスパッタされ、成膜対象物5上に例えばAl膜が堆積する。

【0055】
所定の時間、成膜した後、電力とスパッタガスの供給を停止し、チャンバ2内を真空排気し、その後、チャンバ2内から成膜終了後の成膜対象物5が取り出される。

【0056】
本実施形態では、スパッタ成膜に際し、電極部9の磁場発生装置10を作動させると、ターゲット8の成膜対象物5側の表面付近に所定形状の磁力線11が生じる。生じた磁力線11による磁場に基づくターゲット8表面付近の磁界と、電源3により投入された電力とによって、ターゲット8と成膜対象物5の間に高密度プラズマが生成され、ターゲット8がスパッタされる。スパッタリング粒子が成膜対象物5の表面に到達すると、その表面に薄膜が成長する。

【0057】
《作用効果》
本実施形態では、真空チャンバ2内に設置されるバッキングプレート6の裏面側に電極部9が配置され、この電極部9は特定構造の磁場発生装置10を含む。この磁場発生装置10は、ベース部材としてのヨーク板12の上面に、複数の独立した磁石体を備えた磁石構造体14が配置されている。磁石構造体14は、ターゲット8の面に対して平行な方向(X方向)に磁石両端の磁極が配置されるようにヨーク板12の上面に固定される、中心磁石体142及び外周磁石体144を含み、かつ、中心磁石体142と外周磁石体144との間に導磁板16が配置してある。このように構成、配置された特定の磁石構造体14を備える。

【0058】
中心磁石体142と外周磁石体144が、ともに、ターゲット8の面に対して平行な方向の両端に磁極が配置されるようにヨーク板12の上面に固定されていることで、両磁石体のうち少なくとも何れかの磁石体がターゲット8の面に対して直交する方向(Z方向)に磁極が配置される場合と比較して、ターゲット8の表面8a上に漏洩する磁力線11のエロージョン領域の幅を拡げることができる。これにより、ターゲット8の外周部分の利用率が向上する。具体的には、外周部分の利用率が3~5%程度、上昇する。

【0059】
中心磁石体142と外周磁石体144との間に導磁板16を配置することで、まず中心磁石体142と外周磁石体144の間に磁力線パスを形成させ、ここに磁力線パスを形成することで、中心磁石体142と外周磁石体144との間に生じる磁気回路が強められる。その結果、中心磁石体と外周磁石体の間に磁力線パスを形成しない磁石構造と比較して、ターゲット8上に生ずる磁場強度が高められる。これにより、ターゲット8の厚み方向の利用率が向上する。具体的には、厚み方向の利用率が10~15%程度、上昇する。

【0060】
すなわち本実施形態によれば、全体としてのターゲットの利用率を30%から40%程度以上に高めることができる。

【0061】
《その他の形態》
以上説明した実施形態は、上記発明の理解を容易にするために記載されたものであって、上記発明を限定するために記載されたものではない。従って、上記の実施形態に開示された各要素は、上記発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。

【0062】
スパッタ装置としては上記構成に限定されず、例えば国際公開2004/108979や同じく2004/108980などに示される、カルーセル型のスパッタ装置に適用することもできる。このカルーセル型のスパッタ装置は、真空チャンバ内に円筒状の基板ホルダを回転可能に配置し、その周囲の1又は複数の箇所に、ターゲット及び電極部(スパッタ源)と、プラズマ源とを設け、基板ホルダを回転(自転)させながら基板ホルダの外周面に保持された成膜対象物としての基板に対して、スパッタ処理とプラズマ処理を繰り返すことで、基板上に目標膜厚の単層薄膜を複数積層させて多層膜を形成することができる。

【0063】
この場合、スパッタ処理を行うスパッタ源は、2つのマグネトロンスパッタ電極を備えたデュアルカソードタイプで構成することができる。各電極の一端側表面に金属ターゲットが保持され、他端側に本実施形態の磁場発生装置10が配置される。なお、各電極の他端側には磁場発生装置10の他、電力制御手段としてのトランスを介して電力供給手段としての交流電源を接続し、各電極に交流電圧が印加されるように構成することができる。

【0064】
基板ホルダが中心軸回りに一回転すると、1回のスパッタ処理とプラズマ処理がなされ、これにより基板上に平均0.01nm~1.5nm程度の膜厚を持つ超薄膜が形成される。この処理を基板ホルダの回転毎に繰り返すことで、超薄膜の上に次の超薄膜を堆積させていき、基板上に数nm~数百nm程度の目標膜厚を持つ単層薄膜が形成される。この単層薄膜を複数積層させて多層膜を形成する。本発明は、このようなカルーセル型マグネトロンスパッタ装置に適用しても有効である。
【符号の説明】
【0065】
1…スパッタ装置、2…真空チャンバ(真空槽)、3…電源、4…基板ホルダ、5…成膜対象物、6…バッキングプレート、7…カソード絶縁部材、8…ターゲット、9…電極部(マグネトロンカソード)、10…磁場発生装置、11…磁力線、12…ヨーク板(基盤)、14…磁石構造体、142…中心磁石体(第2の磁石体)、144…外周磁石体(第1の磁石体)、16…導磁板(磁界分布変動部材)。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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