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レドックス応答性発光プローブ及びそれを用いる検出方法

国内特許コード P09A014835
掲載日 2009年11月20日
出願番号 特願2007-000002
公開番号 特開2008-164554
登録番号 特許第4951759号
出願日 平成19年1月1日(2007.1.1)
公開日 平成20年7月17日(2008.7.17)
登録日 平成24年3月23日(2012.3.23)
発明者
  • 福井 孝一
  • 松本 和子
  • 西野 憲和
出願人
  • 国立大学法人九州工業大学
発明の名称 レドックス応答性発光プローブ及びそれを用いる検出方法
発明の概要

【課題】生体又は生体に関連したレドックス状態変化に可逆的又はほぼ可逆的に応答し、且つ、取り扱いが容易で、夾雑物蛍光やバックグラウンド蛍光存在下でも、高感度検出が可能な発光プローブ及びそれを用いた検出方法を提供すること。
【解決手段】酸化又は還元が可能な原子団、及び長い発光寿命を有する発光ランタニドキレート原子団の両原子団を、一分子内に含むことを特徴とする発光プローブ、並びに、この発光プローブを用いる検出方法。好ましくは、この酸化又は還元可能な原子団は、酸化状態又は還元状態でラジカル体であり、具体的な例としては、ニトロキシルラジカル基を有する原子団が挙げられる。
【選択図】なし

従来技術、競合技術の概要


ヒトを含む地球上の大部分の生物は、酸素を使い栄養物質を燃焼させエネルギーを得ている。この酸素は完全に酸化されると水HOになるが、実際はこの際、不完全な酸化体O-・、H、HOなども少量だが発生する。これらの不完全な酸化体は、活性酸素種と呼ばれ、元の酸素に比べ高い反応活性を持っている。この高い活性のため、活性酸素種はタンパク、核酸、脂肪酸等の各種生体成分と反応し、これらを損傷させる。これが、ガン、脳血管疾患、心疾患、糖尿病等の各種疾病や老化の根本原因であると考えられ、現在さまざまな観点から研究が行われている。



他方、生体にはこれら活性酸素種を除去する機能も備わっており、スーパーオキシドジムスターゼ(SOD)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素やアスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)、グルタチオン、ポリフェノール等の抗酸化性物質がその機能を担っている。結局、生体内では、この活性酸素種による酸化作用と、抗酸化物質による抗酸化作用のバランスが重要であるといえる。このバランスはレドックスバランスと呼ばれ、「レドックスバランスが酸化側に振れると、疾病の危険因子が増大し、老化が促進される」と考えられている。



また、レドックスバランスは、様々な因子に影響されることが知られており、例えば、ストレスを受けることでも酸化側に振れることが知られている。つまり、ストレスの健康への影響も、レドックスバランスの変化で説明することができる。このように、レドックスバランスは、生体の健康状態を見る上で非常に重要なパラメータである(本明細書では、このようなレドックスバランスの酸化側へ振れた状態を酸化ストレス状態、及びこれを引き起こす要因を総称して酸化ストレスと呼ぶこともある)。



以上のように、レドックスバランスは疾病・老化に深く関係するパラメータであるので、これを計測する方法が様々に報告されている。大きく分けると、1)血又は尿中の酸化ストレスマーカー量を定量する方法、2)電子スピン共鳴(ESR)測定により活性酸素種発生量(又は種類も)若しくは抗酸化能を計測する方法、及び、3)蛍光/燐光(以下、まとめて発光と呼ぶ)測定により活性酸素種発生量(又は種類も)若しくは抗酸化能を計測・イメージングする方法等がある。



酸化ストレスマーカーは、活性酸素種と生体成分との反応でできる特異的な酸化生成物質である(非特許文献1)。8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)(非特許文献2)、4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)(非特許文献3)、F2-イソプロステイン類(非特許文献4)、カルボニル化タンパク(非特許文献5)等の様々な物質が提案されている。これらの血中もしくは尿中での量は、それぞれ実際に受けた酸化ストレスの程度と良い相関を示すことが報告されている。この方法は特に個体の受けた酸化ストレスを計測するのに有効であり、診断への応用が期待される。しかし、これらの酸化ストレスマーカーによる検出は間接的であり、酸化ストレスとの相関がどこまで成立するかは個別に詳細に検討する必要がある。



生体のレドックスバランス又は酸化ストレスを、ESRを用いて計測する方法もある。活性酸素種の内、例えば、O-・及びHOはラジカル種であるので原理的にはESRで検出できる。実際には、これらの生体中での存在量は少ないので、直接検出することは非常に難しいが、スピントラップ剤を用い、これらを安定なラジカル種に変換することで検出することが行われている。この場合、検出されるESR信号のパターンから、活性酸素種の種類を特定することができる。



また、この他、ニトロキシルラジカルなどの安定なラジカル種をプローブとすることで検出することも行われている。即ち、ニトロキシルラジカル類は、生体中ではアスコルビン酸などの生体内抗酸化物質により、ヒドロキシルアミン体に還元され常磁性を失う。しかし、これらは活性酸素種と反応すると再酸化され、ニトロキシルラジカル体に戻り、ESR信号を再び発するようになる。以上の原理で、生体のレドックス状態を調べることができる(特許文献1及び2)。



ESRによるレドックス状態の計測は、細胞、組織片及び実験動物個体レベルで行われている(非特許文献6)。特に、低周波ESRを用い、実験動物個体を対象とした実験ができる点が有利な点ではあるが、感度や空間解像度が、まだまだ満足行くものではない。特に細胞及び組織片を対象とした場合は、以下に述べる発光に基づく方法が圧倒的に有利である。



発光測定に基づく方法では、各種発光プローブが開発され、活性酸素種発生若しくは抗酸化作用の計測・イメージングが行われている。発光測定は、感度や分解能が良いので、特に細胞レベルでの研究に最適である。以下に発光プローブの種類別に紹介する。



良く使われている発光プローブは、活性酸素種と反応し発光するタイプのものである。このような発光プローブ剤は、様々なものが報告されており、幾つかは特定の活性酸素種に特異的であると報告されている(非特許文献7)。代表例としては、先ず2、7-dichlorodihydrofluorescein(DCFH)がある(特許文献3)。本プローブは、H、HO、ROO等と反応し2、7-dichlorofluoresceinに変化し蛍光を発する。特に、DCFHのジアセタトエステルは、脂溶性が高く細胞膜を良く透過し、かつ細胞内で酵素エステラーゼの働きによりDCFHに変換される。このように変換されると、今度は細胞膜を透過しないので、細胞内に滞留し効果的なイメージングが可能である。



また、Peroxyresorufin-1(PR1)、
Peroxyfluor-1(PF1)、及びPeroxyxanthone(PX-1)は、Hと特異的に反応し蛍光を発すると報告されている(非特許文献8)。この他、
2-[6-(4′-hydroxy)phenoxy-3H-xanthen-3-on-9-yl]benzoic acid(HPF)及び2-[6-(4′-amino)phenoxy-3H-xanthen-3-on-9-yl]benzoic acid(APF)が報告されている(非特許文献9及び10)。これらはHO又はHOCl等の高活性酸素種(highly reactive oxygen species)と反応し、蛍光を発する。その他にも多数が開発・報告されている(非特許文献7)。



これらのプローブは非常に便利であり、活性酸素種のイメージングによく使われている。しかし、これらのプローブは、あくまで活性酸素種を検出するものであり、レドックス状態自体を直接検出するものではない点注意する必要がある。このため、これらの蛍光プローブを用いて活性酸素種が検出されたとしても、それが常に細胞のレドックス状態変化を反映しているかどうかは分からない。極端な場合、もしプローブと活性酸素種の反応性が非常に高いと、通常なら生体の抗酸化作用で分解され、生理学的に問題とならないような活性酸素種をも検出してしまう可能性がある。また、大きな問題点として、プローブと活性酸素種との反応が非可逆的であるという点がある。このため、プローブが一度、活性酸素種と反応してしまうと発光性に変化したままとなり、その後活性酸素種濃度が低下しても、それに対応した発光強度の変化は現れない。つまり、これらのプローブを用いて、レドックス状態のダイナミックな変化を計測又はイメージングすることは非常に難しい。



上とは逆に、フリーSH基と特異的に反応する発光プローブも報告されている。このようなプローブには、例えば、monochlorobimane、monobromobimane、5-chloromethylfluorescein diacetate、及び7-amino-4-chloromethylfluoresceinがあり(非特許文献11)、これらを用いて、細胞の酸化ストレスを計測することも可能と報告されている。しかし、これらのプローブとSH基との反応も不可逆的であり、前記した活性酸素種と反応する発光プローブと同じ欠点がある。



同じく発光測定によるものであるが、タンパクの構造変化を利用したプローブも報告されている。変化の要因としては、主にシステインチオール基の酸化還元が利用される。このような変化は、実際に細胞内でレドックス状態変化に対応して起こっていると考えられるので、これらのプローブは、細胞生理学的に意味のある変化を検出できると期待できる。



そのようなタンパクプローブの代表的な例が、緑色蛍光タンパク(GFP)の変異体であるレドックス感受性GFPである(非特許文献12及び13)。これは、自身のシステインチオール基の酸化還元に応答し、蛍光特性が変化するよう変異を加えたGFPである。この変化は可逆的であるので、細胞等のレドックス状態の変化をリアルタイムに可視化することができる。しかし、GFPはまず遺伝子として細胞内に導入する必要がある。このため、測定したい細胞に安定に導入できるか、また遺伝子が安定に発現するかという問題点が常につきまとい、常にこの方法が適用できるかは分からない。



この他、メタロチオネインを利用した方法が報告されている(非特許文献14)。ここでは、メタロチオネインに二つの蛍光基(Alexa488と546)がラベルされ、レドックス変化に対応し、両蛍光基間のFRETが変化する。しかし、この場合、細胞のイメージングのためには、この二重ラベルしたタンパクを細胞内に導入する必要があり、使い勝手は良くない。



タンパクに基づかない比較的低分子量の化合物で、レドックス状態の変化に対応し可逆的に酸化還元するプローブがあれば、使い易く便利である。このようなプローブは、発色変化を利用するものも加えると数多くあるが、これらはむしろ、酵素及び補酵素と共に使われ特定の化学物質の検出に使用されている。例えば、レザズリン、アラマーブルー(特許文献4)、ベンゾフラザン-N-オキシド誘導体(NBD-amine-N-oxide)(特許文献5)、及びキノン-フルオレセイン(特許文献6)が報告され、応用例としてグルコースアッセイ等が報告されている。



グルコースアッセイでは、グルコースはグルコースデヒドロゲナーゼにより酸化され、その際、NADが還元されNADHが生成する。ここに酵素ジアフォラーゼを共存させることで、これらのプローブは、NADHにより還元され、それぞれ対応する発光性物質に変化する。このように、この還元作用には酵素ジアフォラーゼが必要であり、単独での還元性物質との反応は起こっても非常に遅いと考えられる。このため、これらのプローブを、生体のレドックス状態計測又はイメージングに使うことは難しい。また、[Ru(bpy)3+も報告されている(非特許文献15)。これは単独で生体物質と反応するが、反応性が高すぎ、水溶液中(pH=8)での半減期は約5分に過ぎない。このため、このプローブも生体レドックス状態計測又はイメージングには使用できない。



酸化還元電位及び生体物質との反応性がより適当な化合物として、ニトロキシルラジカル化合物が知られている。これらを用いたnaphthalene-nitroxyl(非特許文献16)、hematoporphyrin-nitroxyl(非特許文献17)、及びpyrene-nitroxyl(非特許文献18)が報告されている。これらについて、アスコルビン酸(非特許文献16)及びFe(2価)(非特許文献18)によるニトロキシルラジカルの還元に伴う蛍光の増強も報告されており、これまで述べてきたものの中では、生体レドックス状態に対する可逆的かつ使いやすいプローブとして最も有望である。しかし、これらの蛍光体(naphthalene、hematoporphyrin、pyrene)を含む一般の有機蛍光体には、夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光の影響を強く受けるという欠点があり、試料によっては、これらのためまともな測定ができなくなる場合もある。



以上のように、細胞レベルでの詳細なレドックスシグナルや酸化ストレス応答研究には、発光プローブの使用が最適であるが、多くの発光プローブは、その発光オンへの変化が非可逆的であるという問題がある。数は少ないが、タンパクを基にしたプローブでは、可逆的な発光のオン/オフが報告されているものはある。しかし、これらは分子量が大きいため、細胞に導入するには高度な技術が必要である。また、ニトロキシルラジカルの消光能を利用した低分子量可逆型プローブも報告されているが、現在知られているものは、全て夾雑物による蛍光やバックグラウンド蛍光の影響を強く受けるという欠点がある。これらの理由のため、現在、レドックス状態のダイナミックな変化をリアルタイムに追跡することは難しく、細胞のレドックスシグナル及び酸化ストレスへの応答についてのより詳細な研究の障害となっている。




【特許文献1】特開2002-122646号公報

【特許文献2】特開2004-229613号公報

【特許文献3】特開2004-518433号公報

【特許文献4】特開平10-33196号公報

【特許文献5】特開2004-264296号公報

【特許文献6】特開2004-258021号公報

【特許文献7】特開2001-335574号公報

【非特許文献1】「酸化ストレスマーカー」、二木鋭雄・内田浩二・野田範子編、学会出版センター、2005年6月

【非特許文献2】Environ. Health Perspect. 2004、112、666-671

【非特許文献3】Biochemistry 2003、42、3473-3480

【非特許文献4】Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2001、98、9842-9846

【非特許文献5】J.Biomed.Biotechnol.2002、2、120-123

【非特許文献6】Appl.Magn.Reson.2003、25、217-225

【非特許文献7】J.Biochem.Biophys.Methods 2005、65、45-80

【非特許文献8】J.Am.Chem.Soc.2005、127、16652-16659

【非特許文献9】J.Biol.Chem.2003、278、3170-3175

【非特許文献10】Neuroscience Res.2005、53、304-313

【非特許文献11】Cytometry Part A 2003、51A、16-25

【非特許文献12】J.Biol.Chem.2004、279、13044-13053

【非特許文献13】J.Biol.Chem.2004、279、22284-22293

【非特許文献14】Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 2003、100、2255-2260

【非特許文献15】Anal.Chem.1999、71、1504-1512

【非特許文献16】J.Am.Chem.Soc. 1988、110、1915-1917

【非特許文献17】J.Am.Chem.Soc.1990、112、7337-7346

【非特許文献18】Spectrochimica Acta Part A 2006、63、438-443

【非特許文献19】Biochemistry 1992、31、703-711

【非特許文献20】Anal.Sci.2002、18、869-874

【非特許文献21】Anal.Chem.2001,73、1869-1876

【非特許文献22】Anal.Chem.2006、78、5296-5301

産業上の利用分野


本発明は、レドックス応答性発光プローブ及びこの発光プローブを用いた各種の検出方法に関するものである。本発明のレドックス応答性発光プローブは、生体レドックス状態の変化に可逆的又はほぼ可逆的に応答することができるので、例えば、血液、尿、唾等の試料を用いた酸化ストレス状態の計測診断、細胞を含む生体試料中のレドックス状態の計測又はイメージング、健康食品等の抗酸化能の計測、あるいは、適当な1又は2種類以上の酵素及び/又は補酵素と共に用いることによって、特定の生体関連物質を検出するのに用いることができる。

特許請求の範囲 【請求項1】
酸化又は還元が可能なニトロキシルラジカル類を含む原子団及び発光ランタニドキレート原子団の両原子団を一分子内に含む、下記式14で表される化合物からなるレドックス応答性発光プローブ。
【化学式14】





【請求項2】
前記ランタニドイオンが、Eu3+、Tb3+、Sm3+又はDy3+である請求項1記載のレドックス応答性発光プローブ。

【請求項3】
請求項1又は2記載のレドックス応答性発光プローブを、試料に接触させることによって酸化又は還元させることを特徴とするレドックス状態の計測又はイメージング方法。

【請求項4】
請求項1又は2記載のレドックス応答性発光プローブを、酵素又は補酵素又は両者の存在下に、試料に接触させることによって酸化又は還元させることを特徴とする物質の検出又は定量方法。
産業区分
  • 試験、検査
  • 食品
  • その他無機化学
  • 有機化合物
  • 微生物工業
国際特許分類(IPC)
Fターム
出願権利状態 権利存続中
詳細は、下記「問合せ先」まで直接お問い合わせください。


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