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水生昆虫由来のシルクナノファイバー及びシルク複合ナノファイバー、並びにその製造方法

国内特許コード P100000881
整理番号 NI0900103
掲載日 2010年8月13日
出願番号 特願2010-067065
公開番号 特開2011-196001
登録番号 特許第5298316号
出願日 平成22年3月23日(2010.3.23)
公開日 平成23年10月6日(2011.10.6)
登録日 平成25年6月28日(2013.6.28)
発明者
  • 塚田 益裕
  • 阿部 康次
  • 平林 公男
  • 大川 浩作
  • 野村 隆臣
  • 新井 亮一
出願人
  • 国立大学法人信州大学
発明の名称 水生昆虫由来のシルクナノファイバー及びシルク複合ナノファイバー、並びにその製造方法
発明の概要

【課題】 水生昆虫由来のシルクから製造された、極細の平均繊維径及びバラツキの少ない繊維径を有し、紡糸状態が良好なシルクナノファイバー及びシルク複合ナノファイバー並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】 水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分からなるシルクナノファイバー、フィブロインH鎖の画分と、水溶性高分子及び/又は非イオン界面活性剤とからなるシルク複合ナノファイバー、フィブロインH鎖の画分を有するシルクドープを調製後、エレクトロスピニングすることからなる該ナノファイバーの製造、及びフィブロインH鎖の画分を有するシルクドープに、水溶性高分子及び/又は非イオン界面活性剤を添加してシルク複合ドープを調製後、エレクトロスピニングすることからなる該複合ナノファイバーの製造。
【選択図】 図1

従来技術、競合技術の概要


シルクは、カイコ、クモ、水生昆虫類がつくる繊維状のタンパク質の総称である。有用昆虫のカイコがつくるシルクは古くより知られており、衣料材料等として長く愛用されていると共に、近年、カイコのシルクからナノファイバーを製造する試みがなされつつある。しかし、水生昆虫類由来のシルクを用いてナノファイバーをつくることは提案されていない。



水生昆虫類には、多くの分類群、例えばトビケラ目(毛翅目)(Trichoptera)、チョウ目(鱗翅目)(Lepitoptera)、及びハエ目(双翅目)(Diptera)等が含まれ、このうちトビケラ目及び双翅目の幼虫は水中で絹糸繊維を吐出するものが多い。最もよく知られているものはトビケラ目であり、その中でも幼虫のサイズが大きく、体内から得られるシルクタンパク質が多量なのはヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)である。これらの水生昆虫の幼虫は成熟し、5齢期の後期に水中でタンパク質の絹糸を吐くので、水生昆虫が吐いた絹糸を利用することができるし、幼虫体内から取り出した液状のシルクタンパク質を用いても同様に利用できる。



上記したように、水生昆虫には水中で繊維を吐く昆虫があり、水中でシルク繊維を作るミズグモの他、ヒゲナガカワトビケラ幼虫等が例示できる。



ヒゲナガカワトビケラは毛翅目に分類されており、トビケラ目ヒゲナガカワトビケラ科である。トビケラ類の幼虫は、体の形でカンボディア型と蚕児型とに分けられる。前者には流水域に生息するものが多く、後者には止水域に生息するものが多い。



上記ヒゲナガカワトビケラの幼虫は、全国・各地に広く分布し、水生昆虫の中でも体長の大きい種群である。成長過程で齢を重ねて5齢の終齢幼虫となると、体長が3~4cmとなる。また、ヒゲナガカワトビケラ幼虫は、5齢幼虫になると清流の底の石の下、石と石の間や砂礫の裏側に吐糸して幼虫が住む巣室と、水中に浮遊し流下する小動物を捕獲する捕獲網がその前面に張られる。



ヒゲナガカワトビケラ幼虫由来のシルクの主要なアミノ酸組成は、グリシン、アラニン、セリン等の疎水性アミノ酸であり、その他、シルク分子の両端には、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン等の親水性アミノ酸が存在する。



ヒゲナガカワトビケラ幼虫が吐き出す繊維は、ヒゲナガカワトビケラ幼虫体内の液状シルクを水中という特殊な環境で繊維化する点で極めて特徴的な繊維である。こうしたヒゲナガカワトビケラ幼虫のシルクの特徴を活かすことにより、水中で固化するセメントあるいは医工分野で利活用可能な生体接着剤への応用が将来的に期待できる。また、ヒゲナガカワトビケラのシルク繊維は新たな機能を持つ繊維素材に応用できる。



水生の毛翅目昆虫幼虫は水棲であり、水中という特殊環境で繊維を吐糸する。この繊維の原料は、水生昆虫体内の絹糸腺内の液状絹である。毛翅目昆虫のシルク繊維は、水分を含んだ後も機械的特性の劣化が無いという特異的な機能を持つ(注:通常、繊維高分子は水を吸うと伸びることが一般的である)。



この水生昆虫由来のシルクのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子の塩基配列は解明されていない。しかし、毛翅目昆虫に由来するフィブロインH鎖タンパク質及び該タンパク質をコードする遺伝子、並びに該タンパク質の作製方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、電気泳動の分子量からフィブロインH鎖であると同定している。



水生昆虫のヒゲナガカワトビケラ幼虫のシルクは、H鎖フィブロイン(Heavy chain fibroin)、L鎖フィブロイン(Light chain fibroin)、フィブロヘキサメリン(Fibrohexamerin)が6:6:1のモル比から構成されていることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。



紡糸方法の一つである「エレクトロスピニング」は、試料ドープから超微細なナノファイバーを製造するための有効な手法であり、エレクトロスピニングで製造できる超微細繊維であるナノファイバーは様々な産業界から関心が寄せられている。



エレクトロスピニングでは、ポリマー溶液貯蔵タンクに水溶性高分子ドープを入れ、水溶性高分子ドープに陽極を印加し、陰極の金属コレクターを接地することで電極間に生ずる電気引力がポリマー溶液の表面張力を越える時、ポリマージェットが紡糸ノズルから陰極板に向かって放出され、その結果、微細繊維が陰極板上に吐糸・紡糸されることで、繊維径がナノ~マイクロメートルオーダーの繊維・繊維集合体が製造できる。これがエレクトロスピニングの原理である。



高分子化合物を溶媒に溶かして製造できる高分子ドープをエレクトロスピニングして表面積が広いナノファイバーを作る場合、このナノファイバーを理工学分野で広く利用するためには、繊維径が超微細であり、繊維径のバラツキが少ないもの程、利用価値が高く、精度の高い素材として重宝される。



水生昆虫のシルクタンパク質から極細のシルクナノファイバー、又はこのシルクタンパク質に第2物質を添加したものから極細のシルク複合ナノファイバーを簡便に製造するための経済的で、かつ効率的な開発技術の出現が強く望まれてきた。



微粒子・粉体を原料として使用する技術分野は、塗料、土木・建築、医薬品、農薬、化粧品、食品、トナー、コーティング剤、エレクトロセラミックス等、多岐にわたる。それらの各種製品に高付加価値を付すための超微粒子化、表面改質、複合化等において、微粒子・粉体の機能化が大きく寄与している。多岐にわたる微粒子の製造法と注目を集める新たな微粒子の動向、レオロジー、情報・メディア、生体・医療、光、ファインケミカル等広範な応用展開の構成が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。これらのファインケミストリーでは、微粒子経が揃ったものは最先端の機能素材として利用できる。



上記エレクトロスピニングにより本発明の対象である水生昆虫のシルク(水生昆虫のフィブロインを意味する)からナノファイバーを製造する際には、水生昆虫のシルクをどのように単離してエレクトロスピニングに適した試料をいかに経済的に、しかも効率的に製造することができるかが重要であると共に、ドープ濃度、印加電圧値、陽極-陰極間距離(紡糸距離)、紡糸速度等の紡糸条件を変えながら、最適製造条件を検討することが必要である。このように、水生昆虫由来のシルクを用いてナノファイバーを製造する場合には、試料作製から紡糸に至る全ての過程では試行錯誤で最適な条件を探索する必要があり、甚だ困難な作業を経なければならない。また、水生昆虫由来のシルクドープは、温度の変化、タンパク質の濃度変化等によりゲル化を起こし易いという本質的な問題を抱えている。すなわち、タンパク質ドープを室温に長時間放置したり、タンパク質ドープ温度が低下したりすると、タンパク質ドープがゲル化するため、エレクトロスピニングの際に、紡糸ノズル付近でタンパク質ドープが目詰まりを起こしてしまい、太さ斑が無く微細なシルクナノファイバー(タンパク質ナノファイバー)を製造することができないという問題がある。



そのため、水生昆虫由来のシルクタンパク質から極細のシルクナノファイバーや極細のシルク複合ナノファイバーであって、繊維径がそろい、繊維径分布の狭い、すなわち繊維径のバラツキの少ない素材及びその素材の経済的で、かつ効率的な製造方法の出現が強く望まれてきた。しかしながら、水生昆虫に由来するシルクタンパク質を素材化するために、エレクトロスピニングによりシルクナノファイバーやシルク複合ナノファイバーを製造しようとする試みは、従来、全くなされていない。

産業上の利用分野


本発明は、水生昆虫由来のシルクナノファイバー、及びシルク複合ナノファイバー、並びにその製造方法に関し、特に、水生昆虫由来のシルク(注:カイコのシルクとは全く化学組成の異なる物質であり、以下、「カイコのシルク」と記載しない限り、本発明におけるシルクは、水生昆虫由来の物質を意味する)から得られる画分を含むドープ(以下、画分を溶解するために使用した溶媒をドープと略記することもあり、シルクドープ又はシルクタンパク質ドープと略記することもある)を用いてなるシルクナノファイバー、及びシルクドープに水溶性高分子ドープ及び/又は界面活性剤を添加してなるシルクタンパク質複合ドープを用いてなるシルク複合ナノファイバー、並びにこれらのシルクタンパク質ドープ及びシルクタンパク質複合ドープを、それぞれ用いてエレクトロスピニングによりシルクナノファイバー及びシルク複合ナノファイバーを製造する方法に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分からなることを特徴とするシルクナノファイバー。

【請求項2】
前記水生昆虫が、トビケラ目(毛翅目)、鱗翅目、及び双翅目に属する昆虫から選ばれたものであることを特徴とする請求項1記載のシルクナノファイバー。

【請求項3】
水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分を有するシルクドープをエレクトロスピニングしてなることを特徴とする請求項1又は2記載のシルクナノファイバー。

【請求項4】
前記シルクドープが、フィブロインH鎖の画分をトリフルオロ酢酸、蟻酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトン水和物、及びFS溶液から選ばれた溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする請求項3記載のシルクナノファイバー。

【請求項5】
前記画分が、350kDaから300kDaにフィブロインH鎖の幅広いスメアなバンドを有するもの、又は320~310kDaにフィブロインH鎖のバンドを有するものであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のシルクナノファイバー。

【請求項6】
水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分を有するシルクドープを調製した後、このシルクドープを用いてエレクトロスピニングすることによりシルクナノファイバーを製造することを特徴とするシルクナノファイバーの製造方法。

【請求項7】
前記水生昆虫が、トビケラ目(毛翅目)、鱗翅目、及び双翅目に属する昆虫から選ばれたものであることを特徴とする請求項6記載のシルクナノファイバーの製造方法。

【請求項8】
前記シルクドープが、フィブロインH鎖の画分をトリフルオロ酢酸、蟻酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトン水和物、及びFS溶液から選ばれた溶媒に溶解させたものであることを特徴とする請求項6又は7に記載のシルクナノファイバーの製造方法。

【請求項9】
前記シルクドープのエレクトロスピニングを20~45℃で行うことを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載のシルクナノファイバーの製造方法。

【請求項10】
水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分と、水溶性高分子及び非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種とからなることを特徴とするシルク複合ナノファイバー。

【請求項11】
前記水生昆虫が、トビケラ目(毛翅目)、鱗翅目、及び双翅目に属する昆虫から選ばれたものであることを特徴とする請求項10に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項12】
前記水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分を有するシルクドープと、前記水溶性高分子及び非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種のドープとの混合ドープをエレクトロスピニングしてなることを特徴とする請求項10又は11に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項13】
前記シルクドープが、フィブロインH鎖の画分をトリフルオロ酢酸、蟻酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトン水和物、及びFS溶液から選ばれた溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする請求項12に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項14】
前記水溶性高分子が、カイコ由来のシルクタンパク質、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項10~13のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項15】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項10~14のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項16】
前記画分が、350kDaから300kDaにフィブロインH鎖の幅広いスメアなバンドを有するもの、又は320~310kDaにフィブロインH鎖のバンドを有するものであることを特徴とする請求項10~15のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバー。

【請求項17】
水生昆虫由来のシルクから得られたフィブロインH鎖の画分を有するシルクドープに、水溶性高分子及び非イオン界面活性剤から選ばれた少なくとも1種を添加してシルク複合ドープを調製した後、このシルク複合ドープを用いてエレクトロスピニングすることによりシルク複合ナノファイバーを製造することを特徴とするシルク複合ナノファイバーの製造方法。

【請求項18】
前記水生昆虫が、トビケラ目(毛翅目)、鱗翅目、及び双翅目に属する昆虫から選ばれたものであることを特徴とする請求項17に記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。

【請求項19】
前記シルクドープが、フィブロインH鎖の画分をトリフルオロ酢酸、蟻酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ヘキサフルオロアセトン水和物、及びFS溶液から選ばれた溶媒に溶解されたものであることを特徴とする請求項17又は18に記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。

【請求項20】
前記水溶性高分子が、カイコ由来のシルクタンパク質、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びポリエチレンオキサイドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項17~19のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。

【請求項21】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項17~20のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。

【請求項22】
前記シルク複合ドープのエレクトロスピニングを20~45℃で行うことを特徴とする請求項17~21のいずれか1項に記載のシルク複合ナノファイバーの製造方法。
産業区分
  • 高分子化合物
国際特許分類(IPC)
Fターム
画像

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出願権利状態 権利存続中
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