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磁気共鳴装置 コモンズ

国内特許コード P110004936
整理番号 136
掲載日 2011年8月18日
出願番号 特願2009-101311
公開番号 特開2010-249746
登録番号 特許第5258107号
出願日 平成21年4月17日(2009.4.17)
公開日 平成22年11月4日(2010.11.4)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発明者
  • 渡邉 英宏
出願人
  • 国立研究開発法人国立環境研究所
発明の名称 磁気共鳴装置 コモンズ
発明の概要 【課題】物質の定量解析の際に必要な複数の多次元スペクトルを短縮した計測時間で取得することができる磁気共鳴装置を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、少なくともt軸、t軸から構成される2次元以上の多次元全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって2次元以上の多次元スペクトルを取得し、該部分的に抽出された時間領域データとt軸方向に重複する領域を一部有するが、該部分的に抽出された時間領域データと異なる領域である、該全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって多次元スペクトルを取得し、これ等のスペクトルを用いて物質の濃度を算出する構成とした。
【選択図】図4
従来技術、競合技術の概要


磁気共鳴装置は、磁気共鳴現象を利用して物質の様々な情報を取得でき、化学分析をはじめとして広く用いられている装置である。特に、医学の分野で用いられているMagnetic Resonance Imaging(MRI)装置は、生体内の水の分布を緩和時間等の情報を付与して画像化することにより非侵襲に形態情報を取得することが可能であり、必須の磁気共鳴装置となっている。また、その他の様々な物質の内部を画像化できる磁気共鳴装置としてMRI装置は期待を集めている。



一般の磁気共鳴装置のイメージングでは、観測対象が水(水分子中のH)のみであるのに対して、Magnetic Resonance Spectroscopy (MRS)、あるいは分布を求めることのできるMagnetic Resonance Spectroscopic Imaging (MRSI)のイメージングでは、水以外の物質を観測対象としている。それらのイメージングでは、生体内あるいは物質内の化合物のH、13Cあるいは31P等の磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance(NMR))信号を検出することによって生体内の代謝情報などや物質内部の水以外の情報をも非侵襲に取得することができる。



それらのイメージングでは、化合物の分子構造の違いから生ずるH等の磁場環境の差、すなわち化学シフトの差が共鳴周波数の若干の差となり、各化合物ピークを周波数軸上で分離できるようになる。



例えば、H MRSでは脳内でNアセチルアスパラギン酸(NAA)、クレアチン(Cr)、コリン(Cho)等の化合物ピークを取得することができる。また、生体内の代謝物に関しては、それらの化合物は脳内の化学変化、すなわち代謝変化により合成される物質、すなわち代謝物であるため、この代謝物の定量化、すなわち濃度計測により代謝異常を診断できると期待されている。



その代謝物の定量化の方法として現在、一般的に用いられている方法は、所望の部位から得られた1次元スペクトルを非特許文献1に記載の線形結合モデル(LCModel:Linear Combination Model)を利用して解析を行い、代謝物の濃度を算出する方法である。具体的には、図12に示すPRESS法や、図13に示すSTEAM法といったパルスシーケンスを利用して、観測対象物内の空間3次元の局所領域からの磁気共鳴信号を取得した後、1次元フーリエ変換を主要素とする1次元再構成により1次元スペクトルを得て濃度を算出する。



この磁気共鳴信号、そして再構成の結果得られる1次元スペクトルは、Tの時定数の信号減衰で特徴付けられるスピン-スピン緩和の影響を受けて減衰するため、定量化のためにはスピン-スピン緩和(以下、T緩和という。)による減衰の補正(以下、T補正という)を行うか、あるいはT緩和の影響を無視できるようにして磁気共鳴の信号取得を行う必要がある。



緩和は、上述のパルスシーケンスのエコー時間(TE)の時間長で生ずるため、T補正を行う方法では、異なるTEでの磁気共鳴信号を取得し、TEに依存した磁気共鳴信号の変化からモデル式を用いたフィッティングなどの解析方法でTを算出し(以下、この解析をT解析と呼ぶ)、これを用いて信号強度を補正する。これに対して、T緩和による信号減衰(以下、Tによる信号減衰ということもある。)を無視できるようにする方法では、信号減衰を小さくするために、できるだけ短縮したTEで磁気共鳴信号を取得する。



例えば、磁場強度が4.7 Tの磁気共鳴装置を用いて、5ms(ミリ秒)のTEで取得したヒト脳から非侵襲に取得したSTEAMスペクトルを図14に示す。一般的に、TEによる信号変化は、exp(-TE/T)で表せるので、例えば、T=100msとすると、上記のTE=5msでは、高々5%の信号減衰に留まる。可能な限りTEを短く設定しなければならないため、装置性能に依存するところはあるが、1次元スペクトルでは定量化のために後者の方法がとられていることが多い。



一方、図14に示した4.7T上のスペクトルでは、上述のNAA、Cr、Choといったピークが検出できている。しかし、神経伝達物質であるグルタミン酸(Glu)やγ-アミノ酪酸(GABA)といった代謝物では、分子内に多くのHを有しており、様子が異なる。



例えば、図15に構造式を示すグルタミン酸では、図15に示す様に、分子内のHが電子を介在した相互作用であるスピンスピン結合、所謂Jカップリング(H間の同核種カップリング、JHHカップリング)をしており、本来、図16(A)の様なピークが、(B)の様に分裂したピークを呈する。これに、T緩和や磁場不均一性の影響が加わり、結果的に幅広のピークとなる(図16(C))。このため、それぞれのピークがオーバーラップし、ピーク分解能が不十分な1次元スペクトルとなる。



例えば、図14のヒト脳スペクトルでは、良好なピーク分解能という特長を有する4.7Tという高磁場にあっても、例えば、2.3ppm付近では、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、γ-アミノ酪酸(GABA)がオーバーラップしたピークとして観測されている。このピークのオーバーラップが、上述の線形結合モデルを用いても定量化を阻害する要因となっていた。



このピークのオーバーラップの問題を克服する一つの方法が2次元NMR法である。例えば、COSY(Correlation Spectroscopy)と呼ばれる相関スペクトロスコピー法では、図17の様に、1次元スペクトル上のピークに相当する対角ピークの他に、スピンスピン結合情報を示す交差ピークが得られ、従って、1次元スペクトルよりも分解能が向上したスペクトルが得られる。このCOSYパルスシーケンスは、2つの高周波パルス(以下、「RFパルス」という。)で構成される。



例えば、核種としてHの場合を説明する。図18の様にHチャンネルより2つのRFパルスが被検体などの対象物に印加されて第1番目の磁気共鳴信号を収集し、磁気共鳴装置のデータ収集部を経て計算機システムに格納する。次に、繰り返し時間(以下、「TR」という。)後に、図18(B)の様に、第1のRFパルスの印加時刻と第2のRFパルスのそれとをずらして、すなわち2つのRFパルス間の遅れ時間長をΔtだけ時間シフトさせて得られた第2番目の磁気共鳴信号を収集する。この磁気共鳴信号を第1番目の磁気共鳴信号とは別個に計算機システムに格納する。続いて、次のTR後に、上述の遅れ時間長をさらにΔt時間シフトさせて第2のRFパルスを印加して第3番目の磁気共鳴信号を収集し、第1番目、第2番目の磁気共鳴信号とは別個に計算機システムに格納する。



図19に示す2次元の時間領域データでは、磁気共鳴信号の時間軸(t)方向は、横軸方向、すなわち行方向としており、この場合、異なるTRの磁気共鳴信号は、異なる行に格納される。この図の縦軸方向、すなわち列方向を、t軸方向と呼ぶのは一般的である。COSYパルスシーケンスの第1のRFパルスによって横磁化の生起以降、化学シフトとJHHカップリングが展開し、それぞれが位相情報として横磁化に付与される。第2のRFパルスが印加されると、これらの位相情報を加味した横磁化、すなわち磁気共鳴信号が生起する。この磁気共鳴信号に対しても、化学シフトおよびJHHカップリングがそれぞれ展開し、それぞれの情報が付与される。従って、これ等の磁気共鳴信号を上述の様に格納して得られた2次元の時間領域データを2次元フーリエ変換を主要素とする2次元再構成することで、2次元スペクトルが得られる。そして、この2次元COSYスペクトル上では、1次元スペクトル上で現れるピークと同等である対角ピークの他に、スピンスピン結合、HとHとの場合は、JHHカップリングの情報を示す交差ピークが取得できる。従って、対角ピークでは分離できなかったものが、交差ピークで分離できるようになる。



一方、定時間法、すなわちConstant Time法は、JHHカップリングを切る、すなわちデカップリングすることでさらにピーク分解能を向上させることができる方法である。図20には、Constant Time COSY(CT-COSY)パルスシーケンスを示す。このパルスシーケンスは、3つのRFパルスで構成される。第1と第3のRFパルスとが、COSYパルスシーケンスの第1と第2のRFパルスに相当する役割を呈し、CT-COSYパルスシーケンスの中の第2のRFパルスは、再結像パルスの役割であり、所謂180°パルスである。この180°パルスは、横磁化に対しては位相反転の結果、再結像の役割を呈する一方で、縦磁化に対しては反転の役割となる。横磁化に付与される位相情報の中で、化学シフトによる展開は、再結像される。



一方、JHHカップリングによる展開は、位相反転と同時に、上述の様にスピンスピン結合する相手の核スピンの縦磁化の方向も反転する。この相手の核スピンの縦磁化の方向が回転方向を決めるため、結果的に再結像とは反対方向の回転方向となる。



まとめると、180°パルスは、化学シフトによる展開は再結像するものの、JHHカップリングによる展開は再結像しない。従って、TR間で第1と第2のRFパルスの遅れ時間長は一定、すなわち一定時間長(Tct)として一定時間長条件を満たして、TRによる繰り返しが進む度に、すなわちTR毎に、180°パルスの印加時刻を時間シフト、すなわちt軸方向の時間シフトをしながら、第2のRFパルス以降に生起する磁気共鳴信号を検出すると、JHHカップリングの展開量がt軸方向には一定となる。



そこで、得られる2次元の時間領域データを2次元フーリエ変換すると、t軸方向のフーリエ変換対であるF方向には、JHHカップリングによる分裂のないスペクトル、すなわちデカップリングされたスペクトルを得ることができる。このCT-COSYパルスシーケンスを、空間3次元の局所領域からのCT-COSY信号を取得できる様に応用した図21の局所励起CT-COSYパルスシーケンスを用いて、4.7T MR装置上で、ヒト脳の後頭-頭頂葉領域から取得したCT-COSYスペクトルを図22に示した(非特許文献2)。これにより、1次元スペクトル上では困難であったGlu、GABA、Glnを分離検出できる様になった。



Constant Time法の他の方法として、CT-PRESS法(非特許文献3)が報告されている。この方法の基本骨格は、2つのRFパルスであり、第1のRFパルスに続く第2のRFパルスを180°パルスとして、この第2のRFパルスの印加時刻をTR毎に時間シフトして、磁気共鳴信号を収集し、2次元の時間領域データを取得する。



図23には、非特許文献3に記載されているパルスシーケンスとは異なるものの、この基本骨格をもとにしたCT-PRESSパルスシーケンスを示す。このパルスシーケンスでは、JHHカップリングの展開量を一定とするために、全てのTRで、第1のRFパルスから磁気共鳴信号のデータ収集開始時刻までの遅れ時間長を一定時間長(Tct)とする。この方法では、CT-COSYスペクトルで得られるJHHカップリングの情報を示す交差ピークは検出されず対角ピークのみの検出となる。これは、全ての信号の成分を対角ピークに集めることができていることを意味しており、すなわち、CT-COSY法よりも感度の良いスペクトルを取得でき、JHHカップリングのデカップリングにより、対角ピークのピーク分解能が向上し、オーバーラップのない、あるいは小さいスペクトルを取得することができる。



このCT-PRESS法を用いることで、ピーク分解能の良好な、感度の良いスペクトルを得ることが出来るため、精度良く代謝物濃度を計測、すなわち定量化することが期待できる。しかし、この濃度計測には、前述の通り、Tctの時間長で生ずるT緩和による信号減衰を補正する必要がある。この補正方法として、図24に示す様に、1次元スペクトルの定量化技術の際に述べたT計測法、すなわちTによる信号減衰を生ずる時間長、(CT-PRESSの場合には、Tctに相当する)を変化させてスペクトルを取得した後に、Tを算出およびT補正を行う方法を利用することができる。すなわち、Tctの異なる少なくとも2つのConstant Timeスペクトルを取得し、Tを算出して信号減衰を補正することが考えられる。



具体的には、図24を参照して説明する。まず図24(A1)に示す様に、Tct_の条件で磁気共鳴信号を取得し、この再構成の結果、スペクトルを取得する。次に、(C1)で、スペクトル解析を行い、例えば、物質a、b、cのそれぞれのピーク体積を算出する。続いて、(D1)で得られたピーク体積を濃度換算可能な値、すなわち、この値を後述のT解析することで濃度が算出できる値に変換する。ここでは、変換された値を濃度基準量と呼ぶこととする。



_
濃度算出に利用される値の変換方法としては、例えば、物質の内部の水Hの信号を用いてRFコイルの負荷因子を求めるなどの方法、あるいは外部標準を利用する方法などがある。同様に、Tct_の条件での磁気共鳴信号取得図24(A2)後、再構成によるスペクトル取得(B2)を行い、同様に、(C2)、(D2)のステップで、物質a、b、cのTct_での濃度基準量を求める。図24(D1)、(D2)で算出された値を用いて、(E)のT解析を実施し、物質a、b、cの濃度が算出できる。



しかし、この方法では、複数の2次元スペクトルを取得する必要があり、時間がかかるという問題があった。例えば、2次元スペクトルのデータ収集には、おおよそ30分程度かかる。この結果、少なくとも2つのTctでのスペクトルを収集すると、少なくとも1時間程度の計測時間が必要であり、定量化のために時間がかかるという問題があった。

産業上の利用分野


本発明は、磁気共鳴現象を利用する磁気共鳴装置の磁気共鳴スペクトロスコピーを用いた物質の濃度や化学反応などの定量分析に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
静磁場中に設置された対象物に対して、少なくとも2つのRFパルスを、一定の時間毎に、第1のRFパルス以外の他のRFパルスの印加時刻を時間シフトさせて磁気共鳴信号を収集し、計算機システム内に少なくともt軸、磁気共鳴信号の時間軸(t)から構成される2次元以上の多次元全時間領域データとして格納する手段を具備する磁気共鳴装置において、
該全時間領域データから部分的に抽出された時間領域データから再構成によって2次元以上の多次元スペクトルを取得し、該部分的に抽出された時間領域データとt軸方向に重複する領域を一部有するが、該部分的に抽出された時間領域データと異なる領域である、該全時間領域データから部分的に抽出された他の時間領域データから再構成によって他の多次元スペクトルを繰り返し複数の多次元スペクトルを取得することを特徴とする磁気共鳴装置。

【請求項2】
前記RFパルスを、スライス選択する勾配磁場パルスと同時に印加する90°パルス、180°パルス、180°パルスの3つのRFパルスとし、それらの中で、一定の時間間毎に、180°パルスのいずれか一方を時間シフトして印加し、前記磁気共鳴信号を収集することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴装置。

【請求項3】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積のT解析によって物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴装置。

【請求項4】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、計算あるいは計測からJカップリングによるピーク体積の変調を求め、算出された該ピーク体積より、求めたJカップリングによる該ピーク体積の変調を乗算した、Tによるピーク体積変化を用いて物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴装置。

【請求項5】
前記部分的に抽出された時間領域データに対して、t軸方向に最大値を1つ有する関数をt軸方向に対して乗算し、最大値を示すt軸上の前記全時間領域データでの値を該部分的に抽出された時間領域データの代表値とすることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の磁気共鳴装置。

【請求項6】
前記部分的に抽出された時間領域データの再構成から得られるスペクトル上に示されたピーク体積を前記代表値で重み付けされた関数でフィッティングすることで物質の濃度を算出することを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴装置。

【請求項7】
前記RFパルスによって得られる所望の物質に関する磁気共鳴信号を計算あるいは計測によって取得して、それぞれの物質に対して全時間領域データを求め、それぞれの該時間領域データに対して少なくともt軸方向にTによる信号強度変化の重み付けを行い、得られた時間領域データの線形結合モデルを用いてT解析を行い、所望の物質の濃度を算出することを特徴とする請求項1~請求項6の何れか1項に記載の磁気共鳴装置。

【請求項8】
前記複数の多次元スペクトルからそれぞれのスペクトル上の物質のピーク体積を算出し、算出された該ピーク体積から物質の反応速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴装置。
国際特許分類(IPC)
画像

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JP2009101311thum.jpg
出願権利状態 登録


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