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リング状ボース・アインシュタイン凝縮体とこれに生成するダーク・ソリトン、その生成方法及びこれらを用いた外場の測定方法 コモンズ

国内特許コード P120007160
整理番号 FU350
掲載日 2012年4月3日
出願番号 特願2009-259334
公開番号 特開2011-106837
登録番号 特許第5561717号
出願日 平成21年11月12日(2009.11.12)
公開日 平成23年6月2日(2011.6.2)
登録日 平成26年6月20日(2014.6.20)
発明者
  • 熊倉 光孝
  • 森田 紀夫
出願人
  • 国立大学法人福井大学
発明の名称 リング状ボース・アインシュタイン凝縮体とこれに生成するダーク・ソリトン、その生成方法及びこれらを用いた外場の測定方法 コモンズ
発明の概要 【課題】リング状ボース・アインシュタイン凝縮体(Bose Einstein Condensate;以下「BEC体」という)をプローブとした電磁場、重力場、回転速度などの新しい高感度計測装置を提供する。
【解決手段】リング状BEC体は、希薄原子気体からなる葉巻型BEC体を真空中にトラップし、前記葉巻型BEC体の長径方向に光プラグを導入して中空葉巻型BEC体を形成し、前記中空葉巻型BEC体の中央のリング状部分にスライス光を導入することによって該中空葉巻型BEC体を該中央のリング状部分に集中させることにより生成した。
【選択図】図4
従来技術、競合技術の概要



原子などの量子力学的な粒子は、量子統計性の異なるBose粒子とFermi粒子とに分類され、このうちBose粒子は、多数個の同じ粒子が一つの量子状態を占有することが可能である。このBose粒子が多数個集合して構成された気体や液体などの粒子集団では、十分に低い温度にまで冷却することにより、すべての粒子が最低エネルギー準位に落ち込んだBose-Einstein凝縮(BEC)が実現することが知られている(図13)。





希薄な気体原子に生じるBECは、中性原子の冷却と捕獲(以下、「トラップ」ともいう。)のメカニズムの理解と実験技術の進歩を背景に、1995年に87Rb、Li、23Naで相次いで実現された(非特許文献1~3参照)。アインシュタイン等が提唱して以来、約70年ぶりにほぼ相互作用しないボース気体の凝縮(BEC)が観測されたわけである。





例えば非特許文献4の解説によれば、温度が数百Kの原子源から秒速数百mで飛来する原子は、大まかに言って、Doppler冷却、原子の捕獲(トラップ)、蒸発冷却という過程を経てBECが起こる10-6~10-7Kという超低温に達する。





Doppler冷却とは、対向するレーザー光を用いてDoppler効果により原子を冷却する方法で、6本(x、y、z軸のそれぞれ正負の方向)のレーザービームを用いることで三次元的に原子を冷却することができる。このDoppler冷却により原子は数百~数十μKまで冷却されるが、重力のために1秒程度でレーザービームの照射領域から落下してしまう。





そのため、これを空間的に捕獲(トラップ)するために考案されたのが磁気光学トラップ(Magneto-Optical Trap;MOT)である。上記6本のレーザービームに加えて、磁気コイルを用いてビームの交差点で磁場が極小点を持つようにして原子を捕獲(トラップ)することができる。このMOT中でもDoppler冷却が働いて原子は冷却されるが、更に偏光勾配冷却を行い、図2のような磁気コイルで形成した磁気トラップに原子を捕獲する。この磁気トラップに捕獲される原子の温度は0.1~1mK程度である。





しかし、BECを起こすためには温度を更に3桁から4桁下げる必要があり、このために蒸発冷却という技術が用いられる。蒸発冷却の原理は、カップに入れられた熱湯が冷める原理と同じであり、カップからは運動エネルギーの大きい水分子ほど高い確率で蒸発し、残された分子は互いに弾性衝突を繰り返すことでより低い温度に達する。従って、磁気トラップに閉じ込められたスピン偏極した原子集団に、エネルギーの高い原子のスピンだけを選択的に反転するように調節されたラジオ周波数(rf)磁場を照射すると、スピン反転した原子は磁気トラップから放逐され、残された原子系の温度は下がる。rf磁場の周波数を下げていくと、運動エネルギーの高い原子から低い原子へと順次に磁気トラップから放逐され、それに従って残された原子集団の温度が下がっていく。





上記図2の各軸交点に示す楕円体は、本出願人たちが87Rbの希薄気体原子で生成した葉巻型BEC体101である。原子数8×10個程度の原子が最終的に磁気光学トラップされ、直径約10μm、長さ約100μmの葉巻型BEC体101が実現されている(非特許文献5参照)。





このような新たに実現された葉巻型BEC体101を用いて様々な物理量、例えば電場や磁場、重力場、回転速度などを高精度に測定しようとする試みは自然である。





一般に、このような電磁場、重力場、回転速度などの計測は、測定対象となる外場と測定装置(プローブ)とを相互作用させ、プローブ側の微小なエネルギー変化を検出することで行われる。したがって、プローブのエネルギー変化を精度よく測定することができれば、より高感度な計測が可能である。





たとえば、現在もっとも高精度・高感度な計測装置である原子干渉計では、原子をプローブとして、相互作用により原子の内部エネルギーを変化させ、相互作用時間の間に生じた量子力学的な位相変化を微小なプランク定数を尺度として測定し、高い感度を実現している(図14)。つまり、原子の位相変化Δφ(t)とエネルギー変化ΔEの間には下記式(1)の関係があるため、図15に示すような原子干渉計の場合、原子の干渉を計測することにより、高精度・高感度な位相変化Δφ(t)及びエネルギー変化ΔEの測定が期待できる。





【数1】








しかし、さらに高精度な位相変化Δφ(t)の測定を行うには次のような問題があった。すなわち、これまでの原子干渉計では、衝突が無視できるような希薄な原子ビームを用いて個々の原子についての干渉測定を行っているため、微弱な相互作用の検出には、高いS/N比を得るために、多数回・長時間の繰り返し測定が必要であり、時間分解能も非常に低い。また、重力による原子の落下や原子ビームの拡がりなどによって可干渉距離が制限されるため、相互作用時間がms程度に制限され、エネルギー変化の測定精度が大きく制限されている。





一方、BEC体を用いた原子位相の測定法としては、図16のように、原子ビームに代えてBEC体を分岐・干渉させる干渉計が提案されている。BEC体を利用することで、測定一回あたりの原子数を大きく増加させることができ、S/Nの改善による高感度化が期待されているが、従来の原子ビームの場合と同様に、重力による落下や飛行距離によって相互作用時間が制限される欠点が未だに残っている。また、この他にもBEC体を利用した干渉計では、(1)2つのBEC体に分岐する際に発生する原子数差によって、両者に自己エネルギー差が発生し、測定する位相差に誤差が生じること、(2)BEC体が飛行する間に拡散し、長時間経過すると原子数密度が大きく減少し、観測が困難になること、などの欠点があり、相互作用時間・観測時間には制限が残る。





非特許文献6、7、8に開示されているように、光双極子力ポテンシャルによるBEC体への位相書き込み(位相の焼付け)により、従来実現されている葉巻型BEC体101に位相ステップΔθを発生させ、生成されたダーク・ソリトンの運動を観測する実験もなされている。すなわち、図17(c)のような葉巻型BEC体101の中央から左半分の部分に位相印加用レーザーを照射して光学的な位相焼付けを行うと、例えば図17(b)のような位相ステップΔθ(この場合π)と、図17(a)のような原子数密度分布n(z)が得られる。図17(a)のような原子数密度分布n(z)の窪みがダーク・ソリトン(l;ソリトンの芯の幅)であり、位相ステップΔθは原子数密度の窪みの移動速度vおよび原子数密度nbotと、以下のような関係を満たしている(ただし、vは音速、nはダーク・ソリトンの芯から離れた原子数密度分布n(z)~nとする。)。





【数2】








上記式(2)において位相ステップΔθ=πとすると初期状態として静止したダーク・ソリトンの生成が期待されるが、この位相ステップの大きさは外場の印加によって式(1)に従い位相Δφ(t)だけ初期値から変化するため、ソリトンは運動を開始する。このソリトンの運動を観察することにより、外場による原子のエネルギー変化を検出することができるが、微少なエネルギー変化でも長い観測時間に亘って位相変化を蓄積できるため、より精密なエネルギー変化の検出が期待できる。しかし、葉巻型BEC体101に位相ステップΔθ=πの位相の焼付けを行っても、静止したダーク・ソリトンは生成できず、図17(d)のような2つの動的ソリトンが生成してしまう。したがって、観測時間が短くなるという困難があった。





また、葉巻型BEC体101の構成原子は、3次元調和型ポテンシャルに閉じ込められるため凝縮体の原子数密度が不均一で、さらに、形状が葉巻型であるので、ダーク・ソリトンは端で反射され、擾乱を受けやすい。このため葉巻型BEC体101に生成したダーク・ソリトンの運動の観測は、精密な物理量の計測には不適切であった。





【非特許文献1】

.H.Anderson.et.al:Science269(1996)198

【非特許文献2】

.C.Bradley.et.al:Phys.Rev.Lett.75(1995)1687

【非特許文献3】

.B.Davis.et.al: Phys.Rev.Lett.75(1995)3969

【非特許文献4】

田正仁:日本物理学会誌53(1998)663

【非特許文献5】

井大学重点研究成果集2008(2008)88

【非特許文献6】

.Burger.et.al: Phys.Rev.Lett.83(1999)5198

【非特許文献7】

.Denschlag.et.al:Science287(2000)97

【非特許文献8】

子光学(スプリンガー社:P.メスター 著;盛永篤郎・本多和仁 訳)224~228

産業上の利用分野



本発明は、リング状ボース・アインシュタイン凝縮体(ボース・アインシュタイン・コンデンセート(Bose Einstein Condensate)、以下「BEC体」ともいう)と、BEC体に生成するダーク・ソリトン及び静止したダーク・ソリトン、これらの生成方法、およびこれらを用いた物理量の測定方法に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
希薄原子気体からなる葉巻型のボース・アインシュタイン凝縮体(Bose Einstein Condensate;以下「BEC体」という)を真空中にトラップし、
前記葉巻型BEC体の長径方向に光プラグを導入して中空葉巻型BEC体を形成し、
前記中空葉巻型BEC体の中央のリング状部分にスライス光を導入することによって該中空葉巻型BEC体を該中央のリング状部分に集中させたリング状BEC体。

【請求項2】
前記リング状BEC体上の任意の2点に原子排除用レーザー光を照射して前記希薄原子気体の原子数密度の窪みをつけ、該2点を境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体を生成し、
前記一方側の弧状BEC体に位相印加用レーザーを照射して、該一方側の弧状BEC体と前記他方側の弧状BEC体間に位相ステップΔθを生じさせて、
前記2点の位置にダーク・ソリトンを生成させた、請求項1に記載のリング状BEC体。

【請求項3】
前記2点は、前記リング状BEC体の中心から角度方向にπ異なる位置にある2点である、請求項2に記載のダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体。

【請求項4】
前記一方側の弧状BEC体と前記他方側の弧状BEC体間に生じさせた位相ステップΔθはπである、請求項2または3に記載のダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体。

【請求項5】
希薄原子気体からなる葉巻型のBEC体を真空中にトラップするステップと、
前記葉巻型BEC体の長径方向に光プラグを導入して中空葉巻型BEC体を形成するステップと、
前記中空葉巻型BEC体の中央のリング状部分にスライス光を導入することによって該中空葉巻型BEC体を該中央のリング状部分に集中させるステップと、
を含むリング状BEC体の生成方法。

【請求項6】
請求項5に記載の生成方法により生成したリング状BEC体上の任意の2点に原子排除用レーザー光を照射して請求項5に記載の希薄原子気体原子数密度の窪みをつけ、該2点を境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体を生成するステップと、
前記一方側の弧状BEC体に位相印加用レーザーを照射して、該一方側の弧状BEC体と前記他方側の弧状BEC体間に位相ステップΔθを生じさせるステップと、
を含む、前記2点の位置にダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体の生成方法。

【請求項7】
前記2点を境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体を生成するステップは、該2点を前記リング状BEC体の中心から角度方向にπ異なる位置とするステップを含む、請求項6に記載の2点の位置にダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体の生成方法。

【請求項8】
一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に位相ステップΔθを生じさせるステップは、該位相ステップΔθをπとするステップを含む、請求項6または7に記載のダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体の生成方法。

【請求項9】
請求項6に記載の2点の位置請求項8に記載の位相ステップΔθがπであるダーク・ソリトンを生成させたリング状BEC体を準備するステップと、
前記リング状BEC体に外場を印加するステップと、
前記リング状BEC体の前記ダーク・ソリトンの運動を観測するステップと、
前記ダーク・ソリトンの運動を観測するステップから、該ダーク・ソリトンの速度比(v/v;vは音速)又は原子数密度比(nbot/n;nbotは該ダーク・ソリトンの窪みの底での原子数密度、nはダーク・ソリトンの芯から離れた原子数密度)を測定するステップと、
前記ダーク・ソリトンの速度比又は原子数密度比から、関係式
【数1】


(Δφ(t)=Δθ+δ(t)、Δθ=π;δ(t)は前記外場の印加により2つの該ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に生じる位相差)
を通して、該外場の印加により該ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に生じる位相差Δφ(t)を求めるステップと、
前記位相差Δφ(t)を用いて、関係式
【数2】


を通して、前記外場の印加により前記ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に生じるエネルギー差ΔEを求めるステップと、
前記印加した場により前記ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に生じるべきエネルギー差と前記エネルギー差ΔEを比較して、該外場を特徴付ける量を求めるステップと、
を含む外場の測定方法。

【請求項10】
前記ダーク・ソリトンを観測するステップは、該リング状BEC体の上方より観測用レーザーを該リング状BEC体に照射し、該リング状BEC体の下方よりカメラで該リング状BEC体を撮像するステップを含む、請求項9に記載の外場の測定方法。

【請求項11】
前記外場は電場であり、前記ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体に前記印加した場E、Eにより両BEC体間に生じるべきエネルギー差はΔE=(αE)/2-(αE)/2(αは原子の分極率)である、請求項9または10に記載の外場の測定方法。

【請求項12】
前記外場は磁場であり、前記ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体に印加した場B、Bにより両BEC体間に生じるべきエネルギー差はΔE=μB-μB(μは磁気双極子モーメント)である、請求項9または10に記載の外場の測定方法。

【請求項13】
請求項9に記載の前記リング状BEC体に外場を印加するステップは、該リング状BEC体を前記2点の位置を結ぶ軸を中心に傾斜角θだけ傾斜させて該2点を境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に高さの差hを生じさせるステップである、請求項9に記載の外場の測定方法。

【請求項14】
前記外場は重力加速度gであり、前記印加した場により前記ダーク・ソリトンを境界とした一方側の弧状BEC体と他方側の弧状BEC体間に生じるべきエネルギー差はΔE=mgh≒(mgd)θ(mは原子の質量、dはリング状BEC体の直径)である、請求項13に記載の外場の測定方法。
国際特許分類(IPC)
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