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ステンレス鋼の制振処理 コモンズ

国内特許コード P140011084
掲載日 2014年11月4日
出願番号 特願2014-199519
公開番号 特開2016-069680
出願日 平成26年9月30日(2014.9.30)
公開日 平成28年5月9日(2016.5.9)
発明者
  • 渡辺 義見
  • 岩田 直也
  • 佐藤 尚
  • 塚本 英明
出願人
  • 国立大学法人 名古屋工業大学
発明の名称 ステンレス鋼の制振処理 コモンズ
発明の概要 【課題】ステンレス鋼に対し、材料組成を変化させずに制振特性を向上する方法を提供する。
【解決手段】材料に加工と熱処理を繰り返し施すことによって、制振特性を支配する部分転位の数密度(単位体積あたりの個数)を増加させる。この加工時において、振動と同一の変形モードで加工を行うことにより、振動中に移動しやすい制振源を優先的に発生させ、高い減衰能を発現させる。
【選択図】図7
従来技術、競合技術の概要


身近にある機械製品の多くにおいて、動作する際、振動および騒音が必ず生じる。この振動および騒音は、環境の悪化のみならず機械の性能、安全性の低下などの原因となる。それゆえ、振動および騒音の抑制は非常に重要であり、そのための様々な方法が提案されている。その方法として例えば、ゴムや高分子材料を用いる方法、また構造的に振動を吸収する方法などがある。両者は共に制振性は高いものの、前者には、強度および耐熱性が劣るため、使用箇所が限られるという欠点が、後者には、構造や重量により振動を抑制するため、それらが制限されるという欠点がそれぞれ存在する。従って、これらの方法に代わって、制振合金の利用が提案されている。



ところで高い振動吸収能力を有する金属系材料が存在し、制振合金と呼ばれている。この制振合金は金属材料であるため、高強度・高耐熱性などといった性質をも有している。従って、幅広い箇所で利用可能であり、機械などの構造部材として利用すれば、特別な制振機構を必要とせず振動を抑制することができる。しかし、この制振合金は、従来制振材料として用いられていたゴムなどに比べて制振能に劣るといった欠点が存在するため、実用化のためには、高性能化が必須である。また、制振合金は汎用的な材料ではないため、製造コストが高くなってしまうといった課題も存在する。両者の課題を同時に解決する方法として、汎用的な金属材料であるステンレス鋼の振動減衰能が向上できれば社会的意義は高い。



ここでステンレス鋼とは、11%以上のCrを含有するFe-Cr系合金のことであり、不動態被膜の形成により高い耐食性を有する。Cr含有量が16%以上になると、不動態被膜がより強化され、耐食性が著しく向上する。また、Crに加えてオーステナイト相形成元素であるNiを添加することによりオーステナイト相(γ相)領域を拡大させ、高温から低温まで安定なγ相が得られるようにしたステンレス鋼を、オーステナイト系ステンレス鋼という。代表的なものとして、FeにCrを18%、Niを8%添加した合金であり、18-8ステンレスとも呼ばれ、SUS304が挙げられる。このオーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、機械的性質、加工性および溶接性などに優れるという万能的性質を有し、製造も容易であるため、家庭用品から航空・宇宙産業まであらゆる分野で利用されている。従って、ステンレス鋼の制振能を向上させることができれば、現在、ステンレス鋼が使用されている機械製品や機械部品の振動を抑制することが可能となり、動作時の振動を吸収させることで、製品性能の向上が見込める。



制振合金の制振能を向上させる技術として、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に示されている熱トレーニング処理や加工・熱トレーニング処理がある。ここで、熱トレーニング処理や加工・熱トレーニング処理は、通常、形状記憶合金の形状記憶効果向上を目的として施される処理であり、マルテンサイト変態と逆変態とを繰り返すことにより、組織の微細化と均一化を生じせしめ、形状記憶効果向上を達成させる技術である。形状記憶効果向上の要因として、オーステナイト母相強化によるすべり変形の抑制、εマルテンサイトの核となる積層欠陥の導入、同じバーガースベクトルを持った部分転位の密度増加、トレーニング後の組織では低倍率では1枚に見えるε板がナノスケールのオーステナイト/ε積層状態になっていることなどが報告されている。



特許文献1記載のFe-Mn系制振合金の制振特性を向上させる熱トレーニング処理として、Fe-Mn系制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、水冷し、その後、液体窒素やドライアイスなどを用いたサブゼロ処理にて、より低い温度まで急冷する、という熱処理を繰り返すことによって、Fe-Mn系合金の制振特性を向上させる方法が見出されている。また、Fe-Mn系制振合金をオーステナイト領域温度で熱処理した後、水冷し、その後、液体窒素やドライアイスなどを用いたサブゼロ処理にて、より低い温度まで急冷し、制振特性をさらに向上させるために、この熱処理プロセスの間に、圧延や鍛造などにより、材料へ加工を加える加工・熱トレーニング処理も特許文献1に記載されている。



ここで、Fe-Mn系制振合金の制振能発現の要因は、振動による図1に示すような積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、およびεマルテンサイトのバリアント境界の移動によるものであることが報告されている(非特許文献2参照)。ここで、積層欠陥とは面状に形成された2次元的格子欠陥であり、ABCABCABCという面心立方格子の最密面積層の一部がABCABABCAのごとく乱れた部分を指し、部分転位の移動により発生する。また、εマルテンサイトとはhcp構造のマルテンサイト相であり、fcc相の最密面の2層に1層、部分転位が移動することにより形成する。バリアント境界とはこのεマルテンサイト内の兄弟晶の境界を指す。 金属組織学的にFe-Mn系制振合金の制振源は積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、およびεマルテンサイトのバリアント境界の移動と呼べるが、転位論的には部分転位の移動と考えることもできる。



特許文献2においては、上記加工・熱トレーニング処理において、その加工プロセスとして振動と同一の変形モードである曲げ加工を適用することで、積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界といった部分転位の形成や移動に対して、振動中に移動しやすい制振源を優先的に発生・移動させ、さらなる制振能の向上が認められることが記載されている。従って、この加工・熱トレーニング処理では、積層欠陥境界、オーステナイト/εマルテンサイト境界、あるいはεマルテンサイトのバリアント境界といった、制振能発現の要因を増加させることに加えて、曲げ加工により振動と同一の変形モードで加工を行うことで、上記の部分転位を振動減衰に有効に寄与するものへと制御することが可能な技術である。



SUS304のようなオーステナイト系のステンレス鋼は、オーステナイト単相である。オーステナイト系ステンレス鋼において、オーステナイト相形成元素であるNi元素の添加は、オーステナイト相を安定化させる働きを有する。しかし、SUS304のような、8%程度のNi含有量においては、オーステナイト相は完全に安定とはならず、準安定な状態で存在する。従って、このようなオーステナイト系ステンレス鋼に対して冷間加工を施すことによって、加工誘起マルテンサイト変態が生じる。ここで、通常のマルテンサイト変態においては、形成するマルテンサイトはbcc構造を有するα’マルテンサイト相であり、その形成に伴い強度の向上などが生じる。また、オーステナイト相からα’マルテンサイト相へと変態する過程において、中間相としてオーステナイト相からεマルテンサイト相への変態が生じるため、ステンレス鋼においてもεマルテンサイト相が形成しうる。さらに、このマルテンサイトは熱処理によってではなく加工によってのみ形成するため、そのバリアント境界は変形に対して優先的なものが形成すると考えられる。つまり、ステンレス鋼においても上記Fe-Mn系制振合金と同様に、部分転位の移動に関連した振動減衰メカニズムが発現すると考えられる。

産業上の利用分野


本発明は、ステンレス鋼の振動減衰能(制振能)を付与させる処理方法に関するものである。

特許請求の範囲 【請求項1】
ステンレス鋼をオーステナイト領域温度で熱処理した後冷却することでオーステナイト化し、塑性加工を施すという操作を繰り返すことにより部分転位の密度を増加させたステンレス鋼の処理方法。

【請求項2】
前記塑性加工が振動と同一の変形モードによる塑性加工である請求項1に記載のステンレス鋼の処理方法。

【請求項3】
前記ステンレス鋼がオーステナイト系のステンレス鋼である請求項1または2に記載のステンレス鋼の処理方法。

【請求項4】
前記部分転位が振動減衰に寄与しうる請求項1~3のいずれかに記載のステンレス鋼の処理方法。

【請求項5】
前記熱処理における温度が700℃であり、塑性加工により導入された部分転位を消滅させうる熱処理条件である請求項1~4のいずれかに記載のステンレス鋼の処理方法。

【請求項6】
前記塑性加工によって導入されるひずみが0.034であり、α’マルテンサイト変態を生じない塑性加工である請求項1~5のいずれかに記載のステンレス鋼の処理方法。
国際特許分類(IPC)
Fターム
画像

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出願権利状態 公開
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