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X線源及びこれを用いるX線照射装置並びにX線光電子分光装置

国内特許コード P150012497
掲載日 2015年10月28日
出願番号 特願2014-194466
公開番号 特開2015-088485
出願日 平成26年9月24日(2014.9.24)
公開日 平成27年5月7日(2015.5.7)
優先権データ
  • 特願2013-202609 (2013.9.27) JP
発明者
  • 小林 啓介
  • 山本 哲也
  • 牧野 久雄
  • 岩井 秀夫
出願人
  • 高知県公立大学法人
  • 国立研究開発法人物質・材料研究機構
発明の名称 X線源及びこれを用いるX線照射装置並びにX線光電子分光装置
発明の概要 【課題】Cr等のターゲット表面を耐熱性の高い薄膜で覆うことによってターゲットの昇華を抑え、より高い温度による電子ビーム照射を実現し、これによりスポットサイズを100μmあるいはそれ以下に保ったままで2倍から10倍の高いX線強度を得ることができる。
【解決手段】基板上に形成されたターゲット層と、該ターゲット層を被覆するコーティング層とを備えるX線源であって、前記ターゲット層は、Cr、Al、Ag、Mg及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含み、前記コーティング層は、高融点化合物を含む薄膜であり、前記高融点化合物は、高融点遷移金属、該高融点遷移金属の酸化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、酸窒化物、けい化物及びカルコゲン化物、並びに、前記高融点遷移金属の金属ダイシリサイド及び金属アルミナイド、さらにはSi基セラミックスよりなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とするX線源とする。
【選択図】図1
従来技術、競合技術の概要


Kai Siegbahn(1981年ノーベル賞受賞)らによって創始されたX線光電子分光法(短縮してXPSと呼ばれる)では、単色X線を真空中に置かれた物質試料に照射して、この照射により放出される光電子の運動エネルギ分布を、電子エネルギ分析器によって測定する。これによって物質の内部に束縛されている電子のエネルギ状態を分析することが可能となる。よって、XPSは、物質・材料研究や分析手段として広く利用されている。実験室で用いられるXPSでは、従来からAl、Mgなどのタ-ゲットを10数kVから数10kVに加速した電子ビ-ムで照射して発生させたKαまたはLα特性X線を光電子の励起に利用する。



最近では結晶分光器によってAl Kα線を単色化して分解能の高い分析を行うことができる装置が一般化しつつある。このタイプの装置では、結晶分光器によって1eV程度の自然幅を持つ特性X線のバンド幅を有限の回折効率をもつ結晶分光器によって0.3eV程度まで小さくするため、X線強度は減少する。そこでターゲットの励起には10-100μmの収束電子ビ-ムを利用し、発生したX線の分光には湾曲結晶を用いたロ-ランド型の分光器を用い、これにより単色化して試料上に収束照射する。これによって輝度の高いX線励起が可能となり、電子エネルギ分析装置への光電子の取り込み効率を高くする工夫がなされている。
また、X線強度をできるだけ大きくするために、タ-ゲットを水冷することにより、電子ビ-ム照射によって発生した熱を除去し、タ-ゲットの損傷を防いでいる。従って、水冷タ-ゲットの損傷による電子ビ-ム励起の上限が、このタイプのXPS装置から得られる信号強度の最も主要な制限要因になっている。



今日では、上記の単色化収束X線によるXPS装置は標準的な分析装置として市販され広く利用されている。一方で、上記XPS装置は、いくつかの本質的な問題点を持っていることは一般的に強く認識されている。すなわち、上記XPS装置は、AlのKα線のエネルギが1.49keVと低く、従って光電子の運動エネルギも高々1keV前後と低いために、固体試料においては、試料内部で発生した光電子は、表面にたどり着いたときには強い散乱によって発生したときの記憶を失ってしまう。このために、ごく表面近傍で発生した光電子のみが有用な情報を持つことになり、従ってこのAl Kα線励起によるXPSは極めて表面敏感な手法である。



通常、物質試料の表面は、水の吸着や酸化、あるいはその他の汚染物によって覆われており、多くの場合、そのままでは物質内部からの光電子は表面に達せず、汚染層からの信号のみが観測されることになってしまう。表面汚染層の除去法として、試料の劈開、破断、イオン衝撃、などがよく用いられるが、各々欠点がある。劈開は限られた結晶にのみ適用可能で、破断も均一な破断面が得られる試料には限りがある。イオン衝撃は表面付近のかなりの厚さの層に欠陥が残るのでアニ-リングが必要となる。また一般的に選択スパッタリングが起こるので表面組成が変化してしまう。アニ-リングも表面の組成や状態を変えてしまうので、何を測っているのかわからなくなる虞がある。
よって、物質本来の電子状態や化学結合状態を調べる手段、また組成や状態分析手段としてはこれらの問題点に十分な注意を払いながら使わねばならない。



本来、光電子分光法は物質の内部に束縛された電子のエネルギ状態を見る唯一の方法であり、また、組成のみならず化学状態の分析にも優れた方法である。にもかかわらず、この表面敏感姓がそのより広い適用を強く制限していた。



光電子の物質内部での非弾性散乱は、光電子と物質に束縛されている電子との散乱が主であるので、光電子の運動エネルギが大きくなるに従い、非弾性散乱は減少する。従って、励起X線のフォトンエネルギを高くして光電子の運動エネルギを大きくすることにより、光電子がエネルギを失わずに試料表面にたどり着く確率が増加する。すなわち、光電子スペクトルにおいて試料内部で発生した光電子からの寄与が増大する。
この考えに立って、物質のバルクの電子状態や化学状態を見る方法として、アンジュレーター放射光を使った硬X線光電子分光法(HXPESもしくはHAXPES)が開発され、成功を納めている。この方法においては、よりエネルギの高いX線(4~10keV)を励起に使うことで、光電子の運動エネルギを大きくし、より深い内部から放出される光電子の分析を可能にする。この手法はすでにSPring-8をはじめとする世界の放射光施設で利用に供され、広い分野のユ-ザ利用が多くの成果を輩出している。



放射光によるバルク敏感なHAXPESは、固体物理、物質・材料科学、分析科学、さらにはデバイス開発において非常に強力な手段であることが認識されるとともに、その需要は増加の一途をたどっている。しかるに放射光のビームタイムリソースは有限であり、すべての利用希望に応えることは不可能である。また、放射光施設での実験には半年前に課題申請を行い、競争率の高い課題評価を経て得られたビ-ムタイムは固定されていて、実験環境の管理も厳しく、多様な実験に応えきれない、などの問題点もある。



この問題を解決するために、発明者らはすでにCrのKα線(5.4keV)をGe(422)反射によって単色化するX線源を開発し、これを、広角対物電子レンズを備えた光電子エネルギ分析器と組み合わせて、一定の実用性を持つ実験室HXPES装置を開発して、様々な応用を行ってきた。



この装置は、表面が平滑な試料に対しては、十分に実用に耐えるスル-プットと角度およびエネルギ分解能を有しているが、凹凸の多い表面を持った試料や、軽元素の浅い内殻レベルあるいは価電子帯の光電子スペクトルの取得には数時間から半日を要することもある。



このようなCrをターゲットとするX線照射装置としては、例えば、特許文献1に、ターゲットとしてAlとCrを併用するX線照射装置が開示されている。このようなCrをターゲットとするX線照射装置において、実験室硬X線光電子分光法をより利用しやすくするためには、X線の集光サイズを変えずにX線強度をさらに数倍から10倍程度高くすることが求められる。



既存の集光型単色化Cr Kα線源を用いたXPSは、マイクロ収束型の電子銃で水冷Crタ-ゲットを励起することにより発生するX線を、Ge単結晶を用いたロ-ランド型の湾曲結晶分光器によって単色化して、試料表面上に典型的には100μm程度以下に集光して照射する。光電子のエネルギ分析器は、通常5~25倍程度の拡大率を持つ電子レンズを備え、その後ろに可変幅のスリットを通して半球型エネルギ分析器が配置される。従って、もし7倍の拡大率の電子レンズを使った場合、100μmφのX線照射領域から放出された光電子は、スリットのところでは700μmに拡大されるので、700~800μm幅のスリットを使えば、ほぼ無駄なく電子エネルギ分析器に取り込むことができる。スリット幅は得られるスペクトルの幅を決めるので、これ以上の大きな幅のスリットを使うことはスペクトルの質の低下を招く。
以上のことから、タ-ゲット上でのX線励起用の電子ビ-ムは100μmφ以下であることが望ましい。ローランド型分光器では光源を倍率1で試料上に収束させるので、タ-ゲット上の電子線のスポットサイズがそのまま試料上でのX線スポットサイズの最小値となる。



このとき発生するX線の出力は、Crタ-ゲットに照射する電子線の加速電圧とビ-ム電流によって決まる。従来のタ-ゲットは、水冷基板上にCrの蒸着膜を設けた構造で熱伝導によって電子線励起による熱を逃がす構造となっている。従って、電子線によって励起される部分の温度上昇は、電子線のビ-ム電流密度、加速電圧および、タ-ゲット材(Cr)および基板(Ag)の熱伝導率によって決まる。この部分の温度がCrの昇華が無視できない温度に達すれば、それ以上、電子線出力を増加することはできない。



電子線照射のシミュレ-ションから、電子線照射によって発生する2次電子雲の分布の深さは電子ビ-ムの加速電圧に従って増加する。この2次電子雲がCrタ-ゲット層の中に収まるようにCr層の厚さを決めると、その厚さは図6に示すように電子線の加速電圧とともに増加する。
一方で、Crは基板のAgに比べて熱伝導率が小さく、従ってCr層で発生した熱はCr層の厚さが大きくなるに従って、逃げにくくなる。X線強度を増加させるために電子線の加速電圧を増加させると、Cr層の必要な厚さが増加し、Cr層内に熱が蓄積し、その結果Cr層の温度上昇がより大きくなってしまう。Crの昇華が無視できる温度として760℃をCr層の温度の上限としてシミュレ-ションを行うと、ビ-ム径が100μmの場合には、X線の強度は加速電圧が30kV程度以上に増加させても意味はなく、そのときの電子ビ-ムの出力は高々35~40W程度であることがわかる。すなわち、照射領域のCrの温度上昇によって昇華が始まってしまうため、X線強度は電子線出力を上げても増加しない。



このシミュレ-ションによる解析の結果はまた、この制限は基板金属およびCrの熱伝導率と熱容量、照射された電子のCr層内での飛程、Crの蒸気圧曲線などの物質パラメ-タ-で決まっており、単純な構造のCrタ-ゲットでは改善の余地がないことを明瞭に示している。なお上記のシミュレ-ションにおいてはAg基板の水冷は理想的で、水温は30℃に固定されていて、基板底部の温度上昇も無視できる範囲であることを示しており、実験結果とも一致している。すなわちタ-ゲットの水冷構造にはほとんど改善の余地はないことがわかった。



また、より強い強度のX線をターゲットに照射するためのX線照射装置として、回転対陰極X線発生装置が知られている。
この回転対陰極X線発生装置とは、内部に冷却媒体を流通させた円柱状の対陰極(ターゲット)を高速で回転させながら、その外周表面に電子線を照射してX線を発生させるものである。対陰極を回転させることによって、ターゲット上の電子線の照射位置が変化し、これにより冷却効率を高めることが可能となる。従って、ターゲットに大電流の電子線を照射することができ、高強度なX線を発生させることができる。この時、対陰極の回転数を高く、また回転ターゲットの径を大きくするほど、ターゲットの温度上昇は抑えられるが、一方で真空中におかれた水冷対陰極を真空外の駆動装置により回転させるためには、回転軸および冷却媒体のシールが必要で、このために回転数には技術的な制限がある。X線回折用の回転対陰極では3000RPM前後の回転数のものが通常に市販されている。この回転対陰極においても、ターゲット材の蒸発、昇華を抑えることにより、技術的に可能な範囲の回転数で、より小さい径の回転対陰極によってより高い出力の電子線励起が可能となる。



特許文献2には、通常の回転対陰極とは異なる構造の回転対陰極について記載されており、コの字型構造の回転対陰極のコの字の内側を電子ビームで集光励起して溶融状態のターゲット材が飛散しないように遠心力でコの字の壁に押し付ける構造の回転対陰極(ターゲット)が提案されている。対陰極(ターゲット)を融点以上に加熱した場合におけるターゲットの消耗の抑制を目的として、CuやCo等の構成材料からなるターゲットの表面に、黒鉛、ダイヤモンド、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭化チタン、シリコン、ホウ素又は窒化ホウ素からなる被膜を形成することが開示されている。
また、特許文献3には、ターゲット表面のひび割れを防止することを目的として、Cuからなる基体上にAlN厚膜を具備するターゲットを用いることが開示されている。
しかしながら、特許文献2及び3に記載の技術は、ターゲットの構成材料がCuやCoであるものしか開示しておらず、ターゲットがCrであるもの及びそれに好適な被膜については開示されていない。また、特許文献3記載の技術は、上記したようにターゲット表面のひび割れを防止することを目的とするものであって、高強度のX線を得ることを目的とするものではない。

産業上の利用分野


本発明は、従来に比べて高いX線強度を得ることができるX線源及びこれを使用するX線照射装置並びにX線光電子分光装置に関するものである。

特許請求の範囲 【請求項1】
基板上に形成されたターゲット層と、該ターゲット層を被覆するコーティング層とを備えるX線源であって、
前記ターゲット層は、Cr、Al、Ag、Mg及びTiよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記コーティング層は、高融点化合物を含む薄膜であり、
前記高融点化合物は、高融点遷移金属、該高融点遷移金属の酸化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、酸窒化物、けい化物及びカルコゲン化物、並びに、前記高融点遷移金属の金属ダイシリサイド及び金属アルミナイド、さらにはSi基セラミックスよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とするX線源。

【請求項2】
前記高融点遷移金属が、W、Ta、Mo、Nb、V、La、Cr、Zr又はTiであることを特徴とする請求項1記載のX線源。

【請求項3】
前記ターゲット層が、Crからなることを特徴とする請求項1又は2記載のX線源。

【請求項4】
前記コーティング層が、クロム系窒化物、及び該クロム系窒化物に由来するクロム系酸窒化物の少なくとも一方を含む薄膜であることを特徴とする請求項3記載のX線源。

【請求項5】
電子ビームを発射する電子銃と該電子銃から発射された電子ビームによりX線を発生するX線源とを有するX線発生機構と、
該X線発生機構から発せられたX線を所定の焦点位置に集光する集光機構とを備え、
前記X線源が、請求項1乃至4いずれかに記載のX線源であることを特徴とするX線照射装置。

【請求項6】
前記集光機構は、X線を単色化する分光機能をさらに備えたものであることを特徴とする請求項5記載のX線照射装置。

【請求項7】
電子ビームを発射する電子銃と該電子銃から発射された電子ビームによりX線を発生するX線源とを有するX線発生機構と、
該X線発生機構から発せられたX線を所定の焦点位置に集光する集光機構と、
前記焦点位置に対応する位置に試料を載置するためのステージと、
前記集光されたX線が前記試料に照射されることにより該試料から放出された光電子の運動エネルギー分布を分析するための分析器と、を備え、
前記X線源が、請求項1乃至4いずれかに記載のX線源であることを特徴とするX線光電子分光装置。
国際特許分類(IPC)
Fターム
画像

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