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紅藻シアニジウム目のための脂質生産用培地組成物および脂質生産方法

国内特許コード P150012674
整理番号 95
掲載日 2015年12月16日
出願番号 特願2014-071081
公開番号 特開2015-192598
出願日 平成26年3月31日(2014.3.31)
公開日 平成27年11月5日(2015.11.5)
発明者
  • 黒岩 常祥
  • 大沼 みお
  • 黒岩 晴子
  • 井元 祐太
出願人
  • 学校法人立教学院
発明の名称 紅藻シアニジウム目のための脂質生産用培地組成物および脂質生産方法
発明の概要 【課題】藻類の増殖を維持しながら、脂質を大量に生産させることのできる培地組成物および脂質の生産方法を提供する。
【解決手段】窒素栄養源となる硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩を十分に含み、さらにリン酸等の無機酸の含量を調節した強酸性の培地組成物であって、塩化ナトリウム等のナトリウム塩を含む培地組成物および該培地組成物を用いた脂質の生産方法。
【選択図】なし
従来技術、競合技術の概要


近年、急激な工業化などにより大気中の二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物が増加して、地球温暖化や海洋の酸性化が進んでおり、一方で化石燃料も近い将来枯渇すると考えられている。生物由来の脂質は、化石燃料に代わるエネルギーとして利用でき、特に光合成生物由来の脂質は、二酸化炭素の排出を削減することが可能なため、光合成生物由来のバイオマスの燃料の開発が進められている。高い二酸化炭素固定能を持つ藻類は、地球上の光合成による全バイオマス生産の約半分を占め、食料生産と競合しないため、バイオマス由来の燃料に適している。地球表面の7割を占める海洋では、紅藻と、その二次共生により誕生した珪藻や褐藻類などが生態系で重要な位置を占め、海洋バイオマスの基盤をなしているが、地球温暖化と海洋の酸性化により、その生産性が落ちている。



こうした問題を解決するには、高温や酸性等の悪環境に耐えながら、二酸化炭素を固定して、バイオ燃料の原料となるバイオマスを生産する生物の開発と利用が重要である。実用化には、藻類の生産性向上と開放系培養を可能にする高環境耐性化が必須である。



藻類において、バイオ燃料の原料となる脂質は、油滴という細胞小器官に蓄積される。緑藻クラミドモナスの油滴には、約90%のトリアシルグリセロール、約10%の遊離脂肪酸が含まれる(非特許文献1)。油滴は、脂質の生産量に応じて、その数と体積を変化させる。クラミドモナスやドゥナリエラなどの緑藻類において、窒素や硫黄などの飢餓条件で油滴を生産させることが可能であるが、いずれの条件でも生育が阻害され、細胞増殖が停止してしまうか、または非常に遅くなる(非特許文献2~4)。例えば、クラミドモナスの野生型において、窒素を含む培地から窒素飢餓培地に移すと4日後の油滴生産量は、開始点と比較して5倍になり、4日後の細胞乾燥重量に対する総脂肪酸の割合は、窒素を含む培地(9%)と比較して12%に上昇する(非特許文献3)。しかし細胞は、膨張のためODは倍になるが、細胞分裂は停止する(非特許文献3)。また、ボトリオコッカスは、多くの脂質を細胞内の油滴と細胞外マトリックスに蓄積するが、倍加時間が1週間、至適条件でも約二日と増殖が非常に遅い(非特許文献5)。このように細胞増殖と、油滴の形成にはトレードオフの関係があると考えられてきた。



例えば窒素の場合について、これまでに報告されている栄養源として使われるものはアンモニウムイオンと硝酸イオンがある。緑藻類、紅藻類ともに一番効率良く資化できる窒素源はアンモニウムイオンであり、細胞増殖が一番速い。しかし、アンモニウムイオンを含む培地で培養すると、油滴の生産は殆ど見られない。培地からアンモニウムイオンを抜くことによって、油滴を生産するが、増殖は停止する。藻類は、アンモニウムイオンの代わりに硝酸イオンを、唯一の窒素源として利用して増殖することができる。海産性緑藻ドゥナリエラでは、硝酸培地へ塩化ナトリウムの添加によって油滴形成量が増加する。しかし、解析時の培地中の硝酸イオンは、ほぼ消費され切っているため、窒素飢餓応答が起こっていると考えられる(非特許文献4)。窒素飢餓を起こさずに油滴を生産させる方法も検討されているが、成功には至っていない。例えば以下の例がある。窒素源としてアンモニウムイオンを含む培地でクラミドモナスを培養し、mid-log phaseとなった培養液にNaClを添加した場合、脂質量が窒素飢餓の場合と同レベルまで上昇したが、細胞の増殖も窒素飢餓時と同様に停止した(非特許文献6)。ほかにも、窒素源を添加した培地で藻類を培養する方法が考案されたが(特許文献2、3)、ある程度細胞が増殖すると、窒素栄養が消費し尽くされ、窒素飢餓状態となる。このように、増殖の早い培地で藻類を培養し、窒素源を消費し尽くさせた後に、自然に窒素飢餓の状況にするという方法では、培養開始時の細胞の状態や細胞数等で効率が変化し得るため、安定した収率を得ることについての懸念が存在する。



従って、工業的に油滴を生産させる場合、既知の培地を用いると、細胞を充分に増殖させておいた後に栄養飢餓条件へ培地を置換または塩の添加する、または培養に非常に時間がかかる培地で培養する必要があり、手間、時間、コスト面等で適していない。



さらに、多くの藻類の場合、pH中性、室温付近で増殖するため、コストの低い開放培養系では他生物混入のリスクがあり、大量培養するのが困難であるという問題がある。
原始的な紅藻のシアニジウム属は、高温強酸性の温泉という極限環境(30~60℃の高温、pH 0.5~5.0の酸性条件)に棲息する単細胞性紅藻であり、バイオマス由来燃料への利用に適した生物である。紅藻のシアニジウム属には、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、ガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)が含まれる。なお、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)を、以降、シゾンと言う。



特にシゾンは、細胞壁を持っていないため、細胞破砕が容易で、細胞内物質を取り出しやすく、バイオマス生産の基盤となる関連物質の単離などに有利であるとともに、本願の発明者らによって、ゲノムが100%完全解読されており、マイクロアレイや質量分析を用いた高精度なオミクス解析が可能である。さらに遺伝子改変技術が開発されているので、ゲノム情報を基礎及び応用研究に利用することができる。他のシアニジウム属であるシアニジウム・カルダリウムとガルデリア・スルフラリアもゲノム情報が明確で、シゾンと同様に単純な構造である。これらは種ごとに、温度やpH、金属濃度等の可能生育条件の範囲、特徴が異なり、極限環境で生息する生命体の特性の解明と、その高環境耐性の利用などの研究に有用である。



紅藻のシアニジウム属は、MA2培地を用いた通常培養では、脂質の検出に用いられる蛍光色素BODIPYで染色される油滴様顆粒が細胞あたりに0~2個ある(非特許文献7、8)。シアニジウム属の油滴も、色素の染色性の類似性から、クラミドモナスの油滴と同様の組成で、大部分がトリアシルグリセロールと考えられる。シゾンにおいても窒素フリー培地を用いた窒素飢餓条件では、緑藻類同様に生育阻害が見られることが知られている(非特許文献9)。

産業上の利用分野


本発明は、紅藻シアニジウム目に脂質を大量に生産させるための培地組成物および脂質の大量生産方法に関する。より詳細には、紅藻シアニジウム目の細胞増殖を維持したまま、脂質を大量に生産させるための培地組成物および脂質の大量生産方法に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
紅藻シアニジウム目に脂質を生産させるための培地組成物であって、以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含み、ここで培地組成物を培地として使用する際において、培地中の無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、培地のpHが1~3である、培地組成物。

【請求項2】
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の培地組成物。

【請求項3】
アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、請求項1に記載の培地組成物。

【請求項4】
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として20mM~50mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1mM~300mMである、請求項1~3のいずれかに記載の培地組成物。

【請求項5】
培地組成物を培地として使用する際において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として25mM~40mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、請求項4に記載の培地組成物。

【請求項6】
クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の培地組成物。

【請求項7】
液体の形状である、請求項1~6のいずれかに記載の培地組成物。

【請求項8】
粉末の形状である、請求項1~6のいずれかに記載の培地組成物。

【請求項9】
40℃以上の温度において紅藻シアニジウム目の培養を行うための、請求項1~8のいずれかに記載の培地組成物。

【請求項10】
(1)以下:
(a)硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のアンモニウム塩;
(b)リン酸、その金属塩、またはこれらの組み合わせを含む1以上の無機酸;および
(c)塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸水素ナトリウムからなる群より選択される1以上のナトリウム塩
の組み合わせを含むよう改変された基礎培養体を含む培地であって、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.5μM~1mMであり、pHが1~3である培地中で、紅藻シアニジウム目を培養する工程;および
(2)培養した紅藻シアニジウム目由来の脂質を回収する工程
を含む、脂質の生産方法。

【請求項11】
1以上の無機酸が、塩酸、硝酸、ホウ酸、これらの金属塩、または1以上のこれらの組み合わせをさらに含む、請求項10に記載の方法。

【請求項12】
工程(1)の培地において、アンモニウム塩が硫酸アンモニウムであり、無機酸がリン酸二水素カリウムであり、ナトリウム塩が塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、または塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムである、請求項10に記載の方法。

【請求項13】
工程(1)の培地において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として20mM~50mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1mM~300mMである、請求項10~12のいずれかに記載の方法。

【請求項14】
工程(1)の培地において、アンモニウム塩の濃度がアンモニウムイオン濃度として25mM~40mMであり、無機酸の濃度が無機酸イオン濃度として0.8μM~0.8mMであり、ナトリウム塩の濃度がナトリウムイオン濃度として1.5mM~150mMである、請求項13に記載の方法。

【請求項15】
工程(1)の培地が、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸、およびこれらの塩からなる群より選択される1以上の有機酸をさらに含む、請求項10~14のいずれかに記載の方法。

【請求項16】
紅藻シアニジウム目が、シアニディオシゾン・メローラエ(Cyanidioschyzon merolae)、シアニジウム・カルダリウム(Cyanidium caldarium)、およびガルデリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)からなる群より選択される一以上の種である、請求項10~15のいずれかに記載の方法。

【請求項17】
紅藻シアニジウム目が、独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-3377として寄託されたシアニディオシゾン・メローラエ、または独立行政法人 国立環境研究所 微生物系統保存施設に株番号NIES-551もしくはNIES-2137として寄託されたシアニジウム・カルダリウムである、請求項16に記載の方法。
国際特許分類(IPC)
Fターム
出願権利状態 公開
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