TOP > 国内特許検索 > 心的外傷後ストレス障害治療薬のスクリーニング方法

心的外傷後ストレス障害治療薬のスクリーニング方法

国内特許コード P160013153
整理番号 (J183)
掲載日 2016年8月4日
出願番号 特願2015-215639
公開番号 特開2016-095299
出願日 平成27年11月2日(2015.11.2)
公開日 平成28年5月26日(2016.5.26)
優先権データ
  • 特願2014-225209 (2014.11.5) JP
発明者
  • 喜田 聡
出願人
  • 学校法人東京農業大学
発明の名称 心的外傷後ストレス障害治療薬のスクリーニング方法
発明の概要 【課題】
記憶の忘却を指標とする心的外傷後ストレス障害の治療に対する被検物質のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】
恐怖条件付け文脈学習課題に供された非ヒト動物における恐怖記憶が海馬非依存的な記憶へと変換された状態において、当該非ヒト動物に対し、前記恐怖記憶を想起させて海馬における遺伝子発現を誘導させる第一工程と、この第一工程後、当該非ヒト動物に対して海馬における神経新生を促す被検物質を投与する第二工程と、を含み、該非ヒト動物に対して被検物質が与える影響を、該非ヒト動物における恐怖記憶の忘却を指標として検出する、心的外傷後ストレス障害の治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【選択図】 図12
従来技術、競合技術の概要


対人関係、職業、生活環境、経済問題などの不安因子が多い現代社会において、心身症や心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder:PTSD)等に代表され
る「こころの病気」は、一種の社会問題となっており、それらの病を患う人数には年々増加傾向が見られる。前記心的外傷後ストレス障害(PTSD)は生涯有病率が約10%と言われ、WHOの予測によれば、その患者数が今後、劇的に増加することが示唆されている。



心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、例えば、地震などの自然災害、交通事故、性的被害や家庭内暴力等の人災など、生死に関わるような衝撃的な出来事を経験することにより、この衝撃的な出来事による心的外傷(トラウマ)、すなわち、恐怖体験のトラウマ記憶(恐怖記憶)が原因として発症する精神障害である。この心的外傷後ストレス障害の主な症状には、(1)フラッシュバックや再体験などの侵入症状、(2)心的外傷(トラウマ)に関わる事物からの回避や感情の委縮などの麻痺、(3)睡眠障害や過度の驚愕反応などの過覚醒、などがある。



この心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法としては、持続エクスポージャー療法(prolonged exposure therapy;PE)が国際的に推奨されている。この持続エクスポージャー療法(PE)は、認知行動療法の一つであり、心的外傷(トラウマ)となった衝撃的な出来事を思い出して語らせ、心的外傷(トラウマ)の恐怖に徐々に慣れさせ、最終的には、衝撃的出来事を思い出しても危険がないことや、言葉にすることによって心的外傷(トラウマ)を乗り越えられることを学習する治療法である。



近年、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症には、原因となった衝撃的な出来事による恐怖記憶が密接に関与していると考えられている。前記恐怖記憶は脳にて形成されるため、脳における恐怖記憶制御の破綻が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症に大きく関わっていると考えられている。



ここで、ヒトを含む高等動物の生物種における記憶の形成過程について説明する。これらの生物種は、何らかの事象を経験することにより、一時的にしか保存できない不安定な短期記憶を獲得する。この短期記憶は、海馬における初期応答遺伝子を代表とする遺伝子群の発現を介した「固定化」と呼ばれるプロセスを経て、長期的に脳に保持される長期記憶へと変換される。
また、記憶を想起させる工程では、固定化され、保持されている長期記憶が短期記憶と同様、不安定な状態へと戻されていることが示されている。このような想起後の不安定な記憶を脳内に再貯蔵する「再固定化」と呼ばれるプロセスが存在し、この記憶の「再固定化」には「固定化」と同様、海馬における遺伝子発現が必要であることが知られている。
そして、脳にて形成された記憶は、この記憶が形成されてからある一定の期間は海馬に依存して想起される一方、その期間を超えて脳内貯蔵された「古い(昔の)記憶」は、海馬に依存せず、大脳皮質に依存して想起されることが知られている。一方、恐怖記憶の場合には、恐怖体験を伴わずに恐怖記憶を思い出すだけの状態が維持されると、恐怖記憶に反応して恐怖を感じる必要がないことを記憶し、恐怖記憶が抑制される、記憶の「消去」が起こる。この「消去」は持続エクスポージャー療法(PE)の生物学的基盤であると知られている。



一方、本発明の発明者は、マウスにおいて、恐怖条件付け記憶の安定性に関する解析を行った(非特許文献1)。この解析では、恐怖条件付け文脈課題(Contextual Fear Conditioning Test)を用いた。この恐怖条件付け文脈課題(Contextual Fear Conditioning Test)では、先ずトレーニング(恐怖条件付け)として、床面に電線が配置され、条件刺激(conditioned stimulus;CS)となるチャンバーにマウスを3分間入れ、非条件刺激(unconditioned stimulus;US)となる電気ショックを与え、恐怖記憶を形成させた。
そして、最近の記憶、すなわち海馬に依存して想起される記憶の安定性を解析するため、前記トレーニングの24時間後に再度同一のチャンバー内にマウスを3分間戻し、恐怖記
憶を想起させた(再エクスポージャー)。この再エクスポージャーの直前に、タンパク質合成阻害剤であるアニソマイシン(ANI)をマウスの腹腔内に投与し、恐怖記憶が破壊されるかを観察した。
その結果、このような最近の記憶の場合には3分間チャンバーに戻すことで、当該記憶
の破壊が観察された。一方、古い記憶、すなわち海馬に依存せずに想起される記憶の安定性を解析するため、前記トレーニングの8週間後に再度同一のチャンバー内にマウスを3分間または10分間戻し、恐怖記憶を想起させた(再エクスポージャー)。この再エクスポージャーの直前に、タンパク質合成阻害剤であるアニソマイシン(ANI)をマウスの腹腔内に投与し、恐怖記憶が破壊されるかを観察した。
その結果、3分間チャンバーに戻した場合には、タンパク質合成阻害による恐怖記憶の破壊は観察されなかった。これに対し、10分間チャンバーに戻し、恐怖記憶を長く想起させた場合には、恐怖記憶の破壊が観察された。この解析から、古い恐怖記憶に関しては、長い時間想起されることで、記憶の「再固定化」が誘導されることが明らかとなった。



また、本発明者は、受動的回避反応課題を用いて、マウスを明箱から暗箱に移動した際に電気ショックを与えて恐怖記憶を形成させ、その後明箱にマウスを戻した際の影響を解析した(非特許文献2)。この解析により、本発明者は、記憶の想起後に記憶の「再固定化」というプロセスを経ることで、恐怖記憶が増強されることを明らかにした。すなわち、記憶の「再固定化」が記憶の増強に寄与することを明らかにした。



これら記憶の形成過程に関する解明事実から、前述した心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症原因は、恐怖記憶が益々強くなる「過度の記憶の再固定化」や恐怖記憶からの恐怖感を脱することができなくなる「恐怖記憶消去の異常」と捉えることできると考えられている。このため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法として、記憶の「再固定化」又は「消去」を標的とした薬剤投与によるものが案出されている。例えば、NMDA受容体アゴニストであるD-サイクロセリンは、記憶の「消去」を促進することが
知られ、この事実から前記持続エクスポージャー療法(PE)にD-サイクロセリンの投与を併用した治療法の研究が行われている。



一方近年、成体の脳の海馬歯状回において、神経細胞が新規に産生されていること(以下、「神経新生」という)が明らかとなり、これに基づいて脳疾患に対して神経再生促進を利用した新たな治療法の開発が示唆されている。しかし、脳における神経新生の役割については明らかになっていなかった。



これに対し、本発明者は、海馬歯状回における神経新生を増加させると知られている、NMDA型グルタミン酸受容体の非競合的阻害剤であるメマンチンを用い、脳における記憶形成能力に対する神経新生の役割を検出した(非特許文献3)。
その結果、前記メマンチンの投与により、海馬における神経新生が亢進され、成熟したばかりの若い神経細胞が記憶形成能力の向上に寄与していることが初めて明らかとなった。

産業上の利用分野


本発明は、恐怖条件付け文脈学習課題に供された非ヒト動物を用いた、記憶の忘却を指標とする心的外傷後ストレス障害の治療薬のスクリーニング方法に関する。より詳しくは、非ヒト動物に対して恐怖記憶を想起させ、海馬依存性を復活させる第一工程と、この第一工程後、非ヒト動物に対して海馬における神経新生を促す被検物質を投与する第二工程と、を含む心的外傷後ストレス障害の治療薬のスクリーニング方法に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
恐怖条件付け文脈学習課題に供された非ヒト動物における恐怖記憶が海馬非依存的な記憶へと変換された状態において、当該非ヒト動物に対し、前記恐怖記憶を想起させて海馬における遺伝子発現を誘導させる第一工程と、
この第一工程後、当該非ヒト動物に対して海馬における神経新生を促す被検物質を投与する第二工程と、を含み、
該非ヒト動物に対して被検物質が与える影響を、該非ヒト動物における恐怖記憶の忘却を指標として検出する、心的外傷後ストレス障害の治療薬のスクリーニング方法。

【請求項2】
前記第一工程は、前記非ヒト動物を恐怖条件付け文脈学習課題に供した後8週間後に行う、請求項1記載のスクリーニング方法。

【請求項3】
前記第一工程において、前記非ヒト動物を前記恐怖条件付け文脈学習課題に用いたチャンバーに10分間戻す、請求項2記載のスクリーニング方法。

【請求項4】
前記遺伝子が、初期応答遺伝子である、請求項3記載のスクリーニング方法。

【請求項5】
前記非ヒト動物が齧歯類動物である、請求項4記載のスクリーニング方法。
国際特許分類(IPC)
Fターム
画像

※ 画像をクリックすると拡大します。

JP2015215639thum.jpg
出願権利状態 公開


PAGE TOP

close
close
close
close
close
close
close