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微生物測定装置とそのために使用される微生物測定用電極チップ、及び微生物測定方法 コモンズ

国内特許コード P03P000898
整理番号 RSP53P06
掲載日 2003年7月10日
出願番号 特願2001-192652
公開番号 特開2003-000223
登録番号 特許第3869686号
出願日 平成13年6月26日(2001.6.26)
公開日 平成15年1月7日(2003.1.7)
登録日 平成18年10月20日(2006.10.20)
発明者
  • 末廣 純也
出願人
  • 国立研究開発法人科学技術振興機構
発明の名称 微生物測定装置とそのために使用される微生物測定用電極チップ、及び微生物測定方法 コモンズ
発明の概要 【課題】 本発明は、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量できる微生物測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 電極2a,2b間で濃縮された微生物に対して抗原抗体反応させるための抗体液を測定チャンバー1に供給する抗体液タンク19とを備え、演算制御部5が、誘電泳動用電源部3によって交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、抗体液タンク19から抗体液を供給し、特定の微生物と特異的に反応させてこれを凝集して他の微生物を分離し、測定部4によって測定した電極2a,2b間のコンダクタンス変化から微生物数を算出して出力することを特徴とする。
従来技術、競合技術の概要


近年、微生物、中でも病原性大腸菌O-157等の悪性の病原菌による集団感染や、食品製造工程での菌混入事件が社会問題の一つとなっている。こうした集団感染や菌混入事件などで直ちに間違いの無い最善の対策をとることは難しく、対策が遅れれば遅れるほど被害が広がって甚大な損害を与えるものである。対策が遅れる最大の理由は、感染の原因である病原菌の究明が迅速且つ高感度に行えないという点にある。従って、病原菌を早期に且つ高感度で検出する新しい技術が切望される所以である。



今のところ病原菌を検出する方法としては、コロニーカウント法がもっとも一般的に利用されるものである。すなわち、この方法は、微生物を含有した懸濁液のサンプルを培地上に散布し、この微生物の増殖に伴って形成されるコロニー(集落)の数から生菌数を定量するものである。しかし、このコロニーカウント法は、コロニーが形成されるまでに1日から数日という驚くほどの長時間を必要とし、定量が行えるとはいえ、緊急を要する集団感染や食中毒等では被害の拡大を食い止めることができないものであった。そして、検査用の試料液には複数の細菌が含有されていることがほとんどであり、選択的定量を行うための補助処理なしに特定の細菌を定量することはできないものであった。また、検査対象からのサンプリング、濃縮や希釈、培地への植えつけ、コロニー数(CFU)のカウントなど、専門家による煩雑な手作業が必要である。こうしたことから、検査に必要なランニングコストの上昇や、人為的ミスを招来する可能性も否定できないものであった。



なお、本明細書において微生物というのは、一般に細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウイルス等、いわゆる微生物学の対象となっているあらゆる微生物を含んでいる。



微生物の選択的定量を行うこのほかの方法として、発光を利用するATP(Adenosine Tri Phosphate)法がある。動物、植物、細菌などの細胞には、必ずATP(アデノシン三リン酸)が含まれているため、検査試料中の細菌内に含まれるATPをATP抽出試薬により抽出し、更に抽出したATPを蛍の酵素(ルシフェラーゼ)により発光させ、発光量を測定することでATP量を検出するものである。微生物中のATP含有量はある一定の数値になっているので、発光強度から推定されるATP量を検出することでサンプルに含まれる菌数を推定するものである。



しかし、ATP抽出試薬によるATPの抽出や、酵素を作用させたり、発光量の測定、ATP量の推定等は専門家による高度で複雑な作業が必要で、とても素人が迅速な測定が行えるものではなかった。また、生きている全ての細胞はATPを持っているため、測定に当ってはこれらがバックグラウンドATPとなるため、分離技術が完全でないこともあり検査が不確実になるものであった。そして、この方法は微生物として細菌、酵母、真菌等の区別ができない方法であり、選択的な定量が難しいものであった。



さらに、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法がある。ELISA法は、抗体または抗原を酵素により標識化することにより検査対象物質を高感度に測定する方法で、主に臨床検査等で利用されている。プラスチックの表面などの固相に、検査試料液を接触させ、溶液中の検査対象菌を、菌が持つタンパク質を介し吸着させる。その後液相を除いて固相に吸着した細菌だけを残し、ここに目的とする細菌に含まれるタンパク質のみに特異的に反応する抗体の液を加える。最初に加える抗原(細菌)の量と後から加えた抗体の量が適切な範囲にあれば、固相に吸着している抗原の量に応じて抗原抗体反応で結合する抗体の量が変化する。用いる抗体に酵素標識をしておけば、結合した抗体の量に比例して酵素もたくさん存在することになり、酵素反応が 強く起こる。酵素反応によって発色する化学物質を用いれば、色の濃さ(吸光度)を測定することにより結合した抗体の量がわかり、ひいては元々存在した抗原蛋白質(検査対象菌)の量もわかる。



しかし、この検査法は、複雑な実験手順を踏まなくてはならず、高度の専門性が要求され、吸光度の測定に適した検査対象濃度を得るために濃縮を行う必要があり、検出には長時間をかけなければならないという欠点がある。また、以上説明したELISA法は抗体に修飾を行って発色を測定するものであるが、同じく抗原抗体反応を利用するもので簡単に肉眼で確認する方法として凝集法、沈降法が存在する。ただ、この凝集法、沈降法で測定するには、高濃度の微生物が必要であり、前段階で培養などにより微生物数を飛躍的に増加させる必要があり、検出にはきわめて長時間を要するものである。



次に、PCR(Polymerase Chain Reaction)法は、ポリメラーゼ連鎖反応を利用し、特定の遺伝子の配列を元に、その遺伝子を短時間に何十億も複製する技術である。まず、検査対象からDNAを抽出し、加熱することによりDNAの二重らせん構造をほどき、一本鎖の状態とする。遺伝子は4つの塩基により構成されており、それぞれの塩基は特定の塩基と結合する。この塩基の配列が遺伝子配列というものであり、これに対となる遺伝子の断片(プライマーと呼ばれる)を加える。このプライマーは極めて高い精度で目的とする遺伝子配列と結合し、ここに耐熱性酵素(Taq酵素)を加えることにより、プライマーが一本鎖遺伝子と結合している部位から元の二重らせんDNAを再生させる。この過程を繰り返すことによって、DNAは指数関数的に増加し、蛍光検知装置により検査対象のDNAのみを検出する。しかし、死菌のDNAも増幅させるので、事前に培養の手順を踏み、検査対象の活性を調べる必要がある。そして、この微生物活性を簡易に定量的に測定する方法は確立されていない。また、DNAが爆発的に増加するため、細菌の初期数を推定するのは困難で、定量性に欠けるという問題を有すものであった。



従来の技術は、微生物の定量に時間がかかるという致命的な共通の欠点を有しているため、本発明者は、他の研究者らとともに誘電泳動と電気インピーダンスを組み合わせて微生物数を測定する方法(DEPIM法 (Dielectrophoretic Impedance Measurement Method))を提案した。



このDEPIM法は、微生物の濃縮プロセスと菌濃度検出プロセスのいずれのプロセスも電気的に行うのが特徴である。濃縮プロセスは、誘電泳動現象(電界中で分極した誘電体粒子に電気的な力が作用し、一定方向に運動する現象)により細菌を集積型マイクロ電極上で濃縮し、菌濃度検出プロセスは、濃縮する時の電極間インピーダンスの変化から菌濃度を定量的に推定するものである(八浪、他:「誘電泳動インピーダンス計測による大腸菌の懸濁濃度測定(1)~原理と装置概要~」、静電気学会講演論文集'99、pp.337~340 (1999);濱田、他:「誘電泳動インピーダンス計測による大腸菌の懸濁濃度測定(2)~懸濁濃度の推定モデル~」、静電気学会講演論文集'99、pp.341~344 (1999))。



このDEPIM法で微生物を検出するためには、微生物を誘電泳動力によりマイクロ電極に捕集することが必要である。言い換えれば、誘電泳動力が十分に作用しないような条件下ではマイクロ電極に捕集される菌数が減少するため、検出信号は低下するという特徴を有している。微生物に作用する誘電泳動力FDEPは複素数表現すると、理論的に以下の(数1)で与えられる。



【数1】


ここで、複素誘電率Kは(数2)で表され、



【数2】


また、懸濁液の複素誘電率εは(数3)で表され、



【数3】


ε :懸濁液の誘電率
ε :懸濁液の複素誘電率
ε :微生物の複素誘電率
σ 懸濁液の導電率
ω :電界の角周波数
また、
a :球形近似したときの微生物の半径
Re[K] :微生物と懸濁液の複素誘電率に依存するパラメータ
E :電界強度
である。この(数1)(数2)(数3)から明らかなように、懸濁液と微生物の大きさが一定であれば、誘電泳動力FDEPはパラメータRe[K]に比例することがわかる。



図8は細胞質導電率をパラメータとするRe[K]の周波数特性図である。図8において、誘電泳動に用いる電界の周波数fをパラメータとして、誘電泳動力を細胞質導電率σiの関数として表している。図8によると、周波数10kHz~1MHzで正の誘電泳動力が働き、それ以外では負の誘電泳動力が働くのがわかる。細胞質導電率σiと周波数fによっては負の誘電泳動力が働き、誘電泳動力FDEPが微生物に作用しても、捕集できない場合があることが分かる。



従って、微生物(細胞質導電率σi)の種類に応じて周波数fを選択すると、正の誘電泳動力を作用させて捕集したり、負の誘電泳動力を作用させて排除することも可能である。但し、実際の誘電泳動には懸濁液導電率等の影響も考慮しなければならない。



しかし、微生物の種類によって、パラメータRe[K]が正で、他の菌種のそれがすべて負となるようなことはなく、誘電泳動力の正負の振り分けは一般化できることではない。すなわち、微生物固有の誘電特性(誘電率、導電率)を利用して、多種の微生物の混合懸濁液中から特定の微生物のみに選択的に正の誘電泳動力を作用させ、DEPIM法によりその微生物のみを検出することは困難である。



また、DEPIM法を実際に応用する場合は、多種且つ未知の種類の微生物が含まれている懸濁液から特定の微生物のみを検出することが要求されることが多いと予想されるが、従来のDEPIM法ではこのような選択的微生物検出は不可能である。

産業上の利用分野


本発明は、誰でも特定の微生物を選択して簡便且つ定量的に検出することができる微生物測定装置、そのために使用される電極チップ、及び微生物検出方法に関する。

特許請求の範囲 【請求項1】
試料液を収容することができる測定チャンバーと、
前記測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより前記抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極と、
前記電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、
前記電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、
前記誘電泳動用電源部と前記測定部の制御を行う演算制御部と、
測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部と、
前記電極間で濃縮された微生物に対して抗原抗体反応させるための抗体液を前記測定チャンバーに供給する抗体液供給部とを備え、
前記演算制御部が、前記誘電泳動用電源部によって第1の交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、前記抗体供給部から抗体液を供給して前記特定の微生物と特異的に反応させ、該特定の微生物には前記流動作用に伴う流体力より大きな誘電泳動力を作用させるとともに、前記他の微生物には前記流動作用に伴う流体力より小さな誘電泳動力を作用させる第2の交流電圧を印加し、前記特定の微生物を凝集するとともに前記他の微生物を分離し、前記測定部によって測定した前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置。

【請求項2】
前記抗体液供給部が、抗体液を収容した抗体液タンクと、前記測定チャンバーに抗体液を導入する抗体液供給管と、該抗体供給管に設けられた抗体液バルブを備えて、複数種類の微生物を濃縮した後に抗体液を前記測定チャンバーに供給することを特徴とする請求項1に記載の微生物測定装置。

【請求項3】
前記測定チャンバーには攪拌装置が設けられ、試料液の攪拌を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物測定装置。

【請求項4】
前記測定チャンバーには洗浄液の洗浄管が設けられるとともに、前記洗浄管に洗浄バルブが設けられ、前記演算制御部が時計手段の行う計時に基づいて、前記洗浄バルブを開いて洗浄液を前記測定チャンバーに供給し、流体力で特定の微生物を分離して洗い流すことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微生物測定装置。

【請求項5】
試料液を収容することができる測定チャンバーと、
前記測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより前記抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極を備えた微生物測定用電極チップと、
前記電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、
前記電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、
前記誘電泳動用電源部と前記測定部の制御を行う演算制御部と、
測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部とを備え、
前記微生物測定用電極チップには、前記一対の電極の基板上に特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、
前記演算制御部が、前記誘電泳動用電源部によって交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、固相化された抗体と前記特定の微生物とを特異的に反応させて前記第2の誘電泳動力と前記流動作用に伴う流体力によって分離し、前記測定部によって測定した前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置。

【請求項6】
抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離するとき、該特定の微生物と前記他の微生物に交流電圧を印加してそれぞれに誘電泳動力を作用させ、該誘電泳動力と前記流動作用に伴う流体力の差を利用して分離することを特徴とする請求項5記載の微生物測定装置。

【請求項7】
請求項6記載の微生物測定装置で使用される微生物測定用電極チップであって、
前記電極間の基板上には特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、
反応した特定の微生物以外の微生物は誘電泳動力より大きい流体力によって分離され、
前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定用電極チップ。

【請求項8】
一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、濃縮された微生物に抗体液を供給し、該抗体液と特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、前記特定の微生物には流体力より大きな誘電泳動力、前記他の微生物には流体力より小さな誘電泳動力を作用させることによって前記特定の微生物を凝集するとともに他の未反応の微生物を分離し、その後前記電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法。

【請求項9】
一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、前記電極間に固相化された抗体特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、該第2の誘電泳動力と流体力によって抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、その後前記電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法。
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