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干渉型電子顕微鏡によるYBCO単結晶中の磁束量子の観察

研究報告コード R013000193
掲載日 2003年10月1日
研究者
  • 外村 彰
研究者所属機関
  • (株)日立製作所
研究機関
  • (株)日立製作所
報告名称 干渉型電子顕微鏡によるYBCO単結晶中の磁束量子の観察
報告概要 干渉性の高い電界放出電子線を備えた1MVホログラフィー電子顕微鏡1)によって、これまでになく高い輝度の電子線が利用できるようになり、電子線ホログラフィーやローレンツ顕微鏡といった干渉性の良い電子線照射が必要な手法の可能性が飛躍的に進展することとなった。ここでは1MVホログラフィー電子顕微鏡によって可能性が開かれた高温超伝導体中の磁束量子の観察結果を紹介する。これまで、ニオブ薄膜中の磁束量子の観察は300kVホログラフィー電子顕微鏡を用いて行われてきた2)。しかし磁束量子の磁場の半径(磁場侵入長)が1桁も大きな高温超伝導体の磁束量子の観察は困難であった。300kVの電子線で透過できる薄膜の厚さは、Bi-2212の場合せいぜい1500Åだが、磁場侵入長は2000Åもあり、磁束量子が膜の中に入ってしまう厚さではないために、磁束量子が広がってしまい、高温超伝導体ならではの特異な挙動が観測できないことに加えて、磁束量子を観察することすら難しかったためである。
1MVホログラフィー電子顕微鏡の開発
 超高圧電子顕微鏡の電子源に干渉性の良い電界放出電子線を用いる試みは、20年以上も前から行われている。しかし、電子源の大きさが50Åと極めて小さいため、電子顕微鏡の機械的な振動や浮遊磁場による電子線の偏向によって、容易に電子源が動き、結果的に電子線の輝度が減少してしまうため、超高圧電子顕微鏡での利用は技術的に難しかった。我々は、高電圧発生部分及び、高電圧上の電子銃制御部分を別々のタンクに封入し、電子顕微鏡との間を高電圧ケーブルで接続する方式の採用によって、2×1010A /cm2 sterというかつてない値の輝度の値を得るに至った。これまで3000本が最高であった電子線バイプリズム干渉縞の数が、1万本を越すことが示された。さらに平行で単色性の良い電子線によって、電子顕微鏡の格子分解能を0.5Å以下に向上することも出来た1)
高温超伝導体の磁束量子
 磁束量子の観察にはビッター法、走査プローブ顕微鏡、微小SQUID顕微鏡などの手法が開発されているが、これらの手法では超伝導体表面での磁束量子を検出していた。高温超伝導薄膜内部の磁束量子の様子は、1MVホログラフィー電子顕微鏡によって初めて観察できるようになった4)
 超伝導体を無損失の導電体として利用するには、電流によって磁束量子に働く力で磁束量子が動き出さぬよう、超伝導体中に欠陥を作ってピン止めする必要がある。ところが、高温超伝導体は超伝導の層が重なったものから出来ているため、一本の磁束量子が層毎に分かれてジグザグになったり、層毎に独立に動き回ったりするなどと、さまざまな異常な挙動が理論的に予測されている。このような磁束量子を点欠陥でピン止めするのは難しく、臨界電流の高い材料開発が難しかった。
 高速イオンを高温超伝導体に照射すると、イオンが通過した路に沿って結晶が壊れ、アモルファスの領域が生じる。層間をまたいで細い円柱状の欠陥ができ、磁束量子を一挙にピン止めしてしまうので、有効なピン止めになると考えられる。しかし、何しろミクロの世界のことで、磁束量子が本当に円柱に捕捉されているかどうかを直接確かめるすべはなかった。
 我々は、厚さ4000ÅのBi-2212薄膜に傾いた柱状欠陥を導入し、ローレンツ顕微鏡で磁束量子の観察を行った。観察結果の写真を図1に示す。ピントの合った電子顕微鏡像(図1(a))では、太さ100Å長さ1μmの細い線として柱状欠陥が観察できる。ピントをずらすと、欠陥の像は広がって消えてしまうが、さらにピントをずらすと、磁束量子の像が現れる(図1(b))。ピントをはずした時に磁束量子が観察できるのは、磁束量子が位相物体だからである。図1(b)中に矢印で示した磁束量子の像は、ちょうど欠陥の位置に生じており、コントラストが弱く楕円形をしている。これは磁束量子が円柱にトラップされ斜めに横たわっているためである。これに対して、柱状欠陥のないところには、膜を垂直に突き抜ける磁束量子が円形の像として観察できる。これらの結論は、シュミレーションでも確認された。こうして、磁束量子が柱状欠陥に捕捉されると、異なった像として識別できるようになった。
 この手法を用いて、磁場の向きを変えたり温度を変化させた時に、磁束量子が柱状欠陥にトラップされるかどうかといったことが直接観察できるようになった。このような実験から、温度を下げていくと、円柱にトラップされ傾いていた磁束量子が、10K以下になると膜に垂直に立ち始め、楕円の像が円形の像に変化するという予期せぬ結果も観測された。磁束量子は柱状欠陥の場所にいるにも拘らず、磁力線が円柱からはずれ膜を最短距離で通り抜けてしまったのである。この不可思議な現象は、高温超伝導体内部に高密度で分散している原子サイズの欠陥の効果であることが、磁束量子の動的観察からもはっきりした。
チェーン構造の謎を解く
 1MVホログラフィー電子顕微鏡によって高温超伝導体内部の磁束量子の様子が観察できるようになったため、磁束量子の不思議な配置“チェーン構造”の謎も明らかになった6)。通常、超伝導体に磁場を印加すると、磁束量子は稠密構造である三角格子を組む。ところがBi-2212薄膜に磁場を層面にすれすれまで傾けて印加すると、チェーン状の磁束量子と三角格子状の磁束量子が交互に現われることを、ベル研究所のGammelらが、1991年にビッター法を使って見い出した5)
 このチェーン・格子状態は、異方性を考慮に入れたLondon理論では説明できないため、さまざまな理論が提出された。ある人々は、チェーンと三角格子の磁束量子は共に印加磁場の方向に傾いているが、その方向が少し異なっているためであると説明した。しかし、ビッター法などのこれまでの手法では、表面に顔を出した磁束量子しか観測できないため、磁束量子が内部で傾いているか否かを判断する手だてがなかった。10年ほど前に、我々は、Gammel、北澤宏一両氏らと語らって300kVの電子顕微鏡を使ったローレンツ顕微鏡によって、内部の磁束量子の状態を観察することに挑戦した。しかし、300kVで透過できるのは薄い膜に限られるため、チェーン構造すら観測できなかった。今回、1MVホログラフィー電子顕微鏡が完成し再びこの実験に挑戦した結果、チェーン構造が観測できるようになった。さまざまなピントはずれの条件でローレンツ顕微鏡像を撮影した結果、チェーン状や三角格子状に並ぶ磁束量子は、ともに膜に垂直に立っていることが判明した(図2)6)
 この結果は最近提出されたKoshelevらの新しい理論7)を証明する結果となった。高温超伝導膜の層面すれすれに磁場を印加した時、層面の間を突きぬけるJosephson磁束量子と、層面に垂直に立つ磁束量子の2種類の磁束量子が共存する。Josephson磁束量子と交叉している磁束量子は、エネルギーが低くなるため、高密度で一列に並びチェーンを形成することになる。これまで、垂直な磁場が交叉しても互いに相互作用をしないので、このモデルは信用されていなかったが、Koshelevは近次を上げて、エネルギーが低下することを初めて示したのである。
こうして、10年にもわたるBi-2212に生じる磁束量子の不思議な配置の謎が、1MVホログラフィー電子顕微鏡を用いて実験的に解明されるに至った。
 今後も、高温超伝導体の磁束量子の不思議な振舞いが、1MVホログラフィー電子顕微鏡を用いて次々と解明できることが期待できる。
画像

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研究分野
  • 量子力学一般
  • 電子顕微鏡,イオン顕微鏡
  • 超伝導体の物性一般
関連発表論文 1) T. Kawasaki, et al., Appl. Phys. Lett. 76 (2000) 1342.
2) K. Harada, et al., Nature 360 (1992) 51.
3) T. Akashi, et al., Appl. Phys. Lett. 81 (2002) 1922.
4) A. Tonomura, et al., Nature 412 (2001) 620.
5) C. A. Bolle et al., Phys. Rev. Lett. 66 (1991) 112.
6) A. Tonomura, et al., Phys. Rev. Lett. 88 (2002) 237001.
7) A. E. Koshelev, Phys. Rev. Lett. 70 (1999) 187.
研究制度
  • 戦略的基礎研究推進事業、極限環境状態における現象/研究代表者 外村 彰((株)日立製作所)/科学技術振興事業団
研究報告資料
  • 外村 彰. 位相の微細解像による磁束量子の直視. 戦略的基礎研究推進事業「極限環境状態における現象」平成7年度採択研究課題終了シンポジウム 講演要旨集,2001. p.20 - 22.

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