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1分子の3次元像再構成法に基づく分子モータ作動機構の探索

研究報告コード R030000252
掲載日 2005年2月22日
研究者
  • 片山 栄作
研究者所属機関
  • 科学技術振興事業団 さきがけ研究21
研究機関
  • 科学技術振興事業団
報告名称 1分子の3次元像再構成法に基づく分子モータ作動機構の探索
報告概要 「動くこと」は生命の最も重要な属性の1つであり、多くの場合、その動きは生物分子モーターが担う。そのような「分子機械」の働く仕組みを調べることは大変魅力的な研究課題であるが、永年にわたる多くの研究者の努力にもかかわらず、未だに十分な理解ができている訳ではない。本研究は、急速凍結ディープエッチ・レプリカ電子顕微鏡法を用いて蛋白質分子が働く現場を直接観察することを目指すとともに、われわれが新たに開発した3次元画像解析法を駆使して、ATPをエネルギー源に、アクチン・フィラメントに沿って滑る分子モーター、ミオシンが、機能中にどのような構造変化を起こしているかを探り、その分子メカニズムの解明に迫る試みである。アクトミオシン滑り運動の分子機構として世界に最も広く受け容れられた仮説は「レバーアーム首振り説」である。その根拠は構造生物学の結果によるところが大きい。1993年にミオシン頭部S1の結晶構造(Rayment et al.)が、引き続いてヌクレオチド結合状態のS1の構造(Fisher et al.,1995: Dominguez et al., 1998) が解かれた結果、ATP結合により、S1のモーター部分とそれに連なる長いαヘリックス部分(レバーアーム)の間で分子が強く折れ曲がることが明らかになった。他のさまざまな状況証拠と併せて、ATP結合によるレバーアームの折れ曲がりこそが滑り運動の力の源と信じられるようになったが、実際に滑り運動が起きている現場を直接見る手段はなかった。一方、分子モーターの機能の解析は、日本と米国でほぼ同時に開発された「1分子生理学」の手法の導入によりここ10数年、著しい進歩を遂げた。蛍光顕微鏡を用いて1個1々の蛋白質分子やリガンドを直接観察し、操作し、分子の各種の物理量を一切平均化することなく測定するという斬新な発想により、従来のやり方では想像もつかなかった多くの重要な、そして驚くべき実験事実が次々に明らかになった。そのような画期的な方法論は、生命の基本原理を調べるための重要な手法としてすっかり定着し、他の研究領域にも急速に波及しつつある。蛋白質の立体構造を調べるには、X線結晶回折法と多次元NMR解析法が多用される。しかし構造を知りたい蛋白質を何でも解析できる訳ではなく、それぞれ特有の条件を満たさなければ構造を解くことはできない。さらに、これらの方法により得られる構造情報は空間的にも時間的にも膨大な数の分子を平均化したものであり、揺れの大きい部分の構造は決まらない。それに対して、電子顕微鏡による直接観察法は、空間分解能こそそれらには及ばないものの、ほとんど任意の材料を対象として、個々の蛋白質粒子を直接観察できる、つまり「見たいものを見る」ことができる点で強力である。その一つ「急速凍結ディープエッチ・レプリカ法」は、あらゆる生命現象を1ミリ秒以内に凍結固定し、その割断面にロータリー・シャドウィングを施して写し取った材料の表面構造を透過型電子顕微鏡で観察する方法である。適切な処理が施されれば、溶液中あるいは細胞内における個々の蛋白質粒子の高コントラストの実像を1.5-2 nm におよぶ空間分解能で得ることも可能である。これは、蛋白質分子内のサブドメイン構造の配置が識別できるほどの分解能であるが、レプリカ試料は金属とカーボンのみから成るので、生の材料とは異なり、電子線に対して非常に安定であるという別の利点がある。われわれは、そのようなレプリカ試料中に含まれる個々の粒子の姿を、電子顕微鏡内で広い角度範囲にわたって傾斜撮影し、それら一連の像の間の立体視差から算出した試料面上各点の高さの連続的な値を出発点として、対象粒子の3次元表面プロファイルを精密に再構成する画期的な手法を開発した。また、3次元構造既知の蛋白質に関しては、それがレプリカ試料中ではどのような像を与えるべきかをコンピュータ・シミュレーションで予測する方法を併せて考案し、それらを相補的に用いることで蛋白質の動的な立体構造を探る新たな手法を画策している。これら一連の手法が、「1分子生理学」に対応するユニークな構造解析法として使えるであろうとの期待のもと、3年間の「さきがけ研究」に携わることとなった。
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研究分野
  • 分子の幾何学的構造一般
  • 顕微鏡法
  • 生物物理学一般
  • 生物物理的研究法
  • 生体の顕微鏡観察法
関連発表論文 (1) K. Tamano, S.-I. Aizawa, E. Katayama, T. Nonaka, S. Imajoh-Ohmi, A. Kuwae, S, Nagai & C. Sasakawa : Supramolecular structure of Shigella type III secretion machinery : the needle part is changeable in length and essential for delivery of effectors. EMBO J. 19 : 3876-3887. 2000
(2) N. Utsunomiya-Tate, K.-I. Kubo, S.-I. Tate, M. Kainosho, E. Katayama, K. Nakajima, & K. Mikoshiba : Reelin molecules assemble together to form a large protein complex, which is inhibited by the function-blocking CR-50 antibody. Proc. Nat'l Acad. Sci. U.S.A. 97 : 9729-9734. 2000
(3) K. Yamane, E. Katayama, & T. Tsuruo : The BRCT Regions of Tumor Suppressor BRCA1 and of XRCC1 show DNA end binding activity with a multimerizing feature. Biochem. Biophys. Res. Commun. 279 : 678-684. 2000
(4) K. Yamane, E. Katayama, & T. Tsuruo : p53 contains a DNA break-binding motif similar to the functional part of BRCT-related region of Rb. Oncogene, 20 : 2859-2867. 2001
(5) H. Tanaka, K. Homma, A. Hikkoshi-Iwane, E. Katayama, R. Ikebe, J. Saito, T. Yanagida, & M. Ikebe : The motor domain, not a long neck domain, determines the large step of myosin-V : Nature, 415 : 192-195. 2002
(6) S. Nishikawa, K. Homma, Y. Komori, M. Iwaki, T. Wazawa, A. Hikikoshi Iwone, J. Saito, R. Ikebe, E. Katayama, T. Yanagida, & M. Ikebe. Class VI myosin moves processively along actin filaments backward with large steps. Biochem Biophys Res Commun. 290 : 311-317. 2002
(7) K. Tamano, E. Katayama, T. Toyotome, & C. Sasakawa : Shigella Spa32 is an essential secretory protein for functional type lll secretion machinery and uniformity of its needle length. J Bacteriol. 184 : 1244-1252. 2002
(8) M. Fukuda, E. Katayama & K. Mikoshiba : The calcium-binding loops of the tandem C2 domains of synaptotagmin VII cooperatively mediate calcium-dependent oligomerization. J Biol Chem. 277 : 29315-29320. 2002
(9) S. Yoshida, E. Katayama, A. Kuwae, H. Mimuro, T. Suzuki & C. Sasakawa : Shigella deliver an effector protein to trigger host microtubule destabilization, which promotes Rac1 activity and efficient bacterial internalization. EMBO J. 21 : 2923-2935. 2002
研究制度
  • さきがけ研究21 「形とはたらき」領域
研究報告資料
  • 片山 栄作. 1分子の3次元像再構成法に基づく分子モータ作動機構の探索. 「さきがけ研究21」研究報告会 「形とはたらき」領域 講演要旨集(研究期間:1999-2002),2002. p.25 - 36.

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